あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

『先生の長い一日!!!』の巻


騒然とする館内。

混乱から人々が暴徒化する懸念もあり、アバン扮するモット伯はここで巡回の意味も兼ねて館内を一回りした。
――この突然の事態、理性を失い不埒な行いに走る人間が出てくるかもしれない……

しかしそうした懸念も、どうやら杞憂のものとなりそうで、目下のところこの館の人間は皆、自身の“退職金”の確保に余念が無い様子。
壷の取り合いはあるが互いに掴み合うこともない。どうやら先の「争いを見かけたら処分」の宣言に効果はあったようだ。

彼らはモット伯が伯爵であることだけを恐れ敬ってきたわけではない。
彼が明日にはその地位を失うと聞かされようが、メイジである彼に人々を容易く『処分』してしまえる力があることに変わりなく、また貴族の彼がそれを行うことに何の躊躇もないことを、平民である彼らは誰よりもよく知っている。

それゆえ伯爵の権威は未だ厳然と存在し、アバンがその横を通り過ぎる度、彼らは顔を伏せ息を潜めた。


(これだけを見ても、あの男の人となりがよく判る。しかし、因果応報とはいうが……)

暗く長い廊下を抜け、再び執務室の前まで来てアバンは立ち止まった。
一瞬の逡巡、彼は心に射すものを振り払うように軽く頭を振り、扉を開ける。

「……全然見つからないじゃない! あ~~~もう!!」

部屋の中心には、癇癪を起しつつも頼まれた作業に励むルイズの姿。
クシャクシャと丸めた紙くずを、ポイッと投げ捨てる仕草すらどこか愛らしい、この彼の新しい愛弟子を見ていると、この子こそはきっと立派な人間に…と、決意を新たにせずにはいられないアバンであった。


「はぁ~~~…ん?」
「ただいま戻りましたよルイズ。調子はどうです?」
「全然ダメ。なにも見当たんない」
あちこちから引っ張り出してきた書類の山の中、仏頂面で答えるルイズ。

「そうですか…ご苦労さまです。私も一通り巡ってきましたが、あるとするならここだと思うんですけどねぇ」
「なによ、私の探し方に問題があったとでも言うわけ!?」
「勿論そういうわけじゃありません。そりゃもうバッチリ探してくれたと信じてますとも!」
まぁまぁ、とジェスチャーで宥めるアバン。ルイズの方も本気で噛み付いたわけでもなく、あっさりと矛を収める。

「そうじゃありませんけど、そうなると普通に探していては目に付かないところがあるんですかねぇ」
首を傾げつつ、改めて部屋の中をぐるりと見渡した。

「確かあそこに絵が掛けてありましたよね?」
「そこの絵と、隅の花瓶と壁際の彫刻ならさっきまでに全部誰かが持ってたわよ」
「じゃあ『絵の裏に隠し金庫が!』なんて早い話も…」
「ないみたいね」

ですよねぇ…と苦笑しつつ顎に手を当て考えこむアバン。しばらくして、ふと顔を上げて呟いた。


「そこ…そこの本棚の陰のランプ。一つだけ消えてませんか?」

その言葉にルイズは振り返り、本棚の方へ指を伸ばして何度か打ち鳴らす。
続けて杖も振ってみるが、反応は無し。

「そうね、故障してるみたい」
そう結論付けた。

「故障? ランプがですか?」
「反応しないってことは、魔法でも切れてるんでしょうよ」
「なるほど、“魔法のランプ”というやつですか。しかし……」

室内の壁に規則的に配列されたランプは、どれもシンプルなデザインで統一されている。
その中でも件のランプは特に目立つこともなく、一見しただけでは一つぐらい消えていても目に付き難いが、

「これだけのお屋敷、主人の執務室のランプに不備があるなら直ちに取り替えられそうじゃないですか? この部屋に出入りする、主人や客だけじゃなく使用人たちまで含めれば、誰か1人くらいは気付くでしょう。特に人によっては間近で見ることになるでしょうし」

近くで見ても細部まで良く手入れのされたそのランプは、指でなぞっても塵一つ付かない。
…つまり、定期的に誰かしらの手によって磨かれているのだろう。
ものはついで、アバンの指からそっと一筋の光芒が伸びたが、ランプの芯に火が付くことは無かった。

「そんな環境の中、このランプが今日たまたま故障したままであるというのは、結構不自然じゃないですかねぇ。もちろん中には本当にたまたま、なんてこともあったりしますけど」
半ば独り言のように呟き、一拍置いて脇の本棚に目を遣り、視線をさらに下に向ける。

「この床も隅々まで清掃が行き届いています。誠にけっこうなことですが、……やはり、このあたりに僅かに動かした形跡がある。さてここから導き出される結論は、なんだと思いますかルイズ?」
ま~た長いひとり演説が始まりそうだ、と早くも気を抜きかけていたルイズは、突然話を振られて思わず欠伸を飲み込んだ。

「ふへ? そそそれはつまりアレよ……」
「つまり?」

首を捻り、天井を見上げ、頬に手を添え、目線がゆっくりと円を描くように三週したところでポンッと手を叩くルイズ。
「ランプが本棚の陰にあって良く見えなかった!」
ガクっと膝が折れるアバン。

「……私としては、このランプがなんらかのスイッチで、横の本棚と連動してその後ろに何かあるのでは、と思うのですけれど」
「ああ、そっちね。うん、私もチラっと考えたけど悪くないんじゃない?」
うんうんと頷くルイズに苦笑いしつつ言葉を続ける。

「まぁ嬉しいことに賛同して貰えたようですが、とはいえ推論は推論。これは確かめる必要がありそうですね」
「確かめるって、そんなのどうやって?」
ルイズの率直な疑問に、アバンは待ってましたとばかりにニヤリと笑う。

「フッフッフ、遂にちゃんとこのアイテムを使う時がきましたね。私の……この必殺アイテムをっ……!」
あれ? このセリフどこかで聞いたことがある、と思ったルイズは念のため姿勢を整え、

「でゅわあたたたぁああ!!?」
おどけた調子でポーズを決めようとしたモット伯のメガネ面にアイアンクローを決めた。

「ノー! ノー! ギブギブ!!」
「その手の、くだらない、ギャグは、もう、沢山、なの、わかる?」
「ルイズヘルプ・ミー!!!」

一語・一語に力をこめてしめ上げるルイズに、膝をついて大仰に懇願するアバン。
多少バイオレンスなじゃれ合いが終わると、こめかみを揉みつつ立ち上がる。

「違うんですよルイズ。今回はホントに役に立つンですよコレが」
「……………………嘘くさい」

ルイズが訝しむそのアイテムとは、かつてアバンが一発ギャグに使用し見事にスベった変てこ眼鏡、その名も「ミエールの眼鏡」だ。


「この眼鏡はですね、見かけこそ単なる宴会用具ですが、その実『これをかければ隠された罠や装置の類を遍く見抜くことが可能』とまで謳われる、かなり稀少なマジック・アイテムなのです!」
「……………………やっぱり嘘くさい」

握りこぶしで力説するアバンの熱に反比例するように、ルイズの疑念は深まるばかり。

「……大体、そんなアイテムがあるなら最初から使えば――」
「こればっかりは実際使ってみるのが一番早いですからねぇ。さぁさぁチャッチャとかけてみて下さい」
ルイズの言葉を強引に遮り、彼女のかける変装用の伊達眼鏡をサッと奪うと、その手に「ミエールの眼鏡」を押し付けた。

勢いに圧されて渋々と手渡された眼鏡をかけると、アバンの指差す通りにランプ、そして本棚と目線を向ける。
人並み外れて整った顔立ちの彼女がかけると、余計に際立つその珍妙な装飾。
外からみれば甚だ滑稽ではあるが、その当の本人の表情は徐々に強張っていく。

「…………………………………………」
「どうです? ルイズ、何か見えませんか?」
「…………………………………………」
ルイズはゆっくりと首を横に振ると、

「………………この本棚の裏、確かに通路が透けて見える……!」
信じられない、といった様子で呟いた。


「なるほど、これで確信できました。ランプの方はどうですか?」
「……後ろの壁の中になにかあるのは判るんだけど、ちょっと仕組みとかは判らないわ……」
「判りました、ありがとうございます」

未だ驚きを隠せない様子のルイズ。ちなみに驚いてるのは隠し通路の存在ではなく、怪しさ爆発の眼鏡の性能の方である。
そんな彼女から眼鏡を回収したアバン、自身もかけて確認する。

「確かに、一見しただけではランプの方の細かい部分は判りませんねぇ。このランプと本棚が一体どのようにして連動しているのか……私もこの世界の魔法技術についてはほぼ素人ですし、さて一体如何したものですかネ?」

問いかけとも、独り言ともとれる発言をして腕を組み、再び考えを巡らし始めたアバンに対し、先ほど同様また自分への問題提起と捉えたルイズは、あっさりとした口調でこう答えた。

「ああ、それなら私にも判るわよ」

思わずその顔を覗き返したアバンの目の前で、ルイズはその手に握った杖を振り、本棚とその後ろの隠し扉ごと木っ端微塵に吹き飛ばした。

「…………………………………………」
流石に唖然とした表情のアバンを他所に、ルイズは舞い散る粉塵を手で払うと、

「扉があると判ったならぶち破ればいいのよね。第一、今回はその方が『らしい』でしょ?」
やったわ今回は正解ね、と残骸を踏み越え一足お先に通路の奥に消えていった。


「…………………………………………」
しばしの間、無言で立ち尽くしたアバン。爆破で汚れた眼鏡のレンズをゆっくりと拭きおわり、

「……想像以上のその回答、また一つ貴方に惚れこみそうですよ、ルイズ」
会心の笑みを浮かべて隠された通路の闇の中へ消えていった。



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