あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

谷まゼロ-08


谷が巻き起こした大騒動から一夜明けた。
ルイズと谷は、早朝からずっと誰もいない教室に居る。
学院も休日となる虚無の曜日でもないのに、この日の学院は授業を執り行っていなかった。
原因は、肝心の生徒たちの治療がまだ完全に済んでいないからである。
実際は、昨日のうちにほとんど処置が済んだようなものであったが、大事をとって今日一日休校となったのだ。
どこか後ろめたさを感じざるを得ない責任の所在を、心のなかでひた隠しにしながら、
ルイズは谷を元の世界に帰す方法を探すことに一日を費やそうと決めていた。

今も、使い魔関連の本を学院中からかき集め、教室に備え付けられている長机に山のように積み、
少しづつ切り崩すかのように、本に書かれている内容を漁っていた。
何か解決の糸口が見つかればと思ってのことである。
だが、どこをどう読んでも、求めている答えらしきものは皆無であった。
ルイズは焦りを覚えていた。
それは谷と、元の世界に帰す方法を見つけ出すと約束したからである。
隣で、谷がルイズを凝視していることも、ルイズの焦燥感を増長させている。

谷は、この世界の文字を読むことが出来ない。
だから当然として、書物での調査となると、何もできないのが現状である。
何もできないことに対してではあるが、谷も内心穏やかではなかった。

「ねぇ……そうじっと見られてると調べ難いんだけど」

そう言われると、谷はルイズから視線を外し机に目を落とした。
どこか落ち込んでいるようにも見えた。いや、実際落ち込んでいるのだとルイズわかった。

谷は、自分の無力さに、どうしようもないほどのもどかしさを感じていたのだ。
考えれば考えるほど焦りやイラ立ちが膨らんでいく、
気を紛らわすためでもあったが、谷は今自分が何かしていないと暴走してしまうような感覚に襲われ、
そして何もかも全てを壊してしまいたくなるような、そんな衝動とひたすら戦っていた。

こっちの本は文字が違ってオレには読めねェし……ここに居ても俺に出来ることねェじゃねえかっ!
っクソっ!!!!クソっ!ああクソっ!オレは、オレは!!!島さん!島さんに会いたいっ……!!

「っうああああああああああ!!!島さあああああああああああああああん!!」

「ちょっと!!あっ!?あ、暴れないで!!机が割れるわよっ!っていうか割れた!!」

駄々をこねる子供の如く、握りこぶしを机に何度も叩きつけた。
普通の人間であれば、騒音をまき散らすだけで済んだあったはずだが、
谷にかかれば、重厚な拵えの机でもあっても、まるでふ菓子を砕くかのように容易に粉砕される。
一通り目の前のあるものを全て壊すと、ぐったりと肩を落とし谷はうなだれた。
相変わらずの馬鹿馬鹿力であった。
ここの教室に来る前も、鉄の柵をまるで飴細工のように、ぐにゃぐにゃに曲げていた。
どこからこんな力が沸いているのかルイズには不思議であった。

このことに関連したのかは不明であるが、ふとルイズはあることに気がついた。
谷と会ってから三日目ではあるが、とあることを谷に尋ねるのを失念していた。
些細なことではあったが、思い返せば最初に聞くであろうことである。
今まで、何故そのことを聞かなかったか、ルイズ自身もよくわからない。
だが、一度気が付いてしまえば、興味心が後押しをして、聞かずにはいられないほどになってしまっていた。

何故谷は仮面をつけているのか?
それは谷と接する機会を持った人間が、抱いて至極当然の疑問であった。

だがルイズには、これについて本人に聞いていいのかどうかわからない。
もしかしたら、とんでもない理由があるのかもしれないし、
やむ負えない理由であるのならば、聞くこと自体が禁忌のようにルイズには思えた。
仮面の下の素顔についても気になっていた。どんな顔をしているのか、考えれば考えるほど興味が沸く。
もしかしてカッコよかったりしたらなどと、好き勝手に想像を膨らませていた。
気になって作業に集中できないルイズは思い切って谷に尋ねてみた。

「タニって……なんで仮面をつけてるの?」

それは谷と相対した人間全てが、投げかけるであろう質問であった。
だが、谷が居た世界では、それを聞く者は少なかった。というよりも何故か一人も居なかった。
周りの人間は谷を変な人間だと思っていたし、
本人に聞いてみたところで、答える筈がないとわかっているからかもしれない。
谷は、基本的に他人に興味を持てない。自分に害なす相手であれば排除するのみである。
勿論例外として、島さんが中心に存在する。
だが、それを除けば、誰かの意のままに動くということはしない谷であった。

だから、極々当たり前のことのように谷は沈黙を貫き通した。
ルイズはため息をついた。元々答えるような奴ではないと思った上での質問であったが、
気になる度合いを考えれば、少し落胆を感じざるを得なかった。
ルイズは半ば諦め気分で、本を読む作業に戻った。

本に書かれている使い魔についての情報を調べるほど、今の谷との関係が異質であることが浮き彫りになっていく。
何故なら、ルイズは谷と『コントラクト・サーヴァント』を未だ行っていないからだ。
契約を行っていないということは、呼び出しただけに過ぎず、使い魔と呼んでいいのかすら定かではない関係である。
だが、ルイズは今更谷と契約しようという気は、さらさら持ち合わせていなかった。
それは、谷が自分の使い魔として不満があるからというわけではない、
もし、契約が出来てしまったら……それは谷の首に取り返しのつかない鎖が繋がれ、
一生、谷を自分に縛って捕えてしまう気がしたのだった。
ルイズは本当に心から、谷を元の世界に送り返してあげたいと考えていた。

ルイズは、谷が情緒不安定になるほど島さんに固執していることに対して、谷を女々しいとは思わなかった。
ギーシュとの決闘で、谷の中での島さんの存在の大きさは嫌というほどルイズは理解できているからだ。

だからこそよ……シマサンのいる世界にタニを帰してあげなきゃ。

胸の奥にさらなる決意を刻み、ルイズは再び本を読み漁る作業に戻る。
今日は休みで誰も教室に来ないはずであった。
だからこそルイズは、この場所で調べ物をしようと思ったのだった。
誰かが谷にちょっかいを出して、また大騒ぎになったりでもしたら大変だからである。
だが、思わぬ訪問者が現れた。その訪問者はコツコツと靴音を鳴らしながらルイズと谷に近づいた。
ルイズはその靴音で、誰かが自分たちに近づいて来ていることを悟った。
振り向いたルイズは、訪問者の顔を確かめた。
その視線の先にいたのはミス・ロングビルであった。

「あなたは、確か学院長の秘書の……」
「ロングビルです。ミス・ヴァリエール」

ロングビルは、礼儀正しくルイズに向って頭を下げた。
ルイズも軽く頭を下げ応じたものの、何故ロングビルが自分のところへやってきたのか皆目見当がつかなかった。

「なにか用ですか?」
「ええ、そうなのです。お話したいことがありまして、少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

ルイズは首を傾げたが、肯定の意を口にした。
だが、ロングビルの視線はルイズではなく谷に向けられていた。

「え?用事っていうのはタニになんですか?」
「ええ、そうです。よろしかったらでいいのですが……」

ルイズは谷をチラリと見た。
何故、秘書であるミス・ロングビルが谷に用があるのかまったくわからない、
もしかしたら、谷がしでかした件について何かしらの追及があるのではとルイズは考えた。
しかしどんな理由であるにしろ、谷が素直に人の話を聞くとは思えなかった。

「すこし、教室の外までタニさんをお借りしてもよろしいでしょうか?」
「わたしは、いいですけど……その」

ルイズは谷をチラリと見た。
自分がいくら言い聞かせても、従わないはずだとルイズは思っていた。
だがそんなルイズの予想を反し、谷は無言で席を立って、教室の出口に向って行った。
去り際にルイズに軽く会釈してロングビルは谷の後を追った。
二人の姿が完全に見えなくなると、ルイズは開かれた本に目を戻した。
だが、胸がもやもやしていて、調べ物どころではなかった。ルイズは、ぶっきらぼうに本を勢いよく閉じた。
どこか小気味良い音が誰もいない教室に響く。

なんなのよ……アイツ。なんでついて行っちゃったのよ。

頬を膨らませて、膨れ面になったルイズは機嫌を損ねていた。

しばらくして谷は何事もなくルイズの下に帰ってきた。
だが、ルイズがロングビルと何を話してきたのかを聞いても谷は答えなかった。


そして谷とロングビルの密談後、何事も進展なく夜を迎えた。ルイズと谷は自室に戻って寝床に入っていた。
しかし異変はそこで起きた。谷はルイズが寝静まったのを確認すると、そろりとルイズの部屋から出て行ったのだ。
ベッドに横になり、寝たふりをしていたルイズが頭から被っていた毛布を払いのけ、起き上った。
訝しげにルイズが呟く。

「こんな夜遅くにどこに行ったのよ……」
「そうねぇ、これは怪しいわ」

闇の中から突然、声が響いて来たことにルイズは飛び上るほど驚いた。
目をこすり、よくよく見てみれば闇の中に赤々としたシルエットが浮かびあがっていた。

「キ、キュルケ……!?あんた何してんのよ?なんでここにいるの!?」
「いやね。ちょっとタニタニに夜這いでもしかけようと思ってね……まあジョーダンよ冗談、そんな怖い顔しないでくれる?」

ジロリと疑いの目を自分に向けてくるルイズを見ると、からかう気は失せてしまった。
キュルケは未だ開いたままの部屋の大穴を使ってルイズの部屋に入り込んだのだ。
ヴェストリの広場の修繕が優先されているため、ルイズの部屋の壁の修理は後回しになったのだった。
ルイズはキュルケの姿を見た。もう本来の就寝時間をとうに過ぎているというのに、
キュルケは学生服を身に纏っている。

「……何をしようっていうの?」
「決まってるじゃない、タニタニを追うのよ。あなたも気になるでしょ」

キュルケの言う通り、谷が何のためにこんな夜更けに出かけたのか気にはなる。
ルイズは跳ねるようにベッドから降り、急いで着替えて谷の後を追うべく、キュルケと伴って部屋を後にした。


谷は闇に包まれた学院の廊下を静かに歩いていた。
すると、柱の陰から谷の到来を待ちわびていたかのように姿を現した人物がいた。
日中、谷と話をしたロングビルであった。

遠くから、谷とロングビルが落ち合うその瞬間を、谷に気づかれない間隔を保ちながら、
尾行していたルイズとキュルケは目にした。意外な組み合わせにキュルケが驚きの声を上げた。

「え……?あれって学院長の秘書じゃないの?なんだってタニタニとこんな密会みたいなことしてるわけ?
 だってタニタニはあたしたち以外に知り合いなんていないはずじゃなかったかしら?」

キュルケの疑問にルイズが答えた。
「……昼間に、ミス・ロングビルは、タニに用事があるとかなんかで、
 わたし抜きで、タニと何か話をしたのよ。多分その時……」

「あらん。もしかしてこれってタニタニがあの女の誘惑に負けて、真夜中に目を盗んでの逢い引きとかじゃないの?
 そして秘書と使い魔の垣根を越えて、とろけるような甘いひと時を共に恋のランデブーと決めこもうと……」

そこまで言うとキュルケはしかめ面になり、立てた人差し指をクルクルと回し始めた。
自分の言っていることがに、現実味の欠片も感じられず、喋ってるのが馬鹿馬鹿しくなったのだった。

「……まあそれは、絶対ないわね」
「……ないわよ、何言ってんのよバカじゃないの?」

嫉妬深く疑り深いルイズでさえ断言できることであった。
つまらないわね、とキュルケは呟いた。
谷が島さん以外の他の女に対して特別な感情を持つ筈がなかった。
そのことをルイズとキュルケは嫌というほど思い知っていた。
だからこそ、次の疑問にぶつかった。
何故、谷はロングビルと一緒にいるのだろうか?
おそらく、ロングビルが谷を呼び出したであろうことは容易に想像できる。
だとしたならば、問題は、なぜその必要があったかである。
ルイズとキュルケは共に考えを巡らせ、答えを手繰り寄せようとしていた。

「タニタニが動いてるってことは、何かシマサンに関係してるってことよねえ?」
「ええ……っていうかそれ以外動かないわ、絶対に」
「だったらもしかして、シマサンを餌にして呼び出したってことになるのかしら?」
「ミス・ロングビルがシマサンのことを知ってるとは思えないけど……いえ、タニが勝手に口走った可能性はあるわね」
「タニタニはすぐにシマサン、シマサンだしねえ。少し誘導尋問すれば、とりあえずタニとシマサンに関係はわかるはずよね」

谷の求めているものを餌にしてロングビルが谷を動かしたことは予想がついた。
そしてそれは、どう考えても相手を出し抜いて利用するための方法であった。
つまりロングビルは、谷を利用して何かをしようとしているのだとルイズとキュルケは理解できた。

「なんかいい予感はしないんだけど……今すぐ出ていって止めるべきよ!」
「待ちなさいルイズ。そうしたら真相は闇の中よ。タニタニなら大丈夫だと思うから、しばらく黙って見てましょうよ」

そう言うキュルケの意見に対して渋々ではあるがルイズは同意した。
ルイズとキュルケは、本塔の廊下を、密やかに並んで歩く谷とロングビルを追った。


「おいっ!本当に元の世界に帰れる道具があるんだろうなっ」
「ええ、勿論です。しかしそのためには、あなたのお力添えが必要なのです」

谷とロングビルの間でそのような会話がなされたのは昼間のことであった。
ロングビルこと、大怪盗『土くれ』のフーケは、谷を利用し『破壊の杖』を盗み出すために、谷に対して探りを入れたのだった。
その時は、まずは少しの情報が手に入ればいいというぐらいの計画であったが、
フーケにとっては嬉しい誤算が起きた。
何か困ってる様子なので自分に何か手伝えることがあったら言って欲しい、と谷に言葉を投げかけたところ、
谷が自分の境遇に関して何から何まで話したのであった。
話の内容は、フーケにとっては絵空事に聞こえた。
別の世界から来ただの、元の世界に帰りたいのでその方法を探しているなど、
そんな話は、この世界の住人であるフーケの理解の範疇を超えていた。だが、言ってる内容が意味不明だとしても、
これは使えると判断したフーケは、谷の眼前に餌を吊るした。
フーケは宝物庫に眠る宝が、もしかして谷の願いを叶えるものかもしれないと嘘をついたのだ。
何としてでも元の世界に帰りたい谷は、フーケが吊るした嘘にすぐさま飛びついた。
今現在、谷自身が、元の世界に戻るために出来ることが何もなく、焦燥感を抱いていたことも要因としてはあっただろう。
ともかくも、谷はフーケであるロングビルの術中にはまったのだった。

そして今、タニは学院に居る皆が寝静まる深夜、フーケに連れられて宝物庫に訪れたのであった。

「ここか?」
「ええ、そうです。ですが……扉の鍵が紛失したせいで誰も中に入ることができなくなっております。
 固定化の魔法がかかっていますので、並大抵の魔法は通用しません。可能性があるとしたら強い物理攻撃での破壊です。
 このことは、学院長に事情を話して許可は取ってあります。ですので壊してしまっても何も問題ありません。
 もともと、開かずになってしまってから中の物が取り出せなくなって困っていましたから気になさらずにどうぞ」

鍵が紛失したということも、学院長に許可を取っているなどということも、とんでもない大嘘であった。
そもそも、公認ならばこんな深夜に人目を盗んでやるわけがないじゃないの、とフーケは内心谷を嘲笑っていた。
フーケは谷に促すように、すっと手の平を上に向け、見るからに頑丈そうな宝物庫の扉に向って手を差しだした。
半ば怪訝そうな視線を谷はロングビルに送ったが、可能性という餌の前にその疑いは雲散霧消した。
拳を大きく振りかぶった。谷の想像を遥かに超えた馬鹿力の出番であった。
谷は、いつもコンクリートの壁をブチ破る要領で、拳を放った。
劈くような轟音が辺りに響く。谷の拳と接触した宝物庫の扉が奏でる衝撃音であった。
ビリビリと空気まで震えるほど、辺り一帯が谷の拳が撃ちつけられた衝撃で揺れた。
それほどの破壊力を持った拳であった。
だが、いつものように、対象が粉々になっているというわけではなかった。
目の前の扉は、へこむどころか、傷一つ付いていなかった。

それを見たロングビルはため息をついた。顔には失望の色が表れている。

なんだい……この程度なのね。まあ学院の中で一番固いであろう宝物庫が相手じゃ無理もない話かしら。
学院の壁を破ったからって、到底無理だったってことね。よくよく考えてみれば当然よね、私何を考えてたのかしら……。
元から可能性なんて、これっぽっちも……。……ん?

「……っやがって」

「へ?」

「壁のくせに!ナメたまね しやがってェ!!!」

突然壁に対して、怒りだした谷に、ロングビルの思考は疑問符に埋め尽くされた。
そして谷が次に何をするのか見当もつかなかった。
谷は、一度勢いをつけるため一歩大きく後ろに退いた。
今度は拳で殴るためではなく、蹴りをを放とうと足を持ち上げた。
ロングビル顔には、自嘲の笑みが表れていた。
いくら自慢の拳が歯が立たなかったからといって、蹴りでどうにかなるはずがないと決めつけていたのだった。
しかし、そんなことは谷とって、何も関係なかった。自分の人生の光を取り戻すために彼は必死なのだ。
髪を逆立ってしまうほど勢いよく体を捻り、凄まじい体躯をもってして、全力全開の蹴りは放たれた。

再び響く轟音。しかし先ほどとは比較にならない。
まさしく破壊が奏でる音が、視界が揺らぐほどの振動とともに、辺りを駆け抜ける。

谷の蹴りによって一変した光景は壮観であった。扉は見る影もなくバラバラに砕け散った。
谷を自分の企みのために利用したフーケでさえ感嘆の声を思わず呟いてしまったほどである。

「……す、凄いわ……私の城でも壊せる巨大ゴーレムでも無理だって思ってた宝物庫を破るなんて……!」

いったい何者かしら……?この仮面男、普通だとは思ってなかったけど、これほどだなんて……!

ありえない光景に意識も目も奪われていたフーケであった。驚きのあまり、うっかり素の性格が言葉に表れていた。
だが、すぐに本来の目的を思い出し、頭を振って気を取り直した。
谷が急かすように、宝物庫内を指さしてフーケに言った。

「おい、開いたぞ。早く持ってこい」

声をかけられて、ロングビルは谷が居たことを思い出した。

「……え、ええ。わかりました。タニさんはこちらでお待ち下さい。すぐに持って参りますので」

そう言ってロングビルはそそくさと、今まで堅固に宝を守ってきたであろう扉の残骸を飛び越え、宝物庫の中に入っていった。
宝物庫内は数々の宝物が所狭しと並べられていた。しかしロングビルの狙いは『破壊の杖』ただ一つ。
壁にかけられている『破壊の杖』はどう見ても魔法の杖に見えなかった。
見たことがないような金属、そして作りをしていた。だがロングビルにとっては興味はなかった。
価値のある宝であればいいのだった。
ロングビルは、『破壊の杖』を壁から取り外し、近くにある布掴み取って覆い隠して脇に抱えた。

後ろから様子を見にきた谷が近付いてきた。
ニッコリと笑顔を谷に向けロングビルは言った。

「見つかりましたよ。しかしもっと広い所でないと、これは使えないのです。私について来て下さい」

谷は黙ってうなづいた。どこか逸る気持ちを抑えているかのようであった。
宝物庫から去ろうと、一歩踏み出した時に、ふと思い出したように、
ロングビルは、『破壊の杖』がかけられていた壁に目をやった。

そして今は何もない壁に向って杖を振った。すると、壁に文字が刻まれた。
ハルケギニアの文字がわからない谷は、書かれた内容が読めなかった。
谷は文字に向って指をさしてロングビルに尋ねた。

「なんだこれ?」
「ええ、これはですね……」

まるで聖母を思わせるような柔らかな笑みを顔に浮かべ、ロングビルは言った。

「ここから物を持ち出すときには、こうやって記録をするのが学院の規則なのです。管理のためですね」

とりあえず聞いたものの、谷とってはどうでも良いことであった。

「本当に、それでオレは元の世界に戻れるんだろうな」
「ええ、それは間違いなく。どうか信頼なさってください」
「オレはオマエを疑い始めてるんだからな」
「フフフ……心配性ですね、でも大丈夫ですわよ。……ちゃんと『送ってあげます』から」


谷とフーケが宝物庫を去ってから幾ばくか時を置いてルイズとキュルケがやってきた。
追跡がバレないように、出来る限り遠くにいたため二人が宝物庫で何をしていたかわからなかった。
だが、二度にわたる轟音は確かに二人の耳に届いた。
そしてそれが、谷によって為されたことは容易に予想がついた。
最初は、ちょっとした野次馬根性ほどの興味が行動の発端であったが、途轍もないことに起こっているのではないかと、
嫌な予感が再び二人の脳裏をよぎる。
そしてその予感は、宝物庫の扉の前に足を運んだ瞬間、的中してしまったことを二人に知らせた。
キュルケが口をポカンと開け、信じられない光景、破壊された宝物庫の入口に向って言葉を漏らした。

「ちょっと!さっきの凄い音って宝物庫の扉を破る音だったの!?ウソでしょ!?いくらタニタニだからって……!」

有り得ない。二人の感想は一致した。
学院の宝物庫は、他の場所の壁とは異なり、対盗賊用に特に丈夫に作られている。
そして魔法の類は、並のメイジが束になっても効かないはずであった。
ルイズとキュルケは谷が宝物庫の扉を破ったことを理解した。

呆然と立ち尽くしているキュルケの横を通り過ぎ、ルイズが宝物庫の中に歩を進めた。
勿論、学院の生徒であるルイズが宝物庫に入るのは初めてのことである。
だから、全てならまだしも、たったひとつ宝物庫内から何か盗まれていたとしても、ルイズはそれを知ることはできない。
だが、暗闇の中でもはっきりとわかる、壁に書かれた文字を見つけたルイズの目は、驚きによって見開かれた。

「ち、ちょっとこれ!え?……これってもしかして!!キュルケ来て!早く!」

扉の壊れ具合に意識を奪われていたキュルケは、ルイズの呼び声に尋常ではない焦りが混じっているのを感じた。
すぐさま宝物庫内のルイズの下に向った。ルイズの視線は宝物庫の壁に釘付けとなっていた。
何を見ているのかしらと、抱いて当然の疑問からキュルケは壁に目をやった。
目線の先の壁には、はっきりと、こう文字が刻まれていた。

『破壊の杖、確かに了承しました。土くれのフーケ』

その文字を目にしたキュルケは驚愕した。

「こ、これって!犯行声明じゃないの!?しかも土くれのフーケっていったら
 確かこの国を、騒がしてる大怪盗じゃないの!?これってもしかして!!」

もしかしてではなく、それもう確実と言っていいほどの事実であった。
今夜、学院の宝物庫に盗賊のフーケが押し入り、宝物を掻っ攫っていった事実。
そして、谷がその犯行に利用されたであろうことも。

「つまり……ミス・ロングビルが土くれのフーケだっていうの!?そんな!」
「フーケは、タニのバカ力を利用して宝物庫を壊させたのよ……それ以外考えられないわ」
「でも……二人はどこ行ったの!?」

キュルケは爪を噛んで、苦悶の表情で呟いた。

「っつ……目的は達成したっていうことは……次は事実を知る者の後始末じゃない!」

後始末。それは谷のことであった。
『破壊の杖』を手に入れたフーケにとって、谷さえ居なくなれば誰も真相を知ることができないと思っていた。
そして、その為には谷の死が絶対不可欠になる。
フーケは今まさに谷を、自らが用意した処刑場に連れて行こうとしている真っ最中であった。
谷に危機が迫っているのは明らかだった。
衝撃の事実に焦り覚えながらも、気を落ち着かせるようにルイズがブツブツと呟き始めた。

「でも、でも……タニならきっと……きっと大丈夫、だ、大丈夫よ」

それは今起こっている現実から目を逸らそうとする行為かもしれなかった。
そんなルイズの行為に、じれったさを感じざるをえないキュルケが、ルイズの胸倉を掴んで迫った。

「秘書のロングビルだったフーケは、昨日のタニとギーシュとの決闘のことも知ってるのよ!?
 だったら、当然そのタニをどうにかする手段は考えてるはずよ!!それがどういうことかわかってるの!?」

「そ、そんな……そんなこと言われても、わたしどうすればいいの?」
「追いかけてフーケを止めるのよ!それしかないでしょう!?」

ルイズには甚だ疑問に思っていることがあった。
魔法を使えない自分がどうやって、止めることができるのだろうかと。
だが、一つだけはっきりしていることがあった。

タニを見捨てるわけにはいかないわ……だってタニはわたしの使い魔だもの。

使い魔を見捨てるメイジはメイジではない。
胸に秘めた確固たる信条がルイズを奮い立たせた。

ルイズとキュルケは、夜の学院を力の限り駆けた。



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