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蒼い使い魔-38


アンリエッタは裸に近い格好でベッドへ体を預けていた、身を纏う物は一枚の薄着だけである。
女王になってから使い始めた、亡き父王の居室であった。
巨大な天蓋付きのベッドには父が愛用していたテーブルがある。
すっと手を伸ばし、その先にあるワインの壜を手に取った。
杯に注ぎ、一気に飲み干す。
昔は酒など食事の時に軽く嗜む程度だったのだが……女王になってから量が増えた。
政治の飾りの花に過ぎなかったアンリエッタにとって、国運を左右する決断を毎日のように求められる、
ということはかなりの心労となった。
決議はほとんど決まった状態で彼女の所へ持ち込まれるのだが、それでもその承認を下すのは自分である。
その上、小康状態とはいえ、今は戦時、飾りの王とはいえ、飾りなりの責任はすでに発生していたのであった。
その重圧を彼女はまだ扱いかねており、、もはや飲まずには眠れなくなってしまっていた。

再びワインを杯に注ぐ、飲みすぎかもしれない、ととろんと濁った頭で考える、
アンリエッタは杖を使って小さくルーンを唱える、すると杖先から水が溢れ、杯を満たす
水蒸気を液体に戻す、『水』系統の初歩魔法である。
水が溢れ、杯から零れた。酔いのせいか加減がつけにくくなっているようだ。
再び飲み干したアンリエッタは再びベッドへと倒れこんだ。
酔うと決まって思い出すのは……かつての楽しかった日々、輝いていた日々だった。
ほんのわずかだった、生きていると実感できた日々。
十四歳の夏の、短い時間、一度でいいから聞きたかった言葉。
「どうして……あなたはあの時なにもおっしゃってくださらなかったの?」
顔を隠し、アンリエッタは問う、しかしその答えを返してくれるものはもういない、この世のどこにも……。

涙が彼女の頬を伝う。
感傷に浸り過ぎた、明日の朝も早い、ゲルマニアの大使との折衝が控えている。
一刻も早くこの戦争を終わらせたい両国にとって大事な折衝なのだ。
涙に濡れた顔を見せるわけにもいかない、もう弱いところは誰にも見せてはならないのだ。
涙をぬぐい、もう一度ワインの杯に手を伸ばそうとしたその時……。

扉がノックされた。
こんな夜遅くに何の用事であろうか、また面倒なことが起こったのであろうか、
億劫だが無視することもできない、万一アルビオンが再び艦隊を送り込んできていたらそれこそ事である。
アンリエッタは物憂げな表情でガウンを羽織ると、ベッドの上から誰何した。
「誰ですか? こんな夜中に、ラ・ポルト? それとも枢機卿かしら?」
「ぼくだ」
その言葉を耳にしてアンリエッタの顔から表情が消えた。
「飲み過ぎたわ……こんなはっきり幻聴を聞こえるなんて……いやだわ」
そう呟き、胸に手を置く、しかし激しい動悸は治まらない。
「ぼくだよ、アンリエッタ。この扉を開けておくれ」
アンリエッタは扉へと駆け寄った。
「ウェールズ様? 嘘、貴方は裏切り者の手にかかったはず……」
震える声で、そう口にすると
「それは間違いだ、ぼくはこうして生きている」
「嘘、嘘よ。どうして」
「ぼくは落ちのびたんだ、死んだのはぼくの影武者さ」
「そんな……こうして風のルビーだって……」
アンリエッタは自分の指にはめたウェールズの形見である指輪を確かめる
「敵を欺くにはまずは味方から、というだろう? でも、信じられないのも無理はない
では、ぼくがぼくである証拠を聞かせよう」
アンリエッタは震えながらウェールズの言葉を待った。
「風吹く夜に」
ラグドリアンの湖畔で何度も聞いた合言葉
アンリエッタは返事をすることも忘れ、ドアを開け放つ。
何度も夢見た笑顔がそこにあった。
「ウェールズ様っ……! よくぞ……よくぞご無事で……」
その先は言葉にならない、アンリエッタはウェールズの胸を抱きしめ
そこに顔をよせむせび泣いた。
ウェールズはその頭を優しく撫でる
「相変わらずだね、アンリエッタ。なんて泣き虫なんだ」
「だって……だって! てっきり貴方は死んだものだと! どうしてもっと早くにいらしてくださらなかったの?」
「敗戦のあと、巡洋艦に乗って落ち延びたんだ。敵に居場所を知られてはいけないからずっと隠れてたんだよ。
きみが一人でいる時間を調べるのに時間がかかってしまってね。まさか昼間に謁見待合室に並ぶわけにはいかないだろう?」
いたずらっぽくウェールズは笑った。
「昔と変わらず意地悪な方……。どんなにわたしが悲しんだが……、寂しい想いをしたか、あなたにはわからないでしょうね」
「わかるとも。わかるからこそこうやって迎えにきた、もう寂しい思いはさせないよ、アンリエッタ」
時がたつことも忘れ、二人はしばらく抱き合った。

「遠慮なさらずに、この城にいらしてくださいな。今のアルビオンにはこちらへ攻め込む力はありません。
この城はハルケギニアのどこよりも安全です。敵はウェールズさまに指一本触れることはできませんわ」
「そういうわけにはいかないんだ」
ウェールズはにっこりと笑う
「どうなさるおつもりなの?」
「ぼくはアルビオンへ戻らなくてはならない」
「何を仰るのですか!? 今の命を捨てるだけではないですか!」
「それでも、行かなくちゃならないんだ。アルビオンを、レコン・キスタの手から解放しなくちゃならないんだ」
「ご冗談を!」
「冗談なんかじゃない。そのために今日きみを迎えに来たんだ」
「わたし……を?」
「そうだ。アルビオンを解放するにはきみの力が必要なんだ。
国内には仲間がいるが……、やはり信頼できる人が少ない。いっしょに来てくれるかね?」
「それは……できることならそうしたいのですが、わたくしはもうこの国の女王なのです。
国と民が肩にのっているのです、無理を仰らないでくださいまし」
しかしウェールズはあきらめない、さらに熱心な言葉でアンリエッタを説き伏せにかかる。
「無理は承知さ、でも、勝利にはきみが必要なんだ。敗戦の中で気付いた。
アルビオンとぼくには『聖女』が必要なんだ! 」
アンリエッタは体の底から熱いものがこみあげてくるのを感じた、
愛しい人に必要とされている、酔いとさみしさが内なる衝動を加速させる。
しかし、アンリエッタは必死に踏みとどまり答えた。
「これ以上私を困らせないでくださいまし、今、人をやってお部屋を用意いたしますわ
このことは明日また、ゆっくり……」
ウェールズは首を振る。
「明日じゃ、間に合わない」
それからウェールズはアンリエッタがずっと聞きたがっていた言葉をあっさりと口にした。
「愛している、アンリエッタ、だからぼくと一緒に来てくれ」
アンリエッタの心が、ラグドリアンの湖畔でウェールズと逢引を重ねていたころと同じ鼓動のリズムをはじき出す。
ゆっくりと、ウェールズはアンリエッタに唇を近付けた。
何かを言おうとしたアンリエッタの唇がウェールズのそれに塞がれる。
アンリエッタの脳裏に甘い記憶が洪水のようにあふれ出る
そのためアンリエッタは己にかけられた眠りの魔法に気づくことができなかった。
幸せな気分のまま、アンリエッタは眠りの世界へと落ちていった。

一方そのころ……
トリステイン魔法学院の女子寮の一室で、ルイズ達が見守る中、
モンモランシーが一生懸命に調合にいそしんでいた。
「出来たわ! ふぅっ! しっかし苦労したわー!!」
モンモランシーは額の汗を拭いながら、椅子の背もたれにどかっと体を預ける。
テーブルの上の坩堝には調合したばかりの解除薬が入っている
「このまま飲めば解除されるんだな?」
「ええ」
バージルはその坩堝を手に取ると、シルフィードの鼻先に突きつける
「飲め」
「やだやだ! お薬なんて飲みたくないのね! シルフィはいたって健康なのね!」
シルフィードはぶんぶんと首を横に振る。ここまできてまだ手間を取らせるのか。
バージルがギリと奥歯をならし眉間にしわを寄せる。
「言ったはずだ、これ以上聞きわけがないことを抜かしたら……」
バージルがそこまで言うと、シルフィードは上目遣いでバージルを見つめる。
「きゅい……、じゃあ、おにいさま、約束して? 飲んだらキスして欲しいのね」
「……いいからさっさと飲め」
「約束なのね……きゅい」
そう言うとシルフィードは坩堝を受け取った。
しばらく躊躇しているようにも見えたが、やがて覚悟を決めたようにぐいっと飲みほした。
ぷはー! っと飲みほしたシルフィードは、ひっくと一つ、しゃっくりをした
「ふぇ……」
それから、憑き物が落ちたように、けろっと元の表情に戻る、
目の前のバージルに気がつくと、顔がみるみる赤くなり、唇をかみしめると……
きゅいきゅい喚き立てるわけでも、怒り出すわけでもなく、静かに両手で顔を覆った。
「う~、恥ずかしいのね~……おにいさまにあんなことやこんなこと……きゅいきゅい」
元に戻ったにしてはなんともおとなしい反応である、自分がしてしまったことの恥ずかしさにもっと騒ぎ立てるものだと思っていたが……
皆の予想とは裏腹にシルフィードは赤くなった顔を両手で覆いぶつぶつと呟くだけでそんな様子は一切見られなかった。
「でもしちゃったことはしちゃったことなのね、今考えても仕方がないのね!」
シルフィードは持前の前向き思考(?)で顔を上げると何を思ったかバージルに向かい唇を突き出した。
「はい、ちゃんと飲んだの、それじゃ、おにいさま、キスしてほしいのね! 約束っ! きゅいきゅい!」
「……ッ!?」
「「「んなっ!?」」」
その行動に一同が凍りつく、バージルは即座にモンモランシーの胸倉を掴み、怒鳴りつけた。
「どういうことだ! 何も変わらんぞ!」
「そ、そんなはずないわよ! 調合は完璧よ!」
モンモランシーはそう言うと、はっと気が付いたように坩堝を指差した。
「そ、そうだ! きっと飲んだ量が足らないのよ! だから中途半端にしかっ!」
その言葉を聞いたルイズがすぐさま坩堝の中身を確認する、中身は……
「ないわ……全部飲んでるわよ!」
「そんなっ! それじゃどうして!?」
青くなるモンモランシーにシルフィードが首をかしげながらけろりと口を開いた。
「きゅい? だからちゃんと元に戻ったのね、まさか惚れ薬を飲んじゃうなんて! 
シルフィ一生の不覚なのね! きゅいきゅい!」
そこまで理解している、ということはやはり解除薬の効果はきちんとあったようだ
「でもぉ、シルフィのおにいさまを想う気持ちは何一つ変わらないのね! 
そりゃたくさん節操無いことしちゃったけど! 後悔はあんましないのね!」
あっさりと言ってのけるシルフィードをみて全員が唖然とした表情を浮かべる。
「ということはつまり……」
ルイズの後に続く様にギーシュが呟く
「本当に惚れた?」
「ふざけるな! 今までの苦労は――ッ!?」
怒りに声を荒げるバージルの反論はそこで中断される、
またもやシルフィードが身を乗り出し強引に彼と唇を重ね口を塞いだのだった。
目の前で起こったその光景にその場の空気が凍りつく、全員目を大きく見開き、ぽかんと開いた口がふさがらない、
はたから見れば、それはまるで恋人同士がするような長い情熱的なキスのようだ。
「ん~~~……ぷぁっ」
シルフィードがバージルから唇を離す、絡みあった二人の唾液がつぅっと糸を引く、
口元に垂れたそれをシルフィードが指で絡め取るとペロっと舌で舐めとった。
一体どこで覚えてきたのか、なんとももはや官能的な場面である、美男美女の組み合わせだけに破壊力は半端ではない。
ギーシュとモンモランシーは顔を真っ赤にしながら呆然と立ちすくんでいる。
――バタン、っと誰かが倒れる音、その音に気が付いたキュルケが急いで振り向く、
どさくさに紛れシルフィードと感覚の共有を行っていたのであろうか、
耳まで真っ赤になったタバサが大量の鼻血を流し、目をくるくるとまわしながら気を失っていた。
「タっ、タバサ! 大丈夫!? ちょっと! 返事なさいな!」
キュルケが必死にタバサを介抱する、その横をふらりとルイズが通り過ぎ
おぼつかない足取りで静かに部屋を退出していった。
「ふぅっ、満足したのね、それじゃあ帰るのね、きゅいきゅい! こんなに長く変化したのは初めてなのね!
疲れちゃった、それじゃあおにいさま! また遊びにくるのね~!」
そういうと軽い足取りでシルフィードが窓から飛び降りる、そしてぼいんっと音を立てると
たちまち竜の姿になり、夜の闇の中へ消えて行った。
どうやら状況は改善されないらしい、彼には珍しくなにもかもあきらめたような表情になると
「もうどうとでもなれ……」
ぐったりと肩を落とし力なく呟いた。
モンモランシーの部屋を飛び出したルイズはアウストリの広場のベンチにぐったりと座っていた。
その空間だけドス黒い負のオーラが満ちている。
「おい」
「なっなによ……なんか用?」
探しに来たバージルが無遠慮に声をかけると、ルイズが不機嫌さがありありと満ちた様子で答えた。
「いつまでそうしているつもりだ」
「なんでもいいでしょ、あんたには関係ないわ」
ぐすっと鼻をすすり膝を抱えて丸くなってしまった。
「なぜヘソを曲げている」
「だって! 女の人と! シルフィードとキスしたじゃない!」
ルイズは今にも泣きそうな表情でバージルに怒鳴りつける
しかし、バージルは心底呆れたような表情を浮かべた。
「それだけでか……? そのことに何故お前がヘソを曲げねばならない、それに、不本意だがあれで二回目だ」
「に、に、二回目ですってぇ!?」
それを聞いたルイズががばっと立ち上がる、そしてバージルの胸板を拳を握りしめ叩き始めた。
「ばかっ! ばかばか! なによ! なんでそんなことするのよっ!」
「何故お前が機嫌を損ねる必要がある、俺が一番迷惑しているんだ」
バージルは思い出すのも忌々しいとばかりに吐き捨てる、
「言っておくがシルフィードは竜だ、人間ではない」
「違うの! そういう問題じゃないもん!」
「……何が問題だというのだ……くだらん」
泣きながら首を横に振るルイズを見てうんざりとした表情を浮かべると
泣きやむまでルイズの癇癪を受け続けていた。

「気が済んだか?」
「……手が痛いわ」
赤くなった手をぷらぷらとさせながらルイズが呟く、
無抵抗だったとはいえバージルを甘く見ていた、殴っている内にだんだんと手が痛くなってきたのだ、
手が痛くなるにつれ、ルイズもだんだんと冷静になってきたようだった。
原因はなにもかもあの忌々しい惚れ薬、そしてシルフィードだ、バージルに非はない、むしろ被害者だ。
あの光景を見たとき、目の前が真っ白になった、その後、自分を心配して(?)探しに来てくれたバージルに当たり散らしてしまった。
シルフィードなんかに取られた気がしてものすごく悔しくなってこんなことをしてしまったのだ。
少しだけ申し訳なく思ったのかちょっと拗ねたようにルイズは謝る。
「その、ごめんなさい、わたしもう怒らない、だって、あんたに非はないものね」
「気がすんだらさっさと部屋のカギをよこせ、ドアが無くなってもいいなら別だがな」
上目遣いに謝るルイズを冷然と見下ろしながらバージルが右手を差し出す、
それを聞いたルイズが顔を真っ赤にして再び怒りを再燃させた。
「なっ、なっ、なによ! 心配して探しに来たんじゃなかったの!?」
「心配? なんの話だ」
軽く首をかしげ本当に何のことだかわからない、と言いたげな表情でバージルが聞き返す
本当はバージルはあの後すぐに部屋に戻ったのだが、生憎鍵がかかっていた、解除できるのはルイズだけだ、
そのためルイズをさがしここまで来ていたのであった。
「ばか! もう知らない! あんた今日は外で寝なさい! んも~~!!」
「はいはい、そこまでよ」
ルイズが再び怒りを爆発させバージルに殴りかかった時
いまだぐったりとしたタバサを背負ったキュルケが現れ、ルイズをたしなめる、
「なによっ! あんたたち見てたの!?」
「まぁね~、こんなに貴重な場面を何度も見れるなんて、今日はツイてるわね」
んっふっふーとキュルケが笑った、
「特にシルフィードとのキスシーン……あぁ、一度でいい! あぁいう身も心もとけそうな情熱的な――いたっ!」
両手を胸の前で組み、うっとりするキュルケの頭をタバサが杖で叩き中断させる
頭をさすりながらキュルケが意識を取り戻したタバサに唇をとがらせながら聞いた。
「も~、痛いじゃない、それでタバサ? あの子と感覚を共有してたんでしょ? ね、ね、どうだった?」
その言葉とともにタバサの顔が再び赤くなってゆく、またも鼻血がつぅっと流れ始めた。
「わぁーーー!! キュルケッ! あんたちょっといい加減にしなさいよ!!」
ついに我慢しきれなくなったルイズが杖を抜きキュルケを追いかけ回し始める、
ルイズとキュルケの追いかけっこを少々呆れたような顔で見ていたバージルは、小さくため息をついた。

「はぁ、で、でも、懐かしかったなぁ、あのラグドリアン湖、散々だったけど」
放っておけばまたいつキュルケがキスの話題を蒸し返すか分からない、
その流れをなんとでも阻止するために、無理やりルイズが話題を変える。
「あら? 行ったことあったの?」
「ええ、十三歳のころ、姫様のお供で行ったことがあるわ、
とっても盛大な園遊会が開かれたわ、すっごく華やかで、楽しかったなぁ」
ルイズは記憶の底をたどるように語り始める。
「あのラグドリアン湖はね、ウェールズ皇太子と姫様が出会った場所なのよ、
夜中に姫様に身代わりを頼まれたけど、その時に逢引していたのかもしれないわね」

ルイズがそう言った時にキュルケがようやく思い出した、といった表情で頓狂な声を上げた
「あぁーー!! なんであたし今まで忘れてたのよ!! あれってウェールズ皇太子だったわ!」
「なっ、なによ? 急に、ウェールズ皇太子がどうしたの?」
興味なさげにそっぽを向いていたバージルやタバサも少々驚いたのかキュルケを見た。
「そうそう、どっかで見た顔ねーって思ってたら……いやー、そうだった、あれはアルビオンの色男
ウェールズ皇太子さまじゃないの」
どっかでみた、どころかつい最近の話だ、それを忘れているとはこの女の頭も相当なものである
しかしキュルケはそんなことはつゆにも気にしていないのかうんうんと頷くだけだった。
「『あれはウェールズ皇太子だった』ってどういう意味?」
キュルケはルイズとバージルに説明した
ラグドリアン湖に向かう時にトリステインの方角へ向かう馬に乗った一行にすれ違ったこと、
その時みた顔に見覚えがあったがうまく思い出せなかったこと。
「今思い出したわ~、あれはウェールズ皇太子よ、でもおかしいわねぇ、あの時たしかにダーリンにトドメを刺されて……」
言い方は悪いがほぼ事実だ、あの時、たしかにバージルに心臓を貫かれ絶命したはずだ。
なのに生きているとはどういうことだろうか?
「なんであんた今までそれに気がつかないのよ!」
「ん~、ほらあたしって、今を生きてるから? 亡くなった男のことなんて覚えちゃいないのよ」
そう言うとキュルケは自慢の赤い髪を豪快にかきあげる。
それを少々呆れた表情で見ていたルイズ達だったが、頭の中で何かが結びついた。
それはバージルやタバサも同じだったらしい、
「なるほど、アンドバリの指輪、か」
バージルはそう言うとルイズを見る
「レコン・キスタ、件の連中の仕業か、どうするんだ? 奴らの狙いはおそらく女王だ」
非常事態とも呼べる状況にも関わらずバージルはどこか他人事のようにゆっくりとした口調でルイズに聞いた
「どうって! 姫様を助けなきゃ!」
ルイズは当然のように声を張り上げる、バージルがやれやれと言った風に首を横に振った。
「今からどうするつもりだ? 馬では間に合わん」
「それはっ……」
ルイズが言葉に詰まる、そしてゆっくりとタバサをみた、この状況、アイツを呼ぶしかない……
「ぅ~~……タバサ……お願いしていい?」
「……わかった」
タバサがコクリと頷くとピィっと口笛を吹く、するとすぐさまシルフィードがバージル達の前へ降り立った。
出来ればしばらくの間、見たくない顔だったが……場合が場合だけに仕方がない。
シルフィードはバージルの姿を確認するや否や、すぐさま『変化』を使い、人間の姿になると彼に抱きついた
「もうっ、おにいさま? シルフィに会いたいならおねえさまがいない時にお願いなのね! ――んぎゃ!」
シルフィードの頭にタバサの杖が勢いよく叩きつけられる
だんだん威力が増して行っているのは気のせいではないだろう、
大きなコブを作りしゃがみ込んだシルフィードにタバサが命令を下す、
竜の姿になったシルフィードに乗り込み、一行はトリスタニアへと急行した。


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