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ルイズと無重力巫女さん-21



「みんなー、昼食よぉ!」
のどかな昼食時を迎えようとしているウエストウッド村に、ティファニアの声が響いた。
その声を聞き、彼女の自宅の周りに建てられている他の小屋から子供達が何人もやってくる。
子供達は森との境界が曖昧なティファニアの家の庭へ、ゾロゾロと吸い寄せられるように集まってきた。
設置されている椅子に子供達が全員座るとティファニアはテーブルの上に料理を並べ始めた。
どうやら今日の献立は鶏肉のクリームシチューと白パンのようだ。
料理を並べ終えたティファニアは席に着き、子供達と軽い食前のお祈りをした後、食事を始めた。
お腹が空いていた子供達はスプーンを手に取ると目の前にある皿に盛られたシチューをガツガツと食べていく。
ティファニアはそんな子供達を見て軽く微笑むと、自分の向かい側に座っている霊夢に視線を向けた。

霊夢は周りにいる子供達の声に顔を顰めることなく、シチューを口の中に運んでいく。
子供達はそんな霊夢を見て何が面白いのか、何人かが笑っていた。
やがて数十分経った頃には子供達は昼食をペロリと平らげ、途端にティファニアにじゃれつき始めた。
「おねーちゃん!遊んで遊んでぇ!」
「こ、こらあなた達…今日はお客様が来てるのに…。」
ティファニアが困った風にそう言うと、白パンを食べようとしていた霊夢がティファニアに言った。
「あぁ、私のことは気にしなくても良いわよ。」
霊夢はそう言うと手に持ったパンを千切ることなくそのままかぶりつき、一気に噛み千切った。
もしもこの食卓に貴族がいたとしたら、霊夢に『食事のマナーがなっていない!』と怒鳴っていただろう。

「でも…まだ私は食事中だし、せめて私が食べ終わってからね?」
ティファニアは申し訳なさそうに子供達にそう言った直後―――

 ズ ボ ッ ! 

いきなり誰かがティファニアの胸に顔を埋めた。

その人物は、霊夢をロシュツキョウ呼ばわりした少年、ジムであった。
突然の彼の行為に周りにいた子供達は驚き、ついで霊夢も目を丸くしてしまった。
「うわぁ~…テファお姉ちゃん、ママみたいだぁ…。」
胸に顔を埋めていたジムは満足そうに呟き、ティファニアの顔が真っ赤になった。
「何を言うのよジム!!変な事はやめなさいっ!」
そう怒鳴るものの、ジムは一向に胸の間から顔を出さなかった。
正午だというのにこんなショッキングな光景を見せられた子供達はゲンナリとし、うち何人か「いつもの事だよな…」と呟いた。
「…?いつもの事って、毎日あんな事してるの?」
その言葉を聞いた霊夢はジムを指さしながらその子供へ話しかけた。

「えっ…?う、うんいつもの事なんだよ。ジム兄ちゃん、もう十歳なのに…。」
話しかけられた子供はウンザリしたようにそう呟くと大きなため息をついた。







幻想郷にある大きな湖のほぼ中央にある離れ小島の上に紅魔館という大きな洋館がある。
まるで侵入者を拒むかのような場所に建てられたこの館には世にも恐ろしい悪魔の眷属、『吸血鬼』がいる。
かつては幻想郷を舞台に縦横無尽に暴れ回ったこともあり、今では妖怪達との契約で当時より大分おとなしくなってしまった。
それでも、以前に幻想郷を紅い霧でつつむという『紅霧異変』を起こしたことで再びその驚異を知らしめる事となったのである。



紅魔館の廊下は無駄に大きい。
掃除するにも大人数でしなければいけなく、多数の妖精メイド達が掃除用具片手に廊下を飛び回っている。
そんな廊下の真ん中を、威風堂々と歩く一体の吸血鬼と一人の人間がいた。

「全く、霊夢がいなくなってからどうもそわそわして落ち着かないわね。」

紅魔館の廊下を、メイド長を連れて歩きつつ、そう呟く者はここの主であり運命を操る程度の能力を持つ吸血鬼、レミリア・スカーレットであった。
かつては幻想郷で暴れ回り、さらには異変すら起こし博麗の巫女と戦った彼女は一見すればただの少女である。
だがしかし、その背中には自身の身長よりも大きい蝙蝠のような翼が生えている。

「そう言うお嬢様は、いつもと変わりないように見えるのですが。」

レミリアの後ろにいた銀髪の少女がさらりと言った。
彼女の名前は十六夜 咲夜。この紅魔館の瀟洒なメイド長で、この紅魔館に住み込みで働いている唯一の人間だ。
時間を操る程度の能力を持っており、更には空間をも操ることが可能である。
一応ナイフ投げと手品が得意で、ナイフ投げだと二十間離れた場所に居る頭上に林檎を載せた妖精メイドの額に当てることなど造作もない。

「あなたにはいつもと変わりなく見えても、今の私は本当に今の幻想郷の現状が不安なのよ。
 今日の昼食や夕食が喉を通りそうにないぐらいにね?」

レミリアは咲夜の方へ顔を向けるとそう言った。
そう言われた咲夜は、その通りなのかも知れないと思った。
今朝早くにあの八雲紫がここ紅魔館でレミリアを含めた何人かで話し合いをしていた。
それが終わり、話し合いをしていた部屋から出てきたレミリアの顔は何処か青ざめていた事を思い出した。
ついでに、朝食を食べた後に落ち着きがなさそうに羽をパタパタと動かしてグルグルと部屋の中を回っていた事も思い出した。

まぁその事は置いておくとして、要は今のレミリアは本当に落ち着いていないという事だ。
そう考えた咲夜は、一度だけ頷くと口を開いた。

「そうですか、では今日のおやつのブラッドソース入りのティラミスと紅茶は出さないでおきますね。」
その言葉にレミリアはぴたりと足を止める、後ろにいる咲夜に顔を向けた。
「…咲夜、今日のおやつは図書館の方に三人分持ってきてね。あの白黒もいると思うから。」
相変わらず、前言撤回を良くするお嬢様ねぇー…と咲夜は心の中で思った。

紅魔館の地下には大図書館が存在している。
そこには古今東西ありとあらゆる書物が保管されているのだ。
誰にでも読める普通の本から、一部の者にしか読めない魔法や妖術、錬金術について書かれている本、ページを捲ったら呪われる曰く付きの本まで幅広くある。
何よりも一番の特徴は、その図書館があまりにも『大きすぎる』という事だ。
例え、人生を幾万回繰り返そうがここにある全ての本を読破することは不可能に近い。
そんな図書館の一角で、一人の『人間』の少女と一人の『魔女』が椅子に腰掛け黙々と本を読んでいた。

テーブルには読み終えた数々の書物が二つの小さな塔を築いており、その中に紛れて魔法使いが被るような黒い帽子があった。
その帽子の持ち主である少女は、まるでファンタジー小説の中に出てくる魔女みたいな黒白の服を着ており、その上に白いエプロンをつけている。
彼女の名前は『霧雨 魔理沙』。魔法使いが職業の普通の人間である。
魔女の方はというと、見た目からして人間の少女よりかは少し年上に見える。
紫色のリボンと太陽と月を模した飾りをつけた白いナイトキャップを頭に被っており、ゆったりとしたワンピースの上に前の開いたローブを身に纏っていた。
藤色の髪は腰まで伸びており、アメジストの様な色の瞳を持っていこの魔女の名前は『パチュリー・ノーレッジ』という。
魔理沙とは違い人間ではなく、魔女という一つの種族に属している。
パチュリーの一日は読書と魔法の開発に費やされている。
新しい魔法が生まれると魔導書に書き込み、本を増やしていく。
ただ体力が非常に弱く、身体能力は普通の人間にすら劣る。
また喘息持ちであるということもあるためか余程の急用でなければ館の外へ出るということはない。
一方の魔理沙は年相応の活発敵でやんちゃな性格の少女である。
彼女の家は魔法の森にあり、その事もあってか魔法に使う材料の化け物茸があちこちに生えている。
良く森を散策しては地道に茸を摘み取ったり、幻想郷では見かけることがない物―――例えば道路標識など――を家に持って帰っている。
また良く他人の本や物を「借りてくぜ。」の一言で許可無く持っていくこともあるが本人はあまり罪悪感を覚えていない。特に本類に関しては。

魔理沙は良くこ紅魔館に来ては本を読み、気に入った本があれば家に持って帰る。
今日もまたこの二人は向かい合って座り読書をしていた。
パチュリーはいつものように眠たそうな表情で本を読んでいる。
魔理沙の方はというと、いつもとは違いどこか気むずかしそうな顔をしていた。

そんな彼女が気になったのだろうか、ふとパチュリーが声を掛けた。
「どうやらもの凄く疲れが溜まってるようね。…まぁ大体察しは付くけど。」
話しかけられた魔理沙は本から目を離し、パチュリーの方へ顔を向け口を開く。
「…数週間ぐらい人捜しでずっと外飛び回ってたら誰でもこうなるぜ。」
疲れた風にそう言った魔理沙は本を閉じて机に置くと盛大なため息をついて椅子にもたれ掛かった。


紫を除き、霊夢がいなくなったのを最初に確認したのは魔理沙であった。
霊夢が光る鏡(召喚ゲート)に飲み込まれてから翌日、博麗神社へと立ち寄った彼女は霊夢がいない事に気が付いた。
この時間帯ならいつも縁側に座ってお茶飲んでいる彼女の姿はなく、一応神社の中も捜したがその姿は見えなかった。
買い物にでも行っているのかな、と思った魔理沙は一度神社を後にし夕方になってからもう一度神社を訪ねた。
ところが、夕方になっても霊夢は神社の何処にもおらず、流石の魔理沙も何かあったと悟った。
(こりゃタダ事じゃないな…。ひょっとすねとまた何か異変でも起こったのか…?)

だとしたら霊夢が一日中神社にいないのも理解できる。
ならばこうしちゃいられないと思った魔理沙は箒に跨り幻想郷中を飛び回った。
だけども、何処にも異変と思えるモノは無く霊夢の姿も見つからない。
夜中の丑三つ時を過ぎたときには流石の魔理沙も眠くなってしまい、一度自宅へ帰る事にした。

その翌日、玄関に置かれていた文々。新聞に書かれていた記事を見た、魔理沙は無意識にこう呟いた。
「おいおい、エイプリルフールはとっくに過ぎてるぜ…。」
何せ【博麗の巫女神隠しに遭う!】というタイトルがデカデカと書かれていたら幻想郷の住人なら誰だって驚くに違いない。
更に巫女が居なければ幻想郷が潰れてしまうと言う事を知っている者なら尚更驚く。
その記事を見た魔理沙は「神隠し」という言葉を聞いて即座にあの胡散臭いスキマ妖怪を思い出した。

(まさかあいつの仕業か…?だとしてもどういう風の吹き回しだ?)
あれ程幻想郷を愛して止まない妖怪がどうしてここを維持するのに必要な博麗の巫女などを攫うのだろうか?
そんな疑問が頭の中に渦巻いていたがとりあえず善は急げと言うことで、魔理沙は急いで八雲紫の住んでいる場所へと向かった。
しかし、あの紫は住んでいる場所はそうカンタンにたどり着ける場所ではない。
その為魔理沙は、何か手がかりは無いかとこの図書館へと足を運び――今へ至る。



「全く、手も足も出ないとはこういうことだな…。」
魔理沙が一人呟いた時、後ろから足音が聞こえてきた。
誰かと思い二人が後ろを振り向くと、そこにはレミリアがいた。
「あらレミィ、珍しいわね。ここ数週間は見ていなかったわ。」
パチュリーが挨拶代わりにそう言うと、レミリアはそれに手を軽く振って応えた。
「確かに、ここに足を運んだのは大分久しぶりといったところかしら。まぁ今日はちょっとした事を話そうかと思ってね。」
レミリアは一つあったイスを手元に寄せてそれに腰掛け、パチュリーも再び本に視線を戻す。
魔理沙も軽く手を振ってレミリアに挨拶をした時、突然後ろから声を掛けられた。

「あらあら、随分お疲れの様子ね。」
その声に多少驚いた魔理沙は思わず後ろを振り向くと、トレイを持った咲夜がそこに佇んでいた。
「なんだ咲夜か。お前のお陰で寿命が二、三年縮みそうだぜ。」
「あらそう、ならこれから貴方が来るたびにこういうドッキリをしてみようかしら?」
咲夜が冗談かどうかわからない風にそう言うと瞬間、テーブルの上にあった大量の本がパッと消えてしまった。
しかしこの場にいる誰もがそれに驚くことはなく、咲夜はテーブルの上に本日のデザートを並べ始めた。





昼食が終わったウエストウッド村の広場では子供達が追いかけっこをしていた。
その様子をティファニアは窓から見つめており、霊夢はイスに座って食後のお茶を飲んでいる。
先程までティファニアにまとわりついていたジムは満足したのか今は男の達と一緒に木登りをしていた。
笑いながら遊ぶ子供達は、まるで森の中を嬉しそうに飛び回っている妖精のように見えた。

「身寄りのない子供達を集めてね、みんなで暮らしてるのよ…」
ティファニアは元気に駆け回る子供達を眺めながら、ポツリと呟いた。
「で、あんたが身の回りの世話と食事を作っている分けね?」
丁度お茶を飲み終えた霊夢はティーカップをテーブルに置くとそう言った。
霊夢の言葉にティファニアはコクリと頷くと話を続けた。
「それでね、昔の知り合いが生活に必要なお金を送ってくれるの。ついでに時々そのティーカップのような豪華な品も付けてね。」
ティファニアの言葉に霊夢は今更ながら、テーブルに置いたティーカップが売ればかなり高値で売れそうな物だと分かった。
他にもちゃんとしたレンガ造りの暖炉やしっかりと取り付けられているドアを見るに、その『知り合い』というのはかなりの金持ちのようだ。
だがそれ以上の事には霊夢は興味を持たなかった。 ―――――――その時。


「キャァー!」             「出たぁっ!!」
         「ウワッ!!」
                  「化け物だっ!!」

突如外から子供達の叫び声が聞こえティファニアは思わず席を立ち、霊夢は目を細めた。
一体何事かと思っていると、ドアを開けて外で遊んでいた子供達が家の中になだれ込んできた。
「どうしたのあなた達!?」
ティファニアは床にへたり込んでいる子供達に近づき何があったのか聞いた。
「も、森の中にとても大きな牛の化け物がいたの…後、手には巨大な斧を持ってた。」
金髪の女の子が目に涙をためながら肩で呼吸しながらティファニアにそう言った直後、外から子供達の悲鳴が聞こえた。
ティファニアが慌てて窓の外から様子を見てみると、木に登っていた男の子達が木の上で固まりガタガタと震えていた。
その中にはティファニアにかなりの好意を寄せていた少年のジムもいる。


どうみても冗談には見えないその様子に、ティファニアは不安を感じた。
「あぁ大変…!すぐに助けないと!」
彼女はそう言うとすぐさまドアを開けて外へ出て行った。
彼女に取り残された子供達は、唯一この場で年齢の近い霊夢に近寄った。
「ちょ、ちょっと…。」
当の本人は少し困惑しながらも、子供達を追い払うということはしなかった。
そんな事をするよりも、今は村の外にちらほらと現れている異様な気配を察知するのに集中していた。
ついでテーブルの方へふと目をやると、一本の杖が置かれているのに気が付いた。


外へ出たティファニアは一目散にジム達がいる木の下へと向かった。
「テファお姉ちゃん!」
木の上で泣いていたジムは木の下へやってきたティファニアを見て安心した顔を見せた。
「もう大丈夫よ。さぁすぐに降りてきて。」
その言葉に男の子達はノロノロと木の上から降りてきてはティファニアに抱きついていく。
最後にジムが木から降りたのを確認するとティファニアはもう一度辺りを見回した。
村の中には子供達が言っていた『牛の化け物』はおらず、鬱蒼とした大木が群生している村の外はよく見えない。
とりあえずはこの男の子達に何を見たのか聞いてみることにしたティファニアは一番近くにいたジムに話しかけた。
「一体何があったのジム?みんなは化け物がどうとk――」


ウ ル ゥ オ ォ ォ オ ォ オ ォ ォ オ ォ ォ … ! !


その瞬間、もの凄い叫び声と共に木が倒れる音が聞こえてきた。
ハッとした顔になったティファニアは後ろを振り向き、そこにいた化け物を見て驚愕した。

身長は約2.5メイルもあり、見る者を圧倒させる程の立派な筋肉が体中に盛り上がっている。
右手には今丁度この場にいるジムと同じ大きさの手斧を持っており、その斧で足下に転がっている大木を切り倒したのだろう。
何よりその化け物の頭部は正に『牛』そのものであった。比喩や冗談では無く、正真正銘の牛頭の人間である。
縮こまっているティファニア達に槍のように真っ直ぐ向けている角はニスでも塗ったかのように黒く光り輝いている。
ハルケギニアに生息している亜人達の中でも吸血鬼と翼人を抜き、エルフの次に危険視されている怪物。
ある程度の知能と恐ろしい程の体力を持つ『ミノタウロス』と呼ばれている亜人が、今ティファニア達の目の前にいた。

「な…何あれ…?」
ティファニアは斧を片手にこちらを睨み付けている牛頭の化け物を見て唖然としていた。
彼女はミノタウロスについては全く知らないが、あの化け物からとんでもない殺気を感じていた。
ミノタウロスはその大きな足で村と外の境界線である柵を蹴り飛ばし、村の中へ入ってきた。
荒い息音を口からだし、ティファニア達を凝視しているミノタウロスの目は何処か違和感があった。
水色に薄く発光している瞳は、『まるで誰かに操られている』ような虚ろな印象を見る者に与える。

村の敷居へ入ってきたミノタウロスを見て子供達が悲鳴を上げると同時に、ミノタウロスが叫び声を上げて歩き始める。
ティファニアは咄嗟に腰の方へ手を伸ばすがいつもならある筈の『杖』の感触がないことに目を見開いた。
(しまった…!杖は何処かに置いたままだったんだわ…)
そんな後悔も既に遅く、ミノタウロスはもう間近に迫っており、叫び声を上げつつ斧を振り回して周りの物全てを破壊しながら近づいてくる。
せめて子供達でも逃がしたいが、その子供達は全員腰を抜かしておりとてもではないが逃げてもすぐに追いつかれてしまうだろう。
ならばとティファニアは怯えている子供達の前に立ちはだかった。
ミノタウロスは彼女の直ぐ傍でその足を止めると、人間とは比べものにならないほどの巨大な左拳を振り上げた。

もうここまで。と感じたティファニアは瞳を閉じようとしたが、体が思い通り動かず逆に思いっきり見開いていた。
人間いざという時には死の恐怖に怯えつつも両目はキッチリと開いているときもあり。今のティファニアこそ正にそれだ。
拳を思いっきり振り上げたミノタウロスは叫び声を上げて拳を振り下ろそうとした直後―――その拳が突如爆発した。
ティファニアやその後ろにいた子供達には、最初何が起こったのか分からなかった。
ただミノタウロスが黒煙に包まれた左手を押さえ悲鳴を上げているのはすぐに理解した。
そんなとき、ティファニア達の後ろから誰かの声が聞こえてきた。

「本当、私がいる時だけに限ってこういうタチの悪そうな奴が出てくるのよね。」

余裕を含み、されど目の前の化け物に対して油断をしていない響きの声。
聞き覚えのある声にティファニアは後ろを振り向き、そこにいる少女を見て驚いた。
「あ、貴方は…。」
ティファニアはそう呟き、最初に出会ったときとは違う雰囲気を発している少女に驚きを隠せなかった。
緑一色に染まっている森に覆われた村の中では非常に目立つ紅白の変わった服を着こなし、赤色の大きなリボンを頭に付けている。
その手にはある程度の装飾を施された細長い杖を握りしめており、しっかりとした足取りで此方の方へやってくる。
しかし、ティファニアが驚いたところは…赤みがかかった黒色の瞳から発せられる気配であった。
今まで感じたことのない――あの母を殺した騎士達を怯ましてしまうかもしれない程の凄みを、目の前にいる霊夢は発していた。

「ま、そういうのは退治すればすむ話だけどね。」

霊夢はそう言い捨てると右手で懐からお札を取り出し、それをミノタウロスへ向けて投げ放った。



――――とまぁ、私と一部の連中は紫が作った隙間をくぐって無事その世界へ乗り込み、霊夢を連れて帰って…ハイお終いってわけよ。」
レミリアはその一言で話を終えるとティーカップの中に入っている紅茶(稀少品入り)をゆっくりと飲んでいく。

数分前――――デザートタイムの始まりに伴いレミリアはこの場にいる全員に今朝紫達と話し合った事を喋っていた。
次々と吸血鬼の口から出てくるこの異変の真実に、この場にいる三人はまさか…と思い。様々な反応を見せてくれた。
咲夜の場合は、「それなら見つかるはずありませんね。」と心配していないような感じでそう言った。
パチュリーの場合は、「異世界ねぇ…。とすると私がまだ読んだことのない本があるのかしら。」と霊夢のことなどどうでもいいという感じである。
そして魔理沙はというと…

「出来れば私が行きたかったぜ。だってさ?幻想郷やその外の世界とかいう場所とは違う世界があるって知ったら誰でもワクワクするだろ?」

と、みんな大して危機感を感じているという事はなく、レミリアも『予想通りの返事』を聞けて満足していた。



まぁ霊夢の事だからその異世界とやらでも暢気に過ごしながらかつ幻想郷へ帰る方法を探している最中だろう。
今回の異変の真実がまだわからなかった時は誰もが不安になっていたが一度真実を知れば、霊夢のことを知っている人間は安堵してしまう。
途中、レミリアが話していた「幻想郷を覆う結界がおかしくなっている」という事も、霊夢が帰ってくればあっという間に解決してしまうだろう。
やけに明るい雰囲気に包まれた図書館の中で、ふと魔理沙が冗談交じりでレミリアにこう言った。

「それにしても、紫とお前がその世界へ乗り込んで霊夢を連れて帰るのはいいがお前が行くと大変な事になりそうだな。
  もしかしたらお前さんの事だ、向こう百年は草木が生えない大地を幾つも作るかもな?」

そう言った魔理沙は何が可笑しいのかクスクスと笑い始め、それにつられてレミリアと咲夜も微笑んだ。
まるで無邪気な子供の様に微笑んでいるレミリアは、まだ笑っている魔理沙にこう言った。


「スゴイわね魔理沙、今私の考えている事をズバリ言い当てるなんて。」


レミリアの言葉に魔理沙は笑い飛ばしたが、その表情は変わらない。
やがて笑い声も段々と小さくなり魔理沙はレミリアの血の色にも似た瞳を見つめ、彼女が冗談を言っていないことに気が付いた。
「れ、レミリア…?」
「幻想郷に居を構えている私にとって、幻想郷は私の庭同然なのよ。」
流石に魔理沙も雰囲気から察してレミリアの言葉に冗談が混じってないことに気が付いた。
パチュリーは再び本のページに目を戻し、咲夜に至っては顔に浮かべた微笑みが何処か異常なモノに見えてくる。
レミリアはイスから腰を上げるとゆっくりと、だけどしっかりとした歩みで魔理沙の傍へ近寄り、耳打ちした。

「あなたは許せるかしら?他人に自分の庭を飾るのに一番大切な物を勝手に奪われ、尚かつその庭を守るレンガに落書きをするような下衆共を。」
そう言い放つ吸血鬼の瞳のは先程よりも紅く、そして禍々しく輝いている。
まるで幾千万もの人々の血を搾り取ってそれらを全てゴチャ混ぜにしたような色をしていた。



一方そのころ、ウエストウッドの森では一つの戦いが起こっていた。
人を襲う異形の者達を狩る霊夢と迷宮に潜む怪物ミノタウロスとの戦いが――

「ハッ!」
宣戦布告として霊夢が投げつけたお札は何の迷いもなくミノタウロスの方へ飛んでいく。
ミノタウロスの方はそのお札を右手に持っていた斧で切り払った。
切られたお札は爆発を起こしたが、驚くことにその斧には傷一つ付いていなかった。
今こそ反撃といわんばかりにミノタウロスは叫び声を上げ、霊夢とその後ろにいるティファニア達の方へ突進を始めた。


「み、みんなはやくこっちへ…!」
化け物がこっちへ来ることに気が付いたティファニアはハッとした表情になるとすぐに子供達を連れてその場から逃げ出した。
ティファニア達が逃げた事を確認した霊夢は、すぐさま飛び上がりミノタウロスの突進をかわした。
かわされてしまったミノタウロスはそのまま霊夢の後ろにあった藁葺きの家に激突した。
今度は御幣を振り回し大量の菱形弾幕と左手に持ったお札をミノタウロスに向けて放った。
結果、お札と弾幕同士が反応して大爆発を起こしてしまい辺り一帯は爆煙に包まれた。

流石にやりすぎたのか、煙が晴れた後には地面に生えていた草が綺麗サッパリ無くなっていた。
ミノタウロスによって壊された藁葺きの家も木っ端微塵に吹き飛んだが、肝心のミノタウロスはムクリしその体を起こした。
霊夢が軽く舌打ちすると、その舌打ちを聞いたミノタウロスがうめき声を上げて上空にいる敵へと顔を向けた。
その顔―――もといミノタウロスの瞳を見た霊夢はすぐに目の前の牛頭の様子がおかしい事に気が付いた。
(あのボーッとした瞳…どうみても誰かに操られてるわね。)
一体誰があんな馬鹿みたいに頑丈な化け物を操っているのかはどうでもいいが、非常に面倒である。
術によってはあまり痛覚を感じさせないようにも出来るからどんなに攻撃を仕掛けても操られている相手に大ダメージを与えるのは難しい。

(まぁいいわ。どっちにしろこの一撃で…)
霊夢は一旦素早く着地するとスペルカードを出そうと懐をまさぐっていた時、


――――ナウシド・イサ・エイワーズ…


ふと、緩やかに歌うような声が後ろから聞こえてきた。
その声を聞いた霊夢はまるで憑きものが落ちたかのようにハッとした顔になると後ろを振り返る。


―――――ハガラズ・ユル・ベオグ…


うしろにいたのは、細い杖を握っているティファニアがいた。
一体どうしたのかと聞きたかった霊夢だが、なぜかこの『詠唱』を邪魔する気は起こらなかった。


――――ニード・イス・アルジーズ…


(なんだかわからないけど、段々と気分が良くなっていくわ。)
先程まであった戦意をすっかり無くしてしまった霊夢は、自然とティファニアの口から出てくる言葉に耳を傾けていた。
それと同時に、彼女の左手の甲がボンヤリと鈍く光り文字のようなモノが浮かび上がってくる。


―――――――ベルカナ・マン・ラグー…


その言葉と同時に、ミノタウロスは振り上げていた拳を二人目がけて振り下ろそうとし、
ティファニアもまた勢いよくミノタウロスに向けて杖を振り下ろした。




ラ・ロシェールの街から少し離れたところにある桟橋―――

日は大分前に沈んでおり、夜空には一つとなった月が浮かんでいる。
『スヴェルの夜』と呼ばれる今宵はいつもより騒々しく――――そして物騒であった。

「こっちだルイズ、ついてこい!」

杖の先を周囲に向けて誰もいないことを確認したワルドは後ろにいるルイズを連れて階段を上り始める。
枯れてしまった古代樹から作られた『桟橋』は夜のためか人影一つ無かった。
ルイズは肩で呼吸をしながら一生懸命走ってワルドの後を追って階段を上っている。
老朽化を始めている木の階段は体重を掛けるたびにギシギシと軋み、壊れるかも知れないという不安感を募らせている。
やがて途中にある踊り場まで来た二人は一度足を止め、辺りを確認した後ルイズはワルドに話しかけた。

「まさかレコン・キスタの刺客があんなに沢山来るなんて…流石に予想もしていませんでしたわ。」

――事は数十分前に上る。
「出航は予定通り明日の早朝だ。今の内に荷造りをしておこうか。」
「わかりました子爵様。」
明日はアルビオン行きの船が来るということで、ルイズとワルド子爵は泊まっていた宿で荷造りをしていた。
ルイズがアリンエッタから預かったアルビオン王族派のウェールズ皇太子へ送る手紙を懐へしまったとき、それは起こった。
ふとワルドが開けっ放しにしていた窓へ目をやった直後、窓の外から一本の矢が飛んできた。
飛んできた矢はそのままテーブルに刺さったが、瞬時に二人はある程度予想していた事を思った。

「レコン・キスタの刺客がやってきた!」

一体どうやってこの任務を知られたのかはわからないが、ばれてしまっては仕方がない。
二人は荷造り途中の荷物を放棄すると、必要最低限のモノを持って宿の裏口から出ようとした。
しかし、下りた先の一階には…いつの間にか物騒な獲物を持った傭兵達が何人もいた。
まさかとルイズは思ったが、その傭兵達が二人の姿を見てきた瞬間攻撃してきたのだからあれは全員レコン・キスタの刺客だったのだろう。
なんとかワルド子爵が強力な魔法で全員を撃退することに成功し、裏口から外へ出たのだがそれから桟橋につくまでの間に何度も襲撃された。
一体どれだけの金額を払ったら、あれ程大量の傭兵達を雇えるのだろうか想像しにくい。

そうしている内に刺客の数も減っていき、桟橋に着く頃には誰にも会うことはなかった。


「よし、あと一息だルイズ。もう少し上ればアルビオン行きの船がある筈だ。」
ワルドの言葉にルイズは頷いて再び階段を上ろうとした瞬間、後ろから足音が聞こえてきた。
誰かと思いワルドが後ろを振り向くと、黒い影がさっと翻りワルドの頭上を飛び越えてルイズの背後に立った。
その正体は、白い仮面を顔に被っている男だった。
「後ろだルイズ!」
ワルドがそう叫んだ瞬間、仮面の男は一瞬にしてルイズを抱え上げた。
「えっ…?キャア!」
ルイズが叫んだのを合図に、男が軽業師のようにそのまま地面へ落下するようにジャンプした。
すぐワルドは、すぐに杖を引き抜きルイズを攫ってそのまま逃げようとする男へ向けて振り下ろした。
既に唱えていた『エア・ハンマー』が男に直撃し、その衝撃で掴んでいたルイズを手から離してそのまま地面へと落下していった。
間髪入れずにワルドがさっとジャンプし、ルイズをキャッチすると素早く呪文を唱えた。
すると風の塊が二人を包み、踊り場の方へと押し戻してくれた。

「あ、あ…ワルド子爵。」
一体何が起こったのかわからなかったルイズは少し唖然としながら目の前にいる男の名を呼んだ。
ワルドはそんなルイズを安心させようと彼女のピンク色の綺麗な髪を軽く撫でた。
「安心しろよルイズ、僕のルイズ。悪い賊は僕が全て退治してやったさ。」
その言葉でルイズはハッとした顔になり、安心したのか大きくため息をついた。
ついで、今自分がワルド子爵に俗に言う「お姫様だっこ」をされているのに気づき、顔を赤らめた。
「あ、あの…助けてくれたことは感謝しますけど、一人で歩けます。」
「本当に大丈夫かい?まぁ君が言うならそうだろうけどね。ところで、手紙の方は大丈夫かい。」
ワルドはそう言いつつルイズを地面へ下ろし、ルイズはすぐに手紙がちゃんとあるか確認した。
やがて一通り調べた後、手紙が無事だとわかりワルドの方へ顔を向けコクリと頷いた。


「よし、じゃあ急ごう。ここももう安全じゃあないみたいだ。」
「は、はい…!」
ワルドはそう言うと先頭をきって階段を上り始め、ルイズもそれに続いた。
幼馴染みの後をついて行く彼女の頬は林檎のように赤く、正に恋する乙女そのものだった。



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