あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのロリカード-37


「ぶはッ・・・・・・ゲホッゲボ、ゴボッ」
一人の男が姿を現した。
「な・・・・・・何だこれは・・・!!」
状況が理解できない。

「何が起きたんだ、何が起きてるんだ。何なんだこれは!!」

 明るかった筈の空は夜のように暗く、気圧も大きく違う。
自分は風のスクウェア。その微細な感覚から、ここがアルビオン大陸であると認識する。

 己はどうしていただろう。そうだ・・・・・・少女と戦っていた。
レキシントン号に何かが落ちてきて、そこからあの・・・・・・化物が、アーカードが現れた。
それで・・・・・・そう、犬だ。巨大な犬が、その大きな口で――――――。


 そこで気付く、目の前にある巨大な黒い塊に。よく見ればそれは犬、自分を喰った犬。
「ひっ・・・・・・」
思わず小さな悲鳴が出る。体に刻み付けられた臨死の体験が、本能的に声を漏らした。

 そうだ己は死んだ。ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドは死んだ・・・・・・筈だ。
しかし自分はここにいる。自我もある、きちんと己を認識している。
眼前で横たわり死んでいるのは、自分を喰った筈の犬。
何十本もの銃剣が突き刺さり、既に死に絶えていた。

 周囲を見回す。
(これは・・・・・・夢か?)
とても現実の光景とは思えない。

 目に映るは、見るも凄惨な"死"そのもの。
鼻腔を刺激するは、こびりつくような"死"臭のみ。
耳に入るは、つんざくような"死"する者の雄叫び。
舌に残るは、"死"した者の血が気化した鉄の味。
皮膚が鋭敏に感じる・・・・・・体中が震え、二度目の"死"を予感させる。

 五感全てで"死"を感じ、第六感が"死"から逃げろと囁く。
脈動する、脈動する。それはどんどん加速し、ワルドを焦燥させる。


 そんな中でワルドは、"死"以外の者を見つける。遠目に確認できる、人外同士の闘争。
一人は知っている、ルイズの使い魔アーカードだ。
もう一人の男は知らない。しかしあの化物に負けず劣らず戦っている姿は、とても人間とは思えない。
           ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 その時、亡者がまだ生きている者の匂いにつられて集まり始める。
「なっ!?くっ・・・・・・」
ワルドは思考を切り替える。生き延びる為に、眼光が戦う者のそれになる。
卓越したメイジとして、紛う事なき風のスクウェアとしての顔がそこにあった。

 『遍在』で己を四人作り出し、自分を囲むようにして四方に魔法を放つ。
しかし・・・・・・亡者達は止まらない。
圧倒的な物量で、ワルドが放つ風の魔法など、あってないようなもののように押し潰そうと迫る。


「うぅ・・・・・・ぐ・・・」
無駄だ、焼け石に水だ。と、察したワルドは『フライ』の呪文を唱える。
空に逃げるしかない。少なくとも地上にいるよりは遥かにいい。
こんな状況を真っ向からどうにか出来る者など、烈風カリンなど伝説級の英雄だけだ。

 ワルドの体が浮き上がり、飛行しようとしたその刹那。風の魔法が強く体を打った。
「がはっ・・・・・・!!?」
ワルドは地面に叩き付けられ、そのまま転がる。
勢いが止まって顔を上げると、そこにはよく知った顔がいた。

「ウ・・・ウェールズ・・・・・・」
己が目を疑った。自分が殺した筈なのに・・・・・・。
「何故ここにいる!?何故生きているんだ!!??」

 狼狽して息が切れる。魔法を唱えるのも忘れ、遍在達が亡者達に消滅させられるのを感じる。
まずいと思い、魔法を放とうと詠唱をするも遅かった。
既に亡者達が体にしがみつき、我先にと自分を"死"へ引き擦り込もうとしている。

 その時、ワルドは肉に嫌な感触が走るのを覚える。
見ればウェールズが、目の前で気味悪く唇の端を上げて静止していた。
ワルドの胸にはブレイドで強化された剣が突き刺さり、次いでゴボゴボと血を吐き出す。

「お・・・・・・があ・・・あ・・・が」
自分が殺した相手に、同じ殺し方で殺されるなんて・・・・・・なんて喜劇なのだろう。
死の際に、ワルドはそんなことを思う。そして悟る。
ウェールズは既に生きていない、既に死んでいるのだと。
そして己も、もうすぐこの者達と同じモノになる・・・・・・と。


「こんなところで・・・・・・俺は・・・こんなところで死ぬのか」
ワルドは吐き捨てるように呟く。
状況も理解できず、わけがわからないまま造作もなく死ぬ。

「こんなところで、ひとりぼっちで、死ぬのかッ・・・・・・」
ワルドは恨むように呟く。
脳裏に母親の顔が浮かぶ。幼き日の思い出が走馬灯のように頭を駆け巡る。

「己の目的も果たせず・・・・・・畜生・・・ッ」
ワルドは毒づくように呟く。
息絶えたワルドの体に、さらに槍が何本も突き刺さり、そのまま空へと掲げられる。

 串刺しにされたワルドの顔は苦悶に歪み・・・・・・。
その下でウェールズは、ワルドの血をその身に受けながら、変わらず笑みを浮かべていた。




「ふむ・・・・・・夢のようなひとときだった」
アーカードがその艶やかな口を開く。
死闘を繰り広げた二人に、無事なところなどは一つもない。

 祝福儀礼の銃剣に斬られ、ジャッカルの弾丸に撃たれ、二人とも再生が追いついていない。
それでもひたすら戦い続けた。肉体を磨り潰しながら、精神を磨り減らしながら。

「しかしなぁ・・・・・・タイムオーバーだ、アンデルセン」
アーカードは名残惜しそうに言う。

 まだ決着はついていない。どちらかが倒れるまで続ける。
当然その想いは、双方にあった。しかしアーカードは今、この闘争をやめようとしている。
『時間切れ』。その言葉の意味を、アンデルセンもなんとなく感じ取っていた。

「アルビオン軍は殲滅された。となれば、次の矛先は――――――」

 アーカードは、これ以上零号開放をしておく理由がないことを言っている。
そしてこのまま放置すれば――――――次の標的はその周囲全て。
つまり近くにある森も、ウエストウッド村も例外ではない。

 アーカードは、ティファニア達に危険が及ぶと通告しているのだ。
アンデルセンの選び取る答えまで予想した上で、そう言っているのだ。
アーカードのそんな態度に、アンデルセンは大きく舌打ちをする。


「フッ・・・・・・私も、おまえも、互いに守るものがある。互いに譲れぬものがある。
 あぁそうだ、お前になら倒されても良かった。あの日なら、人間のお前になら。
 あの夜明けのロンドンで、人間のお前になら、この心臓をくれてやっても良かった。
 でももう、もはやだめだ。私は、帰らねばならん。ルイズのもとに、インテグラのもとに。
 だからもう、易々と打ち倒されてはやらん。・・・・・・おまえは、どうするのだ?アンデルセン」

 アンデルセンは目を瞑る。その瞼の裏に映るは子供達、その笑顔。
考えるまでもない。いや、ここに来る前に散々考えたこと。
自分は――――――もう二度と――――――。


 アンデルセンは銃剣をしまう。アーカードもそれを見て武装を解いた。
「・・・・・・次は殺す、必ず殺す」
アンデルセンは踵をかえし、そう言った。

 アーカードは満足気な笑みを浮かべ、背を向ける。
背中合わせの二人が、それぞれ歩き出す。
アンデルセンは書物を開く。するとページが溢れ出し、それに包み込まれるといつの間にか消えていた。

 アーカードはクイッと指を動かす。
その瞬間、死の河の動きがピタリと止まり、その姿が液体へと変わり始める。
次いでアーカードの肉体に、赤黒い血液となった死の河が吸収され始めた。
地平を埋め尽くし、全てを押し流した死の河。その奔流が巻き戻るかのように、アーカードに吸い込まれる。
アーカードを中心に螺旋を描き、渦巻くように領民達は帰り始めた。――――――新たな七万の領民を連れて。


 全てを喰い尽くしたアーカードは、夜明けの空を薄く見つめる。
アーカードの口から、思わず「あぁ・・・・・・」と息が漏れる。

 人間である事をやめ、化物と成り果て、『ヴラド・ツェペシュ』が死んだあの時。
ヘルシング教授とその一行に破れ、心の臓腑に杭を突き立てられ、『ドラキュラ』が死んだあの時。
そしてシュレディンガーを取り込み、虚数となって消え、『アーカード』が死んだあの時。

 私が死んだ光景。
幾度も見て、そして思ったその場景。

(本当に日の光とは・・・・・・こんなにも、美しい物なのだな)




 両の手に掴まれた、リップヴァーンとトバルカインが引っ張られる。
あの吸血鬼が・・・・・・アーカードが食事を始めたのだろうと、大尉は抵抗することなくその手を離した。
一度の跳躍で、死の河の圏内から離脱し、振り返ってその光景を見つめる。

 アーカードも自分も、哀れな化物。あまたの不死の化物。
我らは闘争を望む。血みどろの戦いを望む。嗚咽するように、渇望する。

 戦闘戦斗を望むわけではない、死を望む絶叫。
闘争から闘争へ、何から何まで消えてなくなり、真っ平らになるまで、歩き、歩き、歩き続ける幽鬼。
だが、あの吸血鬼は、アーカードは果たして今もそうなのだろうか。

 なんとなく・・・・・・なんとなくなのだが、今は違うような気がする。
それは同じ化物としての勘なのか、狼としての嗅覚なのか。
いずれにせよ、今も変わらぬ幽鬼の己とは違う。そんな確信にも似た何かを感じる。


 大尉は帽子をかぶりコートを着ると、指笛を吹いた。
神の右手『ヴィンダールヴ』、心優しき神の笛。あらゆる獣と心を交わし、操る能力。
現れた竜の背に乗り、大尉は夜明けの空を飛ぶ。

 アーカードのように自分は変われない。
いつだって、自分は死にたがりの戦争犬。
あのセラス・ヴィクトリアのように、己を打ち倒してくれる・・・・・・。
そんな人間にいつかまた出会える、その日まで。




 夜が明けた。終わってみれば、長い長い悪夢を見ていたようだった。
あれがアーカード。己の使い魔、最凶の吸血鬼。

 ――――――ついさっきまで、ここには地獄絵図が描かれていたなど、誰が信じられようか。
七万もいたアルビオン軍は、もう影も形もない。
最初からいなかったのではないかと思わせるほど、その痕跡が残されていないのだ。
埋め尽くし溢れていた軍勢も、空間を散り染めていた血液も、七万の死骸も、その全てが消失している。

 兎にも角にもこれで全てが終わった。そう、全てが終わった。

(わたしが、殺した・・・・・・)
ルイズは右手でギュっと、自分の胸元を押さえる。
なんだか息苦しく感じた。心臓が締め付けられるような感覚に襲われる。


 任務は足止めだった。一日足止めすればいいだけ。
もしかしたら・・・・・・『イリュージョン』と『エクスプロージョン』だけでも、任務は遂行出来たかも知れない。
魔力がどの程度溜まっているかわからない。威力は定かではない。

 しかし足止めだけであるなら、それでも充分だった可能性は有った。
アーカードの出す霧と併用すれば、さらに効果は高まっただろう。

 それでも選んだ。より確実に任務を遂行する為に。
突然の不透明過ぎる軍の離反。敵軍の霧中進軍の可能性。虚無魔法の不安定さ。
不確定要素が多かった。その為に退却の最中にある自軍を、危険に晒すわけにはいかない。

 あらゆる可能性を考慮し、吟味し、そして選択した。
100%成功させる方法を、アーカードに命令した。
かつての友軍を含んだアルビオン軍を、私の殺意が殺したのだ。

 学院を襲ってきたメイジを殺した時とは、比べ物にならない重圧。
自身が背負わなければならない罪。向き合わねばならぬ事実。


「すぅ~・・・・・・ふぅ~・・・・・・」
ルイズは大きく深呼吸をする。昂ぶった気を落ち着ける。

 ――――――というか、これはもう退き口でもなんでもない。
アルビオン軍は殲滅された。大虐殺ではあるが、戦争に於いてこれは大戦果とも言える。
トリステイン・ゲルマニア連合軍の勝ち。というよりは、アルビオン軍の負けが確定したようなもの。

「どうしよう・・・・・・」
ルイズは呟く。この事を伝えようにも、伝令する手段がない。
(そもそも信じてもらえるのかな、これは・・・・・・)
追撃のアルビオン軍七万が・・・・・・全滅したと。

 このままでは、連合軍は退却を完了してしまう。
そうなっては敵軍がいなくなったとはいえ、もはや制圧は不可能だ。
いやもう既に連合軍の殆どが退却しているから、どっちにしても無理かもしれない。
はてさて、どうしたものか。

(とりあえずアーカードと合流しよう・・・・・・)
ルイズは目を凝らして平原を探す。
それらしいシルエットを見つけると、ルイズは駆け出した。




 アンデルセンは森へと着く。
冷水が体に染みるも、念入りに洗って血の匂いを完全に落とす。
アドレナリンで麻痺していた痛みが、一斉に疼き始める。
どっと疲労が襲ってきて、体中が悲鳴を上げる。

 だが闘争の痕跡は一切残さない。
睡眠欲と痛みが鬩ぎ合い、精神力だけでそれを抑え込む。
決して表に出してはならない。子供達に心配されてはならない。
その笑顔が崩れるような事が無いように。子供達とその笑顔を守る事が今の自分の本懐。

 アーカードを打ち倒す事は結局適わなかった。
が、それでもアンデルセンの顔には、柔和な色が浮かんでいた。



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