あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの黒魔道士-44


「……いつにも増して、すごい人だね……」
お祭り騒ぎって言葉が、これほど似合うことも無いなって思うんだ。
タルブ会戦(この間の戦いは、そんな名前がついてしまったらしい)の直後はもっとすごかったんだって。
お姫様を先頭にした凱旋パレードに、紙吹雪や花吹雪がこれでもかってぐらい空にあふれて、
ついでに戴冠式まで行われて、丁度虚無の曜日だったってことも手伝って、宴の波が夜遅くまで続いたらしいんだ。
「まぁ戦勝祝いってぇヤツだわな。飲める理由にしちゃ上等の部類だろうぜ」
どうせだったらボクも参加したかったけど、
ボクがこっちに帰ってこれたのはその後の話だし、仕方ないかなぁって思うんだ。
でも、1週間経った今でも、お祭り騒ぎは続いているし、屋台や大道芸人がそこら中にあふれている。
なんか、とってもワクワクするんだ。
「こらビービッ!はぐれるから、ちゃんと手ぇにぎってなさい!」
「あ、うん、ゴメンねルイズおねえちゃん」
ルイズおねえちゃんも、心なしかうれしそうだなぁ……


ゼロの黒魔道士

~第四十四幕~ タマネギ隊ただいま巡回中

「ほんと、すごい騒ぎだねぇ……」
何を見ていいのか迷うぐらい、鮮やかな色と模様と香りと動きに満ちている。
なんだか目と耳と鼻がもう3つずつあればいいのになぁって思うんだ。
「ほんとね」
「お祭り騒ぎってぇヤツだわな。相棒の故郷はどうだったんでぇ?」
「ん~、ここまで派手なのは見なかったかなぁ……?」
お祭り騒ぎ、に近いものはそれなりにあったと思う。
ダガーおねえちゃんの誕生日や、リンドブルムの狩猟祭がお祭りではあったと思う。
でも、そういうのって、毎年毎年あるもので、
今回みたいに一度っきりだから、って感じは無かったと思う。
何より、平和になったことをお祝いするってなかったから、なんかいい感じだなぁって思うんだ。
……ボクのいた世界も、こういうお祭りができるようになってるといいなぁ……

そんなことを考えながら歩いていると、ボクの手を握って前を歩いていたルイズおねえちゃんの足が止まって、
そのまま追い抜かしてしまいそうになっちゃたんだ。
「?どうしたの、ルイズおねえちゃん……」
ルイズおねえちゃんの視線の先を背伸びしながら見てみる。
そこにはキラキラ光るものが沢山、籠や箱からはみ出している屋台があったんだ。
「あ、宝石屋さん?見たいの?」
ルイズおねえちゃんが、頷くから、そっちに行くことにしたんだ。
女の人って、こういうのが好きっていうのは、どの世界も一緒なのかなって思う。
ダガーおねえちゃんやエーコも身につけてたりしたっけ。

「おや!いらっしゃい!見てください貴族のお嬢さん。珍しい石を取り揃えました。
 『錬金』で作られたまがい物じゃございませんよ」
まがい物、では無いとは思う。
とはいっても、そこまで高そうって思わないのはなんでかなぁ?
屋台って場所にごちゃまぜになって売られてるせいかもしれないし、
召喚獣がこめられているわけでも無いからかもしれない。
それでも、きらびやかで、とっても綺麗なのは間違いなくて、
ルイズおねえちゃんがあれやこれやと手にとってうっとりするのも仕方がないと思うんだ。
「……それ、欲しいの?」
何度か同じネックレスを取っては溜息をついていたから、思わず聞いちゃったんだ。
「お金ないのよ」
ルイズおねえちゃんが残念そうに言う。
そういえば、ボクの捜索費でかなり使ったとか言ってたっけ……
悪いこと、しちゃったなぁ……それに……
「それでしたらお安くしますよ。4エキューにしときます」
「ん~、まだちょっと高いわねぇ」
「……ゴメンね、ルイズおねえちゃん、ボクも、お金無いや……」
「え?」
ルイズおねえちゃんがキョトンとした表情をする。
「……あれ?こういうときって、男の子がおごらないと、ダメじゃないの?」
女の人と一緒に街に行ったときの基本はそうだって、今まで聞いたけどなぁ?2人ぐらいに……
「――ちょ、ちょっと、ビビってば!あんたギーシュの馬鹿にでも習ったの?」
「え、う、うん……」
あと、ジタンにも、ね。
2人とも、女の人にすっごく人気があったし、そうするのが当然、みたいに言ってたけどなぁ?
「あんたはね、そーゆー背伸びはしなくていいの!無理しなくても大丈夫!」
ルイズおねえちゃんがクスクス笑いながら言う。
うーん、そんなに変なこと言ったかなぁ?
そう思うと、なんか恥ずかしくなって、帽子を深くかぶりなおしたんだ。
「え、でも、欲しかったんじゃ……」
「いーのよ!ああいうのはね、恋人ができたときにでも買ってもらえばいいの!」
「……そういうものなんだ?」
「そういうものなの!」
恋人、かぁ……
そういうのは、ちょっと分からないなぁ……?
もちろん、お芝居でよく見るけど、具体的にどうやってなったりするんだろ……?
お友達、とか、仲間、とかとは、やっぱり違うんだよね……?
う~ん……ボクが普通の人間の男の子なら、もっと分かるのかなぁ……?

「あれ?ビビ!」
そんな考え事をしていると、後ろから声がしたんだ。
「え?……あ!ルーネス!どうしたの?」
アニエス先生の生徒だった子供自警団の1人で、ポニーテールの銀髪の男の子なんだけど、
今日は鉄の兜をかぶっているせいか、銀髪が全然見えないなぁ……?
きっちり鎧を着込んで、ガシャガシャと動くたびに音が鳴っている。
「それはこっちのセリフ!オレ達――あ、いや!我々、『タマネギ隊』は巡回任務ちゅーなのであります!」
急にビシッとかしこまって『気をつけ!』の姿勢でそう言うものだから、なんかおかしく見えてしまう。
「ど、どうしたの?」
兜と鎧の隙間から覗く顔が、かしこまりきった真面目な顔から、一瞬でニヘ~っとした笑顔に変わる。
「いや、アニエス先生に頼まれてさ、子供自警団も格上げしたんだぜ!その名も『タマネギ隊』!
 トリスタニアを守るせーぎの一味っ!――さすがに女王へーかさま直々ってわけにはいかないけどな。
 つーわけで、今はスリや万引き、迷子の道案内と忙しくトリスタニアの平和を守ってるのであ~る!ってわけだ!」
立派な仕事をしているみたいに胸を張って、自信たっぷり。とっても充実しているみたいだった。
『タマネギ隊』、か……なんか、カッコいいなぁ……
「へぇ……なんか、偉いなぁ……」
「へへん!だろ?――まぁ、お前らほどじゃないけどな、アニエス先生誉めてたぜ?」
「え?」
それは、初耳だった。
そういえば、アニエス先生、タルブに行く前に書き置きを残して消えちゃってたけど、どうなったんだろ?
「あぁ、そうだそうだ!オレ、すっかり忘れてた!あのさ、アニエス先生がさ、お前らのこと探してるぜ?」
「アニエス先生が?」
これも、初耳だったんだ。
「――ちょっと、『ら』って、私も含まれてるの?」
「そうそう!桃髪の貴族のねーちゃ――もとい!貴族の『ごれーじょー』な?
 あー、言葉づかいがめんどくせー!とにかく、二人に王宮まで来てほしいってさ」
『ご令嬢』って言葉がそこまで面倒くさいとは思わないし、よく事態も飲み込めないけど、
アニエス先生がボク達に会いたいってことだけは分かった。
「……なんだろ?」
あまり、心当たりは無かったんだ。
 ・
 ・
 ・
城門の横にある詰所で、アニエス先生は書類仕事をしていたんだ。
「アニエス先生!二人を連れて来たぜ――じゃなくて!連れて『まいりました』!」
ルーネス、言葉づかいがまだ定まってないみたいだ。
やっぱり、難しいもんね。敬語って言うんだっけ、そういうのって。
「――お、ビビ!無事だったか?」
アニエス先生が積まれた書類を脇によけつつ立ち上がる。
心配させてたみたいで、無事を伝えるのが遅れて悪いことしたなぁって思うんだ。
でも……
「うん、ゴメンなさい……
 あ、でも、アニエス先生こそ……突然消えちゃって、心配だったんだよ?」
せめて一言ぐらいどこに行くとか言ってほしかったなぁって思うんだ。
「ぐ、げ、ゲフンゲフン!そのことはあまり言わないでくれ……頼む」
「あ、う、うん……?」
触れてほしくないこと、ってことなのかなぁ?
とりあえず、この話題はやめておいた方が良さそうだ。
笑顔の裏に、しゃべったらどうなるか分からないってボムの自爆前みたいな空気が漂っている。
正直、ちょっぴり怖かったんだ。

「それで?私達に用って?ビビの顔を見たかったってわけじゃないでしょ?」
会話の隙間をぬって、ルイズおねえちゃんが聞いたんだ。
確かに、ボクの顔を見たいだけなら、学院に来ればいいのにとは思う。
あ、でもそれもできないぐらい忙しいってことなのかなぁ?
「あぁ、うむ。ルーネス。もういいぞ。引き続き巡回頼む」
「はいっ!――それじゃな、ビビ!」
「あ、うん、またね!」
ルーネスを詰所の外に追い出すみたいに任務を出したアニエス先生。
もうちょっと、ルーネスとおしゃべりとかしたかったけどなぁ……
もしかして、ルーネスに聞かれたらまずい話、でもするのかなぁ?
「――で?」
「正確には、姫殿下――いや、女王陛下になられたな、お前たちをお探しでな。しかも秘密裏に、だと」
戴冠式が終わったから、アンリエッタ姫は、今やアンリエッタ女王ってことらしい。
でも、女王様がボク達に何か用、なのかなぁ?
「姫さまが?」
「色々と、あるみたいでな。行きながら話そう」
 ・
 ・
 ・
城門から石床の廊下を抜ける間、アニエス先生が王宮を取り巻く今の状態について教えてくれたんだ。
ゲルマニアとの結婚の話は、この間の戦いの結果により流れてしまったらしい。
これだけの力を持っている国と結婚によって同じ国になってしまうと、
どちらに権力があるか分からなくなるって意見がゲルマニアの中で多くなってきたらしい。
ただでさえ歴史ある王家との結婚ってことでその力を危険に思う人たちもゲルマニアには多かったんだって。
色々、ややこしいみたいだ。でも、お姫さま……あ、もう女王さまなんだよね?
女王さまも、この結婚は望んでいなかったみたいだから、結果的に良かったんだと思うんだ。

それから、組織の改善ってことで、平民の人たちを幾らか王宮関連の任務に雇ったんだって。
色々あって、貴族の人たち同士でお互いを信じられなくなっちゃったんだって。
それは、ちょっと悲しいかもしれない。
アニエス先生をはじめ、何人かの平民の人たちが、監視役や調査役ってことで、王宮に正式に雇われたらしい。
特に、アニエス先生は“アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン”って苗字までもらって、ちょっと嬉しそうだった。
あ、だから今までつけていなかったマントをつけているのかなぁ?なんかとっても似合ってる。
いずれ、今まで貴族だからっていばってただけのクズはわたしが裁くって鼻息を荒くしていた。
――王宮の中を歩いていて、アニエス先生を冷たい目で見たり、ワザとらしく咳をしたりしてた人たち、がそうかな?
なんか感じがすっごく悪かったし、そういうのを少しでも良くできればいいなって思うんだ。

執務室っていうところの兵士さんと何度か言葉を交わしてから、その中に入る。
その中では女王さまがやっぱり忙しそうに仕事をしていた。
でも、杖をふれば羊皮紙に勝手に文字が書かれたりするから、アニエス先生よりは楽かもしれない。
「陛下、お探しの者達を連れてまいりました」
「まぁ、思った以上に早かったわね!ありがとうございます。アニエス、下がって結構ですよ」
ルイズおねえちゃんの顔を見て、書類とにらめっこしていたときの眉間の皺がスッと消える。
二人は友達、だもんね。やっぱりうれしいんだと思う。
「ハッ!それでは!」

「ルイズ、あぁ、ルイズ!」
アニエス先生が執務室を出ると、女王さまがルイズおねえちゃんに飛びつき抱きついたんだ。
「姫さま――いえ、もう陛下とお呼びせねばいけませんね」
「そのような他人行儀のを申したら、承知しませんよ。ルイズ・フランソワーズ。
 貴女は、私から最愛のお友達を取り上げてしまうつもりなの?」
「ならばいつものように、姫さまとお呼びいたしますわ」
きっと、この二人って、どこまでいっても友達でいれるんじゃないかなぁって思うんだ。
「そうしてちょうだい。あぁ、女王になんてなるもんじゃなかったわ。退屈は2倍。窮屈は3倍。そして気苦労は10倍よ」
そうは言うけど、アンリエッタ女王……いや、ルイズおねえちゃんみたいにお姫さま、って言うべきかなぁ?
ともかく、アンリエッタ姫はため息をしながらほんのり笑ったんだ。
忙しそうにしてるから、少なくとも退屈ってわけじゃないと思うんだけど。

「あの勝利は貴女のおかげだものね。ルイズ」
そして、ルイズおねえちゃんに向けてそう言ったんだ。
あの勝利って……この間のタルブの、だよね?
ルイズおねえちゃんが慌てた顔をして視線をそらそうとしている。
「私に隠し事はしなくても結構よ。ルイズ」
それを見て、クスッと笑うお姫さま。
何もかもお見通しっていう感じの、余裕のある表情だった。
……やっぱり、退屈は2倍って、嘘じゃないかなぁ?
「あの白い光は貴女なのでしょう?ルイズ。城下では奇跡の光だ、などと噂されておりますが、
 私は奇跡など信じませぬ。あの光が膨れ上がった場所から半径1リーグ以内、あの瞬間にいたメイジなど、
 調べたらすぐに分かりましたわよ?幸せそうに疲れ倒れていたメイジの存在もね」
「そこまでお調べなんですか」
ルイズおねえちゃんが観念したようなうめき声をあげる。
……やっぱり、ルイズおねえちゃんだったんだ、あの白い光は……
ルイズおねえちゃんの声が光の中に聞こえた気がして、なんか懐かしい歌が聞こえた気がして、
ちょっとホッとしたのって、やっぱり勘違いじゃなかったのかなぁって思うんだ。
「あれだけ派手な戦果をあげておいて隠し通せるわけがないじゃないの」
そして、その微笑みを保ったまま、ボクの方に顔をむけるお姫さま。
「古の英雄物語のごとく、珍しい大鳥にまたがり、群がる龍騎士兵共を眠らせつつその背を駆け上って旗艦まで到達、
 指揮系統を混乱させ、侵攻を食い止めたとか。厚く御礼を申し上げますわ」
「え?い、いやいやいや!?ぼ、ボク、そんな大したことしてないよっ!?」
ボクのことを言ってるみたいだけど、ボクはそんな立派そうに聞こえることなんてちっともできてないと思うんだ。
そんなこと言われても、ボク以外の誰かの話にしか聞こえないや。
「謙遜しなくても結構よ、小さな使い魔さん。できたら貴方を貴族にしてさしあげたいぐらいだけど――」
「ぼ、ボクが貴族っ!?」
なんか、話がおおごとになってきちゃったなぁって思うんだ。
ボク、そんなことまでされなくてもいいのにって思うんだけど……
ただ、守りたかっただけなんだし……
「そういうわけにも参りませんの」
微笑みがちょっと曇って、おっきな溜息をつくお姫さま。そしてルイズおねえちゃんに問うたんだ。
「ルイズ、あの魔法について教えてくださらない?分かっている範囲で構いませんから」
そういえば、まだ聞いてなかった。
あの魔法が、何なのか、を。



ピコン

ATE ~骨の髄まで軍人で~

「それで、ホレイショ?どう思うね?」
「うむ、やはりトリステイン軍にしばらく厄介になる他無さそうだな。過日はああは言ったものの」
「気が合うな!僕も同じ気持ちだよ!」
大通りには面していないものの、そこそこ繁盛しているトリステインのとある酒場にて、
アルビオンなまりが少しばかり残るものの、貴族らしい言い回しの会話がなされていた。
さて、彼らの立場と言うと、今は少々ややこしいことになってきている。

そもそも、彼らは軍人であった。

アルビオンの戦艦乗り、しかも艦長とその同輩だ。
誉れ高き武人として、誇り高き船乗りとして、その名は語られ続けるはずだった。

その素晴らしいはずの人生が転がり始めたのはついこの間のことのように思われる。
軍人は政治に口出しすべからず、生粋の武人の矜持は、上司の暴走を止めることができなかった。
上司がレコン・キスタに寝返り、かのアルビオンの革命戦争、否、反乱戦争におぞましい反乱側で参加することとなったのだ。
薄汚い手で王位を奪いに行った愚か者の下での活躍など、口にすることすらおぞましい。

そして、そのときの活躍から、先の戦いでは旗艦であるレキシントン号の艦長に任ぜられた。
これとて褒めることはできまい。
何故なら、祝いの式典を炎と爆薬でブチ壊し、無関係の民を屠る、ハルケギニア史上最低な作戦の片棒を担がされるのだから。

しかし、その汚名は一瞬の光により浄化された、といってもいい。
彼らの乗る船は、『奇跡の光』と呼ばれる白光により瞬時に炎上し、彼らは信じられないことに、無傷で生還したのだから。
これを奇跡と言わずして何を言う?

光に放心したまま彼らはトリステインの捕虜となった。
捕虜とはいえ、貴族。
従って比較的自由に街中を歩いたりもできる。監視の目がついてはいるが。
それとて、逃げるそぶりさえ無ければ何もしてこないし、話を盗み聞きするような野暮ではない。
第一、捕虜の身が逃げ出すなど、貴族として恥ずべき行為をする者がどこにいよう?

さて、彼らが捕虜となって一週間ばかりが経過した。
先週は戴冠式のパレードを見ながら、
「もしこの忌々しい戦が終わり故郷に帰れたら、軍人はもう辞めよう」などと語りあった二人だが、
ここに来て、少々問題が起こった。
前提条件である「忌々しい戦」の終わりと、「故郷に帰る」ことが難しくなったのだ。

通常、捕虜とは敵国や敵軍というものが存在してこそ成り立つ。
当たり前だが、敵も無いのに捕虜も何も無いわけだ。
そして、捕虜はその敵と交渉により、幾ばくかの身代金と共に敵に返還されるか、
あるいは捕虜自身が寝返ることを宣誓し、味方となり共に闘うか、となるのが通例だ。
つまり、捕虜の運命は交渉が行われるか、敵が完全に死滅するかまでは、捕えられた国に寝返るしか選択肢が無いのだ。
そこで問題である。「敵の首領が行方不明につき、またも敵国内で内乱が起こりそう」な場合、どうなるのか?
レコン・キスタを率いていたクロムウェル(自称)皇帝が忽然と姿を消したのはつい5日ほど前の話。
その後釜を狙うのか、あるいは王家を復活させるのか、いやいや自らのしあがるのか、
様々な思い入れを持つ貴族たちが、禿鷹よろしく飛び回っているという噂は、トリステインまで響いた。
この場合、敵と交渉というわけにもいかない。誰が長か分からないらだ。
かといって、敵を死滅させるにもその敵の居所が分からなければどうしようもない。

となると、「忌々しい戦」は終わらせることもできず、「故郷に帰る」のも現状では困難極まりないということになる。
そして何より
「杖を捨ててもいいとは思ったものの、あいにくと鍬を持つ暮らしも想像できないしな。
 情けない話、土というものを耕している自分が想像しがたい」
ホレイショという名のでっぷりとした男が言う。
彼らは結局のところ、骨の髄まで軍人なのだ。
軍人が捕虜とはいえ、怠惰な生活を続けていいはずがあるまい。
「お互い、不器用な貴族に生まれたものだ」
ボーウッドという名の元艦長がそう苦笑する。
精悍な顔つきが少し崩れる。
彼らは心情的には王党派よりだったため、トリステインの側につく方がマシであるとも言える。
「しかし、トリステイン軍に余裕はあるのだろうか?2度目の寝返りを果たした貴族を雇うなどと?」
故国への裏切りともみなされかねないが、あの白光を見てしまった後に寝返りも何も無いものだ。
もはや彼ら二人は、アンリエッタ姫のご威光に心酔しているといっても良い。
しかし、世間がそんな彼らをどう見なすか。また、財政的に新たな貴族を雇うことに問題は無いのか。
いずれにせよ、こちらの道も困難そうではあった。
「ふむ、財政面では悪くは無さそうだが――不安ではあるな」
「全く、不器用な貴族に生まれたものだ」
「同感だな」
大の大人が二人、真っ昼間の酒場で、互いの身を嘆いていた。

「あまり心配なさる必要はありませんよ、お二方!」
ひらひらと、過剰な装飾が成されている割に、露出の多い東洋風の服が眼にちらついたのは、
それからたっぷりマグ2杯ほど空け、ほろ酔い気分も良い頃合いになった辺りだった。
「む?何だね、大道芸人か?」
少しばかり充血した瞳でその男を見るホレイショ。
「おいおい、ホレイショ。この男の顔はそうそう忘れないだろう?
 武器商人の――クジャ、とか言ったかな?お前も捕虜になっていたのか?」
流石に艦長であった男は酒が入っても記憶力は確かで、レコン・キスタに出入りしていた商人の名まで覚えていた。
あまり接触はしなかったものの、流石に目立つ格好をしていたので記憶に残っていたのは確かだが。
確か、あの戦いのときも、同じ船に乗っていたという記憶はあるのだが、この男が捕虜手続きの場にいた記憶は無い。
「いえ、すんでのところで逃げおおせましたよ。舞台の袖から裏へ、ね」
涼しい顔で言ってのける武器商人。
「なら、こんなところにいては不味いんじゃないか?仮にも敵国だろ?」
忠告を小さな声で語るボーウッド。
何しろ監視の目があるのだ。怪しまれたらトリステイン軍に就職できないかもしれない。
「武器商人も役者と同じ。敵も味方もありませんよ。あるのはお客と商売敵ぐらいです。
 それに、今は表の用事でこちらに顔を出していますのでね」
その忠告を一笑に付す武器商人。やや腹立たしいが、優雅な身振りがそれを少し緩和している。
「表?」
「えぇ、表の商売も好調でして。偉大なる始祖ブリミル様へと利益を還元しようかと、学術方面に出資することにしたのです」
「殊勝なことだな――ははん、分かったぞ!アンリエッタの輝かしい歴史の1頁に加わり、その名でしこたま儲けようという腹だな?」
「ご想像にお任せしますよ、ホレイショさま」
否定もせず、ホレイショの指摘をさらりとかわすところを見るに、呆れるほど、目の前に立つ男は商売人らしい。
しかしそれを責めることはできまい。
軍人が武力で世を闊歩するように、商人は資金力で世を動かすのだ。
「抜け目ないことだな――それで?心配の必要が無いとは?」
「えぇ、その件に絡んで、学術のための調査旅行に出資することにしましてね。熟練の船乗りが必要、というわけです。
 舞台と同じく、老練なる役者がいて初めて芝居が締まりますのでね。
 トリステイン軍の方から志願者を募っていただくことになったのですが、当地の操船技術はどうも今一つでして――」
意味ありげに言葉を切る商売人。
なるほど、学術のための調査旅行か。
「ふーむ。どうする?ホレイショ」
「船乗りが陸に上がっていてもしょうがあるまい?
 奇跡の光に対抗するつもりは無いが、学術研究ならばむしろ協力行為だろ?」
ホレイショはもう乗り気だ。別に人を傷つけるわけでも無く、再び空へ。悪い話ではあるまい。
「つくづく気が合うな!」
結局、彼らは骨の髄まで軍人なのだ。
地上で怠惰な捕虜生活を送るほど腐ってはいない。
「それでは、こちらで手続きはしておきましょう」
「用意のいいことだ。お前はどこまで儲ける気だ?」
「儲けなんて、気にしておりませんよ――顧客の望みを叶える、それだけです」
意味ありげな表情で、監視役の兵士に軽く会釈をしながら、商人は酒場を後にした。



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