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狂蛇の使い魔-18


第十八話



自室のベッドで寝息をたてていた浅倉は、部屋の入り口から近づいてくる、何者かの足音で目を覚ました。
音のする方へと目を向けると、そこには夕日に照らされたギーシュが立っていた。

ギーシュはベッドの上で寝ている浅倉を、いつになく真剣な目付きで見下ろしながら、口を開いた。

「聞いたよ。君がルイズを酷い目に遭わせたってね」
「……それがどうした?」

そんなことか、といった表情で、浅倉が再び目を閉じる。

「僕は薔薇だ。全ての女性を等しく愛するとともに、全ての女性を守る義務がある」

ギーシュが懐に手をのばす。
そして薔薇の造花を抜くと、その先を浅倉に向けた。

「もし、君がこれ以上、彼女や周りの女性たちを傷つけるのであれば……僕は君を許さない」

浅倉はハッと笑うと、ベッドから起き上がり、ギーシュを睨み付けた。

「今まで俺に散々にやられてきたのはどこのどいつだ? よくそんな口がきけるな」
「……確かに、僕は君に敵わなかった。でも、僕より力のない女性たちが君に虐げられるのを見過ごしてはおけない!」

確固たる信念を宿した目で、負けじと浅倉を睨み返しながら、ギーシュが言い放った。


そのとき。
突然轟音が鳴り響くと、部屋全体が揺れた。
立っていたギーシュはバランスを崩し、床にしりもちをつく。

揺れが収まると、ギーシュは立ち上がりながら、悪態をついた。

「だー! もう! 人がせっかく格好よくキメてるっていうのに、なんなんだ!!」
「おやおや、邪魔して悪かったわね」

誰もいないはずの方向から、女の声で返事が返ってきた。

「うぇ!? だ、誰だ!」

二人が声のした方を振り向くと、開けっ放しの窓から、一人の緑髪の女性の姿が見えた。
その真横には、巨大なゴーレムの顔があった。

「フーケ!? 『土くれ』のフーケか!?」
捕まったはずでは、とギーシュが顔をしかめる。

「いつかの人形使いか……。お前の相手をしてもつまらん」
「誰もあんたの都合なんて聞いちゃいないよ! そんなに嫌なら、おとなしく潰されちまいな!!」

ゴーレムが拳を振り上げ、部屋に向かって叩きつけた。
窓や窓の周りの壁が吹き飛び、部屋の中がめちゃくちゃになる。

「面倒なやつだ……。おい、あの人形の顔を鉄に変えろ」

横で頭を抑えながらうずくまっているギーシュに、浅倉は上から指図した。


「き、君はこんな時に、なにを言って……」
「いいから早くしろ! 俺をイラつかせるな!」

上から怒鳴りつけられ、ギーシュは渋々と、部屋の外にいるゴーレムに向けて杖を振った。

薔薇の杖から花びらが舞い上がり、ゴーレムの顔を包む。
すると、土でできていたその顔が、錬金の魔法によって徐々に鉄へと変化していった。

「気でも狂ったのかしら? こんなことして、なにをするつもり?」

鉄で覆われたゴーレムの顔を見て、フーケはその意味不明な行動を嘲り笑った。
ゴーレムの顔が、まるで鏡のようにフーケの姿を映し出している。

「フン、馬鹿が……」

浅倉が、フーケにむかって不気味に微笑んだ。
笑っていたフーケの表情が、一瞬で曇る。

「何がおかし……っ!?」

フーケが浅倉に気をとられた、その瞬間。
鉄でできたゴーレムの顔から、突如紫色の大蛇が現れた。

「消えろ」

浅倉の言葉とともに、紫の大蛇は上下に鋭い牙のはえた口を大きく開くと、驚きで目を丸くしているフーケにむかって飛びかかった。



フーケが最後に見たものは、大蛇の口の中に広がる、一筋の光さえも入り込まないほどに深い暗闇であった。



術者を失ったゴーレムが元の土くれに戻り、ぼろぼろと崩れ落ちていく。
目の前の敵がいなくなったのを確認すると、浅倉は踵を返し、部屋の扉に向かって歩きだした。

「な、なんだ……? 一体なにがどうなって……?」

呆気にとられているギーシュ。

浅倉の命令で鉄に変えたゴーレムの顔から、いきなり紫の蛇が飛び出してきたと思えば、一瞬でフーケを一飲みにし、消えた。
突拍子もない出来事に、開いた口がふさがらない。

(まさか、写りこむものならどこからでも出てくるのか……!?)

これから先、写りこむものには気をつけよう。
ギーシュは心に堅く誓った。

「何をボサッとしてる。さっさといくぞ」

横で呆けているギーシュに、浅倉は手鏡とデルフリンガーを拾いあげながら言った。
はっとした表情で我にかえった彼が振り向くと、浅倉は顎で扉の方を差し示す。

ギーシュが扉を開くと、なにやら騒々しい物音が下の階から聞こえてきた。
確か、下の階には他の皆がいたはずだが。

「今度は楽しめるような奴がいればいいんだがな」

ニヤリ、と怪しく微笑みかける浅倉。
ギーシュはそれに苦笑いで返すと、階段を降りていく彼の背中を追った。



活気に溢れる酒場であったはずの宿の一階は、一変して惨状を示していた。

テーブルは倒され、食事や飲み物があちこちに散乱している。
談笑していた客たちは、何が起こったのかわからぬまま、店の奥のテーブルの下に縮こまっていた。

店の入り口付近は、剣や弓で武装した荒々しい連中で埋めつくされている。
数にして百人はいそうな彼らは、いつでも攻撃が仕掛けられるように武器を構え、様子をうかがっていた。

そんな彼らと相対している、部屋の中央にある倒れたテーブル。
その中には、ルイズたち四人の姿があった。

「どうやら狙いは私たちのようね」

テーブルを背にしながら、キュルケが呟いた。
様子を見ようとテーブルの右端から顔を出すが、すかさず入り口の方から矢が放たれる。
キュルケは慌てて顔を引っ込めた。

「彼らはこの町の傭兵だ。我々の邪魔をしようと、何者かが雇ったんだろう」

冷静な顔で、ワルドが杖を構えた。
しかし、間合いが遠すぎるため魔法を唱えることができないでいる。

左右の二人の間には、不安げな表情でワルドに寄り添うルイズと、異常事態にも関わらず本に目を通しているタバサがいた。

「このままじゃ埒があかないけど、どうしましょう?」

キュルケがワルドにむかって問いかけた。
ワルドは顎に手を当て、うむ、と考えるような仕草を見せる。

「正面突破は諦めるしかなさそうだな。誰かが囮になって、その隙に……ん?」

ワルドが戦況を分析し、作戦を考案しているすぐ横を、紫色をした何かが物凄い勢いで通りすぎていった。

「ウオオオオオオオ!!」

四人が雄叫びのする方を振り向くと、彼らの目に、傭兵たちに向かって突っ込んでいく王蛇の姿が飛び込んできた。

両手を広げた王蛇は、飛んでくる矢を物ともせず、目の前の獲物目掛けて猛進していく。
そして、瞬く間に先頭に立っていた傭兵の元へとたどり着くと、彼の体を右足で思い切り蹴り飛ばした。
爪先が脇腹に直撃し、周りにいた傭兵たちを巻き込みながら吹き飛んでいく。

慌てた傭兵たちが武器を構えるよりも早く、王蛇は右手を振り上げると、彼らの体を打ち据えていった。
次々に繰り出される攻撃を避けられる者はおらず、王蛇の周りにいた傭兵たちは皆、鉄をも砕く拳の一撃を受け、沈んでいく。



戦いの流れが、一瞬にして王蛇の方に傾いた。



「……君たち、大丈夫かい?」

浅倉から預かったデルフリンガーを片手に、ギーシュがルイズたちに声をかけた。
しかし、返事は返ってこない。
その場にいた者は、俯いて読書に勤しむタバサを除いて全員、目の前で起きている光景に唖然としていた。

今まで攻撃を仕掛けてきていた傭兵たちが、一転して悲鳴をあげながら逃げ惑っている。
遁走していく彼らには、もはや戦う意思は見られなかった。
しかし、王蛇はなおも彼らを追いつめていく。

「ハハハハハハ! もっと俺を楽しませろォッ!!」

傭兵たちが恐怖に叫ぶ声と、拳がめり込む鈍い音が聞こえてくる中で、ただ一人、王蛇だけが歓喜に満ちた笑い声をあげていた。



「さ、さすがにこれはやりすぎじゃないの……?」

キュルケが目を見開いたまま、誰に言うのでもなく呟いた。
入り口の先には、少し前まで戦っていたはずの傭兵たちが転がっている。
その大部分はのびていたが、意識のある者は苦痛にうめいていた。

見かねたワルドが、王蛇を止めようとテーブルから身をのり出す。
しかし、ルイズは彼の袖を掴むと首を振り、必死に彼を引き止めた。

「ダメです、ワルド様! こうなったらもう、誰にも止められません!」

ルイズの説得に、ワルドは構えていた杖を降ろした。
王蛇の強さを身をもって知っていた彼は、顔に焦りの表情を浮かべながらも、黙って事の成り行きを見守ることしかできなかった。




(今の彼には、どんな言葉も届かない……)

夕闇の中で狂気に舞う王蛇の姿を、ルイズはどこか遠い目で見つめていた。


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