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ゼロ=パペットショウ-04


「上。下。左。右。前。後。瞬――――――――――――27分殺」

 それは、狂気であり狂喜であり凶器でもあった。
 炎蛇のコルベールを一瞬で包み込んだ異形の群れ。レオノフの操る人形である。人形で、あった筈である。

 しかし人はそれを見て、果たしてそれが人形だと判断するだろうか。

 それはまさに、怪物だった。




 ゼロ=パペット・ショウ
   第四幕




 腕から腕が生えている。
 脚から首が。胸から膝が。首から手が。顔から顔が。
 まるで天をつく巨大な巨人が人の身体をバラバラに千切り解体し、無造作に押し潰し繋げ合わせたかのような怪物。
そんな異形がコルベールを全方向から襲う。
 腕から、足から、口から、胸から。怪物の先端部分からはあまりに鋭い刃が生え、哀れな犠牲者を刈り取ろうとしていた。

 コルベールにとって誤算だったのは、人形は所詮人形であると判断していたことだった。人を模して作られたのだから、ある程度の逸脱はあるにせよ基本的には人と同じ動きをするはず。
 そんな先入観が、一瞬のうちに崩壊するおぞましい攻撃。加えて、瞬く間に全方向を包囲した機動力。
詠唱を終えていた魔法では、対処、出来ない。



 死んだ。

 そう思った。どうしようもなかった。どれほどあの男に対する怒りを持っていても、目の前の暴力を見れば心が萎えた。思えばあまり恵まれた人生というわけでもない。背負った十字架の重みに、いつも押し潰されそうだった。重くて重くて、いつも膝をついてしまいそうだった。何度歩みを止めようとしたことか。何度諦めようとしたか。
 自分は常に頑張ってきただろう? ならば、そろそろここで膝をついてしまっても―――

 しかし、身体は動いた。迷いもせずに後方へ。そこにも逃げ場などありはしないというのに。例え包囲を抜けられたとしても、致命傷は免れないだろうに。
 何故、身体は動くのか。

 振り向かずともわかる、延髄へ一直線に向かい来る刃。怪物の、爪。
 避けることなど出来ない。これで、炎蛇のコルベールは死ぬ。間違いがない。しかし、なぜか自分は身を捻り、即死だけでも避けようとしている。
 意味が解らない。即死を避けたとしても、一秒後に死ぬか十秒後に死ぬか、その程度の違いしかないというものを。

 捻ったおかげで辛うじて延髄を貫かれることは避けられた。しかし、その刃は間違いなく、コルベールの頸動脈を深く深く切り裂く軌道を通っている。死ぬことには、代わりがない。




 雪風のタバサが放ったエア・ハンマーが、怪物の軌道を逸らさなかったのならば。



 叩きつけられた空気の鎚は、刃の軌道を大きく逸らす。頸動脈を深く切り裂く筈だった刃は、コルベールの右鎖骨を断ち切り通り過ぎていった。まさにそれは、奇跡だった。

 しかし、奇跡は決して怠惰な者には訪れない。コルベールが九死に一生を得ることが出来たのは、彼が最後の最後まで生にしがみついたからだった。
 心は諦めかけていたというものを、コルベールの肉体が死の瞬間まで抵抗をし続けていたからだった。

 それは何故か。

 今のコルベールにはわかっている。簡単なことだった。笑ってしまうほど、簡単なことだった。



―――そこに、守るべき生徒がいるからだ。



 この場に残ってくれたタバサとキュルケに、コルベールは心底感謝していた。
 窮地を救われたからではない。それも確かにあることはあるが。
 炎蛇のコルベールという存在が何者であるか。それを再び悟らせてくれた事への感謝だった。
守るべき彼女達がこの場にいなければ、あの瞬間に自身は屈していただろう。
 肩を断ち切られた激痛にも杖を落とさずにいられるのは、自身が死んだら彼女達を誰が守るのだという強い強い使命感。

 しかし、感謝の言葉を述べる暇などはなかった。
 包囲を破られた異形は、壊れた大蛇のような動きで彼等三人に襲い掛かってきたのだから。

―――いくらでも来い人形共よ。だが、今の私は死してなお戦い続けるぞ。

 それは、魂を奮い立たせるための宣誓だった。




 ■■■■■

 なぜ、こんなことになっているのだろう。
 コルベールが傷つきながらも必死に老紳士を狙っている。
 タバサが竜巻を起こし、必死に人形達を吹き飛ばしている。
 キュルケが吹き飛んだ人形をその炎で焼き尽くしている。

 しかし人形は、それでも特に数を減らした様子もなく。
 時には異形となって。時には人型で。彼等三人に襲い掛かる。
 それはすでに、戦いではなく一方的な虐殺に近かった。

 彼等の戦力を分ける決定的なもの。それは、数の利でも異形でもなく。
 落雷のような轟音を撒き散らしながら放たれる、大量の銃の存在だった。

 わざと外しているのだろう。時折嬲るように放たれる銃弾は、竜巻さえもかいくぐって三人の身体を傷つけてゆく。
 コルベールは前に立ち、その身体を使い必死にタバサ達の盾になろうとしてはいるが、それでも少なくない銃弾が彼女達をも傷つけてゆく。

 やめて。と叫びたかった。こんな事はやめてくださいと、主の尊厳も貴族の尊厳も全てを捨て去って叫びたかった。
それすらできない自分が、情けなくて仕方がなかった。

 ルイズが叫ぶことも出来ない理由。それは、ルイズの右肩に乗っていた小さな……それでいて異様な人形と、老紳士の代わりに喋り続けた青年の人形の存在だった。

 小さな異形―――まるで蜘蛛の形をした人間のような何かが、ルイズの喉元に刃を当て、青年は彼女の腕を拘束し、その口元を片手で塞いでいる。
 青年の力は異常なほどに強い。当然だろうとルイズは思う。あれは人間ではなく人形だ。

 待ちに待ったこの日。召喚した使い魔は、人間を材料に人形を作る、道を外れたメイジだった。先程までの感激など、どこかに消えてしまった。
 そもそも何故ルイズは自分が感激していたかすらわからない。あの老紳士はあんなにも怪しくて、泉を作らんばかりの血を流す棺桶の山などというものと共に現れたというのに。

 コルベールがコントラクト・サーヴァントを許した理由は、きっと少しでもあの老紳士を従順にさせるために許されたのだろう。それでもこの有り様だ。
 レオノフ・ザ・パペットマスターの在り方は、炎蛇のコルベールにとって許すことの出来ない存在だったに違いない。

 その暴虐と暴力を前に、秘かにルイズは決意する。
 絶対に、この使い魔は私が止めてみせる。ヴァリエールの、貴族の、そして、一人の人間としての誇りを賭けて。


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