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雪と雪風_始祖と神(4)


「それでは、目撃者はお主たち五人ということになるのじゃな?」
「はい。ですが夜のことで、フーケの人相も、目にすることはできていません」

 学院長室に呼び出された五人を代表して受け答えしているのはルイズであった。
まるで昨夜は、フーケの襲撃以外に何も起こらなかったかのような態度である。

「ふむ。それにしても、賊ながらあっぱれの手口じゃ。
まさか、スクエアメイジ数人がかりで固定化した壁を、土くれどころか砂に錬金するとはのう」
 才人とキュルケは思わず冷や汗を浮かべるも、当人である長門は顔色一つ変えない。

 恐らくこれから教師の間で対応を協議するのであろう、一通りの目撃証言が語られると、
オールド・オスマンは生徒五人に自室へ戻る許可を与えようとする。と、そのとき、学院長室の扉が勢いよく開いた。

「オールド・オスマン、土くれのフーケの居場所が分かりました」
「おお、ミス・ロングビル、どこに行っていたのかね」
 ロングビルは小脇に抱えた古びた地図を広げ、フーケの隠れ家とされる地点を示した。

「なあ、この人は?」
「学院長の秘書よ」
 才人はルイズではなくキュルケに、小声で尋ねる。

「……というわけじゃ。これからフーケの隠れ家を探索する、討伐隊を派遣しようと思う。
誰か、志願しようとする者はいないかのう?」
 学院長室を出る機を逸してしまった五人の他にも、ほぼ学院中の教師全員が集まっている。
しかし、誰一人として志願しようとする様子はない。

 そんな中、一本の杖が空を切る。
「ほう……、しかし、おぬしは生徒――」
「お言葉ですが、このような事態に教師も生徒も関係ないのではないでしょうか。それにわたしは……」
「ほっほ、そうじゃのう、ミス・ヴァリエールは土のスクエアメイジじゃった」
 大見得を切ったのはルイズである。彼女がメイジとしては最高級のスクエアであることは事実ながら、
オールド・オスマンが、今のルイズを生徒として評価していたかは疑わしい。
しかし、あっけらかんとした様子で志願を認めるオスマンから、真意を読み取ることは難しかった。

 そしてルイズに続き、横に立つキュルケ、そしてタバサが杖を掲げる。
「……あなたも来て」
 小さくタバサが長門に告げると、彼女も促されて杖を上げた。

「よかろう。わがトリステイン魔法学院屈指の生徒、とその使い魔じゃったな、
四人の杖を束ねれば、いかに土くれのフーケといえど、簡単に手出しはできまい」
「しかし、学院長、彼らは生徒ですぞ?」
 コルベールをはじめ、教師達の唱える異論が噴出する。
しかしオスマンは、生徒に一旦杖を収めるよう促し、教師へ切り返した。
「ミス・ツェルプストーは火のトライアングル、ミス・タバサは水・風のトライアングルである上に、
シュヴァリエの位を保有していると聞き及んでいる。その使い魔ミス・ナガトは、土のスクエアというそうじゃの」
 未だ、黄金を錬金した他に魔法らしい魔法を見せていない長門は、便宜上、土のスクエアとして扱われていた。
「タバサ、あなた、シュヴァリエなの? 
……ただのトライアングルはあたしだけってことね。自信あったのに、凹むわぁ」
 とはキュルケの愚痴。
本来メイジの中でも実力者であるトライアングルクラスではあるが、今回ばかりは友人に恵まれすぎた。

「そしてミス・ヴァリエールは、ラ・ヴァリエール公爵家の令嬢であるうえ、
全ての系統に天才的な才能を誇ると聞いておる。なにやら虚無の再来とも噂されているそうじゃ」
「が、学院長! わたしが虚無ですって?」
 思わず声が上ずるのはルイズである。
「あくまで噂じゃよ。なに、伝説の系統・虚無が、どんな力を持っているのかなど、
誰も知りはせぬ。しかし、四系統全てを使いこなせるメイジなど前代未聞じゃからのう」
 しかしルイズの後ろに控える教師達も、虚無という単語に驚きを隠せない様子であった。

「さて――」
 場を静めるようにオスマンが口を開く。
「見ての通り、魔法学院きっての実力者というわけじゃ。ここは彼女らに任せようと思う。いかがなものかの?」
 彼女らの実力を示されては、教師達は異論を述べることができなかった。
 タバサ、長門、ルイズ、キュルケ、そして才人の五人は杖と剣を掲げる。
「杖にかけて!」

 + + +

 ロングビルが御者を務める荷馬車には、生徒とその使い魔、合わせて五人がひしめいている。
二時間ほどの道のりではあったが、退屈を持て余すようにして、
人間の使い魔二人に対する質問が飛び交うようになったのは自然のことであった。
もっとも、そのほとんどはキュルケによるものではあったが。

「……ってわけなんだ。
そう言ったところで、俺がそんな国から来ただなんて、誰も信じちゃくれないだろうけどな」
「あら、あたしは信じるわよ? 魔法のない、平民しかいない国、機械が魔法の代わりに使われている国。
まさに未来のゲルマニアそのものじゃないの。メイジのあたしとしては、ちょっと寂しいけれど……」
 出自について語る才人と、それに相槌を打つキュルケ。
タバサと長門はそれぞれ書物に興じ、ルイズは一人、森を眺めている。

「そういえばナガトさんも、使い魔になる前はどこかにいたんだろ? 
俺ばっかり話すのもなんだし、もしよかったら――。ん、そういえばナガトっていうと……」
「どうしたの、ダーリン、この子に気になることでも」
「いやさあ、俺のいた場所に、ナガトって名前を聞いたことがある気がするんだ。地名、だったかなあ……」

 その言葉に、長門は本から顔を上げる。

「あなたの指摘は間違っていない。
長門国は周防国とともに、弓状列島本島の西端を構成する地名。わたしの名前と、読み、書きともに同じ」

 メイジ然とした格好の長門から出た言葉に、才人はしばし返す言葉を失った。
「え、ああ、そうなのか……、俺の故郷に詳しいんだな。
そりゃ、セーラー服着てるし、顔立ちだってルイズたちと違うもんなあ――。
って、本当か、本当なのか? まさか、ナガトさんは俺と――!」
「本当」
 予想だにしなかった、同じ世界から来た人物の存在に、才人は思わずまくし立てる。
「だったら、だったら、俺たちが元の世界に戻る方法を知らないか? 
俺と同じで、召喚されてこの世界に来たんだろう?」
「それは不可能といってよい。少なくとも、わたし単独では、この空間と外部との境界を操作することはできない」
「単独?」
「あなたの言う元の世界へ、あなたの情報を移動させるためには、この空間を生み出した者の力が必要」
「生み出した者って、そりゃまた大きく出たな。だってそれって――」
「言い方を変えれば、神」
 才人は思わず口をあんぐりと開け、
「――神って言われちゃ、どうしようもないよ、はぁ……」
長門の言語化した内容の全ては伝わらずとも、元いた世界に戻れないという事実を読み取り、才人は頭を垂れた。

「ところで」
 落ち込んでいることを隠すように、再び才人は長門に尋ねる。
「長門さんはメイジなんだろ? だけど、俺は元いた世界で魔法使いなんて見たことがない。何者なんだ、いったい?」
「今のわたしは悪い魔法使い。多くの人間にとって観測できていないだけで、
あなたのいた世界には、宇宙人や未来人、超能力者と同様、魔法使いも存在する」
「俺が気付いていなかっただけ、ってことか」
「そう」
「……そうかぁ。まあ、実際に魔法を見せられちゃ、信じるほかないよな。――なあ、もう一つ」
「なに?」
「長門さんもメイジだろ? 
同じ国の人間でも、やっぱり俺のこと、単なる平民としか思ってないんだろうな、だなんて」
「この空間の制度に規定されない範囲において、あなたを差別する理由は見当たらない」
「つまり、ふつーに接してくれる、ってことか」
「そう考えて差し支えない」

「ふぅーん、よかったじゃない、サイト」
 すると藪から棒に、ルイズが長門と才人の間に顔を突っ込むと、あっけらかんと使い魔に言い放った。

「なんだよ、いきなり」
「だって、ミス・ナガトはサイトと同郷なんでしょう? いいのよ? 
わたしは使い魔なんていなくたって、やっていけるんだから。それに、今は難しいみたいだけど、
ミス・ナガトほどのメイジなら、一緒に元の国へ帰れるかもしれないじゃないの」
「だからたった今、帰るのは無理だって言われたばっかりだろ」
「だけど……。ほら、だって、ミス・ナガトほどのメイジはハルケギニア中を見渡しても見つからないじゃない」
「何言ってんだ、ルイズだってスクエアだとかなんとか、長門さんに負けず劣らずの実力じゃないか」
「そ、それはそうよ。だけど……、主人の頬を打つような使い魔に、誰が帰るための協力だなんてするもんですか」
 ルイズはぷんと顔をそむける。
「ああそうかよ。そうか、どうせ自分には無理だって、最初から諦めて言ってるんだ」

 しかしルイズは言い返さない。その代わり、
「だって……、わたしが魔法を使えるようになったきっかけは、ミス・ナガトに――」
 小さく、いや、誰かに聞かれることを期待するかのように呟いた。

 と、不意をついて馬車が止まった。
「馬車が通れるのはここまでですね。ここからは、歩いていきましょう」
 とのロングビルの言葉に、一行は従う。いつ来るとも知れぬフーケの襲撃に備え、口数も自然と減った。

 + + +

 獣道をしばらく歩くと、ふいに視界が開け、先頭を歩くロングビルが皆を制止した。

「この先に小屋が見えますね? 
おそらくはこの辺りの平民が、猟や山菜採りに使っているものだと思いますが――。
わたしの聞き込みでは、あそこがフーケの隠れ家という噂が流れているのです。
とはいえそれ自体、フーケの流した嘘である可能性もあります。罠の可能性を考えて――」
「偵察」
 と、タバサが小さく呟く。
「そうです。ミス・タバサの言うとおり、誰かが様子を窺いに近付くことにしましょう。誰がその役目を引き受けるかですが……」

「それで、なんで俺が行かなくちゃならないんだ?」
 自然、唯一の男である才人に視線が集中する。
「……ああ、わかったよ。こういうときに損な役は、男に回ってくるって決まってんだ」

 愚痴をこぼしつつも、及び腰で小屋に近付く才人であるが、
中に誰もいないことを確認すると、腕をぐるぐると回し、皆を呼び寄せた。
「気配はない」
 小屋を見つつ発せられた長門の言葉に、一行は才人のもとへ歩み寄る。

「おかしいんだ。窓から覗いてみても、隠れ家として使ったような痕跡はこれっぽっちも。どうする?」
 長門有希と才人が言うとおり、古びた小屋に人が出入りした気配はない。
しかしそのことが、この小屋がフーケの罠であるという予感を、いっそう強めたのであった。
「二手に分かれましょう。万が一罠であった場合を考えると、皆で中に入るのは得策とはいえません。
ミス・タバサ、ミス・ヴァリエールの使い魔さん、危険ではありますが、小屋の中の捜索をお願いできないでしょうか? 
わたしたちは小屋の外を手分けして監視します」
 生徒の監督者でもあるともいえるロングビルの提案に従い、
才人とタバサの二人は小屋の中へ入り、小屋の入り口を長門が、キュルケは小屋の裏を見張ることとなった。

 そして、ルイズとロングビルの二人だけが残る。
「ミス・ヴァリエール、どこにフーケが潜んでいるかもわかりません。わたしたちは森の中を探索しましょう」
「ええ、ですがミス・ロングビル、なぜわたしが?」
「わたしは土のラインにすぎません。
スクエアのミス・ヴァリエールと行動すれば、フーケを相手にして不足はありませんからね」
 スクエアの実力を頼られては悪い気はしない。ルイズはロングビルに付き従い、森の中へと消えた。

 だんだん大きくなる円弧を描くようにして、ルイズとロングビルは並んで森を歩く。
「ミス・ヴァリエール?」
「なんでしょう、ミス・ロングビル」
「ミス・ヴァリエールはスクエアクラスのメイジですね?」
「ええ」
「わたしはただのラインにすぎないうえ、見ての通り、秘書などという、
平民にもこなせるような仕事に従事しています。そんなわたしを、あなたはさぞかし見下しているのでしょうね」
 唐突な会話にルイズはたじろぐ。家柄を考えれば、ロングビルによる直言は、
ルイズに対する侮辱と解釈することも可能である。
しかしルイズの理性によるものか、それとも反射的に出た言葉か、ルイズはいわゆる模範的な言葉を投げ返す。
「な、なにを言っているのですか? 同じ貴族であれば、出自や魔法の実力で差別されるなどあってはならないことです」
「貴族であれば、ね。ですがわたしは、貴族の位を剥奪された者なのですよ」
「そ、そうですか……。ですが平民こそ、貴族を貴族たらしめる者、庇護こそしても、見下すなどもってのほかです」
「なるほど、優等生らしい、模範的回答ですね」
「何が言いたいのですか?」
「いえ、ミス・ヴァリエールが、学院のメイドの間で話題になっているのを聞いたものですから。
いわく、ただのゼロだった頃には可愛げもあったが、自分の力と家柄を鼻にかけるようになっては。
所詮ヴァリエールも海千山千の貴族だったか、と」

 しかし、それに対するルイズの反論が響くことはなかった。
ロングビルは振り向きざまに鳩尾に拳を打ち込み、ルイズは草むらに倒れこむ。

「……だから嫌なんだ、貴族ってのはね。ま、この子が馬鹿で助かったよ。まだ使いでがある」
 フーケはルイズの杖を軽々と折りつつ、そう呟いた。

 + + +

 タバサが棚の中から破壊の杖を発見したのは、それからわずかに後のことである。
「これが、破壊の杖?」
 杖を手渡された才人の頭に、杖と呼ばれた武器の情報が流れ込む。
「どうしてこんな物が……。いや、俺や長門さんがここにいるんだ、ここにあってもおかしくないのか?」

「タバサ、ダーリン、早く小屋から逃げて!」
「まさか、フーケが?」

 キュルケの声に、才人とタバサは窓から飛び出す。
才人にとっては、武器である破壊の杖を持っていなければ不可能な身のこなしである。
一歩遅れて、どこからともなく現れた土のゴーレムが、背後の小屋を踏み潰す。

「フーケのゴーレム!?」
 タバサは才人を抱きかかえるとフライを詠唱し、既に小屋から離れた長門とキュルケの元へと一息に飛び去る。

「すまない、タバサ」
「平気。それで、状況は?」
 冷静に友人と使い魔に問うタバサであるが、自分より二回りも大きい才人にも同時にフライをかけたためか、
明らかに精神力を消費している様子である。
「それが、小屋の裏の森からいきなりゴーレムが出てきて、魔法をぶつけても歯が立たないし、距離を取ることしかできなかったわ」
「相手は鈍重。離れるというあなたたちの対応は正しい。悪く思う必要はない」
「ごめんね、タバサなら大丈夫だと思ったのよ」
「俺は潰されてもよかったのか!?」
「それより、近付いてくる」

 タバサの言うとおり、ゴーレムは着実に距離を詰めている。
しかし体高三十メイルはあろうというゴーレムに、いかにトライアングルとスクエアのメイジ三人とはいえど、
対抗手段を持ってはいなかったのである。いや、長門有希には可能であった。
しかし彼女が手段を講ずるよりも早く、才人が行動に出る。

 ゴーレムの最期はあっけないものであった。
「……まあ見てろって」
 既に破壊の杖――M72ロケットランチャー――についての情報を読み取っていた才人は、
まるで訓練を受けた兵士のような正確さでそれを組み立てると、ゴーレムの胴体に照準を合わせ引き金を引く。
 白い尾を引いて飛んだ弾はゴーレムの五体を粉砕し、元通りに再生する様子もない。

「やるじゃない、ダーリン」
 才人は歯がゆそうに頭を掻いた。
「いや、体が勝手に動いただけで――」
「待って。フーケはまだ近くにいる」
 タバサは呟く。才人とキュルケは、剣と杖を構え、息をひそめた。
 ゴーレムがあった場所は、砂埃で覆い隠されている。
しかし、その中には確かに、人の気配を感じることができたのだ。

「皆さん、お見事でしたわ」
土煙が晴れると、その中に人影が浮かび上がった。一人、いや、影がもう一つ、無造作に転がされている。
「ミス・ロングビル、お怪我はありませんでした?」
 近付こうとするキュルケを、タバサが制止する。
「動かないで。あの子が危険に晒される」
「どうしたんだ、タバサ――ルイズ!?」
 ロングビルの傍には、錬金によって手足と口を拘束されたルイズがもがき、ロングビルはナイフの先を彼女に向けている。
「どういうことだよ、あんた!」
 才人はデルフリンガーを抜き放つ。しかし、
「杖と武器を捨てな。さもないとこの子が……。わかってるね?」
「――そうかよ、あんたが」
「土くれのフーケ」
 四人はフーケに従わざるを得ない。

「よーし、いい子だ。ヴァリエールの使い魔、そう、あんたよ。
破壊の杖と、それにあんたたちの剣と杖を、あたしとのちょうど真ん中に置いて、元の場所に戻りな」
「真ん中でいいんだな……」
「ああ。……妙な動きを見せたら、あんたの主人がどうなるか、わかってるね?」
「しねぇよ、そんなこと。大切な主人だからな」
 才人は杖とデルフリンガーを指示されたとおりの場所に転がし、両手を上げたまま戻った。

「よし、置いたぞ」
「ますますいい子だ、坊や」
 フーケはナイフを納めると歩み寄り、破壊の杖だけ拾い上げると、他を錬金によって土の塊に埋める。

「ふーん、これが破壊の杖、ねえ。わざわざ使い方を教えてくれて、ありがとうってこった。礼は返させてもらうよ」
 フーケは破壊の杖を才人たち四人に向ける。しかし――。
「ん、なんだい? 何も出ないじゃないか」
 フーケは見よう見まねで才人と同様に破壊の杖を扱おうとするも、何も起こらない。

「ダーリン、あれは?」
 才人は小声で説明する。
「ああ、あれは、マジックアイテムでもなんでもないんだ。
ようは強力な鉄砲みたいなもので、一発撃ったらお仕舞いさ。だけど、この間合いじゃ、杖や剣を取りに行くことも……」
 実際、どうやらフーケは破壊の杖が役に立たないことを理解したようだ。
投げつけるように地面に置くと、今度は自身の杖を四人に向ける。
「まずいわ、今ゴーレムを出されたら……」

「ユキ」
 すると、タバサが小声で使い魔の名を呼ぶ。

呼応するようにして長門は掌をフーケにかざす。杖も持たずに何事かと、一行とフーケには彼女の行動が理解できない。
そして高速言語の詠唱が続く。

「長門……、さん? いったい――」
 才人には、何度も目にしたルイズの詠唱とも異なる長門の行為に、ただただ驚かざるを得ない。
「対象となる有機物の情報連結を解除する」
 その言葉とともに、フーケの杖は塵となり、跡形もなく消え去った。
ともない、錬金により作り出された土塊と、ルイズの拘束具も消失する。
「くそ、先住魔法か? この偽メイジが!」
「血迷うな、フーケ!」
 フーケの狼狽する様子に、才人は思わず駆け出す。と、フーケはナイフの存在を思い出す。
一息に引き抜くとルイズへと突きつけ――、うっすらと首筋に血がにじむ。

「いやっ! 誰か、助けて――サイト!」

 再び長門はフーケに掌を向ける。が――、今度は才人の方が早かった。
 ルイズの悲鳴に、才人の使い魔としての心が震える。

 デルフリンガーを拾い上げると、一瞬にしてフーケににじり寄る。
そしてデルフの柄でフーケに当て身を食らわせると、トリステインを股にかけた大盗賊は、あっけなく意識を手放した

「このまま土に埋まったままかと思ったぜ、相棒。台詞があってよかった、よかった」
「悪いなデルフ。でも生憎俺たち、今回は主人公じゃないんだ……」

 + + +

「ルイズ、大丈夫か」
 地面にへたり込んでしまった様子のルイズを見かねてか、才人は手を差し伸べる。しかし――、
「触らないで!」
 ルイズは才人の手を払いのける。

「どうしたんだよ、いきなり」
「どうせあんたも、わたしにヘコヘコしていれば、使い魔として暮らしていけるから、わたしを助けたんでしょう?」
「そんなことないって、俺はご主人様のピンチをだな」
「違わないわ。フーケも言ってたわ。わたしは、ただ力と家柄を鼻にかけてるだけだって。
キュルケが言ってた通りよ……。結局周りに集まってきたのは、わたしに取り入ろうとする人ばかり。
あんただって、どうせ――」

 しかしルイズの罵声は途切れる。
 またしても才人が頬を打ち、乾いた音が森にこだました。

「二度もぶった……使い魔のくせに。お父様にも――!」
「俺が功名心かなにかでお前の使い魔やってると思ってるのか? 
俺はただ、ルイズがすごいご主人様だと思って、自分にできることをやってるだけで」
「そう、ならどこにでも行けばいいわ。わたしは、サイトが思ってるような、すごい貴族じゃないんだから。
キュルケの言うとおり、わたしはゼロのままなのよ」
 ルイズは使い魔を直視できずに、唇を噛み締め目を逸らした。しかし才人は、ルイズの肩を掴み、
「――俺はそうとは思わないぜ。ルイズがすごい魔法使いなら、その力も使い方次第じゃないか。それに……」
 はにかんだ様子で、
「それに……、今フーケからお前を助けたときもそうだったけど――。
ルイズのことを考えると、なんというか、心が震えるというか……」

 しどろもどろになる才人を見て、思わずキュルケが吹き出す。

 ルイズは使い魔にあるまじき発言に激怒するかといえばそうでもなく、
「あ、あんたねぇ……。まあいいわ、わたしを助けたことに免じて、今の発言は聞かなかったことにしてあげる」
「ああ、ありがとう。ご主人様」
「そうそう……、わたし、フーケに杖を折られちゃったの。
だから、新しい杖を契約するまでの間、あんたがわたしを守りなさいよ。今のわたしは、本当にゼロなんだから」

 + + +

 学院に戻ると、その夜は新入生の歓迎を兼ねたフリッグの舞踏会であった。
 フーケをひとまず教師に引き渡すと、一行も慌しく準備へと取りかかる。

「どう? サイズは?」
 タバサは使い魔に問う。
長門は、華美でこそないが、そこはかとなく上品さの漂うドレスに身を包み、
専門のメイドによってメイクも施されていた。彼女のそんな姿を目にしたのは、全ての空間を通じて、間違いなくタバサが初めてであろう。

「問題ない」
 と言いつつ、長門は胸元がジャストサイズであることを示す。
 二人の間には身長にして十サントほどの差があるため、スカートの丈こそ少々足りないが、
苦もなく長門は小さなドレスを着こなしている。いや、もしかするとそこには、情報操作が介在していたのかもしれない。
「そう、よかった」
 長門の胸元を見つめるタバサの目は、使い魔を見るものでも、友人を見るときのものでもない。
 それは、同類に対しての、半ば諦めを込めた溜息であった。

 しかし舞踏会が始まると、二人は、ダンスの輪に加わるでもなく、立食形式の会場で、
ただひたすら料理を平らげることに全精力を傾けていたのであった。
かりにもドレスは、ガリアから取り寄せた最高級のものであったのだが。

「あの子たち、本当に姉妹みたいね……」
 ペアを組む男子生徒から視線を外し、キュルケが呟いた。

 そして舞踏会もたけなわというところで、口上とともに、ルイズが階段を上り現れる。
家格、メイジとしての実力、そしてフーケ討伐に参加したという功績、この舞踏会は彼女が主役といって差し支えはない。
 生徒達は是非ともラ・ヴァリエール家の誇る期待のメイジに取り入ろうと殺到するも、
ルイズは彼らをことごとく軽くあしらい、窓辺にもたれる使い魔の元へと向かう。
 そして使い魔とダンスに興じるルイズ。

 その様子を二人は無表情のまま眺めている――と思いきや、
タバサと長門は料理に興じるばかりで、彼女らの眼中に、ルイズとその使い魔はない。


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