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世界最強コンビハルケギニアに立つ-08





「終わったぞ、お嬢さん」

暁は隣で呆然としているルイズの肩に手を置く。
ルイズやその他野次馬の生徒たちは何の言葉も発せず、唖然としてボーを見ている。
シエスタのほうは先程一足先に我に返り食堂のほうへ駆けていった。
おそらくはマルトーたちに報告しに行ったのだろう。
相当慌てていたようで、一度足をもつれさせて転んでいた。

――平民が魔法を使わずに魔法にしかできないことをやってのける。

魔法が使える、すなわち平民にできないことができるということが貴族にとってのアイデンティティであると暁は考えている。
それが崩れるというのはどんな気分なのだろうか。
暁は自分が戦っても勝てる自信はある、ただボーのように『魔法じみた動き』はできない。
そういう意味ではこの場面はボーが戦うのが正しかったのだろう。

「おい、勝ったぞ」

ボーが右腕でガッツポーズを作りながらこちらに歩いてくる。
何かをやり遂げた男の顔だった。

「ご苦労さん」

適当にねぎらいの言葉を送りながら暁は考える。
もしかしたらボーはただギーシュに説教したかっただけなのかもしれない。
おそらくはそうなのだろう。
彼が『貴族の鼻をあかす』などと考えることはありえない。
ボー・ブランシェとはそういう男だ。

「お嬢さんからも何か言ってやったらどうだ?」
「へ?あ、うん。ご苦労様」

暁以上に適当、というか上の空といった感じのねぎらいの言葉がルイズから出る。
彼女は未だにここは現実だと信じられないといった顔でボーを見上げていた。

「……ボーって、ただの平民なのよね?」
「うむ、ただの平民だ。魔法なんぞまったく使えん」
「そう」

それっきりルイズは黙り込んでしまう。
何か考え事をしているようだがその表情がどこか暗い。
暁としてはルイズが大仰に驚くか喜ぶかすると思っていただけに少し意外だった。

「ま、終わったことだし戻ろうぜ」

苦笑とともに暁は肩をすくめた。
ルイズの思考などわかるわけもなかったし、わからないことを気遣う義理もない。
それにもはやこの広場に用はないし、生徒たちの視線が鬱陶しい。
この世界の常識と対決し、勝ってしまった結果動物園のパンダのような気分になる。
あまりいい気分でもないので暁としては早々に立ち去りたかった。

「うむ、そうだな」

ボーは同意するとルイズの背中をぽんと叩き、歩き出した。
彼のほうはルイズを気遣っているようだった。
ルイズはボーに気の無い返事を返しつつも後を追う。
結局、その後夜になるまでルイズは何処か上の空であった。



「確認しておきたいのだがね、コルベール君」
「なんでしょうか、オールド・オスマン」

ところかわって学院長室。
『遠見の鏡』での決闘の観戦を終えたオスマンは隣にいるコルベールに問い掛ける。
コルベールは非常に困った顔をしていた。

「彼が『ガンダールヴ』なのかね?」
「い、いえ。彼は昨日瀕死の重傷を負った状態で召喚された方の男性で、ミス・ヴァリエールとは契約していないはずです」
「ものすごい元気そうじゃがのぅ」

大男はどう見ても健常者だった。
包帯はちらほら見えるが、昨日死にかけていた人間に見えるかといわれればまったく見えない。
もっとも、人間ではない可能性も若干あるのだが。

「彼はメイジでしょうか?」
「違うとは思うが、魔法でなければあの動きはできんというのが我々の世界の常識じゃから断言はできんな」
「は、はぁ」

大男は杖を所持している様子も呪文を詠唱した様子もない。
かといってあの動きは『偏在』を利用しなければ実質不可能。
それがハルケギニアという世界の常識である。

「まぁメイジであれ平民であれ、怪物じみておるというのは確かじゃな」
「それは間違いありませんね」

コルベールがコクコクと頷く。
メイジか平民か、様々な可能性があるがどれも決定打に欠ける。
だがいずれにせよ大男が怪物じみた実力の持ち主であり、同時に危険な存在であるという事実は動かない。
なにしろ大男は誰の使い魔でもないのだ。

「『ガンダールヴ』のほうも、これくらい強いのかのぅ」
「伝承では千人の軍隊を一人で壊滅させるほどの力を持ち、あまつさえ並のメイジではまったく歯が立たなかったとか」
「……本当にあの大男が『ガンダールヴ』ではないのかね?」
「私も自信がなくなってまいりました」

あの大男は実際に一番レベルの低い『ドット』であるとはいえ、メイジであるギーシュを歯牙にもかけなかった。
もし彼が千人の軍隊を一人で壊滅させても何も驚かない自信がオスマンにもコルベールにもある。

「まぁよい、この件はわしが預かる。『ガンダールヴ』のことも含めて他言無用じゃ。良いな、ミスタ・コルベール」
「は、はい!かしこまりました!」

コルベールの返事に満足したのか、オスマンは杖を振るい、窓際へと向かった。
そして窓からどこか遠くを見つめている。
それは何か懐かしいものを思い出すような表情だった。



場面は再びヴェストリ広場。
既に生徒たちのほとんどは立ち去っており、広場はいつも通りの静かな空間へと戻っている。
そして広場の隅で一人、眼鏡をかけた青い髪の少女が座っていた。
その顔にはほとんど表情というものが浮かんでおらず、何を考えているかわからない――そんな印象を与える少女だった。

「タバサ、まだこんなところにいたの?」

自分の名を呼ばれ、少女――タバサは顔をあげ、そちらを見る。
声の主は彼女の親友である真っ赤な髪の少女、キュルケだった。
キュルケはタバサの隣に腰をおろすと、同じ方向を見た。

「何ぼーっと見てるのよ」
「さっきの決闘」
「はぁ?」

タバサはずっと決闘の行われていた広場の一角、さらにいうならば最初にボーとワルキューレが交錯した場所を見つめていた。
既にワルキューレの残骸は片付けられており、決闘の跡は最初に吹っ飛んだワルキューレが地面に衝突したとにできた穴くらいしか残っていない。
それでもなおその空間を見つめつづけているタバサのことが、キュルケとしては不思議でならなかった。
キュルケはタバサの額に右手を当て、左手を自分の額に当てる。

「うーん、熱はないみたいね」

タバサは無表情にキュルケを見つめる。
相変わらずその顔からは何の感情も窺えないが、どことなく不機嫌そうであった。

「速かった」

元々話すつもりだったのか、おかしいと思われるのが嫌だったのか。
タバサはぼそっとした調子で言葉を紡ぐ。

「ん?そうね、確かにあの大男ってば体の割にすごいスピードだったわねぇ」

その一言でタバサが何を言いたいのか察する辺り、さすがは親友というべきか。

「メイジじゃないとか言ってたけど、本当かしらね。本当だとしたら人間じゃないわよ」

おそらく本当にボーという男はメイジではないのだろう。それは皆薄々気付いていることだ。
だが理屈でも感情でもそれを認めることができないでいる。
ボーがやってのけたことはメイジにだってそうそう簡単に再現できることではない。
そもそも再現できるかすら怪しい、そういうレベルの動きだった。

――平民にできる事がメイジにできない。

それはハルケギニアの常識を覆すことと言っても過言ではなかった。

「それともイセカイって場所は、ああいう化け物がゴロゴロいるのかしらねぇ」
「異世界?」

苦笑とともに紡がれたキュルケの言葉にタバサが反応する。
表情は変わらない――ように見える。
だがキュルケには、驚きと他にも色々な感情が混じっているように見えた。

「ええ、イセカイ。朝会ったときに聞いたわ」
「そう」

タバサはそう呟くと再び下を向いた。
何か考え事をしているようである。
キュルケはそんな親友の横顔を薄く微笑みながら眺めていた。
少ししてそれに気付いたタバサが目を細め、キュルケを見つめる。

「何?」
「ん?珍しく表情豊かだなーって。もしかして、恋?」
「違う」

そう呟くとタバサは立ち上がり、学院の方へと歩き出す。
相変わらずの無表情の中に不機嫌さがにじみ出ている――ような気がした。

「ああんもう、待ちなさいよ」

いつもよりはるかに感情が揺れ動く親友の態度を楽しみながら、キュルケはその背を追いかけた。




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