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ゼロの黒魔道士-37


タルブ平原は、オレンジ色の宝石が空からこぼれてきたようで、
キラキラと目に優しい光であふれていた。
ラ・ロシェールの岩場には、うっすらと灯りがともりだしたのが分かる。
1つ1つの灯りは儚い感じがするけど、それぞれ家族が囲んだり、酒場で騒いだりしてるのかなぁ。
春草が夏草に変わっていく香りがお昼のミントティーぐらい爽やかで、
胸とお腹をじっくり満たしていく。
風はほとんど穏やかで、ときどき思い出したようにザッと駆け抜ける。
雲のデコボコが、まるで誰かの顔みたいな影を作って、
まるで笑っているみたいに見える。
平和で、どこか幻想的な夕暮れが、ボクの周りをゆっくり流れていたんだ。

ゼロの黒魔道士

~第三十七幕~ 廻る光

「――なんだ、こんなところにいたのか」
「……あ、ギーシュ」
青草に埋もれるように、仰向けになって空を眺めていたら、ギーシュの金髪がさかさまに見えた。
チョコボに潰された髪の毛はまだ少しだけ変な形になっている。
「今日は、のんびりする日なのかな?」
そう言いながらギーシュが隣に腰掛ける。
そこにたバッタが、慌てて飛びのいて、ボクの鼻先に飛んできた。
「……うん、たまには、ゆっくりしたいかな、って」
思えば、こっちの世界に来てから色々あった。
もちろん、毎日の訓練は大事だけど、こうやってまったりするのも、悪いことじゃぁないと思うんだ。
「ギーシュ~、お前からも言ってくれや~!こうまったりしすぎると、また錆びちまいそうだぜ!」
……デルフは、ちょっと不満そうだけど。
ピョーンとバッタが飛び去っていく。おいしい草が見つかるといいなぁ。
「まぁ、ここまで幻想的な夕焼けを見ると、少しはのんびりしたくなるかな」
ギーシュがゴロンと仰向けになる。ちょっと丈の長い草に覆われて、ギーシュの顔が見えなくなる。
「……だよね。こんな夕日を見るの、久しぶりだなぁ……」
オレンジ色から、深い藍色までじんわりとにじみでるグラデーションの中、鳥達が遠いところを飛んでいた。
みんな、お家に帰るところなのかもしれない。
「ビビ君のいたところ、ロバ・アル・カリイエじゃ、夕日も違って見えるのかい?」
あぁ、そっか。ギーシュにはボクの生まれた場所のこと、詳しく教えてなかったんだ。
……ちょっと騙してる感じがして、悪いなぁ……
どうなんだろ、ロバ・アル・カリイエってところでも、夕日は同じに見えるのかなぁ?
う~ん、やっぱり、世界ってまだまだ広い。
分からないことが沢山あるんだなぁって思った。
少なくとも、ここの夕日は、ボク達の世界の夕日とそこまで違わないと思うんだけど……
「……う~ん……のんびりした気持ちで、見れなかった、かもしれない」
「それはどうして?」
どうして、かなぁ?旅していたときは、楽しかったけど、こんな夕日をのんびり見てなかった気がする。
「……色々、考えちゃったから、かなぁ……」
なんとなく、そんな気がした。
「ふぅん、例えば?」
さっき飛んで行ったバッタが、ボクのお腹の上に戻ってくる。軽いけど、命の重さをそこに確かに感じるんだ。
「……生きることの意味、なんで争うのかってこと、なんでボクはボクなんだろうってこと、それに……」
色んなことが、頭に浮かんで消えてった、あの時。それでも、みんなと一緒にいたくて、必死だった。
「――君って、ときどき思うんだけど、僕よりずっと大人だね」
「え?……そ、そんなことないよ?」
そんなことはない。絶対ない。まだまだ分からないことだらけなんだ。今言ったことだって、ほとんど答えは出てやしない。
「謙遜はいいさ。そうじゃなきゃ、僕のライバルって呼べやしない」
顔は見えないけど、ギーシュが、ほんのちょっぴり笑ってる気がした。
バッタが、またピョンと飛んでいってしまった。

「そうか、生きることの意味、か……う~ん、なかなか答えが出そうにないなぁ」
ギーシュが伸びをしたのか、草がザッとかき分けられる音がする。
こすれた草の香りが、一層強くなって、鼻の奥の方をくすぐった。
「……きっと、1人1人違うんだと思う。皆、自分で答えを出さなきゃいけないんだ」
きっと、そうなんだと思う。1人1人が納得できる答え、それがその人の答えになるんだと思うんだ。
……多分、だけど。
「お、相棒、何かカッコいいじゃねぇの!おれっち、なんか目から汗でも出そうだぜ!目は無ぇけど」
「ちなみに、ビビ君の答えは?」
「……う~ん、1度は見つけた、と思ってたけど……また今は探してる最中なんだ」
この世界に来たとき、生まれ変わった感じがして、前までの答えじゃ足りないって思うところがどんどん増えてくる。
ほんと、まだまだ分からないことが多すぎるなぁ……
「どんな答え?」
どんな答え、と聞かれると、ちょっと困る。それは、なんとなくぼんやりとしているものだったから。
「……生きるってことは、1人で永遠の命をもったところでしょうがないってこと……」
空のオレンジだった部分が、どんどん濃紺にまで染まっていく。
「……誰かと、助け合うこと、そこではじめて、生きてるって言えるんだと思う」
「それで?肝心の生きる意味は?」
「……まだ、うまく言葉にできないや」
ボクの知識では、表現するには足りないのかもしれない。ボク自身、納得できる答えに辿り着いてないのかもしれない。
かもしれないって言うばっかりで、ボクってホント何も知らないんだなぁ……
「――成長中、ってことかな!僕も君も!きっと、言葉にできるようになるまで成長するんだ!」
「……うん、そうかもね」
ギーシュの、こうやってポジティブなところは素直にうらやましい。
どんなことがあっても、自分で前に進めるっていうのは、なかなか真似できることじゃないなって思う。

「うん――あ~!こういう旅行はスッキリしていいな!気が晴れるよ」
ギーシュが起き上がる。パラパラッと落ちる草が少しボクの顔にふってきた。
「?……ギーシュも、悩みとかあるの?」
ボクも起き上がりながら、少し伸びをした。ラ・ロシェールの灯りはさきよりも数が増えて、
ちょっとした星の集まりみたいに見える。
「“も”とは失礼だな、“も”とは――
 まぁ、君の深い悩みとは比べられないけどね。これでも、家名とか貴族とか、背負う荷物を降ろしたくなることもあるのさ」
「……そっか」
みんな、やっぱり大変なんだなぁって思う。ギーシュも笑っているけど、色々考えているんだ。
「――お、そうだビビ君、これ知ってるかい?」
その辺の草をちぎって、ピラリとボクに見せるギーシュ。
「草?」
それは、何の変哲もない草だった。薬草、とかなのかなぁ?
「そうそう、この草をこうやって――」
その草を、口の前までもっていく。そして、息をちょっと吸って、草を口に押しつけて……
『プィ~♪』
空の高いところまで響きそうな綺麗な音が、フワリ、と広がった。
「あ、すごい!」
草笛って話には聞いたことあるけど、実際にやる人を見るのは初めてだった。
「気晴らしに良い方法でね。君もやってみるかい?」
見よう見まねで、草をちぎって、口の前までもっていく。
『ビィィ゛~』
「うわ、ちぃと音が汚くね?まぁ口もねぇおれっちが言うことでもねぇけど」
「……うまくいかないや」
……結構、難しいみたいだ。
「ハハ、何事も、練習かな?まぁ、これで1つはライバルに勝ったかな」
う~ん、何が違うのかなぁ……?
『プィ~♪ペェ~♪』
『ビィィィ゛~ベェェ゛~』
夕焼けが濃紺に変わっていく空に、ギーシュの綺麗で澄んだ音と、ボクのカエルが鳴くみたいな濁った音が響いていた。


ピコン
ATE ~お姉ちゃん目線~

「――男の子って、なんかいいですよね。こう、友情っていうのが」
「ん~、ちょっと子供っぽいけどね~」
「あんたの使い魔に合わせているのよ、ギーシュは!」
「はいはい、ご馳走様」
木の陰から、ギーシュとビビのやりとりを見ている影が3つ。
シエスタとルイズ、それにモンモランシーである。
そろそろ夕飯であり、折角だから村の酒場でにぎやかにやろうと、
出かけていた2人を探しにきたところ、何やら面白い会話をしていたので、間に入らずに聞いていたのだ。
どこの世界でも共通のことであると思われるのだが、同じ年齢ならば、男の子よりも女の子の方が精神的成長が早い。
そのため女の子というものは、男の子の成長を、いつも母親のような、お姉ちゃんのような視線で暖かく見守るものだ。
だから、3人は、清濁入り混じった草笛の音色を、そっと遠くから、和やかに聞いていた。
「……あ、そうだ、ギーシュ?ボクも、気晴らしの方法、教えようか?」
ビビが、ギーシュのマントを引っ張るのが見えた。
その姿が、またちんまりとしていて、ほんわかとした気分になる3人。
「……古来より伝わる男同士の友情を確認する儀式なんだって」
「あぁ、なるほど!こんな星空の下で並んでするのも、けっこう気持ちいいものかもね!」

チョボッ チョボボッ ジョボボボボボボボボ チョロチョロチョロチョロ
草笛の澄んだ音とは違う、にごった水の音が聞こえた。
「……男の子って……」
「……」
「……」

ちなみに、3人とも、恥ずかしがったは恥ずかしがったものの、
お姉ちゃん目線で、その行為を暖かく見守っていたとか。


「イヤッフゥゥゥゥ!!」
タルブで一番大きな酒場はすっごく盛り上がっていたんだ。
「猫どもぉぉぉぉ!飲んでるかぁぁぁいっ!!」
「「「「ニャーッ!!!」」」
『猫祭り』、ってこういうことなのかなぁ……
みんな、猫の耳みたいな三角形の飾りが2つついた髪飾りをつけて、ものすごく盛り上がっている。
「おっしゃぁ、楽隊ぃっ!景気良くやってくれ~っ!」
「ニャゥ~ンッ!!」
バンジョーの軽やかなリズムから、フィドルがメロディーを奏でだす。
アコーディオンと縦笛がハーモニーを作り、賑やかな音楽が始まる。
ときどき入る合いの手や、音楽に合わせて踊る猫の耳をつけた人達に圧倒されちゃった。
中でも、一番ノリノリで踊っていたのは……
「お!貴族の姉ちゃんもいけてるじゃねぇの!赤髪の色っぽい猫様だぜ~!」
「にゃふぅ~ん♪」
「ちょ、ちょっとキュルケ!?」
……キュルケおねえちゃんだったんだ。
お昼からずっと飲んでいたから、すっかりできあがっている。
「あんた達も踊りなさいニャ~!」
「にゃ、にゃーてあんた……いや、ちょ、ちょっとやめてよっ!?」
「ニャッフゥゥゥゥイ!」
「ルイズおねえちゃんっ!?」
猫に襲われた、って言うのはちょっと違うけど、大勢の猫の格好をした人たちに囲まれて、
担ぎ上げられて、ルイズおねえちゃんも喧騒の輪の中に紛れ込んでいっちゃった……
……えっと、無事、だといいんだけどなぁ……

「いぇ~い!今日は無礼講だぁぁ!そこのチビすけも踊れ~!」
「……え、ちょ、ちょっと!?」
大きなおじさんが次に目を光らせてみたのはボクだった。
頭の上の猫の耳が、驚くほどに似合っていない。
なんかこう……コーヒーに、レモン……いや、コーヒーにたっぷりの胡椒ぐらい合っていないんだ。
「ニャ~!」
「ニャオォォン!」
指をわきわきした猫の耳をつけた集団に取り囲まれる。
すっごくこう……不気味だ……
ネズミって、こんな気分なのかなぁ?
「ギ、ギーシュ、た、たすけてぇぇぇ……」
後ろにいたギーシュに、助けを求めたんだけど……
「――ビビ君、ここは、乗っておくといいと思う――にゃぁ」
「にゃぁ!?」
……ギーシュも、すっかり出来上がっていた。
いつの間にか、猫の耳が頭の上に乗っている。
……ちょっと、似合っていたからすぐには気づかなかった。
「にゃーっはっはっはっははぁ~!生きていることを楽しむんだにゃ~!」
目がとろ~んとして、オークでできたマグには、なみなみとワインが注がれている。
ギーシュ、場に飲まれちゃったのかなぁ?
「そうですよ、ビビさんも、ほらこれつけてくださいにゃ?」
うわ、シエスタまですっかり出来上がっている。なんだろう、これって……
「……え、えっとぉ……」
なんか、周りが全部猫まみれなのに、自分だけ違うっていうのも、仲間はずれな感じがしたんだ。
それに、視線が集まってる……猫の瞳がいっぱい集まっている……
だから、ボクは、勇気をふりしぼって言ったんだ。
「……に、にゃぁ?」
……思ったよりは、恥ずかしくないや。
「いやっふぅぅぅい!」
「にゃ~!!」
「え、ちょ、ちょっとちょっと!?うわっ!?」

盛り上がる酒場の中を、胴上げの要領でポンポンと、音楽に合わせて弾かれながら、
こんな平和が、続くといいなぁって、そう思ったんだ。
……賑やかすぎるのも、ちょっと困るんだけどね。


「――なんか、とんでもないことになってるわね」
……ちなみに、なんだけど……
「愛しのモンモ~ン♪次は君の番にゃぁ~!!」
「っ!?や、やめてよ私はぁぁぁぁ……いやぁぁぁぁ!?」
……一番最後まで猫になるのを拒否していたモンモランシーおねえちゃんは、
ギーシュの手によってボクの後すぐに猫にされちゃったらしい。
……それが理由で、シエスタの家に戻ったとき、ギーシュのほっぺたに真っ赤な掌の後がついていたんだと思う。
『お酒を飲んでも飲まれるな』……ちょっと、賢くなった気がするんだ。


ピコン
ATE ~背徳の旋律~

アルビオンの酒場にも、そろそろ活気が戻りつつある。
今夜の客は戦地へ赴く軍人がほとんどだ。さぞかし財布が緩んでいるだろう。
末期になるかもしれない酒に、金を惜しむようでは一人前の戦士とは認められない。
そんなカラ元気だけがありあまっている軍人共をあしらう店主もたいしたものだ。
内戦から1ヶ月もせずに、客をさばくだけの酒と杯を用意できることは素直に驚かされる。
商人という人種のしぶとさは呆れるほどだ。
あるいは本当に別人種なのかもしれない。油虫やその仲間の類とすればしっくりする。
そうさ、奴らは所詮虫けらだ。
真の力の前には押しつぶされるしかない、ただのゴミだ。

そのような想像を肴に、無愛想な顔で麦酒をあおる男が酒場の隅にいた。
貴族らしく、マントを身につけ、履いている靴も上物ではある。
だがその眼は淀んだドブの底ほどに濁りきっている。
以前の男の眼は、猛禽類のごとく、鋭く獲物をえぐるようなものだったが、
今の眼は全てを引きずり込もうとする闇の淵を思わせた。
綺麗に整えられた髭面の男は、その眼のごとく酒場の底で沈んでいた。

「たまには麦酒も悪くないね。ちょっと水っぽいけれども」
それとは対照的に、酒場の天井まで浮き上がりそうなほど上機嫌な男が、その隣にいた。
髭面の男が、想像の中で何度も何度も踏み潰した、油虫やその仲間の類だ。
「――何故、貴様が隣なんだ」
麦酒の泡底を虚ろに眺めながら、そう呟く。
もう少し酔いがまわって、本音が漏れる段になれば、今の言葉尻に「死ねばいいのに」とでも付け加えただろう。
だがそこまで酔ってはいない。酔えないのだ。確かにここの麦酒は水っぽかった。
「どこも混み合ってるんだよ?仕方ないじゃないか。明日は朝から大舞台だし」
そうした髭の男の思いを知りながら、その銀髪の男が肩をすくめる。
その仕草の1つ1つが癇に障る忌々しいものだった。
「大舞台、か。ふん、貴様にとって、全てが舞台なのだろうな」
理想の1つも理解せぬ武器商人風情が、何が舞台だ。笑わせる。
義手となった左手がうずき、軽く麦酒をあおる。泡が少しだけ蘇る。
「そうだね!人生は舞台、人は役者、言葉は歌。だからこそ今を楽しまなくては!」
このクジャという男、よくも芝居がかった台詞をこうスラスラ並べ立てれるものだ。
「歌うなら余所へ行け。貴様といるだけで反吐が出る」
機嫌は最低高度を順調に航行中、酒の力も上昇気流とはなりそうにない。
せめて明日の作戦が、自分にとって活躍の場ならば高揚もしようが、
飛空挺による物量作戦で自分の存在を誇示するのは困難を極める。
いっそ単騎で村でも襲ってやろうか、確かワインで有名なタルブが近くにあったはずだ。
しかしそれも無意味だ。利を狙った小悪党とみなされるのがオチだ。
そのような屈辱は耐えがたいものだ。
近年の圧倒的な軍事力の前では、個々の武力など無意味になってしまう。
そう、全てを蹂躙する今日の力の前では、英雄譚はありえない。
やはり、力が欲しい。圧倒的な、武力と、権力が。
男の力への渇望は、気の抜けた麦酒では補えそうになかった。

「つれないねぇ。君にぴったりの歌を持ってきたのに、ワルド君」
甘く甲高い声が少しアルコールの入った頭に響く。あぁ、糞っ垂れ。早く消えろ。
「余計な音楽は聞きたくない」
「まぁ、そう言わずに。君のことは買ってるんだよ?」
「ふん、貴様ごとき武器商人に買いたたかれるほど、安くなったつもりはない」
あるいは、そこまで落ちたのかと自問する。だが、諦めたつもりはない。
此度の作戦で機会さえあれば、這い上がってみせるさ。全ては、力のために――

「――剣は、力となりて時代を刻む」
クジャが勝手に謡い始めやがった。なんとも不思議な音色ではある。
東洋風とでも言おうか、周囲の喧騒を覆い隠すような調べ。
耳には、クジャの声だけが朗々と残る。
「――王は、力をもって世界を刻む」
なかなか勇ましい詩である。そうだ、力でもって全てを蹂躙すること、
それこそが望みなのだ。ワルドは詩吟の世界に浸っていた。
「――刻まれ壊れる母なる大地、荒れて崩れて何もなし」
詩の調子が突然変わる。脳裏に描いた威風堂々たる幻想の大地が崩れるのが見える。
何が言いたい。先ほどまで見直していたクジャへの評価が、再び地に落ちる。
「――虚構の神居を建てたとて、崇める民は誰もなし」
あぁ、この野郎。ワルドは悟った。
この男娼野郎は、この俺を裸の王様と呼びたいのだ。
自分が有利な立場にいることから、この俺を無知で無能な愚か者と蔑み、愉悦に浸りたいのだ。
「意味は、自分で考えられるかな?」
「うるさい」
その手には乗るものか、虎の威を借る油虫め。
俺は無知でも無ければ、無能でもない。ワルドは気の抜けた麦酒を再びあおった。
「君の目指す先は何かしらないけどね、生きる意味に足る物なのかな?」
「黙れ」
失った左腕がうずく。あぁ、この義手で、俺を虚仮にしたヤツを全て平らげてしまいたい。
ワルドの憤りは、沈む気持ちとは真逆に、ふつふつと湧き上がってきていた。
「理想、と君はいうけれど、その理想の先に君は――」
「殺すぞ!!」
酒場の喧騒が、凍りつく。このワルドの咆哮1つで。結構だ。気分のいいものではないか。
全ては力なのだ。言葉にこめた怒気も、力の1つだ。

「――いいだろう。少々お酒が入っておいでのようだ。こちらもついつい言い過ぎたかもしれない。
 君を見てると、いつかの誰かを思い出しそうでね――」
「いい加減にしないと――」
沈黙の中、2人だけが、ただ2人だけが会話を続けていた。
1人はやれやれといった表情で、1人は怒気を隠さずに。
「はいはい、しょうがないなぁ――気が変わったら、またおしゃべりしよう」
「ふん」
鼻につく態度をとったまま、少し多目の小銭を置いて去る武器商人。
店の扉が閉まると同時に、沈黙がまたゆるやかにもとの喧騒へと戻る。
ワルドは、改めて決意する。此度の作戦で、なんとしてでも武功をあげ、権力を手にしてくれようと。
そこから駆け上がってやるのだ。万物を睥睨する高みまで。
そしてあの厭味な変態野郎を足置き台にでもしてやるのだ。
杯をグッと傾け、決意とともに飲み干すワルド。

だが、彼は気づいていなかった。クジャの真意に。自分の愚かさに。
所詮、彼も雄々しく燃え盛る炎に憧れた、油虫にすぎぬということに。

一方で、彼は気づいてもいた。自分の強みに。
力を求める欲望こそが、自分をさらなる高みへと連れて行くことに。

麦酒の泡が弾けるごとに、明日の朝日が近づいていた。
破滅への使者も、また。


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