あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと損種実験体-13


 ルイズたちを乗せた空賊船、いや軍艦イーグル号は、乗っ取ったマリー・ガラント号を牽引し、雲に隠れるようにして進み、ニューカッスルの城を目指して進んでいた。
 自分がウェールズ王子であると明かした空賊船長に、最初ルイズは、その言葉を信じていいのだろうかと迷ったが、彼女がアンリエッタ王女から預かった指輪、水のルビーと同じく、王家に伝わる風のルビーをウェールズが持っていたことにより、その疑念は解消された。この二つは、共鳴しあい、近づけると虹色に輝くのだ。

 というか、そういう身分証明のアイテムになるのなら、渡すときに教えておけとアプトムは思ったが、同時にもう一つ、それ以上に気になることがあった。
 それは共鳴する二つの指輪。そこから感じ取れるのは生体波動。それも、獣化兵から感じ取れるそれに近しい。いや、あるいは獣神将のそれに近いかもしれない。
 だが、何故宝石から生体波動を感じるのだろうかと、彼は訝しむ。
 そんな彼の疑問に共感する者もいなかったので、事態は彼が考え事をしている間に進む。

 ルイズはアンリエッタがウェールズに充てた手紙を取り出そうとして、自分の荷物の中にないことに気づき、どこかに落としてきたのではと狼狽したところで、アプトムに預けているだろうとワルドに指摘された。
 そういえば、そうだった。というか、なんでアプトムはすぐに教えてくれないのよ。などと睨みつけると、彼は考え事をしていてこちらに気づいていない。

「アプトム! 手紙!」

 そう叱責してやると、こちらに顔を向けたアプトムは、すぐにこちらの意図に気づいてくれたらしく手紙を出してくれたので、すぐにウェールズに渡したところ、それを読んだ王子は、最初驚き次に少し寂しそうな顔をした後、ルイズたちが回収に来た恋文、と言ってもルイズはある手紙としか聞かされていないのだが。を返すのは構わないが、今は手元にないのでニューカッスルまで来てほしいと言い、そうして三人は、ニューカッスルに向かうことになったのである。

 それ以前に、ウェールズら王党派はアルビオンのどの港に行くこともできない立場なので、ルイズらを途中で降ろすことなどできなかったのだが、そんなことをわざわざ口に出して言ってくることはなかった。

 そんなこんなで、ニューカッスルが見えた辺りで、イーグル号は大陸の下に回り、日が射さず雲のせいで視界がほとんど利かないそこを進み、しばらくして頭上に見えた大きな穴に入り込んでいく。
 現在ニューカッスルの城は、陸も空も封鎖されているが、ここを通れば出入りできる。もっとも、貴族派などでは、それが分かったとしても、ここを通ることなどできまい。そんな説明をされて、ワルドは「まるで空賊ですな」と呟き、ウェールズは「まさに空賊なのだよ」と答えた。

 穴を進んだ先には港である鍾乳洞があり、そこに艦を泊めると、多くの人々が彼らを出迎えた。王党派の兵士たちである。

「喜べ、硫黄が手に入ったぞ!」

 ウェールズの叫びに、港に集まった者たちは歓声を上げた。

「おお! 硫黄ですと! 火の秘薬ではござらぬか! これで我々の名誉も、守られるというもの。これだけの硫黄があれば……」
「王家の誇りと名誉を、叛徒どもに示しつつ、敗北ができるだろう」

 駆け寄ってきた老人に、ウェールズが笑って返すと、他の者たちも楽しそうに笑いあう。

「栄光ある敗北ですな! この老骨武者震いがいたしますぞ。して、ご報告なのですが、叛徒どもは明日の正午に、攻城を開始するとの旨、伝えて参りました。まったく、殿下が間に合って、よかったですわい」
「してみると間一髪とはまさにこのこと! 戦に間に合わぬは、これ武人の恥だからな!」


 そんな彼らの姿に、ルイズは急に襲ってきた恐怖に背筋が冷たく感じる。
 誇りのためには、命を賭けなければならないというという考えはルイズにもある。魔法が使えないメイジである彼女には、他に自分を貴族たらしめるものがなく、それゆえに貴族としての誇りとは命と同じくらいに重い。
 だから、勝つためだと彼らが言うのなら、たとえそれがどれだけ勝ち目の薄いものに見えても、彼女は何の疑問も抱かずに彼らを見送ることができただろう。
 だけど、彼らは敗北と言った。
 誇りのために命を捨てるという考えは、彼女にはない。なぜなら、死ぬというのは、本人にとって恐ろしいもののはずだから、周りの人たちにとって悲しいことのはずだから。

 ウェールズは、ルイズたちを連れて自分の部屋に入った。
 そこは、粗末なベッド以外には椅子と机が一組あるだけの質素な部屋。
 王子は、机の引き出しから宝石の散りばめられた小箱を取り出し、それを開けるとその中に入っていた一通の手紙を取り出した。
 彼は、折り畳まれたそれを開き、何度も読み返した後、もう一度丁寧に折り畳み、封筒に入れるとルイズに差し出した。

「これが、姫からいただいた手紙だ。このとおり、確かに返却したぞ」
「ありがとうございます」
「明日の朝、非戦闘員を乗せたイーグル号が、ここを出発する。それに乗って、トリステインに帰りなさい」

 ウェールズがそう言うと、深々と頭を下げて手紙を受け取ったルイズは、少しの間手紙を見つめ考えてから口を開いた。

「あの、殿下……。さきほど、栄光ある敗北とおっしゃっていましたが、王軍に勝ち目はないのですか?」
「ないよ。我が軍は三百。敵軍は五万。万に一つの可能性もありえない。我々にできることは、はてさて、勇敢な死に様を連中に見せることだけだ」

 あっさりと死を語るウェールズに、ルイズは彼を想うアンリエッタの姿を脳裏に浮かべる。

「殿下の、討ち死になさる様も、その中には含まれるのですか?」
「当然だ。私は真っ先に死ぬつもりだよ」

 まるで他人事のように自分の死を語る王子に、ルイズの感情は爆発する。

「殿下! この手紙は、これは……」

 言葉を詰まらせる。自身の感情の抑制が不得手なルイズには、自分の頭の中で渦巻く想いを上手く言葉にできない。

「この任務をわたくしに仰せつけられた際の姫様のご様子、尋常ではございませんでした。そう、まるで、恋人を案じるような……。それに、先ほどの殿下も……」
「きみは、従妹のアンリエッタと、この私が恋仲であったと言いたいのかね?」
「そう想像いたしました。とんだご無礼を、お許しください。してみると、この手紙の内容とやらは……」
「恋文だよ」


 あっさりと肯定してみせる。しかも、この恋文の中において、アンリエッタは始祖ブリミルの名において永遠の愛を誓っていると王子は告
げる。
 始祖ブリミルに誓う愛は婚姻の誓いでなくては許されず、これが知れればゲルマニア皇帝との婚約は破断となり同盟も消え去る。
 ゆえに、このことは誰にも明かすわけには行かず、しかし、アンリエッタの王女としての立場でなく心を守りたいと考える少女には言ってもいいだろうとウェールズは判断する。

「とにかく、姫さまは、殿下と恋仲であらせられたのですね?」
「昔の話だ」
「殿下、亡命なされませ! トリステインに亡命なされませ!」

 何が昔の話だと、ルイズは叫ぶ。幼き頃より王女の遊び相手を務めていたルイズには、アンリエッタが今もウェールズを愛していることなど手に取るように分かる。
 そして、王子の態度から、彼の心もまた王女にあることも。ならば、彼は愛する者のために生きるべきなのだ。アンリエッタは、それをこそ望んでいるはずだ。

「殿下、これはわたくしの願いではございませぬ! 姫さまの願いでございます! 姫さまの手紙にも殿下の亡命をお勧めになる一文が記されているはずですわ」
「そのようなことは、一行も書かれていない」
「殿下!」
「姫と、私の名誉に誓って言うが、ただの一行たりとも、私に亡命を勧めるような文句は書かれていない。そもそもアンリエッタは王女だ。
自分の都合を、国の大事に優先させるわけがない」

 嘘だ! と心の中でルイズは叫ぶ。ウェールズの言葉は正論だ。だけど、ただの正論でしかない。ルイズの知るアンリエッタという少女は、そんな正論で愛するという想いを無かったものにするような薄情な人間ではない。
 だが、正論と認めてしまったことに対して、ルイズは言い返すことができない。視野の狭さと世間知らずであるせいで想像力が欠けているとはいえ、彼女は頭がいい。なまじ頭のいいからこそ、一度、正論だと認めてしまったことを否定するという選択肢を取ることができない。
否定することが、アンリエッタを貶めることになるとなれば尚更だ。
 俯き、何もいえなくなったルイズの肩を叩き、ウェールズは優しく笑いかける。

「きみは、正直な女の子だな。ラ・ヴァリエール嬢。正直で、真っ直ぐで、いい眼をしている。忠告しよう。そのように正直では使者は務まらぬよ」

 俯かせた顔を上げてウェールズを見上げるルイズは、何故この人が死ななければならないのかと納得のいかない想いを募らせるが、やはり言葉は浮かばない。

「そろそろ、パーティの時間なんだ。きみたちは、我らが王国が迎える最後の客だ。是非とも出席してほしい」

 それが、この話はこれで終わりだと言う宣言だと気づかぬはずもなく、言葉のないルイズはアプトムと共に部屋を出る。
 だが、そこにワルドが残った事にルイズは気づかなかった。


 人気のない廊下を、アプトムは一人で歩いている。
 城内の人間は、一人残らずパーティに出ているらしく、どこを歩いても人に会わない。
 戦争をしている割に無用心なことだと思うが、勝ち目がないと達観し翌日には玉砕するつもりなのだから当然とも言える。
 正直なところ、アプトムには、勝ち目がない戦いに身を投じようという、この城の人間の考えが理解できない。
 彼も、かつても組織というものに身を置いた人間である。組織の利益のために、その身を犠牲にしなくてはならない場合もあるということは理解している。
 だが、それも後に残せる結果があって初めて意味を持つ。この戦いで王軍は何を得るというのか。王も、その家臣も死に絶え、後には何も残らないまったく意味のない戦いだ。
 本人たちは名誉と誇りを残せると言っているが、そんなものは負け犬の遠吠えだ。彼らがいかに果敢に戦ったとして、それを貴族派の連中が誰かに伝えるだろうか? ありえないなと、頭を振る。
 もっとも、そんなことはアプトムにとって、どうでもいい話である。いま彼にとって重要なのは、ルイズを無事にトリステインまで連れ帰ることである。
 そのために、彼は城内に不審者が侵入していないかと見回り、ついでに万一のときにルイズを連れて逃げ出せるようにと城の構造を把握しようと歩いていた。
 歩きながら、ふと彼は思う。このままルイズと一緒に行動しているだけで地球に帰れるようになるのだろうかと。
 地球に帰るのに一番可能性の高い方法が、ルイズに召還の魔法を開発してもらうことだという考えが間違いだとは思わない。それに、ルイズに情が移ってしまった以上、今更、彼女を放り出すと言う選択も自分には取れそうにはない。
 だが、ルイズの魔法に頼るだけではいけないのではないか。なんとなく、そう、なんとはなしに彼はそう思った。


 開いた窓から、月明かりの射し込む薄暗い廊下で、ルイズは一人涙を流していた。
 彼女は、先ほどまで、王子に招待され、パーティに出席していた。
 豪華に飾り立てられ豪勢な料理が用意された、そのパーティには美しく着飾った貴族たちがいて、簡易に用意された玉座には、国王ジェームズ一世が腰掛けていた。
 ウェールズ王子から、トリステインからの大使だと皆に紹介されたルイズは、明るく笑いあう貴族たちに歓迎されたが、それを喜ぶことはできなかった。
 それはジェームズ一世の言葉が理由。
 彼は言ったのだ。明日には、『レコン・キスタ』の総攻撃が行われる。明日の戦いで自分たちは皆殺しになるだろうと。
 その言葉に、ウェールズも周りの貴族たちも楽しそうに笑った。
 それが彼女には理解できない。死は悲しいことだ。決して笑って受け入れられるようなものではない。

 ルイズは身近な者の死というものを経験したことがない。それでも、自分が死んだらと思うと、恐怖で震えが止まらなくなるし、体が弱く安静にしていなければ長く生きられないと言われている下の姉が命を落とすようなことがあればと考えるだけで悲しみで胸が潰れそうになる。
 ウェールズが死ねば、きっとアンリエッタは泣くだろう。ルイズにはそれが分かるし、王子も分かっているはずだ。なのに何故?
 そんなことを思っていると、アプトムがすぐそばに立ち、自分を見下ろしていることに気がついた。
 いつの間に? そんなことを思ったが口に出したのは別のことだった。

「どこに行ってたのよ。パーティにも出ないで」
「見回りに行っていた。見張りも残さずに、全員パーティに参加していたらしいからな」

 そんな答えに、ああ。と納得する。
 ああ、そうだ。この使い魔は、いつでも自分のために行動してくれる。今までに、自分のためにならない事をしたことなど一度もない。
 わたしの事なんか、なんとも思ってないくせに。と心の中で呟く。
 この旅で、少しだけ前より態度が優しくなったと感じているが、それでも自分に対するアプトムの感情が好意と呼べる程のものでないことは理解している。
 そのくせに、アプトムに甘え、泣き言を言おうとしている自分を嫌悪しつつも、彼女は口を開く。

「いやだわ……、あの人たち……、どうして、どうして死を選ぶの? わけわかんない。姫さまが逃げてって言ってるのに……、恋人が逃げてって言ってるのに、どうしてウェールズ皇太子は死を選ぶの?」
「名誉と誇りを守るためだろう」

 なによそれ。とルイズは思う。確かにそれは貴族にとって大切なものである。だけど、愛する人の気持ちを踏みにじってまで守る価値があるものだとは思えない。
 アプトムは、どう思っているのかと聞いてみると、どうも思っていないとの答えが返ってきた。
 彼にとって、この城の人間の生死など他人事でしかない。王子たちが戦って死のうが逃げようがどうでもいいのだ。
 しかし、そんな答えは、ルイズを満足させない。
 当然だ。彼女の望みは、自分の意見の肯定である。反論はもちろん、こんな突き放した答えも望んではいない。

「なんなのよ! あんたも、あの人たちも命を何だと思ってるのよ! 死ぬのよ。みんな死んじゃうのよ! 人の命って、そんなに軽いものなの?」

 激発する感情のまま苛立ちを吐き出し掴みかかろうとして、アプトムの未だ焼け焦げたままの右腕に気づいてしまう。
 そうだった。アプトムは、自分を守ろうとして戦い、こんな酷い傷を負ったのだ。それなのに、自分の考えに同意してくれないからと怒りをぶつけるような理不尽が許されていいはずがない。

「ごめんなさい。これ使って」

 そう言って差し出したのは、軟膏の入った缶。なんだかんだと言って、ルイズはアプトムの右腕の傷の事をずっと気にしていて、火傷に効く水の魔法薬を貰ってきていたのだ。
 しかし、実際には焼け焦げた表面の皮膚をそのままにしているだけで、右腕はとっくに完治しているアプトムは、気を使わせておいて黙って、これを受け取るのはどうだろう? などと考えてしまう。
 そんな逡巡をするアプトムに何を思ったか、ルイズは何かに気づき勝手に納得する。

「そっか。左手だけでっていうのも無理よね。うん分かった。わたしが塗ってあげる」

 完全に誤解したルイズは、軟膏を指ですくい、痛みを感じさせないようにと注意しながらアプトムの腕に優しく指を這わせる。
 そんな配慮がなければ、焼け焦げた皮膚は崩れ、新しい皮膚が見えただろうが、そうはならずアプトムも真実を告げる機会をなくした。

「……早く帰りたい」

 消え入りそうな声と共にこぼれた涙が、アプトムの右腕に落ちる。
 ここは、悲しすぎる。平気な顔で命を捨てようとしている人たちも、姫さまを悲しませると分かっていて生きようとしない王子も、ルイズには残される者の気持ちを考えない自分勝手な人間たちとしか思えない。
 そんな人たちとこれ以上一緒にいたくない。自分を暖かく迎えてくれる人たちのいるトリステインに帰りたい。シエスタに会いたい。キュルケでもいい。あの二人ならきっと今の自分の気持ちを理解してくれるはずだ。
 その考えは、逃げであり甘えである。トリステインに帰るのなら、最初に会うべき相手はアンリエッタであるが、その事を無意識に考えないようにしていたのだから。
 だけど、今のルイズには、アンリエッタにウェールズが自ら死を選んだ事を伝える覚悟がなくて。ただ甘えさせてくれる相手を求めていて。
 そんなルイズの頭に、アプトムは空いた左手を乗せてやり撫でてやる。彼は人を甘えさせてやることが苦手で、その努力をしようと思うほどの好意をルイズに対して抱いていないから。


 しばらくして、「ありがとう。わたし、もう寝るから」と言ってルイズは、そこから立ち去り、それを待っていたようにワルドが現れた。
 いや、実際に待っていた事を、彼の気配を感じていたアプトムは知っている。

「きみに言っておかねばならぬことがある」

 前置きなしに放たれた言葉は、威圧するような響きを持っていて、アプトムは少し違和感を覚える。

「明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる」
「こんなところでか?」

 そう返しながら、更なる違和感を感じる。ワルドとルイズが婚約者だという話は聞いた。そのことに関してアプトムに思うことはない。だが、何故、今、式を挙げようというのか。いや、そうではない。何故その事を自分に伝えるのがルイズではなくワルドなのか。
 別に、ルイズの口から聞きたかったわけではない。ルイズがワルドと結婚することに文句があるわけでもない。ただ、違和感だけがあった。

「是非とも、僕たちの婚姻の媒酌を、あの勇敢なウェールズ皇太子にお願いしたくなってね。皇太子も、快く引き受けてくれた。決戦の前に、僕たちは式を挙げる」

 何を考えているのかと睨むが、ワルドが何を考えているのか、その眼からは何も読み取れない。

「明日の朝。女子供を逃がすための船が出港する。きみは、それに乗って先にトリステインに帰りたまえ。僕とルイズは式が終わってからグリフォンで帰る」

 残っても、その腕では万一のときにルイズを守ることはできまいと、ワルドは嘲る。
 そうして、ふとアプトムはワルドの考えを理解したような気がした。
 ルイズの家族が一人もいない、この地で結婚式を挙げたいと言うのは、婚約者であるワルドが、何らかの理由で、その資格をなくしているためではないだろうか? だから、誰にも反対されないこの地で、ブリミルの名において愛を誓い、取り消せないようにしようとしているのではないかとアプトムは考えた。
 無論、根拠はない。そこまでしてルイズと結婚しなくてはならないと考える理由も分からない。ただ、そのために自分の存在を邪魔に思っているのだろうということは理解できた。

 ただし、ルイズを置いて先に避難するという選択はアプトムにはない。
 一時的に、ルイズの身を他の人間に預けるということはあっても、それ以上はない。そもそも、その気になれば、『レコン・キスタ』五万の兵を単騎で壊滅させることも可能なのに、どうしてルイズを置いて逃げなければいけないのか。
 もっとも、そんなことを口にはしない。する必要がないのだから。
 ただ、アプトムは、その式には出席しようとだけ答えた。式の後の脱出にしても自分でなんとかすると。


 ルイズが去り、アプトムも去った廊下で、ワルドは開いた窓から月を眺め何かを考えていた。
 その顔に悩みの色はなく、ただ冷徹な計算だけがあったのだった。


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