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虚無の闇-17


会議は踊る、されど進まず。いうなれば今回は阿波踊りだろうか。
舞台となった宝物庫では教師たちが口々に責任の無さを論い、自らの怠惰を棚に上げていた。もうお昼だと言うのに、何の策も無い。
本来ならば一刻も早く王都へと然るべき連絡を入れ、実力者を募って捜索隊を立ち上げねばならない所だったが、彼らは未だに踊っていた。

「それより、衛兵はいったい何をしていたんだね?」

「衛兵などあてにならん! 所詮は平民ではないか! 当直の貴族は誰だったんだね!」

この調子である。今は議論よりもまず行動が求められる時だというのに、彼らは自分の給料や立場が悪くなる事ばかり気にしている。
これが彼らが見下しているゲルマニア辺りなら、朝食が始まる前に捜索隊が出ていてもおかしくない。無条件に与えられる特権に慣れきっていたトリステインの貴族は、もはや救い難い所まで呆けていた。
やがてたまたま当直であったシュヴルーズが槍玉に挙げられた。家を建てたばかりだと床に崩れ落ちた彼女をさらに攻めようと、教師たちは徒党を組んで攻める。それを見かねたオスマンが彼らをさとした。

「では、現場を見ていたミス・ロングビルに状況を聞こうではないか」

教師たちが恥じ入り、ようやく無意味な責任の押し付け合いに終止符が打たれた所で、オスマンはロングビルに前へ出るようにと促した。

「はい。私は最初、あの決闘騒ぎがあったヴェストリ広場の辺りに居ました。夜の見回りをしていたのです。
ふと背後に巨大な気配を感じ振り返ると、巨大なゴーレムが立ち上がり、壁を攻撃しようを腕を振りかぶる所だったのです。
踏み潰されそうになった私は、慌てて学院の中へと非難しました。陰に隠れながら振り返ると、ゴーレムが宝物庫の壁を破壊しておりました。
その後は一刻も早く被害を確認しようと思い、宝物庫の扉の前で立ち往生していたところへ、駆けつけたミスた・コルベールと共に……」

ロングビルは教師たちを遠巻きに眺めているコルベールへと視線を送った。彼も偽の証言を聞きながら何度かうなずいており、フーケは自らがでっち上げた嘘がばれていない事を確信する。

「ここからは私の推測も含みますが、既にフーケは国外へ逃亡していると思われます。
理由としてすが、先ほど学院の外で、フーケと思われる人物の所持品と思われるマントを発見しております。
これではどのような目撃証言を集めるべきかも定かではありませんし、あの時間であの天気です。出歩いている人間など、まず居ません。
足跡を追うにしても、トライアングルメイジともなればフライを使用して一直線に国境へと向かって飛び続ける事も可能なはずですし……。
空を飛ぶ姿を目撃していた領民が居たとして、此方がその手がかりを掴むには、大量の人員による大規模な捜索が必要です。
……残念ながら、既に我々の手が届く範囲に留まっている可能性は、まったくのゼロと言っていいでしょう」

何人かの教師がロングビルの言葉に反論しようとしたが、誰もが言葉にする事は出来ずに呻くばかりであった。
教師たちは誰もが、自分の首が危うくならないかと不安げな表情をしている。せめて今出来る事を、と前向きに考えるメイジは誰も居ない。
彼らの頭にあるのは、ただ己の保身のみ。それを的確に見抜いたフーケは、計画を最終段階へと進めた。

「もし本格的な捜索隊を出すのであれば、王宮に『我々の警備が足らず宝物庫を破られました』と打ち明けて協力を仰ぐ必要があります。
それでフーケを捕らえられればまだしも、取り逃がすような事があれば、我々の首も無事では済まないかも知れません……」

殊更声を暗くして言い、さらに教師たちの不安を煽る。長らく微温湯に浸りきっていた彼らは、それだけで泡を食ったようにうろたえた。
学院長も渋面をしており、この事態を乗り切るようなアイディアは浮かんでいないようだ。フーケは作戦の成功を確信する。

「そ、そなったら、我々はどうなるんだ?!」

「く、首だって! 冗談じゃあないぞ……」

そう言って、口々に絶望を滲ませる教師たち。破壊の魔法書の奪還という当初の建前は完全に消え去っていた。
彼らも一応は領地を持つ貴族とはいえ、その全てが裕福ではないのだ。十分な収入を領地から得られる貴族はかなり限られており、教職という収入源を失っても死にはしないが、平民と同じ生活レベルまで落ち込む可能性があった。
傲慢なトリステイン貴族だからこそ、不祥事を起こして解雇された教師を雇い入れる所などほぼ無い。彼らの未来は限りなく暗かった。

「……差し出がましい行為かもしれませんが、この窮地を脱する提案が、私に一つあります……」

この場を完全に掌握する事に成功したロングビルは、自分に期待の視線が集まるのを感じながら口を開いた。






会議から一刻後。ミス・ロングビルは積み上げられた石材の山に腰を下ろし、幸せが逃げるという迷信に反逆せんとばかりに長々とため息を吐いた。快晴の青空を見上げ、一つだけ浮かんでいる雲を目で追いかける。
視界を横切っていく鳥へと意識が移り、気ままに飛ぶ姿に憧れを抱いた。あの鳥のように飛んでいけたら、どれほど気が楽であろうか。

今回の作戦に問題あったわけではない。フーケは怪しまれるどころか有能な秘書という立場を更に磐石な物にし、報告すべき事実を隠蔽したという学院の弱みまで握ることが出来た。
盗み出した破壊の魔法書も既に手元にはなく、仲介人を通してその筋の相手に売却済みである。なんでも召喚されし書物を好んで買いあさる貴族が客に居るらしく、平民が聞けば目玉を飛び出させるような高額で買い取ってくれたらしい。
まあ高すぎるという事はない。簡単に偽造が可能な、その気になれば紙とペンとインクさえあれば作れてしまう"召喚されし書物"において、最も重要なのは出土などの信憑性なのだから当然だ。オールド・オスマン秘蔵のお宝とくれば、その価値も鰻登りである。
彼は似たような趣味を持つ貴族相手に、さぞ新しく手に入れたお宝を自慢する事だろう。フーケには不可解な魔方陣ばかりが並んでいる内容を一文字も理解できなかったが、コレクターはああいうのが好きらしかった。

今回の仕事で得た金貨だけでも一財産で、贅沢さえしなければ人生の大半を過ごせる。大所帯のフーケには無理だが、故郷に居る家族達が飢えに苦しむことなく冬を越せる事を思えば素直にうれしい。
育ち盛りの孤児達は手がかかるし、大食漢なのだ。飽食の貴族から一転して飢えを知ったフーケだからこそ、大切な家族の食べるべき時期に雑草を食ませるような事態は許したくなかった。
衣食足りて礼節を知るという彦があるように、例えテファのような聖人君子だろうと、飢えて苦しめば人間は荒んでしまう。だたでさえテファはハーフエルフであり、人間の巣の中で暮らすには苦労が多いのだから。

「はぁ……。帰りたいねえ」

周囲に人が居ないのを確認し、心中に渦巻く思いを口に出す。便りでは元気だと言っていたが、やはり顔が見れないのは辛い。
要注意人物だと思っていた自称ガンダールヴも目立った悪さはしていないようだし、順調に新しい生活へ馴染んでいっている様だ。
魔法は使えないらしいが、剣の腕は中々で(使っているのは薪割り用の斧だが)傭兵崩れのならず者どもを撃退するのに一役買っているらしい。極端に争い事を嫌うテファに頼りになる護衛がついたのは有難い限りだった。
白の国では泥沼化した革命によって首都には難民が流れ込み、目の届かない地方は略奪の嵐が吹き荒れていると聞き及んでいた。アルビオンの治安は目も当てられないレベルにまで下落しており、それはウェストウッドも例外ではない。
荒くれ者が砂糖に群がるアリのように戦争を求めて渡って来ているというのに、治安を守るべき衛兵も、民を守る貴族も居ない。お山の大将を決める下らない馬鹿騒ぎで苦しむのは、いつだって平民たちなのだ。フーケは身勝手な貴族どもに憎悪を燃やした。

懐から手紙を取り出し、もう一度読み返してから丁寧に折りたたむ。
遠くに見える草原に寝転がって昼寝と洒落込みたいところだが、現実逃避はここまでにして、いい加減にこの仕事を片付けねば。

「まったくさぁ……。私は、大盗賊フーケだよ……?! だってのに、こんなのはねぇ……」

しかしながらやる気など欠片も沸かず、フーケは盛大に顔を顰めて愚痴た。現在土系統の教師たちは当直をサボっていたのを口実に、朝から大穴が開いた宝物庫の補修作業に駆り出されている。秘書のロングビルもその数に入っていた。
ほかの教師と違ってロングビルには特別手当は出るし、辞める時の事も考えて今のうちに恩を売るのは悪くないのだが、どうしたって活力は沸いてこない。
自分で壊した宝物庫の壁を自ら修理するなど、盗賊ではなくただの詐欺師ではないか。チンピラか小悪党でもあるまいし、本当に馬鹿らしいと思う。辞めたい。作業だけでなく、学院も一緒に辞めたい。そしてテファの顔が見たい。
こんな下らない作業は、それこそ普段偉ぶっている貴族にケツを拭かせればよいのだ。

「まあ、仕方がないけどねえ……」

有能な秘書のミス・ロングビルとしては、自ら事件の隠蔽を進言したこともあって、その手伝いを嫌だとは言えなかった。
既に王宮へと被害を過小申告する使いを出してしまっているし、そうでなくても宝物庫をおっぴろげにしておくのは不味すぎる。例えばトチ狂った馬鹿ガキが忍び込もうものなら、何ヶ月もかけて盗みを計画した自分が馬鹿らしいではないか。
しかもその書類処理は、秘書であるロングビルがやることになるのだ。フーケとしてもロングビルとしても、二重にやるせない。

そんな天を仰ぎたくなるような事態を引き起こさないためにも、後片付けはきちんと行わなければ。
これも仕事の内だと頭を切り替えて、今にも崩れ落ちそうだった魔法に活を入れなおした。

ぞろぞろとやってきたゴーレムの集団は、少しばかり機敏になった動きで足元に転がっている石材を抱えて運んでいく。この石を作ったのはシュヴルーズであり、それを運ぶのが自分の役目だった。
本気を出せばとっくに終わっている仕事ではあるが、お偉い貴族様の仕事はカタツムリのように遅いので、先ほどまでのように自己嫌悪に陥れるぐらい暇があった。いっそ下らない考えが浮かばないほど忙しければいいのに。

今月中にはここを辞めて、テファと悪ガキどもの顔を眺めに行こう。

決意も新たにそう言い聞かせると、フーケは椅子代わりにしていた石山を切り崩しにかかった。





タバサはフェニアのライブラリーの一角に根城を築いた。本来教員専用であるマホガニーの机を埋め尽くし、高々と本の山を聳えさせる。
今まで喉から手が出たとしても閲覧が許されなかった書物が、今ならばいくらでも読み放題。タバサは己を掻き立てる物に逆らえず、寝食を惜しんで探索を続けていた。血走った目で項を追い、貪る様に知識を蓄えていく。
ルイズは母を救う手段を見つけたと断言したし、それを信用していないタバサではない。ただ自らに出来る事があるというのに、それをせず無作為に時を過ごす事を許したくなかっただけだ。
数時間かけて毒や呪いの類をを無数に掲載していた本を読了し、タバサは色白を通り越して蒼白になった手で次の本に手を伸ばす。

「……っ!」

だが本の重さに耐え切れずに取り落としかけ、タバサはたった93時間寝ていないだけで睡眠を欲している体に臍を噛んだ。
酷使され、意思とは無関係に震え始めた腕をテーブルに叩きつける。脇に置いてある冷め切った紅茶を流し込むと、自らの顔を強く張った。
まだお母様を治す手段は見つかっていない。だから止まれない。私がお母様の笑顔を取り戻すのだ。絶対に取り戻すのだ。
悲鳴を上げる体を無視して新たな一冊を開いたが、集中を切らしたために強烈な吐き気と頭痛がタバサを襲う。視界が激しく歪み、荒い呼吸を繰り返した。
目の下にはどんな化粧でも隠せないほど巨大なクマが出来ており、頬からは肉がこそげ落ちている。限界などとっくに行き過ぎていたが、これ以上は肉体的にも精神的にも危険になるレベルにきていた。

「……今日は、ここまで」

タバサは自らの舌を強く噛み締め、体から逃げ出そうとする意識を無理やりに引き止める。世界はラグナロクを迎えたように揺れていた。
今すぐにベッドへ行きたいが、さんざ散らかした机を放置しては、せっかく得た許可にケチをつけられるかもしれない。ルイズに迷惑をかけないためにも、持ってきた本を片付ける必要があった。
タバサは自らの杖を握り締め、それに縋るようにして体を持ち上げる。

「お手伝いいたします。ミス・タバサ」

倒れそうになりながらも重い参考書を掻き集めていると、あの黒髪のメイドが体を支えてくれた。タバサは一瞬だけ体を硬直させたが、すぐにシエスタである事に気付き、緊張を緩める。
今までにも紅茶やパンなど、タバサに必要な物をさりげなく持ってきてくれたのだ。彼女の手が異様に冷たかったため、思わず過剰反応してしまった。
このシエスタというメイドはエルザの食料として利用されているようだが、それも複数ある原因の一つかもしれない。

「……お願い。ありがとう」

タバサには彼女が未だに見た目通りの存在であるかは分からなかったが、それを理由に拒否する気もなかった。民の少女にまで気を回している暇などないのだ。タバサには確固たる目的があり、そのためには多少の犠牲になど構っていられない。
シエスタの身に起きた事は不幸だが、ルイズがやった事だ。文句をつける気は無かった。タバサもその恩恵を受けている。とっくに共犯だ。

「では、片付けておきますので」

飛べない平民がどうやって30メイルの本棚へと本を返却するのか。返答を返した後でその事実に行き当たったタバサは、手の届かない場所から取った本は自分で戻すと言い出そうとして、20冊近い本の山を片手で運ぶ少女を見て口を閉ざした。
ルイズが行っている怪しげな人体実験は着実に効果を上げているようだ。タバサは母が帰ってくる日も近いと知り、嬉しくなった。
もうすぐお母様が帰ってくる。タバサではなくシャルロットと呼んでくれる。そうしたら憎いあの男を切り刻んでやるのだ。
生きたまま首をノコギリで時間をかけて切り取り、厳重に固定化をかけさせて、リュティスの大通りに晒してやる。今まで私が味わってきた苦痛の百分の一でも味わうがいい。

そのためにも、私は強くならなくては。ジョゼフを殺したとしても、その取り巻きが私の命を狙うだろう。お母様を狙うかもしれなかった。

もし、お母様が傷つくような事があれば……。

タバサは溶岩のように燃え上がる憎悪を抱え、自らの杖を締め上げた。
力を得るために人道から外れようと構わない。きっとお母様は受け入れてくださる。だからこそルイズから離れてはいけない。彼女は最後の希望だ。
王宮でも力を貸してくれる貴族は今までも何人か居たが、今までずっと彼らの心配をして協力を得ようとはしなかった。今思えばほとほと愚かな事である。使えるモノは者であっても物であっても使えばいいのだ。彼らを犠牲にしてお母様が戻ってくるならば。
屍の山を築こうと構うものか。私は今までずっと虐げられてきた。今こそ、今こそ反旗を翻す時である。

タバサは鏡を見れば本人さえ驚くような酷薄な笑みを浮かべた。


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