ゼロの騎士団-外伝 「真・使い魔感謝の日」
もし、貴方の悩み事を相談して下さいと言われれば、こう答える――主がおかしいのです。
正確には仮の主だが、それでも、ここ最近の自分の主が変だと感じる。
それまで、自分にとっての主とは、主より遅く起きたら鞭で叩かれ、
魔法の失敗を笑うと吹き飛ばされ、少し主の身体的冗談を言っただけで拳が飛び、
身の回りの世話もどきをさせられる……。
言ってから悲しくなったが、それが自分にとってのこの世界の主と言う物だ。
正確には仮の主だが、それでも、ここ最近の自分の主が変だと感じる。
それまで、自分にとっての主とは、主より遅く起きたら鞭で叩かれ、
魔法の失敗を笑うと吹き飛ばされ、少し主の身体的冗談を言っただけで拳が飛び、
身の回りの世話もどきをさせられる……。
言ってから悲しくなったが、それが自分にとってのこの世界の主と言う物だ。
異変は最初、この間の飲み会で遅くなり、部屋に帰って朝寝過した時だった。
「……起きて、ニュー」
少女の声でぼんやり目を開けると、見慣れた少女の顔――ルイズの顔が見える。
自分の顔を覗き込んでいるのだろう、彼女の髪の匂いが自分の嗅覚から脳へと伝達する。
……しまった!
完全にでは無いが、かろうじて、そう思う事だけはできた。
とりあえず、体を強引に起こす、意識は地面にある気がするが、それを気にしている暇はない。
「おはよう、ルイズ、早起きだな、すまない水汲んでく……」
頭に手を当てて、その場にうずくまる。飲みすぎたのだ、突き刺すような頭痛でそれがすぐに理解できた。
ルイズの方を見ようと、顔を向けるが、視界がぼやける。目の前にあるのはコップに注がれた水であった。
「はい、お水よ、アンタ昨日は遅かったみたいじゃない、これでも飲みなさいよ」
どうやら、その水は飲んでいいものらしい。しかし、手が動かない訳ではないがそのコップを取れなかった。
「ルイズ……その……それはお前がくんできたのか?そして、それを飲んでいいと?」
理由が欲しかった、ただ、なんとなく。
「当たり前じゃない、私だってそのくらいは出来るわよ、それにお父様も良くこうやって母様が介抱してたわ」
呆れ顔のルイズがニューに水を更に前に差し出す。
「その、怒って無いのか?お前より遅く起きて?」
「そこまで、狭くはないわよ!飲み会で遅くなったんでしょ。
羽目を外す事くらい知っているわよ。私は先に行くから、それ飲んだら後から来なさい」
そう言って、ルイズは部屋を出る。
ニューは手の冷たい感触に目を移す。
(まぁ、病人に優しくするのと同じかな)
その時は、そう考える事にした。
少女の声でぼんやり目を開けると、見慣れた少女の顔――ルイズの顔が見える。
自分の顔を覗き込んでいるのだろう、彼女の髪の匂いが自分の嗅覚から脳へと伝達する。
……しまった!
完全にでは無いが、かろうじて、そう思う事だけはできた。
とりあえず、体を強引に起こす、意識は地面にある気がするが、それを気にしている暇はない。
「おはよう、ルイズ、早起きだな、すまない水汲んでく……」
頭に手を当てて、その場にうずくまる。飲みすぎたのだ、突き刺すような頭痛でそれがすぐに理解できた。
ルイズの方を見ようと、顔を向けるが、視界がぼやける。目の前にあるのはコップに注がれた水であった。
「はい、お水よ、アンタ昨日は遅かったみたいじゃない、これでも飲みなさいよ」
どうやら、その水は飲んでいいものらしい。しかし、手が動かない訳ではないがそのコップを取れなかった。
「ルイズ……その……それはお前がくんできたのか?そして、それを飲んでいいと?」
理由が欲しかった、ただ、なんとなく。
「当たり前じゃない、私だってそのくらいは出来るわよ、それにお父様も良くこうやって母様が介抱してたわ」
呆れ顔のルイズがニューに水を更に前に差し出す。
「その、怒って無いのか?お前より遅く起きて?」
「そこまで、狭くはないわよ!飲み会で遅くなったんでしょ。
羽目を外す事くらい知っているわよ。私は先に行くから、それ飲んだら後から来なさい」
そう言って、ルイズは部屋を出る。
ニューは手の冷たい感触に目を移す。
(まぁ、病人に優しくするのと同じかな)
その時は、そう考える事にした。
そして、一週間
相変わらず、違和感が消え無い。
「……おかしい」
目の前のスープが醒めるのも気にせず、思考する。
別段変りない日常と言える。
しかし、目に見えて分かる事――ルイズの制裁の数が激減した事である。
それまでは日に一度は何らかの理由(たまにニュー自身のせい)で振るわれた暴力的行為が、
ここ一週間全く無かった。
また、何かと理由をつけ連れまわされたが、最近はルイズが用事があるのか一緒に居る時間も減った。
それに、いろいろと世話係の真似事も減った気がする。
「どうしたの、ニュー?」
ルイズが聞いてくる、今日は珍しく二人だけの様である。
この世界に慣れたのもあるが、最近では六人が一緒の言うのも必ずしも不文律と言う訳では無くなってきた。しかし、見渡してもいるはずであろう、キュルケ達が居ない。
二人で居るのが、最初に会った時よりも苦痛に感じる。
苦痛から解放されたい、そう思いニューは踏み込む事にする。
「……ルイズ、もしかして、私はお払い箱なのか」
人は解らない事があると、最悪の事態を考える。それを極論と言う。
最悪なのは理由をつけて殺したりするのもいる……
使い魔の日が出来た理由の一つが、何となくニューの心に響いてくる。
ありえないと思う、しかし、最近のルイズの様子は明らかにおかしく、正常な判断を奪いつつあった。
「何言ってるのよ、そんな事する訳ないじゃない、なんなのよ?」
「なら言わせてもらうが、この間からおかしいぞ、なにがあった?」
ニューは素直に疑問をぶつける。このままではこちらの身が持たない、怒っている事があるなら謝ろう。
そう考えるニューに対して、ルイズとの距離は縮まりそうにはなかった。
「……最近妙に優しいのが気になる、それに、何をしているんだ?」
「別に他意はないわよ、ただ、この間の感謝の日で思う所があったのよ」
「何だそれは?」
「アンタこの間、お菓子を喜んで食べてくれたじゃない?
あの時、ほとんどシエスタに手伝ってもらったのよ」
それは知っている、宴会で彼女のルイズ達に対する愚痴は、
聞かれたら大事になりかねない様な内容であった。
ルイズは続ける。
「けど、アンタは喜んで食べてくれた、だから、今度は私一人の手で作りたいの」
ルイズの手にはよく見ると火傷の様な跡がある。
この間の傷かと思ったが、思えば、自分があの後、魔法で治したのだ。
「じゃあ、お前はお菓子作りを習っているのか!?」
「なによ、悪い!?」
「いや、悪くはないが……」
予想外の理由にニューは素直に感心する。
どうやら、シエスタに手伝ってもらった自覚はあるようだ、
「この間のやつが、私の本気だと思われるのは不本意なのよ。
アンタには私の有難さと凄さをもっと、もっと、思い知らせてやるんだから」
「色々と思い知らせれてはいるんだが……まぁ、ありがとう、ルイズ」
少し悪い事をしたかもしれない。ニューは少しそんな事を考えた。
相変わらず、違和感が消え無い。
「……おかしい」
目の前のスープが醒めるのも気にせず、思考する。
別段変りない日常と言える。
しかし、目に見えて分かる事――ルイズの制裁の数が激減した事である。
それまでは日に一度は何らかの理由(たまにニュー自身のせい)で振るわれた暴力的行為が、
ここ一週間全く無かった。
また、何かと理由をつけ連れまわされたが、最近はルイズが用事があるのか一緒に居る時間も減った。
それに、いろいろと世話係の真似事も減った気がする。
「どうしたの、ニュー?」
ルイズが聞いてくる、今日は珍しく二人だけの様である。
この世界に慣れたのもあるが、最近では六人が一緒の言うのも必ずしも不文律と言う訳では無くなってきた。しかし、見渡してもいるはずであろう、キュルケ達が居ない。
二人で居るのが、最初に会った時よりも苦痛に感じる。
苦痛から解放されたい、そう思いニューは踏み込む事にする。
「……ルイズ、もしかして、私はお払い箱なのか」
人は解らない事があると、最悪の事態を考える。それを極論と言う。
最悪なのは理由をつけて殺したりするのもいる……
使い魔の日が出来た理由の一つが、何となくニューの心に響いてくる。
ありえないと思う、しかし、最近のルイズの様子は明らかにおかしく、正常な判断を奪いつつあった。
「何言ってるのよ、そんな事する訳ないじゃない、なんなのよ?」
「なら言わせてもらうが、この間からおかしいぞ、なにがあった?」
ニューは素直に疑問をぶつける。このままではこちらの身が持たない、怒っている事があるなら謝ろう。
そう考えるニューに対して、ルイズとの距離は縮まりそうにはなかった。
「……最近妙に優しいのが気になる、それに、何をしているんだ?」
「別に他意はないわよ、ただ、この間の感謝の日で思う所があったのよ」
「何だそれは?」
「アンタこの間、お菓子を喜んで食べてくれたじゃない?
あの時、ほとんどシエスタに手伝ってもらったのよ」
それは知っている、宴会で彼女のルイズ達に対する愚痴は、
聞かれたら大事になりかねない様な内容であった。
ルイズは続ける。
「けど、アンタは喜んで食べてくれた、だから、今度は私一人の手で作りたいの」
ルイズの手にはよく見ると火傷の様な跡がある。
この間の傷かと思ったが、思えば、自分があの後、魔法で治したのだ。
「じゃあ、お前はお菓子作りを習っているのか!?」
「なによ、悪い!?」
「いや、悪くはないが……」
予想外の理由にニューは素直に感心する。
どうやら、シエスタに手伝ってもらった自覚はあるようだ、
「この間のやつが、私の本気だと思われるのは不本意なのよ。
アンタには私の有難さと凄さをもっと、もっと、思い知らせてやるんだから」
「色々と思い知らせれてはいるんだが……まぁ、ありがとう、ルイズ」
少し悪い事をしたかもしれない。ニューは少しそんな事を考えた。
「あっ、ニューさん、まだ生きていたんですね!」
そんな事を言われるのは、どちらかと言えば敵と対峙していた時だ。
しかし、振り返るとそこには敵では無く、自分にとっての味方であった。
「シエスタ、どうしたんだいきなり?」
メイドの中でも分り易い容姿の黒髪の少女を見ながら、彼女の言葉に少し驚く。
彼女が何か言う前に、さっきのやり取りを思い出し、ニューは、彼女の弟子の腕を聞こうと思った。
「そうだ、シエスタ、最近ルイズがお菓子を習っているようじゃないか?
どうなんだ、出来の悪そうな弟子だが、私からも面倒見てやってくれ」
ニューの言葉を聞いて、シエスタは話題を提供する口を固くする。
何か禁忌に触れるかの様に辺りを見回しながら、ニューに顔を近づける。
「その事なんですけど、ニューさん……」
周りの音に聞こえないようにした訳では無い。
ただ、シエスタが止まっただけだった。
「ん、どうしたシエスタ?」
「なっ、何でもありません、ルイズ様はとっても筋がいいようです。
近いうちに、ご自分で出来るようになりますよ」
「そうか、しかし、忙しかったか?」
「はい、すいません。失礼します」
そう言って、足早にシエスタはその場を離れる。
(まぁ、暇な時に聞いてみるか)
忙しいらしいシエスタを引き留めたと感じて、ニューは少し後悔する。
そんな事を言われるのは、どちらかと言えば敵と対峙していた時だ。
しかし、振り返るとそこには敵では無く、自分にとっての味方であった。
「シエスタ、どうしたんだいきなり?」
メイドの中でも分り易い容姿の黒髪の少女を見ながら、彼女の言葉に少し驚く。
彼女が何か言う前に、さっきのやり取りを思い出し、ニューは、彼女の弟子の腕を聞こうと思った。
「そうだ、シエスタ、最近ルイズがお菓子を習っているようじゃないか?
どうなんだ、出来の悪そうな弟子だが、私からも面倒見てやってくれ」
ニューの言葉を聞いて、シエスタは話題を提供する口を固くする。
何か禁忌に触れるかの様に辺りを見回しながら、ニューに顔を近づける。
「その事なんですけど、ニューさん……」
周りの音に聞こえないようにした訳では無い。
ただ、シエスタが止まっただけだった。
「ん、どうしたシエスタ?」
「なっ、何でもありません、ルイズ様はとっても筋がいいようです。
近いうちに、ご自分で出来るようになりますよ」
「そうか、しかし、忙しかったか?」
「はい、すいません。失礼します」
そう言って、足早にシエスタはその場を離れる。
(まぁ、暇な時に聞いてみるか)
忙しいらしいシエスタを引き留めたと感じて、ニューは少し後悔する。
その日、ニューは珍しい体験をする。
何時も、大体はルイズ達三人は何かしら、もしくは、どちらかと会う。
しかし、その日に限ってはキュルケやタバサ達と会う事は無かった。
もちろん、彼女達の使い魔とも……
数日後
「ニューさん、ニューさん」
小声で自分の名を呼ぶ声は、自分と親しい者の声であった。
彼は振り向き、声を現すかのように、物陰に隠れた少女を見つける。
「シエスタ、どうしたんだ?」
ニューの声を聞いて、彼女は何かを警戒するように近づく。
「ニューさん、この間の件なんですけど」
「ん?ああ、ルイズのお菓子の件か、何かあったのかい?」
この間の件を思い出し、シエスタに聞きそびれていた事を思い出す。
「それなん……」
会話の途中で、シエスタが止まる。
「シエスタ、どうしたの?」
ニューの疑問を、彼の声では無い物が代弁する。
「ミス・ヴァリエール……」
彼女の顔から色が消える。
ニューが振り向くとそこには、昼食を終えたらしいルイズが居た。
「シエスタ、ちょうど良かった。午後からあなたに、お菓子作り手伝ってもらいたかったの」
どうやら、ルイズはシエスタにお菓子作りの手伝ってもらいに来たらしい。
シエスタの回答を待たず、ルイズはシエスタの手を掴み、厨房へと行こうとする。
「これから、お菓子作りの練習か?」
「そう、リハーサルも兼ねて……」
ニューの方に向きなおり、ルイズが笑顔で応じる。
初めて見た時の様な、ニューにあまり見せた事がない、華やかな笑顔であった。
そのまま、彼女達はニューの視界から消えて行った。
「随分、大袈裟だな……まぁ、シエスタが言ったからって、
ルイズが食べれる物を作るのは大変そうだよな」
結局、ニューは珍しく午後の時間をコルベールの所で過ごした。
何時も、大体はルイズ達三人は何かしら、もしくは、どちらかと会う。
しかし、その日に限ってはキュルケやタバサ達と会う事は無かった。
もちろん、彼女達の使い魔とも……
数日後
「ニューさん、ニューさん」
小声で自分の名を呼ぶ声は、自分と親しい者の声であった。
彼は振り向き、声を現すかのように、物陰に隠れた少女を見つける。
「シエスタ、どうしたんだ?」
ニューの声を聞いて、彼女は何かを警戒するように近づく。
「ニューさん、この間の件なんですけど」
「ん?ああ、ルイズのお菓子の件か、何かあったのかい?」
この間の件を思い出し、シエスタに聞きそびれていた事を思い出す。
「それなん……」
会話の途中で、シエスタが止まる。
「シエスタ、どうしたの?」
ニューの疑問を、彼の声では無い物が代弁する。
「ミス・ヴァリエール……」
彼女の顔から色が消える。
ニューが振り向くとそこには、昼食を終えたらしいルイズが居た。
「シエスタ、ちょうど良かった。午後からあなたに、お菓子作り手伝ってもらいたかったの」
どうやら、ルイズはシエスタにお菓子作りの手伝ってもらいに来たらしい。
シエスタの回答を待たず、ルイズはシエスタの手を掴み、厨房へと行こうとする。
「これから、お菓子作りの練習か?」
「そう、リハーサルも兼ねて……」
ニューの方に向きなおり、ルイズが笑顔で応じる。
初めて見た時の様な、ニューにあまり見せた事がない、華やかな笑顔であった。
そのまま、彼女達はニューの視界から消えて行った。
「随分、大袈裟だな……まぁ、シエスタが言ったからって、
ルイズが食べれる物を作るのは大変そうだよな」
結局、ニューは珍しく午後の時間をコルベールの所で過ごした。
意外な事に二人の会話は弾んだ。
少なくとも、ニューが日の暮れた事に気づかなければ、ずっと喋って居た。
夕食を取ろうと思い、食堂に向かう。しかし、ルイズは居らず。
たまたま、そこに居たケティとミリーナの近くの席に座る事にした。
しばらくすると、ニューが何かにぼんやりと気づく。
「そう言えば、最近、料理にハシバミ草出ないな」
付け合わせ等に使われる香草が、ここ数日無い事に気づく。
最初気付かずに食べてしまい、文字通り苦い思いをしただけに、食事の時に何気に注意を払う癖がニューには出来ていた。
「なんでも最近、仕入れたハシバミ草が無くなっているそうですよ」
ソテーにつけられたグリーンピースと格闘しながら、ミリーナは答える。
「まぁ、あまり好で食べる生徒が居ないですからね、ミス・タバサくらいじゃないですか?」
「タバサか……そう言えばここ数日、タバサ達やキュルケ達に会っていないな」
ここ最近、彼女達と会っていない事に気づく。
しかし、外国の留学生である彼女達なら、何かしらの理由で帰省する事くらいあるだろう。
「へぇ、珍しいですね、六人一緒のイメージが強いのに」
何かと目配せをしたケティが話に加わる。
ニュー達は六人で一つの認識らしい。
視線の先には、複数の男達がこちらを――主にケティの方を見ている。
「そう言えば、聞きました? ここ最近、夜になると女子寮の地下から悲鳴が聞こえてくるんですよ」
ミリーナが話題を変える。
どうやら、一番喋りたかった話題を切り出せて先程より勢いがある。
しかし、二人の反応は彼女の勢いに追随する者は無かった。
「まぁ有りがちだな、典型的な怪談話だろう」
「怖い話なんかしないでよ、だいたい、地下はただの物置じゃない、反省室は別の所で数十年前に無くなった筈よ」
ニューは心理的、ケティは知識と情報面でミリーナの話を一笑する。
「なんですか! 二人とも面白くないですね」
せっかくの話題をあっさりと終了させられミリーナが顔をふくらませる。
「まぁ、そう言わないでくれ。その手の話は何処にでも有るのだし。
私の居た所でも、夜になると異国の甲冑をきた騎士の霊が現れて、倒すと絶大な力を持った剣を与えられると言われるのがあるからな」
「怪談と言うよりも、それは辺境に居るドラゴンの類ですよ」
ニューの話を聞いて、ケティが感想を述べる。
結局、ルイズは現れなかった。
少なくとも、ニューが日の暮れた事に気づかなければ、ずっと喋って居た。
夕食を取ろうと思い、食堂に向かう。しかし、ルイズは居らず。
たまたま、そこに居たケティとミリーナの近くの席に座る事にした。
しばらくすると、ニューが何かにぼんやりと気づく。
「そう言えば、最近、料理にハシバミ草出ないな」
付け合わせ等に使われる香草が、ここ数日無い事に気づく。
最初気付かずに食べてしまい、文字通り苦い思いをしただけに、食事の時に何気に注意を払う癖がニューには出来ていた。
「なんでも最近、仕入れたハシバミ草が無くなっているそうですよ」
ソテーにつけられたグリーンピースと格闘しながら、ミリーナは答える。
「まぁ、あまり好で食べる生徒が居ないですからね、ミス・タバサくらいじゃないですか?」
「タバサか……そう言えばここ数日、タバサ達やキュルケ達に会っていないな」
ここ最近、彼女達と会っていない事に気づく。
しかし、外国の留学生である彼女達なら、何かしらの理由で帰省する事くらいあるだろう。
「へぇ、珍しいですね、六人一緒のイメージが強いのに」
何かと目配せをしたケティが話に加わる。
ニュー達は六人で一つの認識らしい。
視線の先には、複数の男達がこちらを――主にケティの方を見ている。
「そう言えば、聞きました? ここ最近、夜になると女子寮の地下から悲鳴が聞こえてくるんですよ」
ミリーナが話題を変える。
どうやら、一番喋りたかった話題を切り出せて先程より勢いがある。
しかし、二人の反応は彼女の勢いに追随する者は無かった。
「まぁ有りがちだな、典型的な怪談話だろう」
「怖い話なんかしないでよ、だいたい、地下はただの物置じゃない、反省室は別の所で数十年前に無くなった筈よ」
ニューは心理的、ケティは知識と情報面でミリーナの話を一笑する。
「なんですか! 二人とも面白くないですね」
せっかくの話題をあっさりと終了させられミリーナが顔をふくらませる。
「まぁ、そう言わないでくれ。その手の話は何処にでも有るのだし。
私の居た所でも、夜になると異国の甲冑をきた騎士の霊が現れて、倒すと絶大な力を持った剣を与えられると言われるのがあるからな」
「怪談と言うよりも、それは辺境に居るドラゴンの類ですよ」
ニューの話を聞いて、ケティが感想を述べる。
結局、ルイズは現れなかった。
二人と別れ、ルイズの部屋に戻る途中、タバサの部屋から声が聞こえた。
二人が帰って来たのか?そう思い、ニューは部屋をノックする。
返事がない。しかし、ドアに近づくと声の原因は解った。
「おい、ニュー、そこにいるのか!? 生きているか?」
声の主は、普段、タバサの部屋に置かれているデルフリンガーの物であった。
「デルフかどうした?」
「誰も居ないか?居ないならすぐに入れ」
デルフが緊張した声で、指示する。
ドアノブを回すと小気味よい音がする。どうやら、開いているようだ。
部屋の片隅にデルフはいた。
「どうした、そんなに慌てて、二人に置いて行かれたのか」
ニューの軽口に対しても、デルフは緊張を解かなかった。
「そんなんじゃねぇ、いいかニュー! 相棒は……」
デルフの言葉は途切れる。
二人が帰って来たのか?そう思い、ニューは部屋をノックする。
返事がない。しかし、ドアに近づくと声の原因は解った。
「おい、ニュー、そこにいるのか!? 生きているか?」
声の主は、普段、タバサの部屋に置かれているデルフリンガーの物であった。
「デルフかどうした?」
「誰も居ないか?居ないならすぐに入れ」
デルフが緊張した声で、指示する。
ドアノブを回すと小気味よい音がする。どうやら、開いているようだ。
部屋の片隅にデルフはいた。
「どうした、そんなに慌てて、二人に置いて行かれたのか」
ニューの軽口に対しても、デルフは緊張を解かなかった。
「そんなんじゃねぇ、いいかニュー! 相棒は……」
デルフの言葉は途切れる。
彼女はそこに居た。
「タバサ?」
青い髪の少女は、この部屋の主だった。
彼女は、いつも通りの無表情をニューに向ける。
「何しているの?」
おかしな言葉では無かった。
「デルフに呼ばれてな、そう言えばゼータを知らないか?」
「知っている、シルフィードと一緒」
タバサの無表情は変わらなかった。
その中で、一瞬、デルフが震えた気がするが、気にしない振りをする。
「そうか、ちゃんと授業に出た方がいいぞ、コルベール先生が君達の出席日数のことを気にしていたから」
「……わかった」
そう頷いたタバサの横を、ニューは通り抜けた。
そして、そのまま部屋を出て、ニューは一息ついた。
青い髪の少女は、この部屋の主だった。
彼女は、いつも通りの無表情をニューに向ける。
「何しているの?」
おかしな言葉では無かった。
「デルフに呼ばれてな、そう言えばゼータを知らないか?」
「知っている、シルフィードと一緒」
タバサの無表情は変わらなかった。
その中で、一瞬、デルフが震えた気がするが、気にしない振りをする。
「そうか、ちゃんと授業に出た方がいいぞ、コルベール先生が君達の出席日数のことを気にしていたから」
「……わかった」
そう頷いたタバサの横を、ニューは通り抜けた。
そして、そのまま部屋を出て、ニューは一息ついた。
「……で、結局探検する事になったじゃないですか」
「気になったんだ」
さほど広くない、暗い空間に似合わない声が響く。
次の日、三人は女子寮の地下に居た。
“地下に行け”
昨晩、タバサの部屋を出る時、ニューにしか聞こえない声で得言った言葉が引っ掛かる。
地下――何となく、二人との会話で連想した場所を思い出す。
しかし、中は案外広く場所が分からないので、とりあえず、二人を探索に誘った。
「デルフがあんな態度を取るのが珍しかったんでね、何かあるんじゃないかって」
デルフが、何故そのような事を言ったのか解らなかったが、ここ数日の気になる気持ちを少しでもうやむやにしたかった。
「怖い事言わないでください、この地下はずっと物置だったんですよ」
ケティが辺りを見回しながら、歩く。
暗いと言っても、所々にランプがある為、視界がない訳では無い。
しかし、簡単に終了するすると思っていたが、思いのほか広く暗い空間に少し怯え気味だ。
実際には、物置と言うだけあり、部屋の中に備品が置いてあるだけで、変わったものは無かった。
「次はここですね」
ミリーナが、次の部屋のドアを発見する。
「他のドアより、綺麗だな」
そのドアは比較的新しくできたらしく、他のと比べて、暗い中でも真新しさを感じられた。
「地下は増築されていますからね、多分作られて、まだ、間もないんですよ」
そう言って、三人は中に入った。
「気になったんだ」
さほど広くない、暗い空間に似合わない声が響く。
次の日、三人は女子寮の地下に居た。
“地下に行け”
昨晩、タバサの部屋を出る時、ニューにしか聞こえない声で得言った言葉が引っ掛かる。
地下――何となく、二人との会話で連想した場所を思い出す。
しかし、中は案外広く場所が分からないので、とりあえず、二人を探索に誘った。
「デルフがあんな態度を取るのが珍しかったんでね、何かあるんじゃないかって」
デルフが、何故そのような事を言ったのか解らなかったが、ここ数日の気になる気持ちを少しでもうやむやにしたかった。
「怖い事言わないでください、この地下はずっと物置だったんですよ」
ケティが辺りを見回しながら、歩く。
暗いと言っても、所々にランプがある為、視界がない訳では無い。
しかし、簡単に終了するすると思っていたが、思いのほか広く暗い空間に少し怯え気味だ。
実際には、物置と言うだけあり、部屋の中に備品が置いてあるだけで、変わったものは無かった。
「次はここですね」
ミリーナが、次の部屋のドアを発見する。
「他のドアより、綺麗だな」
そのドアは比較的新しくできたらしく、他のと比べて、暗い中でも真新しさを感じられた。
「地下は増築されていますからね、多分作られて、まだ、間もないんですよ」
そう言って、三人は中に入った。
部屋の中は、今まで見て来た部屋と何ら変わりなかった。
「……特に何にもないですね」
ケティがおっかなびっくりに応える。
部屋を見回すが、確かに変わったものがある訳では無い。
「そうだな……ん、これは?」
近くの机に手を置いた時、ニューは何かに気づく。
「どうかしました?」
「なにか、触った気がするんだ、ん、これは……」
「あ、ハシバミ草ですよ、これ!」
切れ端程度なので解らなかったが、ミリーナの指摘を受けそれに気が付く。
解りづらいが、それは、確かにハシバミ草であった。
「……なんでこんな所に?」
「あ、解りました、きっとハシバミ草を盗んだ犯人が、ここで1人ハシバミ草パーティーを開いていたんだわ」
「んなわけないでしょっ!けど、本当に何でこんな所にあるんですかね?」
ミリーナの指摘の後の、目的は確かに気になる。
「冗談よ、けど、確かに……ん、今そこ何か動きましたわ!」
ケティが、突然何かを感じたらしく、一歩後ずさる。
その方向の先には、ずた袋が数個あった。
(ネズミでもいるのか?)
非常食でもあるのか?そんな軽い気持ちでずた袋を開ける。
ニューはそこで固まった。
「何かありま……」
なにも反応のない、ニューを見て、ミリーナも中から覗き込み、そして、固まった。
ケティはそんな二人のリアクションを疑問に思い、遠くから聞き返す。
「な、なんですの?もしかして、ネズミ?もしくはアタッチメント式多脚間接ムカデ?」
指摘したくなるような長ったらしい名前も、二人の反応を呼び起こす事は出来ない。
しかし、彼は疑問に答えるように袋を開けた。
……そして、ケティもすべて理解した。
「……特に何にもないですね」
ケティがおっかなびっくりに応える。
部屋を見回すが、確かに変わったものがある訳では無い。
「そうだな……ん、これは?」
近くの机に手を置いた時、ニューは何かに気づく。
「どうかしました?」
「なにか、触った気がするんだ、ん、これは……」
「あ、ハシバミ草ですよ、これ!」
切れ端程度なので解らなかったが、ミリーナの指摘を受けそれに気が付く。
解りづらいが、それは、確かにハシバミ草であった。
「……なんでこんな所に?」
「あ、解りました、きっとハシバミ草を盗んだ犯人が、ここで1人ハシバミ草パーティーを開いていたんだわ」
「んなわけないでしょっ!けど、本当に何でこんな所にあるんですかね?」
ミリーナの指摘の後の、目的は確かに気になる。
「冗談よ、けど、確かに……ん、今そこ何か動きましたわ!」
ケティが、突然何かを感じたらしく、一歩後ずさる。
その方向の先には、ずた袋が数個あった。
(ネズミでもいるのか?)
非常食でもあるのか?そんな軽い気持ちでずた袋を開ける。
ニューはそこで固まった。
「何かありま……」
なにも反応のない、ニューを見て、ミリーナも中から覗き込み、そして、固まった。
ケティはそんな二人のリアクションを疑問に思い、遠くから聞き返す。
「な、なんですの?もしかして、ネズミ?もしくはアタッチメント式多脚間接ムカデ?」
指摘したくなるような長ったらしい名前も、二人の反応を呼び起こす事は出来ない。
しかし、彼は疑問に答えるように袋を開けた。
……そして、ケティもすべて理解した。
袋の中には、シルフィードと一緒に居る筈のゼータの姿があった。
「きゃぁぁぁ!」
真っ先に反応するケティは感受性が豊かだった。
「な、何ですかこれは!?」
心中で叫び続けたミリーナの声にならない声が、やっと世界に届く。
ゼータはロープで縛られて、何か紙を張り付けられていた。
それはこう書かれていた“砥石 竜の爪等、ご自由におとぎ下さい”
良く見ると、ゼータの全身は爪跡で無数の傷が刻まれている。
そして、小声で何かを繰り返し呟いている。
「ハシバミ草おいしいハシバミ草おいしいハシバミ草おいしいハシバミ草おいしいハシバミ草
おいしいハシバミ草おいしいハシバミ草おいしいハシバミ草おいしい…………」
ゼータはこの世界に居なかった。
(そうか、そうだったのか……)
ニューはある答えにたどり着こうとしていた。
気になって、他の袋にも手をかける。
「ダブルゼータさん!」
ミリーナの叫びが、更に自分の考えを真相に近づける。
そこには、ゼータ同様にダブルゼータが居た。
紙にはこう書いてあった“接待中 ご予約はお早めに”
ダブルゼータはゼータとは逆に見た目的には異常はないように見えた。
しかし、ある事に気づく。
「……キスマーク?」
ダブルゼータには、かなり大きな唇の跡が無数に刻まれていた。
「もじゃもじゃ……顔に当たる……いや……やめて……」
震えている。何かからの恐怖で
何があったのか聞くべく二人にリカバーをかけてみるが、反応は薄い。
そして、二人に反応するかのように、最後の袋が動いた。
(まさか!!)
そう思い、望みを託し袋を開ける。
だが、ニューの願いは届かなかった。
真っ先に反応するケティは感受性が豊かだった。
「な、何ですかこれは!?」
心中で叫び続けたミリーナの声にならない声が、やっと世界に届く。
ゼータはロープで縛られて、何か紙を張り付けられていた。
それはこう書かれていた“砥石 竜の爪等、ご自由におとぎ下さい”
良く見ると、ゼータの全身は爪跡で無数の傷が刻まれている。
そして、小声で何かを繰り返し呟いている。
「ハシバミ草おいしいハシバミ草おいしいハシバミ草おいしいハシバミ草おいしいハシバミ草
おいしいハシバミ草おいしいハシバミ草おいしいハシバミ草おいしい…………」
ゼータはこの世界に居なかった。
(そうか、そうだったのか……)
ニューはある答えにたどり着こうとしていた。
気になって、他の袋にも手をかける。
「ダブルゼータさん!」
ミリーナの叫びが、更に自分の考えを真相に近づける。
そこには、ゼータ同様にダブルゼータが居た。
紙にはこう書いてあった“接待中 ご予約はお早めに”
ダブルゼータはゼータとは逆に見た目的には異常はないように見えた。
しかし、ある事に気づく。
「……キスマーク?」
ダブルゼータには、かなり大きな唇の跡が無数に刻まれていた。
「もじゃもじゃ……顔に当たる……いや……やめて……」
震えている。何かからの恐怖で
何があったのか聞くべく二人にリカバーをかけてみるが、反応は薄い。
そして、二人に反応するかのように、最後の袋が動いた。
(まさか!!)
そう思い、望みを託し袋を開ける。
だが、ニューの願いは届かなかった。
そこには、頬が痩せこけて、目の焦点が合わないシエスタが居た。
彼女にも紙が貼られていた“試食中 他の方も是非ご賞味ください”
彼女も震えていた。しかし、他の二人よりまだ日が浅いのだろう。
服の汚れ具合が、まだ汚れていなかった。
「シエスタ、しっかりしろ!リカバー」
まだ助かるんじゃないか? そう思い彼女を正気に戻すよう魔法をかける。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめはっ!ここは……あっ、ニューさん!」
正気に戻ったシエスタが、ニューを視線に入れる。
最初は嬉しそうであったが、直に顔を蒼白にする。
「ニューさん、逃げて下さい! 殺されちゃいます!」
「……ああ、解ってる」
もはや、何もかもが理解できた。
思えば、それは巧妙であった。
少なくとも沈みゆく船に居る事に、最後までニューは気付かなかった。
そして、鈍い衝撃で意識が消える。現実と別れを告げる。
「ニューさん!」
現実に居るミリーナは、地面に落ちたニューを直撃した石に目を移す。
そして、それはやって来た。
彼女も震えていた。しかし、他の二人よりまだ日が浅いのだろう。
服の汚れ具合が、まだ汚れていなかった。
「シエスタ、しっかりしろ!リカバー」
まだ助かるんじゃないか? そう思い彼女を正気に戻すよう魔法をかける。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめはっ!ここは……あっ、ニューさん!」
正気に戻ったシエスタが、ニューを視線に入れる。
最初は嬉しそうであったが、直に顔を蒼白にする。
「ニューさん、逃げて下さい! 殺されちゃいます!」
「……ああ、解ってる」
もはや、何もかもが理解できた。
思えば、それは巧妙であった。
少なくとも沈みゆく船に居る事に、最後までニューは気付かなかった。
そして、鈍い衝撃で意識が消える。現実と別れを告げる。
「ニューさん!」
現実に居るミリーナは、地面に落ちたニューを直撃した石に目を移す。
そして、それはやって来た。
「……あら、こんな所に居るなんて駄目じゃない、ここは用が無い時以外は立ち入り禁止よ」
……逃げ遅れた、無意識に旅立った彼に事実を伝える声は無情であった。
……逃げ遅れた、無意識に旅立った彼に事実を伝える声は無情であった。
「……ミス・ヴァリエール……」
声の主はこの世界で最も慣れ親しんだ者であった。
ルイズは部屋の入口に居た。
そして、その脇には、燃える様な赤い髪と冷たい水の様な青い髪の少女達もいた。
「駄目よ、あなた達、ここは関係者以外は立ち入り禁止よ」
キュルケがここに似てはいけない事を促す。
「ミス・ヴァリエール、これは一体どういったことなんですか!なんで、三人がこんな目に!?」
ケティは残酷な殺人鬼を非難する様な悲鳴をあげる。
「あなた達、虐待か何か勘違いしていない? これは、使い魔に対する奉仕よ」
キュルケは事も無げに言う。
奉仕? この、何かに怯える事など、想像がつかないようなダブルゼータが?
二人には話が繋がらなかった。
しかし、ニューが直前に助けた少女はすべてを理解していた。
声の主はこの世界で最も慣れ親しんだ者であった。
ルイズは部屋の入口に居た。
そして、その脇には、燃える様な赤い髪と冷たい水の様な青い髪の少女達もいた。
「駄目よ、あなた達、ここは関係者以外は立ち入り禁止よ」
キュルケがここに似てはいけない事を促す。
「ミス・ヴァリエール、これは一体どういったことなんですか!なんで、三人がこんな目に!?」
ケティは残酷な殺人鬼を非難する様な悲鳴をあげる。
「あなた達、虐待か何か勘違いしていない? これは、使い魔に対する奉仕よ」
キュルケは事も無げに言う。
奉仕? この、何かに怯える事など、想像がつかないようなダブルゼータが?
二人には話が繋がらなかった。
しかし、ニューが直前に助けた少女はすべてを理解していた。
「聞かれていたんですよ、あの時から始まっていたんです」
説明と言うよりも、独白、まるで罪を懺悔する様に彼女の声が室内に響く。
それでも、二人には話がいまだ伝わらない。
「話が伝わりません、一体どういう事なんですか?」
それを聞いてルイズは笑顔を浮かべる。それは、見た事も無いほど綺麗な笑顔だった。
楽しいと言う感情も、何かを取りつく為に浮かべる物でも無い。
世界の醜悪すらも全てを祝福するかのような、優しい微笑みで有った。
「私ね、ニューが食べて美味しいって言ってくれた時、凄く嬉しかったの。
しかも、よっぽど嬉しかったのか三人とシエスタで宴を開く位だから。
そしたら、宴の中でニューが言ったの。
『ルイズの子守りを世話するくらいなら、騎士の従者の方が十倍は楽だね』って。
私は最初怒ろうと思ったんだけど、でもね、私思う事があったの。
多分罰を与えたとしてもニューは自分の事を認めてくれないだろうって。
だからね、私、ニューにちゃんと私の事を主と認めてもらいたくて、お菓子を作る事にしたの。
シエスタも喜んで協力してくれたわ、だって、私のお菓子をちゃんと食べてくれたんだもの」
ルイズが長い独白を終える。
このプライドの高い少女が怒り以外でここまで素直な感情を出す事など考えられなかったが、二人にはどうでも良かった。
ルイズの独白などよりも、お菓子と言う単語にシエスタが拒絶の表情を浮かべた事が全てを伝えてくれる。
今度はキュルケが前に出る。
女の艶を凝縮したこの美女が、慈母の様な暖かすら感じる。
「私もダブルゼータが使い魔になってから、殿方と交わる機会が少なくなってしまったわ。
彼といるとムードもあったもんじゃないし、それに、並の男に対して興味が無くなるの。
ダブルゼータってどんな男よりも面白いから、一緒に居ると男が嫉妬して寄り付かなくなるのよ」
学院の女王として恋愛事情を一手に引き受けたキュルケの事は、ミリーナも知っていた。
しかし、最近ではケティが恋愛事情の的になり、キュルケの事を時代が終わった等と揶揄する輩がいるのも解っていた。
その原因の一つが、彼女の艶を掻き消すかのような存在のダブルゼータであった。
キュルケは続ける。
「でもね、気が付いたの。
ダブルゼータって意外にさびしがり屋だから、私の事を取られたくないかも知れないんだって。
そう思うと愛おしくて、私も何かしてあげなくちゃって思って、知り合いに頼んで特別な接待をして貰ったの」
「やめてくれ、胸毛は嫌、胸毛は嫌、何で分身しているの? 従妹?
いや、質量を持った残像なんてもっと嫌!
椅子にくくりつけないで、膝の上に座らないで。嫌、頬に当たる。
髭が、髭が当た……」
接待と言う単語に何やら、特殊な女性の言葉がダブルゼータの口から洩れる。
「『魅惑の妖精亭』って言うの。そこの店長のマドモアゼル・スカロンとマドモアゼル・マカロンに特別にお願いして接待して貰ったの。『もかもか、もじゃもじゃコース』って言うの」
キュルケの独白も終わり、今度はタバサが出る。
「ムラサキヨモギはおいしい、もっと知ってもらいたい」
先の二人と違い簡潔な言葉と共に、2本の瓶とグラスを取り出す。
「ハシバミ草も好き、食わず嫌いは駄目」
そう言って、タバサが二人の前に瓶の中身を注ぐ。
飲みたくは無かったが、話を円滑に進める上で、二人はそれを飲み干す。
喉に苦みを凝縮された様な味が気管を通り抜ける。
吐き出したら、何が起きるか分からない。
涙すら出す事も許されないような気がして、お互いが心の中で励まし合う。
「美味しさを解って貰う為に、ゼータの好きなお酒にしてみた」
その言葉を聞いて、グラスを見る。
匂いを嗅ぐと確かに、ハシバミ草の匂いがした。
「さて、私達これからニューに対して奉仕をしなくちゃいけないの。
後、シエスタにも日頃のお礼をしようとおもってるの」
そう言って、ルイズは手のトレイを開ける。
中にはシンプルなタルトが乗せられている。
ただ、二人は食べてみたいとは思わなかった。
「悪いけど、あなた達は出て行ってくれる? それとも、ニューの分も欲しいの?」
気が付いたら、ミリーナの部屋に居た。
駆け出した。
ただ、それすらも覚えていない位走ったのだろう。
ケティを見る。
彼女の顔も自分と同じ顔をしているのだろう。
その日、昔みたいに二人は一緒のベッドで寝た。
家庭教師に初恋した話も、将来の事を語り合った思い出も、今日の出来事で消えうせるだろう。
地下の音は聞こえない。
ニューとシエスタの声が聞こえるような気がした。
二人は忘れる事にした。
説明と言うよりも、独白、まるで罪を懺悔する様に彼女の声が室内に響く。
それでも、二人には話がいまだ伝わらない。
「話が伝わりません、一体どういう事なんですか?」
それを聞いてルイズは笑顔を浮かべる。それは、見た事も無いほど綺麗な笑顔だった。
楽しいと言う感情も、何かを取りつく為に浮かべる物でも無い。
世界の醜悪すらも全てを祝福するかのような、優しい微笑みで有った。
「私ね、ニューが食べて美味しいって言ってくれた時、凄く嬉しかったの。
しかも、よっぽど嬉しかったのか三人とシエスタで宴を開く位だから。
そしたら、宴の中でニューが言ったの。
『ルイズの子守りを世話するくらいなら、騎士の従者の方が十倍は楽だね』って。
私は最初怒ろうと思ったんだけど、でもね、私思う事があったの。
多分罰を与えたとしてもニューは自分の事を認めてくれないだろうって。
だからね、私、ニューにちゃんと私の事を主と認めてもらいたくて、お菓子を作る事にしたの。
シエスタも喜んで協力してくれたわ、だって、私のお菓子をちゃんと食べてくれたんだもの」
ルイズが長い独白を終える。
このプライドの高い少女が怒り以外でここまで素直な感情を出す事など考えられなかったが、二人にはどうでも良かった。
ルイズの独白などよりも、お菓子と言う単語にシエスタが拒絶の表情を浮かべた事が全てを伝えてくれる。
今度はキュルケが前に出る。
女の艶を凝縮したこの美女が、慈母の様な暖かすら感じる。
「私もダブルゼータが使い魔になってから、殿方と交わる機会が少なくなってしまったわ。
彼といるとムードもあったもんじゃないし、それに、並の男に対して興味が無くなるの。
ダブルゼータってどんな男よりも面白いから、一緒に居ると男が嫉妬して寄り付かなくなるのよ」
学院の女王として恋愛事情を一手に引き受けたキュルケの事は、ミリーナも知っていた。
しかし、最近ではケティが恋愛事情の的になり、キュルケの事を時代が終わった等と揶揄する輩がいるのも解っていた。
その原因の一つが、彼女の艶を掻き消すかのような存在のダブルゼータであった。
キュルケは続ける。
「でもね、気が付いたの。
ダブルゼータって意外にさびしがり屋だから、私の事を取られたくないかも知れないんだって。
そう思うと愛おしくて、私も何かしてあげなくちゃって思って、知り合いに頼んで特別な接待をして貰ったの」
「やめてくれ、胸毛は嫌、胸毛は嫌、何で分身しているの? 従妹?
いや、質量を持った残像なんてもっと嫌!
椅子にくくりつけないで、膝の上に座らないで。嫌、頬に当たる。
髭が、髭が当た……」
接待と言う単語に何やら、特殊な女性の言葉がダブルゼータの口から洩れる。
「『魅惑の妖精亭』って言うの。そこの店長のマドモアゼル・スカロンとマドモアゼル・マカロンに特別にお願いして接待して貰ったの。『もかもか、もじゃもじゃコース』って言うの」
キュルケの独白も終わり、今度はタバサが出る。
「ムラサキヨモギはおいしい、もっと知ってもらいたい」
先の二人と違い簡潔な言葉と共に、2本の瓶とグラスを取り出す。
「ハシバミ草も好き、食わず嫌いは駄目」
そう言って、タバサが二人の前に瓶の中身を注ぐ。
飲みたくは無かったが、話を円滑に進める上で、二人はそれを飲み干す。
喉に苦みを凝縮された様な味が気管を通り抜ける。
吐き出したら、何が起きるか分からない。
涙すら出す事も許されないような気がして、お互いが心の中で励まし合う。
「美味しさを解って貰う為に、ゼータの好きなお酒にしてみた」
その言葉を聞いて、グラスを見る。
匂いを嗅ぐと確かに、ハシバミ草の匂いがした。
「さて、私達これからニューに対して奉仕をしなくちゃいけないの。
後、シエスタにも日頃のお礼をしようとおもってるの」
そう言って、ルイズは手のトレイを開ける。
中にはシンプルなタルトが乗せられている。
ただ、二人は食べてみたいとは思わなかった。
「悪いけど、あなた達は出て行ってくれる? それとも、ニューの分も欲しいの?」
気が付いたら、ミリーナの部屋に居た。
駆け出した。
ただ、それすらも覚えていない位走ったのだろう。
ケティを見る。
彼女の顔も自分と同じ顔をしているのだろう。
その日、昔みたいに二人は一緒のベッドで寝た。
家庭教師に初恋した話も、将来の事を語り合った思い出も、今日の出来事で消えうせるだろう。
地下の音は聞こえない。
ニューとシエスタの声が聞こえるような気がした。
二人は忘れる事にした。
数日後、何やら誓約書らしき物を首に掲げたニュー達を見かけたが、何かやらかしたのだろうか?
原因を自分達は知っているような気がする。ケティに言ったが、彼女は知らないと笑っていた。
たぶん自分の気のせいだろう、ケーキを見て何故か恐怖感を覚えたが、日常は変わらない。
原因を自分達は知っているような気がする。ケティに言ったが、彼女は知らないと笑っていた。
たぶん自分の気のせいだろう、ケーキを見て何故か恐怖感を覚えたが、日常は変わらない。
また数日後、今度は金髪の気障そうな少年が鎖をつけて巻き髪の少女に引っ張られている。
ケティはその少年につけられたキスマークをどこかで見たような気がした。
ケティはその少年につけられたキスマークをどこかで見たような気がした。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは後世の子供達から、絶大な知名度を誇る。
偉大なるメイジ「虚無のルイズ」が異世界の使い魔に自身の手作りケーキを食べさせて、
絶対の忠誠を誓わせた事から、「感謝の日」はこう呼ばれている。
偉大なるメイジ「虚無のルイズ」が異世界の使い魔に自身の手作りケーキを食べさせて、
絶対の忠誠を誓わせた事から、「感謝の日」はこう呼ばれている。
「制裁の日」と……
日頃悪い事をしてきた子供は、感謝の日にお仕置きケーキを食べさせられる。
ルイズの名前は、ハルケギニアの子供達にとって恐怖の対象であった。
ルイズの名前は、ハルケギニアの子供達にとって恐怖の対象であった。
「仲間が欲しいのなら、やる事が違うだろ!」
キャプテンガンダムVS完全悪大将軍 ジョセフ
今、決着の時!
キャプテンガンダムVS完全悪大将軍 ジョセフ
今、決着の時!
Extra