あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

アノンの法則-06


ケーキが乗った大きな銀のトレイをアノンが持ち、シエスタがはさみでケーキをつまんで、貴族たちに配っていく。
アノンの方から、シチューのお礼に何か手伝いたい、と言い出したのだった。
貴族が支配する異世界で、純朴な少女の優しさに触れ、アノンの心境にも何か変化があったのかもしれない。
あるいは、植木耕介の影響だろうか。
二人でテーブルを回っていると、フリルのついたシャツを着た、金髪のメイジが目についた。
彼の名はギーシュ・ド・グラモン。
元帥を父に持つ、名門グラモン伯爵家の四男で、学院では女好きで知られる、少々気障な少年だった。
ギーシュは困った表情で、辺りを見回したり、テーブルの下を覗き込んだりしている。
アノンは、トレイをシエスタに預けて、彼に近づいた。
「どうしたの?」
「ん? 君は…」
ギーシュはアノンを見た。
学院では見ない顔だ。制服を着ているが、マントはしていない。
そこでギーシュは、彼が昨日ルイズの召喚した平民だということに気づいた。
「ああ、ルイズの平民か。いや、大切な香水の小壜を落してしまってね」
「香水……。へえ……。こっちの人は、そんな物が大切なのかぁ……。じゃあ僕も探してあげる」
そう言って、アノンはギーシュと一緒に、香水の小壜を探し始めた。
「いい人だなあ」
シエスタは、他人の落し物を四つん這いになって、真剣に探すアノンを見て微笑んだ。

「小壜小壜……」
そう呟きながら探すこと、数分。
アノンは椅子の影に、何かを見つけた。
「あったーーーー!」
立ち上がったアノンの手には、ガラスでできた小壜が握られていた。
中には、紫の液体が揺れている。
「本当かい!?」
アノンの声を聞いて、ギーシュが駆けてきた。
「……? 本当になんでもない小壜だよ? なんでコレが大切なの?」
アノンは、見つけた小壜を不思議そうに眺めて、ギーシュに尋ねた。
「それは、あるレディが先日、僕にプレゼントしてくれたモノでね。まあ、言ってみれば、彼女から僕への愛の証なのだよ」
ギーシュは、芝居がかった仕草で髪をかき上げる。
「愛? こっちの人間ってそんなもので生きてるのか…」
へぇーと、アノンは感心したように呟いて、ギーシュを見た。
「じゃあもしコレが……。もしコレが壊れたら……」
アノンはどこまでも純粋で、好奇心に満ちた、悪魔の笑みを浮かべた。
「…キミ、死んじゃう?」
「え?」
アノンの手から、香水の小壜がすべり落ちる。
思わずギーシュは声を上げそうになったが、すぐにあの壜には『固定化』の魔法を施してあることを思い出した。
落としたくらいで、割れることはない。
だが、地面に落ちた壜はアノンに踏みつけられ、派手に砕け散った。
「ああ!?」
綺麗な紫色の液体がぶちまけられ、辺りにきつい香水の匂いが立ち込める。
「あ、アノンさん……!?」
探し物が見つかったのを見届け、給仕に戻ろうとしていたシエスタが、青い顔で震える。
「決闘だ!!!」
ギーシュの声が、辺りに響いた。

一時間後のヴェストリの広場。
そこにはすでに、黒山の人だかりができていた。
「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの平民だ!」
「何でも、ギーシュがモンモランシーからもらった香水の壜を、あの平民が踏み砕いたらしいぞ!」
「なに? ギーシュはモンモランシーとつきあっているのか?」
好き勝手に騒ぐ野次馬たちに囲まれて、アノンとギーシュが向かい合っていた。
ギーシュは黙って、薔薇の杖を手に、殺気の篭った目でアノンを睨みつけた。
いつものギーシュなら、野次馬たちに手でも振って、悦に入るところだが、今回ばかりは違う。
確かに、彼には軽薄なところがあり、浮気癖もあった。今も恋人のモンモランシーの他に、一年生の女の子に手を出している。
だが、女性をぞんざいに扱うことは決してなかったし、女性からの贈り物には必ず『固定化』を施し、大切にしていた。
それを目の前で、しかも平民に踏み潰されたのだから、その怒り推して知るべしである。
一方、アノンは怒る貴族を前に、わくわくする気持ちを抑えられなかった。
この世界ではメイジが、魔法という力で持って、平民を支配しているらしい。
魔法というものを知ってから、アノンはそれに強く興味を持っていた。
目の前のギーシュというメイジは、激しい怒りを持って自分に対峙している。
これなら、全力の魔法を見せてくれるだろう。

「フフ、魔法使いと闘うのは初めてだよ」
「……平民ごときが、たいした自信だな」
まるで、この状況を楽しんでいるかのようなアノンに、ギーシュは苛立ちを覚えた。
それを声に滲ませるギーシュに、アノンは驚いたように言葉を返した。
「自信なんてあるわけないじゃないか」
「なに?」
「勝負なんて、どんな弱そうな相手とでも、やってみなきゃわかんないよ」
「弱そう…だと?」
「それに自信なんて持ってても、無意味でしょ? 必要なのは勝つために、ただ努力を惜しまないコトだよ」
メイジを相手に、対等に争うつもりでいるアノンに、ギーシュの苛立ちは頂点を迎えた。
「なら、お前のその努力とやらを見せてもらおうか!」
ギーシュが、薔薇を構える。
お互いの距離は、大股で十歩ほど。
アノンなら、一瞬でギーシュに接近できる距離だが、あえて動かず、ギーシュが魔法を使うのを待った。
ギーシュが、薔薇を振ると、花びらが一枚、宙に舞い、甲冑を着た女戦士の形をした人形が現れた。
「へぇ、花びらから人形を造ったのか」
「言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』が貴様の相手をするぞ」
低い声で、ギーシュが宣言した。
「行け!」
ギーシュの命令で、ワルキューレがアノンに向かって突進し、青銅の拳を繰り出す。
しかし、その拳が命中する瞬間、アノンの姿が消えた。
「なに!?」
「上だ!」
野次馬の誰かが叫んだ。
アノンは高く跳躍して、ワルキューレの攻撃をかわしていた。
落下の勢いそのままに、ワルキューレの頭を両脚で踏みつける。
金属の割れる音。
前のめりに、顔面から地面に叩きつけられ、ワルキューレ頭がひしゃげ、首がへし折れた。
「ば、馬鹿な……」
胴体から離れ、地面を転がるワルキューレの頭。
人間離れした動きを見せたアノンに、ギーシュを含め、周囲の者達は驚きを隠せない。
そんな周りをよそに、アノンは転がるワルキューレの頭を拾い上げ、断面を覗き込んだ。
「中は空洞なんだね」
アノンはワルキューレの頭部を、ぽいと投げ捨て、動かなくなった胴体を思い切り踏みつけた。
青銅のゴーレムが、嫌な金属音を立てて、割れ砕ける。
「あ、ああ……」
あっという間に破壊されたワルキューレを見て、ギーシュが後ずさる。
「使い手の意志どおりに動くって以外は、ただの人形だね」
そう言って、アノンは一歩踏み出した。
「コレで終わりじゃないだろう? まだなにかあるなら、早く見せてよ」
ゆっくりと距離を詰めていくアノン。
「ひっ!」
ギーシュの喉から、引きつった声が漏れる。
先ほどまでの怒りなど、どこかに消し飛んでしまっていた。
無残に破壊されたワルキューレ。
同じように、ぐしゃぐしゃになって地面に転がる自分の姿が頭に浮かび、ギーシュは悲鳴のような声を上げた。
「う、うわああああああ!!!」
薔薇の杖を振り、限界まで精神力を行使する。花びらが舞い、新たに六体のゴーレムが現れた。
今度は素手ではなく、それぞれが槍や長剣で武装している。
ワルキューレたちは一斉に武器を振りかざし、アノンに襲い掛かかった。
アノンは残酷な笑みを浮かべて、ワルキューレの群れに飛び込んだ。


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