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虚無のメイジと双子の術士-03


「本当に別の場所のようだな」

窓から見える、双つの月を眺めて彼はそう言う。
信用性も疑えるような古い文献でなら月は二つある、と見たこともあったかも知れないが、
彼自身はそれを見たこともないし、信じても居なかった。
世界は広い。一度閉塞的な環境から世界を回った身としては、それは当然の実感としてある。
混沌は無限に広がり、既知の領域などまさしく大海の塵芥に過ぎない、等という説も知識としてある。
そこまで極端な考えはなくとも、未知の世界に対する驚愕や困惑はあまり浮かばなかった。
興味もないわけではないが、それほど多くはない。

「別の場所?何言ってるのよ?」
「独り言だ」
「独り言だろうと構わないわ。どういう意味よ?」
「召喚された、と言うことだ」

ルイズはベッドに腰掛け、彼は窓を空けて縁に寄りかかっている。
二人は部屋に入ってから、何となくその場所に陣取った。
特にその位置に意味があるというわけではない。

「いちいち苛つくわね」
「別に君を楽しませるために生きてるわけじゃない」
「使い魔ならそう心がけなさい」
「そういうものか?」
「そうよ」
「……そういうものか」

窓を閉じて、背中でその縁に寄りかかり、視線だけをルイズに向ける。
使い魔ならそうあるべき、分からない話ではない。
つまるところ、主人の役に立つように振る舞う存在だと、彼らは言うのだから。
なら、彼女は彼に何を求めるのか。

「使い魔なら、か。具体的にどうすればいい?教えてくれるんだろう」
「え――うん、具体的に……って、あんたに何が出来るのよ?」
「答えづらい質問だな……逆に聞くが、何が出来て欲しい?」
「うーん……使い魔には主人の目となり、耳となる能力を与えられるらしいけど」
「それは……視覚を共有するとか、そう言うことか?」
「そうらしいけど、何にも見えないのよ?」
「それは良かった」
「よくないわよ」
「君はそうかもしれないな。で、他には何かあるか?」
納得はしてない顔で、それでも追及することは諦めたのか、
眉根を寄せながらルイズが返した言葉は、彼の質問に沿うものだった。

「主人の望む物を探してきたり……」
「それなら犬でも出来るな」
「秘薬とか解るの?」
「秘薬?いや、薬学なら知らない」
「いや、そうじゃなくてね……魔法の触媒に使うものよ。硫黄とか、コケとか……解らないでしょ?」
「どういう場所にあるか知ってれば誰でも探せないか?」
「だから、知らないでしょ?」
「教えられれば解る」
「………………それもそうね」

ルイズは、何故か大きく間を空けて相槌を打ってきた。
自分が学ぶことの出来ない何かとでも思っていたのだろうか?
彼の頭にそんな疑念が浮かんだが、
それの正否を判断するほどの材料は無かった。

「あと、一番重要だけど、主人を守ること。だけど――」
「だけど?」
「あんた、強そうに見えないわ」

そう言われて、彼は思わず自分の両手に目を落とす。
これでも、長い間戦っていたつもりだったが――なるほど、強くは見えまい。
自身の体調の数倍在るドラゴンを投げ飛ばす誰かの影を夢想して、彼は自身の太くはない腕を下ろした。

「それは大丈夫だと思う」
「どこが?あんた、犬にも負けそうじゃない」

彼は、知り合い――に数えて良いのか、通称が犬の動物を思い出して。
まぁ、勝てないと言うことはあるまい。

「まあ、犬なら大丈夫だな」
「……保証されてるはずなのにモヤモヤが晴れないのはなぜかしら?」
「気のせいだろう。で、それで全てか?」
「…………」

特に感情は入れられずに――本当に一切、侮蔑も皮肉も込めずに放たれた言葉だったが、
ルイズは眉をひそめて暫し沈黙し、そっと額に手を当てて深く息と、言葉を吐いた。

「……結局良く解らないから、あんたにも出来そうなコトをやって貰うわ。
 洗濯とか、掃除とか……出来るわよね」
「洗濯はどうだか……聞く限りでは期待しない方が良さそうだったからな」
「何が?」
「いや、出来ると思うぞ。やり方さえ教えて貰えば」
「知らなきゃ何も出来ないの?」
「そう言うものだろう」
「……そうね」

それで、その会話は終わったのだと思う。
ルイズは疲れたかのように――というかまず間違いなく疲れて、ベッドにそのまま背中から倒れ込む。

「あー……、なにかどっと疲れたわ」
「寝るのか?」
「寝るわよ――って何処に行くの?」

彼は既に窓から離れて、ドアノブに手をかけていた。
ルイズが上げた疑問に対して、その疑問そのものが不思議なように表情に出して、
彼はルイズの方に向き直る。

「着替えるんじゃないのか?寝間着に」
「そうだけど、だから何処に行くのよ」
「……他人の着替えを覗くような趣味はないし、常識も弁えてるつもりなんだが。
 適当に散歩でもしてくる――色々と考えたいこともある」
「そう……別に構わないけど」

許可を得られなくとも、彼は外に行くつもりだったのだが。
むしろ――今より着替えようと言うときに外に出る許可を出さない人物とは、あまり一緒に居たくはないだろう。
幸いなことに、許可は得られたが。
彼はドアノブを捻った。

先ほどは、窓で切り取られていた景色を見上げる。
二つの月。雲は良く見え、星はあまり見えない。
もとより見えないのか、月が明るすぎるだけか。
そんな、どうでも良いことを考えてしまう。
考えたいことがあると、そう言い出てきた――そのつもりだったが、
特に考えたいことがあったわけでもない。
何をすべきでもないのだから。

「どうなんだろうな」

特に何処に行くでもなく、建物から出てそれほど遠くない場所で、呟く。
故郷に帰りたい気分はあった。
たとえ彼らに裏切られていようと、廃墟と成っていようとだ。
だが、別に急ぐほどのことでもない。
もう終わったのだ。
わざわざ自分が帰ってすることはない。
一人の人間として、出来ることは幾らでもあるのかも知れないが、
それはそう、他の一人にでもできることだろう。
帰った方が良いのかも知れないが、帰る必要は何処にもない。
なら、帰らなくてもいい――そこまで考えて、その考えを振り払おうとして、止めた。

「少しくらい休んでも良いか」

疲れてるのか、と言われればそうだった。
持てる力の全てを注ぎ込んだ戦いの後だ。
それが無くても、かの旅路はけして楽なものなどではなかった。
その旅路を思い返すまでもなく、その結果はこの身に刻まれてもいる。
思い返すまでもないことだった。

「――という話なんですけど」
「へぇ――あれ――?」

声が聞こえてきて、思わず空からそちらに視線を落とす。
すこし驚いたかも知れないが、考えてみれば、この学院にいるのがルイズとコルベールと、
医務室にいた名も知れぬ医師の3人しか居ないと言うことはないだろう。
むしろ、驚いたのはその後だった。
声の主達、その視線がこちらを見返してきていた。
二つの月は、夜を彼が知っているそれより余程明るく照らしていて、
それなりに遠くにいた、恐らく女生徒であろうその二人がこちらを見ているのはわかった。

「こんなとこ―――――」
「いや――多分――」

――ルイズは、確か、寮だとか言っていた。
多分、女子寮か何かだろう。
なら、彼女たちの反応も別におかしいことではないように思える。

(――まぁ、そんなところの前に男が立っていたらおかしいんだろうな)

空を見上げているのも飽きていたし、彼はその場を立ち去ることにした。
何となく、何処へと無く歩く。
目的があるでもなく、ただ歩く。
怪しまれるのを避けるのなら、人々が寝静まるまで待つべきか?

(――――はは)

自分は相当疲れてるのかも知れない。もしくは抜けているか。
彼は、虚空に指をなぞらせた。

特に人に出会うこともなく、ルイズの部屋の前まで戻ってきた。
いや、見掛けなかったわけではないが、出会っては居ない。それこそ、すぐ横を通ろうとも。
そのことに関して今更何の感慨を抱くわけでもなく、彼はドアノブに手をかけて、捻って。
それを押せなかった。がちゃん、と金属と金属が立てる音がする。

「…………」

思わず、黙り込む。
どうしようもなく理解できる。あえて言うとするのならば、そう、鍵がかかっている。
防犯意識があるのは素晴らしいことなのかも知れないが、はじき出される方はたまったものではない。
泥棒や変人の類なら文句も言えないが、彼はまともな人間である。
――女子寮の前をうろついたり、人がいない隙を見計らったりと、やってることは同じなのかも知れないが。

「ああもう、いやんなるわねー」

どうした物かと腕を組んで、部屋の前で佇んでいると、すぐ近くから声が上がった。

「全く、空気読むってコトを知らないのかしら――あら?」

振り返ってみると、はっきりは見えないが、どうやら女のようだったが。

「ルイズの部屋の前で何してるの?」
「……いや、鍵がかかっていてな、入れないんだ」

否定した方が、怪しいと思えたのか。
彼は素直に返すことにした。
そして、どうやらその選択は間違いでもなかったらしい。

「んー……ああ、ルイズが召喚してた人間かしら?」
「ああ、そうだが――ルイズの知り合いか?」
「そうね。でも、友人ではないわ」
「そこら辺は良く解らないが……鍵とか借りられる場所はないのか?」
「そんなめんどくさいことしなくても大丈夫よ」

そう言うと、彼女は杖を胸の辺りから取り出すと、それを振るってなにやら小さく呟いた。
かちゃん、と何かが落ちる様な音がする。
腕組みを解いて、先ほどそうしたようにドアノブを捻り、押す。
今度は、ちゃんと開いてくれた。
どうやら、彼女は扉の鍵を開けてくれたらしい。
一旦ドアから手を離して、彼女の方を向く。

「……礼を言う」
「どういたしまして。ま、ルイズにはこのこと言わない方が良いと思うわよ。あれは――」
「キュルケ!こんな所にいたのか!」

先ほど彼女――キュルケ?が来た方か、そちらから男の声がしてきた。
振り向いてそちらを見てみると、男子生徒だろうか、それが数人塊になってキュルケの方を見ていた。

(……男?)

此処は女子寮じゃあなかったのだろうか?

「どういう事なんだ!今日は僕と過ごすんじゃ無かったのか」
「待ちたまえ!先に約束していたのは俺だぞ!」
「というか、その男は誰だね!?まさかまた――」
「話が良く解らないんだが――」

何だが、自分も巻き込まれているような――
問いかけながら、キュルケとやらの方へ向く。
が。

「……何処に行った」
「ああ、逃げられた!?」
「めんどくさい!ええい君たち、キュルケを捕まえたものが今日の相手だ!いいな!」
「別にそれで構わん!それならば僕がそうなるからな!」
「言ってくれるッ!?」

彼らは口々にそう言うと、恐らくキュルケが居なくなった方向、
――つまり彼の方へと走り出した。
礼儀とかマナーとかそう言う理由ではなく、単純に身の危険から廊下の端に身を寄せる。
石で出来た廊下にヒビを入れかねない勢いで男達は走り去っていき、
彼は呆然としてそれを見送った。

「……騒がしいところのようだな」

困惑はせず、唖然として、彼はルイズの部屋のドアを開けた。



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