街の門の傍にある駅。
マシンディケイダーとトライチェイサーを預けたその駅で、ユウスケ、キュルケ、タバサの3人は残りの3人を待っていた。
アニエスとは武器屋を出てすぐに別れた。
平民であるが剣の腕がかなり立つとの事で王女に近い位置での護衛を任されていた彼女だが、それが幸か不幸か、たまたま近くで護衛任務に当たっていたためにユウスケの買い物の付添人を任されてしまったのだ。
と言うわけで護衛任務の途中に駆り出されてしまった手前、一刻も早く戻って殿下へ報告し任務に復帰するために、用が済むと足早に王宮へと帰って行ったのだ。
閑話休題。
キュルケはユウスケが携えてきた剣をまじまじと見詰めて鼻を鳴らした。
「ふぅん…まさかインテリジェンスソードとはねぇ……やっぱり本当に強い人は選ぶものも違うわね♪」
と言って、ユウスケにウインクして見せた。
「は、ははは…」
ユウスケは顔を引きつらせて笑った。
キュルケのユウスケに対する態度は半日前とはまるで別物になっていた。
原因はクウガとなって戦った事。クウガの強さを目の当たりにし、キュルケはユウスケへの恋心をも芽生えさせてしまったようだ。
そんなキュルケとは対照的に、タバサはただ黙々と、駅の傍に降ろしていたシルフィードの身体に背を凭れさせながら読書に勤しんでいた。
暫くすると、ルイズ、士、夏海の3人も駅に戻ってきた。
「キュルケ!?何でアンタがここにいるのよ!」
ルイズはまずユウスケと一緒にキュルケ達もそこにいた事に驚いた。
「やあね、あたし達を勝手に帰っちゃうような薄情な人間だと思ってたの?」
「だからっていちいち私を待つような温情あふれる人間とも思えないわね。アンタが待ってたのはツカサとユウスケでしょ?」
バレたか、とキュルケはちろと舌を見せた。
「だってこんなにいい男が身近に二人もいるのよ?これを見逃す手は無いじゃない」
と、キュルケはユウスケの腕に抱き着く。ユウスケは引きつった笑みを浮かべ明らかな拒絶反応を見せていた。
「どうした?女に抱きつかれるのは待望じゃなかったのか?もっと嬉しい顔したらどうなんだ?」
カメラを向けながら士が尋ねる。
「いや、それはそうなんだけど、これはこれで何とも言えぬ心地の悪さと言うか…」
「もう、ユウスケってばホントにウブなんだから」
そう言ってキュルケはユウスケの腕を自分の胸の谷間に押し込んだ。
「はふん…♪」
ユウスケが悶える。
「そう言えばあんた達随分遅かったわね?謝礼にユウスケは剣買ってもらって、あんた達は何やってたの?」
と、ルイズの顔があからさまに不機嫌になる。
「…このバカ使い魔、恐れ多くもアンリエッタ姫殿下の写真の撮影を頼んだのよ」
士を睨みつけながらルイズは言った。
「別に構いやしないだろ。あっちは写真の事は知らないんだから。ただワケも判らず言われた通りにポーズ取ってただけとしか思ってないだろ」
「構うわよ!これ見よがしに姫殿下に、あ、あんなポーズやこんなポーズを……!アンタが撮影してる間、私はずっと気が休まらなかったんだからね!!」
「別に、それほど変なポーズは要求しなかっただろ。なあ?」
「ええ」
あの場に居合わせていた夏海が肯定する。
しかし夏海達からすればただの撮影会の感覚だが、一国の姫にポーズを要求するなど、ルイズ達トリステインの人間からすれば恐れ多すぎる事、ルイズを初めとするあの場にいた士と夏海以外の人間はずっと気が気で無かった。
「あぁ…あのお姫様の写真か。それは見てみたいなぁ」
「もう、ユウスケってば浮気性ね。お望みならあたしの全てをあなたにさらけ出しても良くってよ?」
そう言ってキュルケは胸元の布地を指でずらして見せた。ユウスケは慌てて鼻を押さえて目線を反らす。
そんなユウスケを冷ややかに見詰めながら夏海が言った。
「…士くんの写真に多くを望んでも無駄だと思いますけど?」
「そ、それもそうだね…」
すると士はあからさまに不機嫌な表情になった。
「そう言うお前はどんな剣を買ってもらったんだよ?」
と、ユウスケが肩に携えていた剣をサッと掠め取ると、それを鞘から抜いて眺めた。
「何だこれ?錆々じゃないか。こんなのがお前が欲しかった剣だって言うのか?」
ユウスケの剣を蔑むと、突然そのボロ剣ことデルフリンガーがはばきをカチカチと鳴らして声を上げた。
「おうおうおう!兄ちゃんの知り合いのくせに碌な目利きもできねーのか!俺様の凄さがわからねえとは、おめえの目は節穴以下だな!」
すると士、ルイズ、夏海の三人は揃って目を丸くした。
「驚いたな、この世界の剣は喋るのか」
「んなどれもこれも剣が喋るワケじゃないわよ。これはインテリジェンスソード。何処かの誰だかが道楽で作り始めた喋る魔剣よ。…んまぁ、私も実際に見るのは初めてなんだけどね」
士のツッコミを入れつつ、ルイズはデルフをまじまじと眺めた。
「ほう、そっちの嬢ちゃんは俺の良さがわかる分、こっちのトーヘンボクとは違うみたいだな!」
「…どうせ買ってもらうならもっと綺麗で口の悪くないやつにすれば良かったのに」
「あれえ…?」
誉めた途端に貶されて、デルフは無い腰が砕けた。
「良いんだよ、それで。俺はそいつが気に入ったんだから!」
「かーっ!やっぱ俺の良さがわかるのは兄ちゃんだけだぜ!俺、兄ちゃんに貰われてホントーに良かったぜ!!」
デルフは感極まって声を上げた。もし涙腺があったら号泣しそうな勢いだ。
「…ま、お前らお似合いかもな」
と、士はデルフを鞘へ戻そうとデルフの柄を握った瞬間、
「ん?なんだおめえ?一体何者だ?」
デルフは怪訝な声で士に問いかけた。
「…?お前こそいきなりなんだ?」
士も怪訝そうに聞き返す。
「いや、なんだかな…この感じ、前にどっかで……ん〜、思い出せねーな」
「…ワケが判らん」
考え込むデルフを無視して士はデルフを完全に鞘にしまう。
そうなってしまえばデルフはもう何も喋れなくなるが、まだ何かを思い出そうとしているようで、その状態でもうんうん唸っていた。
士はデルフをユウスケに放って渡すと、足を駅へと向けた。
「いい加減帰るぞ。もうすぐ日も暮れるしな」
「それもそうね」
既に太陽は傾き始めて、西の空を真っ赤に染めていた。東の空から夕闇が迫っている。おそらく後1時間足らずで日は完全に暮れてしまうだろう。いくらバイクでも学院に着く頃には完全に日が暮れてそうだ。
「アンタらはいいわよね、風竜ならここから学院まですぐでしょうし」
ルイズは駅の傍でタバサが凭れ掛かっている風竜を見ながら言った。
「あら?お望みなら乗って行く?代わりにあたしはツカサかユウスケと相乗りして帰るから」
「ユウスケならともかく、ツカサはダメよ。ツェルプストーには使い魔一匹、小鳥一羽くれてやる義理は無いんだから」
キッと睨みつけてルイズは言い切った。
「なら、あたしユウスケと相乗りして帰るわ♪それなら文句は無いんでしょう?」
「えぇ!?」
だがそれを聞いて顔色を変えたのは夏海だった。
「そ、それじゃあ私はどうやって帰れば良いんですか…!?」
「タバサの風竜に乗せてもらえばいいわよ。あれならバイクより速いから、日が暮れる前に学院に着けるわ」
「えぇぇぇ…」
夏海はシルフィードを見た。シルフィードと目が合い、夏海の顔が青ざめる。
ルイズ達ハルケギニアの人間にとってはそこそこ馴染みの深い竜であるが、現代日本で生まれ育った夏海にとっては未知の生物、むしろ今まで士達が戦ってきた怪物の類いに近い印象を持っていた。
と言うかどう見てもでっかいトカゲにしか見えなかいものに乗って帰れとか、夏海にはハードルが高過ぎた。馬にだって碌に乗った事が無いって言うのに。
「む、無理です…乗れません!」
顔をぶんぶんと横に振って思いっきり拒絶する夏海。それを見ていたシルフィードがショックを受けて「きゅい〜…」と悲しげな声を上げる。
するとそこに自分達のバイクを引いて士とユウスケが戻って来る。
「何が無理なんだ?」
ルイズは小さくはあと溜息を付いた。
「仕方無いわ、私はタバサの風竜で帰るから、夏海は士の後ろに乗って帰りなさい」
「…っ、…は、はい…」
一瞬、良いのかと聞き返そうとしたが、素直にルイズの申し出を受け入れた。竜に乗るよりずっと良い。
「…良いの?」
と、何故かキュルケの方から異を唱えられた。
「何が?」
「…ううん、別に」
キュルケはつまらなそうにそう言うと、そのままユウスケの方に夢中になりそれっきりルイズには絡まなかった。
何故そんな事を言い出したのかルイズも気にはなったものの、それ以上深く追求しなかった。今日はただの休日だった筈が、とにかく色々あり過ぎて逆にとてつもなく疲れた。一刻も早く帰って休みたかった。
士達がヘルメットを被っている中、ルイズはシルフィードの足下で本を読んでいたタバサに近付いた。
「じゃ、よろしくね」
ルイズがそう言うと、タバサは本から顔を上げて小さくコクリと頷いた。
そう言えば、タバサと直接話すのは初めてのような気がした。
「そうだ、あのバイク——ツカサ達に速さ合わせて飛んでね」
「わかった」
タバサは短くそう言ってシルフィードの背中に跨がった。ルイズもタバサに倣ってその後ろにちょこんと乗っかった。
士達のバイクが走り出すと同時に、シルフィードも翼を広げて夕暮れの空へ飛び上がった。
マシンディケイダーとトライチェイサーを預けたその駅で、ユウスケ、キュルケ、タバサの3人は残りの3人を待っていた。
アニエスとは武器屋を出てすぐに別れた。
平民であるが剣の腕がかなり立つとの事で王女に近い位置での護衛を任されていた彼女だが、それが幸か不幸か、たまたま近くで護衛任務に当たっていたためにユウスケの買い物の付添人を任されてしまったのだ。
と言うわけで護衛任務の途中に駆り出されてしまった手前、一刻も早く戻って殿下へ報告し任務に復帰するために、用が済むと足早に王宮へと帰って行ったのだ。
閑話休題。
キュルケはユウスケが携えてきた剣をまじまじと見詰めて鼻を鳴らした。
「ふぅん…まさかインテリジェンスソードとはねぇ……やっぱり本当に強い人は選ぶものも違うわね♪」
と言って、ユウスケにウインクして見せた。
「は、ははは…」
ユウスケは顔を引きつらせて笑った。
キュルケのユウスケに対する態度は半日前とはまるで別物になっていた。
原因はクウガとなって戦った事。クウガの強さを目の当たりにし、キュルケはユウスケへの恋心をも芽生えさせてしまったようだ。
そんなキュルケとは対照的に、タバサはただ黙々と、駅の傍に降ろしていたシルフィードの身体に背を凭れさせながら読書に勤しんでいた。
暫くすると、ルイズ、士、夏海の3人も駅に戻ってきた。
「キュルケ!?何でアンタがここにいるのよ!」
ルイズはまずユウスケと一緒にキュルケ達もそこにいた事に驚いた。
「やあね、あたし達を勝手に帰っちゃうような薄情な人間だと思ってたの?」
「だからっていちいち私を待つような温情あふれる人間とも思えないわね。アンタが待ってたのはツカサとユウスケでしょ?」
バレたか、とキュルケはちろと舌を見せた。
「だってこんなにいい男が身近に二人もいるのよ?これを見逃す手は無いじゃない」
と、キュルケはユウスケの腕に抱き着く。ユウスケは引きつった笑みを浮かべ明らかな拒絶反応を見せていた。
「どうした?女に抱きつかれるのは待望じゃなかったのか?もっと嬉しい顔したらどうなんだ?」
カメラを向けながら士が尋ねる。
「いや、それはそうなんだけど、これはこれで何とも言えぬ心地の悪さと言うか…」
「もう、ユウスケってばホントにウブなんだから」
そう言ってキュルケはユウスケの腕を自分の胸の谷間に押し込んだ。
「はふん…♪」
ユウスケが悶える。
「そう言えばあんた達随分遅かったわね?謝礼にユウスケは剣買ってもらって、あんた達は何やってたの?」
と、ルイズの顔があからさまに不機嫌になる。
「…このバカ使い魔、恐れ多くもアンリエッタ姫殿下の写真の撮影を頼んだのよ」
士を睨みつけながらルイズは言った。
「別に構いやしないだろ。あっちは写真の事は知らないんだから。ただワケも判らず言われた通りにポーズ取ってただけとしか思ってないだろ」
「構うわよ!これ見よがしに姫殿下に、あ、あんなポーズやこんなポーズを……!アンタが撮影してる間、私はずっと気が休まらなかったんだからね!!」
「別に、それほど変なポーズは要求しなかっただろ。なあ?」
「ええ」
あの場に居合わせていた夏海が肯定する。
しかし夏海達からすればただの撮影会の感覚だが、一国の姫にポーズを要求するなど、ルイズ達トリステインの人間からすれば恐れ多すぎる事、ルイズを初めとするあの場にいた士と夏海以外の人間はずっと気が気で無かった。
「あぁ…あのお姫様の写真か。それは見てみたいなぁ」
「もう、ユウスケってば浮気性ね。お望みならあたしの全てをあなたにさらけ出しても良くってよ?」
そう言ってキュルケは胸元の布地を指でずらして見せた。ユウスケは慌てて鼻を押さえて目線を反らす。
そんなユウスケを冷ややかに見詰めながら夏海が言った。
「…士くんの写真に多くを望んでも無駄だと思いますけど?」
「そ、それもそうだね…」
すると士はあからさまに不機嫌な表情になった。
「そう言うお前はどんな剣を買ってもらったんだよ?」
と、ユウスケが肩に携えていた剣をサッと掠め取ると、それを鞘から抜いて眺めた。
「何だこれ?錆々じゃないか。こんなのがお前が欲しかった剣だって言うのか?」
ユウスケの剣を蔑むと、突然そのボロ剣ことデルフリンガーがはばきをカチカチと鳴らして声を上げた。
「おうおうおう!兄ちゃんの知り合いのくせに碌な目利きもできねーのか!俺様の凄さがわからねえとは、おめえの目は節穴以下だな!」
すると士、ルイズ、夏海の三人は揃って目を丸くした。
「驚いたな、この世界の剣は喋るのか」
「んなどれもこれも剣が喋るワケじゃないわよ。これはインテリジェンスソード。何処かの誰だかが道楽で作り始めた喋る魔剣よ。…んまぁ、私も実際に見るのは初めてなんだけどね」
士のツッコミを入れつつ、ルイズはデルフをまじまじと眺めた。
「ほう、そっちの嬢ちゃんは俺の良さがわかる分、こっちのトーヘンボクとは違うみたいだな!」
「…どうせ買ってもらうならもっと綺麗で口の悪くないやつにすれば良かったのに」
「あれえ…?」
誉めた途端に貶されて、デルフは無い腰が砕けた。
「良いんだよ、それで。俺はそいつが気に入ったんだから!」
「かーっ!やっぱ俺の良さがわかるのは兄ちゃんだけだぜ!俺、兄ちゃんに貰われてホントーに良かったぜ!!」
デルフは感極まって声を上げた。もし涙腺があったら号泣しそうな勢いだ。
「…ま、お前らお似合いかもな」
と、士はデルフを鞘へ戻そうとデルフの柄を握った瞬間、
「ん?なんだおめえ?一体何者だ?」
デルフは怪訝な声で士に問いかけた。
「…?お前こそいきなりなんだ?」
士も怪訝そうに聞き返す。
「いや、なんだかな…この感じ、前にどっかで……ん〜、思い出せねーな」
「…ワケが判らん」
考え込むデルフを無視して士はデルフを完全に鞘にしまう。
そうなってしまえばデルフはもう何も喋れなくなるが、まだ何かを思い出そうとしているようで、その状態でもうんうん唸っていた。
士はデルフをユウスケに放って渡すと、足を駅へと向けた。
「いい加減帰るぞ。もうすぐ日も暮れるしな」
「それもそうね」
既に太陽は傾き始めて、西の空を真っ赤に染めていた。東の空から夕闇が迫っている。おそらく後1時間足らずで日は完全に暮れてしまうだろう。いくらバイクでも学院に着く頃には完全に日が暮れてそうだ。
「アンタらはいいわよね、風竜ならここから学院まですぐでしょうし」
ルイズは駅の傍でタバサが凭れ掛かっている風竜を見ながら言った。
「あら?お望みなら乗って行く?代わりにあたしはツカサかユウスケと相乗りして帰るから」
「ユウスケならともかく、ツカサはダメよ。ツェルプストーには使い魔一匹、小鳥一羽くれてやる義理は無いんだから」
キッと睨みつけてルイズは言い切った。
「なら、あたしユウスケと相乗りして帰るわ♪それなら文句は無いんでしょう?」
「えぇ!?」
だがそれを聞いて顔色を変えたのは夏海だった。
「そ、それじゃあ私はどうやって帰れば良いんですか…!?」
「タバサの風竜に乗せてもらえばいいわよ。あれならバイクより速いから、日が暮れる前に学院に着けるわ」
「えぇぇぇ…」
夏海はシルフィードを見た。シルフィードと目が合い、夏海の顔が青ざめる。
ルイズ達ハルケギニアの人間にとってはそこそこ馴染みの深い竜であるが、現代日本で生まれ育った夏海にとっては未知の生物、むしろ今まで士達が戦ってきた怪物の類いに近い印象を持っていた。
と言うかどう見てもでっかいトカゲにしか見えなかいものに乗って帰れとか、夏海にはハードルが高過ぎた。馬にだって碌に乗った事が無いって言うのに。
「む、無理です…乗れません!」
顔をぶんぶんと横に振って思いっきり拒絶する夏海。それを見ていたシルフィードがショックを受けて「きゅい〜…」と悲しげな声を上げる。
するとそこに自分達のバイクを引いて士とユウスケが戻って来る。
「何が無理なんだ?」
ルイズは小さくはあと溜息を付いた。
「仕方無いわ、私はタバサの風竜で帰るから、夏海は士の後ろに乗って帰りなさい」
「…っ、…は、はい…」
一瞬、良いのかと聞き返そうとしたが、素直にルイズの申し出を受け入れた。竜に乗るよりずっと良い。
「…良いの?」
と、何故かキュルケの方から異を唱えられた。
「何が?」
「…ううん、別に」
キュルケはつまらなそうにそう言うと、そのままユウスケの方に夢中になりそれっきりルイズには絡まなかった。
何故そんな事を言い出したのかルイズも気にはなったものの、それ以上深く追求しなかった。今日はただの休日だった筈が、とにかく色々あり過ぎて逆にとてつもなく疲れた。一刻も早く帰って休みたかった。
士達がヘルメットを被っている中、ルイズはシルフィードの足下で本を読んでいたタバサに近付いた。
「じゃ、よろしくね」
ルイズがそう言うと、タバサは本から顔を上げて小さくコクリと頷いた。
そう言えば、タバサと直接話すのは初めてのような気がした。
「そうだ、あのバイク——ツカサ達に速さ合わせて飛んでね」
「わかった」
タバサは短くそう言ってシルフィードの背中に跨がった。ルイズもタバサに倣ってその後ろにちょこんと乗っかった。
士達のバイクが走り出すと同時に、シルフィードも翼を広げて夕暮れの空へ飛び上がった。
魔法学院まで続く街道をマシンディケイダーは疾走していた。
日が暮れ掛かって若干道が判り辛くなっていたが、そこは上空をわざわざバイクに合わせて飛んでいるタバサの風竜が目印となってくれていた。
マシンディケイダーの後方にはトライチェイサーが、何とも覚束無いタイヤ運びで着いてきている。転倒しないのが不思議なくらいだ。
と言うのも、後部に乗せたキュルケがその豊満な胸を惜しげも無くユウスケの背中に押し付けているので、ユウスケは沸き上がる動悸を押さえつけて精一杯転倒しないよう、運転だけに神経を向けるのに必至だったのだ。
「今日は街に出て来て正解でしたね」
道中、後ろに跨がっている夏海がそう言ってきた。
「…ま、そこそこ楽しめたしな。…この世界のライダーについては、結局何も判らなかったが」
「でも、この世界での私達の使命は、だいたいわかったんじゃないですか?」
「は?」
夏海の言わんとしている事が判らず、士は聞き返す。
「この世界にもグロンギがいたって事は、きっとクウガの世界と同じようにあいつらをやっつけるのが士くんの使命なんです。それに、そうして行けばきっとこの世界のライダーにも会えます!」
夏海は自信たっぷりに自分の推論を語った。だがそれ聞いていた士はやや冷淡な態度で返事を返す。
「…お前の言いたい事はだいたいわかった。だが残念だがそれは無い」
「え?それってどう言う意味ですか?」
今度は夏海が士の言いたい事が理解出来ず、逆に聞き返した。
「あいつらは元々この世界にいた連中じゃない。おそらく、クウガかアギトかの世界にいたのが、何らかの方法でこの世界に来てしまったんだろうな」
昼間戦ったグムンは、『気が付いたらこの月が二つある世界にいた』と言っていた。つまり月が二つも無い別の世界、異世界からやって来たのは明白だ。
月が一つしか無い世界では、何処に行っても月は一つであるように、この月が二つある世界でも何処へ行っても月は二つなのだから。
「そんな、一体どうやって…?」
夏海達が知る限り、異世界を渡る方法は限られる。と言うか、異世界を渡れる存在は、と言い換えた方が良いだろう。
まず、自分達の写真館。そしてそれとは別に、自分達と同じように世界を渡り歩いている人間が、あと二人…。
「…前に、似たような事があったな。…あいつなら、色々と説明がつく」
「あいつって…?」
聞きながら、夏海も何となく士の出そうとしている答えに見当を着けていた。自分達と同じように世界を渡っている、二人の人間の内の一人———。
「鳴滝」
「鳴滝さんが…?」
士達の旅の先々に現れ、士=ディケイドを世界の破壊者と呼び、その旅の妨害してきた鳴滝。あの男なら、ディケイドを倒すためにグロンギを呼ぶ事だって不可能じゃない筈だ。
「以前、似たような事をやってた事もあるしな」
それは龍騎の世界での話だ。鳴滝は実験と称し、剣の世界の怪物・アンデッドを龍騎の世界に潜り込ませていた。一体何が目的だったかは知らないが、それが出来る鳴滝なら今回のグロンギも不可能ではないと士は踏んだのだ。
「それにタイミングも良すぎる。俺達が街に来た所に異世界からやってきたグロンギ…おそらくほぼ鳴滝の仕業に間違いないだろう」
「…それじゃあ、士くんがこの世界での使命は…」
「まだ判らずじまいって事だ」
「そんな…!」
「とりあえず、もう暫くルイズの使い魔をやっていろって事だろ」
とにかくこの世界はこれまでの世界とは勝手がまるで違う。
一先ずルイズの使い魔と言う役割は与えられたが、そこからどうにもこの世界の仮面ライダーに繋がる道筋が見出せないのだ。
そもそもこの世界に本当に仮面ライダーがいるのかどうか。この世界にやって来た当初からずっと疑問に思っていたが、その答えもいよいよもって『否』に傾きかけている。
そしてこの世界に仮面ライダーがいないのなら、士はこの世界で一体何をすれば良いのか。何故、この世界にやって来たのか…。とにかく判らない事だらけなのだ。
「…もう暫くって…いつまでですか…?」
「…夏海?」
「一体いつまで、私達はこの世界にいなくちゃいけないんですか…?私達は9つの世界を旅するって使命を終えた筈です。だったら元の世界に戻っても良い筈なのに…こんなワケの判らない世界に…仮面ライダーのいない世界に飛ばされて、
一体何をしろって言うんですか?……私の世界は…本当に、救われたんでしょうか…?」
夏海の脳裏に、あの日の惨劇が蘇っていた。
溢れる怪物、炎に包まれる街、逃げ惑う人々、そして静止した世界。それを救うために、自分達はこの旅を始めたのだ。
もし9つの世界を巡り終えた時点で世界が救われたとしても、実際に自分の目で見てみない事には安心出来ない。
「…」
士は何も言わずにバイクを走らせ続けた。
「…士くん…何とか言ってください…」
何かを言おうにも、士には何を言えば良いのか判らなかった。
士にも、この世界の事、自分達がこの世界を訪れた理由、まったく判っていないのは同じだ。だからと言って適当な言葉を並べて夏海の機嫌を取れる程、口も達者ではない。
「…いいですよね、士くんは……士くんは結局自分の世界を見つけられなかったから、諦めがつけて…」
そこで突然士はブレーキを掛けてバイクを急停止させた。突然の事で夏海は思わず小さな悲鳴を上げた。
すぐ後ろを走行していたトライチェイサーがマシンディケイダーを抜き去り、少しした所で停車した。
夏海が口をぱくぱくさせていると、士はゴーグルを外して夏海の方を振り返りながら言った。
「…なら、この世界は何もしないでこのまま通り過ぎるか?」
「え…?」
士は静かに、しかしその内に様々な感情を含ませて、夏海に尋ねた。
「どうせこの世界にはライダーはいそうにない。俺のやるべき事も見つけられない。だったらこれ以上ここにいても、ルイズに扱き使われるだけで時間の無駄だからな、とっとと通り過ぎるのも手だろう」
「…」
夏海は思案した。確かに士の言う通りだ。ライダーもいない、やるべき事も見つけられない、そんなこの世界にいつまでも居続けるくらいなら、このまま通り過ぎてしまうのも良いだろう。
そうだ。九つの世界を旅すると言う使命はもう終わったのだ。ならこんな世界にいつまでも留まっていても仕方が無い。何の気兼ねも無く帰れば良いのだ。帰ればそこに、滅びから救われた自分の世界がきっと待っている。自分を迎えてくれる。
「…そうですね、それも良いかもしれません…」
夏海は、抑揚の無い声でそう答えた。
一瞬、士の目が酷く冷たい光を放ったような気がしたけど、きっと気のせいだろう。
「士、どうした?故障か?」
するとそこへ心配したユウスケがUターンしてこちらにやってきた。その後に跨がったキュルケも顔を覗かせている。
「ツカサ、いきなりどうしたの?急に止まったりして」
同様に、シルフィードを降下させてもらってルイズもこちらにやってくる。
「大した事無い。すぐに追うから、お前らは先行ってろ」
そう言われ、皆怪訝そうな顔をしたが、言われた通り先に向かった。
暫くしてある程度距離が開いたのを見計らい、士もマシンディケイダーを走らせた。相変わらずふらふらと覚束無いタイヤ取りのトライチェイサーの尾灯を追って、帰路を走る。
それから二人は終始無言だった。
士は、相変わらず何を考えてるのかいまいちよく判らない。ただ無言のまま、ひたすらバイクを走らせるだけだった。
夏海もそんな士の背中に身体を預けながら、一度も口を開こうとはしなかった。
『この世界を立ち去る』ついさっき自分で決断した事だ。
なのに、何でだろう、その事を考えると何かが夏海の心に引っ掛かる。
『本当にそれで良いのですか?』
と、心の中から誰かが問いかける。
…良いに決まってる。自分達にはこの世界に来た意味は無い。昨日ユウスケが言ったように、ルイズの魔法で間違ってこの世界に来てしまっただけ。これは言わば、事故みたいなものなのだ。
これから、自分達は自分の世界に帰る。そこにはきっと、この旅に出る前の、元の生活が待っている。そもそもそれを取り戻すために旅に出たのだ。それがもうすぐ、取り戻せる。何を迷う必要があるのだろう。
夏海はそう、まるで自分に言い聞かせるかのように、心の中で反芻し続けた。
だが、心の中の声はずっと響き続けた。
『本当に、このままで良いの?』
———と。
日が暮れ掛かって若干道が判り辛くなっていたが、そこは上空をわざわざバイクに合わせて飛んでいるタバサの風竜が目印となってくれていた。
マシンディケイダーの後方にはトライチェイサーが、何とも覚束無いタイヤ運びで着いてきている。転倒しないのが不思議なくらいだ。
と言うのも、後部に乗せたキュルケがその豊満な胸を惜しげも無くユウスケの背中に押し付けているので、ユウスケは沸き上がる動悸を押さえつけて精一杯転倒しないよう、運転だけに神経を向けるのに必至だったのだ。
「今日は街に出て来て正解でしたね」
道中、後ろに跨がっている夏海がそう言ってきた。
「…ま、そこそこ楽しめたしな。…この世界のライダーについては、結局何も判らなかったが」
「でも、この世界での私達の使命は、だいたいわかったんじゃないですか?」
「は?」
夏海の言わんとしている事が判らず、士は聞き返す。
「この世界にもグロンギがいたって事は、きっとクウガの世界と同じようにあいつらをやっつけるのが士くんの使命なんです。それに、そうして行けばきっとこの世界のライダーにも会えます!」
夏海は自信たっぷりに自分の推論を語った。だがそれ聞いていた士はやや冷淡な態度で返事を返す。
「…お前の言いたい事はだいたいわかった。だが残念だがそれは無い」
「え?それってどう言う意味ですか?」
今度は夏海が士の言いたい事が理解出来ず、逆に聞き返した。
「あいつらは元々この世界にいた連中じゃない。おそらく、クウガかアギトかの世界にいたのが、何らかの方法でこの世界に来てしまったんだろうな」
昼間戦ったグムンは、『気が付いたらこの月が二つある世界にいた』と言っていた。つまり月が二つも無い別の世界、異世界からやって来たのは明白だ。
月が一つしか無い世界では、何処に行っても月は一つであるように、この月が二つある世界でも何処へ行っても月は二つなのだから。
「そんな、一体どうやって…?」
夏海達が知る限り、異世界を渡る方法は限られる。と言うか、異世界を渡れる存在は、と言い換えた方が良いだろう。
まず、自分達の写真館。そしてそれとは別に、自分達と同じように世界を渡り歩いている人間が、あと二人…。
「…前に、似たような事があったな。…あいつなら、色々と説明がつく」
「あいつって…?」
聞きながら、夏海も何となく士の出そうとしている答えに見当を着けていた。自分達と同じように世界を渡っている、二人の人間の内の一人———。
「鳴滝」
「鳴滝さんが…?」
士達の旅の先々に現れ、士=ディケイドを世界の破壊者と呼び、その旅の妨害してきた鳴滝。あの男なら、ディケイドを倒すためにグロンギを呼ぶ事だって不可能じゃない筈だ。
「以前、似たような事をやってた事もあるしな」
それは龍騎の世界での話だ。鳴滝は実験と称し、剣の世界の怪物・アンデッドを龍騎の世界に潜り込ませていた。一体何が目的だったかは知らないが、それが出来る鳴滝なら今回のグロンギも不可能ではないと士は踏んだのだ。
「それにタイミングも良すぎる。俺達が街に来た所に異世界からやってきたグロンギ…おそらくほぼ鳴滝の仕業に間違いないだろう」
「…それじゃあ、士くんがこの世界での使命は…」
「まだ判らずじまいって事だ」
「そんな…!」
「とりあえず、もう暫くルイズの使い魔をやっていろって事だろ」
とにかくこの世界はこれまでの世界とは勝手がまるで違う。
一先ずルイズの使い魔と言う役割は与えられたが、そこからどうにもこの世界の仮面ライダーに繋がる道筋が見出せないのだ。
そもそもこの世界に本当に仮面ライダーがいるのかどうか。この世界にやって来た当初からずっと疑問に思っていたが、その答えもいよいよもって『否』に傾きかけている。
そしてこの世界に仮面ライダーがいないのなら、士はこの世界で一体何をすれば良いのか。何故、この世界にやって来たのか…。とにかく判らない事だらけなのだ。
「…もう暫くって…いつまでですか…?」
「…夏海?」
「一体いつまで、私達はこの世界にいなくちゃいけないんですか…?私達は9つの世界を旅するって使命を終えた筈です。だったら元の世界に戻っても良い筈なのに…こんなワケの判らない世界に…仮面ライダーのいない世界に飛ばされて、
一体何をしろって言うんですか?……私の世界は…本当に、救われたんでしょうか…?」
夏海の脳裏に、あの日の惨劇が蘇っていた。
溢れる怪物、炎に包まれる街、逃げ惑う人々、そして静止した世界。それを救うために、自分達はこの旅を始めたのだ。
もし9つの世界を巡り終えた時点で世界が救われたとしても、実際に自分の目で見てみない事には安心出来ない。
「…」
士は何も言わずにバイクを走らせ続けた。
「…士くん…何とか言ってください…」
何かを言おうにも、士には何を言えば良いのか判らなかった。
士にも、この世界の事、自分達がこの世界を訪れた理由、まったく判っていないのは同じだ。だからと言って適当な言葉を並べて夏海の機嫌を取れる程、口も達者ではない。
「…いいですよね、士くんは……士くんは結局自分の世界を見つけられなかったから、諦めがつけて…」
そこで突然士はブレーキを掛けてバイクを急停止させた。突然の事で夏海は思わず小さな悲鳴を上げた。
すぐ後ろを走行していたトライチェイサーがマシンディケイダーを抜き去り、少しした所で停車した。
夏海が口をぱくぱくさせていると、士はゴーグルを外して夏海の方を振り返りながら言った。
「…なら、この世界は何もしないでこのまま通り過ぎるか?」
「え…?」
士は静かに、しかしその内に様々な感情を含ませて、夏海に尋ねた。
「どうせこの世界にはライダーはいそうにない。俺のやるべき事も見つけられない。だったらこれ以上ここにいても、ルイズに扱き使われるだけで時間の無駄だからな、とっとと通り過ぎるのも手だろう」
「…」
夏海は思案した。確かに士の言う通りだ。ライダーもいない、やるべき事も見つけられない、そんなこの世界にいつまでも居続けるくらいなら、このまま通り過ぎてしまうのも良いだろう。
そうだ。九つの世界を旅すると言う使命はもう終わったのだ。ならこんな世界にいつまでも留まっていても仕方が無い。何の気兼ねも無く帰れば良いのだ。帰ればそこに、滅びから救われた自分の世界がきっと待っている。自分を迎えてくれる。
「…そうですね、それも良いかもしれません…」
夏海は、抑揚の無い声でそう答えた。
一瞬、士の目が酷く冷たい光を放ったような気がしたけど、きっと気のせいだろう。
「士、どうした?故障か?」
するとそこへ心配したユウスケがUターンしてこちらにやってきた。その後に跨がったキュルケも顔を覗かせている。
「ツカサ、いきなりどうしたの?急に止まったりして」
同様に、シルフィードを降下させてもらってルイズもこちらにやってくる。
「大した事無い。すぐに追うから、お前らは先行ってろ」
そう言われ、皆怪訝そうな顔をしたが、言われた通り先に向かった。
暫くしてある程度距離が開いたのを見計らい、士もマシンディケイダーを走らせた。相変わらずふらふらと覚束無いタイヤ取りのトライチェイサーの尾灯を追って、帰路を走る。
それから二人は終始無言だった。
士は、相変わらず何を考えてるのかいまいちよく判らない。ただ無言のまま、ひたすらバイクを走らせるだけだった。
夏海もそんな士の背中に身体を預けながら、一度も口を開こうとはしなかった。
『この世界を立ち去る』ついさっき自分で決断した事だ。
なのに、何でだろう、その事を考えると何かが夏海の心に引っ掛かる。
『本当にそれで良いのですか?』
と、心の中から誰かが問いかける。
…良いに決まってる。自分達にはこの世界に来た意味は無い。昨日ユウスケが言ったように、ルイズの魔法で間違ってこの世界に来てしまっただけ。これは言わば、事故みたいなものなのだ。
これから、自分達は自分の世界に帰る。そこにはきっと、この旅に出る前の、元の生活が待っている。そもそもそれを取り戻すために旅に出たのだ。それがもうすぐ、取り戻せる。何を迷う必要があるのだろう。
夏海はそう、まるで自分に言い聞かせるかのように、心の中で反芻し続けた。
だが、心の中の声はずっと響き続けた。
『本当に、このままで良いの?』
———と。
トライチェイサー、マシンディケイダー、2台のバイクが通り過ぎた街道の真ん中に、いつの間にか一人の男が立ち、街道の向こうへと消えてゆくバイクの尾灯を憎々しく見詰めていた。
茶色い帽子とコートを羽織った、眼鏡を掛けた中年の男、鳴滝である。
その周囲を、写真館にいた筈のキバーラが愉快そうに笑いながら飛び回っている。
「あ〜ららぁ、もう帰っちゃうのねディケイド。それはそれでちょっとつまんないわねぇ♪」
「…それで良い。ディケイド、お前はこの世界にあってはならない!そのままこの世界から立ち去ってしまえ!」
すると鳴滝の目の前に波打つ鏡のようなオーロラが現れた。オーロラが鳴滝を通り過ぎると、その存在はこつ然とその場から消え去った。
「フフ…だけど、もう少し楽しませてもらわないとね、ディケイド♪」
残されたキバーラは怪しく微笑みながら、パタパタと羽音を立てて宵闇に染まった魔法学園へ飛び去って行った。
そして静寂に包まれる街道。
その道端の木陰から、一人の男が顔を出して、双月に照らされた魔法学院の建物を見詰めた。
「…あれが、トリステイン魔法学院」
男は指鉄砲を作って魔法学院の本塔に狙いを定めると、バンとそれを撃つ真似事をした。
「あそこのお宝は、この僕が頂く」
そう一言呟くと、男は闇の中へ消えて行った。
そして再び訪れる静寂の闇。新たな物語の幕開けの兆しを、天に輝く双月だけが見詰めていた。
茶色い帽子とコートを羽織った、眼鏡を掛けた中年の男、鳴滝である。
その周囲を、写真館にいた筈のキバーラが愉快そうに笑いながら飛び回っている。
「あ〜ららぁ、もう帰っちゃうのねディケイド。それはそれでちょっとつまんないわねぇ♪」
「…それで良い。ディケイド、お前はこの世界にあってはならない!そのままこの世界から立ち去ってしまえ!」
すると鳴滝の目の前に波打つ鏡のようなオーロラが現れた。オーロラが鳴滝を通り過ぎると、その存在はこつ然とその場から消え去った。
「フフ…だけど、もう少し楽しませてもらわないとね、ディケイド♪」
残されたキバーラは怪しく微笑みながら、パタパタと羽音を立てて宵闇に染まった魔法学園へ飛び去って行った。
そして静寂に包まれる街道。
その道端の木陰から、一人の男が顔を出して、双月に照らされた魔法学院の建物を見詰めた。
「…あれが、トリステイン魔法学院」
男は指鉄砲を作って魔法学院の本塔に狙いを定めると、バンとそれを撃つ真似事をした。
「あそこのお宝は、この僕が頂く」
そう一言呟くと、男は闇の中へ消えて行った。
そして再び訪れる静寂の闇。新たな物語の幕開けの兆しを、天に輝く双月だけが見詰めていた。