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02.夢は時空を越えて


02.夢は時空を越えて(*1)


 幻想郷は滅亡の危機に瀕していた。
 その流れは穏やかで、しかし確実なものだった。

 予兆は、博麗神社の脇に湧いた間欠泉が止まったことだった。もっとも、この
間欠泉が湧いた経緯を知っている者は、「またそのうち湧くだろう」程度の認識で
あったが。何しろ、鴉のやることだ、何か間違えたか、忘れたかしたのだろう、
というのが大方の見方である。
 後で考えれば、もうこの時には地底との通路は塞がってしまっていたのだろうが、
確かめる術はもうない。水風呂に飛び込む羽目になった霧雨魔理沙が風邪を引いて
寝込まなければあるいは状況は違ったかも知れないが、それは言っても詮無きことだ。

 魔理沙が寝込んでいる頃、妖怪の山で大宴会が開かれた。鬼の伊吹萃香が
怪訝そうな顔で妖怪の山に現れたのが事の発端で、何でも天界に行けなく
なったという。
 とうとう閉め出されたか、という憶測はおくびにも出さず、対応に当たった天狗は
『酔いが足りないんじゃないですか?』と答えた。もちろん、鬼が酒を飲む口実を
見逃すはずもなく、大宴会と相成ったのだ。皆酒に酔い、天界に行けなくなった
理由を深く考えた者はいなかった。残念なことに。

 外の世界から流れ着くものが増えたのは、その魔理沙の風邪が治った頃だろうか。
大抵の用途はわからないものの、たまに説明書がついているものがあり、徐々に
それらで何が出来るのかが分かっていく。
 香霖堂にはそれらの品が所狭しと並んだが、あまりに普通に手にはいるので
買う人は皆無だった。

 妖怪の山に移転してきた神である八坂神奈子と洩矢諏訪子が、東風谷早苗を
見かけなかったか、と妖怪連中のところを訪ねてきたのも、この頃である。地底世界と
連絡が取れなくなったため使いにやったところ、そのまま行方不明になったというのだ。
 もちろん誰も見かけたものはいなかったのだが、それを納得させるのには少し
手間がかかった(*2)
 結局早苗の行方は杳としてわからなかった。まるで幻想郷からいなくなってしまった
かのように。

 またこの騒ぎの最中に明らかになったこととして、マヨイガがマヨイガでなくなった
ことがある。ここを住処としている化け猫である橙がミスティア・ローレライの屋台(*3)
泣きながら愚痴ったところによると、普通に人間がやってきて、好き勝手にものを持って
帰ってしまうらしい。
 主である八雲藍に訴えようにも、最近姿も見せてくれない、ということであった。

 その一週間ほど後、いつものように蓬莱山輝夜と喧嘩(*4)をした藤原妹紅が
自分の住処に戻ってくると、虚ろな目をした上白沢慧音が座っていた。
 聞けば、寺子屋に子供達が来なくなったらしい。来ても慧音の話を聞かず、
小さな箱(*5)に向かってなにやら一生懸命になっているそうだ。
 それは外から流れ込んできたものだというが、それになぜ子供達が熱中するのか、
二人には全く理解できなかった。

 子供達だけではない。豊穣の神である秋穣子が人間の畑に行くと、様子が一変
していた。機械が土を耕し、嫌な臭いのする薬が撒かれている。人間は嬉しそうな
顔をして、神様に手間をかけなくてもよくなったと喜んでいた。それが二人の小さな
神にどれだけ残酷な台詞かも気づかずに。
 話を聞いた秋静葉は、終焉ってこういうことじゃないのに、と呟いたという。

 時期を同じくして、輝夜の部下である鈴仙・優曇華院・イナバも異変に気がついて
いた。月の仲間からの声が、何も聞こえなくなったのだ。
 また、永遠亭に棲まう妖怪兎の数が減ってきている、という因幡てゐの報告もあった。
話によれば、突然普通の兎に戻ってしまうのだという。
 一体何が起きているのか。月の頭脳と呼ばれる八意永琳にも、まったく原因が
わからなかった。

 幻想郷のさらに奥、広大な庭で有名な白玉楼にも異変が起きていた。幽霊の数が
減ってきているのだ。今までも多少増えたり減ったりすることはあったが、ここまで数が
減ることはなかった。
 主である西行寺幽々子に命じられた魂魄妖夢が、幽霊を探して幻想郷中を飛び回る
光景が、この頃に見られている。

 そして、香霖堂の店主、森近霖之助がいなくなった。いつものように店は開いた
まま、彼の姿だけがどこを探してもなかったのだ。違いがあるとすれば、使い方が
分からなかったはずの機械の画面に、よく分からないものが映し出されていたこと
位であろうか。もっとも、彼がいなくなったことに関係あるかどうかは分からなかったが。

 もちろん、手をこまねいて見ている連中ばかりではない。
 博麗霊夢や霧雨魔理沙といった面々が原因を探ろうと試みてはいるものの、全て
徒労におわっていた。
 霊夢すら、「てゐの幸運を少し分けて欲しいわね」と愚痴るほどの状況である。

 そんなある日、霧雨魔理沙と共に夕焼けの中を飛んでいた博麗霊夢は、こんなことを
呟いたという。

「飛べない巫女に、意味はあるのかな……」(*6)
「なんだ突然。そもそも、普通巫女は飛ばないぜ」
「そうなんだけどね……」

 憂い顔と溜め息。勘のいい霊夢は何を感じていたのだろうか。
 しかし、それが霧雨魔理沙の見た、博麗霊夢の最後の姿だった。
 なぜなら翌日、幻想郷から博麗神社が消えたのだから。

 最初に気がついたのは魔理沙だった。昨日の霊夢の様子に胸騒ぎを覚えた彼女は、
朝一番に博麗神社に向かったが、その時にはもう神社にたどり着くことが出来なくなって
いた。神社に着く前に、結界に行き当たってしまうのだ。
 神社が結界の外に移動した? 違う。幻想郷が狭くなっている。
 その事実に気がつくのに長い時間はかからなかった。

 この様なことができる妖怪は一人しかいない。
 いつも共に酒を飲む連中が集まり、この妖怪を探そうとした矢先、当の妖怪の
式である八雲藍が皆の前に現れ、疲れた顔でこう言った。

「世界そのものが幻想郷に入ろうとしている」

 と。これが、全ての事件の原因だったのだ。

 原因は分かったものの、対応策はなかった。
 八雲紫が必死に抵抗していたものの、それでも博麗神社が消えることは防げ
なかったのだ。幻想郷そのものが、幻想郷を成す原則に従い、幻想郷を滅ぼそうと
している、ということになるのだろうか。

 何か手はないのか、と詰め寄る妖怪に、藍は主人の言葉としてこう告げた。

「幻想郷は全てを受け入れるのよ」

 紫の口癖とも言える言葉。これに続く句はみな知っていた。

「それはそれは残酷なことですわ」

 確かに、残酷なことが始まろうとしていた。妖怪達にとって。
 人間である博麗霊夢は生きているだろう。彼女は博霊の巫女である前に人間だ。
普通の、飛べない巫女となり、表の世界の博麗神社の巫女としてこれからの生を
過ごすのだろう。
 しかし妖精は? 妖怪は? 神は?
 彼女たちを信じるもの、恐れるもの、敬うものは、もう外の世界にはいない。
 自分たちの存在する拠り所がなくなっても、存在できるものなのだろうか?

 妖怪の山を中心に、物質、非物質を問わずに進入を拒む結界をはり、内部を
新たな妖怪の楽園とする。(*7)
 天狗の長から出された案に賛同する妖怪もいれば、拒む妖怪もいた。
 例えば同じ天狗でも、射命丸文の様に里に近すぎる妖怪はこの参加を拒んだ。
 閉じこもる、ということは変化がない、ということ。変化のない生活を過ごすと
いうことは、果たして生きているといえるのだろうか。
 何より彼女たちは、今の幻想郷の在り方に適応しすぎてしまっていたのだ。
 また、その妖怪の山の神となった筈の八坂神奈子と洩矢諏訪子も、否定的な
見解を示していた。理由を問われると神奈子は、外の世界から幻想郷に逃げ込んだ
理由を挙げた。曰く、東風谷の一族に信仰されるだけでは駄目だったのよ、と。

 そんな妖怪達の前に八雲紫が現れた。その姿からは普段の余裕がまったく
感じられず、妖怪たちは二重の意味でショックを受けた(*8)。それだけ力を消耗
している、ということなのだろう。
 その姿にみなが驚くより早く、彼女はとんでもない事を提案してきた。
 別世界で、新しい幻想郷を作らないか、というのである。

 その世界は、外の世界のように科学は発達しておらず、魔法が全盛で、人間達は
みな得体の知れない種族を盲目的に恐れている。そこで魔法使いの見習い達が、
使い魔を召喚する儀式を行っているという。その儀式に便乗すれば、今の紫の力でも
妖怪達を転送することができるらしい。
 使い魔をしつつその世界のことを覚え、召喚した人間が寿命で死んだら正々堂々、
世界の片隅にこっそりと幻想郷を作ろう、というのだ。人間より遙かに長い刻を
生きる妖怪達ならではの方法である。
 召喚の儀式を行っているのはその世界の特権階級の子供達であり、恩を売って
おいて損はないだろう。(*9)

 この案に賛成する妖怪もいれば、否定的な妖怪もいた。
 幻想郷に入り浸る鬼である伊吹萃香などは、大笑いしながら賛同の意を表した。
こっそり、正々堂々と、というところがツボにはまったらしい。
 また自称最強の妖怪である四季のフラワーマスター、風見幽香は、そろそろ花壇の
世話でもしながら余生を過ごすのもいいわね、と嘯いた。無論、誰も突っ込まなかったが。(*10)

 否定的な妖怪の代表は吸血鬼であるレミリア・スカーレットだった。人間の
使い魔になるくらいだったら消滅した方がマシ、とはいかにも誇り高き吸血鬼である。

 しかし翌日、召喚儀式割り込みの場に現れたレミリアは、楽しそうに参加する旨を
伝えた。

「要は、私に相応しいマスターとなるように人間を調教するってことね」

 とは、その時の言葉である。片手には、十六夜咲夜から贈られたという紅い表紙の
本を持っていたが、それが原因らしいことは想像に難くない。(*11)

 しかし、当の十六夜咲夜はその場に姿を現さなかった。レミリアは何も
言わなかったが、同僚である紅美鈴によれば、レミリア以外の主人に仕えることを
良しとせず、十六夜咲夜の名を返上し、いつの間にかいなくなっていたらしい。
 立つ鳥跡を濁さず。最後まで完璧で瀟洒なメイドであった。

 他に姿を現さなかった者として、二体の人形があげられる。正確には、人形から
厄神になった者と、人形が妖怪となった者だ。
 厄を溜め込む流し雛の鍵山雛は、近くに住む河童の河城にとりから話を聞いた後、
寂しげに笑いこう言ったという。私の溜め込む厄は周りの人間を不幸にするから、と。
 もう一体は、鈴蘭畑に住むメディスン・メランコリーである。知り合いのよしみで
話をしに行った八意永琳が、ずいぶんと顔色を悪くして帰ってきた。幻想郷の中で
生まれた彼女にとって、幻想郷が存在しない状況というものが理解できなかった
ようだ。毒をまき散らし、激しく抵抗されたらしい。
 この話を聞いた人形使いであるアリス・マーガトロイドは、ひどく残念そうな顔を
したという。

 一方、儀式には参加しないが姿を現した人間がいる。稗田阿求だ。彼女はその
小さな体で持てるだけの幻想郷縁起を抱えてくると、端から妖怪に配って回った。
妖怪がいなくなるのに、書だけあっても仕方がない、という。

「本当は皆さんにご一緒したいのですけど、この体ですから」

 彼女の能力は非常に特殊だ。一度見たものは忘れない代わりに、寿命が極端に
短い(*12)。幻想郷が幻想郷でなくなれば、ちょっと記憶力の良い、ただの人間に
なるのだろうか。

 驚いたことに、特に声をかけられなかった妖精といわれる者達も、この儀式に
参加した。例えば氷の妖精であるチルノはいつも一緒にいる大妖精と共に、
どこかで眠り込んでいたレティ・ホワイトロックを半ば氷漬けにして運んできた。
 この世界のどこにも春を感じ取れなくなったリリーホワイトもいる。
 このままでは、悪戯する相手がいなくなることに気がついた光の三妖精も、
参加していた。

 他に名もなき妖精達もいる。湖の妖精。花を抱えた妖精。メイド服を着ている
妖精は、紅魔館で働いていた者達か。彼女らを見て、元図書館司書の小悪魔は
次のように評した。

「まるで、沈没船から逃げ出すネズミのようですね」
「本能よね。この世界はもう、終わりよ。彼女たちにとっても、私たちにとっても」

 それに対し、元図書館館長であったパチュリー・ノーレッジはこう呟いたという。
片手にはいつものように魔導書、もう片手には喘息の薬が入った袋を下げている。
 他の妖怪もみな、自分の手持ちの品を持ってきていた。酒を抱えた連中も数多く
いる。どうもこれから行く先は日本酒のような酒は存在しないようだ。ならば持って
行かなければ、と考えたらしい。
 もちろん、自分たちの愛用の道具を抱えている連中もいる。

「さて、新しい世界への出発に相応しい演奏は」

 騒霊三姉妹が各自の楽器を手も触れずに構えたところで、突然中空に穴が空き、
二人組が現れた。

「幻想郷に別れを告げなさい。それが幻想郷であなた達ができる、最後の善行よ」
「映姫様、それはちょっと関係ないんじゃ……」
「大ありよ。未練を持たない、ということは重要なことです」

 妖怪にも妖怪以外にも敬遠される、地獄の二人組。閻魔の四季映姫・ヤマザナドゥと
死神の小野塚小町であった。
 もっとも縁のある存在である阿求が声をかける。

「お二人も行くのですか?」
「ええ。幻想郷がなくなるので、私の職もなくなってしまいましたから」(*13)

 幻想郷がなくなる。その言葉に、みな俯いた。
 心のどこかでは思っていたのだ。これもまた紫の悪巧みで、実は何の問題もないの
ではないか、と。
 しかし閻魔が嘘をつくことはあり得ない。やはり幻想郷は消えるのだ。
 阿求は最後の二冊を映姫と小町に渡し、ペコリとお辞儀をすると、皆さん、お達者で、
と挨拶した。

「本当はお見送りしたいんですけど……ごめんなさい」

 そういうと踵を返し、歩き始めた。その後ろ姿はまるで泣いているようで――
いや、実際に泣いているのだろう。それが旅立ちの場に涙を見せたくないという
心遣いだ、ということくらいは妖怪といえども理解はしている。……一部を除いて。
 重苦しい空気の中、突然声があがった。

「しつもーん。ご主人様って、食べていい人類?」
「食べるな!」

 突っ込みの弾幕が黒い球体に吸い込まれ、悲鳴が上がる。

「うー、ほんの冗談なのに」
「あんたが言うと、冗談に聞こえないの!」
「そーなのかー」

 宵闇の妖怪ルーミアと、蛍の妖怪リグル・ナイトバグのやり取りを聞きながら、
他の妖怪達は感謝していた。
 暗いのは似合わない。優雅に、冗談交じりで行こうじゃないか。いつものように。

 最後に、妖怪同士での取り決めが発表された。

壱.本気で力を使って目立つことは止めよう
弐.人を食べるのも禁止
参.血はトマトジュースで我慢しよう
四.人の精を吸うのはほどほどに(*14)
五.人間をからかうのはお手柔らか

 参.をみたフランドール・スカーレットは渋い顔をしたが仕方がない。
 それよりも彼女には気になることがあった。

「ねえ、魔理沙は?」
「霧雨魔理沙なら、向こうの丘からこちらを視ているようです」

 答えたのは千里先まで見通す程度の能力を持つ、天狗の犬走椛。

「彼女らしくないですねぇ」
「あいつも人間だ、ということか」
「感傷ねえ。らしくもない」

 みんなしてそんなことをいう。しかし口調には寂しさがあふれていた。なにしろ、
妖怪たちの『遊び』(*15)に付き合ってくれた数少ない人間なのだから。

「さて、そろそろ始めましょうか」

 紫がそういうと、不意に一人の妖精の前に輝く鏡のようなものが現れた。恐る恐る
伸ばされた指先が触れると、吸い込まれるように消えていく。それを皮切りに、次々と
鏡のような何かが現れた。

「それではまた向こうで」
「元気でねー。私も行くけど」

 口々に挨拶を交わし、旅立っていく。
 そして最後に残るのは、八雲紫だけとなった。

「みんな行っちまったな」

 そんな紫の後ろから声がかかる。振り向くとそこには、白と黒を基調とした服を
身にまとい、箒を担いだ少女が立っていた。人間の魔法使い、霧雨魔理沙である。

「喪服? 縁起が悪いわね」
「いつもの服だろうが」

 いつも通りの軽口を交わしながらも、魔理沙は帽子を深く被り顔を隠したまま
だった。
 そして紫の後ろにも、銀色の鏡が形成される。

「これであんたが行ってしまえば、幻想郷は終わり、ってわけだ」

 しかしその言葉に紫はいつもの妖しげな笑みを浮かべ、自らが生み出した空間の
狭間に腰掛けた。

「さあ、どうしましょうかしら」
「へぇ? いまさら怖じ気づいたっていうのか?」

 魔理沙の驚いてみせる演技に、紫も大げさに返答する。

「そうなのよ。使い魔の契約に口づけが必要なのよね」
「はは、ファーストキッスがいまだに取ってあるってか? 紫様らしくもない」
「ふふ、心はいつまでも、恋する乙女のままよ」

 口元に浮かぶ笑み。紫も口元に笑みを浮かべたまま、その手に持った傘の先を
魔理沙に向けた。

「それより、あなたは何故まだここにいるの?」
「なに?」

 傘の先はそのままでただ口元の笑みを消し、紫は言葉を続ける。

「守矢の風祝は、外の世界に未練があったから消えた。
 香霖堂の店主は、外の世界の品物に心を奪われすぎたために消えた。
 博麗の巫女は、結界を保つという役目がなくなったから消えた」

 その言葉に魔理沙は、帽子のつばを引き下げた。
 何かを紫から隠すかのように。

「あなたがまだここにいる理由は、なんなのかしら」
「……私は」

 くぐもった魔理沙の声。しかしその言葉は紫の耳にはっきりと届いた。

「……普通の魔法使いだからな」

 果たしてその言葉にどれだけの意味が込められていたのか。
 しかし紫はにこりと笑う(*16)と、手に持った傘をクルリと回し、先ほどとは逆に
柄の方を魔理沙に向かって差し出した。
 一見ごく普通の日傘。それを見た魔理沙は、初めて顔をあげた。

「くれるのか?」
「あげないわよ。適切なものに渡してちょうだい」
「適切な……ねぇ。まぁ、善処するぜ」

 受け取る魔理沙の目は赤く充血していた。頬には涙の跡。しかしその瞳は、
何かを決意したかのように輝いていた。
 バサリ、と突然傘が開く。魔理沙の視界を一瞬閉ざし、その僅かな間に八雲紫は
どこかへと消え去っていた。

「ちぇっ、挨拶もなしかよ」

 しかし異世界へと旅立ったわけではない。なぜなら――魔理沙の目の前に銀色の
鏡が浮いているのだから。
 一歩、二歩と後ずさる。振り向くと――その先に生じる銀色の鏡。

「なるほど。だけどな」

 魔理沙は銀色の鏡に背を向けると、箒にまたがった。片手には託された傘。

「そんなに簡単に召喚されてやるほど、霧雨魔理沙様は甘くないぜ!」

 その言葉と共に空へ向かって飛び出した。
 正面に開かれた銀色の鏡を擦るかのように躱し、速度を上げる。

「私を召喚しようっていうんだ。根性ぐらいは見せて貰わないとな!」

 こうして鬼ごっこが始まったのであった。
 霧雨魔理沙がハルケギニアに姿を現すには、今しばらくの時間が必要なようである。

 *1:タイトルは、同人弾幕ゲーム「東方夢時空」のBGM名より借用
 *2:もちろん弾幕ごっこ
 *3:ここの八目鰻の蒲焼きは絶品
 *4:多分殺し合い
 *5:小さな画面と複数のボタンが付いている
 *6:飛べない翼には意味があるらしい
 *7:それで抵抗できるかは不明
 *8:東方妖々夢に出てきた時くらい
 *9:緑色の文庫本を片手に説得したという噂
 *10:妖怪も殴られれば痛い
 *11:「見敵必殺」とかそんな感じとか
 *12:削除機能のないパソコンに動画をダウンロードしまくるようなもの。空き領域が足りなくてOSが動かなくなる
 *13:他の職が与えられなかったのは、普段の成績が問題だったのか?
 *14:性的な意味が含まれているかは不明
 *15:幻想郷の妖怪にとって、異変を起こして人間に弾幕ごっこで退治されるのはとても重要な遊び
 *16:とても希有なこと

 魔理沙が幻想郷に旅立つのを見届け、空間の隙間から紫が姿を現した。

「やっぱり正真正銘の人間がいいわよね、『彼女』には。そう思いませんこと?」

 手元の本をめくる。が、数ページも進まぬうちに本自体が透明になり消えていく。
本に書かれている『事実』が変更されたため、本自体が存在できなくなったのだ。

「それでは、ごきげんよう」

 彼女は『こちら』を見やりいつもの笑みを浮かべると、自分に残された最後の力を
振るった。自分自身の、人と妖の境界を弄ったのだ。
 こうして大妖怪、八雲紫も消え去り、幻想郷もこの世から消え去ったのであった。


 幻想が消え、世界の科学は急速に進歩する。月旅行や超高速鉄道――
 この世界の中で、名前も、記憶も、能力の大半も失った、十六夜咲夜と八雲紫は
幾ばくかの時を経て再び出会うのだった。
 宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンとして。

 しかしそれはまた、それは別の物語である。


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