あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

お前の使い魔 22話


 ルイズだったモノが、部屋をぐるりと見渡す。
 動くものが一つ、動かないものが二つ、世界が一つ。
 今、彼女に残っている感情は二つ。
 一つは、全てに対する憎しみ。そしてもう一つは、殺意にも似た――

「……喰いたい」

 ――食欲。

「これがきみの力だというのか……?」

 小さな身体の目の前にいる食べ物が、当たり前のことを言っている。
 当たり前? 何が? なんだっけ? なんだろう?
 何か大切なことがあったはずなのに、よく思い出せない。

「ダ……ト……」

 そうだ、思い出した。お腹が空いてるんだ。
 じゃあどうしよう? どうしよっか? どうするの?

「何を言っているんだ? もしや、意識が無いのか? ならばこのチャンス逃しはしない!!」

 小さな身体の前にいる食べ物が、こっちに走ってくる。
 右手をこっちに突き出してる。
 これ、邪魔だ。

「が……あああああああっ!! 俺の……俺の腕が!! くっ……! いいだろう、目的は一つは達した。ここは引こう。その力も惜しいが、『レコン・キスタ』の軍勢に斬りさかれて死ぬがいい!!」

 どこいくの? 駄目だよ。逃がさないよ。
 どうせ……大きな身体からは逃げられないんだからね。


「冗談でしょ……?」

 巨人へと近付くにつれ、その大きさに冷たいものを感じてたあたし達は、更に信じられないものを目の当たりにした。

「あんなもん喰らったら一巻の終わりだぞ青い髪の娘っ子! かわせ!!」
「駄目、近付きすぎている」
「ひぃぃぃっ!!」
「きゅいきゅいきゅい!」

 皆が口々に叫ぶ。
 タバサの言った絶望的な言葉が、足元からぞわりと押し寄せ、全身の力を奪う。
 だけどあたしは、まだ死ぬ気なんて更々無い。

「やってみなきゃわかんないでしょタバサ!! 絶対に諦めちゃ駄目よ!!」
「……」

 言葉なく頷くタバサを見て、少しだけ皆の顔に血の気が戻るも、事態は何一つ解決してない。
 巨人の中心から漏れる光は、明らかにあたし達、いや、この辺り一帯を狙ってる。
 巨人の大きさと、光の巨大さから考えて、例え風龍だろうとかわしきれないと頭ではわかってる。

「だからって、これで諦めるようじゃ、これから先あんた達をからかえなくなるでしょ……待ってなさいルイズ、ダネット。あたし達は絶対に死なない。こんなとこで死んでたまるかってのよ!!」


 誰かが呼んでます。誰かを呼んでます。泣きながら私を呼んでます。

「ダ……ネ……」

 あいつが泣いてます。お前は昔から泣き虫です。
 大丈夫ですよ。私はここにいます。だから泣き止んでください。
 この隠れ里にいる皆は、とても優しいんです。
 きっとお前も、この里が大好きになりますよ。

「…………ト……」

 まだ泣くんですか? うー……。ああもう、仕方ありませんね。じゃあ、お前に教えてもらったあの歌を歌ってあげます。
 だからもう泣かないでください。
 私は、ずっと、お前と一緒です。


「……メァ……ラー……リー……ソァ……」

 何か聞こえる。これはなんだ?
 わたしが、俺が、何か思い出す。

「ファー……ス……ラー……」

 唄だ。ずっと昔、わたしが、俺が、聴いていた子守唄。

「シーフォー……ミ……オ……」

 誰だ? 誰がこれを唄ってるんだ?
 わたしは、俺は、いつこれを聴いていた?

「フィーメァー……ローサー……マレー……」

 助けて、ここはとても暗いの。
 助けて、わたしはこんなとこにいたくない。もう戻りたくない。

「……ソァ……フェー……ナー……」
「ダ……ネッ……ト……」

 わたしは、俺じゃない。
 ダネットの主人、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールだ。


「絶対に寿命が5年は減ったわ……この代償はいつか払ってもらいましょみんな」

 あたしの軽口に、タバサとギーシュが頷く。
 さっきまで光を溜め込んでた巨人は、なぜか風のように消え去り、さっきまでの光景が嘘だったようにも思える。

「でも、一体あれは何だったんだ? 君は知ってるのかい?」
「……」

 ギーシュの問いかけに、デルフは沈黙で返す。
 まあ、その辺の話は後でじっくりと聞くとして、今は。

「タバサ、頼むわよ!」
「わかった」

 返事をすると同時に、速度が増したのがわかった。

「さっきので死んでたりしたら、承知しないわよ二人とも!」



「駄目よダネット! 勝手に死んだら許さないわよ!!」
「えへへ……お前は……怒って……ば……かり……です……」

 ダネットの歌で我を取り戻したわたしは、必死にダネットを治療していた。
 しかし、治療と言っても、わたしに水の系統の魔法が使える訳でも無く、ここには水の秘薬もないので、出来ることといったら傷に布を巻いて止血することぐらいだ。

「血が止まらない……どうして!? 止まんなさいよ! 死なせない! 絶対に死なせないんだから!!」
「ごほっ! げほっ!!」

 ワルドの一撃で開いた胸の穴からはとめどなく血が溢れ、当てた布をすぐさま真っ赤に染め、咳をする度に口からも血が溢れる。
 ふと、所々血で濡れたダネットの手が、わたしの手に触れた。
 その手は、驚くほど冷たく、嫌でも彼女の命が燃え尽きそうなのがわかった。

「ダネット……」
「お前……私を……置い……行き……なさ……い」

 ダネットの提案に、わたしは首を横に振って抵抗する。

「優し……ですね……お前は……」

 そう言って、ダネットは少しだけ微笑んだ後、悲しそうな顔になって口を動かす。

「すみ……ませ……ん……最後……でまもれ……なくて……」

 まただ。また謝られた。
 違うでしょ、謝らなきゃいけないのは、あんたを突然呼び出して、こんな目にあわせたわたしでしょ?
 第一、わたしは約束したじゃないか。

『だけど、もし……もしあんたの話が本当だとわかったら、わたしは心からあんたに謝ろうと思う』

 あんたと最初に出会ったあの日の夜、わたしは約束したじゃないか。
 今ならわかる。あんたの言ったことは真実だったと。

「あんたがわたしを守るなら、わたしだってあんたを守るの!! だから……だから死なないでよダネット……」

 わたしの言葉を聞いたダネットは、心底申し訳無さそうな顔をした後、静かに目を閉じた。

「ダネット!! ダネット!!」

 死ぬ。ダネットが死ぬ。魂が抜けていく。
 駄目だ。死んじゃ駄目だ。死なせちゃ駄目だ。

「死なせて……死なせてたまるもんですか!!」


 巨人のいた場所に当たりを付け、小さな礼拝堂を見つけたキュルケ達一行は、礼拝堂の中のルイズを見つけて安心すると同時に、一つの不安が胸をよぎっていた。
 理由は、探してた二人のうち、一人しか見つからなかったから。そして、見つけた一人が血だまりの中で立ち尽くしていたから。
 自分達を目の当たりにしても虚ろな目をしたルイズに不安を覚え、キュルケがデルフへと問いかける。

「怪我は無いみたいだけど……『アレ』はルイズよね?」
「……多分な。少なくとも正気はあると思うぜ」

 その答えを聞き、安心したキュルケはルイズへと近寄り、呆けたままのルイズの横顔を平手で叩き、肩を掴んで怒鳴るように問いかける。

「しっかりしなさいルイズ! ダネットはどこ!? あの子は無事なの!?」

 衝撃で我に帰ったのか、ルイズは目に光を取り戻した後、キュルケを前に涙をこぼした。

「わたしは……メイジ失格よ……」


 キュルケ達に助けられ、トリステインへと戻ったルイズは、アンリエッタの居室にてアルビオンで起きたことを報告していた。
 報告の中で、アンリエッタはワルドの裏切りに驚き、皇大使の最後を聞いた後、ルイズの渡した『風のルビー』を握り締め涙を流す。
 こうして、長いような、短いような旅の報告を終えた。
 巨人と、一人の使い魔のことを除いて。

「それでルイズ、ダネットの姿が見えないようですが、もしや酷い怪我をしたのではありませんか?」

 先ほど、転げるように王宮の中庭へと入ってきた一団の中に、ダネットの姿が無かったことで、もしやと思い口にする。
 ルイズは、アンリエッタの言葉に、俯いたまま首を横に振ることで答える。

「まさか……いえ、そんな訳……」

 嫌な想像を、頭を振って消し去る。
 そんなアンリエッタの姿を見たルイズは、ぐっと唇を噛み締めた後、搾り出すように告げる。

「ダネットは……生きています……」

 そして、ふところから一つの結晶を取り出す。

「ルイズ……? この赤い石はなんですの?」

 意味がわからず、アンリエッタが問いかける。
 その問いかけに、ルイズは堪えきれず一筋の涙を流した後、使い魔の末路を伝えた。

「これが……この『緋涙晶』が……ダネットです……」


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