あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

世界最強コンビハルケギニアに立つ-11






翌日、学院内。
暁は一人、廊下を歩いていた。
学生たちは今現在授業の真っ最中であり、本来はルイズの使い魔である暁も授業には参加しなければならない。
だが暁にとって、教室の一番後ろに数多の珍獣たちとともに立ち、授業を眺めるなどという珍奇な行事に参加するのは苦痛以外の何物でもなかった。
――ボーはまったく気にしていない風だったが、それは彼がおかしいのだと勝手に結論付ける。
いずれにしても暁に退屈に耐えようなどという気概は微塵もなく、授業開始一分後には教室を抜け出していた。

どこへ向かうでもなく学院内を彷徨いながら、暁は昨日の会話を思い出していた。
結局次の虚無の曜日――おそらく日曜日にあたるものだろうと暁は推測している――に城下町に武器の調達に行くことが決まった。
ルイズはどう見ても引っ込みがつかなくなって突っ走った印象だったが、おそらく気遣ってもあの場にキュルケがいた以上引かなかっただろう。
二人の間には何か妙な因縁があるようだった、やはり理由は面倒なので聞こうとは思わないが。

そんなことを考えながら歩いていた暁の目に、妙な光景が飛び込んでくる。
まず、巨大な扉。
その扉は、鉄かそれに類する金属でできており、巨大な閂によって閉じられていた。
またその閂は、これまた巨大な錠前によって守られている。

『この中には大事なものが保管されています』

そんな張り紙があるのと大差ないほどに厳重な扉だった。
学院の石造りの廊下、その一角にあるものとしては明らかに浮いている。
そしてその扉の前にいる一人の眼鏡をかけた女性。
メイジの格好をしているが、生徒という年齢には見えない。おそらく教師なのだろう。
彼女は扉の前で腕を組み、難しい顔をしながら何かを悩んでいるようだった。
その光景はそこまで異常なものでもなかったが、どうしても目に入ってくる、妙にインパクトのある光景だった。
なんともいえない表情で暁はしばらくそれを眺めていると、彼女の方も暁に気付き、目が合う。
数秒の沈黙が流れたあと、彼女が先に口を開いた。

「……初めまして」
「初めまして」

再び、沈黙が流れる。



「そうでしたか、あなたがミス・ヴァリエールの」
「できればとっととやめたいところだがな」

二人は巨大な扉を背景にしながら簡単な自己紹介を済ませていた。
女性の名はミス・ロングビル。
この学院の学院長であるオールド・オスマンの秘書という肩書きらしい。

「それで、秘書さんはこんなところで何をそんなに悩んでたんだ?」
「宝物庫の目録を作ろうと思って来たんですが……鍵を忘れてしまいまして」
「これ、宝物庫か」
「ガラクタとお宝が詰め込まれた、物置みたいな宝物庫です」

改めて扉を見上げる。
扉からは『普通とは違う』そんな気配がした。

「やっぱりあれか?魔法で厳重に閉じられてたりするのか」
「……ええ。それはもう、厳重に」

二人はしばらくの間、静かに扉を見つめていた。
どこか――お互いがお互いを探り合っているような空気が流れる。

「まぁ、秘書さんがここで何をしていたかはこの際置いておくとしてだ」
「そうしてください」

暁が大仰に肩をすくめ、ロングビルは微笑を浮かべる。
端から見れば、談笑に見えるのだろうか。
暁はロングビルと言う女性に妙な違和感を感じていた。

――誰かに似ている。

誰に、と問われても答えは出ない。
そもそも顔とか言動とか、そういうわかりやすいものが似ているわけではない。
おそらく考えても答えは出ないだろう。
いつまでも剣呑な空気をまとうのも楽しくないと判断し、別の話題を探す。

「――ところで、この使い魔のルーンのことを聞きたいんだが、秘書さんでわかるかい?」

左手の甲に刻まれた使い魔のルーンをロングビルのほうへと向ける。
今現在は何の光も発していないそれは、まるでアザのように見えた。

「うーん、基本的なことくらいしかわからないと思います。それで構わなければ」
「『銃を持ったらこのルーンが光るんだが、これは一体何だ?』って質問は基本的なことかい?」
「全然基本的なことではないですね。私はそもそも人間にルーンが刻まれたのを見たことがありません。
 普通使い魔になるのは動物や幻獣なので、銃を持つと光るのが普通かどうかすら不明です。ですが――」

ロングビルはそこでいったん言葉を区切る。
彼女の顔に浮かんでいるのは難しい表情、どうやら何かを悩んでいるようである。
心当たりはあるが確証はない、おそらくはそんなところだろうか――と暁は推察した。
実際のところは、盗み聞きした会話を言いふらしていいものか迷っていただけなのだが、暁はそんなことを知る由もない。
そして少しの間を置いて、ロングビルは再び口を開いた。

「コルベール先生によれば、あなたに刻まれたルーンは『ガンダールヴのルーン』と言うらしいです」
「ガンダ……何?」
「ガンダールヴ、伝説の使い魔の名前ですね」

伝説、という言葉のいかがわしさに暁は眉をひそめる。
そして同時に、猛烈な嫌な予感が彼を襲った。

「かつて始祖ブリミルに用いられた、千人の軍隊を一人で壊滅させるほどの力を持った使い魔だそうです」
「胡散臭ぇ」
「私もそう思います」

暁は心底うんざりした声を吐き出し、ロングビルが苦笑でそれに同意する。
一騎当千、その言葉自体は数多の英雄を形容する言葉として暁の世界にも存在する。
だが暁は経験上、『一人で千人もの人間を相手にすることなど不可能』という結論を出している。
御神苗優や、もはや伝説の存在とも言える気功師『朧』でもその桁には到達できないだろう。

――暁の脳裏に『機会があればやってみたい』という言葉がよぎったが、とりあえずそれは思考の片隅に置くことにした。

つまるところ、暁にとって一騎当千とは英雄を大袈裟に修飾する単語の一つに過ぎず、胡散臭いことこの上なかった。
しかもそれが『始祖』という二つ名を持つ何か良くわからない存在の逸話の中に登場するとなると、信じられるはずがない。

「まぁ、逸話の真偽はさておき。コルベール先生に見せていただいた文献には『ガンダールヴはあらゆる武器を使いこなし、敵と対峙した』とありました。
 もしかしたら銃を持つとルーンが光る、というのはガンダールヴのルーンが武器に反応しているのかもしれません」
「そこは笑うべきところか?」
「どうぞご自由に。ガンダールヴなどとと言い出したのはコルベール先生ですので」

自分は関係ない――口には出さないものの、あからさまに態度でそう示しながらロングビルは笑顔を浮かべる。
とても爽やかな笑顔だった。

(怖ぇ女だな)

苦笑を浮かべつつ次の言葉を捜す暁の耳に、階段を上り、こちらに向かってくる足音が届いた。
二人がそちらを見ると、現れたのはコルベールだった。
暁とロングビル、宝物庫の前という奇妙な場所で二人のの姿を確認したコルベールはその動きを止めた。
その顔に張り付いていたのはなんともいえない、微妙な表情が。

「お二人とも、ここで何を?」
「宝物庫の目録を作ろうと思ってこちらに来ましたら、ミスタ・アカツキと会いまして。軽く話し込んでいたところですわ」

先程とはうって変わって愛想のいい笑みを浮かべながらロングビルが答えを返す。
その返事にコルベールは『大変ですなぁ』と間の抜けた言葉を呟き、頷いた。
そしてゆっくりと暁のほうへと向き直る。

「ミスタ・アカツキはなぜここに?ミス・ヴァリエールは授業中のはずですが……」
「ああ、退屈だったから抜け出した。授業はボーがいるから大丈夫だろ」
「そ、そんなことでは困るのですが」

コルベールは本当に困った、という表情を浮かべている。
当然といえば当然の反応であった。

「先生がそこまで言うなら、戻るよ。またな、秘書さんに先生」
「もうすぐ授業時間終わってしまいますけどね」
「だから戻るんだよ」
「それは失礼いたしました」

まったく気持ちのこもっていない、どう考えても冗談の延長線上にあるロングビルの謝罪。
それを背に受け、楽しそうな表情でひらひらと手を振りながら暁はその場を後にした。


「と、ところでミス・ロングビル」
「はい?」
「ミスタ・アカツキとはその……何を?」

暁を見送った後、恐る恐るといった様子でコルベールがロングビルに問い掛けた。
ロングビルは一瞬『何を問われたのかわからない』といった表情を浮かべたが、すぐにその表情はいつもどおりの微笑へと戻る。
少なくともコルベールの前ではこれが『いつもどおり』である。

「この宝物庫について話していました。やはりこれだけ頑丈そうな扉が学院内にあると、初見の方は気になるんでしょうね」
「まぁ、確かにそうですなぁ」
「私も最初は驚きましたわ、こんな厳重な――メイジでも破れなさそうな扉、初めて見ましたもの」
「ええ、実際メイジでは破れないと思いますぞ」

この扉は、スクウェアクラスのメイジが何人も集まって設計したものである。
コンセプトは『あらゆる呪文に対抗できる扉』。
そして目論見どおり難攻不落の存在となった扉は、見るものに威圧感を与えながら宝物庫の前に君臨している。
だがコルベールは、この扉にも弱点はあると推論していた。

「この扉を破るには――それこそ物理的な力で破壊するしかないでしょうな」

魔法に対しては無敵の存在といえるこの扉も、所詮は分厚い鉄の扉。
故にそれを破壊しうるだけの力を加えれば、当然ながら扉は役目を果たせなくなる。
もっとも、難易度は果てしなく高いが。

「巨大なゴーレムがこの扉に一撃を加えれば、もしかしたら壊れるかもしれません。そんなことはありえないでしょうが」

呑気に笑うコルベールを見るロングビルの目がスッと細まる。
そしてもう一度扉を見上げると――満足そうに頷いた。

「大変興味深いお話でしたわ。ミスタ・コルベール」

コルベールのほうへ向き直ったとき、彼女の顔には妖艶な笑みが張り付いていた。



場面は変わり、教室前。
授業を終え、廊下に出たルイズはキョロキョロと辺りを見回した。
だが目的の人物の姿は――ない。

「どうしたルイズ、暁でも探しているのか」
「そうよ、自覚の足りない使い魔を探しているの」

若干遅れて教室から姿をあらわしたボーに不機嫌な表情を向ける。
ルイズは授業中に勝手にいなくなった不届きな使い魔――暁を探していた。

「いつの間にいなくなったのよ、あいつ」
「授業開始一分ごろだ、気付いていなかったのか?」
「気付いてたんなら止めなさいよ!」
「むぅ、トイレか何かだと思ったものでな。すまん」

ボーは相変わらず偉そうではあったが、普段の彼に比べるとかなり申し訳なさそうにしているのが見て取れる。
無論、これ以上ボーを怒るってもそれはただの八つ当たりでしかないことはルイズも十分理解していたので、それ以上ボーに対して怒りをぶつけることはしなかった。

「私がいるから大丈夫だとでも思ったのだろう。そういう男だ、暁は」
「ボーは使い魔じゃないじゃない」

ふむ、と呟き何事か考え込むボーを尻目に、ルイズは食堂に向かう進路を取る。
次は昼食の時間である、おそらく暁も厨房で食事をとるだろう。
食事の時間は会うことはできないが、終わったらしっかりと説教しておこうとルイズは決心した。
しかし、その決心は数秒で大きなため息に変化する。

「……暁が真面目に私の説教を聞くとも思えないのよねぇ」
「その通りだな、私もあの男が真面目に説教を受け入れる姿がまったく想像できん」

ルイズは立ち止まり、自分の後ろを歩くボーを見上げた。
尚、その視線には『あんたもね』という言葉が込められている。
そして再び、大きなため息。

「やっぱりあいつに主人と認めてもらうのは、無理なのかしらね」
「無理だろうな」
「……あっさり言わないでよ」

ボーという男なら『大丈夫だろう』などと根拠なく言うのではないか、そんな期待が少しだけ彼女の心の中には存在した。
もちろん『無理だ』というのもある程度予想の範囲内の言葉だったが――心には、刺さった。

「勘違いするな、ルイズだから無理というわけではない。そもそもあいつに主人と認められた人間など私は見たことがない」

気遣うでもなく、諭すでもなく。淡々と事実のみを言い聞かせる落ち着いた口調。
ルイズはただ、それを黙って聞いていた。

「暁は自由、悪く言えば勝手だ。任務より自分の命や趣味を優先する――そんな男だからな」
「最低じゃないの」
「うむ、端から見るとそうかも知れん」

力強く肯定するボーを見上げながら、ルイズは唖然とした表情を浮かべる。
――相棒じゃないのか、お前の。
そんな言葉をルイズの口が吐き出す前に、ボーが言葉を続けた。

「あの男は他人に歩調を合わせる術は知っているが、合わせる気はまるでない。
 だが妙に義理堅いところがあるから、なんだかんだで付き合いはいい。今ルイズの使い魔をやっていることが、まさにそれだろうな。
 正直なところ、私はあいつが使い魔をやっていると聞いた時、本気で信じられなかったぞ」

――ボーの命の分は使い魔をやってやる。
それは暁がルイズに繰り返し言っている言葉。
ルイズはそれが『嫌々やっている』という意だと思っていたが、ボーにとっては違うらしい。

「もしかしたら暁は気付いたら行方不明になっているかも知れん。むしろそちらの方が可能性としては高いだろう。
 だがなルイズ、暁にとってお前は大事な何かになる、そんな気がするのだ。無論根拠はないがな」

自信ありげな笑みを浮かべたボーの大きな手がルイズの頭に乗る。
――根拠が無いのに何故そんな自信満々なのか。
ルイズにその理由はさっぱりわからなかったが、不思議とそれを言う気にはならなかった。
その代わりに口をついて出たのは、まったく違う言葉。

「ボー、あんたはどうなの?あんたも――いなくなる?」

今の自分はもしかしたら捨て猫のような表情をしているかもしれない。
そう思いながらルイズは自分の発言を後悔した。
そもそも、なんでそんな言葉が口から出たのか、ルイズにはまったくわからなかったし考えたくもなかった。

「もちろん私とて元の世界には帰りたい。倒さねばならん宿敵がいるからな」

力強くボーが頷く。

「だが、私はルイズが立派な貴族になるのを見届けるまで、この世界に居座ろうと思うのだ。
 そもそも我が宿敵は、その程度の期間で誰かに負けたり死んだりするようなヤワな人間ではないからな」

むしろそんな雑魚ならば、こちらから願い下げだ――楽しそうな笑みを浮かべながらボーが語り続ける。
暁は言っていた。
『ボーはおそらくお前さんのことを気に入っている』
理由はわからない。そもそもボーという男の思考など読めるはずがないのだ。
だが、聞いてみたいと思った。何故――と。

「なんだお前ら、まだ食堂行ってなかったのか」

その時ルイズの背中に投げかけられたのは、授業を抜け出した自覚の足りない使い魔の声。
ルイズがゆっくりと、とてもゆっくりと背後を振り返る。
彼女が見た暁の表情には、悪びれるどころか『何でまだここにいるんだ?』という呆れに似た疑問が浮かんでいた。

「アカツキ――いままで、どこにいたのかしら?」

――できるだけ優しい表情で、怒りを表に出さず、穏やかに話し掛ける。
それがこのときルイズが言葉を吐き出すにあたって心がけ、気をつけたことである。
結果、その心がけ通りルイズの顔にはとても優しい微笑が浮かんだ。

「……なぁ、ボー。ルイズお嬢さん、めちゃくちゃ怒ってねぇか?」
「当たり前だ馬鹿者」

もっとも、その顔を見た暁の表情が引きつったなどというのは、ルイズにとって極めて予想外の出来事だったのだが。




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