あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

魔法少女リリカルルイズ40


空を飛ぶ竜の背で感じる風は一時も休まることなく頬を叩き髪をなびかせる。
目に入りそうになった髪の一筋をかき上げたキュルケは指の間から見えるひときわ大きな雲の中におぼろげに光る何かを見つけた。
髪に当てた手をそのままに目をこらしていると、それは横に広がる輪郭を雲の中に映していき、なんの支えも無く宙に浮くその姿を見せていく。
「見つけたわ。あれ」
それこそがアルビオン。霧のベールをまとうが故に白の国とも呼ばれる浮遊大陸である。
その大陸にそびえる山に積もった万年雪が日の光を照り返し、まるで自らの内から発していたかのように輝いていたのだ。
キュルケが見たものと同じ光を見たタバサが、自らの使い魔である風竜の耳元で囁くと、それは翼を大きく羽ばたかせ首をアルビオンに向けた。
アルビオンの周りを囲む雲が後ろに流れるたびに、それまで淡い影だった大陸は徐々にはっきりとした輪郭と色を得ていく。
「ギーシュ、出番よ」
「ふふん。ぼくのヴェルダンデにまかせたまえ」
シルフィードの背に乗りラ・ロシェールから飛び立ったものの、キュルケ達はルイズがアルビオンのどこに行ったかは全くわからない。
それを見つけるための決め手こそギーシュの使い魔ジャイアントモールのヴェルダンデなのだ。
「さあ、頼むよ。ヴェルダンデ」
ギーシュが使い魔に命令する、と言うより麗しい女性のように頼まれたヴェルダンデは鼻を少し上げて左右に振り始めた。
モグラは元々嗅覚に優れた動物である。ジャイアントモールの嗅覚はさらに優れており、地中深くにある宝石を探し出し、嗅ぎ分けることすらできる。
それならヴェルダンデの嗅覚を使って水のルビーを見つければ、それをつけたルイズも見つけることができる。
ギーシュはそうラ・ロシェールでヴェルダンデと再会した後に蕩々と語ったのだ。
「ふんふん、なるほど」
「どう?ルイズはどこにいるの?」
ギーシュはさらさらの髪をかき上げ、ふっと鼻で笑うと答えた。
「わからない、だってさ」
「タバサ、ちょっと宙返りして。余計なもの捨てるから」
それを聞いたタバサは全く躊躇することなく真顔で頷く。
「わ、わ、わー、ちょっと待ってくれたまえ」
ギーシュの必死の叫びに何か思うことがあるのか、タバサはシルフィードの傾きかけた体を水平に戻す。
ただ、後ろを向いてギーシュを見る目は一見いつもと変わらないものであったが、被告人の言葉を聞く冷酷な裁判官のようでもあった。
「いいかね。いくらヴェルダンデの鼻が優れていると言ってもアルビオン全部の宝石の臭いが分かるほどじゃないんだ」
「それで?」
キュルケの二つ名は微熱。
だが、その言葉は吹雪よりも冷たい響きを秘めていた。
──つまらないことだったら落とす
とでも言いたげに。
「アルビオン全部はムリだけど見える範囲くらいなら十分嗅ぎ分けられる。それでも目で探すよりはずっと早いし確実なはずさ」
ギーシュはさらに説明を続ける。
ここで落とされたらメイジといえどもたまったものではない。
フライやレビテーションの魔法を使うにも限界はあるのだ。
「だからアルビオン上空をくまなく飛んで欲しい。必ず見つかる。いや、見つけてみせる」
「それしかないわね」
もう一度アルビオンを見たキュルケは溜息を一つついた。
ヴェルダンデが現れた時にはアルビオンが見つかればすぐにわかるというように聞かされていたのに随分と話が違ってしまった。
だからといってキュルケはここでルイズ探しをやめる気はない。
それどころか絶対に見つける気でいた。
「あなたが起きていればもっと別の方法もあったかも知れないわね」
キュルケは胸に抱いていたフェレットのユーノの背を毛並みに沿って撫でる。
まだ死んではいない。
しかし血を流しすぎた白い獣からは温かさよりも冷たを感じる。
「思ったとおりにはいかないものね」
シルフィードが雲の中に滑り込んだ。
視界が一瞬だけ白く覆われ、すぐに晴れる。
雲を抜けるとその下にはもうアルビオンの大地が広がっていた。


──思ったとおりにはいかない
まさしくその通りだ。
キュルケとギーシュは竜に乗り慣れていない。
タバサもシルフィードの主人ではあるものの未だ竜の乗り手として熟練しているとは言いがたい。
特に移動するアルビオンまでの航路の知識は船乗りには及ばないし、フネとの速度差も実感してはいなかった。
故に彼女らが思ってもいないことが起こっていた。
窓の外を見るルイズの目に映るいくつもの雲は流れては消え、また消えては流れる。
だが、それは瞳に映るのみで心は全く違う二つのものを見ていた。
1つは彼女の婚約者、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
手を引かれてラ・ロシェールの港に走っていくのはまるでおとぎ話の1シーンのようでもあり、夢のようでもあった。
彼がいればこの任務を必ず果たせると確信できる。
それに彼は魔法も満足に使えない自分のことを覚えていてくれたし、結婚まで申し込んでくれた。
その時のことを思いだし、ルイズは頬を赤らめ、ほうと溜息をついた。
もう一つは彼女の使い魔、ユーノ・スクライア。
剣と魔法を操り、無数の傭兵の前に立つ彼の後ろ姿は自分よりもずっと年下なのにとても頼もしく見えた。
彼は今一番近くにいて欲しい人。
だけどその後ユーノは追いかけては来なかった。
その時のことを思いだしたルイズはレイジング・ハートを固く握りしめた。
(ユーノ、私はここよ。こっちよ)
声は届かなくても念話なら届くかも知れない。
届けば空を飛べるユーノなら必ず追いかけてくるはず。
(早く来て)
ワルドの申し出にどう答えるか。
その答えはもう決まっていた。
だけど、どうしても言えずにいた。
ワルドの前に行こうとする足は止まり、答えを伝えようとすれば喉がつまる。
──ユーノならきっと喜んでくれるわよね
そうすればきっと答えられるような気がした。
ルイズは再び外を見る。
青い空が見えた。流れる白い雲が見えた。眼下には大地が見えた。
アルビオンはまだ見えなかった。
ユーノはどこにも見つからなかった。


これはシルフィードがアルビオンの大地に影を落としたのと同じ時刻のこと。
ルイズの乗るフネは未だアルビオンを離れた空にあった。


ヴェルダンデの鼻があるとはいえ、どこにいるかわからないルイズを見つけるにはアルビオン中を飛び回るしかない。
しかしシルフィードの背に乗り、空を飛ぶギーシュ達はルイズを見つける前に逆に見つけられていた。
「うわああ、来た、来た、来た!」
酷くうろたえてギーシュはちらちらと後ろを伺う。
「ちょっとは落ち着きなさい」
「そりゃそうだけど」
アルビオン大陸中央部に入ってからすぐの事だ。
たまたま後ろを見ていたギーシュは雲間に小さな影を見つけた。
何かと考えているうちにどんどん接近してくるそれを見続けていたギーシュは思わずそれはもう情けない顔──モンモランシーには見せなくない──をしてしまった。
それは風竜だったのだ。
ただの風竜ではない。背中に人を乗せている。つまりは竜騎士だ。
アルビオンはほとんどレコン・キスタの勢力下にあるという。
だったら、こんなところを飛んでいるのは間違いなくレコン・キスタ側の竜騎士だ。
杖を振りかざして「降りろ」と合図を送っているのが見えるほどに近づいたが、冗談ではない。
アルビオン王家に接触しようとしているトリステイン貴族が捕まってただですむはずがないではないか。
ルイズと一緒にいるワルドがレコン・キスタに着いていると予想されている今ならなおさらだ。
「もっとスピードは出ないのかい?このままじゃ追いつかれる」
「無理」
完結に答えたタバサの後ろでまたもギーシュは情けない声を上げる。
シルフィードも風竜ではあるがまだ子供。しかも、こちらは3人乗りで向こうは軽装の1人だけ。
どう見ても向こうの方が速い。
「ど、ど、ど、どうするんだよ」
追いつかれるのも時間の問題だ。
これ以上速度が上げられないシルフィードの下を村が通りすぎ、街道が通りすぎる。
草原を通り過ぎた後は森が広がっていた。
タバサは握りしめた杖の頭を上に向ける。
「私に考えがある」
タバサがあの時──学院で大砲を持ったゴーレムと戦った時──と同じように呟いた。
サウスゴータ地方に配属された竜騎士である彼はいつもの通り哨戒を続けていた。
すでに王国軍が一掃されたこの辺りの任務で退屈をしていた彼は、大あくびの途中で思いがけないものを見つけた。
こんなところを風竜が飛んでいたのだ。
しかもその背に乗っているのはレコン・キスタに参加しているとは思えないどこかの学生らしき人だ。
つまりは不審竜と不審者である。
ぴしゃりと頬を叩いて眠気を晴らした彼は手綱を操り、風竜の速度を上げ不審な風竜を追った。
近づいて合図を送るが速度をゆるめる気配はない。
それどころか速度を上げて逃げようとまでしたのだ。
当然彼も任務を果たすべく速度を上げて追う。
逃げられるはずがない。風竜の大きさもさることながら乗っている人数の差から考えても無駄なことだ。
そうしてサウスゴータ近くの森林上空まで来た時だ。
逃げる風竜の周囲にいくつかの光点が突如発生したのだ。
「なんだ?」
彼もメイジだ。
その光点が何かはすぐに知れた。
魔法で作られた火球がカーブを描きながら飛んでくる。
自動的に目標を追いかける火の魔法、フレイムボールだ。
「くっ」
この風竜は残念ながら使い魔ではないが彼も竜騎士になったばかりの新米ではない。
音に聞こえた無双ともうたわれるアルビオンの竜騎士なのだ。
普段の訓練通りにマジックアローを飛ばし、一つずつ火球にぶつけ相殺していく。
「やるな」
その火球の起こす爆発に彼はいささか舌を巻いた。
火球の速度、大きさから考えても腕の悪いメイジではない。
おそらくトライアングル以上のメイジだ。
爆風が晴れると逃げる風竜が急激に上昇を始めていた。
「これを狙っていたか」
上空には折り重なった分厚く、濃い雲があった。


「しっかり捕まって」
タバサはそうぽつりといつものように言うと、キュルケの返事も聞かずにシルフィードの首を真上と見まごうくらい高く上げた。
「ひっ」
後ろからのギーシュの悲鳴を聞きながらキュルケはシルフィードの背びれに両手でしっかりとしがみついた。
途端、目の前に厚すぎて灰色になった雲が迫る。
その分厚さにキュルケは目の中に雲が入ってくるような錯覚を覚えて思わず目をきつく閉じた。
それは手ばかりでなく足でもしがみついているギーシュや不思議な掴まり方をしているジャイアントモールのヴェルダンデも同じだった。


逃げ続ける風竜が雲の中に隠れても彼はまだ余裕があった。
相手の風竜を操る乗り手の腕は悪くない。いや、彼の所属する竜騎士団の中でも中の上には位置するだろう。
まるで風竜に言い聞かせるように自在に操っている様子から考えると、あの風竜は使い魔なのかも知れない。
だが、いかんせんあの風竜には荷物が多すぎたし、乗り手は空戦の経験に不足しているようだ。
分厚い雲に隠れるという発想はいいが、入り方がいかにもまずい。あれでは飛ぶ方向がはっきりわかってしまうではないか。
先ほどの魔法の応酬で距離は開いてしまったが追跡に問題はない。
彼もまた手綱を引いて竜の首を上げ、雲に飛び込んだ。
──このままやつの頭を押さえる
視界が雲に覆われても焦りはなかった。むしろ余裕すらあった。
このような時には経験がものを言う。
その差を確信したが故に彼は目前にぼんやりとした竜の影を見つけた時、笑みさえその顔に浮かべた。

首の後ろをひんやりとしたものが掴んだ

それが何かを確認する暇さえなく、突如無数の針に首を刺されたような痛みを感じた瞬間、彼の心と体は力を失い自らの竜の背に身を横たえた。


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