「何だ!? 一体、どこから現れた!」突如白い巨人が出現し、ギーシュは慌てふためいた。
「どこって……ここだが」それを、青年はさも当たり前といったように、手のひらに収まる大きさの球を答える。
「君が召喚したのかい?」
「そうだ。これは、お前たちメイジが俗に言う……使い魔、という奴だ」
「どこって……ここだが」それを、青年はさも当たり前といったように、手のひらに収まる大きさの球を答える。
「君が召喚したのかい?」
「そうだ。これは、お前たちメイジが俗に言う……使い魔、という奴だ」
虚無と十七属性
第八話
「魔法の使えない平民の分際で、使い魔だって? ルーンも刻めないから、感覚の共有もできないだろうし、そんな
亜人じゃ、コミュニケーションもとれないじゃないか。変わったペットのようだが、それじゃ、僕は倒せないよ」
その言葉を聞いて、ルイズは歯噛みした。感覚の共有ができないなんて、まさに私の事じゃないか、と。
だが、青年は、ちっとも動じない。
『主人を蔑むか。貴様、貴族と名乗ったが、精々恥を、その身体と名前に刻みつけるがいい』
亜人が喋った。口は一切動かしていないため、本当に彼が喋っているのか、疑問が沸いた。
「ほう、喋れるのか。ならばコミュニケーションはできるみたいだね。だが……」
そこでギーシュは、学院全体に響くような口笛を吹いた。そして、その数秒後、地面から僅かな振動と共に、茶色の巨大なモグラ――ジャ
イアントモールが現れた。
「使い魔の相手は、使い魔がするよ」ギーシュは前髪を一度整え、「ウェルダンデ!」と叫んだ。どうやら、あのモグラの名前らしい。「ゆ
けっ! あの亜人を倒すんだ!」
『貴様程度で、相手になるかな?』
私の使い魔の使い魔……あー、ややこしい。亜人はギーシュのモグラを一瞥した。
すると、予想外の事が起きた。亜人とモグラの対角線の延長上にいて、亜人の表情を見ていたギャラリーが、表情、身体共に凍り付いた。
そして、ついでにウェルダンデも凍り付いたのだ。一体、何があったのか。
「どうした、ウェルダンデ? 穴を掘って、ヤツに地中から攻撃をするんだ!」だが、ウェルダンデは動かなかった。
『どうした? 早く来ないか』
その言葉と同時に、ウェルダンデが、こてり、と力なく横に倒れた。ついでに、向こう側のギャラリー達も痙攣し、膝をついた。
「ウェッ、ウェルダンデーッ!? あああ亜人、なな何をした!?」
『何だ、少し睨んだだけなのに、麻痺してしまったのか。弱いな、弱すぎる。今のは、技でもなんでも無かったぞ』
「……ミュウツー、頼むから、手加減はしてくれ。殺さない程度に」使い魔の亜人の主の、使い魔の青年がそう言った。
『分かっている』亜人もまた、返事した。『要は、いつも通り瀕死にさせればいいのだろう?』え、いや、それ本当に分かっているのか?
そもそも、いつも瀕死にさせてるって、コイツは一体何者?
「指示なしでもやれそうか?」と、使い魔。
『当たり前だ』と、使い魔の使い魔。
「ルールは、あの薔薇男の杖を奪うか、参った、と言わせたら勝ち。殺されたら、負けだ」
『案ずる必要はない。ちゃんと聞いていた』
その余裕な態度を挑発と受け取ったのか、ギーシュは表情を険しくして、薔薇の杖を一振りした。
「くっ! やれ、ワルキューレ!」
すると、今まで置いてけぼりだったワルキューレ達が、目に光りを灯すかのごとく生気を宿らせ、一斉に鉄の棒を掲げて襲いかかる。亜人
は、両手を胸の前で組んで、その姿勢を崩さない。
『……ふん、一本調子だな。そして何より、遅い。レベル2のキャタピーだって、コイツよりは早く糸を吐けるな』
亜人はそう、恐らく馬鹿にすると、ワルキューレの攻撃をするりするりと華麗に避け、腕を組んだ姿勢のまま、宙に浮かび上がった。
誰もが目を丸くする中、亜人は叫ぶ。
『サイコキネシス!』
刹那、全てのワルキューレの青銅の頭が、まるで、高所から落下した瓶のように弾け飛ぶ。
「……『はがね』に『エスパー』は効果いまひとつだぞ、ミュウツー」青年が、ぼそりと言った。
「……」ギーシュは、今にも卒倒しそうだった。
だが直後に、これが貴族の名に於いて行われた決闘だという事を思いだしたのか、杖を再び握りしめる。
ここで負けたら、グラモン家の名に泥を塗る事になる、とでも思っている、そんなような目をしていた。
そして、今度動いたのはワルキューレだった。
頭のないその青銅人形は、四体を亜人に、二体を青年に目標を定めると、一気に攻撃を開始した。
『いかん』
意表を突いた、主人への狙いは、ミュウツーにとって予想外だった。
ここで特殊攻撃の類をしたら、主人にも命中してしまう。
普段は、こんな時に指示をくれるトレーナーが、油断していた今はいなかったのだ。亜人がどうしようかと迷ううちに、青年とワルキュー
レの距離はゼロになる。
鉄の棒が、躊躇無く青年に振り下ろされた――
しかし、顔を思わず伏せてしまった私の心配などよそに、青年は平然と立っていた。二本の鉄を、一本ずつの腕で支えて。
「プラスパワーだ。自分の身くらいは、自分で守るさ」満身創痍だった筈の青年は、余裕に薄ら笑いを浮かべる。
今度は青年の左手が突如発光し始める。同時に青年の表情が苦痛で歪み、顔を伏せるが、それも数秒の事だった。そこから立ち直ると、鉄
の棒を力一杯振って、ワルキューレ二体を宙へと放り投げた。
恐ろしい力だ。ワルキューレは、通常の鍛えられた人間よりも力が強い筈だった。第一、あれだけの質量の青銅を、なおかつ鉄の棒の先の
それを、放り投げるなんて、人間業では到底為しえない。
すると今度は、これまた恐ろしい棒捌きで、空中のワルキューレを地面に叩きつけ、胸の部分に鉄の棒を深々と突き刺し、そのまま地面
に、青銅人形を縫い付けた。一度は立ち上がってきたもう一体も、再びその棒で打ち倒し、地面に縫い付ける。素人とは到底思えない、棒術
だった。
「やれ、ミュウツー。波動弾だ」まるで、なんでもない、というように、青年は亜人に命令した。
『御意』
今度は亜人が、手に、小さな太陽とも思える、眩い光を集め始めた。
大地が、そのあまりに大きな力に震えた。
亜人じゃ、コミュニケーションもとれないじゃないか。変わったペットのようだが、それじゃ、僕は倒せないよ」
その言葉を聞いて、ルイズは歯噛みした。感覚の共有ができないなんて、まさに私の事じゃないか、と。
だが、青年は、ちっとも動じない。
『主人を蔑むか。貴様、貴族と名乗ったが、精々恥を、その身体と名前に刻みつけるがいい』
亜人が喋った。口は一切動かしていないため、本当に彼が喋っているのか、疑問が沸いた。
「ほう、喋れるのか。ならばコミュニケーションはできるみたいだね。だが……」
そこでギーシュは、学院全体に響くような口笛を吹いた。そして、その数秒後、地面から僅かな振動と共に、茶色の巨大なモグラ――ジャ
イアントモールが現れた。
「使い魔の相手は、使い魔がするよ」ギーシュは前髪を一度整え、「ウェルダンデ!」と叫んだ。どうやら、あのモグラの名前らしい。「ゆ
けっ! あの亜人を倒すんだ!」
『貴様程度で、相手になるかな?』
私の使い魔の使い魔……あー、ややこしい。亜人はギーシュのモグラを一瞥した。
すると、予想外の事が起きた。亜人とモグラの対角線の延長上にいて、亜人の表情を見ていたギャラリーが、表情、身体共に凍り付いた。
そして、ついでにウェルダンデも凍り付いたのだ。一体、何があったのか。
「どうした、ウェルダンデ? 穴を掘って、ヤツに地中から攻撃をするんだ!」だが、ウェルダンデは動かなかった。
『どうした? 早く来ないか』
その言葉と同時に、ウェルダンデが、こてり、と力なく横に倒れた。ついでに、向こう側のギャラリー達も痙攣し、膝をついた。
「ウェッ、ウェルダンデーッ!? あああ亜人、なな何をした!?」
『何だ、少し睨んだだけなのに、麻痺してしまったのか。弱いな、弱すぎる。今のは、技でもなんでも無かったぞ』
「……ミュウツー、頼むから、手加減はしてくれ。殺さない程度に」使い魔の亜人の主の、使い魔の青年がそう言った。
『分かっている』亜人もまた、返事した。『要は、いつも通り瀕死にさせればいいのだろう?』え、いや、それ本当に分かっているのか?
そもそも、いつも瀕死にさせてるって、コイツは一体何者?
「指示なしでもやれそうか?」と、使い魔。
『当たり前だ』と、使い魔の使い魔。
「ルールは、あの薔薇男の杖を奪うか、参った、と言わせたら勝ち。殺されたら、負けだ」
『案ずる必要はない。ちゃんと聞いていた』
その余裕な態度を挑発と受け取ったのか、ギーシュは表情を険しくして、薔薇の杖を一振りした。
「くっ! やれ、ワルキューレ!」
すると、今まで置いてけぼりだったワルキューレ達が、目に光りを灯すかのごとく生気を宿らせ、一斉に鉄の棒を掲げて襲いかかる。亜人
は、両手を胸の前で組んで、その姿勢を崩さない。
『……ふん、一本調子だな。そして何より、遅い。レベル2のキャタピーだって、コイツよりは早く糸を吐けるな』
亜人はそう、恐らく馬鹿にすると、ワルキューレの攻撃をするりするりと華麗に避け、腕を組んだ姿勢のまま、宙に浮かび上がった。
誰もが目を丸くする中、亜人は叫ぶ。
『サイコキネシス!』
刹那、全てのワルキューレの青銅の頭が、まるで、高所から落下した瓶のように弾け飛ぶ。
「……『はがね』に『エスパー』は効果いまひとつだぞ、ミュウツー」青年が、ぼそりと言った。
「……」ギーシュは、今にも卒倒しそうだった。
だが直後に、これが貴族の名に於いて行われた決闘だという事を思いだしたのか、杖を再び握りしめる。
ここで負けたら、グラモン家の名に泥を塗る事になる、とでも思っている、そんなような目をしていた。
そして、今度動いたのはワルキューレだった。
頭のないその青銅人形は、四体を亜人に、二体を青年に目標を定めると、一気に攻撃を開始した。
『いかん』
意表を突いた、主人への狙いは、ミュウツーにとって予想外だった。
ここで特殊攻撃の類をしたら、主人にも命中してしまう。
普段は、こんな時に指示をくれるトレーナーが、油断していた今はいなかったのだ。亜人がどうしようかと迷ううちに、青年とワルキュー
レの距離はゼロになる。
鉄の棒が、躊躇無く青年に振り下ろされた――
しかし、顔を思わず伏せてしまった私の心配などよそに、青年は平然と立っていた。二本の鉄を、一本ずつの腕で支えて。
「プラスパワーだ。自分の身くらいは、自分で守るさ」満身創痍だった筈の青年は、余裕に薄ら笑いを浮かべる。
今度は青年の左手が突如発光し始める。同時に青年の表情が苦痛で歪み、顔を伏せるが、それも数秒の事だった。そこから立ち直ると、鉄
の棒を力一杯振って、ワルキューレ二体を宙へと放り投げた。
恐ろしい力だ。ワルキューレは、通常の鍛えられた人間よりも力が強い筈だった。第一、あれだけの質量の青銅を、なおかつ鉄の棒の先の
それを、放り投げるなんて、人間業では到底為しえない。
すると今度は、これまた恐ろしい棒捌きで、空中のワルキューレを地面に叩きつけ、胸の部分に鉄の棒を深々と突き刺し、そのまま地面
に、青銅人形を縫い付けた。一度は立ち上がってきたもう一体も、再びその棒で打ち倒し、地面に縫い付ける。素人とは到底思えない、棒術
だった。
「やれ、ミュウツー。波動弾だ」まるで、なんでもない、というように、青年は亜人に命令した。
『御意』
今度は亜人が、手に、小さな太陽とも思える、眩い光を集め始めた。
大地が、そのあまりに大きな力に震えた。
ミュウツーの はどうだん!
こうかは ばつぐんだ!
ギーシュの ワルキュレは たおれた!
こうかは ばつぐんだ!
ギーシュの ワルキュレは たおれた!
いや、寧ろ、倒れたというよりは、消し飛んだという方が適当だと思う。
続けて放たれた四発のエネルギー弾は、ワルキューレの上半身に寸分狂い無く命中すると、そのままそれを持って行った。その光の軌跡は
止まることを知らず、ギーシュの踏み台を貫通し、更にその後ろにそびえ立つ、宝物庫のある本棟に命中、貫通し、空の彼方へと消えていっ
た。
巨大な穴が4つも開いた、ギーシュの足場が崩れたのは、それからすぐの事だった。
「うわぁぁああああ!」ギーシュが転落する。
もう、ギーシュにはフライ一つかける精神力、或いは余裕すら、残っていなかったらしい。
そのまま重力に身を任せ、3メイルの高さから背中を、鈍い音と共に地面に打ち付ける。
激痛に呻くギーシュの元へ、亜人が向かう。ギーシュのアングルから見たら、それはもう、白の巨人はたいそう威圧感溢れて見えただろ
う。想像したくない。
「ま、参っ……ん゛ー!」参った、と言おうとしたギーシュだったが、その口が、不可視の力によって閉ざされる。
『まさか怪我もせずに、参った、とは言うまいな? 二度と杖の振れない身体にしてやる。……お仕置きだ』
亜人がそう言うと、両の腕を前に出す。三本しかない彼の指を、開いた。
杖を持っていないギーシュが音もなく浮かび上がる。ギーシュは口を閉ざされたままで喋れないが、恐らく「待て、早まるな、話せば分か
る」みたいな事を言おうとしているのは分かる。
『念力!』だが亜人は躊躇なしに、三本の指をゆっくり閉じた。
「……ミュウツー、それくらいにしておいてやれ。流石に可哀想だ」
『仕方がない……主人に礼を言うがいい』主人の言葉に、亜人が答えた。
一体何が起きるのか、と内心ヒヤヒヤしていたところ、亜人はそのままギーシュに背中を向けた。
何もしないのか? と思い、ルイズはただ呆然と見ていたが、そのうちにギーシュの顔が真っ青になったのを見た。
続けて放たれた四発のエネルギー弾は、ワルキューレの上半身に寸分狂い無く命中すると、そのままそれを持って行った。その光の軌跡は
止まることを知らず、ギーシュの踏み台を貫通し、更にその後ろにそびえ立つ、宝物庫のある本棟に命中、貫通し、空の彼方へと消えていっ
た。
巨大な穴が4つも開いた、ギーシュの足場が崩れたのは、それからすぐの事だった。
「うわぁぁああああ!」ギーシュが転落する。
もう、ギーシュにはフライ一つかける精神力、或いは余裕すら、残っていなかったらしい。
そのまま重力に身を任せ、3メイルの高さから背中を、鈍い音と共に地面に打ち付ける。
激痛に呻くギーシュの元へ、亜人が向かう。ギーシュのアングルから見たら、それはもう、白の巨人はたいそう威圧感溢れて見えただろ
う。想像したくない。
「ま、参っ……ん゛ー!」参った、と言おうとしたギーシュだったが、その口が、不可視の力によって閉ざされる。
『まさか怪我もせずに、参った、とは言うまいな? 二度と杖の振れない身体にしてやる。……お仕置きだ』
亜人がそう言うと、両の腕を前に出す。三本しかない彼の指を、開いた。
杖を持っていないギーシュが音もなく浮かび上がる。ギーシュは口を閉ざされたままで喋れないが、恐らく「待て、早まるな、話せば分か
る」みたいな事を言おうとしているのは分かる。
『念力!』だが亜人は躊躇なしに、三本の指をゆっくり閉じた。
「……ミュウツー、それくらいにしておいてやれ。流石に可哀想だ」
『仕方がない……主人に礼を言うがいい』主人の言葉に、亜人が答えた。
一体何が起きるのか、と内心ヒヤヒヤしていたところ、亜人はそのままギーシュに背中を向けた。
何もしないのか? と思い、ルイズはただ呆然と見ていたが、そのうちにギーシュの顔が真っ青になったのを見た。
◇◆◇◆◇◆
「肘と肩の関節が……外されている。もしくは、腕を折られてる」
食い入るように決闘……いや、ルイズの召喚した使い魔の使い魔による、ギーシュへの一方的な攻撃を眺めていたタバサは、顔を青くする
ギーシュを指さしていた。
どうやって、とキュルケが聞こうとしたが、タバサの白い肌が更に白く、指さす手が震えているのを見て、やめた。
ギーシュが叫んだのは、その直後だった。
「うわぁあああああ!? 腕が、腕が、腕が動かない!」
その直後に、ギャラリーから悲鳴が上がった。
「戻れ、ミュウツー」だが、ギーシュには目もくれず、青年は手に持った球を前に出した。
すると、今まで暴挙を振るっていた白い亜人は、光となって、その球体の中へと吸い込まれていった。
「彼、何者なの? 亜人もだけど、それを従える、彼。……それに、いつの間にか打たれた痕が、なくなってる」キュルケが、隣のタバサに
訊く。自分で言うのもなんだが、恐怖よりも、好奇心が多く含まれていると思う。
すると、タバサも若干だが恐怖の色を薄めた。
「わからない……ただ、」一呼吸置いて、言う。「スクエアクラスのメイジでも、エルフでも、あの亜人に勝てるかどうか、分からない。そ
れに、彼は、あの亜人が入った球を、他に五つ持っていた……言うなれば」
タバサは、ずれていた眼鏡をかけ直し、続けた。
「彼は……魔王」
無言で立ち去る青年の背中を、追いかけられる人間は、誰もいなかった。
食い入るように決闘……いや、ルイズの召喚した使い魔の使い魔による、ギーシュへの一方的な攻撃を眺めていたタバサは、顔を青くする
ギーシュを指さしていた。
どうやって、とキュルケが聞こうとしたが、タバサの白い肌が更に白く、指さす手が震えているのを見て、やめた。
ギーシュが叫んだのは、その直後だった。
「うわぁあああああ!? 腕が、腕が、腕が動かない!」
その直後に、ギャラリーから悲鳴が上がった。
「戻れ、ミュウツー」だが、ギーシュには目もくれず、青年は手に持った球を前に出した。
すると、今まで暴挙を振るっていた白い亜人は、光となって、その球体の中へと吸い込まれていった。
「彼、何者なの? 亜人もだけど、それを従える、彼。……それに、いつの間にか打たれた痕が、なくなってる」キュルケが、隣のタバサに
訊く。自分で言うのもなんだが、恐怖よりも、好奇心が多く含まれていると思う。
すると、タバサも若干だが恐怖の色を薄めた。
「わからない……ただ、」一呼吸置いて、言う。「スクエアクラスのメイジでも、エルフでも、あの亜人に勝てるかどうか、分からない。そ
れに、彼は、あの亜人が入った球を、他に五つ持っていた……言うなれば」
タバサは、ずれていた眼鏡をかけ直し、続けた。
「彼は……魔王」
無言で立ち去る青年の背中を、追いかけられる人間は、誰もいなかった。