あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

超力ガーヂアン-01a


「アタシは 疾風属モー・ショボー。
 わ、ステキなサマナーさん!」

 春の使い魔召喚の儀で私が呼び出したのは、可愛い女の子でした。
 とは言っても、何処か普通の人間とは違う雰囲気を感じる。
 女の子は、ここいらでは見かけない珍しい造りの服に身を包み、物珍しそうに辺りをキョロキョロと見回している。
 その愛嬌のある仕草が微笑ましく、私は女の子をさらに観察する。
 既に春だというのに、革製のブーツとミトンの手袋を嵌めている。服の襟元と袖口にはフカフカのファーが付いる。柔らかそうな毛は、さわり心地がよさそうで、保温性も高いだろう。
 肌寒い日もあるとはいえ、防寒具を身につけるほどではない。つまり女の子は、ここよりも寒い地方から呼び出された事になる。
 女の子の茶色の髪は、光の加減により赤くも見え、背中を覆う程に長い。
 長い髪は背中で大きく広がり、まるで翼のようだ。さらに言うと、頭には鳥の顔のように見える帽子を被っている。
 その所為だろうか? 女の子が少し浮いているように見えるのは。比喩的な意味ではなく、物理的な意味で。
 それにしても、ひと目見て素敵だなんて、なかなか見る目があるじゃない。ふふん、まあ当然ね。
 ……ところで、サマナーってなに?
 頭を捻って今まで学んだ知識を掘り起こすが、聞いた覚えがない。 

「こういうキモチ、なんていうんだっけ?
 え~と、え~と……」

 改めて女の子を見やると、彼女も何やら頭を捻っている。
 けれどそれも束の間。
 直ぐに顔をあげると、無邪気な笑顔を浮かべ、小首を傾げてこう告げてきた。

「……サツイ?」




超力ガーヂアン 1

~デビルサマナー(仮) ルイズ・(中略)・ヴァリエール 対 青銅兵団~



 そういえば、自己紹介をしていなかったように思う。
 私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 この国‐始祖ブリミルの息子の1人が築いたとされるトリステイン王国‐の公爵家、その3女としてこの世に生を受けた生粋のレディよ。
 公爵家っていうのは王家に継ぐ権力を有していて、私はそこのお嬢様というわけなの。おわかり?
 さて、今日はトリステイン魔法学院の風物詩、毎年恒例の使い魔召喚の儀式が行われる日だ。
 わかりやすく言うと、運命の使い魔を呼び出す儀式で、メイジにとって一人前への登竜門。ついでに、2年次への進級試験も兼ねている。
 その儀式に則り、使い魔を召喚をしたはいいものの、出てきたのは私よりも年下に見える女の子。
 どうなるのかしら? 留年だけは避けたいのだけれど、コッパゲ先生がどう言うか分からないのが不安だわ。

「ううむ…… まさか、女の子が召喚されるとは、このコルベールの眼をもってしても見ぬけませなんだな……」

 コッパゲ先生というのは、使い魔召喚の儀を取り仕切っているミスタ・コルベールの事よ。でも、みんな陰ではコッパゲって呼んでるわ。
 で、そのコッパゲ先生はというと、私が召喚した女の子を舐めるように観察している。少し犯罪者臭い。
 暫く女の子をジロジロと見てから、コッパゲ先生は両手を打ち鳴らした。

「まあ、よろしい。
 では早速、契約を。ミス・ヴァリエール」
「はあ、いいんですか?」
「使い魔召喚の儀はメイジにとって神聖な儀式なのです。故に、例外は許されません。
 この儀式が平穏無事に終わればそれで良いのです。そう、何も問題はありません」
「……わかりました」

 ……ド外道な事を言われた気もするけど、進級がかかっているのだから、わたしも文句は言えない。
 いざ契約すべく、キョロキョロと辺りを見回している女の子に声をかける。

「ねえ」
「なあにぃ?」

 女の子は何も分かっていないようで、無邪気に微笑みかけてきた。
 思わず可愛いと思うが、ここで躊躇ってはいけない。こういうのは、勢いが大事だ。
 有無を言わせず両肩を掴み、契約を敢行する。

「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんな事されるなんて、普通は一生ないんだから……」

 この時、少し俯き加減で眼を逸らし、頬を赤らめるのがコツだ。
 普段ツンツンしていれば、効果覿面。けれど、素人にはお勧めできない。
 これで操縦できない異性はないと、いつの日だったか、ちいねえさまに教わったのだ。
 ちいねえさまには、感謝してもし足りない。ありがとう、ちいねえさま。後で手紙にも書かなくっちゃ。

 ……ん? 異性? この子、女の子じゃないの!
 恐る恐る顔色を窺ってみると、案の定、女の子はキョトンとした表情を見せていた。全然効いちゃいない。

「……人間はアタシとけいやくしたいの?」
「へっ? そっ、そうよ」

 なんにも分かってないようでも、契約が何かは分かるのね……
 まあ、説明する手間が省けて、好都合だと思う事にしましょ。
 こうなったら、如何にかしてだまくらかして、さり気なく使い魔の契約を結ばなくっちゃ!
 はてさて、どうやって丸めこんだものかしら?
 そんな風に考え込んでいると、女の子が無邪気に問いかけてきた。

「ねえねえ、人間にしつも~ん。『あくま』といったらな~んだ?」
「えっ? えっと、いじわる?」
「キャハッ! 『いじわる』ってほめことばなんでしょ?
 わ~い、ほめられちゃった! ほめられちゃった!」

 咄嗟に答えたけど、変な質問する子ね? 悪魔だなんて……
 まあいいわ、喜んでるみたいだし。この調子で丸めこみましょうか。
 女の子は無邪気な笑顔のまま、さらに質問を投げかけてくる。

「ねえねえ、人間のせかいってどんなところなの?」
「……博愛の息づく大地よ」

 自分で言っておいてなんだけど、さぶいぼが立つわね。
 流石にこれは失敗だったかしら?

「アイってな~に?
 人間といっしょにいれば、アタシにもわかるのかな?」

 女の子は愛の意味が分からないらしく、小首を傾げている。
 愛を知らないなんて、とんだお子様ね。ここはひとつ、私が一肌脱いであげましょうか。
 そう、愛っていうのは…… ええと…… あぁと……
 ……愛ってなにかしら? 正直、私にも良く分からない。
 愛ってどういう意味? 耳触りは良いが、その言葉に込められた本当の意味はなんだろう?
 その実像は朧気に霞み、輪郭を掴むことすらままならない。
 愛、アイ、あい、ai…… 意味をなさない単語の羅列が頭に渦巻く。
 しかし、女の子には、大して意味のある質問ではなかったようだ。

「ねえねえ人間。人間はアタシとけいやくしたいんだよね?
 アタシ、人間のこときにいったから、けいやくしてあげてもいいよ?」

 まさか、向こうからそう言ってくるとは思わなかった。
 望んでいた申し出に、パッと顔を上げる。

「ほんとうに? 今なら引き返せるわよ?」

 せっかくの獲物をみすみす逃がすわけではない。さも心配そうな言葉を掛ける事で、逃げ道を潰すのだ。
 何が何でも契約するわよ。呼び出された使い魔に拒否権があるなんて思わないことね。
 いざとなったら、無理矢理にでも……

「人間はアタシのことキライ?」

 女の子は小首を傾げ上目遣いに見つめてくる。少し逆効果だったようだ。
 この子、結構単純そうだし、搦め手じゃなくて直球でいったほうがよさそうね。
 ここはやんわりと否定しておく。

「そんな事ないわ」
「キャハッ! じゃあ、けいやくしよ?」
「ええ。ぜひお願いするわ」

 かかったわ! もう逃がさない……
 心の中でニヤリとほくそ笑む。

「じゃあね、アタシのおねがいもきいてくれる?」

 お願い? 使い魔にそんな権利があると思ってるのかしら?
 けど、物で釣っておけば手荒い真似はせずに済みそうだし、飴を与えておきますか。

「……何が欲しいの?」

 何かが欲しいと言われたわけではないけれど、こう言っておけば、さり気なく選択肢を狭められる。
 長く続くような約束を言われたら困るけど、物だったら与えればそれで終わりだ。
 我ながら奸智に長けていると悦に入る。

「230円、ほしいな~」
「はっ? なにそれ?」

 女の子はそう言って、手の平を差し出してきた。
 ニヒャクサンジュウエンってなに?
 流石に知らないモノをあげられるほど、私は器用じゃない。
 咄嗟に聞き返すと、女の子は不思議そうに小首を傾げた。

「お金をしらないの?」
「ああ、お金ね……」

 参ったわね。エンなんて通貨単位なんて知らないわ。
 とりあえず、懐から財布である革袋を取り出して中身を確認する。
 エキュー金貨が3枚とスゥ銀貨が8枚、それにドニエ銅貨が10枚ほど。
 その中からスゥ銀貨を2枚とドニエ銅貨を3枚取り出し、女の子の手に握らせる。

「これでいい?」
「みたことないコバンだけど、キラキラしててきれい~」

 女の子はスゥ銀貨を太陽に翳し、光が反射する様を見てはしゃいでいる。
 気にいってくれて何よりだ。
 これで心置きなく契約が出来る。

「それじゃあ、早速契約を……」
「人間のいのちのチカラ…… ちょっとだけすわせてよ」
「まだ何か要るの?!」

 これには、渋い顔をせずにはいられない。
 あれだけあげたのに、まだ何か欲しいだなんて、まったく図々しい子だ!
 それに、命の力ってなによ? 全然意味が分からないわ。
 こうなったら、無理やり契約をするしかない。
 ふんっ! 契約さえすれば、泣こうが喚こうがこっちのものよ!
 スカートのポケットから引き延ばし式の杖を素早く取り出すと、何度も練習した呪文を唱える。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」
「? アタシは疾風属のモー・ショボー、よろしくね」

 何を勘違いしたのか女の子が名乗るが、そんな事は無視して呪文の先を続ける。
 唱えるのは『コントラクト・サーヴァント』。『サモン・サーヴァント』で呼び出した生物を使い魔として従属させる魔法である。
 呼び出してから別の魔法を唱えなきゃいけないなんて、とんだ2度手間だ。しかも、契約方法は接吻ときたものだ。
 もう少し、効率とかを考えて魔法を作って欲しいものだわ。まったく。
 湧きあがってくる感情を抑え、女の子ににじり寄る。後から思えば、コレがいけなかった。

「5つの力を司るペンタゴン! この者に祝福を与え、我の使い魔と……!」
「それじゃあ、いただきま~す」

 呪文を唱え終わるのとほぼ同時、私は唇を奪われた。
 嗚呼、初めてだったのに…… いや、契約するんだから結局するんだけど、自分からでなく相手からされるなんて……
 貴族が奪う側でなく、奪われる側になるなんて、到底許容できることではない。
 突き放すべく手を伸ばすが、その拍子に女の子の髪に触れた。
 ……あっ、なんか気持ちいい。まるで極上の羽毛のようなフカフカツヤツヤした感触が手に馴染み、次の動作を鈍らせる。
 そうこうしていると、唐突に、急激な眠気が襲ってきた。と、いうよりも、むしろ体から力が抜けていく……
 四肢はだらしなく脱力し、脳幹が痺れるような酩酊感を覚え思考がうまく働かない。

「ごちそうさま~」

 底無しの闇に落ちていくような浮遊感が心地よく、睡魔に身を委ねる。
 私が最後に聞いたのは、どこまでも無邪気な女の子の声だった。



 ◆◇◆



「人間、あさだよ~」

 誰かに揺さぶられて私は目を覚ました。
 なんだか全身がだるい。
 どうにかして重い瞼を押し上げると、窓から射し込んでくる朝日が目に痛く、思わず布団の中に潜り込む。

「あと5分~」
「おきないと、ノウミソすっちゃうよ~?」

 は? 脳みそを吸う? 何言ってるの?
 寝起きで朦朧とする頭で聞こえてきた言葉の意味を反芻するが、意味が分からない。
 しかし、それは直ぐに理解することになった。他でもない、私自身の体でもって。

「痛い痛い痛い痛い!?」

 唐突に脳天が割れるような激痛が奔り、一瞬にして目が覚めた。
 布団を跳ねのけ飛び起きる。

「あ、おきちゃったの~? ざんね~ん」

 さも残念そうな声を上げたのは、見知らぬ女の子であった。
 口元の涎を服の裾で拭いながら、辺りを見回す。
 見慣れた天井、見慣れた家具、そして優しく体重を支えてくれるベッド。間違うはずもない、私の部屋だ。

「おはよう人間」
「誰よ、アンタ?」

 さも当たり前のように部屋に居座り、挨拶を投げかけてくる女の子に怪訝な表情で問い返す。

「わすれちゃったの? きのう、人間の仲魔になったモー・ショボーだよ」
「昨日? 仲間? ……ああ、召喚した使い魔だっけ?」

 そういえばそうだ。よく見れば見覚えがあるような気がする。
 昨日のことだというのに、いまいち記憶がはっきりとしない。いやぁねぇ…… 若年性健忘症かしら?
 女の子は昨日と変わらぬ格好で、こちらに微笑みかけてきている。

「それじゃあらためて、コンゴトモヨロシク。キャハッ!」
「ええよろしく。
 先に言っておくけど、私が主人でアンタは使い魔なの。
 だから、私のことはご主人様と言いなさい。わかった?」
「うん、わかった~。人間はゴシュジンサマ~」

 正確に理解しているとは思えないが、逆らわないのならそれで良いわ。
 物事を深く考えるような子にも見えないし、なし崩し的に刷り込んでいけば何も問題はない。そう、問題はないはずだ。
 自分にそう言い聞かせると、モー・ショボーに向き直り、人差し指をピンと立てる。

「さて、手短に使い魔の心得ってやつを教えてあげるわ」
「なになに~?」
「先ず第一に、使い魔は主人の目となり、耳とならなければならないわ。
 ……でも駄目ね。何にも見えないもの」
「偵察はとくいだよ!」

 モー・ショボーは得意げに胸を反らす。
 とてもじゃないが、信用できない。できないが、そう急く事もない。
 実際にやらせてから結論を出そう。今は深く追求すまい。

「……まあいいわ。次に、主人の望むものを持ってくるのよ。例えば秘薬ね」
「イロイロひろってくればいいんだね?」
「そうよ。でも、役に立たないモノを拾って来ても駄目だからね」

 これも期待できなさそうだ。小枝とかを拾ってくる光景が目に浮かぶ。
 次のも期待できそうにないが、ダメでもともと、一応言っておこう。

「最後に、これが一番重要なことなんだけど…… 主人を守ることが使い魔の一番よ。
 その能力で主人を外敵から守るのが一番の役目ってわけ!
 でも、アンタじゃ無理よねぇ…… 私より弱そうだもん」

 大仰に肩をすくめてみせる。
 とてもではないが、この子に戦いが出来るようには見えない。
 五感の共有も駄目、秘薬の採取も駄目、戦いも駄目となれば、とんだ貧乏くじを引いたものだ。我が身のことながら、恨めしく思う。

「サツリクすればいいんでしょ? かんたんだよ!」
「そ、そう? それは頼もしいわね……」

 予想外に物騒な単語が飛び出した事に、動揺を抑えつつ流しておく。
 所詮、子供の言う事だ、気にする必要はない。
 どうせ、意味も分からずに使っているんだろう。……きっとそうだ。

「とりあえず、何処にルーンが刻まれたか確認しないとね。
 ……脱がして確かめるのが手っ取り早いわね。そういうわけだから、脱ぎなさい」
「ひだりてにしるしができてるよ?」
「……本当?」

 心の内で舌打ちをしつつ、モー・ショボーの左手を掴んで観察する。
 直ぐにルーンは確認できた。けど、これって本当にルーンなのかしら?

「ねえ、聞いていい?」
「なぁに?」
「これ、本当に使い魔のルーンなの? そうは見えないんだけど?」

 手の甲にあったのは、円に波線が引かれた図形であった。
 当然、こんなルーンは見た事が無い。

「しらな~い」
「はぁ…… まあいいか……」

 首を横に振るのを見て、溜息を吐く。
 どうやら聞いても無駄なようだ。まあ、後でコッパゲ先生にでも聞いてみればいいか。
 話はココまでと切り上げ、ベッドから腰をあげて手早く服を脱ぐ。
 制服のまま寝ていたお陰で、皺が付き放題だ。下着も寝汗を吸って少し気持ち悪い。
 私は躊躇せず下着も脱ぎ捨てると、おもむろにモー・ショボーに声を掛ける。
 さっそく使い魔に命令だ。

「ちょっと、着替えを取ってちょうだい。そこのクローゼットの下の段に入ってるから」
「は~い」

 モー・ショボーは素直に頷くと、軽い足取りでクローゼットまで飛んでいく。
 ……ん? 飛んでいく?
 眼を擦って良く観察する。
 モー・ショボーはクローゼットの引き出しを開けると、そこに入っている下着類を手にとり、物珍しそうにマジマジと見た後、適当に下着を鷲掴みにして浮かびあがった。
 そう、浮かび上がったのだ。
 そのままフヨフヨと目の前まで飛んでくると、掴んだ下着を無造作に渡してくる。

「はい! 人間、もってきたよ!」
「と、と……」

 下着をぞんざいに扱うモー・ショボーの無神経さに怒る事も忘れ、私は目を丸くして馬鹿のひとつ覚えように、1つの単語を呟き続ける。
 他人から見ると、私は鳩が豆鉄砲食らったような顔をしているのだろう。モー・ショボーが不思議そうに見つめ返してくる。
 わけが分からない。
 私なんか、どれだけ努力しても『レビテーション』すら使えないというのに、何故ごく当り前のように飛んでいるのだ?
 私への当てつけか? 当てつけなのか?
 私は深呼吸をして、動転している気を落ち着かせてから、力の限り声帯を震わせる。

「飛んどるーーーっ!」

 モー・ショボーに指を突き付け、私は力の限り絶叫した。全裸で。



 ・
 ・
 ・



 ひとしきり叫んでから、自分が全裸でいる事に気が付き、手早く着替えを済ませてからモー・ショボーに問い質した。
 モー・ショボーの口から語られた話は、到底信じられるものではないが、一応心に留めておく。
 彼女は、自分が疾風属の悪魔『モー・ショボー』だと名乗った。けれど、外見は人間の子供と変わらず、悪魔などと信じられるはずもない。
 どうせ、翼人などの亜人の一種で、人間からそう呼ばれているだけだろう。悪魔だなんて、馬鹿馬鹿しい。
 とりあえず、人と同じ姿をしているが、人間ではないのだと理解した。
 いくら私が『レビテーション』や『フライ』が使えないからといって、鳥を憎んだりはしない。なぜなら、彼等は魔法ではなく翼で空を飛んでいるのだから。
 私は空を飛びたいのではなく、魔法を使えるようになりたいのだ。そこを履き違えはしない。
 なるほど、よく観察すると、背中で大きく広がった髪は翼のよう、ではなく、真実、翼の役割を果たしているようだ。
 一通り質問を繰り返した後、私のお腹にいる小鳥さんが可愛い悲鳴を上げた。考えれば、昨日の昼から寝ていたので何も食べていない。
 自覚してしまえば単純なもので、私の興味はモー・ショボーから朝食のメニューへと移っていった。
 話を切り上げ、部屋を後にする。

「はぁい、ルイズ。お目覚め?」
「げっ」

 朝一でこの女の顔を見る破目になるとは思わなかった。
 この女の名前はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。私の宿敵だ。
 キュルケは唇に人を小馬鹿にしたような笑みを口元に浮かべ、赤く燃えるような長髪をかき上げる。その際、ブラウスをこれでもかとばかりに押し上げている脂肪の塊が揺れる。
 だらしなくはだけられたブラウスの胸元からは褐色の肌が覗き、下品な色気を周りに撒き散らしている。
 ふんっ、なによ。あんな醜悪な脂肪の塊を2つも吊り下げちゃって、みっともないったらありゃしないわ。
 私は僻みで言っているのではない。あえて言おう、貧乳はステータスだ! 希少価値だ!
 ……惨めになんかなってないわよ! ほっといて!

「モー・ショボーもおはよう。よく眠れたかしら?」
「…………」

 キュルケはモー・ショボーに笑顔を向けるが、当の彼女は私の背中に隠れてしまった。
 モー・ショボーは私の背中から少し顔を出し、キュルケに警戒した様な眼を向けている。
 ……ふ、ふふ、ふふふっ!
 ざまぁないわね、ツェルプストー! 私の使い魔がアンタなんかに懐くわけがないでしょう?
 バーカ、バーカ!
 心の中で目一杯嘲笑しておく。

「あらら…… 嫌われちゃったかしら?
 まあいいわ、懐かれてて何よりじゃない。良かったわね、ヴァリエール?
 さっ、フレイム、もう行きましょ」

 憎たらしいゲルマニア女は、少しも悔しそうな素振りも見せず、肩を竦めると、さっさと曲がり角の向こう側へと消えていった。その後を、トラほどの大きさの火蜥蜴が追う。
 ……悔しい。
 何が悔しいって、あの高慢ちきなデカ女が、自分の使い魔を自慢もせずに去っていったことが、だ。
 あれは、間違いなく火竜山脈のサラマンダーだ。しかも、あの体格の良さと、見事なまでに鮮やかな炎の尻尾から判断すると、相当強力な個体だ。
 それを自慢もせずに去るという事は、モー・ショボーと比べるべくもないという事か。
 あの火蜥蜴の立派さは認めるが、私の使い魔だってそう劣るものではないわ!
 やり場のない怒りをモー・ショボーにぶつける。

「ちょっと! なにビビってるのよ! おかげで私が恥をかいちゃったじゃない!」
「うぅ…… でも、弱点じゃなくても火はこわいよぉ」
「……むぅ」

 誰にだって苦手なモノはある。私だってカエルが大嫌いだ。将来の夢はカエルを絶滅させることだと、固く心に誓っている。
 だから、強気で責める気にはなれない。だが、軽く釘を刺しておくのは忘れない。

「まあ、いいわ。次から気をつけてよね」
「は~い」
「……ところで、キュルケのヤツ、アンタを知ってるようだったけど、何かあったの?」
「きのうね~ お部屋をおしえてもらったの。アタシが人間のこと、はこんであげたんだよ。
 カンシャしてよねっ! キャハッ!」

 そういえば、昨日草原で気絶したのよね。誰が運んでくれたのかと思ってたけど、この子だったとは。
 ……そういえば、なんで気絶したんだっけ?
 う~ん、思い出せない。
 思い出せないという事は、大した理由じゃなさそうね。貧血かしら?

「ほらほら、ほめてほめて?」
「ええ、ありがとう」
「キャハッ、ほめられちゃった~」

 少し大袈裟にはしゃぐその姿は、人間の子供と同じだ。
 本当に自称悪魔なのかしら? 欠片も信じられないわ。
 まっ、なにはともあれ、先ずは食事だ。
 早いところ行かないと、何時もの席が埋まってしまう。
 私はテーブルの端っこがいいのよ。端っこじゃないといやなの。

「ほら、朝ごはんを食べに行くわよ。ついてきなさい」
「わーい、ゴハンだゴハンだ」

 モー・ショボーは嬉しそうに私の背中を追ってくる。
 足早に廊下を進み、寮を出て、本塔へと続く通路を歩きながら何気なく訊ねた。

「ねえ、モー・ショボーは何が食べたい?」
「なんでもいいの?」
「ええ、何でもいいわよ」

 まあ、昨日部屋まで運んでくれた事のお礼だ。
 本当は、質素な食事を与えて上下関係を教えてやろうかとも思ったが、尽くしてくれた使い魔に報いぬほど、私は冷酷ではない。
 今日ぐらいは好きなモノを食べさせてあげようではないか。
 モー・ショボーも優しい私に感激して、きっと、より一層尽くすようになるに違いない。
 使い魔と上手くやっていくには、飴と鞭を上手く使っていかないと、ね?

「えっとね~ じゃあね~ MAG(マグネタイト)がいいな~」
「はっ? MAG?」

 MAGってなんだろう? 聞いた事がないわね。
 そんな食べ物があるのかしら? どんなのだろう?
 初めて聞く言葉に、頭の中で疑問符がラインダンスを踊る。

「MAG、イッパイほしいな~」
「うっ……」

 まずいわね……
 自分から言った手前、今更ダメだともいえないし、どうしたものかしら?
 MAGが何なのかを聞くのは、恥ずかしくて出来ないし……
 う~ん。
 頭を捻ること数秒。私の素晴らしい頭脳は、素晴らしい答えをはじき出した。
 あるモノを探して辺りを見回す。

 …………

 居た……!

「ちょっと、そこの貴女! 待ちなさい!」
「は、はいぃっ!?」

 私は洗濯籠を抱えている黒髪のメイドを呼び止めた。
 黒髪のメイドは上擦った声でアタフタし、見っともないったらありゃしない。
 私はさも不機嫌そうに鼻息を鳴らしてから、頬に絆創膏を貼っている黒髪のメイドに命令を下す。

「この子の食事を用意して頂戴」
「えっ、えっ? お、お食事……ですか?」
「そうよ。私の使い魔に食事を用意して頂戴」

 そう、私の考えた解決策とは、全てメイドに任せればよいというものであった。
 これならば、私ではなく、MAGのことを知らないメイドが悪い事に出来る。我ながら、ナイスなアイディアであると悦に入る。
 にしても、何をキョドッてんのよこのメイドは。
 メイドなら、何時如何なる時であろうと、貴族の命令を聞く心構えを作っておかないといけないでしょうが。
 まったく、緩んでるわね…… 頭に行く栄養が、む、胸にまわってるんじゃないの?

「使い魔……ですか?」
「あによ? 私の言う事がきけないって言うの?」

 黒髪のメイドは、キョトンとした眼をして呟く。
 嗚呼もう、血の巡りの悪い子だ。
 それに何か? 私の使い魔にケチを付けようってぇの?
 上等! いびり倒してやるわ。

「め、滅相も御座いません!
 ……それで、何をご用意いたしましょうか?」
「MAGを上げて頂戴」
「え、えっ? MAGをですか? どうしてそんなモノを……」

 オロオロとした仕草で、黒髪のメイドは口元を押さえる。
 メイドの顔に浮かぶのは困惑。しかし、私が予想していたものとは少し違っていた。
 どうにもこのメイドは、MAGが何であるのかを知っている様子だ。
 偶然といえど、利用しない手はない。

「そうよ、MAGよ。まさか分からないなんて言わないわよね?
 モー・ショボー、このメイドについて行きなさい」
「そしたらMAGをもらえるの?」
「ええそうよ。
 そういうわけだから、あとヨロシク」

 モー・ショボーを黒髪のメイドに押し付け、私はマントを翻してアルヴィーズ食堂への道を急ぐ。
 長話をしていたせいで、お腹と背中がくっつきそうだ。
 しかし、はしたなく走ったりはしない。あくまでも、早歩きで、だ。

「えっ? あっ! まっ、待って下さい!」
「貴女、名前は?」

 呼び止めてくるメイドに振り返ると、先手を打って名前を問う。私は急いでいるのだ。メイドの意見を聞いている暇などない。
 しかし、このメイドは使えそうだ。名前を覚えておいて損はないだろう。

「えっ? シ、シエスタと申します」
「そう、じゃあシエスタ。その子のこと、よろしく頼むわよ。じゃあね」

 シエスタというのか。そういえば、ここいらで黒髪というのは珍しい。何処の出身だろうか?
 今後、モー・ショボー関連で困ったことがあったら、全部押し付けよう。そうでなくても押し付けよう。
 うん、それが良い。なにより、私が面倒臭い事をしなくて済むのが良い。
 いい拾い物をした気分だ。私は意気揚々と中庭の通路を抜け、本塔へと入っていった。



 -後半へ続く-




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