ルイズだったモノが、部屋をぐるりと見渡す。
動くものが一つ、動かないものが二つ、世界が一つ。
今、彼女に残っている感情は二つ。
一つは、全てに対する憎しみ。そしてもう一つは、殺意にも似た――
動くものが一つ、動かないものが二つ、世界が一つ。
今、彼女に残っている感情は二つ。
一つは、全てに対する憎しみ。そしてもう一つは、殺意にも似た――
「……喰いたい」
――食欲。
「これがきみの力だというのか……?」
小さな身体の目の前にいる食べ物が、当たり前のことを言っている。
当たり前? 何が? なんだっけ? なんだろう?
何か大切なことがあったはずなのに、よく思い出せない。
当たり前? 何が? なんだっけ? なんだろう?
何か大切なことがあったはずなのに、よく思い出せない。
「ダ……ト……」
そうだ、思い出した。お腹が空いてるんだ。
じゃあどうしよう? どうしよっか? どうするの?
じゃあどうしよう? どうしよっか? どうするの?
「何を言っているんだ? もしや、意識が無いのか? ならばこのチャンス逃しはしない!!」
小さな身体の前にいる食べ物が、こっちに走ってくる。
右手をこっちに突き出してる。
これ、邪魔だ。
右手をこっちに突き出してる。
これ、邪魔だ。
「が……あああああああっ!! 俺の……俺の腕が!! くっ……! いいだろう、目的は一つは達した。ここは引こう。その力も惜しいが、『レコン・キスタ』の軍勢に斬りさかれて死ぬがいい!!」
どこいくの? 駄目だよ。逃がさないよ。
どうせ……大きな身体からは逃げられないんだからね。
どうせ……大きな身体からは逃げられないんだからね。
「冗談でしょ……?」
巨人へと近付くにつれ、その大きさに冷たいものを感じてたあたし達は、更に信じられないものを目の当たりにした。
「あんなもん喰らったら一巻の終わりだぞ青い髪の娘っ子! かわせ!!」
「駄目、近付きすぎている」
「ひぃぃぃっ!!」
「きゅいきゅいきゅい!」
「駄目、近付きすぎている」
「ひぃぃぃっ!!」
「きゅいきゅいきゅい!」
皆が口々に叫ぶ。
タバサの言った絶望的な言葉が、足元からぞわりと押し寄せ、全身の力を奪う。
だけどあたしは、まだ死ぬ気なんて更々無い。
タバサの言った絶望的な言葉が、足元からぞわりと押し寄せ、全身の力を奪う。
だけどあたしは、まだ死ぬ気なんて更々無い。
「やってみなきゃわかんないでしょタバサ!! 絶対に諦めちゃ駄目よ!!」
「……」
「……」
言葉なく頷くタバサを見て、少しだけ皆の顔に血の気が戻るも、事態は何一つ解決してない。
巨人の中心から漏れる光は、明らかにあたし達、いや、この辺り一帯を狙ってる。
巨人の大きさと、光の巨大さから考えて、例え風龍だろうとかわしきれないと頭ではわかってる。
巨人の中心から漏れる光は、明らかにあたし達、いや、この辺り一帯を狙ってる。
巨人の大きさと、光の巨大さから考えて、例え風龍だろうとかわしきれないと頭ではわかってる。
「だからって、これで諦めるようじゃ、これから先あんた達をからかえなくなるでしょ……待ってなさいルイズ、ダネット。あたし達は絶対に死なない。こんなとこで死んでたまるかってのよ!!」
誰かが呼んでます。誰かを呼んでます。泣きながら私を呼んでます。
「ダ……ネ……」
あいつが泣いてます。お前は昔から泣き虫です。
大丈夫ですよ。私はここにいます。だから泣き止んでください。
この隠れ里にいる皆は、とても優しいんです。
きっとお前も、この里が大好きになりますよ。
大丈夫ですよ。私はここにいます。だから泣き止んでください。
この隠れ里にいる皆は、とても優しいんです。
きっとお前も、この里が大好きになりますよ。
「…………ト……」
まだ泣くんですか? うー……。ああもう、仕方ありませんね。じゃあ、お前に教えてもらったあの歌を歌ってあげます。
だからもう泣かないでください。
私は、ずっと、お前と一緒です。
だからもう泣かないでください。
私は、ずっと、お前と一緒です。
「……メァ……ラー……リー……ソァ……」
何か聞こえる。これはなんだ?
わたしが、俺が、何か思い出す。
わたしが、俺が、何か思い出す。
「ファー……ス……ラー……」
唄だ。ずっと昔、わたしが、俺が、聴いていた子守唄。
「シーフォー……ミ……オ……」
誰だ? 誰がこれを唄ってるんだ?
わたしは、俺は、いつこれを聴いていた?
わたしは、俺は、いつこれを聴いていた?
「フィーメァー……ローサー……マレー……」
助けて、ここはとても暗いの。
助けて、わたしはこんなとこにいたくない。もう戻りたくない。
助けて、わたしはこんなとこにいたくない。もう戻りたくない。
「……ソァ……フェー……ナー……」
「ダ……ネッ……ト……」
「ダ……ネッ……ト……」
わたしは、俺じゃない。
ダネットの主人、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールだ。
ダネットの主人、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールだ。
「絶対に寿命が5年は減ったわ……この代償はいつか払ってもらいましょみんな」
あたしの軽口に、タバサとギーシュが頷く。
さっきまで光を溜め込んでた巨人は、なぜか風のように消え去り、さっきまでの光景が嘘だったようにも思える。
さっきまで光を溜め込んでた巨人は、なぜか風のように消え去り、さっきまでの光景が嘘だったようにも思える。
「でも、一体あれは何だったんだ? 君は知ってるのかい?」
「……」
「……」
ギーシュの問いかけに、デルフは沈黙で返す。
まあ、その辺の話は後でじっくりと聞くとして、今は。
まあ、その辺の話は後でじっくりと聞くとして、今は。
「タバサ、頼むわよ!」
「わかった」
「わかった」
返事をすると同時に、速度が増したのがわかった。
「さっきので死んでたりしたら、承知しないわよ二人とも!」
「駄目よダネット! 勝手に死んだら許さないわよ!!」
「えへへ……お前は……怒って……ば……かり……です……」
「えへへ……お前は……怒って……ば……かり……です……」
ダネットの歌で我を取り戻したわたしは、必死にダネットを治療していた。
しかし、治療と言っても、わたしに水の系統の魔法が使える訳でも無く、ここには水の秘薬もないので、出来ることといったら傷に布を巻いて止血することぐらいだ。
しかし、治療と言っても、わたしに水の系統の魔法が使える訳でも無く、ここには水の秘薬もないので、出来ることといったら傷に布を巻いて止血することぐらいだ。
「血が止まらない……どうして!? 止まんなさいよ! 死なせない! 絶対に死なせないんだから!!」
「ごほっ! げほっ!!」
「ごほっ! げほっ!!」
ワルドの一撃で開いた胸の穴からはとめどなく血が溢れ、当てた布をすぐさま真っ赤に染め、咳をする度に口からも血が溢れる。
ふと、所々血で濡れたダネットの手が、わたしの手に触れた。
その手は、驚くほど冷たく、嫌でも彼女の命が燃え尽きそうなのがわかった。
ふと、所々血で濡れたダネットの手が、わたしの手に触れた。
その手は、驚くほど冷たく、嫌でも彼女の命が燃え尽きそうなのがわかった。
「ダネット……」
「お前……私を……置い……行き……なさ……い」
「お前……私を……置い……行き……なさ……い」
ダネットの提案に、わたしは首を横に振って抵抗する。
「優し……ですね……お前は……」
そう言って、ダネットは少しだけ微笑んだ後、悲しそうな顔になって口を動かす。
「すみ……ませ……ん……最後……でまもれ……なくて……」
まただ。また謝られた。
違うでしょ、謝らなきゃいけないのは、あんたを突然呼び出して、こんな目にあわせたわたしでしょ?
第一、わたしは約束したじゃないか。
違うでしょ、謝らなきゃいけないのは、あんたを突然呼び出して、こんな目にあわせたわたしでしょ?
第一、わたしは約束したじゃないか。
『だけど、もし……もしあんたの話が本当だとわかったら、わたしは心からあんたに謝ろうと思う』
あんたと最初に出会ったあの日の夜、わたしは約束したじゃないか。
今ならわかる。あんたの言ったことは真実だったと。
今ならわかる。あんたの言ったことは真実だったと。
「あんたがわたしを守るなら、わたしだってあんたを守るの!! だから……だから死なないでよダネット……」
わたしの言葉を聞いたダネットは、心底申し訳無さそうな顔をした後、静かに目を閉じた。
「ダネット!! ダネット!!」
死ぬ。ダネットが死ぬ。魂が抜けていく。
駄目だ。死んじゃ駄目だ。死なせちゃ駄目だ。
駄目だ。死んじゃ駄目だ。死なせちゃ駄目だ。
「死なせて……死なせてたまるもんですか!!」
巨人のいた場所に当たりを付け、小さな礼拝堂を見つけたキュルケ達一行は、礼拝堂の中のルイズを見つけて安心すると同時に、一つの不安が胸をよぎっていた。
理由は、探してた二人のうち、一人しか見つからなかったから。そして、見つけた一人が血だまりの中で立ち尽くしていたから。
自分達を目の当たりにしても虚ろな目をしたルイズに不安を覚え、キュルケがデルフへと問いかける。
理由は、探してた二人のうち、一人しか見つからなかったから。そして、見つけた一人が血だまりの中で立ち尽くしていたから。
自分達を目の当たりにしても虚ろな目をしたルイズに不安を覚え、キュルケがデルフへと問いかける。
「怪我は無いみたいだけど……『アレ』はルイズよね?」
「……多分な。少なくとも正気はあると思うぜ」
「……多分な。少なくとも正気はあると思うぜ」
その答えを聞き、安心したキュルケはルイズへと近寄り、呆けたままのルイズの横顔を平手で叩き、肩を掴んで怒鳴るように問いかける。
「しっかりしなさいルイズ! ダネットはどこ!? あの子は無事なの!?」
衝撃で我に帰ったのか、ルイズは目に光を取り戻した後、キュルケを前に涙をこぼした。
「わたしは……メイジ失格よ……」
キュルケ達に助けられ、トリステインへと戻ったルイズは、アンリエッタの居室にてアルビオンで起きたことを報告していた。
報告の中で、アンリエッタはワルドの裏切りに驚き、皇大使の最後を聞いた後、ルイズの渡した『風のルビー』を握り締め涙を流す。
こうして、長いような、短いような旅の報告を終えた。
巨人と、一人の使い魔のことを除いて。
報告の中で、アンリエッタはワルドの裏切りに驚き、皇大使の最後を聞いた後、ルイズの渡した『風のルビー』を握り締め涙を流す。
こうして、長いような、短いような旅の報告を終えた。
巨人と、一人の使い魔のことを除いて。
「それでルイズ、ダネットの姿が見えないようですが、もしや酷い怪我をしたのではありませんか?」
先ほど、転げるように王宮の中庭へと入ってきた一団の中に、ダネットの姿が無かったことで、もしやと思い口にする。
ルイズは、アンリエッタの言葉に、俯いたまま首を横に振ることで答える。
ルイズは、アンリエッタの言葉に、俯いたまま首を横に振ることで答える。
「まさか……いえ、そんな訳……」
嫌な想像を、頭を振って消し去る。
そんなアンリエッタの姿を見たルイズは、ぐっと唇を噛み締めた後、搾り出すように告げる。
そんなアンリエッタの姿を見たルイズは、ぐっと唇を噛み締めた後、搾り出すように告げる。
「ダネットは……生きています……」
そして、ふところから一つの結晶を取り出す。
「ルイズ……? この赤い石はなんですの?」
意味がわからず、アンリエッタが問いかける。
その問いかけに、ルイズは堪えきれず一筋の涙を流した後、使い魔の末路を伝えた。
その問いかけに、ルイズは堪えきれず一筋の涙を流した後、使い魔の末路を伝えた。
「これが……この『緋涙晶』が……ダネットです……」