あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無と十七属性-09


「……あった」
 あの使い魔の青年に刻まれていた、新しい二つのルーン。
 もう、模写した時に半ばわかったようなものだったが、再びこの書物を見て、確信へと変わった。
「ウィンダールヴとガンダールヴ……」
 『始祖ブリミルと使い魔たち』という書物に記載されているそれと、自分がスケッチしたルーンは一致した。
 ルーンの刻まれた位置もまた、狂い無く一致している。
「神の左手ガンダールヴ……あらゆる武器を使い、ブリミルの盾となった……。右手はウィンダールヴ、あらゆる獣を操り、ミョズニトニルンはあらゆるマジックアイテムを使える……そして、記されない四番目……」
 独り言を呟き、自分がスケッチした、未だ確認できないルーンをしげしげと眺める。果たして、このハルケギニアの文献で、このルーンが記された書物は存在するのか。
 気がつけばもう夜も遅く、少し離れたところにいる司書が「閉館ですよ」と言い、鍵をジャラジャラと鳴らす。
『PAR』
 謎のルーンがスケッチされた安い紙を折りたたみ、分厚い書物を棚に戻すと、「四番目……」と再び一人呟き、コルベールは図書室を後にした。


虚無と十七属性
第二節「怯える剣(つるぎ)」

第九話

 決闘から、僅か二日後の朝、虚無の曜日。
 学院の中では、腕が完治し、元気に走り回るギーシュの姿が!
「ちょっ……待っ……モンモランシー! 浮気の件は、本当に済まなかった! だけど今件は誤解なんだ! 君の心を弄んだというわけではなくだね……!」
「うるっさい! 私は本当に心配したのに……! アンタなんか…………アンタなんか、死んじゃえ!」
「待ってくれ、瓶は、空瓶は……! 本当に死んでしまう! あ゛あ゛ーッ!」

◇◆◇◆◇◆

「……んにゃ?」
 何か、遠くでガラスが割れるような高い音がして、ルイズは目を覚ました。カーテンは既に開けられていて、触れそうな程くっきりと見える、白い朝日が眩しかった。
「……起こす前に目が覚めたか」
 ベッドのから目を移すと、備え付けの椅子の上には、ここ数日の日常通り、私の使い魔が左手につけられた青い四角いものをいじっていた。いつの間にか増えている両手のルーンの原因は、未だによく分かっていない。コルベール先生からの連絡もない。
 珍しく自分から喋った使い魔は、僅かに動いてはいるが、普段の寡黙な性格もあってか、まるで石像のようにも見えた。
「前から気になってたんだけど、それ、何?」ベッドで寝転んだまま、使い魔の腕に巻き付けられた、青い四角いものを指した。
 決闘騒ぎの事で昨日の一日は気まずかったが、決闘前と何ら変わらない様子を見て馬鹿馬鹿しくなって、今は以前と変わりなく接している。
「……これか?」
「そう。それ」
「これはポケッチだ」
「ポケッチ?」嘗て聴いたことのない単語だった。
「……そうだ。正確な時間を見たり、自分の手持ちのポケモンの懐き度を見たり、万歩計になったりと多数のツールがある、腕時計だ。ルイズを起こす時は、タイマーのアラームで起こしている。でもまぁ、基本的に、時計だ」
「時計? ……何だ、時計なの? それ」
 時計といえば、最近、ゲルマニアやガリアでも懐中時計とかいうコンパクトなものが市販されるようになったらしいが、こんな形はしていなかった。
 今だ素性が謎な使い魔だ。珍しい物に違いない。
「ねぇ、ちょっと見せてくれな、」
「ダーリン! 戻ってたのね? 探したわよー!」
 しかし、ルイズの言葉は、扉を開ける音と共に発せられたキュルケの声によって遮られた。興味も、みるみるうちにその熱が冷めていく。『微熱』の二つ名を持つその闖入者に熱を吸い取られていくようで、あまり気分の良いものではなかった。
 ああ、信じがたい話だが、キュルケはあの決闘を見て、恐怖するでもなくこの青年に惚れたという。
……この万年発情期の色惚けアバズレ女が。人の使い魔に手を出すとは、一体どういう精神をしているのか。それに、使い魔も使い魔だ。いちいちこんな女に構ってやることなんかないのに。いや、あんまり構ってないか。キュルケが一方的なだけか。というか、ダーリンって、何よ。
「あら、ルイズ。起きたばかりなのね」今気付いた、とばかりのキュルケの態度を見て、
「そうよ、悪い?」
「早寝遅起きさんは、出会いが少ないわよー。少しでも時間を、世界に溢れてる出会いの奇跡のために割かないとー。私とダーリンみたいな、運命的な出会いができないわよ?」
 ねー、とキュルケは使い魔にしがみついた。抵抗しようとしない使い魔に、少し腹が立つ。
「何が私とダーリンみたいな、よ。それに、私はちゃんと、許嫁だっているし。毎晩毎晩発情して、夜遅くまで運動してる色惚けのアンタとは違うの。夜遅くまで起きてるのはお肌に悪いわよ」
「心配してくれるの? 私は大丈夫よー。アンタこそ、もっと栄養とらないと、いつまでも、ここ、ゼロのまんまよー」
 キュルケはニヤケ面を浮かべながら、その身体の、尤も豊満な所を指さした。
 私の額の辺りから、びきっ、と原因不明の擬音が出た。この……、人が気にしてる事を。
「それに、許嫁がいるって事は、あなたの使い魔、貰っちゃってもいいって事よね」キュルケが信じがたい事を口にした。
「そっそん……馬鹿な事言わないでよ! そいつは私の使い魔! アンタなんかにやらないわよ!」
「お。耳まで真っ赤にしちゃって、可愛いわよー。私のサラマンダーみたい」キュルケが捲し立てる。
「えっ……!」
 その言葉を聞いて、自分の頬が紅潮している事に気付く。それによって、更に自分の顔が火照るのが分かった。
 ……べっ、別に、あのアバズレみたいな、そんないやらしい理由じゃなくって……、そう! 使い魔は一生主人に使役するものなんだから、ツェルプストーとなんかコネ作っちゃだめって事よ! それに、ツェルプストーになんか、何もくれてやりはしないわ!
 さて言ってやろうかと思い、空気を肺一杯に溜めたそのとき、丁度キュルケが喋ったものだから、すっかり気が削がれてしまった。
「あ、そうよ。そもそも、ダーリンに話があって来たんだったわ」
「……何だ?」「何よ」使い魔と声がダブった。
「町へ行きましょ? ね、お願い」
 私の頬の色は、すっかり元の色に戻っていた。多分。

◇◆◇◆◇◆

 町へ行くことにはルイズが猛反対したが、ルイズも行くという条件で妥協し、結局三人一緒に行くことになった。
 主人には迷惑を掛けているから、頭が上がらない。
 二日前の決闘騒ぎで壊してしまった宝物庫の修理代、あれは主人と、決闘相手のギーシュが折半して払ってくれたのだ。学院長は、恐らく、耐久性が落ちていたのだろうということでかなり負けてくれたようだったが、それでも結構な額になった筈だ。
 なんでも、主人の実家ヴァリエールは公爵家であるそうなのだが、それでも子供の小遣いから払わなくてはいけないのだから、主人にかなりの負担を掛けてしまう事になる。
 とりあえず、こちらでの生活が安定してきたら、払ってもらった額は返すつもりである。
 ああ、そうだ。ミュウツーが外したギーシュの関節は、今朝戻してやった。『なんでもなおし』で、だ。不思議に思うのだが、何故ポケモン用の道具が、人間にも使えるのだろう。
 確か、前いた世界でポケモンの道具を不適切な時や場所や物に使おうとした時には、『博士の言葉』なるものに、全てがカットされていた気がする。もしくは謎の、「つかってもこうかがないよ」という声にだ。
 どういう原理であの声が聞こえてくるのか……さっぱり分からない。だが何故かその声が聞こえると、俺は実行できないのだ。そのせいで、自販機前で小さい子が「おいしいよー」と言って飲んでいるミックスオレを飲めなかった日には、俺は泣いた。ポケモントレーナーとなった事を少しだけ後悔したのは、誰にも言っていない。
 今思えば、あれも一種の魔法だったのかもしれない。もしかすると、あの世界の『魔力』は、全てがプロテクターに変換されていたのかもしれない。……考え過ぎか。

 さて、町に行くのは、この世界がどの程度の文化レベルに達しているかを知るいい機会だろう。これから行くトリスタニアは、ここトリステインの首都であり、尤も大きな町であるらしいし、馬で三時間もかかるとの事だ。ここは結構田舎である事が伺えるし、もしかしたら、何か得るものがあるかもしれない。
 で、今は厩(うまや)の前に来ているんだが。
「ルイズは乗馬が上手いのよ」厩独特の田舎くさい臭いの中、キュルケが言った。
「……俺は馬に乗った事がないのだが」
 馬、というとポニータやギャロップだが、確かポニータはジャンプで東京タワー(333m)を越えられたし、その進化形であるギャロップは、最高240km/hものスピードで、大地を駆け抜けられた筈だ。――素人の自分が操れるとは到底思えない。
「大丈夫よ。そんなにスピード出さなくても、三時間で着くわ」そう言ったルイズは、俺が嘗て見た事もない茶色い馬を連れだし、鞍をつけて、手綱を握った。「ただ、臆病にはならない事ね。馬が調子に乗るから」
「……」
 馬が調子に乗ったらどうなるのか、考えたくもなかった。頭には、制御ができなくて限界まで速度を上げ、時速200キロ以上の速度で後ろへと流れていく景色を尻目に、恐慌状態に陥る俺の姿が浮かんでいた。そして、馬が暴れ出して、俺をロデオの如く振り落とし、火を噴き襲いかかってきたらどうするのか……。
 走る馬、まさしく走馬燈のようなものが浮かぶ事態はごめんである。
「……やはり、やめておく。俺は自転車でついていくから、馬はいい。馬より早いし、その方が、俺にとっては安全だ」
「ジテンシャ?」

◇◆◇◆◇◆

 私の使い魔は謎だらけだ。寧ろ、存在そのものが謎であると言ってもいい。謎100%だ。
 二日前の決闘で突如亜人を召喚し、その亜人がギーシュをボコボコにして、ギーシュの両腕の、肩から小指の先に至るまで、ありとあらゆる関節を外して杖の振れない身体にしたり。他にはその亜人が先住魔法みたいな、光の弾を幾つも飛ばして、ものすごい固定化の掛かっているはずの、宝物庫を貫通させたりもしていた。
 肝心の使い魔はというと、なんかルーンが増えてるし、爆発の授業で騒いでた使い魔達を一瞬で黙らせるし、なんか凄い力持ちの棒術使いっぽいし、変な時計してるし、足がとんでもなく早いし、気がついたら決闘の怪我が何一つ残ってなかったりエトセトラエトセトラ。
 今はざっとこれだけしか思いつかないが、考えれば、多分まだ出てくる。
 ああ、そうだ。謎を新たに二つ追加する。
 一つは、『ジテンシャ』なる、鉄の骨組みと、ゴムという物質の車輪でできた、馬より早いという変わった乗り物を持っているということ。
 そしてもう一つは、そのジテンシャを、何故かバッグの中から取り出した――というより、取り出せたという事。
 絶対、おかしい。折りたたみ式と言ったって、これは完全に何かがおかしい。バッグの中の空間は、一体、どんな事になっているのか。
「ねえ、訊くけど、それって本当にマジックアイテムじゃないのよね? というか、馬より早いってホント?」
「自転車の事か? 俺の知る馬の速さよりは、多分、早いぞ。それと、これは工学で……、科学で作られた」
「そのバッグもそうなの?」
「……ああ。そうだ」
「というか、カガクとかって何?」
「……科学とはこの世の法則を解き明かす学問の事だ。……銅は小さい抵抗力で電気を流す、重力によって物は落ちる、光は水やガラスによって屈折する。そして、そんな魔法とは一切関係のない力の働き、物の理を使い、生活に密着した技術を生み出す学問……それが工学だ」
「よく分かんない」
「……俺も詳しくは知らん」
 使い魔はこっちを見ずにそう言うと、一瞬で自転車を広げ、その座に跨った。


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