あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

谷まゼロ-09


そこは学院の敷地内の、豊かな草原が広がる場所であった。
谷とフーケが居る場所からだと、学院の本塔が遠くに見える。
フーケの思惑があったのか、それとも単なる運命の悪戯か、
今谷が立っているその場所は、奇しくもルイズの『サモン・サーヴァント』によって、
谷が、このハルケギニアの世界に呼び出された場所であった。

谷の胸は高揚感に溢れていた。フーケの言葉を信用し、
もうすぐ元の世界に帰ることができると考えていたのだった。
だがそれは、叶わぬ夢であった。全てはフーケの罠であるからだ。
フーケは、この世界のことを谷が何も知らないのをいいことに、好き放題嘘をついていた。
そして今もまた、谷を欺いている。

「ここに立ってればいいんだな?」

谷がフーケにそう言った。
「ええ、もうしばらく動かないで下さいね」

谷の質問に答えながら、ここに来るまでの道中拾った木の枝を使い、
フーケは谷を中心として、地面に大きく円を描いていた。
地面を引っ掻く音が、星の光が降り注ぐ闇夜に静かに響く。
グルリと谷の周囲を一周し、線の端と線の端を繋ぎあわせた。
円を描き終わり完成させると、木の枝を放り捨て、フーケは円の外に移動した。

「……これって魔法陣とかいうのか?」
「ええ、まあそのようなものです」

真実の欠片も存在しない、純度100%の嘘であった。
書かれた円には何の意味もなく、全ては谷を闇に葬るための下準備に過ぎない。
安全圏にいるフーケは、円の中にいる谷に向って朗らかに喋りかけた。

「では、送還魔法を唱えます。絶対にその場を動かないで下さいね、失敗したら困りますから」
「ああ」

フーケは自分の杖を取り出し、ブツブツと魔法の詠唱をし始めた。
それは当然として、谷を地球に帰す魔法を唱えるためものではない。
詠唱を完成させると、フーケは谷が立っている場所の『地面』に向って杖を振った。

それは、まさに一瞬であった。フーケのメイジとしての腕前の高さを如実にあらわすかのような、
鮮やかな手口であったと言わざるを得ない。

フーケが杖を振った瞬間、突如谷の足もとの地面が隆起したのだ。
すぐさま谷が異変に気がつくが、時はすでに遅きを失していた。
隆起した地面が割れ、地面の奥底から凄まじいほどの質量を持った、巨大な腕の形をした土の塊が、
握りこぶしを作り、常軌を逸した速度で下から突き上げるように谷を撃ち上げた。
フーケは、そこらにある下手な城よりも大きい、巨大ゴーレムの腕だけを作りだし、
それを操り、持てる限りの力を込め、谷を殴り飛ばしたのだ。
加えて、さらに攻撃力を増すように、フーケはインパクトの瞬間、土の塊である握りこぶしを鉄に変えていた。
それは、まさに人間相手に向ける破壊力ではなかった。普通の人間ならば即死するほどであった。

ミス・ロングビルとして、勤勉な秘書の皮を被っていたフーケはその本性を露わにしたのだ。
フーケが高笑いと共に、空に向って嬉しげに叫んだ。

「あの世なら愛しのあのコときっと会えるわよ!!何十年後になるかわからないけどねっ!!感謝しなさい!
 ハーッハッハッハッハ!あんたのおかげで手に入った『破壊の杖』は大事にしといてあげる!」

その視線の先には、空向かって放たれた打ち上げ花火のように、空高く上昇する谷の姿があった。
猛烈な風が吹き荒れる嵐の日の風見鶏の如く、なす術なく、空中でぐるぐると体を回転させている。
谷は飛べるところの限界まで高く空を飛ぶと、次は地面に向って落下し始めた。

思わず耳を塞ぎたくなるような、何かが潰れるような鈍い音が辺りに響いた。
谷は身動き一つ見せずに、落ちる勢いに逆らわず地面に叩きつけられたのだ。
誰もがその光景を目にすれば谷の死を確信するだろう。
その所業をなしたフーケ自身もそうだった。自分のゴーレムに対して絶大なる自負があったのも理由にある。
今まで、様々な場面で敵を蹴散らし、あらゆる建造物を破壊し、活路を開いてきたのだ。
人間一人破壊できないはずがない、とフーケは考えていた。

谷が地面に落ちる瞬間を見ていたのはフーケだけではなかった。
それは、必死にこの惨劇を回避しようと駆けていたルイズとキュルケであった。
しかし一歩遅かった。二人が現場にたどり着いたときには、谷はすでに空に向って打ちあげられていたのだ。
ルイズが膝から地面に崩れ落ちる。ルイズとキュルケもいくら谷であっても、あれではひとたまりもないを考えていたのだ。
わなわなと肩を震わせ、ルイズが大粒の涙を流しながら呟いた。

「タニが……タニが死んじゃった……ぇぐっ、……ぅうっっわたしのせいよ。
 わたしっ、自分の使い魔を死なせちゃった。わたしなんかが呼び出したりなんかしたから……」

絶望の淵に突き落とされ、むせび泣くルイズの背にキュルケがそっと手を置いた。
そのキュルケの顔には明らかに憤怒の色が表れていた。下唇を血がにじむほど噛み、
キュルケの真っ赤な髪が燃えているかのように逆立ち揺らめいている。
遠くに小さく見えるフーケの姿が見える方角に目を据えて、キュルケはルイズの耳元で囁いた。

「ルイズ……!泣くのは後にしなさい……!タニタニの。タニの仇は誰が取るの!?
 ……あたしはやるわよ!!!あなたはどうするの!?そこでメソメソ泣いてるの!?」

キュルケの言葉でルイズはハッとした。そうだ、その通りだとルイズは思った。このままでは谷が浮かばれない。
すぐさま自分の杖を取り出し、力の限り握りしめた。杖を持つ手は小刻みに震えている。
膝に手をつき、力強く立ち上がる。涙を拭った眼には燃えあがる闘志が宿っていた。

タニ……!わたし勝てるかどうかわからないし、死ぬかもしれない……。
でも……!精一杯戦うから!お願い、空の上からでもいいから見守ってて!わたしに力を貸して!

谷の仇を討つ決意を固めたルイズとキュルケは、地面を力強く蹴りフーケの下に駆けた。


目的を全て達成したフーケは、満足げな表情を顔に浮かべていた。
フーケは心に余裕ができたためか、改めて谷について考えてみた。

別の世界から来たと意味不明なことを口走る使い魔。
めちゃくちゃなやり方とはいえ、メイジを一網打尽にし倒した使い魔。
そして、今まで誰も破ることができなかった宝物庫の扉を破壊した使い魔。

……おそらくまともに戦えば、勝敗はたゆたっていたであろうとフーケは結論付けた。
しかし、それはもう終わった話であるとフーケは考え、当の相手はすでに始末したのだからと安心しきっていた。
そして新たなる疑問が沸いた。
何故あれほどまでの馬鹿力が、あの使い魔に備わっていたのだろうかという疑問である。
フーケは顎に手を当て、谷のどこら辺にその可能性があるか考えた。
すると、案外簡単にその答えが出た。
あの嫌でも目につく白い仮面が怪しいと目星をつけたのだ。

もしかして、あの仮面、実はとんでもないマジックアイテムで、
アレをつけてるからこその馬鹿力だった……まあ、考えられるわね。
……ということは、ほっとく由はないわね。
盗賊が目の前のお宝をみすみす見逃すなんて真似はできるはずがないわ。

フーケは、意地の悪そうな笑みを浮かべた。そして仮面を拝借しようと、
地面に転がって、ピクリとも動かない谷に近づくため、歩を進めた。
だが、谷のところまで数歩という距離に差し掛かった時だった。
突然前触れもなく、血塗れの谷が弾かれたように地面から跳ね起きたのだ。

「っっっぬあっった!!?きゃあああああああああ゛!!!!」

色気を醸す大人の女性が、発するとは思えないほどに幼さを感じさせる、絹を裂くような悲鳴を上げたのはフーケであった。
死体と認識していたものが、いきなり起きあがったのだから驚いて当然。
心臓が口から飛び出してしまうほど、フーケは度肝を抜かれていた。
フーケは、その場に尻もちをつき、動けなくなってしまっていた。
全身の汗腺から汗が噴き出す。動悸が治まらない。

だが、谷は上体を起こしたのものの、それは一瞬の出来事であった。
次の瞬間には、糸が切れた操り人形のようにバタリと地面に倒れ、そのままピクリとも動かなくなった。

「っハァ!……ん……ぐっ。ハァハァ!ハァ……ハぁあ!お、驚かせるんじゃないわよ!まったく!」

肩で息をしていたフーケは、気を静めるために一度大きく深呼吸した。
落着きを取り戻すと、スカートについた汚れを手で払い、フーケは立ち上がって、倒れて動かない谷を見下ろした。
今度こそ死んだのだとフーケは安心していた。フーケの顔に安堵の笑みが零れる。
だがフーケは、このときにもっと深く考えるべきであった。
普通の人間ならば、鉄の塊になったゴーレムの拳で殴られた時点で、
その体はバラバラになって四散していはずだったと。
そして、殴られて死ぬのは当然のこと、谷は高層ビルの屋上に達する高さほどまで宙に飛ばされたのだ。
普通の人間ならば、殴られずとも、その高さから落とされただけで絶命するに違いない。
なのにもかかわらず、谷は人の形を保ち、そして一度起きあがろうとしたのだ。
フーケはその点を考慮し、行動するべきであった。

フーケは認めたくなかったのかもしれない。認めてしまえば恐怖の権化と相対しなければならないからだ。
そんなはずはないと、心の奥底で言い聞かせていた。
だが、危機をすぐさま感じ取り、逃げださなかったことのツケはすぐそこまでやってきていた。

「……っっテェ!!」

誰かの呻き声が聞こえた。その声を耳にしたフーケの顔が、みるみる内に蒼白になっていく。

「ゴホっ!!!ガハっ!!痛ってェ!!……ゴホっゴホ!!スゲェ痛っってェ!!」

谷が、のたうち回りながら苦しそうに胸を押さえて叫んでいたのだ。
痛いで済むはずがないじゃない!!と叫ぼうとした。だが言葉が口から出てこない。
パクパクと魚のように口を開け閉めさせているだけであった。
恐怖が、決壊した川の激流の如くフーケに襲いかかる。足が震えて動かない。

谷は地面に手をつき、よろめきながらも、おもむろに立ち上がった。
体中から流血し、血は止めどなく地面に滴っており、誰の目から見ても、とても無事とは言い難い有様であった。
しかし、谷は立ち上がったのだ。
苦しんでいる谷の表情が見えていたならば、フーケもここまで恐怖を感じなかったのかもしれない。
だが、谷の仮面は表情を覆い隠し、ひたすらに谷の不死身さを増長させる手助けをしている。

「あっ……あ」
「血が止まらねェ……!クソっ痛てェ!!ぐっ、コノヤロ……」

顔を上げた谷の目がフーケを捕えた。
仮面をつけた顔は、とてつもないほどの威圧感があった。
まさしくそれは鬼神の如く怒りを露わにしていた。
凄まじい力で握りつぶすかのように相手を威圧し、
そして壮絶なほどまでの畏怖を感じざるを得ない低さの声で、谷は言った。

「……テメェ、俺をダマしやがったな……!許さねェ!絶対許さねェ!期待させるだけさせやがって!!!」
「ひッ……!」

谷はもうすぐ島さんと会えるのだと、期待していたのだ。
その期待が裏切られたのだから、谷がフーケを許すはずがない。

谷は、おぼつかない足取りでフーケに向って歩き始めた。
フーケは、錯乱していた。その場から逃げ出すことさえ頭に浮かんでこなかった。
忙しなく辺りを見回し、どうにかして目の前の化け物に対抗する術を必死に探した。
慌てて、脇に抱えていた『破壊の杖』の存在を思い出し、
包んでいた布を、半ば破り捨てるようにして『破壊の杖』を取り出した。
盗み出す前から、『破壊の杖』と呼ばれているぐらいだから、何か対象物に破壊をもたらすのだろうと考えていた。
フーケは『破壊の杖』を、赤ん坊をあやすときに使う、玩具のガラガラのように、必死に上下に振るが、何も起きない。
とりあえず何でもいいから、それらしいことを叫びながら、ブンブンと振り回すが、それでも何も起きない。
本人は、ふざけているつもりは全くなく、真剣そのものであった。
しかし、フーケのその姿は、誰がどう見ても滑稽としか言いようがなかった。
フーケはどうやっても使えない『破壊の杖』を、悪態をつきながら八つ当たりするかのように地面に叩きつけた。

くそっ!!!何か……!!早くどうにかしないと殺される!!!

フーケは自分の人生の中で一番の焦りを覚えていた。
一歩一歩、谷はフーケにゆっくりと歩み寄る。そして確実に。
それは死神によって、身の丈以上もある鎌の刃を首に当てられているかのような感覚であった。
力も入れず、ただほんの少し刃を引くだけで、その者の命は断たれる。

フーケは自分がとんでもない勘違いをしていたことを実感した。
縋るように辺りを見回す。半ば諦めが心の中に占めていたが、とあるものを目にした瞬間、
突然目の前が明るくなった気がした。

「タニ……!生きてたの……!よかったっ……っ!」

フーケの目線の先には、谷の生存を目にし、驚き立ち尽くしているルイズが居たのだ。
使い魔の主人であるルイズ。学院の秘書であったフーケはそれを知っていた。
これしかない、と切羽詰まったフーケはルイズに向って襲いかかる様にして迫った。
谷の姿にに目を奪われていたルイズは、フーケの接近に気が付けなかった。
ルイズの首に手が回され、身動きが取れないように、フーケによって拘束された。
必死さがにじみ出るほど焦っているフーケは、歩み寄る谷に向って叫んだ。

「そこのバケモノ!!この主人の命が惜しかったら近寄るんじゃないよ!!!」

「え?」
「……え?」

素っ頓狂な声を上げたのはルイズと近くまで来ていたキュルケであった。
先ほどまで怒気を漲らせ、フーケを打倒せんとしていた者たちとは思えないほど、間の抜けた声であった。
張りつめた空気が一瞬にして弛んだ。
どうにも、この状況が呑み込めないフーケはルイズに向って言った。

「……は?何この反応?何か私がおかしいこと言った!?あんたも!自分の命が惜しかったら、
 あの使い魔に、私への攻撃を止めるように命令するのよ!早くなさい!!」

ルイズとキュルケは思わず笑いそうになった。
フーケの焦り様を見たルイズとキュルケは、すでに、この場の危機は去ってしまったのだと理解した。
まるで、朝食をテーブルの上に並べ終えた母親が、
部屋で寝ている子供に呼びかけるような気楽さでルイズは谷に向って叫んだ。

「タニー!わたしの命令聞いてくれるーー?」

歩くことをやめない谷は即答した。

「聞かねェ!!!」

ルイズはニヤニヤしたまま続けた。

「タニー!わたしの命が惜しい?」

再び谷は即答した。

「惜しくねェ!!!」

ここまで来ると逆に清々しいと感じてしまうルイズは谷に向ってにこやかに尋ねた。

「タニー!わたしの名前、なんていうか知ってるかしら?」

「知らねェ!!!!」

出会ってから三日目になるが、未だにルイズの名前すら知らない谷であった。
谷は島さん以外の女性の名前を呼んだことがない。
当然、ルイズの名前など興味の範囲外である。
そのやり取りを見ていたフーケはとてもではないが、その関係が信じられなかった。驚き入った声を上げる。

「なっ……そんなバカな!使い魔は主人を守るものでしょう!?
 なのに!主人に、まるで眼中にないってどういうことよ!!!」

フーケは理解した。今自分の腕のなかに居る人間は、迫りくる化け物を止めるための人質にならない。
危機を逃れる術が断たれ、絶望に打ちのめされたフーケは、よろめいて倒れそうになった。
ルイズは誇ることでもないし、逆にメイジであるならば恥入るべきことであったのにもかかわらず、
胸を張って、自慢話をしたかのようにホクホクとした心境であった。
これこそが谷なのだと、こうでなければ谷ではないと、ルイズは確信する。

「どう?タニにとってわたしは人質としての価値はないの。
 諦めて、思う存分タニに殴り飛ばされなさい!土くれのフーケ!」

高揚感を胸に、高らかにルイズはそう言った。

後は谷がフーケを殴り飛ばすの待つだけであるとルイズは思っていた。
だが、次の谷の発言は、上機嫌のルイズの心情を一変させるほど、驚愕する内容であった。
谷が首に血管を浮き上がらせ、目一杯の力を込めて叫んだ。

「許さねェ!!!ダマしやがって、絶対に許さねェ!!!オマエ『ら』まとめてぶっ飛ばしてやるからな!!!」

谷の言葉に、ルイズは目を見開いて驚いた。
自分がフーケと一緒くたにされていると気がついたのだ。

「ちょ、ちょちょちょっと!!!なんでわたしまで含まれてんのよ!?わたしはあんたをダマしてないわよ!」

ルイズが吠えて弁明するが、谷の耳には届かない。
谷は無言のまま、ズンズンと足音を鳴らしながら、ルイズとフーケまでの距離を詰めてくる。
このままでは自分もろとも殴り飛ばされてしまう。なんとしてでも回避しなければ。
パニックになったルイズはフーケのに目をやった。しかしフーケは凍りついて固まっていた。
縋るように、この場で唯一正気であろうキュルケに向ってルイズは叫んだ。

「キュルケーーーーーー!!!」

呼ばれたキュルケは何故か地面に体育座りをして、ルイズたちの様子を眺めていた。
キュルケは何気ない態度で、ルイズに応える。

「助けたくっても無理なのよ。あたしの魔法じゃあ、あなたごと燃やしちゃうもの。他に当たってくれる?」
「っな!このっキュルケーー!!なに傍観決め込んでるのよ!!そこをなんとかして助けなさいよ!!」

キュルケは笑顔でルイズに向ってヒラヒラと、手を振った。それを見たルイズは、頭の血管が切れるかと思った。
谷を止められるわけがないし、自分が標的にされても困る。
キュルケには見ているだけしかできなかったのだった。とりあえず、死にはしないだろうと思っていた。
凍りついて固まっていたフーケが、消え入りそうな声で言った。

「あ、あんなのに殴られでもしたら、絶対死ぬわ……!そ、そんなの嫌よ」
「そんなのわたしだって同じよ!!!バカじゃないの!?離しなさいよ!なんでわたしがタニに殴られなきゃいけないのよ!?」
「なっ!?元はと言えばあんたが、ちゃんと自分の使い魔を飼いならしてないせいでしょ!?」
「はあ!?何言ってんの!?あんたがタニを騙して利用したのが全ての原因でしょ!?」

ルイズとフーケとの間で醜い言い争いが行われていた。
だが、本人たちの意思とは無関係に、最大の危機は、そこまで近づいていた。

谷は大きく体を捻り、存分に恨みを込めた拳を後ろに向って振りかぶった。
ギリギリと、不吉な音を奏でている。

その様子を、眼前まで迫るまで気付かなかったルイズとフーケは、
全身の血の気が凄まじい速度で引いていった。
この状況を打開するために、慌ててルイズが叫んだ。

「ちょ、ちょっとあんた!『フライ』で空を飛べるんでしょ!?飛んで逃げるのよ!」

ルイズに言われて、フーケは自分が魔法を使えることを思い出した。
なんで今の今まで忘れていたのだろうと、自己嫌悪に陥りそうになった。だが今はそんな暇はない。
フーケはルイズを放りだし、すぐさま魔法を唱え、杖を振った。
次の瞬間、ふわりとフーケの足が地面から離れた。
これで、凶悪なまでの危機から足抜けができるのだと、安心感がフーケの胸の奥で広がっていく。
しかし、その安堵もつかのまであった。
飛びあがろうとしたフーケの足首を、ルイズががっしりと掴んだのだ。
必死の形相のルイズが叫んだ。

「ちょっと何で一人だけ逃げるのよ!わたしも一緒に連れていきなさいよ!」
「いやっ何言ってるのよ!あんた敵でしょ!?ていうか、いきなり掴まれたら……!バランスが……!あっ!?」

フーケは突然足首を掴まれたため、重心がずれ、バランスを失った。
ルイズは体が引っ張られ、倒れそうになっても掴んだ足首を決して離さなかった。
ここに残されては、谷に殴り飛ばされるだけであるから、ルイズも必死なのだった。
フーケは、空高く飛びあがり、この場から逃亡することは叶わなかった。フーケの体は旋回して着陸する飛行機のごとく、
ルイズを軸にして螺旋を描きながら落下し、最後には地面に叩き付けられるであろう状況に陥った。
だが、地面に衝突することはなかった。
なぜなら、落下の軌道上に、込められるだけの力を拳に込め、振りかぶっている谷が立っていたからである。
まさしくそれは偶然の産物であった、しかしそれは最初で最後のルイズと谷の共同作業と言えた。

谷は、自分に向って落ちてくるフーケに向って思いっきり拳を振りぬいた。
フーケは、自分の視界が谷の拳で埋まるところまで意識があった。

「いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

その日、盗賊土くれのフーケは、夜空に光輝く星たちの仲間入りを果たした。



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