あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの最初の人-05


 口の悪い店主の店を後にし、太公望は帰路を辿る。
 首を持ち上げると、そこには群青色に染まった空が広がっていた。
「日が落ちる頃には戻る」そう太公望はシエスタに告げたはずである。
 となると、太陽が地平線の向こうへ行ってしまった今はまさしく、その「日が落ちる頃」なのだ。
 そろそろ帰らねばなぁ。と、頭の隅では考えつつも、その実、残りの大部分ではまったく別のことを思考していた。
「……飛んでおる者はおらぬな」
 太公望の瞳に映る、群青色の空を横切るのは、たいてい鳥に虫。
 ただ一匹、青い竜が群青を背景に旋回し続けているのが目立つだけであった。
 魔法学院で、生徒らが一斉に飛ぶ光景を見た太公望は、メイジと呼ばれる者は"ソレ"で移動するのか。それが少し気になったのである。
 しかしこの現状を見る限り、飛んでる者は一人としていない。
 なぜだろうか?
 その術が単に大飯食らいで燃費が悪いのか、それともここのメイジたちの技量が低いのか。
「また、魔法についても調べてみるとするか……とすると、文字も学ぶ必要があるかのぅ」
 街を歩くあいだ、あたりを見回して分かったことだが、どうも言葉は通じるようが、文字の方はサッパリ分からない。

 困ったことがあればいつでも。と言っていたコルベールにでも聞こうか、と、考えながら歩いていると、いつのまにか人込みは消え、街の入り口に着いていた。
 帰るために、太公望は杖を取り出そうと服の内側に手を入れた。
 ゴサゴサと服の内を手で探って杖を見つけたそのとき、視界の端の方に竜が降りてきた。
 よく見ると、上空で旋回し続けていた青い竜である。
 その竜の姿を見て、頭に引っ掛かるものを感じた太公望は、杖を持つ手から力を抜き、竜を観察することにした。

 近くの岩陰に隠れ、竜の様子を見る。

 大きく翼をバサバサしたり。首を振りながらきゅいきゅい鳴いたり。
 その一つ一つの動作は荒く、怒っていると見てとることができた。
 しかしながら、そこから動く気配はなく、暴れつつ町の入口の方を凝視していた。
 太公望も一緒にその視線の先にある入口を見ていると、あの竜の鱗と同じ、青髪のちいさな少女が、大きな本の塊をまとわせて出てきた。
 黒いマントにその身の丈を超える大きな杖。
 杖の大きさ、形は全く違うが、そのマントと服装は自分を召喚した者と同じものである。
 さらにたいそう重たそうな本の塊を浮かせている。
 太公望の常識の中で"普通"の、人間が物を宙に浮かすことはまずできることではない。
 魔法と呼ばれるものが何なのか、太公望はわかっているわけではない。ないが消去法で考えて、「浮かす」それができるのは、メイジと呼ばれるだろう。
 出てきた少女を見つけた竜は、激しく鳴きながら少女のもとへと駆け寄った。
 ボカッ。とひとつ鈍い音が響く。
 少女が竜の頭を杖で殴ったのだ。
 それに抗議するように竜の鳴き声がさらに激しさを増したが、少女は聞く耳持たずと言った風で、取り出した紐を魔法を使いながら、器用に竜に本をくくりつけていった。

 青い竜と青髪の少女。
 しばらく考えたのち、太公望はポンと手を打った。
「ああ、たしか召喚された時にいたのぅ」
 まわりの生徒たちはたいていフクロウや猫、蛇などの小さなものを従えていたのに、その少女はとびきり大型な、竜を従えていたのだ。
 しかもその小さなナリに似合わぬ大きな杖。
 印象的なその姿は、太公望の脳の片隅に残っていた。
 主人とおなじ学院に通うメイジならば繋がりを持っていても損はないだろう。
 あわよくば、魔法について聞けたらいいか。そんな気持ちを持ちながら太公望は岩陰から姿を現した。

「ちょっと、いいかの?」
 少女の後ろから声をかける形となった太公望。
 いきなり声をかけられた少女は警戒したのか、距離を置きながら振りかえった。
 しかし太公望を見て顔の表情がほんの少しだけ変わった。おそらく彼女も太公望のことを覚えていたのだろう。

「あなたは確か……」
「おお、覚えているのかの?」
 少女はコクンと小さくうなづいた。
「どうしてここに?」
 質問と同時に、少女は杖を握りなおした。太公望と少女の面識などあってないようなものである。やはり警戒しているのであろう。
 太公望がいらぬ警戒をさせぬよう、出来るだけ丁寧に質問に答えた。
「ふむ、実はわしはここらではなく遠方の出身なのだ。どうもそこはここからかなり遠いようでのぅ。ここの常識も、法律も、文字も、わしの知ってるものとは全然違うのだ。
 だがの? 知らぬからといってすべて人任せにはできぬ。わしとて自分の行動は自分の意思で決めたいしの」
 少女がうなづいて相槌を打つ。
「でだ、物事を決めるためには判断材料がいるであろう? さっきの常識とかがそれにあたるわけだが……まぁ、ここまでいえばもうよいかの? つまりはそういうものを調べに来たわけだよ」
 太公望が簡単に説明を終える。
 しかし、少女はまだ警戒してるようで、杖を握る手からは力が抜けない。
 さらに少女は質問を重ねた。
「……学院でも聞けたはず」
「そりゃ聞けることは聞けるだろうが、学院なんぞより人の往来があるところの方が聞きこみはしやすいものだ。ついでに街の様子も見たかったしの」
 今の説明で、太公望の目的については納得したらしく、少女の手から力が抜けたようだ。
 太公望に危険はないと判断した少女は、太公望に背を見せ、竜の方へ体を向ける。
 結ぶ途中で太公望に声をかけられたため、中途半端になっていたロープをしっかと結び、竜に乗った。
 それを見て太公望が呼び止める。
「おぬしらは今帰るところかの?」
 その質問をどうとらえたのか、少女はしばらく考えたあと口を開いた。
「乗る?」
「いんや、そうではない。もし帰る所ならば、呼びとめたお詫びをしたくての」
 少女が首を横に傾けた。
 この人は何をしようと言うのだろうか?
 そのうちに、太公望は懐から杖を取り出した。
「?」
 少女の頭に疑問符が湧いて出る。
 突然のことで反射的に杖を構えたものの、この人物には自分を狙う理由がないし、彼を召喚した人物に恨まれるようなことをした覚えもない。
 考えているいるあいだに、太公望が杖を構えていた。
「では行くぞ……」

 空間がゆがんだ。
 彼女と、彼女の竜の周りの空間が一瞬のうちに切り取られた。
 まったく少女が体験したことのない事象。
 切り取られた後に残ったのは、上も下もわからぬ漆黒。
 抵抗もなにも出来ぬまま戸惑う少女。
 しかしそんな少女の空間が、今度は切り開かれていく。

 そこに広がった光景は、見た少女は思わず自分の目を疑った。

 少女の目に映ったのは、見慣れた学園の広場。
 少女と竜と、太公望。先ほどまでトリスタニアの入口前にいた二人と一匹が、まとめて学院の広場に移動していたのだ。
「まぁここからは自分で移動してくれの」
 呆然とする少女を尻目に、立ち去ろうとする、太公望の背中に、言葉が投げかけられた。
 いや、投げ"ぶつけ"られた。
「す! すごいのねーーーー!! いったいぜんたい何やったのね?! 大いなる意志の力をお借りしたわけでもないようだし、背いたわけでもないようだし! 何かよく分かんないけどすごいのね!! まったく! イルククゥもこんなちびすけなんかじゃなくて、こういうすごい人に召喚されたかったのね! きゅいきゅい!!」
 ここまで、詰まることなく一息で言ってのけた声の主は、少女が乗る、"竜"であった。
 思わず振り返った太公望であったが、もともと、"喋る獣"というものはよく知っており、特にその竜に対して驚いたわけでもなかった。
 ……ただ、竜の頭上に、杖が猛スピードで、それはもう頭蓋を砕かんばかりの勢いで迫っているのには太公望も、少しだけ、驚き、同情した。



「今のことは誰にも言わないで」
 竜からおりた少女が、振り返った太公望に言った。
 太公望は竜の方を指さす。
「あれが喋ったこと、か。なぜかの?」
 その竜はというと、少女の後ろで、頭を翼で抱えながら目を回していた。
 少女は、この辺りの住人ではないという太公望に分かるよう理由を話す。
「あなたの出身でどうなのかは分からないが、この土地では人語を解する竜と言うものはそうはいないもの。だから、このことが広まって研究や観察の対象にされるのは面倒だし……かわいそう」
 理由を聞き、少しだけ黙る太公望。しばらくの思案の後、口を開いた。
「……まぁ、そういうなら約束しよう。おぬしの許可なく、このことは喋らんよ……ただし」
 そこで、太公望は左手の指を一本立てた
「おぬしにもひとつ条件を呑んでもらいたい。よいかの?」
 今度は少女が黙り込んだ。が、すぐに視線を太公望に合わせ、返事を返す。
「……条件は?」
 少女の言葉を肯定と捉えた太公望は、答えた。
 回りくどい言いかたはせず。単刀直入に。
「暇なときでよいから、わしにここ文字を教えてくれ」
 少女の首が、ホンの少し、カクンと横に倒れる。
「文字?」
「うむ、言ったと思うがわしはここの文字を知らぬのだ。文字が読めぬのは何かと不便だしのぅ」
 その言葉に含まれていない、裏の何かを少女はさぐった。
 ……が、もともと含まれていないものなのだから、見つかるはずはなかった。
「……わかった。教えてほしい時は呼んで」
 そう言い残すと、いまだにうずくまる竜の方に振り向き、少女は去ろうとする。
 太公望もそのままルイズのもとへ帰ろうとするが、あることに気づいて少女を呼びとめた。
「あーすまぬ、おぬしの名前を聞かねば、呼ぶにも不便だ。教えてくれんかの?」
 再び太公望に向き直った少女は、ひとこと、ポツリと呟いた。

「……タバサ」

「"タバサ"……か」
 自分を召喚したルイズが名乗った名前と比較し、短いな。と感じたが、おそらく自分を呼ぶ時はそう呼べ。と言うことなのだろうと解釈する。
「よし、タバサ。いろいろすまんかったのう。それではまたよろしく頼む」
 一人納得した太公望は、すぐに飛び去っていった。
 すでに太陽が活躍する時間帯は終わり、あたりは暗くなっている。
 ちょうど太公望が行きしなにシエスタに告げた時間帯であった。

 残されたのは一人と一匹。
 一人は、一匹の方へ向いながら、頭の中で先ほどまでの出来事を振り返った。

 思わぬところで、思わぬ者と出会い、思わぬ状況に陥り、思わぬ行動を使い魔がとった。
 事の始まりは、自分の召喚した使い魔が飛行できるものだったから練習も兼ねて町に出向いた。それだけだ。
 本当にそれだけ。予定などなかったも同然なのだが、ほとんど予定外の出来事しか起こらなかった。
 だが、その対応としては満点こそあたえられないものの、及第点ではあったと思う。
 そんな疲れを、溜息に乗せて空気と同化させる。
 これ以上の予定はないし、仮にあったとしても、おそらくその予定は、現在の自分の精神的疲労を理由に晴れて後日延期となるだろう。
 とにかく、部屋に帰ろう。と、少女は本をくくりつけてある紐を解きにかかる。

 そのとき竜が、小声で話しかけてきた。
「あいつ、人の姿をしてたけど何者なの? さっきも杖を振りもせず飛んでいったし、さっきのアレもわけわからなかったのね」
 これ以上この場で話すのも面倒だったので、ミス・ヴァリエールの使い魔。とだけ答えて帰ろうと考え、それを口に言わせようとし……なぜか口が動かない。
 脳内のどこかに引っかかるものを感じた。なにか忘れてる?
 使い魔の言った言葉を頭の中で反芻する。
「飛んでいった」「さっきのアレ」
 …………ああ、ああ。なるほど、なるほど。さっきは使い魔が喋ったことで思考がそこまで回らなかったが、注視すべきはあっち、太公望の方だった。
 再び思い返せば、"思わぬ"の原因のすべては彼だ。
 突然話しかけてきて、よくわからないうちにワープ。おまけに杖を行使せずに飛行……。
 それに、あのときは気に掛けなかったが、召喚された時間と街に居た時間の差。これはこちらの常識にあてがえると、まずありえない。
 馬で三時間近くはかかるはずの道のり。最低、風竜クラスの移動手段がなければたどりくことができないのだ。
 事実を解きほぐし、考え、理解する。そうすることで、ソレの異質さがはっきりとして、次の、驚愕する段階に移ることができる。
 しばらくの間、話しかけてきた使い魔も、解きかけた紐も抜け落ちた本も、すべてが頭から抜けだし、呆然としていた。
 しかし、そこも越えてしまうと、とうとう強烈な太公望に対する興味が感情のほとんどになった。
 彼方の土地の出身とは言ったが、こうも常識が通用しないほど離れた土地の出身だというのか。
 果たして彼は、何なのであろうか。
 幸い、彼との接触の機会はほぼ確実にある。
 もしかすると、そこから何かを知れるかもしれない。
 もしかすると、あの力は私にも使えるのかもしれない。
 そうすれば……"あのヒト"を。
 そうすれば……"あのひと"を。

 夜の帳もほとんど落ち切り、ほとんど月明かりのみに照らされてタバサ。
 ただただ、そんなことを思考するのであった。

「ほー。ここでは月が二つもあるのかの」
 太公望はルイズの部屋の明かりを目指し飛んでいる途中、ふと見上げた時にそれらを見つけた。
 夜空に輝く双月。太公望の居た地球では、それこそ北から南、東から西、海溝から山頂まで、駆けずり回って探し回ったとしても見ることのできないものである。
 しかし、インパクトは下がるにしろ、すでにここに来てから以前の場所との明らかな差異はいくつも見てきた。
 もともと太公望は順応性のある人物だ。いまさらこんなことで驚くこともない。
 ふたつの月はどんなふうにして動いているのだろうか。とか、そんなことをぼんやり考えていると、すぐにルイズの部屋に到着した。

「さーて、帰ったぞ」
 窓を外からコンコン叩く。
 中からの返事はない。
 が、すぐに窓は開かれた。
 太公望が出て行ってからそれ相応に時間は経っているのでさすがにルイズは起きていたようで、その窓を開けたのはルイズであった。
「ふむ、シエスタは帰ったようだのう」
 ルイズの脇から太公望が中の様子をのぞき見て言った。
 しかし、ルイズはそれに対して特にリアクションを示すことなく、チョイチョイと部屋に入ってくるよう太公望に手招きをしてベットの方へ歩いていった。
 太公望はそれに逆らうことなく中へと入る。ドアの近くにはソースや少しだけ残った野菜くず等で汚れた食器達がカートの上に乗っていた。
 そんな部屋の様子を太公望がボーっと見ていると、ルイズが低ーい声で話しかけた。
「あんた……どこ行ってたのよ」
「ん? シエスタに伝えておらんかったか?」
 目をつむり、少し下を向いたそのままルイズは太公望の返答を反芻し、返答する。
「うん……うん。たしかに"日が落ちることには戻る"ことと、"トリスタニアに行くらしい"ことは伝えられたわ」
 では、何の問題があるのか。と、今度は太公望がルイズに訪ねた。
 それを聞いたルイズの眉と口の端が、ピクピクと震える。そして、スゥっと息を吸い込み、立ち上がり、一歩進んだ。









「…………あ、あんたは、わ、わわ私の使い魔だったわよね?」
 もう一歩近づく。
「で、そ、そんなあんたがなに? 呼び出したその日に勝手に行動? なな、何考えてんのよ!!」
 また一歩近寄る。
「あ、あんた、使い魔になりますって言ったわよね?! 確かに言ったわよね! しかもほんと今日のさっき!!」
 右足で太公望の前の床を叩く。
「その舌の根も乾かないうちに何よ! 使い魔ならせめて、主人が起きるのくらい待ちなさいよ!」
 左足が右足の横に音を立てて添えられる。
「起きたとき、召喚したはず使い魔がいない私のことも考えなさいよ!!」
 ルイズがその顔を上げ、つりあがった目でキッ、と太公望を睨んだ。


 あんまりすごい剣幕でまくしたてるものだから思わず太公望は後ずさった。

「おおぅ……す、すまぬ」
 その反応を見て満足したのか、ルイズはフン、と鼻を鳴らすと腕を組み顔を横に逸らした。

「で? あんたは結局何しにトリスタニアまで行ったのよ。"ちょっと遊びに"なんて理由じゃないでしょう?」
 一拍置いて太公望がそれに答える。
「ふむ、ちっとばかし聞きこみたいことがあったのだ」
「聞きこみたいこと? 何なのよそれ」
 ルイズが首をかしげる。

「いやいや、大したことではないよ。俗に一般常識とかいうやつだ。なにせ何の前触れもなくここに連れられてきたのでな、知らぬことばかりなのだ」
 一瞬、ルイズはなにかを考えるようなを雰囲気を見せたが、すぐにいつもの調子に戻った。
「……ふーん。そういうことならまあ仕方なくないこともないかしら……
 でも! 今度からはちゃんと私に言ってからそういうことはしなさいよ? わかった?」

 太公望は「はいはい」と、やる気なさげに首肯した。


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