「あれぇ……? ここ、どこだ?」
困惑した呟きと共に、土煙の中から姿を現わした男の姿を見たルイズは、愕然とした。
ルイズが呼び出したのは、人間の、それも平民とおぼしき人物であったのだ。
ルイズが呼び出したのは、人間の、それも平民とおぼしき人物であったのだ。
髪はぼさぼさで、ぼんやりとした表情を浮かべている謎の青年。
身につけている薄い上着は、首まわりが広がって肩までずれ下がり、とても高貴な身分であるとは思えない。
身につけている薄い上着は、首まわりが広がって肩までずれ下がり、とても高貴な身分であるとは思えない。
幾度もの失敗の後なのだ。呼び出した使い魔はさぞ大物に違いない、と確信していただけに、こんな貧相な人物を呼び出したルイズの受けた衝撃は大きい。
一般的なイメージとかけはなれたその使い魔の姿を、到底受け入れることなどできるはずもなかった。
一般的なイメージとかけはなれたその使い魔の姿を、到底受け入れることなどできるはずもなかった。
「コルベール先生! やり直しを!!」
ルイズが後ろを振り向くと同時に叫んだが、先生と呼ばれた人物はそのことを予想していたのか、ただ首を横に振るのみであった。
己に向けられた彼の同情の目に、ルイズは自分の置かれた状況から逃れられないことを悟り、ますますみじめな気持ちになったのだった。
己に向けられた彼の同情の目に、ルイズは自分の置かれた状況から逃れられないことを悟り、ますますみじめな気持ちになったのだった。
魔法を失敗した時より、さらに強くなった野次に泣きそうになりながらも、ルイズは意を決して、ぼんやりとたたずむ男の元へと歩を進めた。
なるべく相手の顔を見ないように俯きながら、ゆっくりと近づいていく。
なるべく相手の顔を見ないように俯きながら、ゆっくりと近づいていく。
数歩進んだところで、男の視線がルイズを捉えた。
男は興味深そうに、近づいてくるルイズの姿をじっと見つめている。
男は興味深そうに、近づいてくるルイズの姿をじっと見つめている。
「面白い格好をしているね……。キミたちも、人間なのかな?」
何を言っているんだ、とルイズは思った。
薄気味悪い笑顔で訳のわからないことを話しているあたり、もしかしたら召喚されたショックで頭がおかしくなったのかもしれない。
薄気味悪い笑顔で訳のわからないことを話しているあたり、もしかしたら召喚されたショックで頭がおかしくなったのかもしれない。
(もしそうなら、これからがますます不安だわ……)
そんなことを考えながら、ルイズは持っていた杖を男に向けた。
まずは目の前の問題を解決してから、これからのことを考えよう。そう思いながら、杖を男の額に当て、口を開いた。
男の視線が、ルイズから杖へと対象を変える。
まずは目の前の問題を解決してから、これからのことを考えよう。そう思いながら、杖を男の額に当て、口を開いた。
男の視線が、ルイズから杖へと対象を変える。
「我が名は……」
ルイズが呪文詠唱を始めるのと、目の前を灰色の何かが舞ったのは、ほぼ同時であった。
「なっ……!?」
詠唱を中断したルイズは、その光景に目を疑った。
なんと、男の額に当てていたはずのルイズの杖が、突如灰となって崩れ落ちたのである。
いくら魔法の失敗が多いルイズとはいえ、杖を消滅させるようなことは今まで経験していない。それに何より呪文は完成していないのだ。
なんと、男の額に当てていたはずのルイズの杖が、突如灰となって崩れ落ちたのである。
いくら魔法の失敗が多いルイズとはいえ、杖を消滅させるようなことは今まで経験していない。それに何より呪文は完成していないのだ。
あまりに突然の出来事に、ルイズの頭は混乱しきっていた。
まわりを囲んでいるギャラリーも、じっと様子を窺っている。
まわりを囲んでいるギャラリーも、じっと様子を窺っている。
「ちょ、ちょっと! これ、一体どうなって……」
「……ボクに触れたものはね。みんな灰になっちゃうんだ……」
にやついた表情のまま、いきなり言葉を発した目の前の男に、ルイズは再び仰天した。
言葉の意味を理解しようとしたが、頭が上手く回らない。
言葉の意味を理解しようとしたが、頭が上手く回らない。
「ここがどこだかわからないけど……」
戸惑うルイズの様子を気に留めることなく、男は続ける。
「キミたちが人間だっていうのなら、やるべきことは一つだよねぇ。フフフ……」
両手の平を合わせ、胸の前で閉じたり開いたりしながら、男は楽しげに呟く。
その直後、男の体が灰色に包まれ、異形の体が湧き出るようにして現れた。
その直後、男の体が灰色に包まれ、異形の体が湧き出るようにして現れた。
ゴツゴツとした灰色の表皮に、頭とおぼしき部位から横へと生えた二本の長い角。
両腕には禍々しい竜の顔を模したような、巨大で鋭い爪らしきものが備え付けられている。
歪んだ表情は、まるで人の恐怖をイメージしているかのように、絶えず不気味さを放っている。
両腕には禍々しい竜の顔を模したような、巨大で鋭い爪らしきものが備え付けられている。
歪んだ表情は、まるで人の恐怖をイメージしているかのように、絶えず不気味さを放っている。
その異様な姿はまさに、伝承の中に出てくる悪魔と呼ぶにふさわしいものであった。
灰色の悪魔の出現に、辺りは騒然となった。
いたるところで悲鳴があがり、その場から逃げだす者もいた。
いたるところで悲鳴があがり、その場から逃げだす者もいた。
目の前で悪魔の現出を目撃したルイズは、畏れと驚きに目を丸くし、開いた口を塞ぐことも忘れて、ずるずると後退った。
すると、悪魔の影が先ほどの人間の姿に変わり、どこからか響くような声で、ルイズに向かって呟いた。
すると、悪魔の影が先ほどの人間の姿に変わり、どこからか響くような声で、ルイズに向かって呟いた。
「さあ、楽しいゲームの始まりだ……フフフフフ」
「ひっ!?」
悪魔は怯えるルイズの目の前まで迫ると、そのまま右腕を突きだした。
邪竜の牙に体を貫かれるのと同時に、ルイズの全身を、冷たい感覚が駆け巡った――
――――――――――
「ん……」
地面に倒れていたルイズが目を覚ます。
数回のまばたきの後、上半身をゆっくり起き上がらせると、半ばぼやけたままの思考を働かせ始めた。
自分がなぜ大地に臥していたのか、その理由を探るためである。
数回のまばたきの後、上半身をゆっくり起き上がらせると、半ばぼやけたままの思考を働かせ始めた。
自分がなぜ大地に臥していたのか、その理由を探るためである。
少し経ったところで、ルイズの顔が急に青ざめた。
(そうだ。わたし、確か変な奴に襲われて……)
そこまで思い出したルイズは、上着越しに貫かれたはずの腹部をさすった。
普通ならば出血多量では済まないであろう大ケガをしているはずの腹部は、不思議なことに体どころか服すら無傷のままだったのである。
他にも何かないのかと確認したが、これといった異常は見当たらなかった。
普通ならば出血多量では済まないであろう大ケガをしているはずの腹部は、不思議なことに体どころか服すら無傷のままだったのである。
他にも何かないのかと確認したが、これといった異常は見当たらなかった。
まさか、悪い夢でも見ていただけなのでは。
ルイズがそう思い始めた頃、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
ルイズがそう思い始めた頃、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「やあ、やっと気がついたね……」
振り返れば、そこにはあのぼんやりとした男が立っていたのである。
「なっ!? あ、あんたは……!!」
「あーあ……結局キミ一人かぁ。期待はずれだったなぁ」
「なんですって!?」
男の言葉に、ルイズは辺りを見回す。
儀式の時に周りを囲んでいたはずの大勢の生徒たちは、誰一人として姿を見ることができなかった。
かわりに、小さな灰の山が点々と存在しているだけである。
儀式の時に周りを囲んでいたはずの大勢の生徒たちは、誰一人として姿を見ることができなかった。
かわりに、小さな灰の山が点々と存在しているだけである。
「ちょっとは期待してたんだけどなぁ……。まぁ、それなりに楽しめたからいいんだけどねぇ」
「ま、まさか、そんな……」
彼の言動から、自分以外の生徒たちは皆、死に絶えてしまったのだろう。
今目の当たりにしている光景に、ルイズは自分一人しか残されていないという孤独と、男の持つ異質な力への恐ろしさを感じていた。
かつてないほどの恐怖に、心臓の鼓動があり得ないほどに早まっていく。
今目の当たりにしている光景に、ルイズは自分一人しか残されていないという孤独と、男の持つ異質な力への恐ろしさを感じていた。
かつてないほどの恐怖に、心臓の鼓動があり得ないほどに早まっていく。
「待ってよ……どこへ行くの?」
恐怖に耐えきれなくなったルイズは、男に背を向けると、学院に向かって勢いよく走りだした。
逃げなければという思いに身を任せ、ただがむしゃらに地を蹴るルイズ。
だが、急な動きに体がついていけなかったのか、駆け出してから数歩の距離で足をひねって転んでしまった。
おかげで、ルイズが立ち上がるよりも先に、追いついた男が彼女の元へ近づくことを許してしまったのだった。
だが、急な動きに体がついていけなかったのか、駆け出してから数歩の距離で足をひねって転んでしまった。
おかげで、ルイズが立ち上がるよりも先に、追いついた男が彼女の元へ近づくことを許してしまったのだった。
「あ~あ。だらしないなぁ……」
「ひっ!?」
中腰のまま振り向けば、そこには追い詰めるように立ちはだかる男の姿があった。
その光景を前に、ルイズは思わず目を閉じ、両手で顔を覆う。
その光景を前に、ルイズは思わず目を閉じ、両手で顔を覆う。
その時、ルイズの体に再び冷たい感覚が駆け巡った。
体を貫かれた時にも感じた氷のような冷たさが、一瞬にして全身に広がっていく。
体を貫かれた時にも感じた氷のような冷たさが、一瞬にして全身に広がっていく。
何事かと驚いて目を開けると、自分の腕があるはずの場所に、明らかに自分の物ではない、灰色の腕があったのである。
「な……!? なによ、これ……」
「フフフ……キミはねぇ、オルフェノクになったんだよ」
男の発した聞き慣れない言葉の意味は分からなかったが、自分が男と同じ異形になってしまったことは理解できた。
自分の意思に応じて動く、石のように冷たいその腕は、紛れもなくルイズ自身のものだったからだ。
自分の意思に応じて動く、石のように冷たいその腕は、紛れもなくルイズ自身のものだったからだ。
貴族の証たる杖、かけがえのない友、それに、人間であるという存在……。
ルイズが持っていた大切ものが、一瞬にして失われてしまったのである。
ルイズが持っていた大切ものが、一瞬にして失われてしまったのである。
桃色髪の少女の姿に戻った『ルイズだったもの』は、がっくりと膝をついた。
「そ……んな……」
絶望に打ちひしがれるルイズの姿を、男はいつもより嬉しそうな表情で見つめていた。
「キミは今日からボクのしもべだ……。このままたくさんオルフェノクを増やして、ボクはその中で一番の存在になるんだ。フフフフ……」
『仮面ライダー555』より、北崎/ドラゴンオルフェノク