あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの御使い2

「ミスグレンデルは遠い異国の方のようですから、誤解がないように一から説明させていただきます」

 コルベールは、そう一言断ると、実に基本的なところから説明を始めた。
 ここがハルケギニア大陸のトリステイン王国に存在するトリステイン魔法学院であると言う事。
 ハルケギニアでは、一定レベルの教育を受けた魔法使いは、己の傾向を知るために使い魔を召喚する儀式を行うと言う事。
 使い魔の儀式では、本人の資質に応じた動物、或いは幻獣が呼び出されるが、それは基本的には呼び出される側の意思によると言う事。
 今までに、人間が使い魔として召喚されたと言う記録はないと言う事……動物、或いは幻獣と言うくだりで少しばかり戸惑っていたようだが、コルベールの目にアネメアは、説明された内容を冷静に受け止め、なにやら吟味しているように思えた。

「つまり、本来人間を瞬間的に移動させるような魔法は、この国には存在しないとおっしゃられるわけですね? だから私を、フェイヤンに送り返す事は出来ないと……」

 そして、二言で事の核心を突いてのけたアネメアに、コルベールは固い顔で頷く。

「はい、申し訳ありませんが……」

 そんな謝罪交じりのコルベールの答えは、流石にアネメアの表情に影を落とした。
 探検行とはただでさえ危険なものだが、アネメアの世界におけるそれは、我々の想像するそれや、トリステインにおけるそれとは、根本的な難易度の桁が異なる。
 なにせ、魔力が強い土地には、強い魔力を持ったバーサーカーが自動生成される世界だ。
 イブリース同士争いあう為、増えすぎないのは有難いが、逆に言えばそれは、淘汰された強者が残るという事でもあるし、絶えず生まれて来る為、数が一定以下に減ると言う事もない。
 そんな世界で人跡未踏の土地を越え、方角もわからぬ別の土地を目指すと言う事が、どんな難行かは想像してみれば簡単にわかる事だろう。

「……それは困りましたわね。私が故郷に帰る為には、その『使い魔召喚の儀式』を研究して、使い魔を送還する術を完成させるしかないという訳ですか……」

 だからアネメアは、目を閉じてほうと息を吐き出すと、そんな言葉を呟くように口にした。
 使い魔の選定基準さえ解れば、ルイズの特性と照らし合わせて、アネメアが召喚された状況に近い要素が揃った場所を特定出来るはずだ。
 後は、使い魔を召喚する仕組みを調べて、逆に、こちらから送り込めるようにできれば、フェイヤン或いは、それに近い場所に移動する事が可能だろう。
 だが、それは典型的な言うが易し、行なうは難し……話を聞いた限り、フェイヤンのそれとは大きく異なるトリステインの魔法を、一から学んでモノにして、それだけの事を成し遂げるのに、果たして何十年の時間が必要なのだろうか?
 あの戦いの後暫く、祖父である六柱の長『鋼のホゥク』、フェイヤン最高の頭脳と謳われるイブリース研究の権威、グラナダ・フェルドゥスィーの護衛をしながら、アルク・シャールの城の解析と研究とを手伝っていたアネメアには、そういった研究に莫大な時間が必要である事が、身にしみて理解できていた。

『とりあえず、希少な触媒は、手元に残しておきたいですし……まずは使い道の少ないスタールビーから売り払うとして、これでどのくらいの道具が整えられるでしょうか?』

 幸い、各種メアや合成材料は常に持ち歩いているので、その幾らかを換金すれば当座の生活には困らないだろうが、それとて永遠に持つと言うわけではない。
 手持ちの触媒が残っているうちに、メアの加工に必要な道具類を手に入れられなければ、故郷に帰る為の研究どころか、生活すら危うくなるだろう。
 ……肩にかけた鞄の中身を確認しながら、なにやら思案を始めたアネメアに、コルベールは少しばかり怪訝な表情を作った。
 客観的に見て、今の状況で責められるべきはルイズとコルベールである。
 故に、状況を盾になんらかの要求を出してくるであろうアネメアの、足元を見て買い叩き、こちらの提供できる範囲の条件で、無言を勝ち取る……そんな事を考えていたコルベールは、見事に肩透かしを食らう形となった。

「……あの、当然ミス・グレンデルがお帰りになられるまでの生活は、こちらで面倒を見させていただきますし、その研究についても、私共が責任を持ってお手伝いいたしましょう」

 そんな少女の姿にに少しだけ当惑し、ふと我に返ってそう告げるコルベールに、アネメアは少しばかり驚いたような表情を作った。

「……しかし、それではご迷惑がかかりますでしょう? 私、こう見えても一人前の魔法使いですから、自分の力で生活する位の事は出来ますわ」

 アネメアはフェイヤンの魔法使いであり、フェイヤンにおける魔法使いとは、御使いを操り、メアを加工する技術を持つ者の事である。
 魔力が豊富な土地であれば、メアは簡単に採取する事が出来、また、メアを加工して創られる各種素材は、様々な道具の材料として使用する事が出来た。
 そんな常識を持っている彼女は、メアの加工に必要な道具さえ手に入れば、後の生活はそれ程困難ではないだろうと考えている。
 そして、そんなアネメアの常識と、良家で素直に育ったが故の無欲とが口にさせた言葉に、コルベールは困った事になったと額に汗を浮かべた。

「いや、しかし、ミス・グレンデルをこちらに呼び寄せてしまった原因は、我々にある訳ですから、当然こちらには貴方の生活を保障する義務が生ずるわけでして……」

 彼女から感じられる魔力と、身に纏った気配から、少なくともトライアングル級の能力を持つメイジであろうと判断していたコルベールであったが、流石に、何処とも知れぬ異国に飛ばされた少女が、自分一人の力で生きていける等と言い出すのは完全な予想外である。
 これでは、援助を盾に口止めすると言うコルベールの算段が、全て水泡に帰してしまう。

「はぁ、そうなのでしょうか?」
「そうですとも! それに、このトリステイン魔法学院は、その歴史と格式、蔵書量において、ハルケギニアでも一・二位を争い、隣接する各国からも多数の留学生が訪れる伝統ある魔法学院です。
 ミス・グレンデルが、故郷に帰る研究を行うのに、これ以上の環境はないでしょうな」

 最悪、手の届く場所に置いて監視しなければ……と、コルベールは戸惑いを現にするアネメアに、ここを先途と力説をはじめた。

「……それに、こちらの手違いから生じた事故で、多大な迷惑を蒙った貴婦人を、無責任にも放置してしまった等と知られては、このトリステイン貴族全ての恥となりましょう。 我々を助けると思って、ここは助力を受け入れてもらえないものでしょうか?」

 理に訴え、情に訴え、果てはどこぞの薔薇の貴族のような事まで言い出した風采の上がらぬ中年教師に、迫力に押されていた生徒たちが更に引く中、アネメアは困ったようにその首をかしげる。

「……あの、コルベールさん。 そうされているとお話もし辛いですから、どうかお顔を上げていただけないでしょうか?」

 アネメアは、頭を下げっぱなしのコルベールにそう告げると、その顔に困ったような微笑を浮かべた。

「では……」

 強い期待と安堵をその顔に浮かべ、尋ねかけるコルベールに、アネメアは一つ頷く。

「はい、ご迷惑かもしれませんが、お言葉に甘えさせていただく事にいたしますわ。 それで、なのですけど、この学院には、何か入学制限等はあるのでしょうか? ……私、このハルケギニアの魔術にはとんと疎い物で、正直、使い魔召喚の儀式がどんなものかすら知りませんの。 出来ましたら基礎から一度学んでみたいと考えているのですが……」

 そして、続けられたアネメアの言葉は、コルベールにとって、まさに理想的な内容だった。
 彼女に手綱を付けられるばかりか、こちらのホームグラウンドで監視する事が出来る。
 アネメアの言葉の内容には多少の疑問を感じないではなかったが、余りに強い安堵が、遠い異国のメイジであればそんな事もあるだろうと、コルベールの目を瞑らせた。

「それはとても良い事ですな。判りました。では早速学院長の所まで、その手続きに参りましょうぞ」

 今にも少女の手を取らんばかりに喜び、早速、学園へと導こうとするコルベールと、その言葉に素直に頷くアネメア……。

「……あの、ミスタ・コルベール。結局私は、召喚の儀式をやり直してもいいんでしょうか?」

 すっかり蚊帳の外に置かれていたルイズは、立ち去ろうとする二人にそう声をかけた。
 珍奇な発明品を披露している時ですらここまでは……と言う熱意でアネメアに迫っていたコルベールに、正直ドン引きしていたルイズではあったが、流石にここに放置されては立つ瀬がない。

「……ああ、そうだったね、ミス・ヴァリエール。だが、使い魔召喚でミス・グレンデルが呼び出されてしまった以上、君はもう使い魔召喚の儀式を行う資格を持ってはいない。メイジが他のメイジを使い魔にする等と言う事がとても認められない以上、君は春の使い魔召喚の儀式に失敗したと判断するしかあるまい」

 意を決し、そう声を発したルイズは、しかし、コルベールのそんな冷たい一言に、再び力を失い、へたりと草原に座り込んだ。
 コルベールにしても、ルイズをかわいそうと思う気持ちはないではないが、メイジがメイジを使い魔にしたなんて事が広まったら、それこそ王国存亡の危機にもなりかねない。
 それに、そもそも今の事態の根源であるルイズには、それを引き起こした責任と言うものがあった。
 かわいそうだが、ここは彼女に責任を取って、涙を呑んでもらうほかあるまい……そう考えたコルベールの言葉に、アネメアが首をかしげる。

「あの、使い魔召喚との儀式というものは、生涯に一回しか行えないものなのですか?」

 そう尋ねるアネメアに、コルベールは怪訝な表情を作りながらその首を横に振った。
 アネメアの周りを飛ぶあの光球は、彼女の使い魔ではないのだろうか……先も感じた疑問を再び思い返しながら、コルベールは使い魔の儀式の概略を説明する。

「そう言うわけで、呼びだされた使い魔が生きている間は、別の使い魔を召喚する事は出来ないようになっております」

 でないと、気に入る使い魔が出てくるまで幾度も召喚を試みようとするものが出てくるからでしょうね……そう締めるコルベールに、アネメアはなるほどと頷く。

「先程のお話ですと、人間が呼び出されることはありえないとか……」
「少なくとも、今までにそう言う記録を見た事はありませんな」

 そんなコルベールの答えに、アネメアは何事かを考え込んでいたようだが、やがてその顔に笑みを浮かべると、草原に頽れたままのルイズにこう口を開いた。

「……ルイズさん、と、呼んでもよろしいでしょうか? 御安心くださいな、私、貴方の使い魔に少しばかり心当たりがあります」
「………!」
「どう言う事ですかな?」

 期待と、驚き……異なる視線で眺める二人を前に、アネメアは自分の服を探ると、スカートについたオナモミの種を二つ、三つと手に取った。
 どんなに気をつけていたとしても、森の中を歩いた後の服には、植物の種の一個や二個は紛れ込んでいるものだ。
 それを掌に乗せ、怪訝な顔をする二人に示すと、アネメアはこう口を開く。

「ほら、見てくださいな。このオナモミの種は、私とは別の生き物ですけれど、一緒にこの場に来ているでしょう?この召喚の儀式で運ばれるものは、決して目的のものだけとは限りません。例えば、私がルイズさんの使い魔になるべき物を偶然連れていたから、一緒にこの場に呼び出されてしまった……そうは、考えられませんか?

「なるほど……確かに、生徒達が使い魔に付いた蚤に悩まされるのは、春の風物詩ですな。ミス・グレンデルが目立っていただけで、彼女に本来召喚されるべき物が他に居ると言う可能性は、確かにありましょう。それで、その心当たりとは……」

 確かに、アネメアの言葉には一理あり、また、そうであれば八方が丸く収まる。
 即座に賛意を示したコルベールに、ルイズの顔にも希望が宿った。
 アネメアは、そんなルイズに柔らかな笑みを向けると、鞄の中から淡く光る球体を取り出して、ルイズに差し出す。

「ルイズさん、どうかこれを受け取ってはいただけませんか。これは光核という物で、フェイヤンの魔法使いは、これを使って御使いを創りますの」

 先程、森の中で眺めていたその球体を手に、アネメアはそう言った。
 それは、アネメアがグラナダから受け取り、自らの力とする事に躊躇いを感じていたもの……城に残された知恵あるイブリース達の母胎を利用して生み出された、人工光核の、第一号。
 未だ、グラナダにもイブリースの母胎を複製する事は能わず、またそれを借りたとしても、光核の生成成功率は極めて低い部類に入る。
 だがそれは、天敵たるイブリースを狩らねば手に入らなかった光核を生産し、一部の才を欠いた者を除いた全てが魔法使いとなる、そんな、人間にとって輝かしき未来の嚆矢であった。
 そして、だからこそアネメアは悩んでいたのだ。
 アルクシャールを殺した自分に、それを受け入れる資格があるのか、と……。

「御使い?」

 だが、そんなアネメアの内心の葛藤が、初対面のルイズに読み取れるはずもなく……絶望の底から引き上げられた少女は、幼子のようにその光球へと手を伸ばす。

「ええ、そうですわ」

 そして、ルイズのそんな素直な好奇と喜びに、アネメアは癒された気分になった。
 使い魔召喚の儀式においては、術師と相性のよい存在が自由意志によって呼び出され、通常は、人間、或いはそれに順ずる知的生命体が呼び出されることはない――そう聞いたアネメアが初めに考えた事は、自分が召喚されたのは、宙ぶらりんな状態にあったこの光核が、自らの主を求めたからなのではないか、と言う事である。
 丁度、召喚される直前にこの光核を手に考えていた事もあり、もしそれがこの子の望みであるのなら、叶えてやるべきではないのか……アネメアはそう思ったのだ。
 正直、まだどんな人間かよくわからないルイズに、これを託すのは抵抗がある。
 同時に、単純に、これをもっているのが辛くて、誰かに渡してしまいたかっただけなのかもしれない、とも……。
 だが、そんなアネメアの迷いは、目の前のルイズの笑顔の前に脆くも吹き飛んだ。
 求め、求められるのが使い魔の契約の本質であるのなら、彼女にこれを託すのは、きっと正しいことなのだろう。
 そう思ったアネメアは、若干の茶目っ気を込めて、自分の守る光球に無言の命令を下した。

「……承認」

 アネメアがその意思を伝えると同時、光球からそんな声が響くと五芒星を象る光が地を走り、それを囲む円状に光のヴェールが立ち昇る。
 そして、次にそのヴェールが降りた時、その中にあるのは光球ではなかった。
 深い菫色の甲冑に身を包み、右手に槍を左手に盾を携えた、有翼の女騎士。
 御使い、ラウラミル――魔法の行使こそ不得手ながらも、魔法使いの盾として最高の能力を持つと評価を受ける、高位の御使いである。

「こんなに凄いものが、私の使い魔に……」

 ドラゴンやグリフィンと言った、彼女の夢想した最高の使い魔達――に比べれば多少は劣るかもしれないが、希少度を考えれば明らかにそれ以上に高貴なその姿に、ルイズは思わずそんな呟きを漏らしていた。
 普段ならガッツポーズでも決める所だろうが、流石にこの状況でそこまでする元気はなかったし、また、尊敬する姉に似たものを感じるアネメアの前で、そう言ったことをするのが憚られると言う事もある。
 結果、随分しおらしい反応を示したルイズに、遠巻きにしていた生徒たちが更に巨大なショックを受け悶絶する中、常のルイズを知らぬアネメアは、にっこり笑って口を開いた。

「いいえ、そうとは限りませんわ。御使いとは、魔法使いがそれぞれ育てていくものですから、初めからこうではありませんし、ルイズさんの御使いが私の御使いと同じように成長すると決まった訳ではありません。私のマリエルは、私が魔法を使う時の守りを考えて成長させた御使いですけど、例えば、ルイズさんが白兵戦がお得意でしたら、魔法や弓を使って後方支援を行う御使いに育てる事も出来ますのよ」

 そう説明するアネメアの言葉に、ルイズの顔が更なる興奮と喜びとに染まる。
 こんな凄い使い魔が、それも、自分の好みの能力に育てられるなんて……最後の最後で大当りを引き当てたと、喜ぶルイズの手に、アネメアはそっとその光球を置いた。

「アネメアさん、これをどうすれば、その御使いが産まれるの? ……やっぱり、暖めるのかしら?」

 光球を受け取りルイズは、幼子の様に目を輝かせると、暖めろと言われたらこの場でブラウスを持ち上げて服の下に抱え込みそうな勢いで、そう尋ねる。

「いいえ、ただ受け入れれば良いの。ちょうど、抱きしめるような感じで……」

 苦笑しながらも暖かな眼差しを向けるアネメアの、その目の前でルイズは、光球をぎゅっと抱きしめた。
 一瞬の閃光……光球はその姿を消し、後には戸惑ったような表情の少女が一人、残される。

「……なんだか、不思議な感じ。私の中に、誰かがいる」

 そしてルイズは、呆然とそう呟くと、すぐに目を閉じてその両手を前に伸ばした。

「出ておいで……」

 何故だか酷く穏やかな気持ちで、ルイズは幼子に語りかけるようにそう呟く。
 ルイズの胸の辺りから、アネメアのそれと比べれば酷く弱々しい光球が現れ、

「……うん」

 そんな小さな声と共に、大地に五芒星を象る光が走った。
 そして、光のベールが立ち昇り……消えた後に現れたのは、背に大きな翼持つ幼子の姿。
 赤い髪と、酷く幼い顔立ちを持った、少女とも少年とも付かぬ顔立ちのその御使いは、前垂れのついた腹まで隠す朱色の長ズボンと、同色の靴、白い手袋を除けば、何も手にせず、身に纏ってもいない。

「この御使いの姿は、シェリールと呼ばれているわ。光核から初めに召喚した時、御使いは必ずこの姿をとるの」

 使い魔召喚の儀式に続いて、生涯二度目に成功した魔法に、ルイズの目に涙が浮かんだ。
 期待していたものとは随分違う、弱々しく可愛らしい御使いの姿に失望もせず、その柔らかな頬に両手を当てる。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」

 ファーストキスだとか、そういう事等、頭の片隅にも昇らなかった。

「五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」

 ルイズは、それが当然だと言うように、御使いの唇に唇を重ねる。

「どうやら、この子がミス・ヴァリエールの使い魔なのではないかというミス・グレンデルの考えは正しかったようだね。……これで、一安心だ」

 契約成功を見届け、安心したようにそう呟くコルベール。
 場の視線の中心で、ルイズの御使いは不思議そうに自分の左掌を持ち上げ、見つめた。
 ルイズの御使いの左薬指の根元をほんの一瞬光の輪が取り囲み、消えた後にはまるで指輪のような、一連なりのルーンが残される。
 コルベールは、一瞬その見慣れないルーンに気を引かれたが、思い直したようにその首を左右に振ると、随分遠ざかってしまった生徒達へと向けて、声を張り上げた。

「じゃあ皆は教室に戻りなさい! それから、ミス・グレンデルと、ミス・ヴァリエールは、私の後に付いてきてください。……校長のオールド・オスマンに、事の一部始終を報告しなければなりません」

 こうして、この年の春の召喚の儀式は、幾つ物を問題を引き起こしながらも、一応の終わりを告げた。
 なお、この事件は、後に『門の向こう側から来た者』アネメア・グレンデルと、その弟子『虚無(ゼロ)』のルイズ……そして、その仲間達を彩る沢山のエピソードの、最初の一つとして知られる事になるが、その事を予測するものは、まだこの世界の何処にもいなかった。

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