日は暮れ、辺りは夜の静かな空気に包まれた。空には二つの大きな月が浮かび、草原の中に屹立する
魔法学院の校舎を、青灰色に染めていた。
その魔法学院の一室、女子寮のルイズの部屋の窓から月を見ていた金髪の超戦士は、部屋の中央の
テーブルに頬杖をついてむくれ顔をしているルイズを振り返ると、感慨深げに漏らした。
「見事な月だな。どうやら、俺たちは本当に見知らぬ世界に迷い込んじまったらしい」
「まだ言うか」
呆れた声でルイズが返す。
「ねえ、いい加減に本当の事を話しなさいよ。別にあんたたちが親の顔も知らずに、満足な教育も受けて
ない、無知で無教養で粗野な落ちぶれメイジだったとしても、私は笑わないわ。でもね」
体を起こしてビシッと指を突きつけ、彼女は続ける。
「自分の経歴を嘘で塗り固めるような根性は我慢ならないわ。ちょっと妙な武器が使えて、フライの
スピードが速いからって、世界を救った? 嘘をつくにしても、もっとマシな嘘をつきなさいよ」
放言を受けた超戦士だったが、さりとて怒ったような様子も見せずに、
「なかなかボキャブラリーが豊富だな、お嬢ちゃん。感心したぜ」
ルイズは、ため息とともに勢いよくテーブルに突っ伏した。
さっきからこの調子だった。何を言っても、ちっとも堪える様子が無い。ルイズ自身が『言い過ぎたか』と
思うような罵倒を受けても、苦笑いとともにジョークともつかない言葉が返ってくる。砂山に釘を打って
いるようなものだ。あるいは、手のひらの上で転がされているのか。これではいかん、主従の立場を
きっちり分からせなければ。そうは思うのだが、その取っ掛かりすら掴めない。せめて反抗的な態度の
一つでも取ってくれれば、鞭の出番もあろうと言うものだが……。
「お嬢ちゃん、俺たちがどこで何をしてたかなんて、もういいじゃねえか。向こうで俺たちがしてきた事が
何であれ、お嬢ちゃんに迷惑が及ぶ事はねえ。こいつだけは確かな事さ」
「相棒の言う通りだぜ。重要なのは、俺たちに何ができるか、だ。お嬢ちゃんはそれを知って、上手く
俺たちを使ってくれりゃいいのさ」
顔を上げ、恨めしそうな目で超戦士を見やるルイズ。
「……戦い以外で何ができるのよ。言っとくけど、私が巻き込まれるような戦争なんてそう起こらないわよ」
「そいつは喜ばしい事だが、そうなると困ったもんだ」
「ああ。俺たちゃ、戦うことしかできねえからな」
自嘲気味に、モヒカンの超戦士が笑った。
「見なさい。てんで役立たずじゃないのよ。穀潰しもいいとこだわ」
ルイズはそう言うと、くてっとテーブルに伸びる。
「そもそも、使い魔ってのは何をするもんなんだ? 戦いばかりやってるわけじゃないんだろう?」
金髪の超戦士の問いかけに、ルイズは気だるい声で答える。
「まずはぁ、主人の目となり耳となる事。使い魔が見た物は主人も見えるのよ」
「お嬢ちゃんも見えるのか?」
そう言われて、ルイズは目を閉じた。
「……ダメね。何も見えないわ」
「そいつぁ良かった。シャワーシーンなんか見られた日にゃ、恥ずかしくて三日は表を歩けねえ」
じとっとした目で、ルイズがモヒカンの超戦士を睨む。睨まれた超戦士は、ひょい、と肩を竦めた。
「他には?」
「主人が望むものを取ってくるのよ。秘薬とか」
「秘薬ってのは?」
「特定の魔法を使うときに触媒として使用する物。コケとか、硫黄とか」
それを聞いて、金髪の超戦士が肩を竦めた。
「魔法ね。そういや、魔法学院とか言ってたか。昼間のボーイ&ガールが空を飛んでたのも、魔法か?」
魔法学院の校舎を、青灰色に染めていた。
その魔法学院の一室、女子寮のルイズの部屋の窓から月を見ていた金髪の超戦士は、部屋の中央の
テーブルに頬杖をついてむくれ顔をしているルイズを振り返ると、感慨深げに漏らした。
「見事な月だな。どうやら、俺たちは本当に見知らぬ世界に迷い込んじまったらしい」
「まだ言うか」
呆れた声でルイズが返す。
「ねえ、いい加減に本当の事を話しなさいよ。別にあんたたちが親の顔も知らずに、満足な教育も受けて
ない、無知で無教養で粗野な落ちぶれメイジだったとしても、私は笑わないわ。でもね」
体を起こしてビシッと指を突きつけ、彼女は続ける。
「自分の経歴を嘘で塗り固めるような根性は我慢ならないわ。ちょっと妙な武器が使えて、フライの
スピードが速いからって、世界を救った? 嘘をつくにしても、もっとマシな嘘をつきなさいよ」
放言を受けた超戦士だったが、さりとて怒ったような様子も見せずに、
「なかなかボキャブラリーが豊富だな、お嬢ちゃん。感心したぜ」
ルイズは、ため息とともに勢いよくテーブルに突っ伏した。
さっきからこの調子だった。何を言っても、ちっとも堪える様子が無い。ルイズ自身が『言い過ぎたか』と
思うような罵倒を受けても、苦笑いとともにジョークともつかない言葉が返ってくる。砂山に釘を打って
いるようなものだ。あるいは、手のひらの上で転がされているのか。これではいかん、主従の立場を
きっちり分からせなければ。そうは思うのだが、その取っ掛かりすら掴めない。せめて反抗的な態度の
一つでも取ってくれれば、鞭の出番もあろうと言うものだが……。
「お嬢ちゃん、俺たちがどこで何をしてたかなんて、もういいじゃねえか。向こうで俺たちがしてきた事が
何であれ、お嬢ちゃんに迷惑が及ぶ事はねえ。こいつだけは確かな事さ」
「相棒の言う通りだぜ。重要なのは、俺たちに何ができるか、だ。お嬢ちゃんはそれを知って、上手く
俺たちを使ってくれりゃいいのさ」
顔を上げ、恨めしそうな目で超戦士を見やるルイズ。
「……戦い以外で何ができるのよ。言っとくけど、私が巻き込まれるような戦争なんてそう起こらないわよ」
「そいつは喜ばしい事だが、そうなると困ったもんだ」
「ああ。俺たちゃ、戦うことしかできねえからな」
自嘲気味に、モヒカンの超戦士が笑った。
「見なさい。てんで役立たずじゃないのよ。穀潰しもいいとこだわ」
ルイズはそう言うと、くてっとテーブルに伸びる。
「そもそも、使い魔ってのは何をするもんなんだ? 戦いばかりやってるわけじゃないんだろう?」
金髪の超戦士の問いかけに、ルイズは気だるい声で答える。
「まずはぁ、主人の目となり耳となる事。使い魔が見た物は主人も見えるのよ」
「お嬢ちゃんも見えるのか?」
そう言われて、ルイズは目を閉じた。
「……ダメね。何も見えないわ」
「そいつぁ良かった。シャワーシーンなんか見られた日にゃ、恥ずかしくて三日は表を歩けねえ」
じとっとした目で、ルイズがモヒカンの超戦士を睨む。睨まれた超戦士は、ひょい、と肩を竦めた。
「他には?」
「主人が望むものを取ってくるのよ。秘薬とか」
「秘薬ってのは?」
「特定の魔法を使うときに触媒として使用する物。コケとか、硫黄とか」
それを聞いて、金髪の超戦士が肩を竦めた。
「魔法ね。そういや、魔法学院とか言ってたか。昼間のボーイ&ガールが空を飛んでたのも、魔法か?」
ルイズが体を起こし、呆れたように口を開けた。
「あんたたちだって、一応メイジでしょ?」
「似たような事はできるが、魔法なんかじゃねえさ。俺たちは何かを呼び出したり、こんな──」
光を放つ手の甲を見せ、
「使い魔のルーンとやらを刻んだりは出来ないしな」
ルイズは椅子に座りなおし、超戦士たちに正対した。真剣な表情で、彼女は尋ねる。
「ねえ、貴方たち、何系統なの? ううん、空を飛んだり物を浮かせたり以外に、何ができるの?」
そう聞かれた金髪の超戦士は、口元に笑いを浮かべ、手に持っていた銃を掲げた。
「こいつをぶっ放す事ぐらいだな、できるのは」
額に手をあて、ルイズはがっくりとうなだれた。
「ホントに……ホントに戦う事しかできないのね……。……よし。よし、分かった!」
しばしうなだれたまま考え込んだ彼女は、やにわに立ち上がると、人差し指を音の出るような勢いで
超戦士たちに突きつける。
「あんたたちには、雑用をやってもらうわ! 掃除、洗濯、その他諸々! いいわね!?」
反論は許さん、と全身から発するオーラで示すルイズ。
超戦士たちは、少し驚いたような顔をしたが、苦笑いを浮かべて首を振った。
「雑用を言いつけるのは構わねえが、洗濯だけは他のヤツに頼んでくれや、お嬢ちゃん」
「何でよ! これは命令よ!」
「俺たちがやったら、キレイなおべべがズタズタのボロ雑巾になっちまうぜ?」
うっ、とルイズは言葉に詰まった。
改めて、超戦士たちを見てみる。彼らの腕は筋肉の塊のようで、その太さは彼女の胴回りほども
ありそうだ。その手は岩のように厳つく、とても繊細な作業に向いているようには見えない。
ルイズは、腕組をして唸った。その頭がゆっくりと左右に揺れる。
超戦士たちが顔を見合わせていると、ようやく、ルイズが顔を上げた。
「そ、そうね。確かに、あんたたちが洗濯をマスターするまで、服をズタボロにされるのは頂けないわ。
だから、洗濯は免除! 免除してあげる! その代わり、他の仕事は完璧にこなすのよ!」
「アイアイ・サー」
そう言って、超戦士たちが敬礼する。
今ひとつ釈然としない顔のルイズだったが、何かを言おうと口を開くと、言葉の代わりにあくびが出た。
それを見て、モヒカンの超戦士が苦笑いする。
「そろそろオネムか? お嬢ちゃん」
「子供扱いしないで! ……眠いのは確かだけど」
目をこすって涙を拭きながら、ルイズは壁際のチェストに歩み寄る。
「もう遅いし、寝るわ。明日、朝になったら起こしてね」
そう言って、ブラウスのボタンを外し始める。
「ああ。ゆっくり休みな」
「いい夢見ろよ」
超戦士たちが、各々ルイズに声を掛けてドアに向かう。その足音を聞いて、ルイズが振り返った。
「ちょ、ちょっと! どこ行くのよ?」
ドアノブに手を掛けていた金髪の超戦士が振り返る。
「ん? まだ何かあるのか?」
「子守唄が必要か?」
モヒカンの超戦士がにやりと笑って言う。
「だから子供扱いするな! っと、そうじゃなくて、どこ行くのって聞いてるの!」
ブラウスの前をはだけさせた格好のまま、ルイズが怒鳴る。
「あんたたちだって、一応メイジでしょ?」
「似たような事はできるが、魔法なんかじゃねえさ。俺たちは何かを呼び出したり、こんな──」
光を放つ手の甲を見せ、
「使い魔のルーンとやらを刻んだりは出来ないしな」
ルイズは椅子に座りなおし、超戦士たちに正対した。真剣な表情で、彼女は尋ねる。
「ねえ、貴方たち、何系統なの? ううん、空を飛んだり物を浮かせたり以外に、何ができるの?」
そう聞かれた金髪の超戦士は、口元に笑いを浮かべ、手に持っていた銃を掲げた。
「こいつをぶっ放す事ぐらいだな、できるのは」
額に手をあて、ルイズはがっくりとうなだれた。
「ホントに……ホントに戦う事しかできないのね……。……よし。よし、分かった!」
しばしうなだれたまま考え込んだ彼女は、やにわに立ち上がると、人差し指を音の出るような勢いで
超戦士たちに突きつける。
「あんたたちには、雑用をやってもらうわ! 掃除、洗濯、その他諸々! いいわね!?」
反論は許さん、と全身から発するオーラで示すルイズ。
超戦士たちは、少し驚いたような顔をしたが、苦笑いを浮かべて首を振った。
「雑用を言いつけるのは構わねえが、洗濯だけは他のヤツに頼んでくれや、お嬢ちゃん」
「何でよ! これは命令よ!」
「俺たちがやったら、キレイなおべべがズタズタのボロ雑巾になっちまうぜ?」
うっ、とルイズは言葉に詰まった。
改めて、超戦士たちを見てみる。彼らの腕は筋肉の塊のようで、その太さは彼女の胴回りほども
ありそうだ。その手は岩のように厳つく、とても繊細な作業に向いているようには見えない。
ルイズは、腕組をして唸った。その頭がゆっくりと左右に揺れる。
超戦士たちが顔を見合わせていると、ようやく、ルイズが顔を上げた。
「そ、そうね。確かに、あんたたちが洗濯をマスターするまで、服をズタボロにされるのは頂けないわ。
だから、洗濯は免除! 免除してあげる! その代わり、他の仕事は完璧にこなすのよ!」
「アイアイ・サー」
そう言って、超戦士たちが敬礼する。
今ひとつ釈然としない顔のルイズだったが、何かを言おうと口を開くと、言葉の代わりにあくびが出た。
それを見て、モヒカンの超戦士が苦笑いする。
「そろそろオネムか? お嬢ちゃん」
「子供扱いしないで! ……眠いのは確かだけど」
目をこすって涙を拭きながら、ルイズは壁際のチェストに歩み寄る。
「もう遅いし、寝るわ。明日、朝になったら起こしてね」
そう言って、ブラウスのボタンを外し始める。
「ああ。ゆっくり休みな」
「いい夢見ろよ」
超戦士たちが、各々ルイズに声を掛けてドアに向かう。その足音を聞いて、ルイズが振り返った。
「ちょ、ちょっと! どこ行くのよ?」
ドアノブに手を掛けていた金髪の超戦士が振り返る。
「ん? まだ何かあるのか?」
「子守唄が必要か?」
モヒカンの超戦士がにやりと笑って言う。
「だから子供扱いするな! っと、そうじゃなくて、どこ行くのって聞いてるの!」
ブラウスの前をはだけさせた格好のまま、ルイズが怒鳴る。
「俺たちもねぐらを探しに行くのさ」
「レディがお休みになるってのに、いつまでも野郎が部屋に居るわけにもいかねえしな」
何を当然の事を、と言った顔で超戦士たちが答えた。
「あのね、あんたたちは私の使い魔なんだから、今日からここで暮らすの! 寝るのもここ!」
そう言って、床を指差すルイズ。
金髪の超戦士が、眉根に皺を寄せて肩を竦めた。
「おいおい。いくらなんでも、そりゃマズイんじゃないのか? 俺たちも男だぜ?」
「第一、いくらこの部屋が広いったって、俺たちみたいなガタイのあるのが二人もいたら、目障りだろう」
モヒカンの超戦士も、珍しく真顔で言う。
「あんたらみたいなのがウロチョロしてる方が、よっぽど問題だわ。ここはトリステイン中から貴族の
子弟が集う、名門中の名門なんだから」
チェストから毛布を取り出し、超戦士たちに渡しながら、ルイズが返す。
受け取った毛布を小脇に抱え、モヒカンの超戦士が口の端を上げた。
「確かに、お嬢ちゃんの言う通りだ。何しろ、俺たちは野獣と間違われるくらいだしな」
一方、金髪の超戦士は、ルイズの格好を手で示しながら、
「良家のお姫様だってんなら、男の前でそんなあられもない格好するもんじゃねえぜ、お嬢ちゃん」
しかし、ルイズは鼻を鳴らして答える。
「使い魔に見られたって、恥ずかしくも無いわよ」
「そう言うもんか?」
「そう言うもんよ。分かったらとっとと寝なさい」
あくびをかみ殺しながらそう言うと、ルイズはポイポイと服を脱ぎ捨て、ネグリジェに着替えてベッドに
潜り込んだ。
金髪の超戦士は、相方に顔を向けて言う。
「カルチャーショックってヤツだな」
「へっ。珍しい体験ができたと思えばいいのさ」
「レディがお休みになるってのに、いつまでも野郎が部屋に居るわけにもいかねえしな」
何を当然の事を、と言った顔で超戦士たちが答えた。
「あのね、あんたたちは私の使い魔なんだから、今日からここで暮らすの! 寝るのもここ!」
そう言って、床を指差すルイズ。
金髪の超戦士が、眉根に皺を寄せて肩を竦めた。
「おいおい。いくらなんでも、そりゃマズイんじゃないのか? 俺たちも男だぜ?」
「第一、いくらこの部屋が広いったって、俺たちみたいなガタイのあるのが二人もいたら、目障りだろう」
モヒカンの超戦士も、珍しく真顔で言う。
「あんたらみたいなのがウロチョロしてる方が、よっぽど問題だわ。ここはトリステイン中から貴族の
子弟が集う、名門中の名門なんだから」
チェストから毛布を取り出し、超戦士たちに渡しながら、ルイズが返す。
受け取った毛布を小脇に抱え、モヒカンの超戦士が口の端を上げた。
「確かに、お嬢ちゃんの言う通りだ。何しろ、俺たちは野獣と間違われるくらいだしな」
一方、金髪の超戦士は、ルイズの格好を手で示しながら、
「良家のお姫様だってんなら、男の前でそんなあられもない格好するもんじゃねえぜ、お嬢ちゃん」
しかし、ルイズは鼻を鳴らして答える。
「使い魔に見られたって、恥ずかしくも無いわよ」
「そう言うもんか?」
「そう言うもんよ。分かったらとっとと寝なさい」
あくびをかみ殺しながらそう言うと、ルイズはポイポイと服を脱ぎ捨て、ネグリジェに着替えてベッドに
潜り込んだ。
金髪の超戦士は、相方に顔を向けて言う。
「カルチャーショックってヤツだな」
「へっ。珍しい体験ができたと思えばいいのさ」
夜が明け、空の色が真珠色から青へと変わった頃、学院から少し離れた草原に、圧縮した空気を
吹き出すような音が断続的に響いた。地面から、一直線にいくつも並んだ一対の車輪のような青い光と、
扇状に広がる無数の涙滴型の黄色い光が、空に向かって飛んでいく。その光の根元にいるのは、
超戦士の二人だ。光は、二人の構えた銃から発射されていた。
しばらく撃ち続けた二人は、満足したように引き金から指を離す。と、同時に、金髪の超戦士の
サテライトから、黄色い光の帯が発射された。光は、蛇のように左右に波打ったかと思えば、向きを
変えて超戦士たちの元へ戻り、彼らの周りを回った。その光が消えると、今度はモヒカンの超戦士の
サテライトから、薄緑の光の球が連続して5つ、横に発射された。それらは、地面に接触すると爆発し、
火柱を上げた。
一通りの確認を済ませたのか、モヒカンの超戦士が銃を下げて呟いた。
「やはりな。相当パワーが上がってやがる。銃身が持つか心配になるほどにな」
「ああ。銃だけじゃなく、サテライトもだ。天帝とケリをつける前にこれだけのパワーが出てりゃ、もう少し
楽しめただろうに」
そう相方が言うと、モヒカンの超戦士はにやりと笑った。
「違えねえ。どうやらここじゃ、パーティの余興ぐらいにしか使い道がなさそうだしな」
「ままならねえモンだ」
「それが人生ってヤツさ」
声を立てて笑い合いながら、二人は音もなく浮かび上がり、学院にめがけて飛んだ。機嫌よく笑みが
浮かんでいた口元が、学院の塀を越えるやいなや、への字に歪んだ。
吹き出すような音が断続的に響いた。地面から、一直線にいくつも並んだ一対の車輪のような青い光と、
扇状に広がる無数の涙滴型の黄色い光が、空に向かって飛んでいく。その光の根元にいるのは、
超戦士の二人だ。光は、二人の構えた銃から発射されていた。
しばらく撃ち続けた二人は、満足したように引き金から指を離す。と、同時に、金髪の超戦士の
サテライトから、黄色い光の帯が発射された。光は、蛇のように左右に波打ったかと思えば、向きを
変えて超戦士たちの元へ戻り、彼らの周りを回った。その光が消えると、今度はモヒカンの超戦士の
サテライトから、薄緑の光の球が連続して5つ、横に発射された。それらは、地面に接触すると爆発し、
火柱を上げた。
一通りの確認を済ませたのか、モヒカンの超戦士が銃を下げて呟いた。
「やはりな。相当パワーが上がってやがる。銃身が持つか心配になるほどにな」
「ああ。銃だけじゃなく、サテライトもだ。天帝とケリをつける前にこれだけのパワーが出てりゃ、もう少し
楽しめただろうに」
そう相方が言うと、モヒカンの超戦士はにやりと笑った。
「違えねえ。どうやらここじゃ、パーティの余興ぐらいにしか使い道がなさそうだしな」
「ままならねえモンだ」
「それが人生ってヤツさ」
声を立てて笑い合いながら、二人は音もなく浮かび上がり、学院にめがけて飛んだ。機嫌よく笑みが
浮かんでいた口元が、学院の塀を越えるやいなや、への字に歪んだ。
「こいつぁいけねえ。どうやら、下手打っちまったようだな」
「そうらしい。急ぐぜ」
超戦士たちが、速度を上げて女子寮に向かった。彼らの眼下では、多数の生徒が行き交っていた。
「そうらしい。急ぐぜ」
超戦士たちが、速度を上げて女子寮に向かった。彼らの眼下では、多数の生徒が行き交っていた。
その頃ルイズは、幸せな夢の中にいた。目の前のテーブルには、大きな焼きたてのクックベリーパイ。
右を見ると、やはり大きなクックベリーパイ。左にもクックベリーパイ。見上げても、見下ろしても、ここにも
そこにもあーらあんな所にまで! 全部わたしの物よ! 誰にもあげないんだからね! いただきま──。
「お嬢ちゃん! 起きな!」
「ふぇっ! なにごと!?」
突然の野太い怒鳴り声に、ルイズは否応なく夢の世界から引き戻される。
寝ぼけ眼で部屋を見回した彼女は、息を呑んだ。サングラスをかけたモヒカンの大男が、窓から
入って来ている。しかも、男の手には、鉄の棍棒。
けたたましい悲鳴が、女子寮に響いた。
「ごーとー! ごぉとぉぉぉぉぉ!!!」
手当たり次第に物を投げつけながら、後ずさりするルイズ。
「お嬢ちゃん落ち着け! 俺たちだ、忘れたのか!?」
投げつけられた枕をキャッチしつつ、モヒカンの超戦士がなだめた。
しかし、パニックに陥ったルイズはまったく耳を貸さず、ベッドから転げ落ちると、ぴーぴー泣き声を
上げながらドアに走った。
「ちょっとヴァリエール。朝から騒がしいわ──きゃ!」
ドアが慌しく開き、褐色の肌の少女が現れた。天の助けとばかりに、ルイズがその少女──キュルケに
抱きつく。
「ちょ、ちょっと、どうしたのよ」
泣きじゃくりながらしがみついて来るルイズに、呆気に取られるキュルケ。
「誰だか知らねえが、ナイスタイミングだ。すまねえが、お嬢ちゃんを落ち着かせてやってくれや」
声を掛けられ、キュルケが超戦士たちに顔を向ける。
「あなたたち、確かヴァリエールの使い魔の……」
「そう言うこった。眠り姫に朝のご挨拶をしようと思ったら、この有様でな」
ルイズの頭に手を置いたキュルケが、目を細めて超戦士を睨む。
「……何をしたの?」
「何もしねえさ。声を掛けただけだ」
肩を竦める金髪の超戦士。
「なんでそんな事でこんなに……? ヴァリエール。ちょっと、ルイズってば」
ルイズの顔を両手で挟んで自分の方を向かせ、彼女はにっこりと笑った。
「グーテンモルゲン、ヴァリエール」
涙に濡れ、くちゃくちゃになっていたルイズの顔が、呆けたように弛緩した。やがて、弾かれたように
キュルケから体を離すと、慌てふためいたように声を上げた。
「ツ、ツ、ツ、ツェルプストー! ななな、なん、な、何であんたがっ!」
「よう、お嬢ちゃん。いい朝だな」
「そろそろ俺たちの事を思い出したか?」
苦笑いを浮かべ、肩を竦ませる超戦士たち。
彼らを振り返って呆然としていたルイズだったが、見る間に顔を紅潮させ、眉尻を上げて超戦士たちを
睨みつけた。
「あ、あんたたちねえぇっ……!」
拳を握り締めて彼女が一歩踏み出した時、キュルケがたまりかねたように笑い声を上げた。目の端に
右を見ると、やはり大きなクックベリーパイ。左にもクックベリーパイ。見上げても、見下ろしても、ここにも
そこにもあーらあんな所にまで! 全部わたしの物よ! 誰にもあげないんだからね! いただきま──。
「お嬢ちゃん! 起きな!」
「ふぇっ! なにごと!?」
突然の野太い怒鳴り声に、ルイズは否応なく夢の世界から引き戻される。
寝ぼけ眼で部屋を見回した彼女は、息を呑んだ。サングラスをかけたモヒカンの大男が、窓から
入って来ている。しかも、男の手には、鉄の棍棒。
けたたましい悲鳴が、女子寮に響いた。
「ごーとー! ごぉとぉぉぉぉぉ!!!」
手当たり次第に物を投げつけながら、後ずさりするルイズ。
「お嬢ちゃん落ち着け! 俺たちだ、忘れたのか!?」
投げつけられた枕をキャッチしつつ、モヒカンの超戦士がなだめた。
しかし、パニックに陥ったルイズはまったく耳を貸さず、ベッドから転げ落ちると、ぴーぴー泣き声を
上げながらドアに走った。
「ちょっとヴァリエール。朝から騒がしいわ──きゃ!」
ドアが慌しく開き、褐色の肌の少女が現れた。天の助けとばかりに、ルイズがその少女──キュルケに
抱きつく。
「ちょ、ちょっと、どうしたのよ」
泣きじゃくりながらしがみついて来るルイズに、呆気に取られるキュルケ。
「誰だか知らねえが、ナイスタイミングだ。すまねえが、お嬢ちゃんを落ち着かせてやってくれや」
声を掛けられ、キュルケが超戦士たちに顔を向ける。
「あなたたち、確かヴァリエールの使い魔の……」
「そう言うこった。眠り姫に朝のご挨拶をしようと思ったら、この有様でな」
ルイズの頭に手を置いたキュルケが、目を細めて超戦士を睨む。
「……何をしたの?」
「何もしねえさ。声を掛けただけだ」
肩を竦める金髪の超戦士。
「なんでそんな事でこんなに……? ヴァリエール。ちょっと、ルイズってば」
ルイズの顔を両手で挟んで自分の方を向かせ、彼女はにっこりと笑った。
「グーテンモルゲン、ヴァリエール」
涙に濡れ、くちゃくちゃになっていたルイズの顔が、呆けたように弛緩した。やがて、弾かれたように
キュルケから体を離すと、慌てふためいたように声を上げた。
「ツ、ツ、ツ、ツェルプストー! ななな、なん、な、何であんたがっ!」
「よう、お嬢ちゃん。いい朝だな」
「そろそろ俺たちの事を思い出したか?」
苦笑いを浮かべ、肩を竦ませる超戦士たち。
彼らを振り返って呆然としていたルイズだったが、見る間に顔を紅潮させ、眉尻を上げて超戦士たちを
睨みつけた。
「あ、あんたたちねえぇっ……!」
拳を握り締めて彼女が一歩踏み出した時、キュルケがたまりかねたように笑い声を上げた。目の端に
涙を浮かべ、体を折って笑う。
「わ、笑うな!」
「だ、だって、自分の使い魔に……」
言葉を続けようとするキュルケだったが、こみ上げる笑いでそれができない。
「出てけー! 出てけ、出てけー!!」
腕を振り上げてルイズが叫ぶ。
ひーひー言いながらも、ようやく笑いが収まってきたキュルケは、目の端の涙を小指で弾きながら
言った。
「言われなくても、うふふ、出てくわよ。ふふ、もう授業が始まっちゃうもの」
「当たり前よ! ……って、え? 授業?」
「じゃあね、お寝坊さん」
そう言って、手をひらひら振りながらモンローウォークで出て行くキュルケ。
それを呆然と見送っていたルイズは、はっとしてチェストに駆け寄った。
「ち、遅刻しちゃう!」
乱暴にネグリジェを脱ぎ捨て、引き出しから下着と服を取り出す。
せわしなく服を身に着けていたルイズは、思い出したように超戦士を振り返ると、火の出るような
睨みを飛ばして低い声で言った。
「あとでお仕置き!」
「甘んじて受けるさ」
着替え終え、鏡台の前に立ったルイズは、手櫛で髪を整えると、机の上のカバンを引っ掴んでドアに
走った。
荒々しくドアが開閉し、走り去る足音が廊下に響く。
静けさが戻った部屋の中で、超戦士たちは顔を見合わせた。
「お嬢ちゃんには、悪いことをしちまった」
「早いうちに、時計を調達しねえとな」
と、バタバタと足音が近づいてきて、ドアが勢いよく開けられた。
「あんたたちも来るのよ!」
鬼のような形相でルイズが怒鳴った。
「わ、笑うな!」
「だ、だって、自分の使い魔に……」
言葉を続けようとするキュルケだったが、こみ上げる笑いでそれができない。
「出てけー! 出てけ、出てけー!!」
腕を振り上げてルイズが叫ぶ。
ひーひー言いながらも、ようやく笑いが収まってきたキュルケは、目の端の涙を小指で弾きながら
言った。
「言われなくても、うふふ、出てくわよ。ふふ、もう授業が始まっちゃうもの」
「当たり前よ! ……って、え? 授業?」
「じゃあね、お寝坊さん」
そう言って、手をひらひら振りながらモンローウォークで出て行くキュルケ。
それを呆然と見送っていたルイズは、はっとしてチェストに駆け寄った。
「ち、遅刻しちゃう!」
乱暴にネグリジェを脱ぎ捨て、引き出しから下着と服を取り出す。
せわしなく服を身に着けていたルイズは、思い出したように超戦士を振り返ると、火の出るような
睨みを飛ばして低い声で言った。
「あとでお仕置き!」
「甘んじて受けるさ」
着替え終え、鏡台の前に立ったルイズは、手櫛で髪を整えると、机の上のカバンを引っ掴んでドアに
走った。
荒々しくドアが開閉し、走り去る足音が廊下に響く。
静けさが戻った部屋の中で、超戦士たちは顔を見合わせた。
「お嬢ちゃんには、悪いことをしちまった」
「早いうちに、時計を調達しねえとな」
と、バタバタと足音が近づいてきて、ドアが勢いよく開けられた。
「あんたたちも来るのよ!」
鬼のような形相でルイズが怒鳴った。
つづく