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超神ネイガーVS閃光のワルド 「遠い風の中で豪石!」前編

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アキタ・ケンの目の前で、昨日出会ったばかりの、しかし、確かな親しみと敬意を感じていた相手が刺し貫かれた。
 彼――ウェールズ・テューダーの国を思う意思が、愛した女を残して逝く意識が、驚愕に見開かれた瞳という奈落に流れ落ちて行く。
魔法衛士隊の隊長にしてルイズの婚約者、そして今や皇太子殺害犯であるワルドが「エア・ニードル」の魔法で凶器と化した杖を引き抜くと、ウェールズの胸から鮮血が迸った。木の葉が舞うように、彼の身体がゆっくりと傾いでいく。
冷たい礼拝堂の白い石畳が熱い血で真っ赤に染まっていった。その血溜まりの中に、ウェールズは倒れ伏した。
ルイズが甲高い悲鳴を上げた。

「き、貴様……『レコン・キスタ』……!」

 震えるウェールズの手が、何かを求めるように前へと伸びた。伸ばした先にあるのは彼の杖だ。
 杖まで後三十センチ、二十センチ、十センチ。伸ばした指先が杖に届き、だが、それが限界だった。
ごぼ、と喉が血で溢れる音。止まらない。毒々しい程の赤色が、彼の無念と後悔の言葉の代わりのように流れ出て止まらなかった。
亡国の皇子ウェールズ・テューダーの、それが最期だった。
 獅子の如くケンが駆け出した。礼拝堂の入り口からワルドのいる地点まで一気に駆け抜けると、そのままの勢いで丸太のように太い右腕を繰り出した。喰らえば骨が砕けるような、ハンマーの如き一撃。
しかし、ワルドの顔面を狙って放たれた一撃は彼の帽子を跳ね飛ばしただけに止まった。
身を屈めて紙一重でケンの剛腕をかわしたワルドは、その二つ名「閃光」に相応しい早さで突きを放つ。
ウェールズを貫いた杖がケンの脇腹を浅く抉った。追撃を避け、ケンがバックステップで距離を取る。ワルドは踏み込んで来ない。
この距離なら突きは届かない。

 その時、ケンはワルドの口元が嘲りだけではない理由で歪むのを見た。

 空気の鎚がケンを強かに打ち据えた。ケンの大柄な身体が軽々と吹っ飛んだ。
 先の攻防の間に、ワルドは既に「エア・ハンマー」の詠唱を終えていたのだ。魔法衛士大隊兵は、只のメイジ兵士とは違う。
杖を剣の如く使い、詠唱を素早く行い、如何なる間合いからでも攻撃が可能なのだ。

「メイジを舐めるな。使い魔風情が」

 杖を振って血を払い、床に落ちた帽子を被り直してワルドが吐き捨てた。

「……なしてだ、子爵?」

 静かな、だが、激しい怒りを声に滲ませながらケンがゆらりと立ち上がった。
 蒸気の如く立ち昇る逆鱗の気配は、常人であればそれにあてられただけでその場にへたり込んでしまうほどに苛烈であった。

「月日と、数奇な運命の巡り合わせだ」

 拳を震わせる大男に対し、ワルドは冷淡に言い放った。

「そんなことを聞いてるんじゃねえ! なしてだ! なしてオラ達を、ルイズを裏切った!?」

 遂にケンが激昂した。ワルドは能面のような表情でそれを見据えている。ケンの心に怒り以外のものが混じり始めたのはこの時だった。
 ケンは「ゼロ」と蔑まされ馬鹿にされていたルイズの姿を知っている。
このハルケギニアにおいて、「魔法が使えない貴族」が周囲からどういう扱いを受けるのかを知っている。
彼女が傍から見れば無茶で無謀な意地を張るのも、常に貴族足らんと人一倍気張ってるからだ。
今回の密命などその最たるものではないか。そのルイズが、ワルドと再会した時にはあれ程の喜びを見せたのだ。
幼い彼女にとっての彼がどういう存在だったのか、一目でわかるくらいに。
 それは恋とも呼べないような淡い想いだったのかもしれない。
 大人になって思い返した時に気恥ずかしくなって頬を掻きたくなるような、こそばゆい憧れの気持ちだったのかもしれない。
だが、ケンが知る今のルイズ――意地っ張りで癇癪持ちではあるけれど、誰よりも努力家で誇り高い今の彼女を作り上げた一因が憧れの男性との美しい思い出であることに変わりはないだろう。どうして、それを汚すような真似をする? 
自分自身ではなく、あるかどうかもわからない「才能」や「特別な力」を愛されることがルイズにどれだけ辛い思いをさせるか、何故考えない?
ルイズの口から語られた彼は、優しくて誠実な貴族の鑑のような人物だったというのに。
握りしめたケンの拳。爪が皮を破り、拳の中で血がじんわりと滲んだ。

「聖地を」

 と、ワルドは言い掛けて、すぐに口を閉じた。時間にしたら数秒、されどこの場にいる者達にとっては随分と長く感じられる数秒の沈黙を保った後、ワルドは再び口を開いた。

「祖国を、愛しているからだ」
「……わがらねえ。おめはレコン・キスタなんだろ? レコン・キスタがアルビオンさ攻め落としたら次に狙われるのはトリステインだ。国を愛してるっつうなら、なしてその国を潰そうとする奴等の仲間なんぞやってんだ?」
「国を喰い潰す害虫のような輩が、あの国には吐いて捨てる程いるからだ!」

 心の奥底に厳重に蓋をして閉じ込めていた想いを叩き付けるように、ワルドが叫んだ。
 それは、ケンとルイズが初めて見る彼の素顔だったのかもしれない。
優しく紳士然としたワルド。皇太子を殺害した悪鬼ワルド。両極端な彼の二つの顔。
前者がルイズ達に取り入り騙す為の仮面であり、後者が彼の真の姿であると断ずるのは簡単だ。
また、話だけ聞けば百人が百人そう判断するであろう。
ワルドが皇太子を殺害した重罪人であり、トリステインの裏切り者であることに間違いは無いのだから。

「私にも国を信じていた頃があった。命とあらば死地に赴くことも厭わなかった。王家の為、国の為。ひたすらにそう信じて戦地を巡った。地位。名声。領地……。全てが後から付いて来たよ」

 だが、そうだとしても。ケンにはワルドが今にも泣き出しそうな顔をしているように見えた。
 我が身を自嘲するその姿がとても小さく弱々しく見えた。
彼はずっと苦しんでいたのではないか。誰にも言えず、言ったところで誰にも理解などされず、それ故に一人で抱え込むしかない苦しみを抱え続けてきたのではないか。そんな風に思った。

「だがな、国家の中心に近付けば近付くほど、私はトリステインという国の病巣を目の当たりにすることになったんだ。旧態にしがみつき、利権をむさぼり、厄介事は誰かがどうにかしてくれるものと考えている愚かな貴族達。実質上のトリステイン王家家長という立場にありながら、王位に就くことはおろか後継者に範を示すこともせず引き籠ったままのマリアンヌ太后陛下。その背中を見て育ったアンリエッタ王女は王家を背負う覚悟も能力も無い小娘だ。こんな、国を喰い潰す害虫どもは切り捨てる他ないだろう?」
「もぞごぐでねえ! アネコムシば退治せんと田んぼごと焼き払うようなもんでねえが!」
「貴様は知らないからそう言えるのだ。重税に喘ぐ民草の声を肴にワイングラスを傾ける領主の横顔の醜さを。忠信から苦言を呈した臣下の首が飛ばされ、他人の手柄を己がものにすることだけに腐心する唾棄すべき輩が取り立てられる宮廷の風潮を」

 ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドはトリステインの裏切り者だ。それに間違いは無い。
だが、彼もまた信じたものに、故郷に裏切られ続けてきたのだ。
本人の言葉通り、彼はきっと信じていた。故郷は腐ってなどいないと。故郷の行く末には明るい未来が待っていると。
アキタ・ケンがそう信じて戦い続けてきたように。

「――ホジが欲しいか。ワルド」

 ケンは右腕を真っ直ぐ身体の正面に伸ばした。開いた掌に意識を集中し、掌中に神の石「豪石玉」を召喚する。
 ホジとは本地。人間の本性、平常心、正気のことだ。それらを失ったものが即ちホジナシである。
ワルドは敢えてホジナシとなったのだ。故郷を愛しているから。それを汚すものが許せないから。
彼がこの選択をとるまでどれ程の苦悩と煩悶を重ねたのかはわからない。だが、その心だけはケンにも痛いほど理解出来た。
 濡れ立つような圧倒的な存在感を放つ豪石玉を握り込めば、どこまでも滑らかでひんやりとした感触がある。
 その冷たさに同調するように、ケンの思考が澄み渡っていく。そう、自分がやることは一つだ。秋田だろうと。ハルケギニアだろうと。

「ホジねえ貴族達を切り捨てるっつったな。ならオラは、そういうおめの『ホジナシ』そのものを斬る!」

 握り締めた豪石玉が急に熱を帯びた。ケンの全身に強い力が流れ込む。閉じたまぶたの裏に舞い散る火の粉のイメージが浮かんだ。

「豪石!」

 ケンの身体が眩く光った。礼拝堂の隅まで照らしだすようなその激しい光が止んだ時、そこにいたのは一人の超神であった。
 角と牙をあしらった赤い仮面。出刃包丁型の肩当て。怪物の顔のようにも見える胸当て。腰に巻かれたベルト。
 全身を包む真っ黒なボディースーツ。秋田の英雄、超神ネイガーがハルケギニアに降臨した。

「やってみるがいいガンダールヴ! 我が名は『閃光』のワルド! 四系統最強の風の使い手! 風の魔法が最強たる所以を教えてやろう!」

 応じてワルドが吼えた。杖を構え、呪文の詠唱を開始する。

「ユビキタス・デル・ウィンデ……」  

 ネイガーが知る風の魔法は四つだ。杖を中心に真空の切っ先を作る近接戦闘魔法「エア・ニードル」。空気の鎚で敵を打ち据える「エア・ハンマー」。暴風で敵を吹っ飛ばす「ウインド・ブレイク」。そして強力な電撃を放つ「ライトニング・クラウド」。
だが、今ワルドが唱えている呪文はそのどれでも無かった。どんな魔法が来るのかわからない。
警戒心から踏み込むのを止めたネイガーの前で、魔力を帯びた風が巻き上がった。

「!」

 その風が止んだ次の瞬間、そこに現れた者達の姿を見て流石のネイガーも驚きを隠せなかった。
 ワルドが四人いる。姿形寸分違わぬ四人のワルドが、幻とは思えない確かな存在感を持ってネイガーの前に並び立っていたのだ。

「風のユビキタス、遍在する風。風の吹くところ、何処と無く彷徨い現れ、その距離は意志の力に比例する!」
「分身の術ってやつか」
「ただの分身ではない。 一人一人が意思と力を持った遍在だ。命に従うしか能の無い木偶人形とは訳が違う!」

 中央のワルドがウインド・ブレイクを放った。ネイガーがこれを横っ飛びに避けて着地したところに、今度は左端のワルドがエア・カッターを撃ち放つ。これも後ろに飛んで避けた。礼拝堂の長椅子がずたずたに切り裂かれた。
息を吐く間も無く、杖を脇構えにした右端のワルドが地を這うような低姿勢で突進してくる。エア・ニードルで刺し貫く腹積もりか。

「キリタン・ソード!」

 空気を軽く揺らがせ、ネイガーが手の中に左右一対の白刃の剣「キリタンソード」を召喚。エア・ニードルの射程距離なら先程我が身で体験したばかりである。気を張って向き合えば見切るのは難しくない。ぎりぎりまで引き付けてかわし、キリタンソードを叩き込む算段を固めた。
後方のワルド達が再び魔法を唱え終えるまでにこのワルドを叩き伏せ、彼らの攻撃範囲から離脱することは十分に可能だろう。
まして、ガンダールヴのルーンがキリタンソードを武器として認識し、彼の身体能力を強化しているとあらば。
 突きがこちらに届くまで後三歩。まだ遠い。二歩。まだ早い。一歩。後その半分だけ引き付けかわそうとした時、ネイガーの背筋に冷たいものが走った。彼を突き動かしたのは理屈ではなく戦いの経験と本能だった。ワルドが持つ杖を素早く横から打ち据える。
突き出した杖の軌道を逸らされ、突っ込んできたワルドの身体がバランスを崩して揺らいだ。
はらり、とケデの一部が舞い落ちる。ネイガーが当初の考え通りに動いていればこれが彼の胸を貫いていただろう。
不可視の真空の槍、「エア・スピアー」が。

「ぜいッ!」

 空間に白い十文字の軌跡が走った。紫電の早さでキリタンソードを叩き込まれ、ワルドは背中から倒れ伏した。
 その身体が霞のように揺らぎ、消えて行く。ネイガーは危なかったと胸をなで下ろし掛けて――。

「(……一人足りねえ?)」

 ワルドは四人いた筈なのだ。だが、今ネイガーの目に映るのは遠距離から魔法で攻撃してきた二人のワルドのみ。
一人足りない。後の一人は何処へ消えたのだ?
 疑念がよぎると同時、今度は背後から殺気。振り返れば礼拝堂の入り口近く、その一人が今まさに呪文の詠唱を終えようとしていた。
 風の遍在は風が吹くところ自在に現れる。ワルドは一度遍在を消し、礼拝堂の入り口付近に再び呼び出すという芸当をやってのけていた。ネイガーは自らの肌が締まり周囲の空気が収縮していくような感覚を覚え、その魔法が何であるかを直感で悟った。ライトニング・クラウドだ。今から走って叩き伏せるには距離が開き過ぎている。かといって魔法を撃たせた後で避けるのは殆ど不可能だ。
 そんなら!
 ネイガーはキリタンソードを手放し、異空間へと仕舞い込んだ。それと入れ替わりに右手にハタハタ型の銃「ブリコガン」を呼び寄せる。
武器の送還、武器の召喚、そして照準。一連の動作を一瞬で終えると、ネイガーはブリコガンの引き金に指を掛け、引き、叫んだ。

「男鹿ブリコショット!」

 ブリコガンが吼えた。怒涛の勢いで吐き出された弾丸の全てが、吸い込まれるようにワルドに直撃。
 そして、爆発。その身体が吹っ飛び、先と同じように霞と消えて行った。

「後はおめだちだけだ。年貢の納め時って奴だど」

 ネイガーはブリコガンの銃口を残ったワルド達に差し向けた。ワルド達はそれを見て薄く笑う。

「何がおかしい?」
「いや、農民がそれを言うのかと思ってね。職業柄そういうのは貴様の方が得意なんじゃないか?」
「ふずくるでねえ。おめの遍在は後一体だけでねが」
「ああ。私は貴様の実力を過小評価していたようだな。これ程までとは思わなかった。流石はガンダールヴ。伝説に違わぬ鬼神の如き強さだ。こうも容易く私の遍在を倒してくれるとはね。……だが、貴様は一つ勘違いをしている」
「何だ?」
「遍在は後二体だ」

 ネイガーがその言葉の意味を理解する早く。空を裂いたと思われるほどの轟音と共に落ちてきた雷が、彼の全身を貫いた。
 ライトニング・クラウド。四体目の遍在。頭の中で二つの言葉がぐるぐると回る。腕の、足の感覚が遠くなっていく。
取り落としたブリコガンが地に落ちてガランという音を立て、転がった。その音が聞こえる方向が出鱈目だ。
電撃で全身を焼かれた筈なのに、身体はひたすらに寒さを訴えていた。全身に力が入らない。

 ――風の魔法が最強だっつうのはバシじゃねがっだっでごどが。

 そして。ネイガーは糸の切れた人形のように倒れ伏した。誰に詫びるわけでもないのに、背を丸めながら。
 倒れる直前仰ぎ見た先、礼拝堂を飾るシャンデリアの上に、ネイガーは四体目の遍在の姿を見た。
一切瞬きをしないように出来ており、それ故にまだ開いているそのまなぐで。
その映像を情報として理解するのにはしばらく時間が掛かったが。





「……やはり年貢を納めるのは農民の仕事だったな」

 帽子を目深に被り直しながらワルドが呟いた。
 突如、彼の傍にある長椅子が弾け飛び、辺りに細かい木片を散らせた。
ワルドは眉一つ動かさなかった。ゆっくりと振り向く。その視線の先にいるのは、かつて彼が求めた少女。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが、決意の表情で杖を握っていた。




わかりにくいと思われる方言の解説

  • もぞごぐでねえ→寝言をほざくな。
  • アネコムシ→カメムシ。
  • ケデ→藁で出来たナモミハギの装束。
  • ふずくる→ふざける。
  • バシでねえ→嘘じゃない。

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