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『零』の使い魔-1

数分も持たずに自分は死ぬだろう。
零崎双識は今現在の自分のコンディションをそう判断した。
肋骨骨折、左腕骨折、左足骨折――そして脇腹からの大量出血。
今すぐに治療を受けたとして、果たして命が助かるかどうか。

勿論、そんなことはできないということを、零崎双識は理解していた。

「そろそろ死ぬんじゃねーか、兄貴」
「そうみたいだな、人識」

失血のせいか怪しくなってきた五感を頼りに、弟――零崎人識に軽口を返す。
殺人集団『零崎一族』の長兄として、死ぬ覚悟などとうの昔にできている。
それこそ、死を目前にして、軽口を叩ける程度には。

顔を上げると、白く光る何かが、双識を包み込もうとしている。
殺人鬼は鬼らしく地獄に行くのだろうか。
死ぬことを期待している自分に、思わず笑いが零れる。
視界が、白で埋め尽くされてゆく。

「私は、零崎双識は──」

かすれた声で呟く。

「『不合格』だ」

(零崎双識――不合格)
(第零話――了)


零崎双識は、自分がいつのまにか仰向けに寝転がっていることに気付いた。
まだこの世にいるのか、それともここはあの世なのか。
瞼を開けば、一面に広がる青空。
どうやら自分は助かった、いや、助かってしまったらしい。
だが、それにしてもおかしい。
確か自分は森の中で戦って死んだ、もとい気を失ったのではなかったか。

ならば、この青空はなんなのだろう。
ならば、一体ここはどこなのだろう。

大の字を崩すこともせずに考え事に没頭する双識。その視界に広がる青空に、影が落ちる。
双識の顔を、見知らぬ少女が覗き込んできている。
少女は不機嫌そうに口を開いた。

「あんた誰?」

双識は体を起こし、目だけを動かしてあたりを見回す。
まったく見覚えのない場所に全く見覚えのない人々。一人の中年を除いて、みな若者のようだ。
その上、全員が全員、そのまま秋葉原に行けそうなほどに変な格好をしている。目の前の少女も例外ではない。
呆然としている双識を見て、少女は顔を真っ赤にして怒り出した。

「なんで平民が召喚されてくるのよ!」

少女が叫ぶと、変な格好をした集団から野次が飛んだ。

「おいルイズ!平民なんか召喚してどうすんだよ!」

「やっぱり『ゼロ』だな!」

「うるさい!当然こんな『サモン・サーヴァント』なんか無効よ!そうですよねコルベール先生!」

どうやら教師であるらしい中年の男に食ってかかる少女。
だが、コルベール先生と呼ばれた男は、渋い顔で首を振る。

「ミス・ヴァリエール。この儀式が神聖なものだ、という説明は授業で説明したはずだ」

「でも……この男は人間の――それも平民です!使い魔なんて……」

「平民であろうとなかろうと、例外は認められない。ミス・ヴァリエール、諦めて『コントラクト・サーヴァント』を済ませたまえ」

どうやら口論は『コルベール先生』が勝ったようだった。
『教師』がいるということは、ここは『学校』なのだろう。
考えている双識の前に、少女が捨て鉢な様子でやってくる。
ひとつ盛大なため息をつくと、目を閉じ、なにやらぶつぶつと呟き始めた。
そして、ゆっくりと顔を近づけてくる。

「あんた、感謝しなさいよね。あんたみたいなひょろひょろした平民が貴族にこんな事されるなんて、普通は一生ないんだから」

「――ん?」

その言葉の意味を、双識は少しの間をおいて理解――
唇が触れて、離れた。
――した。

「……あ、あ……キス…………」

「ちょ、ちょっと!あんた大丈夫?」

俯き、尋常でないオーラを漂わせている双識を見て、少女は慌てた。
『契約』したことによって、何か重大なことがこの平民の体に起きたのだろうか?
不安に駆られた少女が双識の顔を覗き込むと――

双識は、ぽえーんとした、至福の表情を浮かべていた。

その筋肉が緩みきった顔を見て、少女は直感的に理解した。

――変態だ。

「よーし、よし!夢じゃないよな?よし!……って熱っ!」

キスの喜びを噛み締める双識の手に、突然痛みが走る。
見ると、左手の甲に不思議な模様が浮かび上がってきていた。
無論、双識には何故こうなっているのかわからない。わかるのは、弟が頬にしている刺青よりは複雑だ、ということぐらい。
コルベールがこちらに寄ってきて、その模様をしげしげと眺めていた。

「さてと、みんな教室に戻るぞ」

コルベールの思い出したかのような一言で、さっきまで騒いでいた学生たちが宙に浮き上がった。
双識もさすがにこの出来事には驚いた。
しかも見たところ、種も仕掛けもないようだ。
舞い上がって周りが見えなくなっているというわけではない、と思う。
驚いている双識を尻目に、浮いている彼らは、少女に軽口を浴びせて遠めに見える大きな建物のほうへ飛んでゆく。

「ルイズ、お前は平民と歩いてこいよ」

「そうだそうだ!『ゼロ』にはお似合いだ!」

飛び去る彼らを見る少女の拳は、硬く握り締められていた。

「何よ!あいつら!」

悪態をつきつつも、少女は浮き上がることはなく、彼らに言われたとおりに歩き始める。
自然と、その背中を追って双識もついていく形になった。
歩きながら物珍しさにあたりをきょろきょろと見回している双識の耳に、唐突に少女の声が届く。

「――そういえば、あんたの名前、まだ聞いてなかったわね。平民の名前なんて興味ないけど、一応聞いといてあげるわ」

その背中からは伺えないが、言葉に怒気が滲んでいるところを見ると、まだ怒りの収まらない表情を浮かべているのだろう。
普通ならば少女を宥めるべき状況である。が、双識は火に油を注ぐように微笑みで返す。

「人に名前を尋ねるときは、自分から、というのが礼儀ではないかね?」

平民ごときに馬鹿にされた、と思ったのだろう。少女は猛烈な勢いで振り返り、口を開こうとする。
それを遮って双識は畳み掛けるように言う。

「――ああ、誤解をしないでくれよ!
 『きみたちは今現在のこの場では絶対的な強者なのだから、それぐらいの余裕を持ってもいいんじゃないか』
 と言っているんだ。決してきみを馬鹿にしているわけじゃあない!信じてくれ!」

双識のその言葉に少しは溜飲を下げたのか、先ほどよりも幾分か柔らかい口調で少女は言う。

「私の名前は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラヴァリエール。友達からは、ルイズって呼ばれてるわ」

「ルイズちゃん――か、実にいい名前だ!可憐なきみにはぴったりだね!」

「かっ、かわ……いい…なんて…………別に……」

先ほどの不敵さとは打って変わった態度に、顔を真っ赤にして口ごもるルイズ。
少女らしい様子に、双識の表情がだらしなく緩む。

「ツンデレだ……女子中学生のツンデレだ……」

半開きの口から訳のわからないことを呟く双識に、ルイズは顔を引きつらせる。
が、持ち前の精神力とプライドでなんとかそれ以上の決壊を押さえ込んだ。

「……そ!それより!私が名前教えたんだから、あんたも教えなさいよ!」

「名前も教えてもらったし、ルイズちゃんの頼みとあらば、名乗らないわけにはいかないねえ」

双識は両手を挙げると、勿体をつけるように「うふふ」と笑った。
長身痩躯と相まって、どことなくカマキリのような印象を与えている。

「――私は零崎双識という」
「ゼロ……?」

ゼロという言葉に、かすかにルイズの柳眉が逆立つ。
その変化に気づいているのかいないのか、双識は相変わらず飄々としている。

双識は知らない。
『ゼロ』が、魔法を使えない目の前の少女の仇名だということを。

ルイズは知らない。
『零崎』が、最も忌み嫌われる殺人鬼の集団であるということを。

――かくして『ゼロ』と『零』は出会った。

(零崎双識――試験再開)
(第一話――了)

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