あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの修羅-2

みすぼらしい平民を呼び出した時も、みじめな気持ちになったルイズだったが、今現在、自分が振るった鞭を、その使い魔が見た事も無い不思議な体捌きで、ことごとく避けて行く事実に、そのみじめさは加速度的に上昇した。
 使い魔なのだから、ご主人様が与える罰は甘んじて受けるべきなのだ。そう考えるルイズだが、それは目の前にいるアズマには通用しなかった。

「おいおい、これがお前の下穿きだって知ってたら、俺だって触ってないさ。それより危ないからあんまり振り回すなよ、怪我するぞ?」
「うるさい! 何でわたしこんな変態をーー!?」
「だから誤解だって……」

 たっぷり三十分は追いかけっこを堪能したルイズは、大きく肩を上下させながら、そのままベッドにへたり込んだ。無理もない。三十分も持っただけ、体力があると言ってもいいくらいだ。
 対するアズマは、けろっとした様子で息一つ切らさず、ぜぇぜぇと荒い息を吐くルイズにへらへらとした笑みを浮かべている。

「なぁ、そろそろそれ、食っていいか?」
「……好きになさい」

 この期に及んでまだパンに執着を見せるアズマに、ルイズは息絶え絶えに返し、テーブルの上に置いていたパンを食する事を許可した。
 念のためにと幾分か多めに仕入れたパンは、みるみる内に彼の胃袋の中に収められていった。先ほどの食事の光景からして、予想は付いていたが、相当な大食らいらしい。
 そんな事はどうでもいい。いや、長い目で見ればどうでも良くないのだが。
 今は、彼に使い魔としての義務と役割を伝えなければならないのだ。

「ねぇ、あんた、パン上げたんだからさ、そろそろわたしの話聞きなさい?」

 口一杯にパンを頬張るアズマに、ルイズはようやく整った息を吐き出し、言葉を紡いだ。

「もが、もがが(ああ、いいぜ)」
「……ちゃんと飲み込んでから喋ってよね。いや、今のはちょっとタイミング悪かったかも知れないけど」

 程なくして口内のパンを嚥下し終えたアズマに、ルイズは再度言った。

「あんたはね、わたしの使い魔になったの。契約済みなの。いい?」
「は?」

 アズマの反応は、実にシンプルだった。何のことか分からない、それを顔全体で表している。そんな彼の事だから、ルイズが説明する使い魔のシステム等にも、理解する様子を見せず、彼女が口を開いている間、ただひたすらアズマは首を傾げるばかりだった。

「衣食住、そのくらいは保障してあげるわ。何たって、あんたのご主人様なんだからね」

 ルイズが最後に言ったそう言うと、良く分からないけど、と前置きし、アズマは口を開いた。

「金持ちに飼われるってのは気に入らないけど、貰うもん貰っちまったからな……それに、今の俺には、それがお似合いなのかもな……死ぬよりはましに違いない」

甚だ不本意ではあるが、こうしてルイズは、名実共に使い魔を得る事に成功した。
 肯定の意を受け取ると、そこで暴れ回ったツケが来たのか、ベッドにへたり込んでいたルイズの目が、急にとろんとし始めた。

「おい、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないわよ……どれだけ走り回ったと思ってるの……?」
「何だ、意外と体力ないんだな」
「あんたが異常なのよ……」

 それだけ言い残し、服を着替える事無くルイズはそのまま、仰向けに倒れて目を瞑った。睡魔は待っていたかのように、目を閉じたルイズの意識を夢の世界へと持っていく。

「……で、俺はどこに寝ればいいんだ?」

 一人置いていかれたアズマは、所在なさげに呟き、足元に敷かれた藁にその身を預けた。

「ま、女の寝床に入るわけにはいかないよな」

 翌日から、アズマの使い魔としての生活が始まった訳なのだが、ルイズにとって彼は、使えると言えば使えるが、果てしなく微妙な存在だった。
 押し付けた洗濯くらいはそれなりにこなすのだが、使い魔的な事はからっきしだ。
 平民の使い魔として、あからさまな嘲笑や侮蔑の視線、そして言葉をぶつけられても、彼はただへらへらと笑ってそれを受け流す。
 何を言い返すでもなく、睨んだりしたりもせず。ただ、他の生徒の呼び出した使い魔達と戯れたりしながら、まるで生産的でない日々を送っている。
 自分が呼び出した使い魔として、ルイズにはそれが我慢ならなかった。
 彼にはそういう悪意と戦う姿勢が見られないのだ。自分と違って。
 召喚して数日後、見るに見かねたルイズが、怒りのあまり食事抜きを彼に言い渡した。言われた瞬間、この世の終わりとでも言った表情をアズマは見せたが、その後、何事も無かったかのように、と言うか、むしろ食事の時間の前よりも満ち足りた表情で彼は彼女の前に現れた。
 不審に思ったルイズが尋ねると、どうやらメイドやコック長に食事を恵んで貰ったらしい。それからと言うもの、彼が時折メイドの手伝い等をしている姿が学院で見かけられる様になった。
 そんな彼に様々な揶揄の言葉がかけられたが、彼はそれに一切の怒りの気配を見せず、ふっ、と笑って返すばかりだった。
 ルイズのイライラは日々募って行った。

「あんたほんと、少しは言い返そうって思ったりしないわけ?」
「いいさ。別に。言いたい奴には、言わせておけばいい」

 言った所でこの始末である。どうしようもない。
 だが、そんな彼にも、怒りという感情がある事を、ある日知る事となる。
 昼食が終わり、メイド達がデザートの配膳を行い始めた時の出来事である。
 例によって例の如く、アズマはそのメイドの手伝いにかまけていたのだが、その最中、一人のメイドが、ルイズと同級生である貴族の一人、ギーシュにちょっとした言いがかりを付けられたのだった。

「君の様な平民のおかげで、この僕のプライドと、あの二人のレディに恥をかかす羽目になった。これはどうやって落とし前を付けてくれるのかな?」

 そう言って詰め寄るギーシュを止めたのは、その場にいる誰もが予想だにしなかった、アズマだった。

「その辺にしときなよ。みっともないぜ」
「何? 平民の君が? 貴族の僕にみっともない?」
「身分の差が理由で、抵抗できない相手をいたぶる事に何とも思わないのは、充分にみっともないぜ」

 普段見せる事の無い、強張った顔でアズマに対し、ギーシュは芝居がかった仕草で言う。

「貴族に対し、過ぎた発言をする平民だね……君は。だが、特別に君に猶予をやろう。今すぐ謝りたまえ。それで許してあげない事もないよ」

 アズマはその目を吊り上げた。

「だから金持ちは嫌いだよ。……本来失礼な真似をしたのはそっちなのに、高みでふんぞり返って筋の違う事を言い出す」
「何?」
「謝るべきはおまえだろう。シエスタに」

 ここで周りを取り囲んでいた連中が爆笑した。「ついでにケティとモンモランシーにも謝っておけよー」等と野次る声が聞こえ始める。
 彼としては、そこで引っ込みが付かなくなったのだろう。胸に差していたバラの造花をアズマに突き付け、こう言うのだった。

「生意気な平民め! 決闘だ!」

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