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ゼロの赤ずきん-23


突然、宿の入口から炎が吹き出し、蜘蛛の子を散らすように傭兵たちが我先にと飛びだし、
そして逃げていった。キュルケの炎の魔法の仕業である。
その様子見て、呆れ顔をしたフーケが愚痴を漏らした。

「やれやれ、これだから金で動く連中は……ろくなのがいないね。
 あれだけの炎で何をさわいでんのかしら」

「それはどうでもいい……自分の役目はわかっているな?」

ゴーレムの肩に乗り、宿を見下ろすフーケの横には、仮面をつけた黒マントの貴族がいる。
言わずもがな、その人物とはワルドである。ただしそこにいる彼は『遍在』であり、本物ではない。

フーケは、ムッスリと不機嫌な表情で、
集る虫を払うかのように、煩わしそうにワルドの言葉に応えた。

「わかってるわよ、適当に足止めして、分散させる……でしょ?」
「わかってるならいい」

短く言葉を交わす二人、しかしそこにはただならぬ空気が漂っている。
これが終われば、フーケは晴れて自由の身。
しかし、ワルドにとっては気に入らない事実である。
元々、自分が属する組織ために、優秀な人材としてフーケに目をつけ、
一時は、従わせることに成功したわけではあるが……それもバレッタのせいで全てが水泡に帰した。
だが、ワルドは納得できない。ここで手放すには惜しい駒であるからだ。

フーケはワルドの企みを肌で感じ、深く長く、ため息をついた。

「ふぅー。変な気を起こすんじゃないよ。私はもう金輪際あんた達と関わらない、
 だけど……もしまた脅して私を従わせようとするのなら……」

「その時は全身全霊をかけて、……抗うわ」

辺りの空気がピリピリと震える。確かな覚悟がそこに存在した。
今度はワルドが溜息をついた。どうあっても従わないであろうことが理解できたからだ。
仲間として留めておくことができないならば、
組織の秘密を保持しているフーケを、殺しておくのが筋である。
だが、今は手間と労力が惜しい。そしてなにより時間がない。

「……勝手にしろ。だが役目は果たせ」
「はいはい、わかってるわよ」

ワルドは、返事を受け取ると、体を反転させ、フーケのゴーレムの肩から飛び去っていった。
その姿を見送ったフーケは、喜びを噛みしめると同時に、最後の後始末をするために心を切り替えた。

「……さてと、もう一仕事して家に帰りましょうかね」
宿を取り囲んでいた傭兵たちが逃げ去り、一時の静寂がそこに存在した。
だが、その静寂を切り裂くかのように、
決意を固め、戦いに身を投じようとする者たちが、宿の入口から一斉に飛び出してきた。

「おや?お出まし……というわけね」

フーケの目下には、人影が4つあるのが、見てとれた。
二組に分かれ、フーケのゴーレムに向って走ってきている。
その走り方からは、迷いが感じられなかった。まるで戦野をかける兵のようにさえ見える。
玉砕覚悟の特攻ではなく、何かしらの作戦を練った上での行動であるとフーケは理解した。

フーケの表情が自然と、笑顔になる。

「そうじゃなきゃ面白くないわよね。でもこの私のゴーレムを、どうにかできる自信があるのかしら?」

フーケは自分のゴーレムに対して絶対の自信を持っていた。
これまでの盗賊としての実績が、その自信を支えているのだ。
今まで、幾多の追ってを蹴散らし、あの『バレッタ』が直接戦うことをさけたほどのゴーレム。

学院の生徒如きに、後れをとるはずがないとフーケは確信していた。

フーケは、攻撃に移るために、再度ゴーレムに向ってくる人影に目をやった。
よくよく観察してみると、二組に分かれた者たちがはっきりと見えた。

二組の内、一組は、赤髪と青髪のメイジの二人。
そして、もう片方は、気障ったらしい服装の男メイジと、
その男が作りだしたであろう、成人と同じ程度の身長のゴーレムであった。

「ふーん、二手に分かれたってことは一方が囮かしら?」

キュルケとタバサはゴーレムの右足に、
ギーシュは、ゴーレムの左足に向ってそれぞれ全力疾走していた。

フーケは、彼らの行動に疑問を感じた。
おそらくは、ゴーレムの足もとに潜り込んで、攻撃されないようにするのが目的なのは理解できた。
しかし、問題はそこからだ。
確かに、足元にぴったり貼りつかれると、鈍重であるゴーレムにとって攻撃がしにくく、
加えて、ゴーレムの肩に乗って操縦しているフーケの目が届きにくい場所である。
しかし、攻撃が全くできないわけではない。方法はいくらでもある。
攻撃をしのげると言っても、一呼吸分ぐらいの時間しか稼ぎ出せないだろう。
そのわずかな時間で、この巨大ゴーレムをどうにかできるとは、フーケには到底思えなかったのだ。

「さて、何をするのか見当もつかないけど。やり終わるまで待ってるほど優しくないの」
フーケは、迫りくる二組に交互に目をやる。
おそらく、どちらかが囮、ならば本命を潰してしまえば、全てが終わる。

フーケは、かつて自分が学院で、学院長の秘書を勤めていたことを思い出す。
ミス・ロングビルとして秘書であったフーケは、目立った生徒に関しては多少の情報を持ち合わせている。
そして、その情報の中に、迫りくる相手が存在した。
元々、誰がいるかは、昨夜のバレッタの言葉で知っているので、
問題はどの程度の実力をもったメイジであるかである。

赤髪の方はキュルケ。ゲルマニア、ツェルプストー家の人間。
『微熱』の二つ名を持ち、火系統の魔法を得意とするメイジ。

青髪の方はタバサ。
『雪風』の二つ名を持ち、「風」に「水」を足し合わせた氷雪系の魔法を得意とするメイジ。

二人とも、学院では優秀な生徒であり、共に学生では珍しい『トライアングル』メイジである。

そして、最後の一人、『青銅』のギーシュ。
あの赤ずきんのバレッタと決闘を行い、
コテンパンにやられて敗北した、土系統の『ドット』メイジである。

フーケは、他二人と比べて明らかに身劣りするギーシュを凝視した。
メイジのクラスの中でも、最下位に位置する『ドット』。
加えて、自分で作り出したであろうゴーレムを引き連れているその様から見ても、
ギーシュがどの程度の実力を持っているのか一目瞭然であった。

フーケは鼻で笑った。
それは、持って当然の感情であった。
何故ならば、フーケが作りだしたゴーレムとギーシュのゴーレムとでは天と地ほどの差があったからだ。
同じ土系統のメイジとしての実力差は明白。

私のゴーレムの指一本の大きさ程ぐらいしかないじゃないのさ。
そんなのを引き連れて何をするってんだい?

フーケは、ギーシュを囮であると判断した。
囮ではなかった場合も考えられるが、そうであったとしてもフーケは問題にしていなかった。
ギーシュが、天変地異に対して、
剣を振りかざし対抗しようとしているかのように滑稽に見えたのだ。
何もできる筈がないと決めつけていた。

フーケは、ギーシュ達がそれぞれゴーレムの足のすぐそばまで来たのを見届けると、
自分が、本命と判断したキュルケとタバサが何かしでかす前に、踏みつぶしてしまおうと、
ゴーレムの高々と右足を浮かした。
だが、それは大きな間違いであった。

何かをしでかすと思っていたキュルケとタバサたちは、
ゴーレムの右足が動き出し始めるや否や、
すぐさま飛翔の魔法を使い、ゴーレムの攻撃範囲から離脱した。
早すぎる反応。それは予め取り決められていたであろう行動であることは明らかであった。

その瞬間、自分が相手側の策略に嵌っていることを悟ったフーケ。
囮は、キュルケとタバサのほうであった。

そのキュルケとタバサの行動に目を奪われていたフーケの耳に、
思わぬところから、自信に満ちた声が届いた。
まるで勝利を確信したかのような、高揚感がその声にふんだんに含まれていた。

その声の主とは、何もできないと決めつけられていたギーシュであった。

「君が、こんな小さいのゴーレムを操っているメイジを、大したことないと思うのは当然だ。
 だけど、これも作戦の範囲なんだ。ぼくを囮だと思わせる作戦のね……だがしかし!」

「……残念だが、ぼくは囮じゃない!」

ギーシュは薔薇の造花の杖を抜き放ち、フーケの巨大ゴーレムの足に向けた。
そして魔法を唱える。

……だが何も起こらない。いや一見何も起こってないように見えたのだ。
しかし、すでに変化は起きていた。

ゴーレムの足の表面から、何か液体のようなものが線状に染みだし漏れている。
その液体はゴーレムの足の円周の三分の二ほども、線状に広がって出ている。

ギーシュは、いったい何をしたのか。フーケにはそれが理解できなかった。
だが、不吉な音が耳に届き始めたとき、フーケは全てを悟った。

「何っ!?これはまさかっ!?そんなことができるっていうの!?……ちっ!!」

フーケは悔しそうに顔を歪め、舌打ちをする。
そんな様子を見据えながら、ギーシュは、したり顔で自分のやったことを説明し始めた。

「『錬金』の魔法を唱えさせてもらったよ。そして君のゴーレムの足を油に変えた。
 ただし、全体じゃない、ぼくは大きなものを丸ごと錬金で変えるほどの力はないからね。
 だから少量で済むように、薄く。それこそ花弁よりもずっと薄く。その代り、広く……だ。
 ぼくが、大きなものが相手に、それ相応の切れ込みを入れることができるように」

……そう、
ギーシュは錬金を唱え、ゴーレムの足の一部を油に変えることによって、切り込みを入れたのだ。
元々、崖などを切り崩したり、物を切断する目的で、考えだした錬金使用法であったが、
この場面において、抜群の効果を生んでいた。
ギーシュの錬金の魔法を受けたゴーレムの足は、
まるで、木こりが木を斧でなぎ倒す時に、最後まで刃を入れなくとも、
木が、自分自身の重さを支えきれずに倒れてしまうかのように、
切り込みが及んでいない部分に、過剰な負荷がかかっていた。

加えて、キュルケとタバサを踏みつぶそうと、片足で立っていたため、
この巨大なゴーレムの全体重が、切り込みが入った左足に集中した。

遂にその負荷に耐えきれず、不穏な音を立ててゴーレムの左足に亀裂が走り、そして崩れた。
そこから先は説明するまでもない。

足を破壊された瞬間、岩の塊であるゴーレムは、急いで、体を支えるためになにか掴もうと手をバタつかせるが、
当然都合よく、その重すぎる自分の体を支えるものなど、近くに存在するはずもない。
結果、フーケのゴーレムは為す術なく轟音をたてながら、後ろにの外壁向って倒れてしまった。

ゴーレムが派手に倒れたせいで、土煙が上がっている。
だが、その立ち上る粉じんが晴れてくると、
一人の男が口元に薔薇の造花を当て、悠然と立っている姿が浮かんで現れた。

ギーシュである。

ギーシュは目をきつく閉じて、その場で微動だにせず固まっている。
見事、遥か実力上のメイジが作りだしたゴーレムを、
自分の力で倒したことに対して、深い感慨を覚えていたのだ。体に歓喜の震えが走る。

一時は、たった一人の少女と関わり、屈辱に塗れ、恐怖に屈し、地を這ったギーシュである。
その喜びが、ひとしおであるのは当然。
思わず、目に涙が滲む。
今ここに、ギーシュ・ド・グラモンは、大輪の花を咲かせたのだ

こぼれ落ちそうになる涙を、袖で拭ったギーシュは、
背筋をピンと伸ばし、バラを頭上に高々と掲げ、実に誇らしげに勝利を宣言した。

「やりました!ぼくの『錬金』で勝ちました!父上!姫殿下!ギーシュは勝ちましたよ!
 はははっ!ハーッハッハッハッハ!!いや!ホントにうれしいっ!うれしいよぼくぁっ!うっ、う……」
まるで子供のようにはしゃぎ、子供のように嬉し泣きをするギーシュを見て、
キュルケは半ばあきれ果てたような表情をして言った。

「……あれがなければ、グっっとくるぐらいに格好ついたのにねえ……」

だが、キュルケも内心はギーシュを見直していた。
まさかあのギーシュがここまでやるとは思っていなかったからだ。

キュルケとギーシュの二人とは裏腹に、タバサは一人、辺りを警戒していた。
あの厄介なゴーレムを破壊出来たことは確かに喜ばしい……だがまだフーケを倒したわけではないからだ。
しかし、待てども、襲ってくる様子はない、それどころかフーケ自身の気配すら全く感じられない。
どうやら、ゴーレムが倒されるやいなや、逃亡したようであった。
タバサは腑に落ちない部分を感じながらも、少しばかり警戒を緩めた。

キュルケは、そんな友人の様子を見届けると、
少し、不思議そうな顔して呟いた。

「それにしても、あっけなかったわねえ……なんというかやっつけた感がないというか
 相手の企みを挫いた気がしないというか……」

タバサはその言葉に、無言のままコクリと頷いて応えた。
タバサも同じことを、感じていたのだ。

そもそも、自分たちを殺すことだけが目的ならば、
ゴーレムで宿ごとどうにかしてしまえばよかったのだから。

そうしなかったのには理由があるのではないかと考えた。
一つ、殺してしまってはダメな理由がある。
二つ目は……。

もやもやしたものが頭に巣食う。だがいくら考えようとも答えはでない。
そもそも、ルイズが受けた任務について何も知らないのだから予想しようがない。
だが、何か引っかかるもの感じるキュルケとタバサ。

「とりあえず、ルイズ達を追いかけようかしら。船が出てなければ追いつけるはずだし
 ……あー、あとあのウカレポンチをどうにかしないとね」
キュルケが、ギーシュの頭を小突いている様を、岩陰から窺っている者がいた。
フーケであった。

「いいのか?ここで連中を倒さなくてよ?」
「いいのよデルフ。確かにゴーレムがあっさりと倒されたことは腹立たしいけど、
 私の役目は果たしたわ。これだけ時間を稼げば十分でしょ」

フーケは岩陰に隠れ、キュルケ達の様子を窺いながら、そう言った。
それからしばらく黙ってから背負ったデルフリンガーに喋りかけた。

「……あんたこそいいの?ずっと前から、あのクソずきんの下に戻りたいって言ってたじゃない。
 でも、昨夜アイツと再会したってのに、そのことについて全然言わなかった……。
 ……いったいどういう風の吹きまわしだい?」

「あー、それだけどよ」
「なによ?」

「改めて会って見て、わかっちまった。ムダってことによ」
「……」

デルフリンガーは、どこか遠くを見ながら話をしているかのような、
どこか寂しそうにカタカタと音をたてながら、話を続けた。

「俺はよう……予め定められた『運命』に従って、あの娘っ子に出会ったと思ってたわけだ。
 んで、あの娘っ子に武器として使われるのも『運命』としてあった。
 だからこそ、もう一度会ったら、俺を使うように言うつもりだった……だがよ」

「……会ってみてわかったんだよ。ムダだってな。
 アイツは、なにものにも靡かねえし、染まらねえ、
 .……たとえ相手が『運命』であったとしてもだ。
 だったら、アイツが要らねえって言ったら、俺は必要ねえんだろうよ」

「そうかい。まあ、本人がいいならそれでいいさね。
 ……で?主人に見捨てられた哀れな剣は、これから先いったいどうする予定なんだい?」

「そんなの、決まってら!俺は、おめえの『相棒』だぜ?」
「……フフっ、調子のいい剣だこと。ま、その呼び方、悪い気はしないけどね」


――さあ、行きましょうか、デルフ。


月が煌めく闇夜を飛ぶその姿は、どこか楽しげであったという。


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