あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゴーストステップ・ゼロ-06b


ギーシュは目の前に立つ、自分の大事な女性達を傷つけた男を見据えると周囲にいる群衆に向かって、青銅の薔薇を模した杖を振り上げ声を上げた。

「諸君!決闘だ!」

一瞬の後、広場全体を揺るがす様な歓声があがる。




ゼロのフェイト シーン06b “ゴーストステップ”

    シーンカード:イヌ・Ⅱ(審判/事件の決着。逮捕。失われしものの再生、復活。蘇生。浄化。)



「よくもまあ逃げずに来れたものだね。とりあえず褒めてあげよう。」
「そいつはどうも。で、決闘っていうのはどうやるんだい?
 あいにくとこっちの流儀には慣れていないんでね、教えてもらえると助かるんだが。」
「ふむ、まぁいいだろう。
 基本は相手が“まいった”と言ったら勝ちだ、それと君は平民だからねハンデを付けてあげよう。僕はこの薔薇を落としたら負けを宣言しようじゃないか。」
「中々太っ腹じゃないか。」
「ただし!」

そう言うと同時に杖を振るったギーシュの隣に青銅製の人型が出現する。

「僕は貴族…メイジだ、だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」
「ああ、別に気にはしない。好きにすれば良いさ。」
「言い忘れていたが僕の二つ名は『青銅』。『青銅』のギーシュだ。従って青銅のゴーレム『ワルキューレ』が君の相手を務めよう!」

ギーシュが宣誓すると同時に『ワルキューレ』と呼ばれたゴーレムがヒューに向かって突進してくる。
後で見ているルイズは目を瞑りたくなったが、我慢した。自分の使い魔が自分のスタイルを貫くと言っていたのだ、主が見守らなくてどうする。
ルイズの傍にいたキュルケとタバサも見ていた。変わった服を纏う遠くから来たルイズの使い魔、貴族を平気で呼び捨てにし、自分の生き方を貫くと豪語したのだ、それなりの物を見せるに違いない。いざという時の為に杖を握りながら広場を見据えた。


ギーシュの命を受け忠実な僕が駆け寄ってくる。見た所、魔法で作った白兵戦仕様のドロイドだ。どれ位の能力かはっきりしないが、ルイズお嬢さんのような遠隔爆破の魔法じゃないのは助かる。さてヒュー・スペンサー、一仕事始めようじゃないか。

<スリーアクション  on>
<ニルヴァーナ    put-on>
<ソルジャーブルー  setup>
<Model.2002 setup・投影迷彩デフォルトを選択>

いつも通り脳内にあるニューラルウェア<IANUS>を通じて戦闘準備を整える。が、次の瞬間<IANUS>から妙なメッセージが入る。
“詳細不明のサイコアプリケーションを検出しました、ウィルスチェックはクリア。起動させますか? Y/N”
戦闘中、しかも脅威が目前に迫っている為、Nを選択。標的の回避に移行する。
ギーシュの『ワルキューレ』が拳を振るってくる、それに対して<Model.2002>の熱工学迷彩を効かせながら回避を行う。その際、余裕ができたので『ワルキューレ』を観察、どうやら知覚情報等はギーシュに依存しているらしい、自己判断して攻撃を行っているように見えるがこれも恐らくはギーシュの無意識領域での操作だろう。
多分武装をしたVer.もあるはずだ、ここは『ワルキューレ』を各個撃破するよりもギーシュを狙った方が楽に終わるだろうと判断する。

「へえ、上手く避けるじゃないか。
 それにその服、マジックアイテムだね?周りの景色を写して見えにくくなる。なるほど、中々良い品だ。しかしそれも避けるだけの余裕があったらの話だ!」
再び薔薇を振り翳す、ギーシュはここで自己の限界一杯の『ワルキューレ』を生み出した。

「行けっ!『ワルキューレ』!その目障りな平民を叩きのめせ!」

1体を残して『ワルキューレ』が突撃してくる、残った1体は恐らく防御用に取っておいたのだろう。ここは至近にいる1体を潰して手を減らす事にする。

「そういえばこっちも名乗ってなかったな。俺は“ゴーストステップ”ヒュー・スペンサー、フェイトだ。そちらにいるルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢の使い魔をやらせてもらっている!」

そう宣言した後、ヒューは霞んで見える程の速さで右腕を振るう。メイジが杖を振るう様に剣士が剣を振るう様に。

<スリーアクション  on>
<タイプD       setup>

ヒューの神経が加速する、今まで普通に追ってきた『ワルキューレ』の動きがコマ送りになり、己の動きが鋭くなった事を知覚する。
そんな先鋭化した世界の中、ヒューが振るった右手に仕込まれていた単分子ワイヤー<ワイヤード・ハンズ>は最初にギーシュが作った『ワルキューレ』を熱したナイフでバターに触れるよりも容易く切り裂いていく。
そうして右腕を引ききった時、ヴェストリの広場には『ワルキューレ』の残骸が転がる音が空しく響き渡った。

「え?」

そう言ったのは誰だろう、ルイズかそれともヒューの目の前にいるギーシュか、それとも観客の誰かか?しかし次に発せられた声が広場に響いた瞬間、そんな疑問は無駄になる。

「トリック・オア・トリート
 チェックメイトだギーシュ・ド・グラモン」

いつの間に移動したのか、あの使い魔は『ワルキューレ』を切り裂いた右手をギーシュの首に沿えながら、背後に立っていた。

「え?」

ギーシュは顔を動かさず、目の前にいる6体の『ワルキューレ』を見る。そうしてさっきの言葉を思い返す、そんなはずは無い、あの使い魔はさっきまで目の前にいたはず。それが不意にいなくなったかと思うと背後にいる、さっき自分の『ワルキューレ』を壊した右手を首に添えて。残骸になった『ワルキューレ』を改めて見ると、その切断面は鮮やかだった。これ程の切断面は見た事がない、そして恐ろしい事にその切断面を生み出した右手が今、僕の、首に、添えられている。

「ところで聞きたい台詞があるんだが?ギーシュ・ド・グラモン」

ギーシュは唇を噛む、恐らくこの男はメイジ…それも風のスクエアだろう、そうでないと今までの説明がつかない。
マントを付けていないのは家が没落したからだろうし、杖は何処かに隠しているのだ。自分はとんだ道化だった訳だ、恐らくこれはこの男の企みだったのだろう。この男の挑発に易々と乗り、これ程の醜態を晒した自分に腹が立つ。
しかし、ここで降参しないと『ウィンドカッター』が自分の首を刎ねるに違いない。
ギーシュは血を吐く様な思いで終わりの言葉を口に…。



否、それは否だ!
確かにこの男は自分よりも強いだろう、今から考えても愚かな理由で軽々しく決闘を仕掛けたのも自分だ。
それはこの広場に来ている者達全てが知っている、元々自分が蒔いた種で受けた恥を逆らう力をもたない平民(しかも女性)をいたぶって誤魔化そうとしただけの話…自分の身勝手な保身の為に。
想像すれば分かる、今ここでこの男に勝ったところで自分がしでかした過去は消せはしない。
勝っていた所で所詮平民と思われていた男に勝つ事など、メイジにとって当たり前の話でいかなる誉れにもならないだろう、それにこの男も言っていた。
(「彼女等に詫びた所で以前の関係には戻れない」)
そう、二股をかけて彼女達を傷つけたのは自分だ。今、目の前にいるこの男やメイドの少女ではなくこの自分なのだ。

「ひ、一つ聞きたい事があるんだが、ミスタ」

その声を聞いたヒューは片眉を上げる。声色が違った…今までの軽薄さは消え、覚悟を感じさせる声。

「何かな?ミスタ・グラモン」

首筋に当てた右手は微動だにしない、見守る群衆は固唾を呑んで見守っている、先程までの喧騒が嘘のようだった。
ヒューに命を握られたままギーシュは言葉を綴る。

「あ、貴方はメイジ…スクエアクラスのメイジだったのか?」
「さて、どうだろうな。
 ≪そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない≫
 仮にその質問に違うと言ったところで君は納得しないだろう、納得するまで考えて自分が信じたいように思う事だ。
 それとも言い訳でもするかい?「相手が平民のふりをしていた」「ゼロのルイズの使い魔だから無能だと思った」そんな風に。
 言っておくが例え俺がただの平民だったとしても君に負けるつもりはないぞ、いかなる手を使っても勝ってみせる。罠に不意打ち、ああ遠距離からの狙撃という手もあるな、要するに工夫次第で君らメイジを倒す事は造作もない。
 まぁ、俺の故郷と違ってここの平民は根深い洗脳状態にあるから難しいだろうがね。」


ヴェストリの広場は静寂に包まれた、この男の正体が分かったのだ。

           メイジ殺し

しかもメイジとしてほぼ最高位のスクエアでありながら、同じメイジを魔法も使わずに殺せると言う程の手練。
召喚した少女を知っている者なら「ああ、成る程」と納得しかねない話だ。
魔法を使えない貴族の少女が召喚できた存在ならば、こういった事もありえるだろう。


そんな静寂の中、再びギーシュの声が流れる。

「いや、言い訳はしない。この事態を引き起こしたのは他ならぬ僕の愚かさが原因だからね」
「それじゃあどうする?降参するなら早くして欲しいところだが。」
「我が家の家訓にこういうものがある≪命を惜しむな、名を惜しめ≫…とね、正直こんな情けない事で≪名を惜しむ≫も無いが、これも僕の不明が引き起こした結果だ、裁きは甘んじて受けよう。」
「成る程、それが君のスタイル…、いや貴族としての生き方か。」
「ああ、そうだ。すまないが君の方からさっきの少女に詫びておいてくれないか。≪見当違いの怒りをぶつけてしまい誠に申し訳ない。このギーシュ・ド・グラモン、女性を讃える薔薇でありながらその事を失念いていた≫と。」
「分かった、詫びていた事は伝えておこう。ところで2人のお嬢さんにはいいのかい?」
「彼女達には詫びても詫びきれないよ、この僕が持つありとあらゆる言葉を使い尽くしても未だ不足だろう。ただ≪詫びていた≫とだけ伝えてくれたまえ。
 そうだ、あと一つだけモンモランシーに伝えて欲しい≪愛している、本当にごめん≫と。」
「分かった、言葉は伝えておこう。
 じゃあな、おやすみ。」

ヒューのその言葉を最後にギーシュの意識は闇に落ちた…、最後に見たヒューの口元が悪戯っぽく笑っていたのは気のせ
いだろうか。


瞬間、ヴェストリの広場が凍りついた。

ギーシュが殺された!ルイズの使い魔がメイジ殺しだった!
様々な憶測が乱れ飛ぶ中、ヒューは特に何とも思っていないのか、“傷一つ無く倒れているギーシュ”を担ぐとルイズやキュルケ達がいる場所に飄々とした足取りで近付く。

「待たせたかい?」

そう何も気負わない様子で話しかけてきたヒューの左手を掴むと、ルイズは無言でヒューを学院内に連れて行く。



場所は変わり、学院長室。

「むう、どう見るかねミスタ・コルベール」
「彼は風のスクエアだったのでしょうか?」
「うむ、普通に考えればそういう結果になろう。グラモンの子倅のゴーレムを切り倒したのは『ウィンドカッター』、姿を消したり現れたりは『遍在』とな。しかし、ワシ等は彼が杖を振るっている所は見ちゃおらんのだ。」
「はい、そこは私も不思議に思いました。
 ミス・ヴァリエールが召喚した際にも、メイジの事を知らないようでしたし。」
「芝居の可能性は?彼女は公爵家の娘だからの、どこぞの国の間諜という線も捨てきれん。」
「いえ、それは無いと思います。仮に間諜だったとしたらこの様な騒動を起こす事は可能な限り避けるでしょう。目的を果たすまで、《役には立つが普通の平民》を装うはずです。」
「じゃのう、疑われる行動は極力避けるはずじゃ。「それに」なんじゃ?他に何かあるのか。」
「はい、彼は召喚された時、掌に乗る位のマジックアイテムを所持していました。」
「掌じゃと?どんなものじゃった?」
「はあ、それが不思議なものでして。彼は“ぽけっとろん”とか言っておりました。
 外側はつるりとした枠で、真ん中には黒い硝子板が嵌っておりました。ところが彼が操りだすとその硝子板に極めて精緻な地図が描かれたのです。しかも枠についている筆を硝子板に当てる事で、その地図が動きさえしました。いやあ、あれは本当に不思議でしたな。
 それに彼はその“ぽけっとろん”を個人用の情報端末とか言っておりました。」
「ふうむ、ところでその地図を見て君はどう思ったのかね?」
「我々が使っている地図とは全くの別物でした。それに彼が言うにはその地図にはトリステインは無いとも言ってましたな、なんでも“うぇぶ”が通ってないからとか…。」
「“うぇぶ”…網とな?しかし、何から何まで妙な男じゃのう。
 様々なマジックアイテムを持っているかと思えば、風のスクエアとしか思えんような所業を杖も無しでやってのける。
 ミスタ・コルベール、これは一手間違えるとトリステインどころの話では無くなるかもしれんぞ。」
「と、言いますと?」
「考えてもみたまえ、ワシらが確認しておるだけでも見た事が無いマジックアイテムを2つも所持しているんじゃぞ。
 その内一つは“個人用”ときた、ならばその“ぽけっとろん”とやらは彼の国…とーきょーのばとか言ったか…そこではごく普通に出回っとるモノなんじゃろう。恐らく1人1人が持っておるに違いあるまい、でなければおぬしが見ている前で使ったりはせんだろう。」
「確かに、だとするとどうするべきでしょう。私が知っている限りその様な国には心当たりが無いのですが。」
「まあのう、近くにそんな国があったら、とっくにここら一帯の国は征服されとるわい。となると可能性は一つしかなかろう。」
「聖地の向こう…ロバ・アル・カリイエですか…。」

学園長室に重い沈黙が降りた。


場面は再びヴェストリの広場に戻る。
決闘の当事者であったヒューはルイズに連れられて行き、ギーシュに至ってはヒューに担がれていった。揶揄する敗者も讃えるべき勝者もいなくなったこの広場には極々少数の生徒だけが残っている。その中にキュルケとタバサの姿もあった。
2人はヒューの立っていた位置に来て、先程までの決闘について分析をしていた。

「しかし、驚いたわねヒューがスクエアクラスのメイジで、その上“メイジ殺し”だったなんて。」
「けれど変」
「何が?ギーシュの『ワルキューレ』を壊したのも、一瞬でギーシュの背後に現れたのも風のスクエアなら説明できるわよ?」
「スクエアメイジだとするなら何故、彼女と使い魔の契約を結んだのか。」
「ん?そうねぇ、ヴァリエールの家かルイズ個人に何か恩義があるとかはどう?」
「ヴァリエール家に恩義があるなら公爵に雇ってもらえばいくらでも恩を返す機会はある、彼女個人に恩義があるとしてもそう。なにしろ風のスクエアである上にあれだけの手練だから《別に使い魔になる必要は無い》」
「そうよねえ、平民と私達貴族に対する態度もあまり差が無いし、となるとメイジって線は無くなるのかしら。」

タバサはキュルケのその言葉に対して、肯定も否定も示さなかった。

「分からない、だけど『ワルキューレ』を壊した時も、移動した時も。呪文を唱えたり杖を振るったりしている様には見えなかった。」
「そういえば、最初から最後まで手には何も持っていなかったわね。となるとまさか先住?」
「可能性はある、けど疑問が出てくる。先住魔法で攻撃するにしても『ウィンドカッター』で攻撃するにしても」

と言いつつ、地面に向かって『ウィンドカッター』を唱える。魔法が当たった場所には鋭い切り口があったが、そこだけだった。
ヴェストリの広場のどこにも同じ様な跡は無いのだ。

「ああ、そうよね。魔法を使って切断したのなら…。」
「そう、どうしても痕跡は残る、だからこれを調べてみる。」
「これって『ワルキューレ』の残骸じゃない、これを調べるって…私も貴女もそういった魔法は得意じゃないでしょう?」
「だったら得意な人に聞きに行く。」
「となると…コルベール先生かシュヴルーズ先生辺りかしら?」
「その辺が妥当」

とりあえずの結論を出した2人は、上下に断たれた『ワルキューレ』をそれぞれレビテーションで浮かせてコルベールの研究室へと歩いて行った。



再び場面は変わり、ルイズの部屋。

色々と用事を済ませた後、ルイズが待ち受ける部屋に戻ってきたヒューはいぶかしんでいた、どうやら主であるところの少女は怒っているらしいが、何が原因なのかさっぱり分からないのだ。確かに決闘は無断で受けたが、本番前に一応の合意は取ったからこれは違うだろう。情報が無い以上どうしようもないのでここはルイズの出方をみて見る事にする。

「ただ今、ああ疲れた。ところでいきなりどうしたんだ?ルイズお嬢さん。別に褒めて「黙りなさい!」」
「あ、あああアンタ、私をだっ騙したわね!何が平民よ!スクエアクラスの魔法を使えるメイジの上にメイジ殺しなんじゃない!さぞ可笑しかったでしょうね!魔法を使えないくせに貴族ぶってるって!笑いなさいよ!」
「なにを言いたいのか良く分からないんだが、俺は魔法なんてただの一つも使っちゃいない。」
「アンタこの後に及んでまだシラを切る気?いい加減にしなさいよ!どこまでこの私を「ストップ!」」
「まあ、落ち着きなってルイズお嬢さん。とりあえず君の疑問に一つずつ答えようじゃないか、それを聞いて自分で判断してくれ。
 さ、どうぞ。質問は一つずつだからな。」
「アンタ本当に偉そうよね。」
「人生の先輩だからね。」
「そう、じゃあ質問、始めるわよ。
 まずは、そう。アナタ、メイジなんでしょう?」
「違う、俺には君達みたいに魔法とかいう便利な力は使えない。」
「じゃあ、ギーシュの『ワルキューレ』はどうやって壊したの。」
「あれは武器で切っただけだ。」
「武器?あなた剣なんて持ってなかったじゃない。」
「これさ」

ヒューは悪戯っぽくウィンクすると、右手の親指を左手の親指と人差し指の腹ではさみ左右に広げる。そこには何も無かった、否、何も無いように見えた。しかし、よくよく見ると極細の糸の様な物がヒューの右手から左手に繋がっている。

「これが武器?ただの糸じゃない。」
「おっと、危ないから触っちゃダメだ。」
「どうしてよ、ただの糸でしょう?」
「ただの糸じゃあないのさ、こいつは単分子ワイヤーっていう代物でな、この糸自体が鋭い刃物になっているんだ。
どれ位切れるか見たいのなら…そうだな、何か持って来てこの手の間に振り下ろしてみるといい、さっきの『ワルキューレ』みたいになる。」
「ふん、そんな糸如きで物が切れますか!ちょっと待ってなさい。」

そう言い放つとルイズは箪笥から乗馬用の鞭を取り出してくる。そろそろ古くなって来た鞭なので、別に壊れても大丈夫だし。もし嘘をついているようなら、そのままこの鞭で躾けてやろうとほくそえんでいた。

「じゃあ、いくわよ。もし嘘だったら覚悟しておきなさい。」
「ああ、いつでもどうぞ。」

ヒューの返事が終わった瞬間、ルイズはヒューの両手の間に鞭を振り下ろした。
鞭はヒューの両手の間を手応えも無く、あっさりと通過する。ルイズは「そらみたことか」という表情を浮かべヒューに向き直るが、相手は別に気にしていない風である。

「ヒュー誰が糸を収めて良いと言ったのかしら?」
「いや、ルイズお嬢さん。ワイヤーは今から収める所、手応えが無かったのはそれだけ切れ味が良いって事でね。
 ほら、その手に持っている鞭をもう一度見てみな。」

ヒューの言葉をいぶかしみつつ、右手に持っていた鞭を改めて確認すると先程、ヒューの両手の間を通過したと思しき所から鞭が切断されていたではないか。切断部を確認すると恐ろしく滑らかだった。

「というわけさ、分かったかい?」
「分かったわ。ところでその糸だけど、それもマジックアイテム?」
「ただの武器…だけど、こっちじゃ売ってないだろうね」
「どうしてよ」
「分子って分かるかい?」
「なに、それ?貴重な鉱物か何かの事?」
「物が物として構成できる最小単位の事。物質はその分子が寄り集まって構成されているっていうのが俺の故郷での常識でね、そういった概念が無い以上作れないのさ。
 で、俺が持っているこのワイヤーは、炭素分子っていう硬度では最高のもので構成されている。基本的にこいつで切断できない物質はないっていうのが触れ込みだけどね。」
「嘘おっしゃい、それだと持つ事さえ出来ないじゃない。どうやって持っているのよ。」
「とは言ってもね、俺が作ったわけじゃないからな、要は使えれば良いのさ。持ち方っていうか鞘はこれ。」

ヒューはルイズに親指を見せると、そこにワイヤーを収めてみせる。
それを見た時、ルイズの頭は真っ白になった。何しろ人の身体の中にあの恐ろしい切れ味を秘めた糸が収められていくのだ。

「え、えぇぇぇぇ?な、何?何なのヒューそれ!その手は!」
「うん、まぁ驚くだろうとは思ってはいたんだが、予想以上だな。
 とりあえずこれも俺の故郷の常識の一つ、ってやつなんだが。これはサイバーウェアの一種だ「さい…何?」サイバーウェア。要は人の身体に色々入れて便利に暮そうって技術。」
「何?それ気持悪いわね…。」
「まぁ、そう言うな。言っただろう、俺の故郷の常識だって。こっちでは気持悪いんだろうが、俺が住んでた場所では当たり前の技術だったんだ。それに一応こういった技術の進歩の根底には医療技術の発展という側面もあるからな、一概に悪いと断じるのもどうかと思うんだが。」
「そ、そうね。国毎に色々と風習もあるでしょうし…。と、とりあえず謝ってあげる。
 所で、医療技術が進歩しているって言ってたわよね?だったらどれ位の事が出来るの?」

ルイズのその言葉にヒューは考え込んだ。実際の所、ニューロエイジでは金さえあれば全身を義体化する事もクローン技術で若返る事も可能だ。知り合いの女医・芳華玲にかかれば、時間的制約はあるにしろ死さえも絶対では無くなるだろう。文字通り金で命が買えるのがニューロエイジなのだ。
しかし、義体化やクローン技術については話さないほうが良いだろうと考えた。この2つの技術については倫理上様々な問題が出ていた事を覚えているからだ。サイバーウェアでさえあれだけの拒絶反応を示したのだ、それに恐らく信じないだろうという予感もする。

「そうだな、大体の疾患は治癒可能だろう。両手足や内臓の欠損にしたところで贅沢言わなければサイバーウェアで代行は出来る。
 ただ、最先端の技術情報や未知の疾患等に関しては専門じゃ無いからな、勘弁してくれ。」
「それ本当?本当に何でも治せるの?」
「多分ね、難しいケースになればなるほど資金はかかるけど。…いや、もうこの話は止めよう、実際もう意味が無い話だろうしな。」
「どうしてよ、アンタの故郷に行けば病気が治せるんでしょう。」
「その故郷が何処にあるか分からなければ行きようがないだろう?」
「あ…」
「少なくとも俺はトリステインとか、ここら辺の国名は聞いた事が無いしな。」
「じゃあアンタの故郷ってロバ・アル・カリイエなの?」
「まあとりあえずはそういう事にしとくさ。」
「アンタ、自分の故郷の事でしょう?何でそんないい加減なのよ!」
「やり残した事はもう無いって言ったろ?あそこに家族がいるわけでもなし。と言うよりもだルイズお嬢さん、何だってそんなに俺の故郷の医療事情に固執する?」

ルイズはヒューの言葉に一瞬押し黙った後、ぽつりぽつりと語り始めた。

「私の上には2人の姉様がいるんだけど、すぐ上のカトレア姉様のお身体が悪いの。公爵家の領地からあまり出た事も無いし、お身体が弱い所為で魔法もあまり使えない位。一番上のエレオノール姉様はアカデミーに入って治療法を探そうとしているわ、私も何とか水魔法の使い手になって姉様のお身体を治して差し上げたいけど…。
 だから治療方法があるのなら試してみたい、それが理由よ。」
「なるほどね、悪い事聞いたが。実際、故郷への道は断たれてしまっている、悪いが諦めてくれ。」
「とりあえずはそういう事にしておいてあげる。但し!アンタの故郷の場所がわかったらちゃんと教えるのよ!」
「ああ、約束する。で他に何か聞きたいことは?」
「そうね…、そういえばギーシュの『ワルキューレ』を切った後、どうやってギーシュの所まで移動したの?
 風の魔法にある『遍在』でもなければ説明できないんだけど。」

ルイズはこれでも言い逃れができるかとヒューに対して質問を浴びせた。が、対するヒューは何でもないかのように応える。

「『遍在』っていうのがどういった魔法か分からないが、あれは手品さ。」
「手品?ってあの大道芸人が何処からともなくハトを出したりするあれ?」
「そうそれだ。」
「ア、アンタねぇ!貴族を馬鹿にするのも本当に「『ワルキューレ』が壊れた時どう感じた?」は?吃驚したわよ!いきなり真っ二つになっちゃうんだもん!」
「そう、その時の意識の間隙を利用したのさ。例えば目の前でありえない事が起きた場合、人はそれを理解しようとするだろう?で、そういった時は次に物事を認識するまで、ほんの一瞬だけど意識に空白が生まれる。その間に移動すれば…ほら一瞬で移動したかのように見せる事ができるだろう?」
「だけど、それだけで説明がつく訳ないでしょう?」
「まあね、実際タネは他にもあるんだけど、それは今後のお楽しみって所だ。」

理解はできたが納得は出来なかった。しかし、ルイズにはヒューの言葉を否定できるだけの確たるものが無かった、だから黙って次の質問を始めた。

「そうね、今後の楽しみにさせてもらうわ。じゃあ次の質問、“ふぇいと”って何」
「ああ、それはだな…」

その日、ルイズの部屋の灯りは遅くまで絶える事が無かった。



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