朝、太陽が顔を出し、さわやかな日差しが部屋の中に差し込み始めたころ、ソファからバージルが起き上がる
ふと床へ目をやると、そこには昨夜床につき落としたシルフィードの胸に顔をうずめる形でルイズが寝息を立てていた
「うぅ~ん……やわらか……うふふふ……」
「あっ……おにいさま……そんなに強く……」
なにやら幸せそうな顔で呟いている二人を放置し、掛けておいたコートを羽織る
そして昨日受け取ったメモを確認していると、不意に部屋のドアがノックされる
応対のため静かにドアを開けると、そこにはタバサが立っていた
「何の用だ」
「これ」
タバサはそう言うと何やら大きめの服を手渡す
「あの子の服」
どうやらシルフィードのサイズに合う服を持ってきてくれたらしい、
ルイズの服ではサイズが合わないと駄々をこねていたのでありがたく受け取ることにした
「受け取っておく」
「ごめんなさい、私の責任」
少々憮然としたバージルの態度にタバサは謝罪の言葉を口にする、
そんな彼女をよそに、バージルはそれもそうだな、と言わんばかりに肩を竦めると、踵を返しドアを閉める。
そして眠っているルイズに近づくと、襟首を掴み持ち上げ、声をかけた。
「起きろ、街へ行く」
「はぇ……? 夢……胸……」
胸が大きくなる夢でも見ていたのであろうか、ペタペタと哀しそうな表情で自分の胸を触る
「何を寝惚けている、さっさと準備しろ」
「え? あ……うん……」
そんなルイズに構うこともなく、バージルはつま先でシルフィードの頭を小突いた
「んがっ……ふぁ……おはよう……」
すると目をこすりながらシルフィードが起き上がる。
そしてんん~~っと大きく伸びをするとはらりと身を包んでいたシーツが床に落ちた、
「んなっ!?」
それをみたルイズが身体を硬直させる
そんなルイズを気にすることもなく、シルフィードは生まれたままの姿になりながらも気にすることもなく大きく伸びをした後、
バージルの胸に抱きつき目をつむり、唇を突き出す
「おにいさま、おはようのキス、ん~~~! むがっ!」
その瞬間バージルの掌が蠅を叩く様にシルフィードの顔を直撃する、
「うぅ~~~……いたたた……」
「下らん事をしている暇があったらさっさと服を着ろ、街まで貴様に乗ってゆく」
しゃがみ込み鼻の頭を抑えるシルフィードにバージルはさらっと受け流すと
先ほどタバサから受け取った服をシルフィードに投げつける
「…むう、今度はこれを着ればいいの?」
シルフィードは少し不満そうな声を漏らすが、窮屈なルイズの服よりマシだと考え着替えることにした。
「ばっ! バージル! なに女の人の着替えを見てるのよ! 見ちゃダメ!」
ようやく我に返ったルイズが今さらだがバージルには見せまいと背中から飛び付き目を塞ぐ、
「ついこの間まで目の前で堂々と着替えていたのはどこのどいつだ、いいからお前も早く着替えろ」
バージルは鬱陶しそうに振り払うと、ルイズにも着替えるように促し、外へと出る
ドアを開けると廊下には出てくるのを待っていたのか、タバサとキュルケが立っていた
「ハァイ、おはようダーリン」
「キュルケか……」
小さく手を振りながらキュルケがバージルに声をかける
「何か用でもあるのか? お前はタバサの実家について行くと聞いていたが」
「んー、そのつもりなんだけどね」
そういうとタバサへ視線を落とす
「私たちも街へ行く」
「と、言うわけ、迎えの馬車は昼過ぎに来る予定だから、ちゃちゃっと済ませばすぐ帰ってこれるわ、
だから私たちも付き添い、この子が言うには監視らしいけどね」
キュルケが後の言葉を引き継ぐように説明をする、
「……まぁいいだろう、好きにしろ」
タバサが近くにいればシルフィードも妙な行動は起こすまい……そう判断したバージルは同行を許可することにした。
「ところで、こいつは秘薬屋とやらで全て揃うものなのか?」
ふとバージルがキュルケに昨日受け取ったメモを手渡し尋ねる
キュルケはそれを見ると軽く頷き答える、
「えぇ、ほとんど買えるわ、でも……『精霊の涙』、これは闇屋に行かないと手に入らないんじゃない?」
「気にはなっていたが……何だそれは」
「『精霊の涙』は、水の精霊の体の一部よ、流通量も少ないし、結構違法すれすれの秘薬だから、ちょっと値が張るかもね」
「そうか……」
バージルがメモを再び受取り、コートの中にしまい込むと部屋の中からなにやら争う音が聞こえてきた。
「この雌竜ぅ!! いい加減にしなさいよぉ!」
「きゅい! 胸がないからって嫉妬しないでほしいのね!」
ドタン! バタン! と物が飛び交う音が部屋の中から漏れてくる、
「……随分にぎやかね」
「……」
キュルケが茶化すも、バージルは腕を組みながらだんまりを決め込む、
「で、ダーリンは大きいのと小さいの、どっちがお好みかしら?」
キュルケが自分の胸を強調するようにバージルに詰め寄る
「……さぁな」
「相変わらずお堅いのね~、まぁそこがいいんだけど」
それを冷たく一蹴しケラケラと笑うキュルケから目をそらす、
その横でタバサが自分の胸をじっと見つめていた。
「……あによ……なんであんたたちまで来るのよ……」
学院の外へ向かいながら、ルイズは恨めしそうな声を上げながらキュルケを見る、
「まったくなのね! 桃髪だけでもおじゃまむしなのに! あいたっ!」
同じように抗議の声を上げるシルフィードの頭をタバサが杖で小突く、
「いーじゃない、シルフィードがへんなことしちゃわないように一緒に監視してあげるんだから、ねぇ?」
「う~……タバサの実家から馬車が迎えに来るんでしょ? 学院にいなくていいの?」
「すぐ行って用を済ましてすぐ帰ってくれば問題ないわよ」
そんな会話をしながら学院の外に出て、人目の付かない場所へと移動する、
「竜の姿にもどれ」
「きゅい!」
思慕の情、とは便利なものである、主人でもなんでもない、立場的には同じ使い魔であるバージルの命令にも関わらず
シルフィードはうれしそうに一声鳴くと、元の姿に戻るべくぱっぱと服を脱いでゆく
その光景はルイズにとってははらわたが煮えくり返る思いだが……
当のバージルはどこ吹く風、もはや慣れたのかタバサとそろって仲よく無表情である。
そしてつむじ風がしゅるしゅると身体を包み込むと……シルフィードは元の竜の姿に戻っていた。
「……本当にシルフィードだったのね……」
「本当ね、先住魔法って直接目の前で見るとやっぱりすごいわねぇ……」
わかってはいたが今さらルイズとキュルケが呟く、百聞は一見に如かずとはよく言ったものである、
「むっ! まだ信じてなかったのね! シルフィは嘘はつかないの!」
「どの口がほざく……、まぁいい、さっさと乗れ、時間が惜しい」
バージルは呆れるようにそう言うと地面を蹴り、華麗にシルフィードの背中に飛び乗る、
続いてルイズがシルフィードの背中に乗ろうとした途端――。
「やだやだ! シルフィはおにいさま以外に体を許した覚えはないのね!」
「きゃっ! ちょっ! シルフィード! 暴れないで! きゃあ!」
突如シルフィードが暴れ出し、ルイズを振り落とす。
地面に尻もちをつくかたちになったルイズにシルフィードは
「桃髪達は馬で行くといいの! シルフィの背中はおにいさまだけの特等席なのね! きゅい!」
「バカなこと言ってないでさっさと乗せなさいよ!」
なおも乗り込もうとして振り落とされるルイズを尻目にタバサは静かに脱ぎ散らかされた服を回収すると、
フライを使い、バージルのそばに降り立つと服を手渡した。
シルフィードはそれすら見咎めると、激しく首を振りタバサすら振り落とそうとした。
「きゅいきゅい! ダメなのダメなの! おにいさま以外乗っちゃダメなの!」
その言葉には流石にショックを受けたのかタバサがうつむく、ルイズもそれを見てシルフィードに食ってかかった
「ちょっと! アンタはタバサの使い魔でしょ! 使い魔が主人を乗せなくてどうするのよ!」
その言葉にはシルフィードも少し思うところがあったらしい、少し考えると、意を決したように口を開いた
「おねえさまは~……、うん、おにいさまとの交際を正式に認めて下さったら乗せてあげてもいいのね」
「なっ!! そんなのダメに決まってんでしょうがぁ~~!!」
タバサではなくルイズが顔を真っ赤にしてシルフィードにわめき散らす。
それを横目で見ながらキュルケがため息をつきタバサに尋ねる
「はぁ……あぁ言ってるけどどうする?」
「肉抜き、一ヶ月延長」
そういうとタバサはスタスタと学院へ向け歩いてゆく
「ちょっと、どうするのよ?」
「馬で行く」
歩調を緩めることなく短く答えるとタバサは学院へと戻って行った
「ふぅ……ほらルイズ、私達も馬で行きましょ、仕方がないわ」
「うぅ~~~~……いい!?街の前で待ってなさいよ? いいわね!」
キュルケがルイズをズルズルと学院へと引きずってゆく、
「モテる男はつらいねぇ、相棒」
「へし折るぞ」
取り残されたバージルは眉間を指で押さえながら呻く様に呟いた。
「おにいさま今日もすっごくStylish! わたしうれしい!」
空を飛びながらシルフィードはどこで覚えたのか会話の節々にそんな言葉を織り交ぜバージルとの会話を楽しむべくおしゃべりを開始する。
だがバージルは昨日に引き続きまともに受け答えしようとしない
この反応の薄さは主人であるタバサそっくり、否、それ以上かもしれない。
しかし反応が薄い人物の相手は慣れているのか、シルフィードは気にせずはしゃぎながら口を開いた。
「そう言えばおにいさまにはまだ教えてなかったの! わたしの名前!」
「……」
「竜達の名前では"イルククゥ"、そよ風って意味ですわ! 人間たちの名前では"シルフィード"。
わたし、名前が二つありますわ! おねえさまと一緒なの!」
うれしそうに説明するシルフィードとは違い、バージルにとっては果てしなくどうでもいい話題である。
相槌を打つこともなくただ腕を組みながら目をつむり右から左へ聞き流していた。
「おねえさまに召喚された時にシルフィードの名前をいただいたの! 今でも覚えてるの!
おにいさまが召喚された時のことも覚えているのね!」
その言葉を聞きバージルの顔が少し険しくなる。
ふと床へ目をやると、そこには昨夜床につき落としたシルフィードの胸に顔をうずめる形でルイズが寝息を立てていた
「うぅ~ん……やわらか……うふふふ……」
「あっ……おにいさま……そんなに強く……」
なにやら幸せそうな顔で呟いている二人を放置し、掛けておいたコートを羽織る
そして昨日受け取ったメモを確認していると、不意に部屋のドアがノックされる
応対のため静かにドアを開けると、そこにはタバサが立っていた
「何の用だ」
「これ」
タバサはそう言うと何やら大きめの服を手渡す
「あの子の服」
どうやらシルフィードのサイズに合う服を持ってきてくれたらしい、
ルイズの服ではサイズが合わないと駄々をこねていたのでありがたく受け取ることにした
「受け取っておく」
「ごめんなさい、私の責任」
少々憮然としたバージルの態度にタバサは謝罪の言葉を口にする、
そんな彼女をよそに、バージルはそれもそうだな、と言わんばかりに肩を竦めると、踵を返しドアを閉める。
そして眠っているルイズに近づくと、襟首を掴み持ち上げ、声をかけた。
「起きろ、街へ行く」
「はぇ……? 夢……胸……」
胸が大きくなる夢でも見ていたのであろうか、ペタペタと哀しそうな表情で自分の胸を触る
「何を寝惚けている、さっさと準備しろ」
「え? あ……うん……」
そんなルイズに構うこともなく、バージルはつま先でシルフィードの頭を小突いた
「んがっ……ふぁ……おはよう……」
すると目をこすりながらシルフィードが起き上がる。
そしてんん~~っと大きく伸びをするとはらりと身を包んでいたシーツが床に落ちた、
「んなっ!?」
それをみたルイズが身体を硬直させる
そんなルイズを気にすることもなく、シルフィードは生まれたままの姿になりながらも気にすることもなく大きく伸びをした後、
バージルの胸に抱きつき目をつむり、唇を突き出す
「おにいさま、おはようのキス、ん~~~! むがっ!」
その瞬間バージルの掌が蠅を叩く様にシルフィードの顔を直撃する、
「うぅ~~~……いたたた……」
「下らん事をしている暇があったらさっさと服を着ろ、街まで貴様に乗ってゆく」
しゃがみ込み鼻の頭を抑えるシルフィードにバージルはさらっと受け流すと
先ほどタバサから受け取った服をシルフィードに投げつける
「…むう、今度はこれを着ればいいの?」
シルフィードは少し不満そうな声を漏らすが、窮屈なルイズの服よりマシだと考え着替えることにした。
「ばっ! バージル! なに女の人の着替えを見てるのよ! 見ちゃダメ!」
ようやく我に返ったルイズが今さらだがバージルには見せまいと背中から飛び付き目を塞ぐ、
「ついこの間まで目の前で堂々と着替えていたのはどこのどいつだ、いいからお前も早く着替えろ」
バージルは鬱陶しそうに振り払うと、ルイズにも着替えるように促し、外へと出る
ドアを開けると廊下には出てくるのを待っていたのか、タバサとキュルケが立っていた
「ハァイ、おはようダーリン」
「キュルケか……」
小さく手を振りながらキュルケがバージルに声をかける
「何か用でもあるのか? お前はタバサの実家について行くと聞いていたが」
「んー、そのつもりなんだけどね」
そういうとタバサへ視線を落とす
「私たちも街へ行く」
「と、言うわけ、迎えの馬車は昼過ぎに来る予定だから、ちゃちゃっと済ませばすぐ帰ってこれるわ、
だから私たちも付き添い、この子が言うには監視らしいけどね」
キュルケが後の言葉を引き継ぐように説明をする、
「……まぁいいだろう、好きにしろ」
タバサが近くにいればシルフィードも妙な行動は起こすまい……そう判断したバージルは同行を許可することにした。
「ところで、こいつは秘薬屋とやらで全て揃うものなのか?」
ふとバージルがキュルケに昨日受け取ったメモを手渡し尋ねる
キュルケはそれを見ると軽く頷き答える、
「えぇ、ほとんど買えるわ、でも……『精霊の涙』、これは闇屋に行かないと手に入らないんじゃない?」
「気にはなっていたが……何だそれは」
「『精霊の涙』は、水の精霊の体の一部よ、流通量も少ないし、結構違法すれすれの秘薬だから、ちょっと値が張るかもね」
「そうか……」
バージルがメモを再び受取り、コートの中にしまい込むと部屋の中からなにやら争う音が聞こえてきた。
「この雌竜ぅ!! いい加減にしなさいよぉ!」
「きゅい! 胸がないからって嫉妬しないでほしいのね!」
ドタン! バタン! と物が飛び交う音が部屋の中から漏れてくる、
「……随分にぎやかね」
「……」
キュルケが茶化すも、バージルは腕を組みながらだんまりを決め込む、
「で、ダーリンは大きいのと小さいの、どっちがお好みかしら?」
キュルケが自分の胸を強調するようにバージルに詰め寄る
「……さぁな」
「相変わらずお堅いのね~、まぁそこがいいんだけど」
それを冷たく一蹴しケラケラと笑うキュルケから目をそらす、
その横でタバサが自分の胸をじっと見つめていた。
「……あによ……なんであんたたちまで来るのよ……」
学院の外へ向かいながら、ルイズは恨めしそうな声を上げながらキュルケを見る、
「まったくなのね! 桃髪だけでもおじゃまむしなのに! あいたっ!」
同じように抗議の声を上げるシルフィードの頭をタバサが杖で小突く、
「いーじゃない、シルフィードがへんなことしちゃわないように一緒に監視してあげるんだから、ねぇ?」
「う~……タバサの実家から馬車が迎えに来るんでしょ? 学院にいなくていいの?」
「すぐ行って用を済ましてすぐ帰ってくれば問題ないわよ」
そんな会話をしながら学院の外に出て、人目の付かない場所へと移動する、
「竜の姿にもどれ」
「きゅい!」
思慕の情、とは便利なものである、主人でもなんでもない、立場的には同じ使い魔であるバージルの命令にも関わらず
シルフィードはうれしそうに一声鳴くと、元の姿に戻るべくぱっぱと服を脱いでゆく
その光景はルイズにとってははらわたが煮えくり返る思いだが……
当のバージルはどこ吹く風、もはや慣れたのかタバサとそろって仲よく無表情である。
そしてつむじ風がしゅるしゅると身体を包み込むと……シルフィードは元の竜の姿に戻っていた。
「……本当にシルフィードだったのね……」
「本当ね、先住魔法って直接目の前で見るとやっぱりすごいわねぇ……」
わかってはいたが今さらルイズとキュルケが呟く、百聞は一見に如かずとはよく言ったものである、
「むっ! まだ信じてなかったのね! シルフィは嘘はつかないの!」
「どの口がほざく……、まぁいい、さっさと乗れ、時間が惜しい」
バージルは呆れるようにそう言うと地面を蹴り、華麗にシルフィードの背中に飛び乗る、
続いてルイズがシルフィードの背中に乗ろうとした途端――。
「やだやだ! シルフィはおにいさま以外に体を許した覚えはないのね!」
「きゃっ! ちょっ! シルフィード! 暴れないで! きゃあ!」
突如シルフィードが暴れ出し、ルイズを振り落とす。
地面に尻もちをつくかたちになったルイズにシルフィードは
「桃髪達は馬で行くといいの! シルフィの背中はおにいさまだけの特等席なのね! きゅい!」
「バカなこと言ってないでさっさと乗せなさいよ!」
なおも乗り込もうとして振り落とされるルイズを尻目にタバサは静かに脱ぎ散らかされた服を回収すると、
フライを使い、バージルのそばに降り立つと服を手渡した。
シルフィードはそれすら見咎めると、激しく首を振りタバサすら振り落とそうとした。
「きゅいきゅい! ダメなのダメなの! おにいさま以外乗っちゃダメなの!」
その言葉には流石にショックを受けたのかタバサがうつむく、ルイズもそれを見てシルフィードに食ってかかった
「ちょっと! アンタはタバサの使い魔でしょ! 使い魔が主人を乗せなくてどうするのよ!」
その言葉にはシルフィードも少し思うところがあったらしい、少し考えると、意を決したように口を開いた
「おねえさまは~……、うん、おにいさまとの交際を正式に認めて下さったら乗せてあげてもいいのね」
「なっ!! そんなのダメに決まってんでしょうがぁ~~!!」
タバサではなくルイズが顔を真っ赤にしてシルフィードにわめき散らす。
それを横目で見ながらキュルケがため息をつきタバサに尋ねる
「はぁ……あぁ言ってるけどどうする?」
「肉抜き、一ヶ月延長」
そういうとタバサはスタスタと学院へ向け歩いてゆく
「ちょっと、どうするのよ?」
「馬で行く」
歩調を緩めることなく短く答えるとタバサは学院へと戻って行った
「ふぅ……ほらルイズ、私達も馬で行きましょ、仕方がないわ」
「うぅ~~~~……いい!?街の前で待ってなさいよ? いいわね!」
キュルケがルイズをズルズルと学院へと引きずってゆく、
「モテる男はつらいねぇ、相棒」
「へし折るぞ」
取り残されたバージルは眉間を指で押さえながら呻く様に呟いた。
「おにいさま今日もすっごくStylish! わたしうれしい!」
空を飛びながらシルフィードはどこで覚えたのか会話の節々にそんな言葉を織り交ぜバージルとの会話を楽しむべくおしゃべりを開始する。
だがバージルは昨日に引き続きまともに受け答えしようとしない
この反応の薄さは主人であるタバサそっくり、否、それ以上かもしれない。
しかし反応が薄い人物の相手は慣れているのか、シルフィードは気にせずはしゃぎながら口を開いた。
「そう言えばおにいさまにはまだ教えてなかったの! わたしの名前!」
「……」
「竜達の名前では"イルククゥ"、そよ風って意味ですわ! 人間たちの名前では"シルフィード"。
わたし、名前が二つありますわ! おねえさまと一緒なの!」
うれしそうに説明するシルフィードとは違い、バージルにとっては果てしなくどうでもいい話題である。
相槌を打つこともなくただ腕を組みながら目をつむり右から左へ聞き流していた。
「おねえさまに召喚された時にシルフィードの名前をいただいたの! 今でも覚えてるの!
おにいさまが召喚された時のことも覚えているのね!」
その言葉を聞きバージルの顔が少し険しくなる。
あの時、ダンテに敗れ、魔界へと身を投げた。そして奈落の底へと堕ちきる刹那
なんの因果かルイズによってここ、ハルケギニアに召喚され、彼女の使い魔として契約、現在に至っている。思えば短い期間で様々なことがあった。
「……相棒、何を考えてるんだ?」
雰囲気が変わったことを察したのか背中のデルフが声をかけてくる、
「なんでもない、ただ思い返していただけだ」
「そうかい、相棒、ちょっと聞きたいんだがな」
「何だ」
「お前さん、何時までこんなことを続ける気だね?」
デルフのその言葉にバージルの眉がピクと動く
「……何のことだ」
「とぼけるなよ、娘っ子のことだ」
「………」
「いつまで心を開いている『ふり』をするつもりだ? まったくおでれーたよ、急に人が変わったかのように
娘っ子に優しくするんだからな、頭でも打ったのかと思ったぜ」
あれで優しく、と言うのかは少々疑問ではあるが、ここ最近、彼はルイズに対しかなり穏やかに接している、
召喚された時と比べればまるで天と地の差だ。
バージルは左手を見つめると静かに口を開く。
「気に入らんことが……、ある種の賭けだった、奴に…ルイズに多少なりとも心を許してしまった時、わずかだが身体が軽くなることに気がついた。」
眉間にしわを寄せながら話すも、あくまで淡々とした口調で続ける。
「だから俺はほんの少し、奴を信用することに、賭けてみることにした。ギャンブルは性に合わんのだが、
どうやら今回は勝てたようだ。それだけのことだ」
「信用、ね、利用している風に聞こえるのは俺っちだけかね?」
「デルフ」
バージルは短く言うと、再び静かに目を閉じる
「俺は言ったはずだ、利用できるものはなんでも利用する、と。
奴を受け入れるだけで力が手に入るなら、安いものだ……だが、いつかはこのルーンを捨て去らねばならん時が来る。
おそらくそれは、俺が魔界へ行き、この世界から切り離される時だ」
バージルは目を見開くと決意を新たにするように改めて口を開く
「それまでの間は、使い魔をやってやる、そう決めた。少しでも多く、この力を自分に取り込むためにな」
「受け入れる? ハッ! よく言うよまったく……、それにしちゃお前さんの心の奥底は凍りついたまんまだぜ?」
「それでもだ、……ガンダールヴの力、これほどまでに強力なものとは、甘く見ていた、と言っても過言ではない。
体が軽い。手から足から、力があふれる。まるで魔力を開放した時と同じだ。これでルーンの力を全て解放したらどうなる?
父を、スパーダすら上回る力さえ手に入るのではないか? そんなことまで夢想してしまう」
バージルはそこまで言うと小さく「かいかぶりすぎだろうがな……」と付け加えた。
「ついでだから教えてやるよ。そのルーン、まだまだ相棒に力を貸すぜ」
デルフはカチカチと音を鳴らしながら言葉を続ける、
「前にも言ったが、ガンダールヴの原動力は心の震えだ、怒り悲しみ喜び、なんでもいい、
お前さんの場合は、"力"への底無き渇望、そして恐ろしい程の"自己に対する怒り"だ。
ガンダールヴの心の震えとしては上々ってところかね、……逆に栄養価高すぎて毒じゃないかってくらいだな」
「では、何故力を貸さん」
「心の奥底が凍りついちまってるせいでイマイチ力が出ない、そんなところだな。
流石のガンダールヴのルーンも心の底から震えないとどうしようもないぜ?」
「……」
その言葉にバージルは押し黙ってしまった。デルフはそれに構わず彼に尋ねる、
「なぁ、相棒にとって強さって何だ?」
「分かり切ったことを……力だ、力こそが全てを征する、力こそが強さだ」
くだらない質問、答えは決まっている、と言わんばかりにバージルが答えた。
「ふぅん、で、相棒はその力を手に入れて一体どうしようってんだ? 世界に覇でも唱えるつもりかい?」
「そんなものに興味はない、俺はただ力が欲しい……スパーダのような純粋な力が」
「んじゃ、仮にその力を手に入れたとしよう、そんでもって仇すら倒しちまった、その後お前さんはどうする気だ?」
「……」
バージルの言葉が止まる、
――俺は力を手に入れて……そして……?
「お前さん、いつから目的と手段が入れ替わっちまったんだ?」
「何だと?」
その言葉を聞き、バージルが眉間の皺をより深くする
「お前さんはいつか言ったな? 力がなきゃ何も守れないと、"何か"とはいわんが、
それを守る力が欲しかったんだろ? 違うか?」
「……お前に何がわかる」
「最後まで聞けっての、お前さんはいつしか"力"のみに執着しちまった、目的を忘れちまってるんだよ」
「何が言いたい」
「スパーダは何のために戦った? 魔界の侵攻から、人間界を救わんと剣を取ったんだろ?」
「……」
「俺っちが思うになぁ、スパーダが魔帝に打ち勝てたのは、純粋に力が強いから、だけじゃねぇと思うんだよな」
「力は決定的なものではない、そう言いたいのか?」
バージルは不快感を隠そうともせずにデルフに聞きなおす。
「そうさ、大事なのはな、『守りたい』と思う信念だと思うんだよ、愛だよ、愛」
茶化すようにデルフがカチカチと笑う
「ふざけているのか?」
「まぁ、そう怒るなよ、別に俺っちの考えをお前さんに押し付けるつもりはないさ、だがな、
今のお前さんには、守るべきものがあるってことを知ってもらいたいんだよ、
前にも言ったろ? 守りたいものがあるとき、いくらでも強くなれるもんなんだよ、それが人であれ……悪魔であれな」
「……それがルイズだとでも言うのか? 馬鹿も休み休み言え……」
バージルは吐き捨てるように呟くと地上を見る。シルフィードが飛ばしすぎたのか街道にはルイズ達の姿は見えなかった。
「誰かを守るための力ってのも、悪くはないぜ? 相棒も本当は守るための力が欲しかったんだろ?
そこんとこ、やっぱスパーダの息子だぁね。しっかり受け継いでやがらぁ」
「………」
「ガンダールヴはな、敵を皆殺しにするのが役目じゃない。
詠唱を行う主人を守る、それこそが"神の盾"たるガンダールヴの本来の役目なんだ。
ま、お前さんのことだ、どうせ『さっさと全滅すれば手間が省ける』なーんて言いだしそうだがな」
「……」
「まっ、お説教はこれで終わりだ。悪かったなぁ、シルフィードとのフライトに水差しちまってよ? おにいさま?」
楽しそうにカチカチと笑うデルフを背中から鞘ごと引き抜くと、地面へと思いっきり放り投げる
「おい、やめっ! ああああああああぁぁぁぁぁぁぁ…………!!!」
悲鳴を上げ地面へと落下していくデルフを冷たい目で見送るとドカっとバージルは腰をおろした。
「でね! おねえさまったらあの時……むっ! おにいさま聞いていらっしゃるの?」
自分語りに夢中になり、バージルとデルフの会話を聞いていなかったシルフィードは
くるりと視線をバージルへ向ける。
「街が近い、人目のつかん場所へ降りろ」
それを無視し顎で街を示すと、シルフィードに降下の指示を出す。
「守るべきもの……守るための力……か」
彼の呟きは風と共に消えて行った。
なんの因果かルイズによってここ、ハルケギニアに召喚され、彼女の使い魔として契約、現在に至っている。思えば短い期間で様々なことがあった。
「……相棒、何を考えてるんだ?」
雰囲気が変わったことを察したのか背中のデルフが声をかけてくる、
「なんでもない、ただ思い返していただけだ」
「そうかい、相棒、ちょっと聞きたいんだがな」
「何だ」
「お前さん、何時までこんなことを続ける気だね?」
デルフのその言葉にバージルの眉がピクと動く
「……何のことだ」
「とぼけるなよ、娘っ子のことだ」
「………」
「いつまで心を開いている『ふり』をするつもりだ? まったくおでれーたよ、急に人が変わったかのように
娘っ子に優しくするんだからな、頭でも打ったのかと思ったぜ」
あれで優しく、と言うのかは少々疑問ではあるが、ここ最近、彼はルイズに対しかなり穏やかに接している、
召喚された時と比べればまるで天と地の差だ。
バージルは左手を見つめると静かに口を開く。
「気に入らんことが……、ある種の賭けだった、奴に…ルイズに多少なりとも心を許してしまった時、わずかだが身体が軽くなることに気がついた。」
眉間にしわを寄せながら話すも、あくまで淡々とした口調で続ける。
「だから俺はほんの少し、奴を信用することに、賭けてみることにした。ギャンブルは性に合わんのだが、
どうやら今回は勝てたようだ。それだけのことだ」
「信用、ね、利用している風に聞こえるのは俺っちだけかね?」
「デルフ」
バージルは短く言うと、再び静かに目を閉じる
「俺は言ったはずだ、利用できるものはなんでも利用する、と。
奴を受け入れるだけで力が手に入るなら、安いものだ……だが、いつかはこのルーンを捨て去らねばならん時が来る。
おそらくそれは、俺が魔界へ行き、この世界から切り離される時だ」
バージルは目を見開くと決意を新たにするように改めて口を開く
「それまでの間は、使い魔をやってやる、そう決めた。少しでも多く、この力を自分に取り込むためにな」
「受け入れる? ハッ! よく言うよまったく……、それにしちゃお前さんの心の奥底は凍りついたまんまだぜ?」
「それでもだ、……ガンダールヴの力、これほどまでに強力なものとは、甘く見ていた、と言っても過言ではない。
体が軽い。手から足から、力があふれる。まるで魔力を開放した時と同じだ。これでルーンの力を全て解放したらどうなる?
父を、スパーダすら上回る力さえ手に入るのではないか? そんなことまで夢想してしまう」
バージルはそこまで言うと小さく「かいかぶりすぎだろうがな……」と付け加えた。
「ついでだから教えてやるよ。そのルーン、まだまだ相棒に力を貸すぜ」
デルフはカチカチと音を鳴らしながら言葉を続ける、
「前にも言ったが、ガンダールヴの原動力は心の震えだ、怒り悲しみ喜び、なんでもいい、
お前さんの場合は、"力"への底無き渇望、そして恐ろしい程の"自己に対する怒り"だ。
ガンダールヴの心の震えとしては上々ってところかね、……逆に栄養価高すぎて毒じゃないかってくらいだな」
「では、何故力を貸さん」
「心の奥底が凍りついちまってるせいでイマイチ力が出ない、そんなところだな。
流石のガンダールヴのルーンも心の底から震えないとどうしようもないぜ?」
「……」
その言葉にバージルは押し黙ってしまった。デルフはそれに構わず彼に尋ねる、
「なぁ、相棒にとって強さって何だ?」
「分かり切ったことを……力だ、力こそが全てを征する、力こそが強さだ」
くだらない質問、答えは決まっている、と言わんばかりにバージルが答えた。
「ふぅん、で、相棒はその力を手に入れて一体どうしようってんだ? 世界に覇でも唱えるつもりかい?」
「そんなものに興味はない、俺はただ力が欲しい……スパーダのような純粋な力が」
「んじゃ、仮にその力を手に入れたとしよう、そんでもって仇すら倒しちまった、その後お前さんはどうする気だ?」
「……」
バージルの言葉が止まる、
――俺は力を手に入れて……そして……?
「お前さん、いつから目的と手段が入れ替わっちまったんだ?」
「何だと?」
その言葉を聞き、バージルが眉間の皺をより深くする
「お前さんはいつか言ったな? 力がなきゃ何も守れないと、"何か"とはいわんが、
それを守る力が欲しかったんだろ? 違うか?」
「……お前に何がわかる」
「最後まで聞けっての、お前さんはいつしか"力"のみに執着しちまった、目的を忘れちまってるんだよ」
「何が言いたい」
「スパーダは何のために戦った? 魔界の侵攻から、人間界を救わんと剣を取ったんだろ?」
「……」
「俺っちが思うになぁ、スパーダが魔帝に打ち勝てたのは、純粋に力が強いから、だけじゃねぇと思うんだよな」
「力は決定的なものではない、そう言いたいのか?」
バージルは不快感を隠そうともせずにデルフに聞きなおす。
「そうさ、大事なのはな、『守りたい』と思う信念だと思うんだよ、愛だよ、愛」
茶化すようにデルフがカチカチと笑う
「ふざけているのか?」
「まぁ、そう怒るなよ、別に俺っちの考えをお前さんに押し付けるつもりはないさ、だがな、
今のお前さんには、守るべきものがあるってことを知ってもらいたいんだよ、
前にも言ったろ? 守りたいものがあるとき、いくらでも強くなれるもんなんだよ、それが人であれ……悪魔であれな」
「……それがルイズだとでも言うのか? 馬鹿も休み休み言え……」
バージルは吐き捨てるように呟くと地上を見る。シルフィードが飛ばしすぎたのか街道にはルイズ達の姿は見えなかった。
「誰かを守るための力ってのも、悪くはないぜ? 相棒も本当は守るための力が欲しかったんだろ?
そこんとこ、やっぱスパーダの息子だぁね。しっかり受け継いでやがらぁ」
「………」
「ガンダールヴはな、敵を皆殺しにするのが役目じゃない。
詠唱を行う主人を守る、それこそが"神の盾"たるガンダールヴの本来の役目なんだ。
ま、お前さんのことだ、どうせ『さっさと全滅すれば手間が省ける』なーんて言いだしそうだがな」
「……」
「まっ、お説教はこれで終わりだ。悪かったなぁ、シルフィードとのフライトに水差しちまってよ? おにいさま?」
楽しそうにカチカチと笑うデルフを背中から鞘ごと引き抜くと、地面へと思いっきり放り投げる
「おい、やめっ! ああああああああぁぁぁぁぁぁぁ…………!!!」
悲鳴を上げ地面へと落下していくデルフを冷たい目で見送るとドカっとバージルは腰をおろした。
「でね! おねえさまったらあの時……むっ! おにいさま聞いていらっしゃるの?」
自分語りに夢中になり、バージルとデルフの会話を聞いていなかったシルフィードは
くるりと視線をバージルへ向ける。
「街が近い、人目のつかん場所へ降りろ」
それを無視し顎で街を示すと、シルフィードに降下の指示を出す。
「守るべきもの……守るための力……か」
彼の呟きは風と共に消えて行った。
「遅いな……」
バージルが街道を見つめながら低く呟く、人目につかない場所でシルフィードから降りた後、
変化を使わせ待ち合わせ場所である、街の門前にやってきたのだが……
シルフィードがペースを考えずに飛んだため、馬で移動しているルイズ達を余裕で置き去り
ルイズ達が全行程の半分も行かないうちにトリスタニアへ到着してしまっていた。
「ところでおにいさま? どうして桃髪達なんか待ってるの? おじゃまむしが来ないうちに早くデートしたいのね!」
街へ行く、その部分だけしか聞いていなかったのか、シルフィードはここに来た理由を知らないようだ
「……勘違いするな、用があるのは秘薬屋だ、俺は場所を知らん」
「わたし秘薬屋さんの場所知ってるの! 何度かここの上を飛んだ時におねえさまに教えてもらってたから街には少し詳しいのですわ、きゅい」
「本当か?」
バージルがジト目でシルフィードを見る。
「うんうん! だから早く行くのね! おにいさまっ!」
そう言うとシルフィードはバージルと腕をからめると、街へと引っ張るように歩いて行った。
シルフィードがバージルと腕を組みブルドンネ街を歩いてゆく、
まだ早い時間とはいえ、道端では声を張り上げ果物や肉、籠などを売る商人達の姿が見え
通りは活気を帯びはじめていた。
そんな中、ぐー、とシルフィードのおなかが鳴る、その音にバージルも気が付いたのか
シルフィードへと視線を落とすと、恥ずかしそうに頬を少しだけ赤くし、上目遣いで見つめてきていた。
「ねぇおにいさま」
「……なんだ」
「おなかすいたの」
「我慢しろ」
お決まりの一言を冷徹に一蹴する、だがそれで引き下がるシルフィードではない。
返事を返してくれるだけマシ、伊達にタバサの使い魔を務めていない。
「おなかすいた、おなかすいた、おなかすいた」
「草でも食ってろ」
色気より食い気、それでも駄々をこねるシルフィードにバージルが鬱陶しそうに吐き捨てる、
「シルフィは草なんてたべないの! お肉たべたい! お肉たべたい!」
ギリッ……とバージルが奥歯を鳴らし眉間にしわを寄せる。
「おにいさまはおなかすいてない? きゅい」
「……黙れ」
「お顔に書いてあるのね! おなかすいたって!」
尚もわめくシルフィードは、バージルの目が次第に色を失っていくことに気がついていない。
「おなかすいたの。おなかすいたのーのーの」
「……黙れと言っている」
「だっておにいさまはおねえさまと同じなんだもの、おねえさまはすぐわたしのごはんを忘れる。
だからおにいさまにもたくさん言うの、おなかすいた、おなかすい――」
シルフィードがそこまで言った途端、突如バージルの手がシルフィードの細い首を掴みぐいっと上へと持ち上げる。
「――ぐっ!? きゅ……く……」
立っていた地面を失い、シルフィードは一瞬何が起こったのか分からず、苦しみに目を白黒させながらバージルを見る。
「この際だ、俺の嫌いなものを一つ教えてやる」
惚れ薬の効果があるにも関わらず、シルフィードが恐怖に戦慄く、バージルの目は冷たく、一切の色が消え失せていた。
「貴様のように聞きわけのない奴だ、これ以上続けてみろ……次はない」
バージルは冷たく言い放つと地面にシルフィードを投げつけた。
その光景は当然道行く人の視線を引いてしまう、何事かと人が集まってくる、
そんな中にも関わらず、バージルは地面にへたり込み、目に涙をためながら苦しそうにせき込むシルフィードを冷たく一瞥すると……
踵を返し集まってきた人間をかき分け通りへと消えて行った。
「……うっ……げほっ……げほっ……! ぅ……ふぇっ……うぇっ……うぅっ、うわ~~~~~ん!」
その場に取り残されたシルフィードは、恐怖に身を震わせながら人目を憚らず泣き始めてしまった。
「ねぇちゃん……大丈夫かい? まったくひでぇ兄ちゃんだ……ほれ、立てるかい?」
その様子を見かねたのか、人の良さそうな男がシルフィードに手を差し伸べる、
シルフィードはそれに力なく首を振りながら、ゆっくり立ち上がる。
「ち……違うのね……ひぐっ……シルフィが悪いの……シルフィっ……わがまま言ったから……」
「んなこと言ったってよ……、ありゃいくらなんでもやりすぎだ……」
心配する男をよそにシルフィードはすすり泣きながらふらふらと歩きだした。
「ぐすっ……だ、大丈夫なの……」
早く追わなくちゃ……そう思いながら通りを進もうとする、
そしてふと前を見ると、去って行ったはずのバージルがこちらへ向かって歩いてきた。
シルフィードはビクリと一瞬体を強張らせるも、おずおずと謝罪の言葉を口にする
「あっ……、お、おにいさま……その……ごめんなさい……シルフィ……」
「……」
そんなシルフィードに何も言わずに近づくと、バージルは無言で手に持っていた包みをシルフィードへ押しつける。
「ふぇ?」
突然押しつけられた包みを困惑の表情を浮かべながらシルフィードが封を開ける。
その中には香ばしい匂いを漂わせる、串焼きが数本入っていた。
それをみたシルフィードの顔がぱぁっと輝く。
「おにいさまっ……!」
感極まり、シルフィードがバージルの背中に抱きつく、
「鬱陶しい……」
背中で泣きじゃくるシルフィードを一瞥し……バージルは小さくため息を吐いた。
バージルが街道を見つめながら低く呟く、人目につかない場所でシルフィードから降りた後、
変化を使わせ待ち合わせ場所である、街の門前にやってきたのだが……
シルフィードがペースを考えずに飛んだため、馬で移動しているルイズ達を余裕で置き去り
ルイズ達が全行程の半分も行かないうちにトリスタニアへ到着してしまっていた。
「ところでおにいさま? どうして桃髪達なんか待ってるの? おじゃまむしが来ないうちに早くデートしたいのね!」
街へ行く、その部分だけしか聞いていなかったのか、シルフィードはここに来た理由を知らないようだ
「……勘違いするな、用があるのは秘薬屋だ、俺は場所を知らん」
「わたし秘薬屋さんの場所知ってるの! 何度かここの上を飛んだ時におねえさまに教えてもらってたから街には少し詳しいのですわ、きゅい」
「本当か?」
バージルがジト目でシルフィードを見る。
「うんうん! だから早く行くのね! おにいさまっ!」
そう言うとシルフィードはバージルと腕をからめると、街へと引っ張るように歩いて行った。
シルフィードがバージルと腕を組みブルドンネ街を歩いてゆく、
まだ早い時間とはいえ、道端では声を張り上げ果物や肉、籠などを売る商人達の姿が見え
通りは活気を帯びはじめていた。
そんな中、ぐー、とシルフィードのおなかが鳴る、その音にバージルも気が付いたのか
シルフィードへと視線を落とすと、恥ずかしそうに頬を少しだけ赤くし、上目遣いで見つめてきていた。
「ねぇおにいさま」
「……なんだ」
「おなかすいたの」
「我慢しろ」
お決まりの一言を冷徹に一蹴する、だがそれで引き下がるシルフィードではない。
返事を返してくれるだけマシ、伊達にタバサの使い魔を務めていない。
「おなかすいた、おなかすいた、おなかすいた」
「草でも食ってろ」
色気より食い気、それでも駄々をこねるシルフィードにバージルが鬱陶しそうに吐き捨てる、
「シルフィは草なんてたべないの! お肉たべたい! お肉たべたい!」
ギリッ……とバージルが奥歯を鳴らし眉間にしわを寄せる。
「おにいさまはおなかすいてない? きゅい」
「……黙れ」
「お顔に書いてあるのね! おなかすいたって!」
尚もわめくシルフィードは、バージルの目が次第に色を失っていくことに気がついていない。
「おなかすいたの。おなかすいたのーのーの」
「……黙れと言っている」
「だっておにいさまはおねえさまと同じなんだもの、おねえさまはすぐわたしのごはんを忘れる。
だからおにいさまにもたくさん言うの、おなかすいた、おなかすい――」
シルフィードがそこまで言った途端、突如バージルの手がシルフィードの細い首を掴みぐいっと上へと持ち上げる。
「――ぐっ!? きゅ……く……」
立っていた地面を失い、シルフィードは一瞬何が起こったのか分からず、苦しみに目を白黒させながらバージルを見る。
「この際だ、俺の嫌いなものを一つ教えてやる」
惚れ薬の効果があるにも関わらず、シルフィードが恐怖に戦慄く、バージルの目は冷たく、一切の色が消え失せていた。
「貴様のように聞きわけのない奴だ、これ以上続けてみろ……次はない」
バージルは冷たく言い放つと地面にシルフィードを投げつけた。
その光景は当然道行く人の視線を引いてしまう、何事かと人が集まってくる、
そんな中にも関わらず、バージルは地面にへたり込み、目に涙をためながら苦しそうにせき込むシルフィードを冷たく一瞥すると……
踵を返し集まってきた人間をかき分け通りへと消えて行った。
「……うっ……げほっ……げほっ……! ぅ……ふぇっ……うぇっ……うぅっ、うわ~~~~~ん!」
その場に取り残されたシルフィードは、恐怖に身を震わせながら人目を憚らず泣き始めてしまった。
「ねぇちゃん……大丈夫かい? まったくひでぇ兄ちゃんだ……ほれ、立てるかい?」
その様子を見かねたのか、人の良さそうな男がシルフィードに手を差し伸べる、
シルフィードはそれに力なく首を振りながら、ゆっくり立ち上がる。
「ち……違うのね……ひぐっ……シルフィが悪いの……シルフィっ……わがまま言ったから……」
「んなこと言ったってよ……、ありゃいくらなんでもやりすぎだ……」
心配する男をよそにシルフィードはすすり泣きながらふらふらと歩きだした。
「ぐすっ……だ、大丈夫なの……」
早く追わなくちゃ……そう思いながら通りを進もうとする、
そしてふと前を見ると、去って行ったはずのバージルがこちらへ向かって歩いてきた。
シルフィードはビクリと一瞬体を強張らせるも、おずおずと謝罪の言葉を口にする
「あっ……、お、おにいさま……その……ごめんなさい……シルフィ……」
「……」
そんなシルフィードに何も言わずに近づくと、バージルは無言で手に持っていた包みをシルフィードへ押しつける。
「ふぇ?」
突然押しつけられた包みを困惑の表情を浮かべながらシルフィードが封を開ける。
その中には香ばしい匂いを漂わせる、串焼きが数本入っていた。
それをみたシルフィードの顔がぱぁっと輝く。
「おにいさまっ……!」
感極まり、シルフィードがバージルの背中に抱きつく、
「鬱陶しい……」
背中で泣きじゃくるシルフィードを一瞥し……バージルは小さくため息を吐いた。