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ソーサリー・ゼロ第三部-24

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五〇〇

「トリステイン万歳!」
 何百、何千もの口からほとばしる歓呼の声が、街全体をどよもす。
「トリステイン万歳!」
 君の左隣に立つルイズも大きな歓声を張り上げ、騎馬武者たち――槍や戦槌のかわりに、刺突剣のごとく誂(あつら)えられた杖を
手にしているので、貴族の魔法使いだとわかる――の一隊に手を振る。
 みずから≪虚無≫を捨て去ったことを嘆き悲しんでいた彼女だったが、日が経つにつれて少しずつ元気を取り戻し、今ではほとんど元通りの
様子を見せている。
 自分が≪施錠≫や≪魔力探知≫など、≪コモン・マジック≫と呼ばれる≪四大系統≫に属さぬ簡単な術を使えるのだと気づいたことも、
彼女が立ち直った一因として挙げられる――君やシエスタが見守る前で、≪浮揚≫の術を成功させたルイズの喜びようは、大変なものだった。

 王都トリスタニアの中心を貫く大通り『ブルドンネ街』は、意気揚々と行進する軍団と、それを見物する群集でひしめいていた。
 アルビオン解放のための連合軍結成の報せから一月ちかくが経ち、ついにトリステイン王国の軍隊が動き出したのだ。
 宮殿の広場で出征の式典を終えた騎兵や槍兵たちは、ブルドンネ通りを行進して城下町の門をくぐり、その足でラ・ロシェールの港へと
向かうことになる。
 故意か偶然かは知れぬが、その日は≪虚無の曜日≫であり、学院の生徒たちは授業がないのをよいことに、こぞって城下町に押しかけ、
出征する軍勢の見物に来ているのだ。
 その中には、ルイズのお供としてやって来た君の姿もある。
 クロムウェルからの刺客が風大蛇で最後だという保証もないため、君は周囲に警戒の目を光らせているが、今のところ怪しい者の姿は
どこにもない。

 先頭を進む騎士たち――その乗騎は馬だけにとどまらず、マンティコア、グリフォン、鷲頭馬(ヒポグリフ)などの怪物も見られる――は
全員が高名な貴族であるらしく、金糸や銀糸できらびやかな刺繍がほどこされた上着や、兜の上にはためく羽根飾りが人々の目を惹く。
 汚れ一つない豪奢な馬具が輝き、さまざまな紋章が刺繍された旗が風にはためく。
 ルイズと一緒になって騎士たちに声援を送っているのは、すっかり傷の癒えたギーシュと、彼にぴったり寄り添ったモンモランシーだ。
「あのグリフォンに乗った騎士が見えるかい? そう、青いスカーフを巻いた」
 ギーシュは興奮ぎみの表情で、左右に立つ少女たちに語りかける。
「あのお方は昔、父上の部下だったジョッフル子爵だよ。父上がよくおっしゃっていたっけ、何物をも恐れぬ勇敢な騎士だったって。
今度の戦でも、≪レコン・キスタ≫の叛徒どもを蹴散らしてくれるに違いない。 ああ、ぼくもお供したかったなあ!
ぼくのワルキューレが麦穂を刈り取るように反乱兵を薙ぎ倒していくところを、あのお方たちにお見せしたかったのに!」
 その言葉を聞いて、モンモランシーは眉根を寄せる。 
「ギーシュ!」
「な、なんだい?」
 金色の巻き毛を揺らしてぱっと振り向いたモンモランシーの険しい表情を前に、ギーシュは戸惑い怯えた声を上げる。
「あなた、この前言ったばかりでしょ! 自分は命を懸けてわたしを守る、わたしだけの騎士だ、って。戦争なんかに行って大怪我でも
してごらんなさい、その誓いが果たせなくなるのよ? トリステインの興廃がかかった大事な戦いならともかく、今度の遠征は
ガリアが主力の、やる前から楽勝だとわかってるものなんでしょう? あなたみたいな素人がついていっても、足手まといになるだけよ!」 
「あ、ああ……すまない、モンモランシー。ぼくが間違っていた」
 ギーシュはそう言って、微笑みかける。
「ぼくはきみだけの騎士。だから、もうきみのそばを離れて戦場に行くなんて言わないよ。きみはぼくの大切な、麗しの薔薇なんだからね」
 はたから聞いている君にとっては、全身がむず痒くなるような台詞だが、当のモンモランシーにとっては絶好の口説き文句だったらしい。
 彼女は何も言わずにそっぽを向くが、その頬は赤く染まっている。
 ギーシュとモンモランシー、若いふたりの仲は順調に進展しているようだ――ギーシュが例の困った病気を再発させぬ限りは、だが。


 兵士たちはまだ一戦も交えておらぬというのに、人々の熱狂ぶりは凱旋の式典さながらだ。
 軍勢からも観衆からも悲壮感がまったく感じられぬのは、この遠征は確実に勝てる戦だ、と思われていることが大きいのだろう。
 沿道を埋め尽くした誰もが歓声を上げているなか、喜びや興奮とはほど遠い表情をした者がふたりだけいる――君とキュルケだ。
「どうしたの、ダーリン?」
 右隣に立っていたキュルケが話しかけてくる。
「みんなと一緒に『トリステイン万歳』と叫ばない理由は、あたしと同じでよそ者だからなんでしょうけど、それにしても暗い顔ね。
せっかくのいい男が台無しよ。もしかして、これからアルビオンで流される血のことが気がかり? それとも、ほかの理由があるのかしら?」
 君は笑みを浮かべてかぶりを振り、たいしたことではないと言う。

 実のところ、ルイズの実家での事件以来現在にいたるまで、君の脳裏には風大蛇の口から出たある言葉が、刃についた血錆のように
こびりつき払い落とせずにいるのだ。
 風大蛇はこう言った。
「ご主人様がたは、百万の軍勢でも千フィートの城壁でも防げぬ、まったく新しい武器を準備しておいでだ。カーカバードとハルケギニア、
二つの世界の魔法を融合して作り出された、想像もつかぬほどの恐るべきものよ。この世界の怠惰で愚鈍な魔法使いどもには、
これを止めることなどできはせぬだろう。すべての者が、ご主人様がたの前にひれ伏すのだ!」と。
 クロムウェルは、未知の魔法によって作られたなんらかの秘密の武器を用意しており、それを使って連合軍を迎え撃つつもりなのだ。
 それはどうやら、≪タイタン≫の魔法とハルケギニアの魔法を組み合わせてできたものであり、≪タイタン≫の魔法を知る君なら、
それを無力にする方法を考え付くかもしれぬのだという。
 それゆえに、クロムウェルは土大蛇と風大蛇という刺客を送り込み、君の抹殺を図ったのだ。
 しかし、その武器とはいったいなんなのだろう?
 城壁も軍団も役に立たぬ武器――あらゆるものを打ち砕く神の雷光か、すべての街や村を破壊しつくす大地震を引き起こすのか、
それとも、いかなる癒しの術も効かぬ死と腐敗の疫病を撒き散らすのか。
 それに、『御主人様がた』という言葉も気がかりだ。
 クロムウェルには優れた魔法の知識をもつ同盟者――あるいは下僕――がおり、その何者かが、謎の武器の製作に携わっているのかもしれない。

 これらのことをキュルケに相談してもしかたがないだろうと考えた君は、逆に彼女に質問する。
 そっちこそなにか心配事があるようだが、どうしたのだと。
「あら、顔に出ちゃってたかしら? さすが、鋭いのね」
 キュルケは驚きの眼で君を見る。
「いつものことなんだけどね……なにも言わずに出ていくのは」
 君がタバサのことかと尋ねると、キュルケはうなずき、寂しげな笑顔を見せる。
「今朝、あの子の部屋に行ってみたら、もぬけのからだったわ。いったい、どこで何をやっているのかしら? このあいだなんか、
怪我して帰ってきてたし。あなたは何か聞いてない?」
 君は、自分は何も知らぬ、と嘘をつく。
 タバサ――狂気の暴君である伯父に苦しめられている、ガリアの王族シャルロット――の身の上は、軽々しく口にしてよいものではないと
考えたからだ。
 キュルケは
「そう。残念ね」と言って、
君の腕にしがみつく。
「タバサがいなくて寂しいから、ダーリンに慰めてもらうことにするわ!」
 君は、二の腕に押し付けられた柔らかいふくらみと、首筋にかかる熱い吐息を感じて、どぎまぎする。
 そんな君の様子に気づいたルイズは、周囲の喧騒すら圧する大音声(だいおんじょう)で
「な、なにしてんのよツェルプストー! あんたもあんたよ、なに鼻の下伸ばしてんのよ! この、この、裏切り者ー!」と叫ぶ。

 当初、『アルビオン遠征』『≪レコン・キスタ≫討伐』と呼ばれていたこの戦争は、後世の歴史書においてまったく別の名で
記されることになる――『カーカバード戦争』あるいは『大侵寇』と。


 君は踵を返してその場を逃げ出す。
 ギーシュとモンモランシーが、戻って来いと悲鳴じみた声を上げるが、耳を貸さずに岩だらけの斜面を駆け降りる。
 少し進んだところで、突然眼の前の地面が裂け、深々とした奈落が現れる。
 慌てて止まろうとするが、間に合わない。
 頭から転がり落ちた君が最後に聞いたのは、自身の首の骨が枯枝のようにへし折れる音だ。

 ばかばかしい最期だが、ギーシュたちを見捨てて自分だけ助かろうとした臆病者には、ふさわしいものかもしれない……


 君とルイズは屋根から落ち、腐臭をはなつ泥沼のごとき怪物の只中に突っ込む。
 落ちた高さのわりに、衝撃は少ない――怪物の柔らかく不定形の体が、君たちを受け止めたからだ!
 必死に這い出そうとするが、ぞっとしたことにねばつくそれは、君の手足をとらえて離さない。
 すぐそばでルイズのくぐもった悲鳴が聞こえたので慌てて首をめぐらすが、どこにも彼女の姿は見えない。
 怪物に呑み込まれたのだと理解した時には、君も同じ状況に陥っている。
 皮膚が焼け、全身の骨を砕かれるすさまじい痛みに悲鳴を上げるが、どうにもならない。
 君とルイズは≪混沌≫の怪物に吸収され、そのおぞましい体の一部を形作ることになったのだ。


 君は素早く飛びのいて、≪混沌≫の怪物をかわす。
 しかし、ルイズは君ほど俊敏ではない。
 よけるひまもなく、一瞬のうちに怪物に押し潰されてしまう!
 ルイズの名を叫ぼうとした君だが、突然胸が苦しくなり、その場に膝をつく。
 左手の甲に刻まれた紋様が輝いていることに気づくが、すぐに光は薄れ、それに合わせるかのように視界も暗くなっていく。
 自分の身に何が起きたのか気づく前に、意識を失う。

 君に刻まれた≪ルーン≫は見た目はありふれたものだが、その効果は特殊なものだったのだ。
 主人だけが死ぬことを許さず、その≪使い魔≫にも後を追わせたのだから……


 体力点一を失う。
 宝石細工のメダルは持っているか?
 なければこの術は使えず、ルイズともども、怪物に叩き潰されることになる。
 君の冒険は終わった。

 持っているなら、首にかけて術を使え。
 君はルイズを抱きかかえて空中に浮き上がるが、怪物をよけることはできない――敵は上からのしかかってくるのだから!
 黒々とした腕状の塊は君たちをとらえ、地面に叩きつける。
 全身に激痛を覚えるが、それも束の間だ。
 あっというまに≪混沌≫の奔流に呑み込まれ、意識を失う……


 体力点一を失う。
 黒い仮面は持っているか?
 なければこの術は効かず、使おうとしているあいだに怪物に押し潰され、君とルイズは命を失う。

 黒い仮面があるなら、自分の顔の前に掲げて術を使え。
 この術は相手の心中に恐怖を生じさせるが、眼も脳ももたぬ怪物が相手では通用しない。
 己の間違いに気づいた時にはもう遅く、君とルイズは≪混沌≫の怪物に押し潰される。
 君たちの血と肉は怪物に吸収され、腐臭を放つどろどろの肉体の一部となるのだ。


 体力点五を失う。
 こんな術は存在しない。

 術を使おうとぶざまにもがいているあいだにも、怪物は襲いかかってくる。
 反応の遅れた君はその一撃をかわせず、そばに立つルイズともども、叩き潰されることになる。
 君の旅は終わったのだ……


 ≪混沌≫の怪物の中からそそり立つ触手めいた器官は、太さは人間の胴ほどもあり、大蛇のようにのたうつ不気味なものだ。
 迫りくる触手に武器で斬りつけると形が崩れるが、すぐに元に戻ってしまう。
 さらに別の触手が、左右から、背後から、君とルイズに迫る。
「相棒、これじゃきりがねえぞ!」
 デルフリンガーの言うとおりだ。
 どれだけ武器を振るっても、≪混沌≫の怪物から身を守る役には立たぬが、そのことに気づくのが遅すぎた。
 首と腕に巻きついたねばつく触手は、すさまじい力で君を怪物の本体の中へと引きずり込む。 
 皮膚が焼け、全身の骨を砕かれるすさまじい痛みに悲鳴を上げる君には、同じ目に遭っているルイズのことを気にかける余裕もない。
 君は果敢な努力を払ったが、すべては無駄に終わった。


 体力点五を失う。
 こんな術はない。

 手間取っている隙に怪物は触手めいた器官を伸ばし、君の手足に巻きつける。
 そのまま怪物の中に引きずり込まれ、全身を砕き、潰し、溶かされることになる。
 ルイズもすぐに、君と同様の運命に見舞われてしまうことだろう。
 君の冒険はここで終わる。


 体力点五を失う。
 こんな術は存在しない。

 もたつく君の足を、冷たくねばねばとした触手がとらえる――≪混沌≫の怪物が、獲物を喰らおうとしているのだ!
 武器で触手を斬り落とそうとするが、もう遅い。
 すさまじい力で怪物の中に引きずり込まれ、苦痛に満ちた死を迎えることになる。
 君は――やがてルイズや、タルブの村人たちの多くも――怪物をより強大にするための、養分となるのだ。


 嵐の中を夜を徹して歩いて来た疲労のため、眠気はもはや耐えがたいものとなる。
 ルイズの母親はまだ来ないのかと小声で毒づくと、君は長椅子に横になり、肘掛を枕がわりにする。
 ルイズの家族とはいえ、客に対してまともなもてなし一つできぬ貴族への礼儀など、知ったことではない。
 瞼を閉じると、これまでの出来事を思い起こす――鳥人どもの襲撃、死体の謎めいた消失、それまでの快晴が嘘のような嵐、
そして執事の奇妙な態度。
 風大蛇が君の命を狙っていると鳥人は言っていたが、大勢の衛士や奉公人が勤めており、堅牢な城壁に囲まれたこの場所なら、
新たな刺客が現れることもないだろう。
 そう思うと安心感を覚え、まもなく眠りに落ちていく。

 だが、この眠りは邪魔されることになる。
 部屋の片隅からひとすじの気体が立ち昇り、逆巻いて、翼をもつ大蛇の姿をとる。
 君は知らぬが、狡知に長けた恐るべき風大蛇は、すでにこの屋敷に先回りしていたのだ――君の倒した鳥人の死体に潜り込み、それを操って!
 怪物は君のほうへ舞い降りると、煙でできた胴を顔に巻きつけてくる。
 悪臭のする気体を肺に吸い込んでしまった君は、咳き込みながら目を覚ます。
 振りほどこうともがくが、大蛇は固く巻きついており、どうにもならない。
 君の体から力が抜け、やがて意識を失い、死に到る。
 君の旅は終わった。


 体力点五を失う。
 こんな術はない。

 君の術を使おうとする努力はむなしいものだが、公爵夫人にそれがわかるはずもない。
 身の危険を感じた彼女は
「何を!?」と鋭く叫ぶと、
弾かれたような動きで小さな杖を振る。
 たちまち、吹き荒れる暴風が客間全体を包み込む!
 公爵夫人は≪風≫系統の魔法の達人だったのだ。
 長々とした詠唱も、派手な身振りもなかったにもかかわらず、術の威力はすさまじく、君は木の葉のごとく吹き飛ばされる――窓へ向かって。
 窓のガラスに頭から突っ込み、破片を顔全体に浴びて、苦悶の声を上げる。
 破片は両眼を貫いており、いかなる術や薬をもってしても回復の見込みはないだろう。
 ここラ・ヴァリエール公爵の屋敷で、君の旅は終わりを告げる。


 君はふたたび、埋もれた記憶を掘り起こそうと努力するが、何も思い出せない。
 イルクララ湖で風大蛇と闘ってから、まだ一月あまりしか経っておらぬはずだが、これはいったいどうしたことなのだろう?
「危ない!」
 カトレアの叫びにはっと顔を上げると、怪物が君のほうへ向かって飛んでくるところだ。
 今度はかわしきれず、胴を顔に巻きつけられてしまう!
 すさまじい悪臭に君は咳き込み、喉を詰まらせ、のたうちまわるがもう遅い。
 風大蛇の毒煙を肺一杯に吸い込んだことで、君の運命は決まった。
 怪物はついに、復讐を果たしたのだ。


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