あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

毒の爪の使い魔-23


激闘の一夜が明け、朝日が昇り始めた。暖かな陽光が魔法学院を照らし出す。
夜闇が徐々に掃われていき、それに呼応するかのように、眠らされていた学院中の人が目を覚ましていく。

「あれ…私、どうして?」
「寝てたの…こんな所に?」
「何で…廊下なんかで?」

目を覚ました者達は一様に首を捻った。
何故こうしているのか…一切の記憶が無いのだ。
眠らされた者の中で、夕べの事を覚えている物は誰一人としていない。

――そう…”眠らされた者”の中では…。

「ふわぁ~」
大きな欠伸が学院長室に響く。
「ああ、よく寝たの~…」
眠りから覚めたオスマン氏は、大きく伸びをし、目を擦る。
その時、ノックの音が聞こえた。
オスマン氏は目を擦る手を止め、窓の外を見る。…まだ朝日は昇り始めたばかりのようだ。
――こんな朝早くに一体誰だ?
オスマン氏は首を捻る。そして、新しく秘書を雇わねばならぬな、と思いながら来室を促した。
「鍵は掛かっておらぬ。入ってきなさい」
扉が開き、ルイズとタバサ、そしてルイズの使い魔のジャンガが入ってきた。
「君達――」
こんな朝早くからどうした?…そう聞こうとし、言葉を飲み込む。
ジャンガが背中に背負っている血塗れの男が目に留まったのだ。
その男はオスマン氏も良く知っている人物だった…。

目を細め、オスマン氏は三人を見つめる。
ジャンガは無表情のまま壁際に歩き、背負った人物=コルベールを床に横たえる。
それをオスマン氏は黙って見つめる。そして、ルイズとタバサに視線を移す。
「一体何があったんじゃ?」
「…私から話します」
そう言ってタバサは一歩前に出た。
オスマン氏は頷き、静かにタバサの話を聴いた。

「なるほどの…」
タバサの話を聞き終え、オスマン氏は目を閉じた。
髭を弄りながら、今の話を考える。
ミス・タバサ――いや、ミス・オルレアンの事情はある程度熟知していたが、今回の件は少々厄介だ。
昨夜、北花壇騎士としてミス・ヴァリエール拉致の命令を受けた彼女は、
ガリアの何者かの使い魔と共にこの学院を密かに襲撃。
ミスタ・コルベールや、この場に居ないミスタ・グラモン、ミス・ツェルプストーの介入、
ジャンガの説得(?)などがあり、任務を途中放棄し、
ジャンガやミス・ツェルプストーと共に使い魔等を撃退。
そして、気絶したミスタ・グラモンやミス・ツェルプストー、ミス・モンモランシは部屋に運び、
比較的無傷な自分達だけで、今こうして報告に来たとの事。
「うむ……随分と大変な事があったんじゃな…。そんな時に、私は眠りこけていたのか…。
すまなかったの…」
「ジョーカーの奴にやられたんじゃ仕方ねェよ…。恥じる事じゃねェ…」
申し訳なさそうな顔をするオスマン氏に対し、ジャンガは言う。
オスマン氏は小さくため息を吐くと、タバサを見た。
「君もまた苦労をしておるの…、ミス・タバサ」
悲しげな、寂しげな表情で、タバサは俯く。
そんなタバサにオスマン氏は優しく声を掛けた。
「あいや、別に君を責めたりなどせん。事情は十分に理解しておる。
じゃから…必要以上に気にするでないぞ」
その言葉にタバサは小さく頷いた。
そこで、ルイズがオスマン氏に話しかけた。

「あの、オールド・オスマン」
「なんじゃな?」
「その……こいつの事なんですけど…」
言いながら、ルイズはジャンガを指差す。
オスマン氏はジャンガを見据え、彼女が何を言いたいのか理解した。
ルイズは不安げな声で尋ねた。
「その…こいつの事は、一体どうするのですか?」
「ジャンガ君、君に聞きたい。…君が、ミスタ・コルベールを――」

「ああそうだ…、俺が殺した」

その言葉に全員が押し黙る。
「で、俺をどうする気だよ?罰したりなんだりするんなら、勝手にしやがれ。
…正直、俺はもう半ばどうでもよくなってるんでよ」
何の感情も表さず、ただ淡々とそう告げた。
その無表情や感情の籠もらない言葉から、後悔している様にも、そうでない様にも感じる。
オスマン氏は目を閉じ、何事かを考える。
ルイズは複雑な、タバサは不安げな表情を浮かべる。
ややあって、オスマン氏は目を開け、ジャンガを真っ直ぐに見つめた。
「今のは、君の本心かね?」
「…質問の意味が解らねェな?」
「後悔も何も無いのか、と聞いているのじゃよ」
オスマン氏の言葉にジャンガは眉をピクリと動かす。
「…それが何だってんだよ?」
「君はミスタ・コルベールを殺したかもしれん…。
じゃが、その一方でミス・タバサやミス・ヴァリエールを助けてくれておる。
本当に何もかもがどうでも良くなっているのなら、そのような事をする意味は無いはずだが?
少なくとも…私が知っている、いや知っていた君ならば、そのような事はしないだろう。…直ぐにトンズラしてるはずじゃ」
「……」
ジャンガの視線が刺す様な鋭さを帯びる。
その視線を平然と受け流しながら、オスマン氏は続ける。
「では、改めて聞こう……君は後悔をしているかね?」

沈黙がその場を支配した。
ジャンガとオスマン氏は瞬きもせずに静かに見詰め合う。
そんな二人をルイズとタバサは息を呑んで見つめる。

やがて、根負けしたのか…ジャンガは小さくため息を吐き、目を逸らす。
「…解らねェ…」
「ふむ…」
「後悔してるのか、そうでないのか、まるで解らねェ…。
テメェの事なのによ…、解らねェんだよ…」
ジャンガは帽子を押し下げ、顔を隠す。
「嬢ちゃん達を助けた事も解らねェ…。
あいつを殺した事に対する罪滅ぼしなのか、ただの気紛れなのか…それもな」
オスマン氏は目を閉じ、黙ってジャンガの話に耳を傾けていたが、やがて顔を上げた。
「なら…今この場で、君をどうこうする事はできないな」

オスマン氏に視線が集中する。
ジャンガが怪訝な表情でオスマン氏を睨む。
「どう言う事だ?」
「言ったまでの意味じゃよ…。今この場で君を罰する事は私にはできん」
「情けでもかけてるつもりか?…そんな偽善、いらねェってんだよ」
今にも掴みかかりそうな様子のジャンガ。
しかし、オスマン氏は怯む事無く、真っ直ぐに見つめ返す。
「偽善か…そうかもしれん。君がミスタ・コルベールを殺したのは事実。
それに対してお咎め無しではの…」
「解ってんじゃねェか? だったら、今直ぐに俺を殺すなりなんなり――」
「そうじゃの、私もそれ相応の対応をしていたろう……君に明らかな”悪意”が有ったらの。
今の君からは最初に感じておったような”悪意”と言うか、そう言った物が一切感じられん…。
そんな相手に、ほいほい罰を与えるなんぞ、私にはできん。何しろ、このような老いぼれ……少しばかり弱気でな」
「チッ…、だったらどうするってんだよ?言っとくがよ…俺はあいつを殺した事を本気で後悔している訳じゃねェぞ?」
コルベールを顎で示しながらそう言う。
オスマン氏は目を伏せる。
「じゃからの……君に考える時間を与えたい」
「ハァ?」
――唐突に何を言うんだ、このジジイは?
困惑しながらもジャンガはオスマン氏を睨み返す。
「どう言う意味だ?」
「言ったまでの意味じゃ。君自身が後悔しているのか、そうでないのか、考えるのじゃ…。
そして、答えが出たら…また私の所へ来てくれたまえ」

――とことんまでのお人好しだな。
ジャンガは目の前の老人を見据えながら、そう思った。
自分が殺したコルベールもそうだが、ほんの少し変わったくらいで悪人が善人になったと思う考え方は甘すぎる。
そんな事で、また取り返しのつかない事態になったらどうする気だ?

「…返事を返さなかったら、どうするつもりだってんだよ?」
「君はそれほど器用な男では無いと思っているのでな。
返事を返さないつもりなら、ここに居座らずに黙って消えているだろう。
その時は、私もそれ相応の対応を取るつもりだがな…」

――喰えねェジジイだ。
全く何も考えていない訳でも無いらしい。
まぁ、それでも甘いと言わざるを得ない対応ではあるが。

ジャンガは呆れた様子で鼻を鳴らす。
「チッ…解ったよ」
その言葉にオスマン氏は静かに頷いた。

結局、それ以上のジャンガに対する責任や罪の追及などは無かった。
ミスタ・コルベールの事など諸々を含め、全てをオスマン氏が預かると言い、その場は解散となった。
三人は学院長室を後にした。
螺旋階段を下り、本塔の外へと出るまで、誰一人として口を聞かなかった。
ルイズとタバサは目の前の亜人の背を見つめる。
変わらない長身だったが、今は何故だかその背が小さく見える。

ルイズは目の前の亜人の事が解らなかった。
召喚した時から今までの事を振り返る。

――基本的には最悪だ。残酷で卑劣、他人を苦しめて愉快そうにするなど、
ハズレなどではすまないほどに酷い使い魔――いや、使い魔と呼ぶのも躊躇われる。それほどまでに酷い物だ。
しかし、その一方で自分達を(結果的には)助けてくれたり、ダンスの相手として振舞ってくれたりもしている。
こいつの本当の姿って…どっちなんだろう?
(そう言えば?)
そこで夕べの夢を思い出した。

「ねぇ、ジャンガ?」
「……ンだよ?」
振り向かずに答えるジャンガ。
ここで聞くべき事か一瞬悩んだが、ルイズは自然とその事を聞いていた。
「そのマークの事なんだけど…」
僅かにジャンガの肩が震えたのが解った。
――やっぱり、あの夢は本当の事なんだ。

「珍しい物よね?少なくとも私は見た事が無いわ。
前にフーケの時に、あんたが使った銃みたいなのにも同じようなマークが付いていたけど……何かある?」
暫しの沈黙の後、ジャンガは口を開いた。
「…テメェには関係無ェ」
「…そう」
再び沈黙。
「じゃあ……同じマークを付けた銃を持った亜人と――」
ジャンガの目が見開かれた。
「――月で戦った?」
ゆっくりとした動作で、肩越しにジャンガは振り向き、ルイズと目が合った。

――何で、あの事をこいつは知っている?
少なくとも自分は話した事が無い。こっちへ来た時にもだ。

ジャンガは警戒心も露わにルイズを睨み付ける。
「テメェ…何で知ってるんだ?」
「夕べ、夢を見たのよ…」
ルイズは夕べ見た夢の内容をジャンガに話した。
話が終わった時にはジャンガは苦虫を噛み潰したような表情になっていた。

その様子にルイズは小さくため息を吐いた。
「やっぱり、本当の事なのね」
ルイズの言葉にジャンガは舌打をし、前に向き直る。
「――ああ、そうさ…本当の事さ」
「そう」
「…それで? 俺がどうしようもないくらいの悪党だって事が解って……どうするんだ?」
「どうって?」
「あのジジイに報告するか? 別に構わねェゼ、俺は――」
「別にそんなつもりはないわ」
ジャンガは肩越しに睨みつける。
そんな彼の視線をルイズは悲しげな表情で見つめ返す。
「何のつもりだ?」
「別に…」
「別に…って、そんな訳あるか。何を企んでるんだよ?」
「あんたじゃあるまいし…何も無いわ、本当に」
互いに、静かに見詰め合う。
「ただ…」
「ただ?」
「崖下に落ちる時の…あんたの表情がね。何となく…寂しそうだったから」

歯を噛み締め、ジャンガはバツが悪そうに前に向き直る。
そして、昔の事に思いを馳せた。


――……めよ…………やく……がえ……――


ズキンッッ!


妙な声(と言っていいのか解らないが)が脳裏に響き、これまでに無い激痛が左手に走った。
「がっ!?」
あまりの激痛に、ジャンガは苦しそうな声を上げると左手を押さえ、その場に蹲る。
その様子にルイズとタバサは、慌ててジャンガに駆け寄った。
「ど、どうしたの急に!?」
「しっかりして」
気遣う二人の言葉を聞きつつも、ジャンガは直ぐには答えられなかった。
汗を流し、荒く息を吐きながら呼吸を整えようとするも、左手の痛みはなかなか収まらない。
暫くジャンガは痛みに苦しみ続けた。

「放しやがれ…、もう平気だ」
漸く痛みが治まり、二人の手を振り解きながら立ち上がる。
未だ呼吸は荒いが、特に気にしない。
ジャンガはルイズを睨み付けると、静かに口を開く。
「…テメェが俺の過去をどう解釈しても構わねェ。だが…余計な詮索はするんじゃねェ」
それだけ言うと、ジャンガは一度だけタバサを見た。
そして、多少ふらつきながらも、その場を離れていった。

「ねぇ、タバサ?」
「何?」
ジャンガがいなくなった後、ルイズはタバサに尋ねた。
「あなた、あいつの事どれだけ知ってるの?」
突然のルイズの言葉にタバサは、それでも表面上は動揺を悟られぬように振舞う。
「…何故?」
「何となく……って言うと、根拠が無いように感じるわね。
でもね…本当に何となくなの。あなたがあいつを見ている時の目……何だか、感情籠もっていたから。それに…」
そこで一拍置く。
「あいつ…、最後にあなたの事を意味有り気に見たから…、それだけ」
その言葉に押し黙る。

タバサは考えた、ここで彼の事を話すべきなのかと。
彼の涙、彼の後悔、彼の思い、…全てを話すべきなのかと。
全てを知ってもらえば、多少なりと彼との蟠りも消えるかもしれない……一瞬そう考えた。

だが……

「悪いけれど言えない」
タバサはそう答えた。彼は自分の過去の事を一切話さなかった。
そんな事を、部外者である自分が話すのは、とても失礼な事だと考えたのだ。
それに、単純に相手に同情を誘っているだけにも見えかねない。蟠りは消えないだろう。
何より最後に自分を見た時のジャンガの目。
…あれには”余計な事は言うな”と言う意味が込められているのを感じとれた。
だから、タバサは彼自身が自分で話すのを待とうと考えたのだった。

「そう」
タバサの雰囲気にルイズは、これ以上聞いても無駄だろう事を感じ取り、そう呟いた。
そして、二人はどちらからとも知れずに、別れた。



タバサは部屋に戻ると、ベッドの上に何かが居るのを見つけた。
それは見慣れない物だった。
黄色い卵のような身体に大きな瞳と赤い鼻、頭頂部には小さな翼のような物が二つ生えており、
脚の無い足に青い球のような手、背中にはゼンマイと非常に珍妙な物体だった。
何だろうと思っていると、それはタバサの方へと向き直り…
『シャルロット・エレーヌ・シュヴァリエ・ド・パルテルさん、ですね? ンガ』
言葉を発した。
タバサの眉間が僅かに寄る。
自分の本名…それも、北花壇騎士である事を知る者はそれこそ極少数だ。
そして、任務を放棄したこのタイミングである――疑う余地は何処にも無い。
任務を途中放棄した事に対する処分の通達だ。
タバサは黙って頷く。
それで本人と確認したのか、ガーゴイルと思しき物体は言葉を続ける。
『貴方にメッセージがあります。ンガ』
「聴く」
タバサの言葉にガーゴイルは一拍置き、再び話し出した。
――ただし、今度は全く別の……そして、彼女が良く知る者の声だった。

『あ~、ああ~~、あ~ああ~? テスッ、テスッ、……んん、ああ~~?』
「ッッ!?」
その声を聞いた瞬間、タバサは驚愕に目を見開く。
無理も無い…、その声は憎むべき伯父王の物でもなければ、その娘の物でも、昨夜のガーゴイルを操っていた者のでも無かった。

それは昨夜、自分達の目の前で壮絶な爆死を遂げたはずの、伯父王の娘の使い魔=ジョーカーの物だった。

『あ~、あ~、聞こえてますか? 聞こえてますよネ~? 聞こえてなかったら困りますのでネ』
「……」
タバサは無言でガーゴイルを見つめる。
『では、改めて…おはようございます、シャルロットさん。ワタクシです、ジョーカーです。
いや~多分驚いてる事でしょうネ。何しろ、爆発して吹き飛んだはずのワタクシが、
こうしてメッセージを、この『ンガポコ』ちゃんにお届けさせているのですから。
…結論から言ってしまえば、あれはワタクシの分身くんなんですよネ』
「分身…」
タバサは分身と聞いて、ジャンガとの決闘の時の事を思い出す。
自分が騙された分身は本物のそれと全く見分けが付かなかった。
だが、夕べの物は分身と呼ぶにはあまりに本物と似すぎていた。
『ワタクシの分身はジャンガちゃんのそれとは違いまして、全く同じ物を生み出せるんですよ。
まぁ…実力は本物のワタクシには及びませんがネ~』
つまりは風の魔法『偏在』のそれと同じ物なのだろう。
そんな物まで生み出せるとは…。正直、タバサは驚いた。
『もっとも…ルーンの効果でしょうか? 分身くんもワタクシ同様変身できるようになっていたので、
そこそこ信用はしていたんですがネ。…まさか、ジャンガちゃんがあのような行動に出るとは…驚きでしたよ。
…貴方と組み合わせたのは、少々失敗でしたかネ?
まぁ、それはとりあえず置いておきましょう。…ここからが本題です』
タバサの表情が僅かに強張る。
『まぁ、当然と言えば当然ですが……貴方のシュヴァリエの称号とその身分、全て剥奪されました。
北花壇騎士団も当然クビです。いや~良かったですネ?
これでもう危険な任務にさらされる事も無いのですから…、のほほほほ♪』
ジョーカーの暢気な笑い声が静かな室内に響く。
『そして…もう一つ』
――まだ何かあるのか?
妙な胸騒ぎをタバサは感じた。…そして、その予感は見事的中した。

『…貴方のお母上の身柄、押さえさせてもらいました』

「――ッッッ!?」
血が逆流した。
怒りが体中をめぐる。
思わず唇を噛み締めた。
ンガポコ…もとい、ジョーカーの言葉は続く。

『多分、そうとうお怒りになられたと思いますが……貴方がもたらした結果だと言う事をお忘れなく。
人形のように振舞って、素直に任務を遂行していれば、こんな事は起きなかったんですからネ?
…とまぁ、貴方への通達は以上です。状況がご理解できたのであれば、一週間以内に貴方のご実家までご足労願います。
よければ、このンガポコちゃんに返事を持たせても結構ですので。良い返答を期待してますよ。
あ、念の為に付け加えておきますが……下手な事は考えないのが良いですよ~?のほほほ』
そして、メッセージは終了した。
『伝言終了、ンガ』
「……」
タバサは体中をめぐる怒りを抑え、ンガポコに近寄る。
『何か、伝言はありますか? ンガ』
「ガリア王ジョゼフと、その娘の使い魔ジョーカーに」
『分かりました、ンガ。では、伝言をどうぞ、ンガ』
タバサは深呼吸を一つし、ンガポコに――否、届けられる相手に向かって告げた。

「母さまを助けた後…、貴方達の首を貰う」

メッセージは短くそれだけ。そして、今度はンガポコに対して言う。
「宜しく」
『ンガ』
首が無いからか、全身を使って頷き、ンガポコは開け放たれた窓から青空へと飛び立った。
飛び去っていく、ンガポコの背中を見つめながらタバサは思った。

――夕べの事に後悔は無い。
どの道、自分は何れ復讐を果たすべく伯父王の首を取るつもりだったのだ。
ならば、今回のような件は遅かれ早かれ訪れる事だったとも言える。
ただ、一歩を踏み出せずに躊躇していただけ。後悔するのを恐れただけ。
…彼が背を押してくれたおかげで、その一歩を自分は漸く踏み出した。
そして、踏み出した以上、あとは振り返らずに進むだけだ。

タバサは窓に近づくと、口笛を吹く。
いつもの様に自分の使い魔の風韻竜がやってくる。
その背に飛び乗り、タバサは短く行き先を告げた。

「ガリアへ」

風韻竜は一声鳴くと、青空をガリアに向かって飛んだ。



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