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毒の爪の使い魔-46


十日ほど続いた降臨祭は、遂に最終日を迎えた。
明日になれば再び戦争が始まる…、それは解っていた事だが、やはり名残惜しい。
それ故に人々は最終日は、それまで以上に激しく楽しく騒いだ。
――その陰で”悪夢”は静かに動き出していた。

降り続けた雪の所為で一面銀世界となった、サウスゴータの街を二人一組の連合軍の警邏兵が巡回していた。
降臨祭は終わっていないとはいえ最終日である…。
先のルイズの偵察によって、敵に出撃などの兆候は見られなかったとはいえ、油断は出来ない。
ゆえに、ド・ポワチエは複数の警邏兵にローテションを組ませ、警戒に当たらせたのだった。
「あ~あ、…早く終わらせて次の奴に交代したいぜ」
「解るぜ、その気持ち。俺も思いっきり飲み食いしたいよ」
二人は巡回などそっちのけで、役目を交代した後の話に夢中になる。
最終日とはいえ降臨祭は終わっていない、敵も遊び惚けているのだから安心だ、
万が一攻め寄せてきても数で勝っている自分達は必ず勝つ、などと二人は高をくくっていた。
…そんな慢心から来る油断が彼らの命取りとなった。
「それでよ…、ん?」
ふと、隣を歩いていた相方が居ない事に気付く。
何処へ行ったんだ? などと考えながら兵士は辺りを見回す。
そのまま後ろを振り返る。その瞬間、兵士は息を呑んだ。
数歩分遅れた所に相方は立っていた。…正確にはその”下半身”が。
腰から下の部分が血で赤く染め上げられた雪の上に立っている。
兵士は一体何が起こったのか解らず、呆然と立ち尽くす。

グチャ…、グチャ…、グチャ…

何か、汁を吸った肉を噛むような音が聞こえた。
そこで兵士は漸く気がついた…、無残な姿に成り果てた相方の向こうに正体不明の影が立っているのを。
暗闇で気が付かなかったが、その影は間違い無く暗闇とは別の”何か”だった。
それの大きさは、目測で少なくとも十メイルは下らない。
血の臭いがする息を吐き散らしながら、腹を空かした獣の唸り声を上げている。
「あ、ああ…」
兵士はノロノロとした動作で槍を構えながら、一歩、二歩、と後退る。
と、影が何かを吐き出した。
ガチャン、と音を立てて、それは兵士の足元に落ちる。
それは血塗れの鎧だった…、相方の着けていたはずの…。
理解すると同時に兵士は半狂乱になって叫んだ。
――次の瞬間、兵士は飛び掛った影に叫び声諸共飲み込まれた。

――一方、別の場所では。
「な、なんだこいつは!?」
ロッシャ連隊の兵達が酒盛りから宿に帰って来た時”それ”は現れた。
石造りの道を突き破り、巨大な物が姿を見せたのだ。
上下に二つずつ、計四つの目を黄色に輝かせながら”それ”は兵達を見据える。
『…抹殺…、人間…全テ抹殺…』
感情の全く感じられない声が響く。
一番上の目が輝きを増す。兵達は我先にと逃げ出した…が、遅かった。
それから放たれた眩い閃光は、兵達を尽く蒸発させ、宿を容易く吹き飛ばしたのだった。



――少し時間を遡り、街の一等地に位置した宿屋の二階を丸まる利用した司令部。
ド・ポワチエにハルデンベルグ、ウィンプフェンは、明日から再開される戦争に備えて作戦会議を行っていた。
とはいえ、殆どこの戦は勝ったも同然と言える。
敵は降臨祭の最中にも何一つ行動を起こしていない。主力はロンディニウムから動かないまま。
このまま順調に行けば、ロンディニウムを容易く包囲し、勝利を得られるのは時間の問題。
敗北を匂わせるほどの不安な要素は何一つ無い。
一応、用心の為に警備を行わせてはいるが、この分では必要は無かったかもしれない。
補給物資の搬入は今夜には終わる。明日の朝は全軍を持ってロンディニウムへと攻め入り、レコン・キスタを殲滅。
アンリエッタ女王陛下を救出し、ホワイトホールに連合軍の旗を掲げればいい。
それで全てが終わる。これまでの苦労が報われるのだ。
その時、ドアがノックされた。
「誰だ? 軍議中だぞ」
ウィンプフェンがそう問うと、王室からの届け物だと外から兵士の声が聞こえてきた。
届け物は豪華な木箱だった。財務卿の押印の在る手紙も付いている。
その手紙をド・ポワチエは顔色を変え、貪る様に読みふける。
手紙を読み終え、木箱の蓋を開ける。
その中から出てきたのを見て、覗き込んでいた他の二人が目を丸くする。
それは元帥杖だった。黒檀に金色で王家の紋章が彫り込まれたそれは、顔が映るくらいにピカピカに磨き上げられている。
ド・ポワチエは感無量だった。手紙には自分の元帥昇進が正式に決まった事が記されていたのだ。
戦争事態は終わっていないが、最早勝利は確実。
ならば、最後の決戦は元帥杖で指揮させてやろうという、財務卿の粋な計らいだった。
「「おめでとうございます、閣下」」
ハルデンベルグとウィンプフェンが手を叩く。
「なに…、これで気を引き締めろ、と言う事だろう。くれぐれも油断はならぬぞ、油断は」
溢れ出る笑みを堪えきれないまま、ド・ポワチエがそう言った時である。

ズドォォォーーーーーンッッッ!!! ドドンッ!!!

巨大な爆発音が外から聞こえ、ド・ポワチエ等は怪訝な表情で窓を見る。
「何だ騒々しい?」
窓へと近づくド・ポワチエ。見れば、遠くの方で火の手が上がっているのが見える。
「もしや、アルビオン軍か?」
その時、扉が勢い良く開かれ、アニエスが部屋に飛び込んできた。
「総司令殿、一大事です!」
「何事だ、アルビオン軍が仕掛けてきたのか?」
アニエスは首を振って答える。
「いえ、アルビオンの手の者かどうかは。敵は…」
言いかけてアニエスが怪訝な表情でド・ポワチエの背後に向けられる。
その様子にド・ポワチエも釣られて振り返る。…そこで、妙な事に気が付いた。
窓の外が真っ暗なのだ。今し方、外を確認したばかりだと言うのに…。
どうしたのだ? と悩みながらド・ポワチエは窓を開けようと手を伸ばし――硬直した。
窓の外には無数の”頭”があった。
竜の頭があった。
馬の頭があった。
犬の頭があった。
猫の頭があった。
鷹の頭があった。
蛇の頭があった。
獅子の頭があった。
人間の頭があった。
様々な生き物の頭がそこにあった。
それらが、ジッとド・ポワチエを見据えている。
「な、なんだ…?」
ド・ポワチエは、やっと声を絞り出す。
それが合図となったのか…窓を突き破り、無数の頭が牙を剥き出し、ド・ポワチエに襲い掛かった。
断末魔を上げる暇すらない…。
ド・ポワチエは大きく裂けた無数の顎を脳裏に恐怖と共に焼き付けられ、その意識を絶たれた。

窓を突き破って襲い掛かった無数の獣の首に、ド・ポワチエが無残に食い千切られるのを、アニエス達は呆然と見ていた。
だが、アニエスは逸早く我に返り、ハルデンベルグとウィンプフェンに怒鳴る。
「何をしている!? 早く逃げろ!!」
「え、ああ…逃げる?」
「そうだ! 死にたくないなら逃げろ!!!」
そこで漸く二人は部屋を飛び出し、我先にと逃げだした。
アニエスの叫び声に反応したか、ド・ポワチエの肉片を貪っていた大蛇の首が飛び掛ってきた。
それをアニエスは剣で薙ぎ払い、斬り捨てる。
他の首も粗方食い終わったらしく、アニエス目掛けて飛び掛ってきた。
アニエスは二丁のマスケット銃を次々に撃つ。二発の銃撃に首達が一瞬怯みを見せる。
その隙にアニエスも部屋から脱出。
そのまま他の銃士隊の隊員達と合流し、非戦闘員の避難誘導を皆に命じた。

ウィンプフェンとハルデンベルグは街道を只管に走って逃げた。
兵士の指揮とかそう言う物は何も考えられない。
とにかく、今はあの化け物から逃れたい…。あんな風に喰われるのは嫌だ…。
助かりたいと言う生命の本能から、二人は無様に逃げ惑う。
だが、そんな二人にも死は訪れた。
とある路地裏へと入り込んだ二人の前に立つ巨大な影。
「ひぃ!?」
恐怖に悲鳴を上げそうになった二人に、影は黄色の閃光を浴びせる。
恐怖を感じながら、痛みを感じる暇も無く、二人は髪の毛一本残さずに消え去った。



『魅惑の妖精』亭の天幕では最終日と言う事もあって、夜通しの酒盛りが行われていた。
ありったけの酒を飲み、ありったけの料理を食べる、まさに暴飲暴食。
当人達にすればただの食事会なのだろうが…。
そんな様子を尻目に、離れた場所でワインを煽っていたジャンガの目付きが突如鋭くなった。
隣で料理を平らげていたタバサもその手を止める。
「オイ」
ジャンガが呟く。
「解ってる」
タバサは頷く。
二人は席を立ち、外に視線を向ける。
否、別のテーブルで一人でワインを煽ってたガンツも、腰のガンベルトから拳銃を抜いていた。
そんな三人の様子にキュルケが気付いた。
「あんた達どうしたの?」
三人は答えない。
「ねぇ、どうしたのよ?」
「来やがるゼェ…」
ジャンガは呟く。
「何が来るっていうの?」
そうキュルケが言った次の瞬間、天幕を突き破って何かが落下してきた。
轟音が響き渡り、粉塵が巻き上がる。
その突然の事に一瞬で天幕の中はパニックに陥った。
「な、何!?」
ルイズが驚愕の声を上げながら、立ち込める粉塵の方へと目を向ける。
ジャンガは油断無く爪を構える。
粉塵が徐々に晴れていき、巨大な怪物が姿を見せた。
「ッッッ!?」
それを見た瞬間、タバサの表情が凍りつく。
「なんだ、こいつは?」
怪訝な表情でジャンガが呟いた。

――姿を現したのは竜…いや、竜の姿をした化け物だった。
いや、胴体や翼には火竜としての特徴がある。
だが…それには火竜とは決定的に違う部分があった。
…それは首だ。それの胴体からは、雑多な生き物の首が無数に生えていたのだ。
火竜の他にも熊に狼、在り得ない大きさの蛙、トロール鬼やオグル鬼、老若男女の人の首まであった。
それらの首は口々に呻き声を奏で、聞く者の生理的嫌悪感と恐怖感を十二分に煽るコーラスを辺りに響かせる。
とても醜悪な…、肉のオブジェとでも言うべきものであった。

ルイズは思わず戻してしまった。
公爵家の令嬢がこんな所で戻してしまうなんて…、と本来のルイズならば屈辱に感じたであろう。
だが、今はそんな感情は微塵も浮かんでこない。
目の前の存在は、そんなちっぽけな事など考える余裕すら奪うほど、圧倒的な恐怖の塊だった。
それにルイズだけでなく、その場の殆どの者は目の前の存在に戻していた。
無理も無い事かもしれない…。このような醜悪な存在、世界の何処を探せば見つかると言うのだろう?
トロール鬼などの亜人も恐ろしい。だが、目の前の存在はそれらの恐怖とは一線を賀した物があるのは間違いない。
化け物は複数の首の目をギョロギョロと動かし、周囲を見回している。
何気ない行動も目の前の存在がすれば、十二分に不気味な物に移る。
その時、床の布が動き、その下から中年の男性が姿を見せた。
どうやら化け物が落下した際に、切り裂かれた布が覆い被さったようだ。
と、その男をギョロギョロと動いていた怪物の幾つもの目が捉える。

――誰かが何かをする暇もなかった。
次の瞬間、男は複数の首に食い千切られ、僅かな肉片と夥しい血溜まりを残して消えた。

「うっ!?」
ルイズ達は再び戻してしまった。
今のような光景を見て、どうして平然としていられようか?
気が狂いそうだ…。だが、座して死を待つなど考えられない。
「くっ、化け物…」
キュルケはコップに残っていたワインで乱暴に口を漱ぎ、杖を取り出す。
向こうではギーシュも既にワルキューレを作り出している。
ルイズも頬を叩いて気を引き締め、杖を手にした。
それに気が付いた化け物が無数の目で睨みつけ、同時に首が一斉に咆哮する。
怒りの雄叫びにも、痛苦の叫びにも、それ以外の別の物にも聞こえる物だ。
そして、化け物はテーブルを踏み潰しながら、ルイズ達目掛けて走り出す。
迎え撃つべく、ルイズは『エクスプロージョン』で吹き飛ばそうと、杖を振ろうとした。
だが、それよりも早く、巨大な空気の塊が化け物を吹き飛ばした。
化け物は天幕の外へと大きく吹き飛ぶ。それを追って、空気の塊を生み出したタバサが、
続いてジャンガとガンツが天幕の外へ飛び出す。
それを見て、ルイズ達も後を追う。

地面に横たわる化け物目掛けて、タバサは『エア・カッター』を放った。
風の刃が化け物の首を五つほど切り落とす。だが、その程度では致命傷になりえない事を、タバサは良く知っている。
化け物は倒れた巨体を起こすと、目をギョロリと動かしてタバサを見据える。その首が一斉に口を開く。
何かをしようとしているのは明白だが、タバサは怯まない。
こいつはブレスを吐く能力は失われている…、それを彼女は覚えていた。
だが、その予想は裏切られる。
大きく開いた口腔の奥に、暗闇に点った火種のような光を見て、タバサは慌てて『アイス・ウォール』を唱えた。
分厚く巨大な氷の壁が出現する。その一瞬後、化け物の無数の口腔から灼熱の炎が吐き出された。
氷の壁は瞬く間に溶け、遮る物の無くなった炎の濁流は小柄な少女に襲い掛かる。
炎に飲み込まれる寸前、横から割り込んだジャンガがその身体を小脇に抱える。
本来の目標を見失った炎は、進行上の天幕を焼き尽くしながら、広場の一角に建っている建物を直撃した。
瞬く間に建物は業火に包まれ、消し炭になっていく。
「随分な火力だゼ…」
燃え尽きていく建物を見つめながらジャンガは呟く。
そのまま、傍らで座り込んでいるタバサに視線を移す。
「テメェらしくもねェ…、竜が火を吐くのは当然だろうが? 何で油断しやがった…」
タバサは首を振る。
「ありえない」
「あン?」
「”あれ”のブレスを吐く能力は失われているはずなのに…、ありえない」
ジャンガは怪訝な表情を浮かべる。
「あの化け物を知ってるような口振りじゃネェか…。一体”あれ”は何だってんだ?」
ジャンガが化け物を爪で指し示す。
タバサは唇を噛み締め、呪詛を呟くようにその名を口にした。
「”キメラドラゴン”」
兵器として生み出された合成獣<キメラ>、その親玉の様な存在。
ファンガスの森で出会った…初めて与えられた任務の討伐相手。
彼女にとって友であり師であるジルを殺した、伯父王ジョゼフと並んだ仇と言える存在。
自分はあの時、奴に間違いなく止めを刺したはずなのだ。
ジャベリンを突き刺し、内部からバラバラにした。あの状態で生きているはずが無い…。
しかし、現にそれは生きている。自分の目の前で呼吸をし、首を動かし、あの不気味な唸り声を上げている。
…だが、どうして生きているかは不思議だが、正直な所関係無い。ただ、倒さなければならない相手がいる…それだけだ。
タバサは立ち上がり、杖を再度構えた。
「あれは野放しには出来ない。ここで確実に仕留める」
ジャンガは小さく鼻を鳴らし、視線をキメラドラゴンに向ける。
不気味な咆哮を上げながら、ブレスを吐き散らすキメラドラゴン。
それをギーシュのワルキューレやキュルケの炎、ルイズの爆発が牽制している。
だが、決定打には至っていない。傷を負っても再生しているのだ。半端では無い生命力だ。
ジャンガは唾を吐き捨てる。
「ケッ、どんな相手だろうと気を抜くんじゃネェよ。死にたくなけりゃな…」
そう言い、ジャンガは駆け出す。
タバサも無言で後に続いた。

ワルキューレの一体を噛み砕いた狼の首に、ジャンガは爪を叩き込んだ。
口から血反吐を吐き散らしながら、痛苦の叫びを上げる。
そのまま力を込め、首を両断した。だが、切断面の肉が盛り上がり、新しい頭が生えてくる。
ジャンガは舌打し、跳躍する。空中で大きく一回転すると、巨大なカッターを放つ。
カッターはキメラドラゴンの身体を容易く切り裂いたが、その傷口も瞬く間に再生していく。
連続してカッターを放つが、それらも致命的な物にはならない。
「下がって!」
タバサが叫び、ジャンガはその場から飛び退く。
杖の先には巨大な氷の槍<ジャベリン>がある。
キメラドラゴンがタバサを見ると、彼女は杖を振り下ろす。
勢い良く氷の槍が飛び、キメラドラゴンを串刺しにした…と思われた。
だが、長く伸びたキメラドラゴンの複数の首が、氷の槍に食いつき、力ずくで止める。
止められた氷の槍は噛み付かれた所から罅割れて行き、やがて粉々に砕け散った。
驚愕のあまり、タバサは両目を見開く。
あの勢いで飛んだ氷の槍を止め、更に噛み砕くなど凄まじいまでの顎の力だ。

おかしい…、タバサは考える。
今のジャベリンを容易く受け止め、噛み砕いた所までならば何とか納得がいく。
だが、”首が伸びる”など、先に対峙した時には一度たりとも無かった。
更にあの尋常ならざる再生力…、通常の火竜のそれを上回るブレス…、その全てが以前のキメラドラゴンとは違った。
まるでキメラドラゴンの姿をした別の怪物のようだ。
タバサは思った…、今目の前に居るキメラドラゴンは以前の個体と違うのではないか? と。
元々キメラドラゴンも他の合成獣<キメラ>と同じように、魔法兵器の実験で創り出されたものだ。
ならば、目の前のキメラドラゴンも何者かによって、新たに創り出されたものなのではないか?
それならば、あの異常なまでの能力も納得がいく。
ならば、あのジャベリンが突き刺さったとしても、昔のようにはいかなかったかもしれない。
…だとしても、引き下がるわけには行かない。

「ユビキタス・デル・ウィンデ…」
静かにルーンを詠唱したタバサの体が揺らめき、分裂する。
一つ、二つ、三つ、三体の遍在が現れる。本体と合わせて四体、手数としては十分だ。
「ジャンガ」
名を呼ばれ、ジャンガはタバサを振り返る。
「”あれ”を試す」
その言葉にジャンガはニヤリと笑う。
「ほゥ? まだ試し撃ちも出来ていないのにかよ?」
タバサは頷く。
確かに”あれ”はやり方を話し合っただけ。未だに試し撃ちすらしていない。
だが、普通の攻撃では今のキメラドラゴンには効果は無い。
現状で打てる有効打は”あれ”しかない…、とタバサは判断したのだ。
そんなタバサの気持ちを知ってか知らずか、ジャンガは笑う。
「テメェが言ったんだ…、しくじるなよ?」
「解ってる」
タバサと遍在が四方に散らばる。
それを見届け、ジャンガはガンツの方に駆け寄る。
「ガンツ坊や、奴の足を止めな。後は俺とタバサ嬢ちゃんが仕留めてやるゼ」
ガンツは含み笑いをする。
「解ったぜ。だが、言ったからにはやってみせろよ」
「キキキ」
ジャンガは笑い、駆けだす。
ガンツは銃の弾倉を換え、キメラドラゴン目掛けて乱射した。
死神ファイヤーの直撃を受け、キメラドラゴンは奇声を上げる。
「オマケだぜ!」
懐から父の形見である、大型のハンドライフルを取り出し、引き金を引いた。
ハンドライフルの銃弾はキメラドラゴンの竜の頭部を粉々に吹き飛ばした。
一際大きな叫び声が辺りに木霊する。
その瞬間、ジャンガが叫ぶ。
「やりやがれ、タバサ!」
四方に散らばっていた四人のタバサは一斉に呪文を開放する。
四人分の『エア・ストーム』が巨大な竜巻を生み出し、キメラドラゴンの動きを封じて空中に巻き上げる。
そこへジャンガが無数のカッターを放つ。
同時にタバサも杖を振り、風を生み出す。
カッターはタバサの風に導かれ、次々と竜巻に巻き込まれる。
ジャンガはニヤリと笑う。
「いけるゼ…、キキキ」

ルイズの実家でその身に受けた、烈風カリンの得意とするスクウェアスペル『カッター・トルネード』。
その攻撃力をどうにか上手く使えないか? と思案し、思い至ったのがこれだ。
タバサに特大の竜巻を創らせ、それに自分のカッターを取り込ませる事で、擬似的にその攻撃力を再現する。
だが、そのままカッターを投げ入れても上手く竜巻に取り込めるか解らない。
竜巻を切り裂いて、飛び出す可能性も在るからだ。だが、威力が弱すぎても話にならない。
そこで、タバサの風を使う事にした。
例の決闘の時、タバサは自分のカッターを風を操る事で、その動きを変えていた。
それを逆手に取り、タバサに風でカッターを誘導させ、竜巻の流れに沿って取り込ませる事にしたのだ。
もっとも…、試し撃ちを一発も行っていない為、殆どぶっつけだったのだが…。

「ま、世の中都合良く出来てるもんだゼ」
ジャンガは一人呟きながら、竜巻を見上げた。
竜巻の中で翻弄されながら、キメラドラゴンは切り刻まれていく。
首が千切れ、翼が千切れ、手足が千切れ、尻尾が千切れ、…三分と立たずに細かな肉片となった。
タバサが杖を振り、竜巻を消した。
巻き上げられていた”キメラドラゴンだった物”は、赤い雨となって地面に降り注いだ。
それらが再生する気配はなかった。
タバサは大きく息を吐いた。
何とか倒せた…、安堵感が周囲に広がった…次の瞬間。

ズドォーーーン!!!

爆発音が周囲に響き渡る。
街のあちこちから火の手が上がっているようだ。
見れば真っ赤に染まった夜空を幾つもの影が飛び交っている。
それが何か理解した瞬間……タバサは呆然となった。
否、タバサだけでなく、その場の全員が呆然となった。
「そんな…」
夜空を飛び交うのはキメラドラゴンだった。その数は十や二十ではない…、百や千に上りそうなほどだ。
今しがた漸く一匹を倒したというのに…あれだけの数がまだいたのだ。
だが、どうしてあれだけの数のキメラドラゴンがいきなり現れたのだろうか?

――その疑問の答えは地面を突き破って出現した。

『…人間…全テ抹殺…』
感情の無い声でそう言ったのはボックスメアンだった。
それを見てタバサとジャンガは確信する。全てはガーレンの仕業だと。
ボックスメアンが左手を伸ばす。
タバサとジャンガはその場を飛び退き、伸びて来た左手が地面を砕く。
ジャンガは抜き打ちのように素早く懐からハンドライフルを取り出し、引き金を引いた
一瞬遅れて、ボックスメアンの頭部が吹き飛んだ。
紫電を撒き散らしながら、糸の切れた人形のように地面に崩れ落ちる。
それをジャンガは冷めた目で見下しながら、忌々しそうに鼻を鳴らす。
「て、てめぇ、それは!?」
そんなジャンガにガンツが詰め寄る。
無理も無い…、自分の父の形見であるハンドライフルが二丁在るのだから。
「ああ、テメェは知らねェんだったか…。ま、説明は後回しだな」
言いながら、ジャンガは周囲に目を向ける。
広場の周囲の建物の陰からボックスメアンが姿を現し、空からキメラドラゴンが舞い降りてくる。
このままでは囲まれてしまうのも時間の問題だ。
他に手も無い以上、ここは強行突破しかない。
言うが早いか、ジャンガは四体に分身し、比較的数の少ない一角に突撃する。
カッターや毒の爪の斬撃、ハンドライフルの射撃でボックスメアンを粉砕した。
道が開くやジャンガは振り返る。
「オラッ! 死にたくねェ奴は、つべこべ言わずに走りやがれってんだよ!」
ジャンガの叫びに『魅惑の妖精』亭の皆も必死の形相で駆け出した。
キメラドラゴンやボックスメアンの姿が無い一角から、広場を脱出していく。
その時、後ろを走っていたシエスタが足を滑らせて転んでしまった。
痛みに顔を引き攣らせるシエスタ。
そこにボックスメアンが迫る。
「シエスタ!? 危ない!」
ルイズが叫んで引き返そうとするが、間に合いそうに無い。
ボックスメアンの無機質な目がシエスタを見下ろす。
巨大な鉤爪の付いた左手が振り上げられる。
「きゃあぁぁぁーーーー!!!」
悲鳴が上がり、ボックスメアンの腕が振り下ろされる。

――その時、ボックスメアンにキメラドラゴンが飛び掛った。

キメラドラゴンはボックスメアンの身体に爪を食い込ませ、無数の首で食いついている。
それを引き剥がそうとしてか、ボックスメアンは右手のクロスボウや左手でキメラドラゴンを攻撃する。
そんな異型同士の戦闘に呆然としていたシエスタの腕をルイズが掴む。
「早く立ちなさいよ! 逃げるわよ!」
「は、はい!」
ルイズに引かれて、シエスタも力の限り駆け出した。
必死に走りながら、ルイズは一度だけ振り返った。

広場では無数のキメラドラゴンとボックスメアンが、縦横無尽に暴れ狂っていた。



――同時刻:ハヴィランド宮殿――

地下牢に囚われの身であるアンリエッタは、外が騒がしくなってきた事に気が付いた。
その所為か、警備の幻獣も大分数を減らしている。
これは千載一遇のチャンスと思ったアンリエッタは、脱出を試みるべく行動を開始した。
まずは手を自由にするべく、石造りの壁に何度も縄を擦りつけた。
何度も擦りつけ、漸く切れた時には手首から血が出ていたが、気になるような物ではない。
次にアンリエッタは鍵を耳に引っ掛けたやりムゥを誘う。
食べ残しのパンの欠片をスープに浸し、鉄格子の隙間から出したのだ。
「ほら…、美味しいわよ?」
上下に揺らすなどして匂いを漂わせる。
ムゥの中では賢い部類に入るやりムゥだが、所詮はムゥ。
こんな単純な誘いにまんまと引っかかり、やりムゥはパンへ食らい付いた。
その隙を見逃さず、アンリエッタはやりムゥの耳から鍵を抜き取る。
すぐさま鍵を開け、牢から抜け出ると、目の前のテーブルに置かれた自分の荷物を手にした。
杖にルビーにメダル…、とりあえず大切な物は全てそこにあった。
と、パンを食べ終わったやりムゥが、牢を抜け出したアンリエッタに気が付いた。
手にした槍を振り翳し、アンリエッタに飛び掛る。
アンリエッタは素早くルーンを唱えた。現れた水球がやりムゥを吹き飛ばす。
鉄格子に激突し、やりムゥは呆気無く気絶してしまった。
それを見届け、アンリエッタは走り出した。

ハヴィランド宮殿の大ホールに居るガーレンに、ンガポコによって急報が届けられた。
「アンリエッタが逃げ出したと?」
『ハイ。脱獄したアンリエッタ女王は、現在ハヴィランド宮殿内を逃げ回っております』
「敗走する連合軍を追撃する為に兵はほぼ出したとは言え、何人かは残っているはずだ。何故捕まえられない?」
シェフィールドが苛立ちを隠しもしないで追求する。
『メイジは全員出払っておりまして、残った傭兵では魔法に対処しきれないもよう。ンガ』
「チッ、役に立たない連中だ」
忌々しそうに吐き捨て、シェフィールドは怒りに顔を歪ませる。
そんな彼女をガーレンは宥める。
「まぁいいではないか」
「何?」
「涙ぐましい努力ではないか…。ククク、全て無駄に終わると言うのに」
ガーレンはンガポコに向き直る。
「前線の全軍に伝えろ。進軍中止、速やかに引き返してアンリエッタ女王の再確保をせよ。
確保が不可能ならば殺しても構わん、とな」
『了解しました。ンガ』
ンガポコは開け放たれた窓から、夜空へと飛び立っていく。
シェフィールドは怪訝な表情で問う。
「何を考えているガーレン…、むざむざ軍を引き返させるなど…」
「これでいい。どの道、進軍は途中で止めさせるつもりだったのだ。…アンリエッタ女王をわざと逃がしてな」
「…どういう意味だ?」
「知らずともいい。…そうだな? 強いて言えば…全ては我輩とお前の主の望みの為、と言っておこう」
シェフィールドは納得のいかない表情でガーレンを見据える。
本当にこいつを信頼していいのだろうか? ジョゼフの望みに繋がると言うが…それも本当だろうか?
疑問が疑問を呼び、目の前の存在を信じる事が出来なくなっていく。
だが、自分の主――ジョゼフはこの男と協力し合っている。今の所、その考えを変えるつもりはないだろう。
ならば…自分はそれに従うまでだ。自分はこの男ではなく、ジョゼフを信頼するのだ。

そんなシェフィールドの事など目もくれず、ガーレンは窓の遥か彼方に広がる、赤く燃えるサウスゴータの町を眺めていた。


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