あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

mission 00 「Eyes On Me」

 二日前、バラムガーデン委員長のスコール・レオンハートが失踪した。消灯時間前、訓練施設へ向かったことまでは判ったが、それ以後はさっぱりだった。彼ほど腕の立つの人物を何者かが誘拐したとも考えづらく、彼が仲間達に一言も告げぬまま居なくなってしまうような人柄でもないため、原因すらつかめない。
 その後の賢明な捜査にもかかわらず足取りのつかめない彼の捜査に、一人の女性が協力を申し入れてきたことで状況は少しずつ進み始める。


「それじゃあ、リノア。いくわよ」
「はい」
 エスタ大統領府官邸。スコール失踪の知らせは、もちろん彼の父親であるエスタ大統領ラグナ・レウァールの元にも伝えられ、彼の義理の娘であるエルオーネも聞き及んでいた。義弟の居場所がつかめない状況にまた心を痛めていたエルオーネは、こう提案した。
 自分の『接続』の力を使ってその当時のスコールを追えないかと。その可能性に気づいたSeeDは、すぐさまエスタへと移動。軽い打ち合わせの後、スコールの恋人であるリノア・ハーティリーがスコールへジャンクションされることが決定された。今度は俺がスコールの中に入る! と息巻いていた大統領は、君は仕事があるだろう。と20代からの付き合いである部下二人に引きずられていったが……。
 ジャンクション中は完全に意識がとぎれるので、あらかじめリノアはベッドに寝ていた。
「じゃあ、スコールが最後に確認されたちょっと後に繋げるわね」
 スッと目を閉じ、リノアはエルオーネの力に身を任せた。


「はぁっ!」
 ライオンハートが振り抜かれ、アルケオダイノスが息絶える。
「……ふ」
 肩にライオンハートを乗せ、一息つく。
『スコール……』
「……?」
(今、何か聞こえたような気がしたが……)
 辺りを見回すが、いつも通り密林を模した訓練施設の風景が広がるだけだ。
(……気のせいか)
『気のせいじゃない。わたし、ここにいるよ?』
 リノアの主観としては、二日ぶりのスコールの声だった。SeeD達の指揮官ともなっているスコールは、最近書類仕事が多い。まともに体も動かせずストレスばかりが溜まっていくので、こうしてたまに訓練施設に出て汗を流していた。もちろん手持ちのガーディアン・フォースはフルジャンクションで相手になるモンスターにしてみれば目一杯イジメの域であるが、こうでなければストレス発散にならない。
「……今日はこれぐらいにしておくか」
 手に入った星々のかけらやら眠り粉やらの数を数えつつ訓練施設出口へと向かう。その途中で、きらりと光る物が目に入った。
(……鏡?)
 直径4センチほどだろうか。まるでコンパクトにでも収められているような大きさの鏡が、落ちている。誰かが持ってきたコンパクトが破損して、鏡だけが転がったのだろうか。
(……そうならそうで、片づけろよ……どうも説教臭くなってる気がするな)
 なまじ人の上に立つようになったからだろうか。あまり快く思っていたわけではないガーデンの教師のように自分がなってしまうというのは、嫌な想像だ。
『まぁまぁ、それは人に世話をやける事なんだから、悪いことばっかりでもないよ?』
 スコールが鏡を拾い上げようとしゃがみ込んで手を伸ばし触れた瞬間――
『え?』


――突如拡大した鏡に喰われた――


 一瞬平衡感覚がバカになり、スコールは片膝を付く。
「何だ!?」
 慌てて立ち上がり顔を上げたスコールの目に映るのは、一変した風景だった。
『どこ……ここ……』
 所々苔があるだけの、土がむき出しになった訓練施設の地面ではなく、そこら中に草の生い茂る草原。天井はすっかり消え去って正午前のまだ柔らかい春の日差しがスコールの顔を打つ。
「見ろ! ゼロのルイズが平民を召喚したぞ!」
「流石はゼロだ、失敗の仕方もハンパじゃないぜ!」
(召喚……)
 それは、自分がか? そうかも知れない。まるで見知らぬ場所にいる自分。
(だが、G.F.ならまだしも……生身の人間を?)
 魔女の力か?
『そんな力、私は知らないし、聞いたこと無いよ』
 周りから聞こえる言葉から推測を立て、そして自分を呼び出したらしい眼前の少女を見る。
(この娘が……魔女か?)
 かなり小柄だ。身長は自分の胸に届くぐらい。ガーデンの中等科の生徒ぐらいか。その彼女は呆然と自分を見上げていたが、ばっと後ろを向いて声を荒げる。
「ミスタ・コルベール、やり直しを!」
 それに応じて中年ほどの年の頃らしい男性が首を振る。
「ミス・ヴァリエール、サモン・サーヴァントは神聖なモノ。やり直しは出来ません」
「しかし! 平民を使い魔にするなど前例がありません!」
 使い魔――聞こえた単語にスコールは眉を顰める。聞き慣れぬ単語ではあるが意味はわかる。そして平民、というのはおそらく自分のこと。
(俺が……使い魔だと?)
「待て」
 額に手を当てながら、呻くように声をひねり出す。
「あんた達はさっきから何を話して居るんだ! 俺をここに呼び込んだのはあんた達なのか!? 使い魔とはどういう事だ! 最初からせ……!」
 一瞬息を飲み、スコールは自分の口を手で覆う。
「俺は……どこの言葉を喋ってる……?」
 生まれてずっと、思い通りになってきたはずの体に、急に違和感を覚えた。
『何これ……知らない言葉なのに意味がわかるのって……ヤダ、キモチワルイ!』
 膝を付き、左腕で上半身を支えるようにしながらうずくまる。
「大丈夫かね? ああ、混乱するのも無理はない。君はメイジの使い魔召喚の義で呼ばれたんだよ」
 先程の男性――コルベールといったか――が肩に手を貸してスコールの上半身を起こす。
(メイジ……使い魔召喚の義……)
 聞き覚えのない単語ばかりが出てくる。
「そして彼女が、君を呼び出したメイジ、ミス・ヴァリエールだ。さぁ、コントラクト・サーヴァントを」
(コントラクト……?)
 ヴァリエールと呼ばれた少女は何やら散々に躊躇いを見せながらスコールの前まで来ると、不満そうに呟いた。
「感謝しなさいよね。普通ならこんな事、平民がされることは無いんだから」
 何のことだ、と尋ねるより先に少女の口が動く。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
 一息にそう唱えたかと思うと、スコールの顔を掴みそれに自分の顔を近づけて……
『だめぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええ!』
 リノアが絶叫し、スコールは全力で眼前の少女を突き飛ばした。
「ひゃうっ!?」
「いきなり何をする!?」
 そう吼えつつ、立ち上がる。突き飛ばした、と言ったが生半可なことではない。幼い頃から鍛えていたスコールが、ジャンクションシステムの恩恵を受けて、しかも咄嗟のことに手加減も出来ないまま全力で突き飛ばしたのだ。
 ヴァリエールは軽く1Mは飛ばされ、背中を強打して仰向けに倒れた。瞬間的に肺がかなり圧迫され、まともに息も出来ずに咳き込んで喘ぐ。
「けほっ! が、はっ……えほっ!」
『ああ、危なかったぁ……』
 リノアは安堵に胸をなで下ろす。
「乱暴な! 急に何を!」
 コルベールが少女に駆け寄り、助け起こす。
「こっちの台詞だ!」
 全力で、怒鳴り返す。
「いきなりこんな所に連れてきて、訳も判らないままの人間に――!」
 結局掠りもしなかった自身の口元を、それでも嫌なことを忘れようとするかのようにグローブ越しに右手甲で拭う。
「何のつもりだ!」
「だから、使い魔の契約を……」
「契約だかなんだか知らないが……俺は一切そんなことに合意しちゃいないんだ!」
 怒気が滲み出るような形相で、スコールが睨み付け、その手をライオンハートの柄にのばす。
「ま、待って、待っていただきたい!」
 未だ咳き込むヴァリエールを庇うようにその前に立ちつつ、コルベールが語りかける。
「申し訳ない。人間が召喚されるなどというのは今までになかったので、少々強引に過ぎたようだ。話をしたい」
 じっとスコールはコルベールの目を見ていたが、やがて怒りを収める。
「……わかった。話を聞こう」
 ライオンハートの柄を離して一つ頷く。そのスコールの態度に一つ頷き、コルベールは後ろで緊張に身を強張らせている少年少女達に向かう。
「春の使い魔召喚の義はこれにて終了です。ミス・ヴァリエール以外の皆さんは次の授業に行くように」


 少しずつ……会話などを総合して、状態が飲み込めてきた。案内された敷地にある、城と塔の群れをさしてコルベールはトリステイン魔法学院と称した。先程の解散を告げる言葉からすると、今自分を睨み付けているヴァリエールとやらも含め、あの場にいたのはここの生徒なのだろう。
(『次の授業』……と言っていたということは、俺がここに呼び出されたのも授業の一環……)
 使い魔を得るのが、そうなのか。しかし今重要なことはそこではない。トリステイン……聞き覚えのない地名は、スコールに不安をたたき込む。それに、この建物の中には一切電気が見られない。まるで、おとぎ話の中に自分が紛れ込んでいるかのようだ。
『こういうのって、異世界って言うんじゃないかな……』


「ふぅむ……ミス・ヴァリエールの召喚によって彼がなぁ……」
 その学院内で通された部屋は、学院長室だった。
「あー、おほん。ワシが、本学院の学院長をしておるオスマンと言うものじゃ。皆からはオールド・オスマンと呼ばれておる。君の名を聞かせてもらおう」
 コルベールから一通りの説明を受け、学院長はまず自分の名前を明かした。それはこれまでの扱いに比べれば遙かに礼に則ったモノだったが、それ故に難物であるかのような印象をスコールは受けた。
「兵員養成機関バラムガーデンのSeeDをしている、スコール・レオンハートです」
「バラム……ガーデンに、シード……詳しい説明を聞かせ願えるかな」
 少し悩む。自分の知っていることを話すとなんだか取り返しの付かないことになりそうな、そんな気だ。
(だが……俺はここの、トリステインのことを何も知らない……多分、ここの人たちも俺のこともガーデンのことも知らない……。自分のことを、問題を理解してもらうためには、話さなきゃダメ、か)
『よしよし、良く出来ました。っと』
 満足げにリノアは頷く。
「……ガーデンというのは、クレイマー夫妻によっておよそ十年前に設立された機関です。先程も言ったとおり、兵員養成機関であり戦闘技術に特化した学習施設だと認識してください」
「戦闘技術か……何かしら特別なことでもしとるのかね」
 これも悩むが、少なくとも部外秘にしなければならないことはやっていない。正直に全て話す。
「各種武器の扱いを一通りと、擬似魔法を学習する以外は、ガーディアン・フォースを含むジャンクションシステムの扱いを覚えるのが、特別でしょうか」
「擬似……魔法? 系統魔法ではなく?」
 すっとオスマンの目が細まる。ああ、とスコールはどこか諦観と共にそこに注目する態度を受け入れた。現在、地上のどこにも擬似魔法を知らないモノは居ないだろう。そしてまた、自分の知らない単語『系統魔法』。さっき感じた嫌な予感はこれだったんだろう。ここは、自分の居たところとは全く縁もゆかりもない地なのだと、思い知らされる。
『トリステイン……過去って訳でもないよね。歴史の授業でもそんなの聞いたことない』
 沈み込む気分を瞬き一つで今は考えないようにする。
「……ええ、擬似魔法です。擬似魔法マニュアルにより確立された、誰でも使うことの出来る魔法です」
 その言葉に、スコール以外の三名が目を丸くする。
「誰でも……じゃと!? それは、平民でもということかね!?」
『平民?』
「……平民、というのが一体誰を指すのかは判りませんが、はい。誰でもです」
 コルベールが詰め寄ってきて尋ねる。
「そ、それは一体どのような魔法なのかね!?」
 何故か興奮したような表情だ。
『このおじさん……ちょっとコワコワ』
(どのような、って言ってもな……)
 口で説明するのは難しい。いっそ
「……やってみせましょうか」
「ああ、頼む!」
 期待に目を爛々と輝かせてコルベールが懇願する。一つ頷き、三歩ほど距離を置く。
「擬似魔法は、二つのステップから成り立っています。一つは、対象から魔法の力を抽出する『ドロー』」
 パッとコルベールから飛び出した光が、スコールへととんでゆく。
「お、おおお!?」
 慌てて自分の体を見下ろすコルベール。
「そして抽出した魔法を使用します。ファイア」
 つい、と突き出した腕の先。執務室の中空で火が燃える。
「おおおおお!?」
 驚きと感嘆の声を上げるコルベール。
「何で……平民なんかが魔法を……」
 ヴァリエールがぽつりと呟く言葉を聞く。
『? ……スコールが魔法使っちゃいけないのかしら』
「い、一体今のはどうやって行うのかね!?」
 再び、それも今度は更に興奮した面持ちで迫ってくるコルベール。
『訂正、かなりコワコワ……』
「待ちたまえ、コルベールくん。それはひとまず後回しだ」
 スコールに詰め寄る部下を、オスマンが押しとどめる。
「それと、がーでぃあん・ふぉーすとやらも口にしていたかな?」
「ガーディアン・フォース、通称G.F.は、実体は持たないが自然界に存在する意識ある力の事です。俺たちは、そのG.F.を駆使、或いはジャンクションシステムを用いることで利用しています」
「自然界に存在する意識ある力……それは精霊ですか?」
 また興味深げにコルベールが尋ねる。
「こちらで言う精霊、というのがどういった存在なのか知りませんが、先程の説明で該当する存在があなた達にとっても精霊というのなら、そうかも知れません」
「精霊の力を借りるとは、まるでエルフのようですね」
「じゃんくしょんしすてむとは?」
「先程見せた、擬似魔法マニュアルのドローによって取得した魔法を、G.F.のバックアップを受けることで自身の身体能力強化に充てることです。筋力や耐久力、魔力や耐魔法力を向上させることが出来ます」
「なんと!? そんなことが出来るのかね!?」
「はい。ジャンクションを行うのと行わないのとでは、戦闘能力全体で十倍近い差違があります」
「十倍!」
 これは誇張でも何でもない、厳然たる事実である。先程までスコールは訓練施設で体を動かしていたわけだが、ジャンクションシステム無しでは、訓練施設深部へ行って帰ってくるのも至難の業だろう。ほとんど素人同然だったリノアが、あの戦いを戦い抜けたのもひとえにこの力のおかげである。
『でも良かった。今はG.F.達がみーんな居るから、少なくともスコールの身は守れるよね』
「俄には信じがたいが……」
「ただし、G.F.を応用したジャンクションシステムには副作用もあります」
「副作用?」
「G.F.はジャンクションする者の中に自分の居場所を作ろうとします。そのために、ジャンクションをしている者は徐々に記憶を失っていくんです」
「記憶を失う!?」
「大問題ではないか!」
「はい。何かしらの切っ掛けがあれば、思い出すことは出来ますが、この危険性のためにG.F.を実戦に用いているのは俺たちバラムガーデンぐらいです」
「それで……君は大丈夫なのかね?」
「そうすぐに現れる副作用ではありません。月単位で時間をかけて、徐々に……。それに、先程言ったように切っ掛けさえあればすぐに記憶は戻ります。俺の友人は日記を付けることでそれを防いでいますし、同じ部隊にいた俺も彼女のおかげで助けられています」
『まぁ、セルフィはトラビアでその事に気づく前から日記は付けてたけどね』
 ガーデン内の学園祭実行委員会のページを思い出す。
「……以上のような戦闘技巧を教えるのがガーデンで、中でも優れた技能を有しているとされるのが、俺たちSeeDと呼ばれる者です。15才以上で試験資格を得て、19才までにSeeDになれば卒業資格も同時に与えられます。ただし20才までにSeeDに成れなければ放校処分です」
「成る程、君はエリートというワケじゃな」
 オスマンが笑いかけるが、スコールにはどうも感じの悪い笑みに思えた。
(別に、その事を鼻にかけたつもりはない)
 ともかく
「……俺のことは、これで大体理解してもらえたと思います」
「ふむ……ああ……もしかしたら君は気づいているのかも知れんがな?」
 少し言いづらそうにオスマンが言いよどむが、スコール自らそれを引き継ぐ。
「ここは、俺の居たところとは全く関係のない土地……という事でしょうか」
「うむ……理解が早くて助かる。君の見せてくれた擬似魔法が有る以上、言っていたことを信じぬ他はないんじゃが……そうすると困ったことに、擬似魔法もG.F.も何もかも、ここハルケギニアでは聞いたことのない名前ばかりなんじゃ」
(土地の名前はハルケギニア……言い回しからすると『トリステイン』は、さらに小さな囲みだろうな)
「薄々察しては居ました。俺を、送り返すことは出来ないんですか?」
「サモン・サーヴァントは一方通行。送り返す魔法は、聞いたことがないのう」
「……そうですか」
『そんな……折角、エルオーネさんに力を貸りてスコールを追っかけたのに、これじゃあ意味がないってば!』
「この、春の使い魔召喚の義は、彼女たちの進級テストの一部だったんじゃ。特にこれが出来なければ進級はほぼ絶望的と言っていい」
(……あんた達は、ただの試験のためにこんな事を繰り返してきたのか)
 人間を呼び出すのに前例が無いと言っていたが、そういう問題ではないだろう。他の動物たちにだって生活があり、家族があり、つがいが、友が居たはずなのだ。そうしたものを平気で壊すこのシステムに、スコールは嫌悪感を覚えた。
「どうじゃろう、ミスタ・レオンハート。ミス・ヴァリエールの使い魔になってはくれんか? 君の故郷は遠く、帰ろうにも帰り方も帰る手段も見つからぬのじゃろう。魔法を使える君を無下に扱いはせんし、衣食住の保証は出来るしの」
(……魔法を使えるか使えないかが重要なのか?)
 どうも先程から引っかかる。魔法へのこだわり方と『平民』という言葉。どうも『市民』とはほど遠いようだが。しかしとりあえずは目の前の問題に集中する。
(使い魔……か)
「……確認したいんですが、その使い魔の契約のためには、キスが必要不可欠なんですか?」
『……そういえばさっきキスされそうになったんだっけ』
「必須事項じゃ。うむ、動物であれば何ら問題は無かったんじゃろうが……まぁ見ての通りミス・ヴァリエールは器量よしじゃ」
(……セクハラじゃないのか?)
『セクハラだよ、それ』
 二人の声にならないツッコミは、まだ男尊女卑の色が強いここハルケギニアでは先鋭すぎる思考である。
「君さえ良ければ、ミス・ヴァリエールも進級が掛かっておるからな、拒否はせんと思うぞ」
 当のヴァリエールの目つきは、先程よりも尚のこと鋭くなっていたが、契約の話を振られると明らかに動揺していた。
「え!? あ、ああ……そ、そうね……さっき突き飛ばしたのは……まぁ、私の寛大な心で許して、私の使い魔になることで不問にしてあげるわ」
 ふん、とそっぽを向きながらそう述べる。
『うぅ……キス……して欲しくないけど……こんな所、スコール一人で放り出されるわけにはいかないし……』
 愛する男のためには、自分は目を瞑るのが一番良いのか。正直、リノアはもうエルオーネに接続を切って欲しいくらいだった。
(……アーヴァインが言っていたな。【いつだって選択肢は少なかった。時には道は一本しかなかった】今も……選択肢は少ない。後悔しない選択、しなきゃな)
『……これで良いんだよね。スコールが生きてるのが一番だもん……うん、判ってる。スコールは悪くないよ』
 心理的にはかなりぐじゃぐじゃだったが、リノアは強引に結論づける。ところで、話が突然変わるが、スコール・レオンハートという男は大バカ野郎である。世界の平穏とリノアと共に生きることを比べ、多少悩みながらも仲間の言葉の後押しを受けたことでリノアを選んでしまうくらいの大バカ野郎である。だから
「契約はしない。俺は、あんたとキスするつもりは無い」
 こう答えるのは必然とも言えた。一瞬場の空気が固まる。
『……え?』
「ちょ、ちょっと、どういうつもり!?」
「だから、俺はあんたと契約するつもりはない。傭兵として俺を雇う契約なら受けるが……それじゃあ意味がないんだろう」
「ミスタ・レオンハート。彼女の使い魔にならないのなら、ここに身を置くことは出来んのじゃが……?」
(脅しには屈しない)
 深呼吸をして、真っ正面からオスマンに向く。
「……俺にも、恋人が居ます。そいつを裏切りたくない」
『……!』
「非常時じゃ。その恋人も、判ってくれるんではないかの?」
 冷や汗を流しながらオスマン。彼としても、ヴァリエール家の者を留年させて要らぬ不興を買ってしまうのは避けたかった。
「俺の問題です。再会するときに、胸を張って会いたい」
「若いのう……」
(悪かったな)
「そもそも、再会、出来ると思っておるのか?」
 意地悪く、オスマンの目が光る。
(……問題ない、と思う。さっきから頭の中がざわざわ言ってる。俺が入っているときのラグナの感覚も、きっとこんな感じだったんだろうな)
『スコール、気づいてるの!?』
(ガーデンから俺が居なくなって……俺の足取りを追うためにエルおねえちゃんの力を借りて……多分これは、リノアかな)
『うん、そう。私! 私ここにいるよ!』
(頼っても、良いよな。俺は、こっちで頑張ってみる。だから、そっちからも俺を連れ戻せないか、試してみてくれ)
『判った、約束する。絶対に、絶対に助けにいくから!』
 伝わった、気がする。
「きっと、また会えます。会います。俺はこちらで帰る道を捜すし、俺の仲間も、俺を助けようとするはずです」
 だから会える。お互いの存在を信じて、その絆を信じて、荒立った時のうねりも乗り越えた。
「ふぅ……困ったもんじゃのぅ……」
「認めない! そんなの認めないわ!」
 オスマンとスコールの間に、ヴァリエールが立ち杖を向ける。
「アンタは私の使い魔よ! 絶対にどこにも行かせない!」
「……力ずくというのなら、全力で抵抗する」
 杖を向けているのが、魔法学院の生徒であるということを思い出し、ライオンハートの柄に手をかける。
「待ってくれ、ミスタ・レオンハート……ミス・ヴァリエール、杖を収めたまえ。力ずくなど誇りある貴族のすることではあるまい」
「そ……れは……」
 オスマンの言葉に、ゆっくりと杖が下ろされる。
『ちょっと……あの子に悪いかも。だって、これじゃあ進級出来ないんでしょ』
「慣例で言えば、大人しくコントラクト・サーヴァントさせん程凶暴な使い魔は、職員で押さえつけて契約を行うものじゃから、ワシらもミス・ヴァリエールを責められん。じゃが……正直君は得体が知れん。本当にエルフのように精霊を駆使する力があるのなら、職員総出になっても撃退されるのがオチじゃろう」
 それを試す気はないから、君は好きにしろ。と言外に込める。
「……それでは、俺は行きます」
 それを察して、くるりと踵を返し扉へと向かう。ノブに手をかけたところで、振り返る。
「彼女の試験のこと、追試か補習ぐらいは検討してあげてください」
 契約を受ける気は毛頭無いが、これぐらいの口添えはする。
『……そうだよね、あの子だって別に憎くてスコールをこっちに喚んだ訳じゃないんだろうし』
「それから、使い魔を喚ぶこと、人間以外の動物でも同じ事です。それまでの肉親との関係を引き裂くのは、あまり良いこととは思いません」
「胸に止めておこう」
 オスマンが頷いてくれるのを見て、スコールは部屋を出て行った。どこまで聞いてくれたのかは判らない。それでも言わずにはおれなかった。
「……ああっ!? ミスタ・レオンハート! 是非とも先程の擬似魔法に関しての説明を……!」
 コルベールが慌ててそれを追って出て、学院長室には二人だけが残る。
「あの……オールド・オスマン、私は……」
「ああして彼は喚び出せたんじゃ。コントラクト・サーヴァントに関しては……まぁ特例じゃな。彼は異国の軍において大変優れたメイジで、無理矢理にルーンを刻むのは外交問題になりうるため禁じた……こんなところかのう」
「ありがとう……ございます」
 暗に合格のお達しが出たことに口では礼を述べたが、彼女の顔色は優れなかった。彼女が初めて成功した魔法の証は、するりとその手をすり抜けていってしまったのだから。


 コルベールに解放され、学院の門をくぐった時には、既に日は沈みかかっていた。擬似魔法マニュアルの情報提供対価として渡された袋の中には金貨がそれなりに入っている。
『おとぎ話みたいだよね、こんなお金』
 他に、軽く教えてもらったこともある。四系統からなる系統魔法。系統魔法を扱うメイジと、貴族の関連性。それらの始祖であるブリミルとブリミル教。逆にG.F.と擬似魔法マニュアルに類似した、精霊の力を借りる先住の魔法等々。……あの中年男性は、悪人ではないのだろう。自分を呼び出したヴァリエールも悪気があった訳じゃない。だから、スコールは彼らのことは全部忘れようと思った。覚えていても行き場のない苛立ちが体を巡るだけだ。轍があることで道だとわかる程度の、未舗装の街道を歩き続ける。行き先にはこの国の首都があるとのことだ。
(月が二つ、か)
 沈む夕日の反対側に浮かぶ双月が、お前は異郷に来たのだと、強烈にスコールに印象づける。
『あ、流れ星』
 暗くなりつつある空を一筋の光が横切り、それを呼び水に思い出されるのはSeeD就任パーティーの夜。
「また、一緒に並んで見よう」
 望郷の念強く、スコール・レオンハートは一歩を踏み出した。


『戻って』きて、不安げに自分を見る仲間達の姿があった。
「大丈夫、スコールは生きてるよ」
 リノアははっきりと頷き、続ける。
「助けに行こう、スコールを」



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