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使い魔の達人-08


「それにしても、武器なんて持ち歩いて良いの?」
 王都トリスタニア、ブリドンネ街。武器屋までの道すがら、カズキは前を歩くルイズに尋ねた。
「はぁ?平民が護衛役をするのに武器を携帯しなくて、どうやって主人を危険から守るのよ」
「いや、オレの居たトコじゃ、武器や凶器は持ってるだけで犯罪者だからさ。実際持ち歩いてたら危ないじゃん」
「ふぅん。あんたんとこはそうなってたの。ま、メイジがいない世界じゃそうよね。
でもこっちじゃ、治安を守るのも基本メイジの勤めだもの。武器を持った平民ごとき、物の数じゃないわ」
 それじゃ持ってても、あまり意味がないような気もするな、とカズキは思うだけで、口には出さなかった。
「オレは?」
「自惚れないの。そりゃあんた、この間ギーシュとの決闘で勝ってたけれど、ギーシュごときと衛士を一緒にしないことね。
あんたに武器を持たせるのは、襲ってくる相手を倒させるのが目的じゃないわ。
もしものときに主人であるわたしが、安全に魔法を詠唱する時間を稼ぐ為。その手段の一つとして持たせるの。身の程を知ることね」
「どんな魔法でも爆発するのに?」
 ルイズはにこやかな笑顔を浮かべた。
「今すぐその爆発で、あんたの命を絶ってあげてもいいのよ?」
「ごめんなさい」
 そんなこんなで、二人は狭い路地裏から先、ゴミの類が道端に転がる、衛生的によろしくない道を行く。
ルイズが先ほどあまり行きたくないと言った理由をカズキは思い知った。できればあまり足を踏み入れたくない。
 四辻に出ると、ルイズは辺りを見回す。
「ピエモンの秘薬屋の近くだったから、この辺りなんだけど……」
 それから、一枚の銅の看板を見つけ、嬉しそうに呟いた。
「あ、あった」
 見ると、剣の形をした看板がぶら下がっていた。どうやらそこが武器屋らしかった。二人は石段を登り、羽扉に手をかけた。


 使い魔の達人 第八話  土くれのフーケ


 店の中は昼間だと言うのに薄暗く、ランプの灯りがともっていた。壁や棚に、
所狭しと剣や槍が乱雑に並べられ、立派な甲冑が飾ってあった。
 店の奥で、パイプを加えていた親父が入って来たルイズを胡散臭げに見つめた。
さっきの服飾店とは違う雰囲気に、思わずカズキは喉を鳴らした。
ルイズの胸の紐タイ留めに描かれた五芒星に気付いた親父が、パイプを離し、ドスの利いた声を出した。
「旦那、貴族の旦那。うちはまっとうな商売してまさあ。お上に目をつけられるようなことなんか、これっぽっちもありませんや」
「客よ」
 腕を組んで言うルイズに、親父は目を丸くした。
「こりゃおったまげた。貴族が剣を!おったまげた!」
「どうして?」
「いえ、若奥様。坊主は聖具を振る、兵隊は剣を振る、貴族は杖を振る、
そして陛下はバルコニーからお手をお振りになる、と相場は決まっておりますんで」
「使うのはわたしじゃないわ。使い魔よ」
「忘れておりました。昨今は使い魔も剣を振るようで」
 主人は商売っ気たっぷりにお愛想を言った。それから、カズキをじろじろと眺めた。
「剣をお使いになるのはこの方で?」
 ルイズは頷いた。が、それを聞いたカズキは待ったをかけた。
「ルイズ、ルイズ」
「なによ。商談中よ、ちょっと黙んなさい」
「オレ、剣よりは槍の方が使い慣れてるんだけど。特に突撃槍(ランス)」
「あら、あんた剣士だったんじゃないの?でも、あの時は剣をあんなに使えてたじゃない」
 ルイズの脳裏には、ギーシュのゴーレムをずんばらりと切り裂いたときのカズキが浮かんでいた。
「いや、あれはオレにもよくわかんないんだけど、このルーン?が光って、体が自然に動いたんだよ」
「今も光ってるじゃない」
 カズキは左手を掲げた。仄かに輝いている使い魔のルーンを示して。
「これよりもっと光ってた」
「ふぅん…なるほど。けど、槍はダメよ」
 何か思うところがあったのか、一つ頷くルイズ。
「なんでさ」
「ダサいわ」
 カズキは沈んだ。それはもう見事に、床に手を着き膝を着き、しかし踏ん張ることもできぬほど崩折れたのだ。
 そんなカズキに言い聞かせるように続けるルイズ。
「従者と言えばやっぱり剣よ。槍なんて長い武器、通路じゃ邪魔になるだけだわ。
でもわたし、剣なんてわかんないからとりあえず、こいつに合いそうなの適当に持ってきてちょうだい」
 主人はいそいそと奥の倉庫に消えた。彼は聞こえないよう、小声で呟いた。
「……こりゃ、鴨がネギしょってやってきたわい。せいぜい、高く売りつけてやるとしよう」
 彼は一メイルほどの長さの、細身の剣を持って現れた。主人は思い出すように言った。
「そういや、昨今の宮廷の貴族の方々の間で下僕に剣を持たすのがはやっておりましてね。
その際にお選びになるのが、このようなレイピアでさあ」
 なるほど。きらびやかな模様がついていて、貴族に似合いの綺麗な剣だった。
「貴族の間で、下僕に剣を持たすのがはやってる?」
「へえ。なんでも、最近このトリステインの城下町を、盗賊が荒らしておりまして……」
「盗賊?」
「そうでさ。なんでも『土くれ』のフーケとかいう、メイジの盗賊が、貴族のお宝を散々盗みまくってるって噂で。
貴族の方々は恐れて、下僕にまで剣を持たせる始末で。へえ」
「ふうん。…にしてもこれ、細いわね」
 ルイズは盗賊には興味を示さず、剣の方を見やる。すぐに折れてしまいそうな細身の剣。
カズキは確か、もっと大きな剣を軽々と振っていたはずだ。ルイズは両の手を広げた。
「もっと大きくて太いのがいいわ」
「お言葉ですが、剣と人には相性ってもんがございます。男と女のように。
見たところ、若奥様の使い魔とやらには、この程度が無難なようで」
「大きくて太いのがいいと、言ったのよ」
 ルイズが言うと、店主はぺこりと頭を下げて奥へと消えた。その際に、小さく「素人が!」と呟くのを忘れなかった。
 今度は立派な剣を油布で拭きながら、主人は現れた。カズキもいい加減復活したらしい。何かぶつくさ言っているが放っておく。
「これなんていかがです?」
 見事な剣だった。一・五メイルはあろうかという大剣で、柄は両手で扱えるように長く、立派な拵えである。
ところどころに宝石が散りばめられ、鏡のように両刃の刀身が光っている。見るからに切れそうな、頑丈な大剣であった。
「店一番の業物でさ。貴族のお供をさせるなら、このぐらいは腰から下げて欲しいものですな。
といっても、こいつを腰から下げるのは、よほどの大男でないと無理でさあ。やっこさんなら、肩からしょわんといかんですな」
 カズキも近寄って、その剣をまじまじと眺めた。大きくて、綺麗な剣だな。そんな第一印象。
槍を扱った経験はあるが、ものの良し悪しがわかるほど目が肥えているわけでもないのだ。
「すごい剣だね。ちょっと使うのがもったいない気もするけど」
「そうそう使うこともないでしょうね。けれど、店主の台詞じゃないけれど、それくらいは持っていてもらわなきゃ」
 とにもかくにも、カズキも気に入ったようではある。ルイズは頷いた。店一番と親父が太鼓判を押したのも気に入った。
貴族はとにかく、なんでも一番でないと気がすまないのである。
「おいくら?」
「何せこいつを鍛えたのは、かの高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿で。魔法がかかってるから鉄だって一刀両断でさ。
ごらんなさい。ここにその名が刻まれているでしょう?おやすかあ、ありませんぜ」
 尋ねるルイズに、主人はもったいぶって柄に刻まれた文字を指差した。ルイズは胸をそらせて言う。
「わたしは貴族よ」
「エキュー金貨で二千。新金貨なら三千」
「立派な家に、森つきの庭が買えるじゃないの」
 ルイズは呆れて言った。カズキは相場と貨幣価値がわからないので、ぼけっと突っ立っていた。
「名剣は城に匹敵しますぜ。屋敷で済んだら安いもんでさ」
「新金貨であと百とちょっとしかないわ」
 ルイズはあっけなく財布の中身をばらしてしまった。今日はちょっとした買い物もあるだろうと、
これでも多めに持ち合わせてきたほどだったが、ぜんぜん足りないようだ。主人は話にならない、というように手を振った。
「まともな大剣なら、どんなに安くても相場は二百でさ」
 ルイズは顔を赤くした。剣がそんなに高いとは知らなかったのだ。そんなルイズを見てカズキは慌てて慰めるように言った。
「ま、ま。お金が足りないんじゃ仕方ないよ。それにほら、こんな立派な剣じゃなくても、オレは良いからさ」
「あんたが良くても、わたしがいや…とも言ってられないわね。しかたないわ、買えるのにしましょうか」
 そのとき……乱雑に積み上げられた剣の中から、声がした。低い、男の声だった。
「そうだそうだ!その坊主にゃ、んなでけえのじゃあなく、そこらの棒っきれで十分だな!
そんなひょろっこい腕じゃ、棒もいっぱしに振れるかわかんねえけどよ!」
「な、なんだ?」
 カズキは声をする方に目を向けたが、そこにはただ剣が乱雑に置いてあるのみ。
突然の暴言に思うところがないわけでもないが、それ以上に声の正体が気にかかる。
「わかったら、棒でも槍でも買ってさっさと家に帰りな!おめえもだよ!貴族の娘っ子!」
「失礼ね!」
 ルイズの怒声を背に受けつつ、カズキはつかつかと声の方へ近づいた。
「誰かいるのか?」
「おめえの目は節穴か!」
 カズキはその声に、目を丸くした。なんと、声の主は一本の剣であった。錆の浮いたボロボロの剣から、声は発されているのだった。
「すごい、剣が喋ってる!」
 カズキがそう言うと、店の主人が怒鳴り声をあげた。
「やい!デル公!お客様に失礼なこと言うんじゃねえ!」
「デル公?」
 カズキはその剣をまじまじと見つめた。さっきの大剣と長さは変わらないが、刀身が細かった。薄手の長剣である。
ただ、表面に錆が浮き、お世辞にも見栄えが良いとは言えなかった。
「お客様?剣もまともに振れねえような小僧っこがお客様?ふざけんじゃねえよ!耳をちょん切ってやらあ!顔を出せ!」
 しかもずいぶん口が悪いときてる。しかし、喋る剣とは。カズキはとある自動人形を思い出していた。
あれもずいぶん口は悪いが、気の良い奴だった。じゃあきっとこいつも、そうに違いない。カズキはそう思った。
「それって、インテリジェンスソード?」
 ルイズが、当惑した声を上げた。
「そうでさ、若奥様。意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。いったい、どこの魔術師が始めたんでしょうかねえ、
剣を喋らせるなんて……。とにかく、こいつはやたらと口は悪いわ、客に喧嘩は売るわで閉口してまして……。
やいデル公!これ以上失礼があったら、貴族に頼んでてめえを溶かしちまうからな!」
「おもしれ!やってみろ!どうせこの世にゃもう、飽き飽きしてたところさ!溶かしてくれるんなら、上等だ!」
「やってやらあ!」
 売り言葉に買い言葉か。主人が魔剣を手に取ろうとするのを、カズキが止めた。
「ちょっと待った。喋る剣なんて面白いじゃん。溶かすなんて、もったいないよ」
 そしてカズキは、その剣をまじまじと見つめた。
「へっ!なんでえ!物珍しいからってお情けで助けてなんかいらね…うん?」
 やがて、魔剣は押し黙った。まるで、カズキを観察するかのように。それもしばしの間。すぐに喋りだした。
「おでれーた。見損なってた。てめ、『使い手』か」
「『使い手』?」
「ふん、自分の実力も知らんのか。まあいい、てめ、俺を買え」
「お、良いの?」
 するとカズキは、その錆の浮いた魔剣を手に取った。左手のルーンが、輝きを増した。
「ルイズ。これに――」
「おでれーた。てめ、随分面白え鍛え方してんのな。見た目がひょろっこいから気付かなかったけど、よく鍛えてあんじゃねぇか」
 手で直に触れられて、カズキの実力を測ったようだ。ルイズに剣を買ってもらう旨を伝えようとしたところに、魔剣がそう言った。
一ヶ月間の地獄のトレーニングの間に培った超実戦的な肉体及び戦闘感覚は、この魔剣を唸らせるに値したようだ。
「そ、そう?なんか照れるな」
「なにあんた、そんなの買うつもりなの?もっと綺麗で喋らないのにしたら?そんなおべっか使うような剣、いらないわよ」
「いや、デル公がおべっかなんざ、言うはずがないですぜ。そんな愛嬌あったら、とっとと買われてってるはずでさ」
「じゃあなに、あんた、そんなボロ剣の御眼鏡に適ったってワケ?」
 ルイズは心底嫌だ、と言わんばかりの顔を作った。
 すると魔剣は、つばをカタカタカタ、と鳴らしだした。それにルイズはビクリ、と慄いた。
「な、なによこいつ…!」
「何か面白いことでもあったんでしょうかね?笑ってるんでさ」
 付き合いも長いのか、感情を見て読み取れるようだ。店主が説明した。
「いやいやいや、おっでれーた!こんなぎりっぎりで人間やってる『使い手』はさすがに初めてだ!なんなんだ、てめ!」
 先刻までの憂いを帯びた様子が嘘のような、可笑しくてたまらない、と言わんばかりの生き生きとした口調。
 しかしその一言は、カズキの表情を驚愕のものに一変させるには十分だった。
「…わ、わかるのか?」
「おうよ!なんてったって俺は…あれ?なんだったっけ」
「わかるのか?オレはまだ、人間なんだな!?」
 尚も詰め寄るカズキ。その逼迫した様子に、ルイズも店主も目を丸くした。魔剣もまた、萎縮した声を上げた。
「お、おうよ…人間ってか、『使い手』なんだが。まぁどっちでもいいやな。
残りのおめえは、なんだ。……なんなの、おめ?人間のようで、人間じゃねえ。亜人の類ともまるで違う。
ってかおめ、そんな握るな握るな。錆びてるっても俺様、剣なんだからよ」
 逆に問い返され、さらには心配された。気付けば、その刀身を思い切り握っていたようだ。
手を離すと、手のひらに赤い線が少し走っていた。じわりと痛みが広がる。流れ出る血は、もちろん赤い。
「まだ、人間なのか」
 カズキの顔に、これまでにない安堵が広がった。タイムリミットは過ぎているけれど、まだ、人間なんだ。傷む拳を、強く握った。
「ボロ剣の証言ってのがいまいち信憑性ないけど…あんたの体、ほんっとーに化物になりかけだったのね」
 ルイズが頬を掻きながら、そう呟いた。状況についていけてなかった店主が、ルイズが発した化物、の一言にひっ、と呻いた。
「……信じてくれてなかったの?」
「そりゃ、ここ最近のあんた見てたら、危険な状態なのはわかるんだけど。いつまで経っても化物になんないし。
というか、そんなあんたが危険人物に見えたくらいだわ。それにあんた、なんでもすぐ信じそうだもの。
誰かに騙されて、悩んでんじゃないか、とか考えてたわよ」
 あまりな言い草に、カズキは再度沈んだ。けど、今度はすぐ立ち直った。
「え、ええと。若奥様の使い魔さん、大丈夫なんでしょうね?いきなり襲ってきたりとか、しねえですよね?」
 店主はすっかり腰が引けた様子で、ルイズに切り出した。
「あぁ、平気よ。今のところは無害っていうのが、あの剣のおかげで証明されたみたいだし…不安は残るけど」
「で、えーと。この剣、買いたいんだけど、良いかな?」
「しかたないわね。これ、おいくら?」
「ああ、そいつなら百で結構でさ」
「あら、安いのね」
「錆びも浮いてて口も悪い。こっちとしちゃ、厄介払いみたいなもんなんでさ。ハイ」
 店主がひらひらと手を振ると、カズキは早速上着の内ポケットから財布を取り出した。
中身を出し、主人が丁寧に百枚数えれば、商談は成立した。
「毎度」
 カズキの持った剣を恐る恐る受け取れば、鞘に収めた。
「どうしても煩いと思ったら、こうして鞘に入れればおとなしくなりまさあ」
 カズキは頷いて、それを受け取った。少しだけ鞘から出して、語りかけた。
「よろしくな、デル公」
「おう、俺はデル公じゃなくて、デルフリンガーってんだ!デルフでいいぜ!よろしくな、相棒!」
「あぁ、オレは武藤カズキ。よろしく、デルフ」
 そうして、カズキはデルフリンガーを手に入れた。

「やっと出てきた。こんな色気もなにもないところで、随分時間がかかったわね」
 ルイズとカズキが武器屋から出てくるのを見届ける影。赤い髪のまぶしいキュルケである。傍にはタバサが、黙々と読書に耽っていた。
「まったく、ヴァリエールったら、剣なんかプレゼントしてあの人の気を引こうだなんて。姑息な手を使うものね。
あたしが狙ってるから、警戒するのは当然でしょうけれど」
 自信たっぷりにそういうと、さてと、と呟いて、彼女は今しがた二人が出てきた武器屋へ向かった。

 大通りの道を歩く。必要なものは買ったということで、帰路に着き始めた。
「いてて…血は止まったけど、動かすと痛いや」
 先ほど思わずデルフリンガーを握った手が痛い。大した出血にならなかったのが救いか。
既に‘錬金術'の‘力'が作用しているのだろう。血が固まってきている。
「興奮するからよ。馬鹿ね」
 呆れたように、ルイズ。今日一番の収穫かもしれない、使い魔の剣。ひょっとしたら、この少年の助けになるかもしれない。
学院を出る前からは見違えるように、生気の戻った表情のカズキに、ルイズもどこか安堵していた。
「なあデルフ。さっき言ってた『使い手』って、なんなんだ?」
 歩きながら、カズキはデルフを手に取って話しかけた。鞘から少し引き抜けば、そのつばをカタカタと鳴らした。
「あん?『使い手』は『使い手』さ。俺としては、相棒の胸に詰まってる‘そいつ’の方が気になるんだが――」
「ちょっと、あんたたち。少しは場所を考えなさいよ。こんな往来で剣を半分抜いてるなんて、衛士に捕まっても言い訳できないわよ?
自分の体が気になるのはわかるけど、時間はあるんだから、あとでゆっくり話でもなんでもなさい。今はまず、帰るわよ」
 そんな使い魔と剣を嗜める。まったく、新しいおもちゃを買ってもらった子供のようだ。ルイズにはそんな風に思えた。
「そっか。了解。また後でな、デルフ」
 ルイズが一緒に居るとはいえ、こんな街中で剣を相手にぶつぶつ言ってたら違う意味で捕まりそうだ。カズキは剣を鞘に戻せば、背中に担いだ。

 二人は駅まで戻れば、学院から乗ってきた馬二頭を引き取った。馬のほうも十分休んで、準備万端のようだ。
「さ、帰るわよ。服と剣を買ってあげた上、腰が痛いなんて泣き言は聞かないからね。ちゃんと着いてきなさい」
「任せろ!何を隠そう、オレは乗馬の達人!」
「あんた、朝の自分覚えてないでしょ」
 調子を取り戻してきたカズキに苦笑を返し、ルイズがそう言った。
 馬に跨り、学院への道を往く。
「ハイヨー!シルバー!!ってぅおおおぉぉおぉ!?」
「ははは、相棒!いくら『使い手』だからって、そっちの扱いは専門外だぜ!」
 慣れない馬の扱いに四苦八苦するカズキを、デルフが笑った。それでも朝よりは、乗りこなせている。
ルイズも、しかたないわね、あの使い魔は。とぼやきながらそれを追った。


「で、これはどういう意味なわけ?ツェルプストー」
 既に夜の帳も落ちて、部屋の窓からは二つの月が煌々と輝いているのが見える。
しかしカズキは、それを見ることは適わない。床に正座して、目の前には今しがた購入してきたデルフリンガー。
そしてもう一本。昼間、武器屋で店主が持ち出してきた、見事な大剣が並んで置かれていた。
 ルイズとキュルケは、お互い睨み合っている。タバサはベッドに座り、我関せずと本を広げていた。
そんな一同を、テーブルに置かれたランプが照らす。空気が、重い。
「どうもなにも、カズキにはそんなボロ剣よりもこっち。この剣のほうが似合ってるから、これを使いなさいって言ってるのよ」
 部屋に戻ると同時に、待っていたわと押しかけてきたキュルケ。その腕には、大剣が抱えられていたという次第である。
「最近大人しいと思ったら…。余計なお世話よ。使い魔の使う道具は間に合ってるわ」
 ねえ?とカズキに伺うルイズ。カズキはどうしてよいやら、正座のまま苦笑を返しておいた。
大剣のプレゼントは嬉しいけれど、今の自分にはルイズの買ってくれたデルフリンガーがある。
 しかし、そんな曖昧な反応は、ルイズのお気に召さなかったようだ。
「なによあんた。よもや、わたしの買ってあげた剣と、この女の剣。どっち使うかで、迷ってんじゃないでしょうね」
「そうね、ボロくたって、主人であるルイズの買ってあげた剣だもの。使い魔としては、そっちを選ぼうとするのが当然よね。
でも、この剣をあげるって言われたら、そりゃ目移りするのも仕方ないってものよ。変な嫉妬はやめなさいよね」
「誰が嫉妬してるのよ!」
「そうじゃない?あなたが買えなかった剣を、あたしがなんなく手に入れてプレゼントしたもんだから、嫉妬してるんじゃなくて?」
「誰がよ!やめてよね!ツェルプストーの者からは豆の一粒だって恵んでもらいたくない!そんだけよ!」
 がなるルイズを無視して、キュルケはカズキに顔を向けた。カズキは、ルイズの態度に思うところがあったが、意識をそちらに向けた。
「ねえ、カズキ?この名剣を鍛えたのは、ゲルマニア屈指の錬金魔術師、シュペー卿だそうよ?剣も女も、生まれはゲルマニアに限るわ」
「どういう意味よ」
「そのままの意味よ?」
 ふふん、と胸をそらせてキュルケが言う。確かにキュルケは美人だし、名剣もすごく綺麗だ。うーん、とカズキは唸った。
するとキュルケが顔を近づけてきた。熱っぽい流し目を送り、語りかけてくる。カズキは思わず顔を赤くした。
「それに、トリステインの女ときたら、このルイズみたいに独占欲旺盛で、そのくせ殿方には無理難題ばかり吹っかけて、
嫉妬深くて、気が短くて、ヒステリーで、口ばっかりで、プライドばっかり高くって、どうしようもないんだから」
 ルイズはキュルケをぐっと睨みつけた。
「なによ。ホントのことじゃないの。あれから少しは進んだのかしら?使い魔に剣なんて買い与えるほど余裕があるんですものね」
 痛いところを突いてくるキュルケである。ルイズは顔を思わずしかめるが、すぐに余裕たっぷりに口を開いた。
「へ、へんだ!あんたなんか、ただの色ボケじゃない!なあに?ゲルマニアで男を漁りすぎて相手にされなくなったから、トリステインまで留学して来たんでしょ?」
 冷たい笑みを浮かべてキュルケを挑発する。随分頭にきているようで、声が震えていた。
「言ってくれるわね。ヴァリエール……」
 キュルケの顔色が変わった。ルイズが勝ち誇ったように言った。
「なによ。ホントのことでしょう?」
 二人は同時に自分の杖に手をかけた。
 それまで、じっと本を読んでいたタバサが、二人より早く自分の杖を振る。
 つむじ風が舞い上がり、キュルケとルイズの手から、杖を吹き飛ばした。
「室内」
 淡々と言うタバサ。ここでやれば危険であることを、暗に告げている。
「なにこの子。こないだも一緒にいたわね」
 ルイズが忌々しげに呟いた。キュルケが答える。
「あたしの友達よ」
「なんで、あんたの友達がわたしの部屋にいるのよ」
 キュルケは、ぐっとルイズを睨んだ。
「いいじゃない」
「すごいね、一瞬で杖を飛ばすなんて」
 助かった、とカズキはじっと本を読んでいるタバサに声をかけた。返事はなく、黙々と本の頁をめくっている。かなり無口なようだ
 眼鏡をかけた物静かな雰囲気が、妹のまひろの友達、しっかり者のちーちゃんを連想させた。
あの子をもう少し口数減らすと、こんな感じなんだろうか。そう思った。
「オレは武藤カズキ。よろしく」
「タバサ」
 本に目を向けたまま、簡潔に返事が返ってきた。なんだか、声の感じも似てる気がした。トーンはだいぶ違うけれど。
 すると、依然睨み合っていた二人して、文句を言ってきた。
「あんた、なにこっちを無視してその子に挨拶なんかしてんのよ」
「カズキ、タバサみたいな子が良いの?」
「いや、キュルケさんの友達ってことは、ルイズの友達でもあるだろ?挨拶しないと」
『ちょっと!誰が友達よ!こんな女!!』
 見事な唱和を見せる二人であった。やっぱり仲良いよな、とカズキは表情を緩ませた。
 そんなカズキに毒気を抜かれたのか、二人は顔を見合わせる。
「で、どうするの?こいつにでも選んでもらう?」
「いいえ。もっとわかりやすい形にしましょう。それにそろそろ、決着もつけたいところじゃない?」
「あら、いいわね」
 和やかに話していると思えば、キュルケは眉を吊り上げ、ルイズも負けじと胸を張った。同時に叫ぶ。
『決闘よ!』
「あれっ?」
 カズキは目を疑った。なぜそんな流れになるのか、理解が追いつかなかった。喧嘩するほど仲が良いって言う、あれだろうか。
「もちろん、魔法でよ?」
 キュルケが、勝ち誇ったように言った。ルイズは唇をかみ締めたが、すぐに頷いた。
「ええ。望むところよ」
「いいの?魔法で決闘で。言っとくけど、これに負けたら、剣のことだけじゃないわ。あんたのこと、『ゼロ』と呼ばせてもらうからね」
 小ばかにした調子で、キュルケが呟く。ルイズは頷いた。自信はない。もちろん、ない。
でも、ツェルプストー家の女に魔法で勝負と言われては、引き下がれない。
「もちろんよ!誰が負けるもんですか!」

「なあルイズ。ルイズとキュルケさん、なんでそんなにいがみ合ってんの?」
 中庭までの道すがら、二本の剣を抱えたカズキは、そんなことを尋ねる。ルイズとキュルケは不意に顔を見合わせると、同時にふん、と顔を逸らした。
「そんなの、ツェルプストーの人間だからに決まってるじゃない」
「それだけじゃわかんないよ」
 すると、横からキュルケが口を挟んできた。
「そうね。もう少し説明してあげなさいな、ヴァリエール。カズキ、さっき言ったと思うけれど、あたしはゲルマニアの女。
このトリステインの隣国、ゲルマニアの貴族なのよ。それでね」
「わたしの実家、ラ・ヴァリエールとキュルケの実家、フォン・ツェルプストーは国境を挟んで隣同士なの」
「国同士で戦争が起これば、昔から真っ先にぶつかり合ってた仇敵ってわけよ。だから、仲良くなんてそもそも無理なわけ」
 そこまでで、説明は十分だろうと、ルイズとキュルケは押し黙った。なんだかんだで二人して、きちんと説明してくれてる。
「それで、部屋も隣同士ってわけか」
「そう、それが何より気に食わないのよ」
「それはこっちの台詞よ。まったく、どういう基準で部屋を決めてるのかしらね、トリステイン貴族は。頭が悪いとしか思えないわ」
 ルイズがキュルケを睨んだ。そ知らぬ顔で歩を進めるキュルケ。カズキはうーん、とひとつ唸って。
「良いんじゃない?せっかく隣同士なんだし、仲良くなれば」
「あんた、話聞いてなかったの?」
「そういう建設的な考えも素敵だけど、こればっかりは流石にね」
 そういうもんかなぁ、と首を傾げているうちに、四人は中庭へ到着した。二つの月が、あたりを照らす。
「まあ、そんな両家の歴史にも、あたし達の代で、一応の決着がつくことになるわね。始めましょうか」
 キュルケが言った。カズキは心配になったのか、口を開いた。
「ほんとに決闘なんてするの?」
「そうよ」
 ルイズもやる気満々である。今更あとには引けないらしい。
 カズキとしては、決闘に付き合うようなことはせず、先ほど購入したばかりのデルフリンガーにいくつか質問をしたいところである。
が、今はどうも、それをするわけにもいかない。決闘ということは、ギーシュの時みたいに魔法をばんばん使うのだろう。とてもじゃないが、ほうってはおけない。
「でも、危ないじゃん。決着をつけなきゃいけないのなら、もっと安全な、どっちも納得できる方法にしなよ」
 一理ある、と思ったのか、カズキの言葉にキュルケが頷いた。
「確かに、怪我するのも馬鹿らしいわね」
 ルイズも、その考えには賛成の様子だ。首を縦に振る。
「そうね」
 すると、それまで黙っていたタバサが本を閉じ、キュルケに近づいて、何かを呟く。それから、カズキを指差した。
「あ、それいいわね!」
 ぽん、と手の平を合わせて、キュルケが微笑む。そして、キュルケもルイズへ呟いた。
「あ、それはいいわ」
 ルイズも頷いた。
 三人は、一斉にカズキの方を振り向いた。
「へ?」
 カズキは目をぱちくりと瞬いた。

「なぁー。これはないんじゃない?」
 カズキは情けない声で言うが、誰も返事をしてくれない。
 本塔の上から、ローブで縛られ、吊るされ、空中にぶら下がっている。ぶら下がりの達人のカズキではあるが、
ロープで簀巻きにされていてはその本領は発揮できなかった。
 こんなことになるなら、どっちか選んでおくべきだったんだろうか。後悔先に立たずである。
 はるか地面には、小さくルイズとキュルケの姿が見える。塔の屋上には、ウインドドラゴンに跨ったタバサ。風竜は二本の剣を咥えていた。
 ルイズとキュルケが上を見れば、ロープに縛られ、吊るされ、揺れるカズキが見えた。それを確認し、キュルケが腕を組み言う。
「いいこと?ヴァリエール。あのロープを切って、カズキを地面に落としたほうが勝ちよ。
勝ったほうの剣をカズキが使う。いいわね?」
「わかったわ」
 ルイズは硬い表情で頷いた。
「使う魔法は自由。ただし、あたしは後攻。そのぐらいはハンデよ」
「いいわ」
「じゃあ、どうぞ」
 ルイズは杖を構えた。屋上のタバサが、カズキを吊るしたロープを振り始めた。左右に揺れる。
『ファイアボール』等の魔法は命中率が高い。動かさなければ、簡単にロープに命中してしまう。
 しかし、命中するかしないかを気にする前に、ルイズには魔法が成功するかしないか、という問題があった。
散々成功することのなかった自分の魔法。決闘の日以来、なにか劇的に自分の中で変わったことがあるかといえば、もちろんない。
強いて言えば図書館の本漁りで新たな知識を少々得た程度だが、それで解決するような問題でもない。
 だけど…それでもやらなきゃ。ツェルプストーはもちろん、あいつが見てる前で、無様な姿は晒せないわ!
 ルイズは『火』の魔法、『ファイアボール』の詠唱を始めた。
 もし失敗したら…立派な大剣を背中に背負い、キュルケのもとへと去っていくカズキを想像し、ルイズはぶんぶんと頭を振る。
あの使い魔はそんなことはしない。だからきっと、自分も大丈夫だ、とルイズは自分を奮い立たせた。
 呪文詠唱が完成すると、気合を込めて杖を振った。
 呪文が成功すれば、火の玉が杖の先から飛び出すはずであった。
 しかし、杖の先からは何も出ない。一瞬遅れて、カズキの後ろの壁が爆発した。
 爆風が吹き荒れ、カズキが揺れた。揺られながら、身動きの取れないカズキは戦慄した。
「タンマ!タンマ!流石にこんな風に死ぬのはカンベン!!」
 ルイズはそんなカズキをお構いなしに塔を睨みつけた。ロープはなんともない。せめて爆風で切れてくれたら、と思ったが、甘かったようだ。
本塔の壁にはヒビが入っている。キュルケは……腹を抱えて笑っていた。
「あっはっはっは!ロープじゃなくて壁を爆発させてどうするのよ!器用ね!」
 ルイズは憮然とした。キュルケはひとしきり笑った後、口元を歪ませたまま言った。
「まったく、結局魔法はだめな『ゼロ』のままじゃないの。ちょっとは成長したかと思ったけど、期待はずれみたいね」
 そんなキュルケの言葉に、ルイズは悔しそうに拳を握り、膝をついた。
「さて、次はあたしの番ね」
 キュルケは狩人の目でカズキを吊るしたロープを見据えた。タバサがロープを揺らしているが、そんなことはお構いなしだ。
余裕の笑みを浮かべ、手馴れた仕草で杖を振り、呪文を唱えた。『ファイアボール』はキュルケの十八番なのだ。
 メロン大の火球が杖の先から放たれ、狙い違わずカズキを吊るすロープに直撃した。一瞬でロープを燃やし尽くす。
「うわあぁぁああ!」
 そのまま自由落下を始めるカズキ。このままでは地面に激突してしまう…と思われたが、落下速度は徐々に下がっていく。
 タバサが杖を振り、『レビテーション』をカズキにかけてくれたのだ。ゆっくりと地面へ着地するカズキ。
 キュルケは勝ち誇って、笑い声をあげた。
「あたしの勝ちね、ヴァリエール!いいえ、『ゼロ』のルイズ!」
 ルイズはしょぼんとして座り込み、地面の草をむしり始めた。
 そんなルイズを、カズキは複雑な気分で見つめていた。またしても『ゼロ』と呼ばれているルイズ。
けれど、自分には今何もできない。何故ならば――
「とりあえず、ロープ解いてくんない?」
 きっちりロープで体をぐるぐる巻きにされている。身動きが取れない。
 キュルケは微笑んだ。
「ええ。喜んで」
 そのときである。
 背後に巨大な何かの気配を感じて、キュルケは振り返った。
 我が目を疑う。
「な、なにこれ!」
 キュルケは口を大きく開けた。土の巨人が月明かりを受け、そこに悠々と立っていた。
 そして、のっそりとした動作でこちらに歩いてくるではないか。
「きゃぁあああああああ!」
 キュルケの悲鳴。カズキもその巨人――土ゴーレムの大きさに、目を見張った。
 な、なんだありゃ!こんなでかいゴーレムも魔法で…っていうか、こっちに近づいてるぞ!
 ゴーレムは、身長が三十メイルほど。見れば、肩に黒い人影が見える。月明かりが、それを照らしてくれていた。
 気づくと、キュルケがいない。突然のことにパニックに陥って逃げ出してしまったらしい。無理もない。
「って、まだ動けないし!うわわわわ!」
 カズキは身体を捻って、尺取虫よろしくなんとか動こうとした。あのゴーレムの目的は謎だが、このままでは踏み潰されてしまう。
だが、もがいてもしっかり縛ってあるので、うまく動けない。
 我に返ったルイズがカズキに駆け寄ってきた。
「な、なんで縛られてんのよ!あんたってば!」
「ルイズたちが縛ったんだろ!?」
 そんな二人の頭上に、ゴーレムの足が持ち上がる。
「っ…ルイズ、逃げろ!」
 カズキは怒鳴った。しかしルイズは、ロープを外そうともがいている。
「黙ってなさい。……ったく、誰よ!こんな風にロープ結んだの!」
「だからルイズだろ!いいから、早く逃げろ!」
 周りが見えていないのだろうか。そのうちに、ゴーレムの足が落ちてくる。
「――!」
 カズキの眉が吊り上った。
 そして、その身に宿した‘力'を発動しようとした、その瞬間――
「きゅい~!」
「!?」
 間一髪、タバサのウインドドラゴンが滑り込んだ。二人を両の足でしっかり掴むと、ゴーレムの足と地面の間をすり抜ける。
 カズキの転がっていたあたりに、ゴーレムの足がずしん、と音を発ててめり込んだ。
 上空に避難したウインドドラゴンに掴まれながら、二人はそれを見下ろす。
「な、なんだあれ…」
「わかんないけど……巨大な土ゴーレムね」
「『土』の魔法か…あんなに大きいの、作れるんだ」
「…あれだけ大きいとなると、少なくともトライアングルクラスのメイジね」
「そっか……」
 カズキは、ルイズへと視線を移した。
「ところでルイズ。さっき、なんで逃げなかったんだよ」
 ルイズはきっぱりと言い放った。
「そんなの、使い魔を見捨てるメイジなんて、メイジじゃないわ」
 カズキはそんなルイズを見つめた。日頃からメイジだ貴族だ言っているルイズだ。メイジとしては立派かもしれない。でも――
「でも、今のは助かったから良いけど。ひょっとしたらお前、二人とも死んでたかも知れないんだぞ?」
 カズキの言葉に、ルイズは頭に来るものがあったようだ。口早に言った。
「なに?助けてもらっておいて、その言い草は。お礼が欲しいとは言わないわ。けれど、そんな口の利き方を許した覚えはないわよ」
「助けてくれたのは、ルイズじゃないだろ。そりゃ、助けようとしてくれたことは、嬉しいよ。ありがとう。
けれど、それが上手くいかなくて、オレだけじゃあなく、ルイズも死んじゃうんじゃ、意味がないだろ?」
「なによ、その態度。それにあんた、それはわたしに、あんたを助けられないから、
あんた見捨てて一人で逃げた方が良かった、とでも言いたいわけ?
自分は死んでもかまわないとか、そういうわけ?使い魔のくせに、何様のつもりよ」
 まくし立てるルイズに、カズキは思わず詰まった。
「そうじゃない。そうじゃないんだけど…」
「そうね。化物になりかけのあんただものね。ゴーレムなんかにぺしゃんこにされても、しぶとく生きてるかも知れないわね。
……まったく、こんな恩知らずの使い魔、助けようとするんじゃなかったわ」
 それ以降、ルイズは口を閉ざし、そっぽを向いてしまった。
 カズキもどうしてよいやら、ゴーレムのほうを見やれば、土ゴーレムは塔に背を向けて歩き出していた。
 見れば、塔の壁に大穴が開いている。あのゴーレムが壊したのだろうか?
 すると、二人の身体はウインドドラゴンの足を離れ、その大きな背へと移動した。タバサが魔法で運んでくれたのだろう。
ついでに、『風』の魔法でロープを切ってくれた。自由になったカズキは、身体をほぐしながら口を開いた。
「ありがとう」
 あっさりタバサに礼を言ったカズキに、ルイズはさらに頭にきた。というか、カチンと鳴った。
 主人である自分には、礼の一つも言う前に、文句を言ってきたカズキ。
それが、風竜を使ってルイズ以上に危険なタイミングで救出劇を行ったタバサには、礼を言うのだ。
 ルイズは完全にへそを曲げてしまった。が、表情には出さない。見せない。
 そんなルイズに気づかぬカズキは、塔のほうを見やりながら言った。
「あのゴーレム、塔の壁を壊してたけれど、何をしてたんだろう?」
 その問いに、タバサが答えた。
「宝物庫」
 タバサの指す先、壁にあいた穴を見た。暗くてよくわからないが、確かにあのあたりは宝物庫だったはずだ。
 ルイズは、昼間王都で聞いた盗賊の噂話を思い出した。確か、貴族ばかりを狙うという話である。が、心を乱されていては、それもすぐ吹っ飛んでしまった。
 そのうちに、草原の真ん中を歩いていたゴーレムは、ぐしゃっと崩れ落ちた。
 三人は地面に降り立った。月明かりに照らされ、こんもりと小山に盛り上がった土以外、そこになはにもなかった。

 翌朝、宝物庫を調べた教師は、壁に刻まれた文字を発見する。


 『破壊の聖石、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』



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