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ゼロの花嫁-11

ゼロの花嫁11話「ヴァリエール家族会議」



ラ・ヴァリエール公が城に着いた時には、全てが終わり既にルイズ達も学園へと戻った後であった。
近しい者達にルイズへの判決が既に下っている上、内容は条件付きでの貴族位剥奪だと聞くと、隣で見ている夫人が眉をひそめる程に激怒する。
モット伯が色々と動いていた事は周知の事実であるが、それすら聞かず、判決を下した王への直談判を強行する。
夫人を部屋に待たせての談判はものの半刻も経ずに終わり、ヴァリエール公は奇妙な顔をして夫人の待つ部屋へと戻ってきた。
夫人が状況説明を促すと、公は首をかしげたままどう説明したものか悩んだようだが、整理するのは無理と諦め、ありのままを語る。
全てを聞いた夫人も、やはり同様に首をかしげる。
夫人は、ともかくルイズに話を聞こうと言うのだが、公はルイズにそこまでの説明能力があるなどと思っておらず、実際に謁見の間に同席した者達から状況を聞く事にした。
皆口々にルイズを誉め称え、流石はヴァリエール家の娘よ、立派に教育なされましたなと公を慰める。
王が期間を与えたのも見所あるが故、公ならば手柄の一つや二つ簡単に用意出来ましょう、それを見越しての沙汰であると彼等は口にした。
それは言う程簡単でもないのだが、公は既に退位の際の恩赦を考えての沙汰である事を、王自ら聞いている。
王にそこまで言わせる程、ルイズが謁見の間で立派に振舞ったなどとどうしても考えられない。
皆を帰した後、ヴァリエール侯は夫人にそう言ったが、夫人はあくまで冷静に事実を受け止めていた。
「彼等の言がお為ごかしで無い事はご承知でしょう、ならばそういった出来事があったという事。それが真にルイズであったかはわかりませぬが」
公は押しも押されぬ大貴族である。
既に今回の件でヴァリエール家にどの程度の損害が出たのか、そしてその損害を誰がどれだけ減らしたのかも計算してある。
王、アンリエッタ王女、マザリーニ卿、この辺りは王家そのものと考えていい。
そしてワルド子爵。彼は冗談半分で決めたルイズの婚約者だが、その職責を果たしてくれたようだ。
逆に敵となったのはモット伯。こちらには後で思い知らせねばなるまい。
迷惑をかけたのだから寧ろこちらから配慮すべきであろうが、ここまで話を大きくした主犯を見逃せる程寛大にはなれない。
おかげで、王家に借りを作るなどという致命傷まで負ってしまった。
「私の小さいルイズに、一体何が起こったというのだ……」
決闘騒ぎはエレオノールが話をつけてくると言うので任せたが、直後に今度は王まで巻き込んだ大騒ぎだ。
夫人は淡々と語る。
「ルイズがこれを機にアンリエッタ次期女王と懇意にしているというのであれば、ヴァリエール家にとっては良き展開であると思いますが」
旦那が何を考えているのか分かっていながらそんな事を言ってくる夫人を、公は憎憎しげに見やる。
「……エレオノールに引き続き、ルイズまでもを王室にくれてやれというのか?」
「手元に置いておきたい公のお気持ちもわかりますが、既に事態はそれが許される状況にありません」
アンリエッタが王子であったのなら望む所ではあるが、そうでない以上アンリエッタからの好意がいつまでもルイズに向けられるとも思えないし、それに頼って何かを行うにも心許ない。
思い悩む公に、相手はヴァリエール家の娘、幾ら王家でも無茶はすまいと夫人は語る。
「どうせ公はルイズに何かあったらただでは済まさぬと、王に釘を刺してきたのでしょう?」
夫人にはお見通しらしい。
公は王とマザリーニ卿に向かい、ルイズに何かあったならば王家が相手であろうと杖を向けるとまで公言してきてしまっているのだ。
相変わらず感情を表に出さぬ静かな口調で夫人は続ける。
「残るはモット伯への対応ぐらいですが、これは公の得意分野ですからお任せします。ルイズには私から一言添えておきますので、それでこの件は終わりでしょう」
色々と言いたい事もあるが、自身ですらそれがわがままだと分かってしまっている。
ましてやそれを押し通したい相手は王家である。とてもそのような真似は出来るものではない。
「本来ならば、問答無用で家へと連れ帰るものを……」
「学園を卒業、しかる後公職に就くといった流れは、よほどの事が無い限り崩せぬでしょうな。無理を通すにしてもほとぼりが冷めてからでしょう」
冷徹に響く夫人の声が恨めしい。
「その間にルイズが新たな危険に晒されぬ保証は無いぞ」
「でしょうな。その時は公も覚悟をお決め下さい」
公は激昂して机を叩く。
「覚悟だと!? ルイズを失う覚悟か!? そんなものどうやって決めろというのだ! おお、私の小さいルイズ……どうしてこのような事に……」
頭を抱えて蹲るラ・ヴェリエール公。
流石に他所でこのような醜態は晒せぬ。
だが溜めるだけでもよろしくないと判断した夫人は、敢えてこのような事を口にして公に発散させたが、やはり彼女も又ルイズが心配な事に変わりは無い。
「ルイズ自身に自覚させるのが一番でしょう。せっかくこうして王都まで来たのです、明日の晩はエレオノールも交え久しぶりに家族での食事と致しましょう」



エレオノール襲来を思わせるルイズのヘコみ様に、燦もキュルケもタバサも処置なしと両手を挙げる。
「そんなに家族が苦手なの?」
キュルケは慰めるのを諦めて自身の興味を優先する。
ルイズはベッドに突っ伏した状態のまま、今にも擦り切れそうな声で答える。
「……苦手じゃないわよ。でも今回は、やりすぎたっていうか、その、きっと今までに無いぐらい怒られるから……」
呆れ顔のキュルケ。
「王を相手にやったみたいにすればいいじゃない」
がばっとベッドから顔を起こすルイズ。
「出来る訳ないじゃない! 今回はエレオノールお姉さまだけじゃなくてお母様もいらっしゃるのよ!? 私が一言だって口挟む余裕なんて無いわよ!」
本日の晩餐は王都にて家族四人で行う旨の手紙が来てからというもの、ルイズから前向きな反応が返ってきた試しがない。
「お父様もきっと怒ってらっしゃるわ……お父様の頭越しに陛下とお話したなんてお父様絶対お許しにならないもの……」
考えれば考える程どうしようもない事態であると気付くのか、話しながら徐々にベッドへと沈んでいく。
燦が発破をかけようとルイズの手を取る。
「ルイズちゃん思い出すんじゃ! あの剣士倒す為の特訓の日々を! あれに比べれば怒られるのなんてへっちゃらへーじゃきに!」
ルイズは泣きそうな顔のまま燦を見つめる。
「……私特訓の方が全然いい……ううん、もう一度決闘でもした方がマシ……そうよ、その手があったわ。
 サンのハウリングボイスでばっしーと私を吹っ飛ばして大怪我負えばきっと行かなくて済む……
 この際キュルケやタバサの魔法でも全然いいわ。手足の五、六本使用不能にしてもらって……」
タバサがぽつんと呟いた。
「……末期症状」
キュルケと燦は顔を見合わせて盛大に溜息をついた。



晩餐の宴、燦はお留守番で家族水入らずの食事であったが、そこに赴くルイズはまるで戦地に向かう兵の気分。
真っ青な顔を引っさげて会場入りした彼女を待ち構えていたのは、ルイズよりよっぽど難しい顔をした父と姉であった。
母が仏頂面なのは今に始った事ではないので敢えて特筆はしない。
かくなる上は、最終手段。
ルイズは覚悟を決めて(開き直ったとも言う)誰かが口を開く前に、今回の出来事全てを洗いざらいぶちまける。
言い訳も無し、自分が如何に愚かで浅はかであったかを滔々と語る。
誤魔化しなぞ一切通用しない相手だ、そういう相手には全てを正直に話して余計な事で怒る余地を与えぬのが一番。
全てを語り終えると、大きく頭を下げて三人に許しを請う。
下手に自分が責任取るなぞと言った所で、火に油を注ぐだけなのだから。
誰からも反応無し。
かといって下げた頭を上げる事も出来ず、そのままじーっとしていると、ようやく母から声がかかった。
「わかりました。ですが、今は食事を楽しむ時間ですよ」
「は、ははははいっ!」
母の言葉のおかげか、食事の時間中、今回の件を誰一人口にはしなかった。
父が思い出したように出す姉カトレアの話題、姉が現在研究中の魔法の話題を振れば、母が所々に合いの手を入れ、続きを促す。
晩餐の時は和やかに過ぎていくが、ルイズは食べた物もわからない程緊張しきっている。
ふうっ、と小さく息を吐いた後、母は今まで父も姉も触れなかったルイズに話題を振った。
「ルイズ、貴方に学友と呼べる人は居るのですか?」
実はあんまり居ない。
ぱっと頭に浮かぶのは、ここでは話題に出しずらいあのばいんばいーんな地黒女。
「タバサと言う子と仲良くしております。彼女はトライアングルですし、とても優秀な子です。他には……」
大して仲良く無い相手も引っ張り出すしかないルイズは、日常会話が可能な人間全てを挙げる。
そしてモンモランシー、ギーシュと並べた所であっさりと名前が尽きる。
ギーシュの名を出した時、エレオノールの表情が僅かに揺れるのを見てとったルイズは、すぐに次の話題に移る必要性に迫られる。
「あ、後、ライバルが居ます。絶対負けられない相手です」
そう言ってキュルケの名を出すと、父の眉が片方ひくっと上がる。
「え、えっとですね! 下品で品性の欠片も無い言動が目立ちますが、で、でもそれだけじゃなくて、
 結構優しい所もあって……じゃなくて! 座学でしたら私が圧倒的に上なのですが、彼女トライアングルで、
 魔法の精度とかはタバサと五分というか……じゃなくって! 実際に勝負したら戦績は大体五分で、
 い、いえ! 私の勝ち越しです! うん、そうです。確か私が一つ勝ち越してたはずですっ……ってそれはともかくっ!
 使い魔品評会では一歩譲りましたが、あれは派手好きな人にウケただけで実際は……いえ、実際凄いメイジですから、
 その部分は評価されるべきとも思いますけど、使い魔という点でしたら、絶対私の方が上で……」
何を言いたいのかまるでわからないルイズの言葉の羅列に、母は鷹揚に頷いてみせた。
「なるほど、よくわかりました」
相変わらず鋼鉄のような面皮を誇る母であったが、ふと、母が別の事を考えているのでは、そんな気がした。
自然に言葉が口をついて出る。
「お母様も学園で過ごされた時、好敵手のような相手がいらっしゃったのですか?」
一瞬だけ、鉄が青銅程度に緩んで見えた。
「しつこく挑んで来る者はおりましたが、私が本気で相手する程の者など学院にはおりませんでしたよ」
恐らく事実であろうその言葉を聞いたルイズは、以前ならば感じたであろう恐怖を覚えず、何故か我が事のように誇らしく思えた。
母は今のルイズで言うタバサやキュルケが相手でも、きっと片手で捻るようであったのだろう。
それを少し寂しい事とも思うが、それでもきっと母にとって良い思い出であったのだろう。
そう感じ取ったルイズは、この晩餐会の中で、ようやく心からの笑みを浮かべる事が出来た。
ルイズが緊張から解きほぐされた事で、食事も会話も、いつものヴァリエール家を取り戻す。
父はとても愉快そうに、姉も又ころころと良く笑った。
母は相変わらずだったが、それでも楽しんでいるように感じられた。
久しぶりの家族との晩餐はルイズにとって、とても楽しめるものであった。

「ああ、ルイズは少し残りなさい」

晩餐が終わった直後、母が言い放ったこの言葉さえ無ければ。
冬将軍のごとき寒波を撒き散らし、エルフですら恐れをなすであろう空気全てが泥土と化したかのような重苦しい瘴気。
父も姉も、その気配を感じ取って早々に退室してしまった。

地獄はこれからであった。



エレオノールが自室で頭を悩ませていると、執事が部屋のドアを叩く。
用件は父、ラ・ヴァリエール公の呼び出しであった。
何事かと侯の部屋へ赴くと、父から悩み事の相談を受けた。
色々とややこしい装飾語に彩られていたが、公の悩みというのは、つまり、
「ルイズが一体何を考えているのかわからん」
といった事らしい。実は全く同じ事でエレオノールも悩んでいた。
「あの小さいルイズが、晩餐の前に述べた口上。信じられぬ、あのルイズがどうしてあのような軍の報告じみた真似が出来るようになったのか……」
貴族が同じ貴族に報告する場合、華美な装飾語に彩られている事が多い。
必要事項のみを簡潔に伝えるなどという話し方を、公はルイズに教えた覚えは無い。
これは、軍に入ってしごかれてこそ初めて身に付くはずなのだ。
トリステイン魔法学園でそういった報告の仕方を学ぶのか、との問いにエレオノールは首を横に振る。
「とんでもないですわ、学院は貴族の貴族たるを学ぶ場所でもありますから。一体ルイズに何が起こったのか……」
あーでもない、こーでもないと激論を交わす父と娘。
徐々に煮詰まってきた公は、ぼそっと思い付きを口にする。
「……もしかして最近の娘達の流行という奴なのか?」
「うーん、それはわかりかねます……私もそういうのには疎いので」
「エレオノールが学園に居た頃はそういった奇妙な流行等は無かったのか?」
「そもそもそういった軽薄な風潮が好きになれませんでしたので」
二人は顔を突き合わせて悩む唸る。
ふとエレオノールと同じ職場で働く十代の娘達が、エレオノールの目を盗んでは、様々な物語を仕事中に読んでいた事を思い出す。
「もしかしたら、流行物の物語に何かヒントがあるかもしれませんわ」
「なんだそれは、平民ではあるまいにその様な物を読んでどうするというのか……」
ぶちぶち文句を漏らす侯であったが、事がルイズの為である。
執事に最近トリステインで流行っている物語を大至急全て揃えよと命じる。
「そうだな、ルイズの年頃の娘がたくさん出てくる話が良い。そういった物で一番有名な物を持って来るのだ」



ものの半刻もせぬ内に執事が手に入れてきたトリステインのベストセラー。
「ほ、放課後ラブハーツですか……何故でしょう、表紙に描かれた絵に殺意が沸くのですが……」
「うむ、放課後ラブハーツか。ルイズが学院に居る事を考えれば、相応しきタイトルよ」
二人が同時に読めるようしっかり二冊買ってきてある辺り、流石はヴァリエール家の執事である。
早速読み進める二人。
「え、エレオノール。話す語尾ににゃんとかつける話し方は初めて見たぞ」
「お父様……何ですかこの媚びに満ちた白痴の大群は……」
「確かに出てくるのは女ばかりだが、何故揃いも揃って美女ばかりなのだ?」
「胸の大きさが戦力の全てではない事を思い知らせてやりたいですわ……」
「どうして同じ立場にあるはずの者がこうも皆揃って謙り、下僕のごとき所業を行うのだ。主人公は貴族か?」
「高笑いする貴族って、こんな馬鹿が目の前に居たら私自ら説教してやりますわ」
序盤こそ冷静に読んでいられた二人だが、流石はトリステインベストセラー、あっと言う間に二人を物語に引き込んでしまう。
「うっ!? こ、この女の子……わかるわ、ええ、そのつい意地悪を言ってしまうその気持ち痛い程わかりますわ!」
「うおおおおっ! 何故だ! 何故別れねばならぬか! ええい、私ならばヴァリエール家の力を持って解決してやるものを!」
「ああ! 駄目です! そこはもっと正直にならなければ!」
「愚か者が! 男がそのように腑抜けた事でどうするか!? ええいそこへ直れ! 手打ちにしてくれる!」
そしてエンディング。二人は半泣きである。
「……そ、そんな……何故なの、やはり殿方は口数多い、明るく素直で優しい子を好むというの……」
「何故そちらを選ぶか! 情に流されず大局を見据えよ! おお、何たる事だ……」
どうやら二人の贔屓キャラは主人公とうまく行かなかった模様。
結構なダメージを受けテーブルに突っ伏す二人。
しばらくそうしていると、二人は同時に自分が何故こんなものを読んでいたのかを思い出す。
「エレオノールよ、学院ではこのような事が日常茶飯事的に行われているというのか」
「分かりかねます。あくまで物語ですから脚色もあるとは思うのですが……」
「しかしだな、やたら『あらあら』とか言う娘は、そのまんまカトレアのような気がしてならなんだぞ」
「あ、それ私も思いましたわ。後普段のルイズでしたら、比較的『あ、貴方の為にしてあげたんじゃないんだからね』とか言い続けてる子が似てるような気がしますわ」
「何っ!? 奴なのか!? いや、ルイズはもっとこう、素直な子では……」
「ああ見えて結構意地っ張りな所もありますわよ。見栄っ張りでもありますし」
公がお前が言うなと思ったかどうかは定かではない。
「そ、そうか……それはさておき。という事はやはりこの本に書かれている事は最近の娘の近況に近しいという事か」
「ですわね。と、いう事は……つまりルイズは……」
「ぐ、ぐぬぅ、まさかまさかまさか……」
物語に出てくる登場人物達の奇行は、その人間的成長も含め、恋故の物と二人は理解していた。
「学院の何者かに懸想している可能性がありますわ」
公はテーブルを叩いて立ち上がる。
「許さん! 何処の馬の骨だ!」
放課後ラブハーツ登場人物の一人に貴族の娘が居たが、その父も確かこんな感じだったなーと改めてこの物語にリアリティを感じてしまうエレオノール。
「お父様、まだ確定ではありませんし、そもそもルイズが平民のような尻の軽い真似をするとは思えませんわ」
しかし公はルイズが何処の誰とも知らぬ男(物語の主人公を重ねている)に作った弁当を捨てられたり、雨の中待ち合わせをすっぽかされたり、他の女と天秤にかけられたりしてるビジョンが浮かんで止まらなくなっていた。
「断じて許さぬ。全身の皮を引き剥がし、生きたまま体中の骨を抜き取ってくれる」
エレオノールは、うっわ、本気でやりかねないわお父様、とか思いながらとりあえず宥める。
「落ち着いて下さい。あの晩餐の席でもルイズは男性の名前など一つしか挙げて無かったではないですか」
自分でそう言ってはたと気付く。
確かグラモン家の息子とは決闘をしていたはずであるのに、ルイズはあの場で友として名を挙げていた。
「お父様! そうですわ! あのグラモン家の息子に間違いありません!」
「何だと!? どういう事だ!」
「グラモン家の息子とは決闘までした間柄、しかし晩餐の席で友として名を挙げたという事はつまり……」
「おお! 物語にもあったあのパターンか! ケンカを機に惹かれていくという……」
「そうですわ! しかしあの決闘においてルイズはグラモン家の息子を叩きのめしております。という事は……」
「おおっ、おおっ! ならば懸想しているのはグラモン家の息子の方! つまりルイズは奴に何も感じておらぬという事か! 流石はエレオノール、良くぞ気付いた!」
最悪のパターン、ルイズの方が想いを寄せているという形が無くなった事で心底安堵する二人。
もちろんそれこそフィクションな訳で、逆パターンも充分にありうるのだが、学生の恋愛をこの本でしか知らない二人にはそこまで深読みは出来ない。
二人共恋愛に疎いという事ではない。
公にしてもエレオノールにしても、社交の場での恋愛術は相応のものであるのだが、学生と言う特異な環境に慣れていないのだ。
気分は未開地に乗り出す冒険者である。
ルイズを連れ出す事適わぬ以上、何とかしてこの奇特な環境下においてもルイズに真っ当な人生を歩ませねばならない。
「トリステインには私の方が長いですから、知人を当たって学院の状況を探れないか頼んでみますわ」
結局エレオノールのその発言に頼るしか手段は残されていなかった。



エレオノールの両手を握り締め、何度も頼むと言っていた。
父はモット伯への反撃に専念せねばならないのだ、他の事をしている余裕はあまり残っていない。
しかし、ああは言ってみたものの、エレオノールにもさしたる心当たりを無い。
自分の部屋へと戻ったエレオノールは、テーブルの上に山と積まれている手紙を幾つか引っ張り出す。
内の一つ、中身さえ見ていなかったソレをナイフで開き、中身を読む。
『度々の書状申し訳ありません、以前にお話した時に出たお詫びの件ですが、よろしければ食事等いかがでしょうか。
 ヴェリエール家のご息女に相応しい会食をご用意させていただこうと思いますので、是非良きお返事を』
差出人はグラモン家の三男坊であった。
案外まめな彼の書状はこれで三通目であったが、エレオノールは全て放置していたのだ。
はずみで出た言葉だろうに律儀に誘いを繰り返す所は、鬱陶しいとも思うが、同時に悪い気もしなかった。
あれだけコテンパンにしてやったのだ。
近づくのも嫌であろうに、自分が言った言葉は守ろうとする姿勢も不快なものではない。
彼をアテにしてみるというのはどうだろう。
咄嗟に思いついたにしては妙案だと頷き、エレオノールはミスタ・グラモンへの返信を書き始めた。



寝室にて、後は寝るのみとなった公爵夫人は、まだ寝るつもりではない様子の公爵に声をかける。
「どうされましたか?」
公爵は、夫人にはバレバレでありながら当人は絶対隠せてると思っている冷静なフリをしながら答える。
「ふ、ふむ。いや幾つか読んでおかねばならぬ本があってな」
夫人がちらっと手に持った本を見やると、カバーの部分が裏返してあり、表紙もタイトルも読めぬようになっていた。
その程度飲み込むだけの器量を持つ夫人は、気付かぬフリをして寝所に入る。

後に夫人はこの事を少し後悔した。
それから数夜に渡り、深夜の寝室に公の咽び泣く声が聞こえてきたからだ。
本の正体を執事に確認した所、公は「放課後ラブハーツシリーズ」全巻をつい最近揃えたという話だ。

試しにと侯の目を盗んで少し読んでみたが、夫人は一ページめで挫け、以後夫の趣味には口を出さない事に決めたのであった。



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