あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

世界最強コンビハルケギニアに立つ-12






数日後、虚無の曜日。
暁はトリスティン学院の厩舎で非常に困った表情を浮かべていた。
その視線の先では数匹の生命体が不思議そうな表情で暁のほうを見つめていた。
生命体の名は、馬。
ウマ目ウマ科に属する哺乳類であり、暁の世界においても有名な動物である。

「何変な顔してんのよ、早く選びなさい」

一足先に自分の分の馬を見繕ったルイズが、その馬の手綱を引きながら現れる。

「そうだよな……交通手段といったら馬だよな」

一度ルイズを見て苦笑した後、再び視線を前方に戻す。
やはりそこには馬がいた。

「……まさかあんた、『乗れない』とか言わないでしょうね」
「乗れねぇよ、乗ったことないからな」
「あんた、馬にも乗らないでどうやっていど――聞かない方がいいわね、絶対わからないし」
「賢明な判断だな」

買い物はどうやらずいぶんと遠出であり、馬に乗って行かないとどうにもならないらしい。
暁が言い出したことでもないので行かないというのも考えたが、ルイズのほうが意気込んでいるのでおそらくは許してもらえない。
ルイズだけ行かせるという選択肢もあるにはあるが、まぁこれもありえないだろう。
どうするのが楽でいいか、などと考えをめぐらせていると――

「仕方ないわね、この機会に乗れるようになりなさい」

ルイズという主人は、予想以上に厳しかった。



ブルドンネ街。
トリステインの首都トリスタニアにおいて最も大きな通りの名である。
五メイル程度の道幅の通りであるが、道端には露店が立ち並んでおり、老若男女問わず様々な人々で溢れていた。
そしてそこをあからさまに目立つ集団が闊歩している。
人数は四人。
綺麗な身なりをしたメイジの少女が三人と、地味な格好をした平民にしか見えない男という組み合わせだった。
そして前を歩く少女二人はそれぞれ不機嫌と笑みという対照的な感情が顔に浮かんでいる。

「何で城下に来てまであんたに会わなきゃならないのよ、ツェルプストー」
「偶然っていうのは残酷ね、ヴァリエール」

あからさまに不服そうなルイズに、キュルケが心底楽しそうな笑顔を返す。
ルイズと暁が馬で城下町にたどり着いた時、そこではキュルケとタバサが二人を待っていた。

『あら偶然ねヴァリエール、あなたも買い物?』

そんな言葉とともにキュルケから微笑を向けられたとき、当然ながらルイズは爆発した。
それ以降ずっとルイズがキュルケに文句を言い、それをキュルケが受け流すというなんとも一方通行な会話が続いている。

「しかし飽きねぇな、あの二人」
「たぶんあれが日常会話」

その後方を暁とタバサが我関せずという態度で歩いている。
暁の顔には若干の呆れが浮かんでいたが、タバサの方は相変わらずの無表情である。
尚、タバサによるとキュルケはルイズと暁が出かけたのを見計らってから、
タバサの使い魔――ウインドドラゴンと呼ばれる巨大な竜である――で城下に先回りしたらしい。
暁はこっそりその話を聞いたとき、キュルケの発想と行動力に呆れとも感心ともつかない感情が浮かぶと同時に、
彼女に振り回されているであろうタバサという少女に若干の同情の念を覚えた。
それは暁自身がよく似た立場にいるために浮かんだ感情なのかもしれない。

「あった、あそこよ」

その時、目的のものを発見したのかルイズがうれしそうな声を上げる。
彼女が指差した先にあったのは、剣の形をした一枚の看板だった。


石段を登り羽扉を開け中へと入ると、そこは昼間だというのに薄暗い空間だった。
ランプの光がぼんやりと照らす室内には、剣や槍といった武器が乱雑に並べられている。

「貴族の奥様方、うちはまっとうな商売してまさぁ。お上に目をつけられるようなことなんか、これっぽっちもありませんや」

店の奥からルイズたちにドスの利いた声が投げかけられる。
見るとパイプをくわえた店主らしき中年の男が、胡散臭げにこちらを見つめていた。

「客よ」

普通の人間なら気圧されてもおかしくない態度を気にするでもなく、ルイズが堂々と言い放つ。
それを聞いた男は『は?』と間の抜けた声を出した。
どうやらルイズたちのような貴族が客として来ることは稀を通り越して、ありえないらしい。
店主は怪訝な表情を浮かべながらルイズたちを眺めていたが、暁の姿を認めると『ああ』と納得したように頷いた。

「武器をお使いになるのはそちらの従者さまで?」
「そうよ」
「なるほどなるほど。それでしたら少々お待ちください」

店主は来客用と思しき愛想笑いを浮かべ、奥の倉庫へと消えていった。
どこの世界でも社会の裏側に位置する商売をやっている人間は、裏表の表情に差があるらしい。
しばらくして店主が戻ってきたとき、手に持っていたのは一本の細身の剣――レイピアだった。

「最近は宮廷の貴族の方々の間で下僕に剣を持たすのがはやっておりましてね。その際にお選びになるのが、このようなレイピアでさぁ」
「貴族の間で、下僕に剣を持たせるのがはやってる?」

店主の言葉にルイズが首をかしげる。
暁が視線を向けるとキュルケとタバサも不思議そうな表情を浮かべていた。
胡散くせぇ、と心の中で苦笑した暁をよそに店主がもっともらしく頷き、説明する。
なんでも最近『土くれ』のフーケと名乗るメイジの盗賊が出没し、貴族の宝を盗んで回っているらしい。
明日はわが身とそれを恐れた貴族が、下僕にまで武器を与えて警戒している――とそんな話だった。

「まだ捕まってないのか?その『土くれ』さんは」
「いかんせん神出鬼没のメイジの盗賊ですからね、まだ捕まっておりませんや。ええ」
「そいつは大変だな」

気のない返事を返しながら暁は店主からレイピアを受け取る。
間近で見るそれは、やはリ軽く細く心許ない短剣だった。
苦笑とともにそれを店主の方へと返却する。とてもではないが使いたいと思う武器ではない。
これなら自前のナイフの方がよほどマシである。

「もう少し大きくて重いのはないか?最悪斧でもいい」
「へぇ、少々お待ちください」

店主はぺこりと頭を下げると再び倉庫の方へと消える、若干嫌な笑顔を浮かべながら。
そして彼が再度倉庫から姿を現したとき――手の中にあったのはきらびやかな長剣だった。

「これなんていかがでしょう?」

それは、とてつもなく派手な剣だった。
長さは1.5メイルはあろうかという大剣であり、柄は両手で扱えるように長く、立派な拵えがなされている。
そしてところどころに宝石がちりばめられ、両刃の刀身は鏡のように光っていた。

「店一番の業物でさ。貴族のお供をなさるなら、これくらいは腰から下げてほしいものですな。
 エキュー金貨で二千、新金貨で三千とお値段は張りやすが、貴族様ならお安いもんでしょう?」
「立派な家と森付きの庭が買えるじゃない」

腰から下げるには明らかに大きすぎる大剣を店主から受け取り、暁はじっとその剣を見つめた。
ルイズは剣の値段に露骨に顔をしかめながら、キュルケは暁の傍らに立ち興味津々といった表情でその剣を見つめている。
タバサは――相変わらず我関せずという態度で、どうやら持ってきていたらしい手元の本に目を落としていた。

「へぇ、いい剣ですのね。これになさったら?ミスタ・アカツキ」
「……いや、いい」

短いため息を吐き、暁は剣を店主に返却する。
その行動があまりに不思議だったのか、表情の読み取れないタバサを除いて、皆一様に不思議そうな、驚いたような表情を浮かべていた。

「だ、旦那?これはかの高名な錬金術師、シュペー卿が鍛えた剣でして、魔法がかかってるから鉄だって一刀両断でさ。
 その辺の見栄えだけの剣とはモノがちが――」
「成金趣味すぎる。こんなもん恥ずかしくて持てるか」

あまりといえばあまりな発言に、武器屋の空気が完全に静止する。
そしてそれを打ち破ったのは――笑い声だった。

【ぶはははは!確かに!確かにな!お前さんみたいなゴツくて薄汚い男にそんな煌びやかな剣は似合わねぇやな!】

低い、男の笑い声だった。
だがその声は店主の声ではなく、無論暁の声でもない。
他に客が入ってきた様子も、どこかに潜んでいる様子すらない。本当に『どこからともなく』聞こえてきた笑い声だった。
ルイズたちが声の主を探してキョロキョロと辺りを見回す中、店主だけはカウンターに突っ伏し、頭を抱えていた。
まるで声の主が誰か知っているかのように。

「やい!デル公!お客様に失礼なことを言うんじゃねぇ!」

そして気力を振り絞り、といった様子で怒声を飛ばす。誰もいない空間、強いて言うなら剣が立てかけられている一角に向かって。
この瞬間、少なくとも店の中にいた人物のうち四名は本気で店主の頭のことを心配した。
だが――

【事実を言ったまでだろうが!本人にも自覚はあるみたいじゃねぇか!】

確かに声はそちらの方向――さらに言うなら立てかけられている剣そのものから発されていた。

「それって、インテリジェンスソード?」
「へぇ、おっしゃるとおりこいつはインテリジェンスソードでさ。
 ただまぁこいつはやかましいばかりで何の価値もない、いわば駄剣ですがね」
【誰が駄剣だ糞オヤジ!】
「てめえ以外に誰がいるってんだ馬鹿野郎!」

そして、低レベルな罵りあいが始まる。
暁はとりあえず『鬱陶しい』という感想を抱きながら、デル公と呼ばれた剣を観察していた。
長さは柄まで含めると1.5メイルほどときわめて長い、ところどころに錆の浮いた片刃の長剣だった。

(……刀?)

長さの変わらない先ほどの剣と比べると刀身が細く、薄い。
そして、その刃先には日本刀特有の『刃文』と呼ばれる模様の存在が見て取れる。
刀身こそ反っていないものの類似点は多く、その意匠は剣ではなく日本刀に近い――少なくとも暁の目にはそう映った。

「オヤジ、ちょっとそいつを見せてくれ」
「へ?デル公ですかい?」

まさかこんな剣に興味を抱くとは思わなかった。
そんなことを言いたそうな表情で店主は暁に通称デル公を手渡す。
先ほどの剣に比べると極めてぞんざいな扱いなのは、おそらく価値のせいだろう。
暁自身もデル公にさしたる価値を見出したわけではなく、この瞬間彼の心にあったのはただの興味だった。
だが実際に手に取った瞬間、それは軽い驚きへと変化する。

「――へぇ」
【何だテメェコラ!持つな!置きやがれ!】

デル公をまじまじと見つめる暁の顔に、楽しそうな表情が浮かぶ。
結論から言うと、それは極めて不思議な剣だった。

「見た目は酷いが――いい剣みたいだな、お前」

まずは重量。
長さ1.5メイルほどの金属製の大剣、という見た目からかなりの重量を想像していた暁の手に返ってきたのは、
重すぎず軽すぎず、俗に『手に馴染む』と言われる極めて扱いやすい重量。
軽く振るってみてもその感想は変わらず、その事実は少なからず暁を驚かせた。
デル公がまんざらでもないといった反応を見せる。どうやって感情を表現しているのかは知らないが、どうやら照れているようだ。

【へぇ、よくわかってんじゃねぇか。ちったあ見る目があるようだなテメェ】

そしてさらに暁の目を惹きつけたのは、その刀身。
錆が派手に浮いているその刀身に、一切の刃こぼれが認められなかったのだ。
刃先に軽く指を走らせると、指先に朱い線が引かれる。
薄くなぞっただけとはいえ、まったく痛みを感じない。水準以上の切れ味といえた。
――錆がまったく刀身を腐食させていない。
『何故』『そんなことがありえるのか』という自問への答えは見つからないが。

「これ、いくらだ?」
「で、デル公ですかい?」

店一番の業物を『派手すぎる』と一蹴した男が、店一番の厄介者に興味を示す。
それは過去に出会ったどんな客よりも奇異な行動であり、『ああなんだ、変人だったのか』と思い込ませるには十分だった。

「へぇ、デル公でしたら百で結構でさ」
「安っ」

後方から様子を眺めていたキュルケが驚いたような、呆れたような声を上げる。
そしてどこか哀れみを含んだ目つきとともに、ルイズの肩にぽんと手を置いた。

「いい使い魔を持ったわねヴァリエール、まともな大剣だったらどんなに安くても二百はするわ。
 それをあなたが貧乏なのを慮ってあんなボロい剣を選んでくれてるのよ。ああ、あなたが貧乏なばっかりに苦労して」
「ねぇツェルプストー、ぶん殴っていい?」

露骨に顔をしかめてキュルケを睨みつけるルイズだったが、彼女としても何故暁があんなボロボロで、しかも鬱陶しい剣を選んだのか理解に苦しんでいた。
それこそ自分にあまりお金を使わせたくないという理由くらいしか思い浮かばない。
もっとも『もう少しいい剣を選びなさい』という言葉は、財布の中に新金貨で百しか入っていないという理由で発することができなかったが。

「ルイズお嬢さん、俺はこいつでいい。金は持ってるか?」

そう言った暁の表情には、少なくともルイズから見ると気遣いやそれに類する感情は見て取ることができない。
もっとも、彼がそういう類の優しさを見せるタイプの人間ではないというのは、ここ数日間という短い付き合いながらルイズにもわかっていることだったが。

「ほんとにそれでいいの?それを買うくらいのお金は持ってるけど」
「もう少しいい剣を選んだ方がいいんじゃないかしら、お金でしたら私が払っても構いませんわよ」
「俺はこいつで問題ない。煩いのが難点だがな」

信頼が置けるかどうか、となると剣などまともに振るったことがない暁には判断のしようがない。
だがそれでも、少なくともこの店に並んでいる武器の中でデル公という剣の実用性は抜きん出ているように思えた。
もっとも、それは暁が『日本刀』という刀剣を知る日本人であるということに由来することなのかもしれないが。

「ところでどうせこいつは厄介払いだろ?だったらもう少し安くする気はないか?」
「旦那、それはできかねやすね。いくらガラクタで厄介者でも武器は武器。百で済んでるのが本来ありえませんや」
「それもそうだな。だがこいつを手入れする道具くらいつけてくれたってバチはあたらねぇだろ。そっちはそんな高いもんでもないだろ?」
「むぅ……まぁ、それくらいでしたら」
「決まりだな」

言うが早いか、暁はルイズから預かっていた財布を店主に手渡す。
店主が中身を確認すると、ちょうど新金貨で百入っていた。

「毎度。どうしても煩いと思ったらこうやって鞘に入れてくだせぇ、黙りやすんで」

ボロ剣がそこそこの値で売れたことか、厄介払いができたことか、あるいはその両方か。
店主は若干いやらしい笑みを浮かべながら、財布と剣を暁に手渡す。
暁としても、間違いなく相場以下であろう値段でそこそこの剣が買えた故に、その態度に対しての文句はない。
デル公を鞘の中に納め軽く礼を言った後、少女たちを促し、店から出る。
そして、鞘の中のデル公――正しくはデルフリンガーという名を持つ剣の呟きは、誰にも聞こえない。

【おでれーた】

それは驚愕のような、歓喜のような。

【俺っちを買ったのが『使い手』ってのは、運命ってやつなのかね?】

その呟きは鞘の中の闇に溶け、消える。



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