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ルイズと無重力巫女さん-15



トリステイン魔法学院で行われたフリッグの舞踏会から約一週間が過ぎた。
勉強もこれからだという時期なのに魔法学院の生徒達はあの時が忘れられず、この教室でも何人かがそのときの思い出を話していた。

ある者は恋人が出来たとか、とても美味しい酒やご馳走を楽しめた等々色々だった。
そんなホンワカとした雰囲気の中、ただ一人ルイズだけが何かを考えているような表情でイスに座っていた。
フリッグの舞踏会があったその日からルイズの頭の中には学院長のある言葉が残っていた。
それは春の使い魔召喚の儀式で喚んでしまい、今では使い魔ではなく居候と化している霊夢へ放たれた言葉であった。

――――君に記されていたというルーンはこの神の左手と言われた『ガンダールヴ』のルーンじゃ。
    ―――そう…『虚無』の使い魔であり、ありとあらゆる武器を使いこなす伝説のガンダールヴ!!

学院長はハッキリとそう言った。ガンダールヴなら私でも知っている。
大昔にかの始祖ブリミルと共に東にある『聖地』へ赴いたという始祖の使い魔の内一人。
ありとあらゆる武器と兵器を使いこなしブリミルの盾となった。
そしてそのルーンが、霊夢についている『筈』らしいが…


   ―――馬鹿言わないでよ!それにアンタの左手にルーンが刻まれてるでしょ?それが使い魔の証拠…

―――そんなの何処にも無いけど?

               ――…え?嘘、なんで!?

最初に自室へ連れて行ったときにはちゃんとキスしたはずなのにルーンが左手の甲から消え失せていた。
だからそのときにきっとガンダールヴのルーンとやらも消えてしまったのだろう。
ミスタ・コルベールはそのルーンをスケッチしたそうだが…今となってはもう関係ない。
(というよりも…私が伝説の『虚無』の担い手のわけがないし…。)
そう、ガンダールヴを召喚できるのは『虚無』の系統を操れる者と言われている。
『虚無』事態は既に歴史の彼方に消え去り、本当にあったのかさえ良くわからない。



ルイズがそんな事を考えていると、一人の教師が突然ドアを開けて入ってきた。
と同時に、今まで喋っていた生徒達も黙ってしまい全員緊張した顔で教壇に注目する。

入ってきた教師はミスター・ギトー。
黒い長髪に漆黒のマントと、いかにも絵本で悪役として出てきそうな姿をしている。

体に纏っている雰囲気は冷たく、生徒達どころか給士や衛士、教師達からもあまり人気が無い。
現にルイズ達の学年を初めて見たときにも「今年は不作だな。」と馬鹿にしていた。
ギトーは教壇に立つとゴホンと咳払いをし、生徒達を見回す。
そして一通り確認し終えると、満足そうに頷き口を開いた。
「…では授業を始める。皆が知っての通り、私の二つ名は『疾風』。疾風のギトーだ。」
ギトーは軽く自己紹介をすると、怠そうな顔で教壇の方を見つめているキュルケへと視線を向けた。
教師の視線に気づいたキュルケはハッとした顔になると先程の態度を誤魔化すかのように軽く咳払いをする。
「ふむ…突然だがミス・ツェルプストー。この世で最も最強の系統を君は知ってるかね?」
「え?」
突然の質問に、一瞬だけ言葉に詰まってしまったがすぐにいつもの得意げな顔になるとキュルケはその質問に答えた。
「簡単ですわミスター・ギトー。伝説と豪語されている『虚無』とやらじゃないんでしょうか?」
いつものように小馬鹿にした感じでキュルケはそう言ったが、ギトーはそれを首を横に振って否定した。
「君はいつからミスタ・コルベールの様な学者になったのだ?私は現実的な答えを求めているのだよ。」
馬鹿にするつもりが、逆に馬鹿にされてしまったキュルケは少しだけカチンときた。
「それはすいません…なら答えは『火』ですわ。全てを燃やし尽くせる威力とその情熱は如何なる存在にも匹敵します。」

『微熱』の二つ名を持つ彼女らしい答えに、ギトーは唸ったが…すぐに口を開いた。

「確かに、『威力』だけを考えればあながち間違ってはいないが。残念ながらそれは違う。」

ギトーはそう言うと腰に差していた杖を勢いよく引き抜き、キュルケの方へ顔を向けた。
「試しに、この私に『火』の魔法で攻撃してみたまえ。」
その思いがけない言葉に、キュルケどころか他の生徒達もギョッとした。
「どうしたミス・ツェルプストー?君は『火』系統が得意では?」
もはや挑発ともとれるその言葉に、キュルケが黙っていられるはずが無かった。
「火傷どころか、退職騒ぎになるような状態になっても知りませんわよ?」
キュルケはそう言うと胸の谷間から杖を引き抜き、ギトーの方へと向ける。
しかしギトーはそれには動じず、鼻で笑うと更に言葉を続けた。
「面白い、今まで私に挑んできた『火』系統の生徒達も君と同じようなことを言っていた。」
それを聞いたキュルケは目を細め、いつもの小馬鹿にしたような笑みを消し詠唱を開始した。
ある程度詠唱をすると杖を軽く振った。すると目の前に差し出していた右手の上に小さな火の玉が現れた。
次いで更に詠唱をしていくとそれに伴い火の玉も大きくなっていき直径1メイルほどの大きさとなった。



他の生徒達はそれを見て慌てて机の下へと隠れた。
あの大きさともなると爆発したときの範囲はルイズの失敗魔法並である。
キュルケは深く深呼吸をすると右手首を回転させ、胸元にひきよせると思いっきり火の玉を押し出した。
唸りを上げて飛んでくるソレをギトーは避ける動作すら見せず杖の先を火の玉に向けると剣を振るようにして薙ぎ払う。
直後、烈風が舞い上がり火の玉がかき消えた。と同時にギトーは疾風の如くキュルケの元へと駆け寄る。
キュルケが気づいたときには既に遅く、ギトーの足払いにより体勢を崩し、そのまま地面へと仰向けに倒れた。

ギトーは杖を戻し、軽く呼吸をすると頭だけを出して様子を見ていた生徒達の方へと体を向けた。
そして舞台の上に立った大役者のようにおおげさに腕を上げ、何か言おうと口を開こうとした時――――



「 あ や や や や ! 失礼いたしますぞ!」



突然ミスター・コルベールがもの凄い勢いでドアを開けて教室に入ってきた。
その体に纏っているローブにはレースの飾りや刺繍が躍っており、頭には馬鹿でかいカツラをのっけていた。
コルベールは早足で教壇の所にまで来ると軽く咳払いをし、辺りを見回した。
突然の乱入者に活躍の場を奪われ唖然としていたギトーはハッとした顔になるとコルベールへと詰め寄った。
「どういうおつもりですかミスタ・コルベール?今は授業中です。」
詰め寄ってきたギトーに対しコルベールは陽気な口調で返事をした。
「おぉミスター・ギトー!すいませんが今日の授業は全て中止ですぞ!」
コルベールの口から放たれた言葉は周りの生徒達にも伝わり、ざわ…ざわ…と辺りが少しだけ騒がしくなる。
それから数秒おいてからコルベールはウンウンと頷くと怪訝な顔をしているギトーを放って説明をし始めた。
「えー皆さんに嬉しいお知らせがありますよ。」
もったいぶった調子でそう言うとエッヘンとのけぞった、しかしその拍子に頭からカツラが取れてしまった。
「なんと今日はトリステインの花であるアンリエッタ姫殿下がこの魔法学院の視察に――」
だがそれに気づいていないのかコルベールは両腕を振り上げながら説明を続けた。

それを見て今までざわついていた生徒達の間からクスクスと小さな笑い声が聞こえてきた。
やがてそれは他の生徒達へと伝わり、大きな笑い声となっていく。
「―その為今日は各自歓迎のための準備…え?ホアァ!?」
笑い声に気づいたコルベールはふと足下を見てみると自分が頭に乗せていたカツラがあるのに気が付いた。
思いの他驚いているコルベールへ向けて、タバサがポツリとこう呟いた。

「――滑りやすい。」

その瞬間、タバサの顔に咄嗟にコルベールが投げたカツラが直撃した。




場所は変わり、トリステイン国内のとある山奥。
太陽が出ているのに空を覆うように生えた大木の所為で森全体がとても薄暗く、不気味な雰囲気を出している。
こういう場所は狼や野犬、そしてある程度の知能を持った恐ろしい人外にとっては快適な場所なのだ。
そんな危険な場所を大きな篭を持った女の子が自分の腰ほどの高さもある雑草だらけの山道を歩いていた。

この地方を管轄している領主もこんな山奥に道を作ろうとはしないので荒れ放題である。
篭には少女の好物である蛙苺と呼ばれる野苺が沢山入っていた。
家を出るとき、両親からは森の奥には入ってはいけないときつく言われていたが、以前に内緒でココヘ来たことがあったので気にしなかった。
…村の近くに生えているのは酸っぱかったが、きっとこの山奥に生えているコレはおいしいに違いない。
少女はそんな事を思いながら自分の家がある村を目指し歩いていた。


その姿を、草むらで身を隠しじっくり観察している人外達がいる。『オーク鬼』である。

オーク鬼の姿は二本足で立っている豚―――という例えがピッタリと当てはまっている。
でっぷりと太った大きな体には狼や鹿から剥いだ皮を纏っていて、首には荒縄で人の頭骨で作った首飾りを下げていた。
身の丈は2メイル、体重は人間の優に5倍とかなり厳つく、手には大きな棍棒を握りしめている。
このオーク鬼達は自分たちの巣へ帰ろうと、ふと人間の匂いがしたため近づいてみたら丁度良い餌が目に入ったのだ。
主に鹿、兎などの草食動物や人間すら食べるオーク鬼達は、小さな子供が大好物という困った嗜好を持っている。
オーク鬼達は全部4匹おりその内一匹がフゴフゴ…と鼻を鳴らすと後ろにいた残りの3匹は頷き、ゆっくりと草むらをかき分け、少女に接近し始めた。
流石は厳しい大自然で生きる者達、一匹たりと音を出す者はおらず気配を殺し、獲物へと近づく。
篭を両手で持っている少女はそれに気づかず、鼻歌を口ずさみ始めた。
今頃彼女の頭には家で美味しい美味しい蛙苺を食べている自分姿を思い浮かべているに違いない。
オーク鬼達は尚もゆっくりと近づき、後2メイルという所にまで差し掛かった直後―――


―――― ボ ン ッ !



突如空からもの凄い速度で飛んできた「紙」が草むらに隠れていた一匹のオーク鬼の体に直撃し、爆ぜた。
少女は足を止めてキョトンとした顔になり後ろから聞こえてきた爆発音に何事かと後ろを振り返った。
「キャアッ!お、オーク鬼!!」
今まで気づかず自分の後ろにいた恐るべき人食い鬼がいたことに悲鳴を上げた。
攻撃を受け、地面に突っ伏しているオーク鬼の頭は見事真っ黒に焦げており、ピクリとも動かない。
少女はそのオーク鬼が死んでいることに気づかず早くここから逃げなければと思い、篭をその場に投げ捨てると脱兎の如く村の方へと逃げていった。
そんな少女を逃がすまいと一匹のオーク鬼が立ち上がる。

「プギィ!……ギャッ!?」
しかしその直後、今度は空から飛んできた一本の針が立ち上がった絵オーク鬼の右目を刺した。
オーク鬼は甲高い悲鳴を上げながらもその針を抜こうとするが、あの紙が目をやられたオーク鬼に目がけて飛んでくる。
ただ今度は照準が狂ったのか、それは直撃はせず地面に当たり、直後爆発を起す。
爆発の衝撃で近くにいたそいつは吹き飛ばされ、そのまま道の外れにできた急斜面を転がり落ちていった。

残り2匹となったオーク鬼達は素早く立ち上がると目標を上空にいると思われる敵に視線を向けた。
直後、空から一人の少女がオーク鬼達目がけて飛んできた。オーク鬼達は怒りの叫び声を上げて棍棒を振り上げ迎え撃とうとする。
少女は地面まで後5メイルというところで、両手に持っていた紙を勢いよく二匹に投げつけた。
投げつけられた紙は地上にいた残り二匹へと飛んでいってその内一匹だけ直撃し、そのオーク鬼もまた最初の奴と同じく黒こげとなった。
最後の一匹はその紙を運良く棍棒で薙ぎ払う事に成功した。
代わりに棍棒が爆砕したが接近戦で人間に負けたことがない彼にとっては何の問題にもならない。
オーク鬼は綺麗に着地した少女に駆け寄ろうとしたが、直後に少女は左手に持っている「杖」をオーク鬼へと向けた。
今更杖を抜いても詠唱する暇など無い。メイジとも何度も戦闘経験がある彼はそんな事を思いその大きな拳を振り上げた。

「―――夢想封印。」

少女がポツリと呟いた瞬間、目の前にあの紙が大量に現れ、
オーク鬼は自慢の拳で攻撃することも出来ずその紙の弾幕によって削り殺される事となった。



「ふぅ…こんな所かしらね。」
オーク鬼を倒した少女、霊夢は一人そう呟いた。
「それにしても、何処にでもこんなのはいるものね…ホント、イヤになるわ。」
霊夢はそう言うと黒こげになったオーク鬼の死体を一瞥する。
暇つぶしにと空中を散歩をしていた彼女は豚によく似た妖怪が棍棒持って今にも人を襲おうとしていたので退治した。
勿論オーク鬼達は妖怪という分類には入らないかも知れないが、霊夢から見ればこういう連中は全て妖怪に当てはまる。
それにこれが初めてということもなく、以前にも外へ出たときに何度か遭遇し撃退している。
ある時はこの様に襲われそうになっている人を助けたり、森の中で休んでいる時などには野犬なんかが襲いかかってきた。
野犬や狼等動物の類は軽傷程度の攻撃で済ましているが、こういうオーク鬼のような人外は完膚無きまでに叩きのめしている。
とりあえず散歩に戻ろうと霊夢は踵を返し空へ飛び上がろうとしたとき、ふと何かが目に入った。
それは先程襲われそうになった少女が持っていた蛙苺の入った篭だった。
食欲をそそる赤色の小さめのソレが篭から零れるほど入っていた。
「篭…の中に入ってるのは苺かしら?」
霊夢は篭の中から外へこぼれ出ている蛙苺を1個を手に取るとパクッと口の中に入れ…

「……酸っぱい。」
途端、言いようの無い酸味が口の中いっぱいに広り、顔を顰めた。
どうやらまだ熟していなかったらしい。

クウゥ~~…

しかも食べ物を口に入れたせいか小腹まで空いてきた。
可愛く鳴る腹の音に霊夢はやれやれ、と肩を竦めた。


――再び場所はトリステイン魔法学院へと変わる。
その学院の正門の周りでは学院中の生徒達が整列していた。
この時間帯は皆授業中だというのに誰一人それをとがめる者はいない。
どうして生徒や教師達がこんな事をしているのか――答えは今正門をくぐって学院に入ってきた馬車にあった。
無垢なる乙女しか乗せないと呼ばれるユニコーンにひかれた馬車が入ってきた途端、生徒達は手に持っていた杖を一斉に掲げた。
小気味の良い杖の音を出しながら皆が皆その馬車に尊敬と憧れの念が混じった瞳で見つめている。
馬車はオスマンが佇んでいる本塔の玄関先の近くで止まると召使い達が素早くじゅうたんを敷き詰めた。
傍にいた衛士は大きく息を吸うと、大声でこう言った。

「トリステイン王国王女!アンリエッタ姫殿下のおなーりー!!」

その言葉を待っていたかのように馬車の扉が開き中から誰かが姿を現した。



しかし――生徒達はその「王女」という言葉に似つかわしくない姿を見てポカンとする。

それは坊主が被るような丸い帽子をかぶり、灰色のローブに身を包んだ年老いた男だった。
髪もひげに既に白く、指は鳥の骨にそっくりであった。その男はマザリーニ、という名前を持っている。
彼はまだ四十代であるが、枢機卿としての長い長い激務や他人を蹴落とし合う国の政事が彼をこの様な姿にした。
その様なエピソードを持つマザリーニに対し、生徒達の内何人かが馬鹿にするように鼻で笑う。
平民の血が混じっているという噂があり、その為貴族は愚か平民達にすら支持されていないのである。


マザリーニの登場により、辺りは気まずい雰囲気になったが…馬車の中から今度は綺麗なドレスを身に纏った少女が出てきた。
年は17。すらりとした顔立ちと薄いブルーの瞳と高い鼻が目を引く美少女であった。
その姿を見た生徒達はその場の雰囲気を一気に変え、辺りを完成を包む。
少女は軽く微笑むと生徒達に向かって小さく手を振り、更にそれが歓声を激しくさせた。

そう、その少女こそがトリステイン国王王女、アンリエッタなのであった――

生徒達が王女の登場により気分が高揚している中、たった一人だけが白けた目でそれを見ていた。
「あれがトリステインの王女?まだまだ子供じゃない。」
そう言ったのは後頭部に小さなたんこぶが出来ているキュルケであった。
授業でミスター・ギトーにやられたのがよっぽと応えたのか、気分が高揚しないまま参加したのだ。
そして隣では騒ぎなど気にも留めず、立つどころか座って本を読んでいるタバサがいる。
「……本当、あなたって周りの事はどうでもいいというか、相も変わらずね。」
キュルケはそんなタバサを見てポツリとそう呟くと目だけをキュルケの方へ向け…直ぐに本へと視線を戻した。
そんな友人を見てキュルケは怠そうなため息を吐くと隣にいるルイズへと視線を移す。
「ねぇヴァリエール、あなた程でも無いけどあの王女様はまだまだ子供―――ってあら?」

ルイズの顔には僅かに赤みが入っており、いつもの彼女の顔ではないことに気が付き少し言葉を詰まらせた。
キュルケは急いでルイズの視線を追うと、そこには羽帽子を被った立派なグリフォンに跨っている衛士がいたのだ。
ぼんやりとした表情のルイズとその衛士を交互に見比べると、今まで喜怠そうだったキュルケの顔から笑みが戻り始める。
そして口元を大きく三日月形に歪ませ、手で口元を隠し含み笑いをするとボソッと心の中でこう呟いた。

(もしかしたら私、ヴァリエールの一目惚れ…ひょっとしたら初恋の瞬間に立ち会っちゃったかも。)

そんな歓迎ムードな学院で一つの激闘が繰り広げられている場所があった。
「おい、クロステーブルはちゃんと敷けたか!?」
「ティーポットの替えって何処にしまってあったっけ?」
厨房ではシェフや給士達が鍋や皿を相手に大格闘していた。
今回アンリエッタ王女はここで昼食と夕食を取る。その為厨房の者達はセッティング等で忙しいのである。
学院お抱えの料理人達は日頃鍛えている腕を奮って料理を作り、給士達はそれを盛りつける皿を準備する。

給士の一人であるシエスタは、純白のテーブルクロスを両手に抱え食堂の中を走っていた。
ここで働いてから月日はかなり経っていたため、しっかりとして足取りで走っていた。
ただテーブルクロスの所為で足下が見えなくなっており、その為に地面に転がっていた石ころに気づかなかった。
「ふぅっ…ふぅっ……あぁっ!」
案の定石ころにつまずいたシエスタはテーブルクロスを咄嗟に放り投げ、大理石とキスすることになった。
数秒おいてから、シエスタは小さなうめき声を上げ鼻を右手で押さえながら立ち上がる。
そしてよく考えればせっかくの綺麗になったのが台無しになってしまったと思い、ため息をついた。
「あぁ~…やっちゃったなぁ…ってあれぇ?」
そんな事をぼやきながら瞑っていた両目を開け、地面に落ちている筈のテーブルクロスが無いことに気が付いた。
一体何処かと思い、辺りを見回しているとふと後ろから声を掛けられた。
「あんたの探してる物って…これかしら?」
振り返ると、そこには頭からテーブルクロスを被った誰かがいた。
背はシエスタよりも少しだけ低めで頭から白い布を被っているとお化けのようだ。
声はまだ幼さが残っており、「少女」と言う言葉がピッタリと当てはまる。

「あっ!すいません、私ったら…。」
誰だか分からないが失礼だと思い、急いでテーブルクロスを取った。
「前を見るのは良いけど、ちゃんと足下見て走りなさいよ。」
そして…頭から被っていたのがヴァリエールに召喚された霊夢だと知った。
嫌そうな表情になっていたが、すぐにいつもの表情に戻ると彼女は辺りを見回した。
つい先程まで森の上空を飛び回っていたのだが、少し小腹がすいたため何かつまむ物は無いかと学院に戻ってきたらこの騒ぎようである。
「随分と忙しそうね、また宴会か何かでもする気?」
「あぁ、実は今日アンリエッタ王女が視察をかねてここでお食事をするんです。だから準備に追われていて…」
「アンリエッタ王女…?誰よソレ。」
シエスタの口から発せられた聞いたことのない名前に霊夢はキョトンとした顔になる。

「え、知らないんですか?この国の王女様で、とっても綺麗なお方なんです。
 もし顔を見たいのなら今は学院本塔の中を見学中の筈ですから行ってみたらどうです?」

では、私はこれで。と最後に言い、シエスタはテーブルクロスを抱え廊下の奥へと走り去っていった。
(王女、ねぇ…まあどうでもいいか。別に会っても何か起こるわけでも無いし。)
それより今は何か食べるものはないかと王女に全くの興味を示さない霊夢は厨房へ足を進めた。



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