あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

でるか!修業の威力


アルビオン首都、ロンディニウム。
王城ハヴィランド宮殿の執務室にて、レコン・キスタ総司令官、オリヴァー・クロムウェルの前に一人の従者が現れた。
儀礼的な敬礼をし、懐から一通の書簡を取り出す。

「閣下、例のものが到着致しました」
「ん、御苦労だった。早速中へ」

従者が部屋の外から運び入れたのは1個の飾り気の無い箱だった。
いくつもの中継点を経て、出自は判らないようにされているが、クロムウェルはこれがガリアから送られてきたものだと知っていた。
蓋を開け、中身を確認すると、クロムウェルは従者に頷いた。

「下がってよし」

従者が部屋を出ると同時に、クロムウェルの背後から一人の女性が歩み出てきた。
身体のラインが浮き出る、細くぴったりしたコートを纏い、その顔は深く被られたフードの奥に隠れて見えない。

「やっと来たようですわね」
「ミス・シェフィールド。この時期にわざわざ送り元を伏せてまで調べて欲しいというこれは、いったい何なのだね」
「それをこれから調べますわ」

シェフィールドと呼ばれた女性が箱から貢品を取り出すと、フードの奥で彼女の額が微かな光を放つ。

「確かに、ここ近辺では見ない代物ですわ」
「では、やはり貴女と同じく東方由来のものか」
「のようですわね」

シェフィールドは薄く微笑んだ。
自分はこの道具を知っている。
この道具は東方よりももっと遠く、もっと技術の進んだところから来たものである。
それをこの男に話したところで、真に理解するとは到底思えない。
とりあえず、東方ということにしておこう。
シェフィールドの興味は、既に眼前の男からは失せていた。
彼女が取り出したのは、片目から耳までをすっぽり覆う装具だった。
レンズに相当する部分には緑色のガラスに似たものがはめ込まれ、そこから赤いボタンのついたアーチが耳当てに伸びている。
シェフィールドは目深に被っていたフードを脱いだ。
クロムウェルは輝きを放つ彼女の額に目をやった。
古代語で刻まれたルーン。
シェフィールドが耳当てを自身の左耳にあてがうと、ひとりでに内側のゲル状のクッションが形を変えて、彼女の耳にぴったり合う形状に収まった。
装具を身につけたシェフィールドがクロムウェルに向き直る。
奇妙な形状ではあるが、クロムウェルには用途がさっぱりわからなかった。

「で、それは何なのかね? 一見片眼鏡のようにも見えるが……」
「モノクルではございませんわ。ちょっとしたマジック・アイテムのようなものです」
「聞くところによると、そのレンズに浮かび上がる文字がガリアのものにはさっぱり解読できなかったとか」

この道具の出所は伏せられている。
ガリアから来たというのも、アルビオンでは今ここにいる二人しか知らない。
そこまでしてわざわざシェフィールドに鑑定させる程の価値がこれにあるのか、クロムウェルには皆目判らなかった。

「だからこそ、私の元に運ばれてきたというわけですね。……見つかったのはこれ一つだけですか?」
「いや、あと3つ同じものがあると聞いている」

シェフィールドはアーチ部分に納められたボタンを押した。
ピピピピ…と小気味いい音がして、レンズ越しに見るクロムウェルの身体を黄緑色の線が覆い、傍らに見たことも無い文字が躍る。
驚くべき事に、浮かび上がる文字も彼女が見るクロムウェルも、ピタリと焦点が合っていた。
やがて、レンズにはクロムウェルを指す矢印らしい線と1桁の文字が現れた。

「4」とシェフィールドが呟いた。
「読めたのか!」
「そのようです」
「それで、何が4なのだ?」
「それはわかりません。もっと調べてみないことには」

シェフィールドの答えは半分嘘だった。
手に取るまでも無く、この道具のことは全て頭に入っている。
さっき額のルーンが光ったのは、クロムウェルからは見えない側の手で懐に忍ばせたマジックアイテムに触れたからだ。
ただ、シェフィールドには少し気掛かりなことがあった。
この道具、機能も表示された文字も、確かに彼女の記憶にあるそれと同じだった。
しかし、この形状は彼女の記憶にあるそれとは幾分違っていた。
シェフィールドが知っているものはもっと角ばっていて、ボタンも赤い四角のものではなく白くて丸いものだった。
自分がこの世界に召喚されてから、元の世界で技術の進歩があったのか。
それとも、この道具は彼女の居た世界とも、ここともまた異なる世界から来たのか。
シェフィールドはそれを調べる必要を感じていた。

「4…、4…。おお、そうだ!」
「なにか?」
「今日は紅茶を4杯飲んだぞ!」
「それは全く関係ないと思いますが」シェフィールドの顔を一筋の汗が流れた。
「そうか…」クロムウェルはがっくりと肩を落とした。「他に判ることは無いか?」
「この道具の名前が判りました」
「何というのだね?」

チェシャ猫のような微笑をその口元に漂わせたまま、シェフィールドは言った。

「スカウター、ですわ」



悟空の――60人前にも及ぶ――夕食が終わった後、アルビオン極秘任務組は、今ではただの物置き場と化した中庭の連兵場へと足を運んだ。
吹き抜けになった連兵場の上からは月明かりが煌々と降り注ぎ、隅に積まれた樽や空き箱が暗い影を地面に落としている。
キュルケが場内のそこかしこに設えた松明に明かりを灯し終えると、墓場のようだった連兵場に生気が戻ってきた。
ルイズが素直な感想を口にした。

「ただの高級な宿だと思ったけど、まさかこんな場所があるなんてね」
「この宿は昔、アルビオンからの侵攻に備えるための砦だったんだよ」

連兵場の中央に佇んだワルドがそれに答えた。
そこから20歩ほど離れたところに立っている悟空に向き直る。

「昔……といっても君には判らんだろうが、かのフィリップ三世の治下には、ここでよく貴族が決闘したものさ」
「へえ」
「古き良き時、ロングロングアゴー…じゃなかった、王がまだ力を持ち、貴族たちがそれに従った時代……。
 貴族が貴族らしかった時代……。名誉と誇りをかけて、僕たち貴族は魔法を唱えあった。
 でも、実際は下らないことで杖を抜きあったものさ」
「強えヤツと戦いたいからってのは無かったのか?」
「もっと古く、グラップラーの時代はそれもあったかもしれないが、生憎僕たちの頃にはそういうのは無かったね」
「なーんだ」

つまらなさそうに言う悟空に、ワルドは思わず苦笑いを浮かべた。
そうか、この男はそういう時代の精神を受け継いだ人間なのか。
ワルドは貴族だが、強さを求めるというこの男の言い分は非常によく理解できた。
自分も、かつてガムシャラに強さを追い求めた時代がある。
名誉だとか誇りだとか、そんなものは後から付いてくるものだと思っていた。
唯一の肉親であった母親を亡くした、あの日までは。

「さて」

ワルドは物思いを断ち切るように言った。

「準備も整ったことだし、そろそろ始めようか、使い魔くん」
「ああ。…ところでよ、おめえは何のメイジなんだ?」
「僕の属性は『風』。風のスクウェアメイジだ」

ワルドは腰から杖を引き抜き、フェンシングの構えのように、それを前方に突き出した。
対する悟空はワルドに対し真正面を向き、下げた両手を軽く握り、足を肩幅に開いたまま、微動だにしない。
互いに動かず、その姿勢のまま数十秒が経過した。

「なによ……さっきから2人とも動かないじゃない」
「ダーリンったら、子爵様が相手だってのにやる気ないのかしら…?」

当惑げな顔を見せる観衆の中で、タバサとギーシュだけがこの状況を理解していた。

「……隙が無い。気配も感じない」
「だな…。子爵殿もそのせいで、最初の一歩をなかなか踏み出せないでいる」

心臓が早鐘を打っている。
立っているだけで呼吸が乱れる。
まったく、何というプレッシャーだろう。
こうして対峙しているだけで押し潰されそうだ。
ワルドは乾いた唇を舐め、今や自分の数倍の大きさにさえ見える悟空の隙を伺い続けていた。
相手がこちらに向かってきたのを切り捨てようと思っていたのだが、逆にこちらが誘われているかのようにすら感じる
その時、燃え盛る松明の火種の1つが、パチンと音を立てて爆ぜた。
それを合図に、ワルドは殆ど反射的に悟空へと突進した。
2歩で間合いを詰め、相手の胴、腕、腰、それらを目にも留まらぬ速度で連打する。
それを驚くべき反射速度で巧みにかわしながら、悟空はワルドの予想以上の速さに内心驚き、そして少し喜んでいた。
ギーシュの高速型ワルキューレよりもずっと速い。
常人には切っ先を捉えるどころか、剣筋を見ることすら叶わないだろう。

「いいぞいいぞ! メイジなのに思ったより速ぇじゃねえか!!」
「それ…はっ、ど、う、もっ!」

余裕綽々の悟空とは対照的に ワルドは既に限界に近い速度で突きを繰り出していた。
自分とてスピードには自身がある。「閃光」の二つ名は伊達ではない。…つもりだった。
焦りから、徐々に呼吸が乱れ始めた。
一旦後ろに下がって距離を取り、乱れた呼吸を整える。

「確かに素早いな。流石は伝説の使い魔だ…」

おまけに隙が無い。
突きをかわしているその最中にも、全く隙を見出せなかった。
まるで赤ん坊扱いではないか。
ワルドはルーンを低く呟き始めた。

「デル・イル・ソル・ラ・ウィンデ……」

悟空の耳にそれは届かなかったが、徐々に大きくなるワルドの気が魔法が来ることを雄弁に物語っていた。
ワルドの気の上昇が止まる。と同時に、悟空の左側の空気が撥ねた。

「っと!!」

咄嗟に左腕で受け止める。
衝撃で、防御体制のまま悟空の身体が5サントほど地面の上を擦れた。
奇襲攻撃を軽々と受け止められ、ワルドは一度も攻撃されずして早くも窮地に陥りつつあった。
相手の虚を突く戦法が悉く功を成さない。
ならば魔法と体術、両方をフルに使って戦ってやる。

「ラナ・デル・ウィンデ」

ワルドは素早くエア・ハンマーのルーンを詠唱した。
それをを悟空の正面に叩き込み、自身も再び間合いを詰めるべく地を蹴った。
が――

ドンッ!

目に見えない何かがエア・ハンマーに炸裂し、その後ろから突っ込んできたワルドにモロにぶち当たった。

「ごぶっ!!!」

ワルドは地面と平行に10メイル以上飛び、連兵場の隅にうず高く積まれた樽に激突して止まった。
粉砕された樽がガラガラと崩れ落ちる。

「あ、お、おい! 大丈夫か?」

とりあえずエア・ハンマーを気合い砲で粉砕したつもりが、その後方から迫ってきていたワルドをもぶっ飛ばしてしまった悟空が慌てて駆け寄った。
樽の残骸の山からワルドを引っ張り出す。
鼻血と涎を垂らし、木屑にまみれたワルドの目は焦点を失っていた。

「勝負あり」

タバサが呟いた。



タバサのヒーリングで外傷は癒えたが、ワルドは脳震盪を起こしていたため、彼が目を覚ますまで一行はしばし自由行動を取ることになった。
ルイズは片時もワルドの傍を離れず、甲斐甲斐しく世話を焼いている。
悟空とギーシュはルイズが買い込んだ土産を置きに瞬間移動で一度トリステイン魔法学院へと戻っていた。
(悟空一人で良かったのだが、ギーシュがヴェルダンデの様子を見なければ僕は死んでしまう!と言って半ば強引についてきた)
タバサとキュルケはラ・ロシェールを観光中。
フーケは姿を暗ましていた。

「今にして思うと、僕は何て無謀だったんだろうね」
「何がだ?」

ルイズの部屋に荷物を運び込んでいるギーシュがぽつりと洩らした。

「スクウェアの子爵ですらあの有様だろう? 僕だったら死んでるよ」
「いやあ、手加減したから多分死にゃしねえと思うぞ」
「あれで手加減なのか……」

ギーシュの顔が蒼白になった。
そういえば、あの時のゴクウは金髪になっていない。
ルイズが言うには、あの姿になると普段以上にとんでもない強さになるんだそうだ。
下手したら彼一人でレコン・キスタを相手に戦えるんじゃないかとギーシュは思った。

「だけど、あいつでスクウェアなんだろ? オラもっと強えヤツと戦いてえんだけどな」
「いや十分常人離れしてるから。…う~ん、子爵殿でも不満だと、あとはオーク鬼とかエルフとかでないとゴクウの相手は務まらないんじゃないかな」
「オークオニにエルフ? そいつら強えのか?」
「オーク鬼は、1匹で人間の戦士5人分に匹敵すると言われてるね。
 エルフは……、正直口に出すのすら恐ろしい。なんせその戦力は人間の10倍とも20倍とも言われてる。
 正直、マトモな人間なら出会うことすら考えたくない」
「へえ…。なんかオラ、そのエルフってヤツとちょっと戦ってみてえな」
「ウワァァァン言うと思ったー!!」

思わず頭を抱えて嘆く。
なにげに悟空の性格を誰よりも理解しつつあるギーシュであった。

「ところでギーシュ、そろそろおめえのワルキューレと組み手してえんだけど」
「何でさ…? 僕のワルキューレじゃもうゴクウの相手をするには役者不足なんじゃないのかい?」
「まあ、一対一だとそうなんだけどよ。大勢をいっぺんに相手するってのは、あれはあれで結構面白えんだ」
「そうなのか…。そういうことなら。実はちょっと温めていた戦術があるんだ」
「なんだ、おめえもやる気あったんじゃねえか」
「まあね」



ギーシュが実体化させた4体のワルキューレを見た悟空は、その形状がまた変化していることに気付いた。
1体1体が、上半身にゴツい甲冑を着込んでいる。
力重視、速度重視ときて、今度は守り重視なのだろうかと悟空は思った。

「準備はいいかい?」
「ああ、いつでもいいぞ」
「では!」

ギーシュが造花を振り下ろすと、ワルキューレが悟空を取り囲むように距離をとった。
移動速度は通常のワルキューレと大差ないようだ。
1体が繰り出したパンチを軽く受け流し、もう1体の体当たりを馬飛びの要領でかわす。
時折攻撃を当ててみると、幾重にも重ねられた複合装甲がわずかに凹んだ。
やはり、装甲を重ねることによって衝撃を分散させる防御重視のワルキューレのようだ。
その証拠に、攻撃がのろい。
だいたいこのワルキューレの性能が判ったので、悟空が反撃に転じようとすると――

「キャストオフ!」

ギーシュが叫んだ。
その命令に従って、ワルキューレたちが腰部に取り付けられたレバーをいっせいに倒す。
すると、上半身の重装甲がバラバラと外れて地面に落ちた。
中から出てきたのは、前よりも一層装甲が薄くなった速度重視型のワルキューレ。
更に落ちた4体分の装甲も、再度ギーシュから放たれた薔薇の造花によって速度重視型のワルキューレへと姿を変えた。
総勢8体の速度重視型ワルキューレが悟空に襲い掛かる。
さっきまでのろい動きのワルキューレに慣れていた悟空の反応が僅かに遅れ、1体の攻撃が髪を掠めた。

「うわっとっと!!」

即座に速くなったワルキューレの攻撃に順応し、姿が掻き消えるほどの超高速移動でワルキューレの包囲網から抜ける。
それでもう悟空に勝てる見込みは無いと判断したのか、ギーシュはワルキューレの錬金を解いた。

「どうだった?」
「いやぁ、おでれーた! 自分で言うのもなんだけど、オラじゃなかったらあの速えほうのワルキューレにやられてたぞ」
「一度遅い攻撃に慣れさせて、後から早い攻撃に転じるのがこの戦術の要だったんだ。そう言ってもらえると考えた甲斐があったよ」
「あとは…そうだな。ギーシュ、いったん外したヨロイを動かすことってできるか?」
「できるよ。原理はワルキューレを動かすのと同じだからね」
「じゃあさ、外したヨロイをそのまま落っことすんじゃなくて、相手にぶつけちまうってのはどうだ?」
「なるほど! 確かにそうすれば攻撃にもなって一石二鳥だ!! ありがとう、参考にするよ!」
「さて、それじゃそろそろ戻ろうぜ」
「ああ! ゴクウ、今日はありがとう」



その日の夜、目を覚ましたワルドは付き添っていたルイズに求婚した。
日がな一日彼と過ごしていたルイズは、その言葉を聞いた直後に顔をぱあぁっと輝かせたものの、すぐに暗く、落ち込んだ表情になった。
その様子を見たワルドは、心配になって声をかけた。

「……嫌かい?」
「…ううん、嫌じゃない。嬉しいわ」
「じゃあ、何でそんなに悲しそうな顔をしているんだい? 僕のルイズ」
「…………わたし、貴方に相応しくない」
「え?」思いがけないルイズの言葉に、ワルドの眠気は彼方へ吹き飛んだ。「いきなり何を言い出すんだ。君が僕に相応しくないなんて、そんなことは無いよ」
「ほんとう……?」
「本当さ。現に君は、あんなに強くて素晴らしい使い魔を召喚しているじゃないか」
「でも……ゎ…」ルイズの声が切れ切れになる。
「何だって?」
「でもわたし、何も変わってない……」

ルイズの目から、涙が零れ落ちた。

「ゴクウは…ゴクウはガンダールヴだって先生が言ってた。伝説の使い魔のルーンだって。
 でもわたし、そんな凄い、使い魔を、召喚したは、はずなのに、ち、ち、ちっとも、変わっ、て、ないの……」

とうとうルイズは泣き出した。
大粒の涙が、しゃくりあげるルイズのブラウスを濡らしていった。

「ぜ、ぜ、ぜろな、の。わたし、まだ、ゼロの、ルイズ、なの………」

(知っていたのか…あのルーンがガンダールヴだって)

10年前、ラ・ヴァリエール家の領地の池でそうしたように、ワルドは子供のように泣いているルイズを優しく抱きかかえた。



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