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虚無のパズル-25

トリステイン軍の立てこもるラ・ロシェールの街に向け、何百発もの砲弾が撃ち込まれた。
敵軍の艦砲射撃である。
アルビオン艦隊は、静々とこちらに向け行進してくる『レコン・キスタ』の軍勢の上空から、休みなくカノン砲を打ち込んできた。
重力の後押しを受けた砲弾が、トリステイン軍を襲った。
ラ・ロシェールの街を包む『天然の要塞』と呼ばれる峡谷が、砲弾の雨によってみるみる削られていく。
「あの距離から、砲撃が届くというの……?」
アンリエッタは、敵の艦隊が積む、新型の大砲の威力に青ざめた。
岩や馬や、人が一緒くたになって舞い上がる。圧倒的な力を前にして、味方の兵が浮き足立つ。辺りを轟音が包む。
「落ち着きなさい!落ち着いて!」
恐怖を押し隠しながら、アンリエッタは精一杯平静に見えるよう取り繕って、叫んだ。
隣に控えるマザリーニに小声で尋ねる。
「マザリーニ、なにか手はないのですか?」
マザリーニは素早く近くの将軍たちと打ち合わせた。
マザリーニの号令によって、トリステイン軍のメイジたちは、岩山の隙間の空に幾層もの空気の壁を作り上げた。
砲弾はそこにぶち当たり、砕け散った。
しかし、何割かは防ぎきれずに、空気の層を突き抜けて飛び込んでくる。
そのたびにあちこちで悲鳴が上がり、砕けた岩と血が舞った。
マザリーニは呟いた。
「この砲撃が終わり次第、敵は一斉に突撃してくるでしょう。とにかく向えうつしかありませんな」
「勝ち目はありますか?」
マザリーニは、砲撃によって兵のあいだに動揺が広がりつつあるのを見届けた。勢い余って出撃したが……、人間の勇気には限界がある。
しかし、忘れかけていた何かを思い出させてくれた姫に、現実を突きつける気にはなれなかった。
「五分五分、と言ったところでしょうな」
着弾。辺りが地震のように揺れる。
マザリーニは、痛いくらいに状況を理解していた。
敵は空からの絶大な支援を受けた三千。我が軍は、砲撃で崩壊しつつある二千。
勝ち目は、ない。


「なんで当たらないのッ!なんでッ!」
ルイズは焦った声で叫んだ。
五騎目の竜騎士を落としてからというもの、突然こちらの魔法が当たらなくなっているのだ。
先ほどまで、風竜のスピードと、軌跡の読めないルイズの魔法に翻弄されていたはずのアルビオン竜騎士隊は、一糸乱れぬ陣形を組み、逆にルイズたちを追いつめていた。
ルイズが呪文の詠唱を始めると、すかさず火竜のブレスが打ち込まれる。
ルネはブレスを避けるために、風竜の身体を右に左に大きく旋回させるので、ルイズは狙いを付けられない。
「こんなところで、足止め食らってられないのに……、あの艦を、止めないといけないのに……!」
ルイズは忌々しそうに背後の艦隊と、旗艦『レキシントン』号を睨みつけた。
艦隊は、ラ・ロシェールの街に向け、艦砲射撃を行っている。
ラ・ロシェールには、トリステインの軍勢が……、アンリエッタがいるのだ。
「ルネ!あの艦を追いかけて!」
「無理だよ、ルイズ!囲まれてる!」
ルネは慌てて叫んだ。
いつの間にやら、敵の竜騎士隊は大きく散開し、ルイズたちを取り囲むように陣を組んでいる。
ルイズは歯噛みし、背後に付いた火竜に向かって魔法を放った。
しかし、火竜はすぐさま身を翻し、ルイズの爆発から逃れた。
風竜を取り囲んだ火竜たちがブレスを吐きかける。
ルネはそれを必死で避けたが、避けきれなかった炎は風竜の尻尾の先を焦がした。
ルイズたちは、じわじわと追いつめられていた。
「ルイズ、さっきまでとは敵の動きが違う!もしかして、どこかに司令官が……」
そのとき、ふっとルイズの乗る風竜の上に、影が落ちた。
ルイズは思わず空を見上げる。太陽を覆い隠すように、大きな竜が、ばっさばっさと羽ばたいていた。
よく見ると、それは成体の風竜であった。火竜で構成されたアルビオンの竜騎士隊の中では、異質な存在に見えた。
そして、その背中には長身の貴族が跨がっている。黒いマントと、羽帽子を身にまとった貴族……
「ワルド!」
ルイズはその貴族の正体に気付くと、杖を振るった。
今までより一回り大きな爆発が巻き起こる。ワルドの風竜はぐんと旋回し、爆発を避けた。
「魔法の軌跡が見えないなら、術者の杖の先を見ればいいのさ。ルイズ、きみの魔法は、もう通用しないよ」
ワルドは素早く呪文を唱える。空気の塊がルネの風竜を打ちすえ、羽を痛めた風竜は、きゅい!と悲鳴をあげた。
「ああ、ベルヴュー!」
「これでその風竜はもう、早く飛ぶことはできないな」
ワルドは残忍な笑顔を浮かべた。
「ルイズ。アルビオンでせっかく拾った命を、また捨てにきたか。一人で竜騎士隊に勝てると、まさか本気で思っていたのかな。『レコン・キスタ』に太刀打ちできると、本気で思っていたのかな。きみも、トリステインの貴族たちも、実に愚かだな」
ワルドはちらりと、トリステイン軍が立てこもるラ・ロシェールの街に視線をやった。ラ・ロシェールの街は、砲撃で崩壊しかかっている。
それから、ふいっとルイズたちに背を向ける。
「待ちなさい!この裏切り者!」
ルイズはワルドの背中に向かって叫ぶ。しかしワルドはもはや、ルイズたちに興味を失ったようだった。
ワルドはルイズたちから離れると、すっと杖を掲げ、振るった。
それを合図に、ルイズたちを取り囲む火竜が、一斉に炎のブレスを吐き出した。
四方から炎が迫り、ルイズとルネは思わず目を瞑った。
ルイズは悔しかった。こんなところで、裏切り者の手にかかって死ぬことが。アンリエッタの力になれなかったことが。シエスタの村を焼き払ったアルビオン軍に、一泡吹かせてやれなかったことが。
ルイズは思わず、手をギュッと握りしめる。
姫さま……、
シエスタ……、
ティトォ……、
アクア……、
キュルケ……、
タバサ……、
ギーシュ……、
父様……、
母様……、
姉様……、
ちいねえさま……、
ごめんなさい。わたしは、ここまでです……。
強い炎の光が、目の前を白く塗りつぶしていく……


『立て、ルイズよ!』


突然の呼び声に、ルイズはハッと目を見開いた。
辺りは、まばゆい光に包まれている。
それは燃えさかる炎の暴力的な光ではなく、もっと美しく、神々しい輝きである。
ルイズが目を凝らすと、光の中に、一人の男の姿があった。


『そんな戦い方ではだめだ、ルイズよ。私が魔法の使い方を教えてやろう』


ルイズは放心したように、その男の姿を見つめていた。
長く美しい漆黒の黒髪。
異国の服に身を包み。
その面貌は眉目秀麗。
鋭い双眸には知性の光を湛え。
そして……


「なんだ?なにが起こった!」
ワルドは光から目を庇いながら、叫んだ。
確かに今、ルイズと、ルイズを乗せた竜騎士は、火竜のブレスに焼き尽くされたはずだった。
しかし肉の焦げる臭いも、風竜の墜落する音も聞こえてこない。
それどころか、なんなんだ?この眩しい光は!
見ると、光の中に、一人の長身の男の姿が見えた。
異国の服に身を包んだ男は、ルイズの乗る風竜の前に並び立つように浮かんでいる。
その姿は、まるで……


「なんなのだ?あの光は、いったい……」
アルビオン艦隊旗艦『レキシントン』号艦長ボーウッドと、艦隊司令官サー・ジョンストンは、背後からの眩しい光に思わず振り向いた。
タルブの村の上空、竜騎士隊が戦っているあたりで、何かが眩しく輝いている。
水兵たちもその光を振り返り、砲撃の手が一瞬止まる……


「あれは……?」
突然敵の砲撃の手が緩んだのを見て、空を見上げたアンリエッタは、思わず呟いた。
タルブの村の上空に、強い光が見える。
その光がやがて収まると、そこには空を飛ぶ敵の竜騎士隊と、それから味方のものとおぼしき一騎の竜騎士、
そして宙に浮かぶ、一人の男の姿が見えた。
タルブまでは遠く離れているというのに、なぜかその男の姿だけは、まるですぐ近くにいるように、はっきりと見ることができた。
その神々しい姿は……


「ああ……、ああ!」
その男の姿を見ると、シエスタは感動し、はらはらと涙をこぼした。
それから、恭しく地面に膝を付き、祈りをささげる格好になった。
村人たちも次々と、手を胸の前で組み、膝を付く。
その男に向かって、タルブの村人全員が、まるで敬虔なブリミル教徒のように、静かな祈りをささげはじめる……


ルイズは放心したように、その男の姿を見つめていた。
長く美しい漆黒の黒髪。
異国の服に身を包み。
その面貌は眉目秀麗。
鋭い双眸には知性の光を湛え。
そして……、
前掛けに刺繍されたパイの絵。
首のチョーカーに刻まれた「ふわっとサクサク」の文字。
天使の輪のように頭上に浮かぶ銀のパイ皿……
ルイズは目の前のその男の姿を見て、いつかに聞いたシエスタの言葉を思い出していた。
──気まぐれな神です。
いつ降りてくるかも分からない。
どんな天才でも達することのできない域。
パイ職人に突然降りてくる神──


『パイ神・降臨!』


今、ハルケギニアの大地にパイ神が降り立った。

「パイ神様!」
ルイズは思わず叫んだ。
「誰!?」
ルネとワルド、アルビオンの竜騎士隊、アンリエッタにマザリーニにジョンストンにボーウッドにその他大勢は、至極もっともな叫びを上げた。
「ええい、怯むな!撃て、撃てえ!」
竜騎士の一人が叫ぶと、竜騎士隊ははっと我に返り、ルイズとパイ神に向かって次々と火竜のブレスを吐きかけた。
『邪魔だ、下がっておれ!』
パイ神の腕の一振りで、びりびりと空気が震え、凄まじい突風が巻き起こった。
ルイズたちを取り囲んだ竜騎士隊はあっという間に遠くまで吹き飛ばされて、見えなくなってしまった。
『雑魚が……』
「強っ!」
ルネと、アンリエッタ、マザリーニ、ジョンストンにボーウッドにその他大勢は思わず叫んだ。
『さあルイズ、魔法を使うのだ。お前の力はそんなものではない、あの特訓を思い出すのだ』
ルイズは戸惑って言った。
「でもパイ神様、わたし、魔法の特訓なんて……、何度やっても、爆発しか起こらなくって……、原因がわからないから、がむしゃらにやるしかなくって、だからわたし魔法の使い方なんて、ほとんど分かってないんです……」
今の自分の爆発魔法にしたって、ティトォの魔法の副作用のおかげでコントロールが効くようになっただけにすぎない。
結局「なんでもいいから呪文を唱えれば爆発する」というだけの話だ。
他のメイジたちのように、きちんと呪文を理解して、魔法を組み立てるなんてことはしていないのだ。
『なにを言う、ルイズ。お前はしっかりパイ作りの修行をやっていたではないか。それは立派に魔法の鍛錬につながる』
「パイ作りの修行が……、魔法に……?」
ばっ!と羽ばたく音がして、そちらを見ると、ワルドの風竜の姿が見えた。
ワルドは『風』の障壁で、パイ神の一撃に耐えたのだ。
ワルドは血走った目で、ルイズを睨みつけている。
「神、だと?神を呼んだ?ふざけた真似を……、まやかしがッ!」
ワルドはサーベル状の杖を掲げ、風竜を加速させた。
ルネは息を呑み、風竜の手綱を引いた。風竜は反転し、逃げに回る。
ルイズは首を振った。
「だめよ、ルネ。羽を痛めたベルヴューじゃあ、ワルドから逃げることはできないわ」
「わかってる!でも、逃げるしかないじゃないか……」
慌てるルネとは対照的に、ルイズの心は落ち着いていた。
もちろん、ワルドへの恐怖はある。それでも、ルイズはきゅっと口を引き締めると、杖を握りなおした。
パイ真はおごそかに、ルイズの頭上に手をかざした。パァっと、ルイズの体が光りだす。
『今から私が教えてやろう。お前の才能の真の方向を……、力の使い方を──!』
ルイズはこちらに突っ込んでくるワルドの姿を、正面から睨みつけた。
『奴は、お前が倒せ!ルイズ!』
「はいッ!」
ルイズは力強く頷いた。
その声に答えるように、右手の『水のルビー』が激しく光りだし、ルイズの懐から『始祖の祈祷書』が飛び出した。
『始祖の祈祷書』はルイズの頭上に浮かび、ひとりでにページを繰りはじめた。
ばばばっと勢いよくページがめくられる。白紙だったはずの『始祖の祈祷書』は、全てのページに光り輝く文字が現れていた。古代ルーン文字……、始祖の時代の文字である。
ルネは風竜を操りながら、首を回して、その様子を呆然と見つめていた。
ルイズは目を瞑り、低い声で呪文を詠唱していた。こんな状況で、なんて子だ、とルネは思った。
その呪文は、今まで聞いたこともないような響きで、その詠唱は、とても長かった。
びりびりと、空気が震えているのがわかる。大気中に、魔力が満ちている。
『魔力を組み上げよ!今までのように力で強引にではなく、熟練した業で行うのだ!魔法の構築は、天性の才能や強大な魔力だけでなすものではない。ワザで補うのだ!ルイズよ、今ならできる!』
「魔力で強引にではなく……、優しく、繊細に組み上げる……!」
ルイズは、パイ生地作りに似ているな、と思った。
パイ生地作りには、多少の熟練が必要となる。バターを生地に練り込んでしまったり、作業中にもたもたして生地が暖まってしまったりすると、焼き上がりの軽い口当たりが損なわれる。
繊細に、手早く、大胆に……!
ワルドはまっすぐ、ルイズたちに向け突撃してくる。ワルドが呪文を唱えると、杖の先に氷の矢が現れた。
いや、それは矢などというちっぽけなものではない。太く、大きな氷の槍。『ジャベリン』だ。
「虚無魔法、初歩の初歩……」
ルイズが呟く。
その瞬間、ワルドは『ジャベリン』を放った。
氷の槍は、背中からルイズの胸を貫き、そのままの勢いで、同乗する竜騎士の少年と、風竜の喉までもを刺し貫いた。
ワルドはにやりと笑い、墜落を始めた風竜を上から見下ろした……
すると、どうしたことか。確かに『ジャベリン』が刺し貫いたはずの風竜の姿が、ゆらりと揺らめいた。
竜の姿は霞のように掻き消え、そこにはなにも無くなった。
「なんだと!」
ばさっ、ばさっ、と羽音が聞こえ、ワルドは振り返った。
ワルドは驚愕に目を見開く。
「……虚無魔法、初歩の初歩。パート・フィユテ※1『イリュージョン』」
そこには、無数の竜騎士が飛び交っていた。その規模は数十騎……、いや、百騎を超えるかもしれない。
ワルドは焦ったが、すぐに奇妙なことに気付いた。
その竜騎士は、みな二人乗りで、おまけにみな羽を怪我しているのだ。
そして、風竜の背中に乗った二人は、全員がルネとルイズだった。


描きたい光景を強く心に思い描くべし。
なんとなれば、詠唱者は、空をもつくり出すであろう。


「幻覚、いや、幻影か!」
ワルドは『エア・カッター』を幻に放った。幻のルイズは、揺らめいて消えた。
しかし、これではきりがない。なにしろ幻は、百騎に近い数があるのだ。
「ならば、まとめて吹き飛ばしてやる」
ワルドの杖の周りを空気が渦巻いた。
空気の渦はどんどん大きくなり、巨大な竜巻となった。
竜巻の尾はついにはるか下方の地面にまで届き、凄まじい風の威力で大地をめくり上げた。
「『カッター・トルネード』!幻ごと吹き飛べ、ルイズ!」
巨大な竜巻が、幻の竜騎士隊に向かって飛んだ。竜巻の間に挟まった真空の層で、幻が切り裂かれる。
幻を飲み込みながら、竜巻はルイズの乗る風竜に向かって突き進んでくる。
ルネはもはやこれまでか、と目を瞑った。
しかしルイズは、すでに次の呪文を唱えはじめていた。
長い長い呪文を、ものすごい早口で唱えている。小鳥のさえずりよりもせわしない。
それを聞いてルネは、よく舌を噛まないなあ、などと、この絶体絶命の状況に似つかわしくない、とぼけたことを考えていた。
竜巻はますます勢いを増し、ついにルイズたちの目の前に迫ってきた。
その瞬間、ルイズの呪文が完成した。
「虚無魔法、初歩の初歩。フィユタージュ・ラピド※2『ディスペル・マジック』!」
ルイズは巨大な竜巻に向け、杖を振り下ろした。
荒れ狂う竜巻は光に包まれ、消し飛んだ。
「ばかな!」
ワルドは狼狽した。
『カッター・トルネード』は、この世でもっとも強力な呪文の一つ、スクウェアスペルだぞ!
それをこうもあっさりと消し飛ばすとは……?
吹き飛んだ竜巻の中に、影が見えた。
それは、一騎の竜騎士だった。
竜の背中に乗ったルイズが、こちらにぴたりと杖を向けている。
「おおぉぉのれえええええ!!」
ワルドは激昂し、叫んだ。ルイズが小さく呪文を呟くと、ワルドの目の前が爆発した。
ワルドは風竜の背中から振り落とされ、まっすぐ地面に落ちていった。


ワルドとの戦いを終えて、ルイズはふうっと息を付いた。
いまワルドに向けて唱えたのは、『発火』の呪文。『火』系統の初歩の呪文だ。
しかし魔法は成功せず、爆発を巻き起こした。
ルイズはいつも、自分が呪文を唱えると、爆発していたことを思い出した。
そのたびに、意地悪なクラスメイトたちや、教師たちは『失敗』と言って笑った。
しかし、あれは……、失敗などではなかったのではないだろうか。
そう、あれは。
ルイズの頭上に浮かぶ『始祖の祈祷書』は、ページを繰るのをやめ、あるページを開いたまま止まっていた。
そこに書かれている文字は……


以下に、我が扱いし『虚無』の呪文を記す。
初歩の初歩の初歩。『エクスプロージョン(爆発)』


『虚無』。
それは、伝説の系統の名前。
ルイズは16年間目覚めなかった、自身の魔法の系統を理解した。
そして、この力があれば、アンリエッタを助けられるかもしれないこと、アルビオン軍を退けることができるかもしれないということにも、気付いた。
頭の中が、すぅっと冷静に、冷めていく。『始祖の祈祷書』を読むまでもなく、呪文のルーンが、まるで何度も交わした挨拶のように、自然と頭の中に浮かんだ。
やれるのか?
いや、やるしかないんだ。
やってみよう。
ルイズはきっと、空に浮かぶ大艦隊を見つめた。
「ルネ、ベルヴューをあの巨大戦艦に近付けて」
「へっ?」
墜落する敵の竜騎士隊の大将・ワルドを、信じられないといった顔で見ていたルネは、急に声をかけられて、まぬけな返事を返した。
「いいから、あの艦に近付くの!」
ルイズは断固とした口調だ。
断ったらダメな雰囲気である。というか、今まさに、戦の追い風を背に受けているように感じられた。
ルネは相棒の風竜を見やった。
『風』の魔法で羽を痛め、身体のあちこちにブレスで火傷を負った、痛々しい格好だ。
しかしルネが見ているのに気付くと、風竜は、きゅい!と力強く鳴いてみせた。
「そうか……、よし、頼むぞ、ベルヴュー!もう少しだけ頑張ってくれ!」
ルイズとルネを乗せた風竜は、敵の旗艦『レキシントン』号に向かって羽ばたいた。


エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ


ルイズは低く詠唱を始めた。
ルイズの中を、リズムが巡っていた。懐かしさを感じるリズムだ。
呪文を詠唱するたび、古代のルーンを唱えるたびに、リズムは強くうねっていく。
体の中に波が生まれ、それがさらに大きくうねっていくような感覚。
神経は研ぎすまされ、周りの雑音は一切耳に入ってこない。


オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド


『レキシントン』号に近付く風竜に向け、砲弾が飛んでくる。
左舷にも、船の真下にも砲身は突き出ていた。『レキシントン』号は、まるでハリネズミのように大砲を装備していたのだ。
ルネは『レキシントン』号に近付くことができずに、周りを飛び回ったが、やがて死角を見つけた。
艦の真上には、大砲を向けられないのだ。
ルネはすぐさま風竜を上昇させ、『レキシントン』号の上空に占位した。


ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ


長い呪文を唱えるうちに、ルイズは『エクスプロージョン』の威力を理解した。
巻き込む。全ての人を。
自分の視界に映る、全ての人を、物を、『エクスプロージョン』は巻き込む。
破壊すべきは何か。
何を殺すのか。何を殺さぬのか。
選ばなければいけない。
間もなく、呪文は完成する……


ジェラ・イサ・ウンジュー……


その時だった。
ぞくり、と背筋に寒いものを感じて、ルネは空を見上げた。
何かが、空の上から落ちてくる。
その『何か』は、ばたばたとマントを風になびかせて、ルネとルイズの乗る風竜の上に、ずだん!とすごい勢いで落ちてきた。
その衝撃で、風竜はきゅい!と悲鳴を上げた。
風竜の上に降り立ったのは、人間だった。羽帽子を被った、長身の貴族。
それは、先の戦いで墜落したはずのワルドであった。
その姿を見ると、ルネはほとんど反射的に、腰に差したサーベル状の杖を抜き放った。
しかし、ワルドは閃光のごとく杖を引き抜き、ルネの杖を切り裂いた。
返す刀で腕に斬りつけられ、ルネは小さくうめいた。ワルドは、そのままルネを竜の背中から蹴り落とした。
ルネの相棒の風竜が、慌てて投げ出されたルネの足を掴む。
ワルドは、杖に風の魔法を纏わせながら、ゆっくりとルイズに振り向いた。
ルイズは目を閉じ、集中している。ルイズの口からは低い詠唱の声が漏れ続けている。
「危ない、ルイズ!『遍在』だ!」
ルネの必死の叫びに、ルイズは目を開ける。視界に飛び込んできたものは、爬虫類のように冷たく光る目で、杖を振りかぶるワルドの姿だった。
ワルドはルイズの喉を狙って、杖を繰り出した。
ルイズは危ういところで、ワルドの一撃を避けた。杖の切っ先が、ルイズの首の薄皮を切り裂く。
そのままワルドはルイズに体当たりを食らわせる。ルイズは、げほっと息を吐いた。
一瞬ルイズの集中が途切れ、詠唱が中断された。
その瞬間、ルイズの杖の先に光の玉が現れた。光の玉はみるみる大きくなり、全てを包み込んでいく……


アンリエッタは、信じられない光景を目の当たりにした。
今までさんざん自分たちに砲撃を浴びせていた巨艦の……、上空に光の玉が現れたのだ。
まるで小型の太陽のような光を放つその玉は膨れ上がり、空を遊弋する艦隊を包み込んだ。
さらに光は膨れ上がり、視界全てを覆いつくした。
アンリエッタはとっさに目を瞑った。
目が焼けると錯覚するほどの、凄まじい光であった。
そして……、光が晴れたあと、艦隊は炎上していた。
巨艦『レキシントン』号を筆頭に、全ての艦の帆が、甲板が燃えていた。
あれだけトリステイン軍を苦しめた艦隊が、まるで嘘のように、がくりと機首を落とし、地面に向かって墜落していく……


「な、なにが!なにが起こったというのだ!」
地響きを立て、次々と地面に激突する艦隊を見て、アルビオン艦隊司令官サー・ジョンストンは悲鳴を上げた。
伝令が泡を食って報告する。
「も、申し上げます!艦隊は帆を焼かれております!現在乗組員たちが必死で操舵しておりますが、体勢を立て直せません!」
「ばかな。乗組員を傷付けず、艦だけを燃やしたというのか……?」
『レキシントン』号艦長ボーウッドは、呆然として呟いた。
伝令が矢継ぎ早に、被害状況を報告していく。
二番艦以下、全ての戦列艦の『風石』が消滅。
三番・五番艦、不時着に成功。七番艦、撃沈。乗組員は『フライ』で脱出。
『レキシントン』号も、ほとんどの風石を焼き尽くされ、なんとか浮かんでいる状態である。
巨大な『レキシントン』号は、残った風石をみるみる消費していく。このままではいずれ、他の戦列艦と同じように船体を大地に沈めることになるだろう。
もはやこれまで。ボーウッドは、艦隊の敗北を悟った。
ボーウッドは乗組員たちに、脱出の指示を出しはじめた。艦内が騒然となる中、サー・ジョンストンは椅子に腰かけたまま、ぶつぶつとなにごとか呟いていた。
「ばかな……、クロムウェル閣下から預けられた艦隊が、全滅……?こんなことがあってたまるか……、神……、神の奇跡……?これが、そうだというのか?いいや、認めぬ!断じて認めぬぞ!」
ジョンストンは立ち上がると、操舵手のもとに駆け寄り、舵を奪った。
操舵手は突き飛ばされ、床に倒れる。
「サー、何を!」
ボーウッドは、尋常ならざるジョンストンのようすに叫んだ。
「何をだと?決まっている。このような無様で、クロムウェル閣下の『レキシントン』号を沈めてなるものか!」
「無茶を!もはや『レキシントン』号の風石は残りわずか!艦の沈没は避けられませぬ!サー、早く脱出を!」
ジョンストンは、血走った目で振り返った。口の端を吊り上げ、狂気じみた笑みを浮かべる。
「そうだな。きみの言う通り『レキシントン』号は沈む。だが、ただでは沈まぬぞ。この艦には、火薬と砲弾がしこたま積まれているのだ」
ボーウッドは、はっとなった。
「そうとも!ラ・ロシェールの街に、トリステインの軍勢の頭の上に、『レキシントン』号を墜としてやる!」


アルビオンの艦隊が次々と墜落する中、巨艦『レキシントン』号は、ゆるゆると動き出した。
竜の腕にぶら下がったルネを引き上げるのを手伝いながら、ルイズはそれを見ていた。
はじめ、ルイズは『レキシントン』号もまた、墜落を始めているのだと思った。
しかし、巨艦の進む先を見て、ルイズは青ざめた。
「大変」
ルイズはからからになった喉から、なんとか音を絞り出した。
やっとのことで風竜の背中によじ上ったルネに、掴みかかるようにして叫ぶ。
「ルネ、あの艦を追いかけて!連中、艦をラ・ロシェールに墜とすつもりだわ!」
ルネはそれを聞くと、顔色を変えた。
慌てて手綱を操り、風竜を全速力で『レキシントン』号に向かわせる。
ルイズは、心の中で悔しそうに呟いた。
仕留めきれなかった。
最後の瞬間、ワルドの『遍在』に呪文の詠唱を中断された。
不完全な状態で放たれた『エクスプロージョン』は、『遍在』を消し飛ばし、アルビオンの艦隊のほとんどを沈めたが、一番巨大な『レキシントン』号を沈めることができなかったのである。
見ると、『レキシントン』号から、ばらばらと『フライ』の魔法をかけたボートが飛び出しているのが見える。乗組員が脱出しているのだ。
『レキシントン』号は、まっすぐトリステイン軍の立てこもるラ・ロシェールの街に向け、墜落していく。
今度は、外さない!
「エオルー・スーヌ・フィル……」
ルイズは集中し、ふたたびルーンを唱えはじめた。
しかし。
「ヤルンサクサ……」
ルイズはふっと気が遠くなるのを感じた。慌ててぶんぶんと頭を振り、正気を保とうとする。
しかしルーンを一語唱えるたびに、ルイズの頭はずぐんずぐんと痛み、意識を保っていられない。
まさか。
精神力が、切れかかっている……!
そう、『イリュージョン』『ディスペル』に続けて、あれほど強力な『エクスプロージョン』を放ったのだ。魔法を使うのに必要なルイズの精神力は、ほとんどゼロになっていた。
どんな強力な魔法も、術者の精神力がなければ、使うことはできないのである。
「ルイズ!どうしたんだ?」
異変に気付いたルネが、ルイズに声をかける。
「オス……、スーヌ……!」
ルイズはそれには答えず、身体中の気力を総動員して、ルーンをゆっくりと唱え続ける。
しかし、限界だ。
「ウ……、リュ」
急に、ルイズの全身からがくっと力が抜けた。同時に、『レキシントン』号の右舷に小さな爆発が起こる。
ルイズの残りの精神力を全てを使った『エクスプロージョン』だった。
ルイズは絶望した顔で、ラ・ロシェールに墜ちゆく『レキシントン』号を見つめていた。
そんな。
そんな。
ここまでなの?
やっと、力を手に入れたのに。
姫さまを、助けられると思ったのに。
大事な人を守らなきゃいけないのに、なにもできない……、やっぱり、わたしは。『ゼロのルイズ』のままなの……?
精神力を使い果たし、ルイズの意識が遠くなっていく。
薄れゆく意識の中で……、ルイズは、パイ神の声を聞いた。


『大丈夫だ、ルイズ。そのためにお前には……』


ラ・ロシェールに向け墜落してくる巨艦に、トリステインの軍勢はパニックになった。
枢機卿マザリーニと将軍たちにより、速やかに退避命令が出されたが、峡谷に囲まれたラ・ロシェールの道は狭い。
退避は、間に合わない。
アンリエッタは混乱する軍の中、思わず始祖への祈りの言葉を呟いていた。
その時、アンリエッタは退避する軍の中、逆にこちらに向かってくるものがいるのに気が付いた。
カバだった。
背中に小柄な人間を乗せたカバが、土煙を上げ、こちらに向かってくる。
カバはアンリエッタの目の前で急停止すると、背中に乗せた人間を降ろした。
それは、青い服に身を包み、長い栗色の髪をふたつ括りにした、吊り気味の大きな目をした、小さな女の子だった。
「よーしよし、ご苦労さん」
少女はそう言って、カバを撫でてやる。少女の右手に刻まれたルーンが、ぼんやりと光っている。
アンリエッタは混乱して、言った。
「こ、子供?どうして子供がこんなところに?」
「子供じゃないよ」
少女は袖から棒付きのアメを取り出すと、ぺろりと舐めて、言った。
「大魔導士、アクア様だ!」


『そのためにお前には、友がいるのだから──』

アクアは、こちらに向かってくる『レキシントン』号の前に仁王立ちになった。
腕を振ると、大きな袖からばらばらとアメ玉が飛び出す。
「なんだか知んないけど、もうほとんど終わってんじゃないさ。ルイズの奴、ずいぶん派手にやらかしたね」
アクアはそうこぼしながら、手を振る。大量のアメ玉がぼうっと光り、アクアの周りを飛び回った。
キン、キィン、とかん高い音があたりに響いた。空中で、アメ玉同士がおはじきのようにぶつかりあっているのだ。
弾かれるたびにアメ玉の光は強くなり、魔力が大きくなってゆく。
アクアはニヤリと笑みを浮かべた。
「まっ、あたしの見せ場も残ってるみたいだからね。派手にぶちかますよ!」
アメ玉の魔力はどんどん膨れ上がる。アクアはその魔力を、狭い範囲に集中させた。
魔力がびりびりと空気を揺らし、アンリエッタは思わず顔をかばった。
そうしてアクアは、巨大な魔力の塊をつくり出した。
その形は、まるで巨大な槍。氷の魔法『ジャベリン』を思わせた。
だが、その魔力の槍は『ジャベリン』よりもずっと大きく、強力で、危険な輝きを放っていた。
ラ・ロシェールの峡谷を、すうーっと長い影が覆った。いよいよ『レキシントン』号が、ラ・ロシェールに墜ちてきたのだ。
ラ・ロシェールの空一面を、巨大な戦艦が覆いつくす。
アクアは、ぐんっと魔力の槍を『レキシントン』号に向け持ち上げる。
「闇よ煌け」
ばちっ、と空気が弾けた。
「マテリアル・パズル、スパイシードロップ……『ブラックブラックジャベリンズ』!」
凄まじい輝きと共に、破壊の槍が放たれる。
膨大な魔力が『レキシントン』号を呑み込み、巨大戦艦は跡形もなく消滅した。


アンリエッタは、雲ひとつない空を見上げ、しばし呆然とした。
空を覆っていた巨大戦艦はチリ一つ残さずに吹き飛び、見渡すと、地面に滑り落ちた艦隊と、『レキシントン』から脱出した空飛ぶボートが降下していく様子が見えた。
はっと我に返り、きょろきょろと辺りを見渡す。
カバに乗ってやってきた女の子の姿を探したが、見つからない。もうどこかへ行ってしまったようだった。
枢機卿のマザリーニは、ようやく状況を飲み込むと、大声で叫んだ。
「諸君!見よ!敵の艦隊は滅んだ!神の加護は我らにあり!」
「神だって?」
動揺が走る。
「さよう!諸君らも見たであろう、タルブの空に降臨した神の姿を!あれこそ伝説のパイ神様でありますぞ!トリステインが危機に陥った時に現れ、おいしいパイを焼いてくれるという……」
マザリーニは自分で言った言葉に、なんじゃそりゃ、と思わず疑問を持ってしまった。
「……ええ、おほん!それに、諸君らはごらんになったか?青い服を身に纏った天使様を!あれこそ始祖の御使い様ですぞ!トリステインに危機が訪れたとき、何処よりカバに乗って現れるという……」
仕切り直しに、敵の旗艦を消滅させた小柄なメイジの手柄を大仰に語ったが、なんだかどんどん胡散臭い話になってきてしまった。
「……うおっほん!とにかく、おのおのがた!始祖の祝福我らにあり!」
強引にマザリーニは締めくくった。
群衆はぽかんとしていたが、やがてあちこちから歓声が漏れ、すぐに大きなうねりとなった。
「うおおおおおぉーッ!トリステイン万歳!パイ神様万歳!始祖ブリミル万歳!」
アンリエッタはこっそりとマザリーニに尋ねた。
「あの……、その、あの。パイ神様って、なんだったのでしょうか?わたくし、そのような神の名は聞いたことがありませんが……」
マザリーニは、いたずらっぽく笑った。
「私もですよ。しかし、どのような神であれ、神が我らの元に降臨したということには変わりありませぬ。ならばそれを利用せぬと言う法はない」
「はあ……」
マザリーニは王女の目を覗き込んだ。
「好機は決して逃さぬこと。政治と戦の基本ですぞ。覚えておきなさい殿下。今日からあなたはこのトリステインの王なのですから」
アンリエッタは頷いた。その通りだ。
敵は頼みの綱の艦隊を失い、浮き足立っているに違いない。対してこちらは、神の加護を受けたと聞いて、戦意が高揚し、追い風に乗っていた。
今をおいて好機はない。
「殿下、では、勝ちに行きますか」
アンリエッタはふたたび強く頷くと、水晶の杖を掲げた。
「全軍突撃!王軍!我に続けッ!」


ルネは、気絶してしまったルイズを乗せ、風竜を飛ばせていた。
眼下では、タルブの草原に布陣したアルビオン軍に、トリステイン軍が突撃を敢行しているところであった。
トリステイン軍の勢いは、はた目にも明らかである。
数で勝る敵軍を、逆に押しつぶしてしまいそうな勢いであった。
すぐさま自分も加勢に!と思ったが、ルネは疲れていた。
アルビオンの竜騎士隊相手に、派手に空中戦を繰り広げたのだ。ルネも、相棒の風竜ベルヴューも、ぼろぼろであった。
それに、気絶したルイズを安全な場所へ降ろさなくてはいけない。
ルネは、戦場から離れた森の中に竜を降ろし、ルイズを木陰に横たえると、自分も半分倒れるようにして、草むらに腰かけた。
ルネは相棒の風竜に寄りかかりながら、、ルイズを見つめた。ルイズは気を失って、ぐったりと倒れていた。
しかし、その顔には何かをやり遂げたあとのような、満足げな表情が浮かんでいた。
ルネは、ぼんやりと考えた。ルイズの使った魔法……、あれはなんだったんだろう?
無数の幻影をつくり出し、敵の呪文を消滅させ、強力な光で敵艦隊を撃沈した。
そんな強力な魔法なんて、聞いたことがない。
もしかして、この子は……、本当に『聖女様』なんじゃないだろうか?
それに、最後の瞬間、敵の巨大戦艦を消し飛ばしたあの魔法は……。
そんなとりとめもない考えが、浮かんでは消えていく。
まあ、いいや。とにかく、今は疲れた。
いろいろ考えるのは、一休みしてからでも遅くないさ。
ルネは優しく風竜を撫でてやると、その体に寄りかかって、うとうとし始める。
ふいに、がさがさと草をかきわける音がした。
「ああ、いたいた。やっと見つけたよ、まったく」
眠りに落ちる直前に、寝ぼけ眼でルネが見たものは、青い服の小さな女の子が、カバに乗ってカバカバとこちらにやってくる姿だった……。


その頃……、遠く離れた地で。
「おや?どうかしましたか、ジュリオ」
「よい知らせです。どうやらトリステインの『虚無』が目覚めたようです」
「おお、それは喜ばしい!しかし、ジュリオ。どうやらそれだけではないようですが」
「はい……、その『虚無』のすぐ近くで、何者かが凄まじい力を放出しました」
「凄まじい力?何者です?」
「御安心下さい。なにも恐れるほどのことではないですよ、ヴィットーリオ様。いえ……、ヴィットーリオ教皇聖下」


第三話:おわり


※1 パート・フィユテ:基本的な折パイ生地。本格的なパイやミルフィーユ・ガレットなどに使われる。
※2 フィユタージュ・ラピド:速成折りパイ生地。ラピド(早い)の名の通り、パート・フィユテよりも早く作れる。

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