あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

世界最強コンビハルケギニアに立つ-09





日は沈み、二つの月が大地を照らしている。
カチャカチャという硬い音がルイズの部屋に響く。
部屋に存在しているのはルイズと暁の二人のみ。
ボーは使用人たちの宿舎に寝泊りすることにしており、夜はここにはいない。

ルイズはベッドに腰掛け、ぼんやりと暁を眺めている。
彼は先程から壁際でL字型の黒い金属の塊を分解していた。
何かの箱だったのだろうか、中からは様々な形の小さな金属が次々と出てくる。
ルイズには何をしているのか、そもそもそれが何なのかはさっぱりわからなかったが、
それらの細かい金属を布で拭いたりしているので、手入れをしているのだというのは漠然と理解できた。

「ねぇ、アカツキ」
「あん?」

作業を中断し、暁が顔を上げる。
ルイズはずいぶんと久しぶりに自分から話し掛けたような気がした。
昼間のボーとギーシュの決闘以来ずっと彼女は考え事をしていたので、会話らしい会話をしていなかったからかもしれない。

「あんたたちって、元の世界で何してたの?」
「お嬢さんは知らなくていいことさ」

質問の答えは返ってこない。
口調こそ柔らかいものの、それは明確な拒否である。
仕方なく、ルイズは質問を変えることにした。

「アカツキも、ボーくらい強いの?」
「どうだろうな」
「どうだろうなって……」
「お嬢さんはどう思う?俺はあいつくらい強いと思うか?」

少し楽しそうな笑みを浮かべながら暁が問いを返してくる。
どうやらルイズの反応を見て楽しんでいるようだ。

「……わかんない。強いんだろうとは思うけど」

なんとなくではあるが、暁も強いのだろうというのはルイズにも想像がつく。
だがボーと同じくらい強いと思うか、と問われると答えに詰まるのも事実だ。
それくらいボーという男の強さは現実離れしていた。

「まぁ、ボーの野郎は戦い方が無駄に派手だからな。
 俺はあいつみたいに馬鹿正直に突っ込んでいくような真似はしないし、できない。
 だが、ボーにできなくて俺にできることもある。劣ってるとは思わんね」

返ってきた答えは予想通りのものであり、別段ルイズを驚かせる類のものではない。
だが、それは彼女の心を少し重くする答えだった。

「あんたたちってたぶん、生半可なメイジよりよっぽど強いのよね」

ボーは最低レベルの『ドット』とはいえメイジであるギーシュをまったく問題にしなかった。
おそらくは『トライアングル』、下手をすれば『スクウェア』クラスのメイジでもボーには手を焼くだろう。
それどころか、負けるかもしれない。
暁の言葉を真実とするなら、強い使い魔をルイズが望み、実際その通り規格外の人間が二人も召喚されたことになる。
本来であれば喜ばしいことであるはずだが――その事実はルイズにとっては重かった。

「お嬢さんもしかして昼間からずっとそれで悩んでるのか?
 俺たちを使い魔にするには自分がヘボ過ぎるんじゃないかって」

顔を上げていた暁と視線が交錯する。

「そんなこと――」

図星だった。
魔法が使えない『ゼロ』のルイズが異常に強い平民を召喚する。
それはある意味痛烈な皮肉と言えた。
もし弱ければ雑用として自分の身の回りに置くこともできたのかもしれない。
だが、暁やボーのような規格外の人間をたかだか見習いのメイジであるルイズはどう従えればいいのかまったくわからずにいた。

「気にするな」
「え?」

暁は既に視線を下に落とし、ルイズの顔を見るでもなく作業を再開している。
まるで、その程度の話題だと言わんばかりに。

「どんなヘボでも主人は主人だ、ちゃんと従うさ。ボーの命の分働くって言っちまったしな」

少し嫌そうな響きを含んではいたものの、暁の言葉に少しだけ気持ちが軽くなる。
そして心に余裕ができたせいで、少しだけムッとした。

「……ヘボってどういう意味よ」
「そのままの意味だ。悔しいならさっさと魔法を使えるようになるんだな」

ルイズの反応が面白かったのか、暁が喉の奥で笑う。

「あんたねぇ、もう少し主人に対する礼儀ってもんがあるでしょう!」

ルイズは吼えた。
その表情が赤いのは怒っているせいか恥ずかしがっているせいか、ルイズ本人もよくわかっていない。
いや、わかりたくない。
いずれにせよ暁の人を喰ったような態度のせいなのは間違いないのだが。

「やっぱり面白いなお嬢さんは。気が強いんだか弱いんだか」

心底面白い、といわんばかりに暁が笑う。
作業のほうは完全に中断している。
本腰を入れて自分をからかうつもりなのだろうとルイズは推測した。

「……もしかして主人に対する礼儀から教えなくちゃならないかしら?」

無理矢理笑顔を作り、暁を見下ろす。
どう見ても引きつっているのだが、ルイズとしては微笑みかけているつもりであった。
当の暁はというと、肩をすくめ『結構だ』と苦笑した。

「まぁ、そのうち出て行きかねない俺のほうはどうでもいいが、ボーには感謝しとけよ。
 あいつはたぶんお嬢さんが気に入ってる。とうぶん付き合うつもりなんじゃねーかな」
「え」

おそらく、この瞬間のルイズの表情はひどく微妙なものだっただろう。
強い使い魔――正確には契約していないが――に気に入られるというのはうれしいことである。
問題があるとすればそれがボーだということ。
あの無意味に暑苦しい男に気に入られるのは……どうなのだろう。
ルイズは数瞬悩んだ後、結論を出した。

「あんたも付き合いなさいね」
「ボーへの感謝の気持ちは無しか」
「感謝はもちろんするけど、ボーだけが使い魔なんて精神的にもつわけないでしょ」

ルイズはため息を吐いた。
それに対し暁が浮かべたのは呆れたような、それでいてどこか納得したような苦笑だった。

「アカツキはよくボーとコンビなんて組んでられるわよね。私には無理だわ、絶対」
「好きで組んでるわけじゃないさ」

ルイズよりも大きなため息。

「コンビだってあいつが勝手に言い出したことなんだぜ。
 そもそもあいつと知り合ってまだ数ヶ月ってとこなんだがなぁ」

どこか遠くを見つめながら暁が言葉を紡ぐ。
その顔には疲れた笑みが張り付いており、苦労しているのだろうというのが容易に想像できた。

「……苦労してるのね」
「まぁな」

ルイズはそれ以上の慰めの言葉が浮かばなかった。
ボーの傍らに居つづけると言うのはそんなに疲れることなのだろうか。
――間違いなく疲れるだろう。
悩む必要性のない疑問の答えは一瞬で出た。
二人の間に微妙な空気が流れる。

「……まぁ、見た通り実力はあるし裏表の無い男だから信頼はできるんだがな」

暁は再び下を向き、作業を再開した。

「暑苦しいし見事な自己中だが、悪い男じゃない。お嬢さんもじきに慣れるさ」
「あんたが言っても説得力ないわよ」

違いない、と暁が笑う。
それでも、二人の間に信頼関係があるのはルイズにもわかった。
お互いを認め合っているような、そんな空気。

――自分も、いつか彼らに認めてもらえる日が来るのだろうか。

そんなことが頭をよぎったが、強く首を横に振る。
自分は彼らの主人である。
認めてもらうのではなく、認めさせなければならないのだ。

「絶対にあんたたちを従えられる力を持ったメイジになってやるわ」
「俺がいるうちになれるといいな」

愉快そうな暁の表情を眺めながら、ルイズもまた笑みを浮かべた。



コンコン。

暁がちょうど手元の金属の塊を組み立て終わった時、ルイズの部屋のドアがノックされた。

「誰かしら」

ルイズが怪訝そうな表情を見せる。
まださほど遅い時間ではないものの、育ちのいい子供なら寝ててもおかしくない時間である。

コンコン。

もう一度ノックの音。ルイズがベッドを降り、ドアのほうへと向かった。
当然ながらドアにはカギがかかっている。
もっともカギがかかっていなくても、貴族のご息女が無断で部屋に侵入してくる姿など想像できないが。

「誰?」

問いかけに対する返事はない。
考えにくいことだが、あまりよろしくない来訪者かもしれない。
そう思い、暁もゆっくりと腰を上げようとしたとき、扉の向こうから聞き覚えのある声がした。

「あれ?タバサじゃないか、こんなところで何をしてるんだい?」

それは昼間ボーと決闘した変な少年――ギーシュの声だった。


ルイズがドアを開くと、そこにはギーシュと暁の知らない少女がいた。
青みがかった髪の眼鏡をかけた少女。
年齢はルイズと同じかそれ以下に見える。
その顔にはおおよそ感情と言うものが浮かんでおらず――どこか虚ろでぼんやりとした印象の少女であった。
教室で見たような気はしたが、こうしてしっかり見たのは暁にとっては初めてだった。

「ギーシュと……タバサだったかしら?何してるのよこんなところで」

どちらもルイズとはあまり仲の良いわけではない――タバサに関して言うなら話したことすらない――人物である。
そんな二人が今現在、ルイズの部屋の前にいる。

「ギーシュは何?お礼参り?」

ルイズは目を細め、ギーシュを見た。
彼はそれを慌てて否定する。

「いやいやいや!そんなわけないじゃないか!君の中で僕はどれくらい見苦しい男なんだよ!」
「見たまま」
「見たままね」
「君たち酷くないかい!?」

タバサとルイズの容赦ない言葉が胸に突き刺さったようで、ギーシュはよろめいた。
見ている分には面白い男だなぁ、と暁は思った。
関わり合いにならなければ面白いというのはボーに通じるものがあるのかもしれない。

「僕は君の使い魔の二人と話しがしてみたくてはるばる女子寮までやってきたのさ。
 部屋の前に着いたらタバサがいて少し驚いたよ」

気を取り直して、といった感じでギーシュが自らの用件を述べる。
何故しゃべるのにいちいち細かく、しかもキザったらしく動く必要があるのか暁には疑問だった。
……そこは気にしてはいけないのだろうか。

「ボーはここにはいないわよ、あいつは使用人の宿舎で寝泊りしてるみたいだから」
「そうか……師匠はいないのかぁ」

数秒の間。

『師匠?』

暁とルイズの声が見事にハモる。
二人の表情は全力で『何言ってるんだお前』と言っていた。
むしろ口に出さなかったことを褒められるべきかもしれない。
そんな二人の表情を気にせず、あるいは気付かずにギーシュは続ける。

「そう、師匠。いやぁ、僕は彼の振舞い、言動、力強さに感銘を受けてね。
 彼は平民だそうだけど、僕は彼に貴族のあるべき姿を見たんだよ。
 ああ無論父上のことは尊敬してるし、父上のようになりたいとも思っているよ。
 でもあのボー・ブランシェという人物から感じたのはもっとこう、違う何かだったのさ。
 例えて言うなら物語の中の英雄が目の前に飛び出してきたかのような――」

「もういい、もういいから。わかったから」

熱っぽい表情で嬉々として語りつづけるギーシュをルイズが遮る。
左手で頭を押さえているのは、おそらく頭痛に耐えているからだろう。
暁も当然ながら頭痛がした、それも相当酷い。
タバサは相変わらずの無表情だが、明らかに先程よりギーシュと距離を置いて立っている。

「で、タバサは何の用?」

ギーシュから目を逸らし、ルイズはタバサに問い掛ける。

「聞きたいことがある」

そう言いながらタバサが暁のほうを見る。
二人の目が合う。
暁にはそれが何かを期待している目に見えた。
タバサのような少女に期待されることなど、暁には心当たりがなかったが。

「とりあえず二人がどんな場所からきたのか、とかいろいろと興味があるんだ。
 ルイズ、君さえよければ彼と話させてくれないかい?」

ギーシュの言葉にタバサがコクリと頷く。
二人の期待に満ちた視線を受けながら、ルイズは何かを迷っているようだった。
ああ、と暁は苦笑した。
ルイズにはいままで夜に部屋を訪ねてくるような友人も恋人もいなかった、それはおそらく間違いない。
だからこういう場面でどうしたらいいのかわからないのだろう。
そんなことを考えながらルイズを眺めていると、振り向いた彼女と目が合った。

「……何よ」
「いや、別に」

ルイズはしばらく露骨に不服そうな表情で暁を見つめていた。
そしてため息とともにギーシュとタバサのほうへと振り向く。

「いいわよ、こんな使い魔でよかったらいくらでも話させてあげるわ」
「おお、すまないねルイズ」
「感謝」

その言葉にギーシュがうれしそうな表情を浮かべる。
タバサのほうも心なしか微笑んでいるようにも見えた。

「立ち話もなんでしょ、入って」

おそらく照れているのだろう、若干顔を赤くしながらルイズは二人を部屋に招き入れる。
そんな彼女の様子を暁は面白そうに眺めていた。





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