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Mr.0の使い魔 第三話

 Mr.0の使い魔
  —エピソード・オブ・ハルケギニア—

     第三話

 「バン!」と勢い良く扉を開いた教室では、既に授業が始まっていた。
教壇に立つシュヴルーズは、いきなりの登場に一瞬驚きはしたが、一つ
咳払いすると厳しい目をルイズに向ける。

「ミス・ヴァリエール。授業に遅刻するとは何事ですか」
「すみません、ミセス・シュヴルーズ……」

 しゅんとして謝罪するルイズだったが、ふと違和感を覚えた。今まで
なら、こういう時は決まって嘲笑や冷笑があったのだが、今日はそれが
ない。ちらりと室内を盗み見ると、生徒達は少し怯えた顔でルイズから
視線をそらしていた。正しくは、彼女の背後にいるクロコダイルから。

(昨日のアレが効いてるみたいね。いい気味だわ)

 ささやかな優越感に浸るルイズの事などつゆ知らず、シュヴルーズは
授業の内容を解説した。

「ミス・ヴァリエール、今は【錬金】の魔法を教えています。
 ちょうど、私の魔法で石を真鍮に錬成したところですよ」

 見れば、教卓の上には幾つかの小石と金属塊が載っている。双方を見
比べたクロコダイルは、なるほど、これが魔法によるものかと感心して
いた。ルイズもしげしげと机の上を眺めている。
 二人の反応に気を良くしたシュヴルーズは、微笑みを浮かべてルイズを
呼んだ。

「ミス・ヴァリエール。【錬金】のやり方は知っていますね?」
「あ、はい」
「では、今度はあなたに【錬金】を実演してもらいましょう」

 その言葉に、教室の中がざわつき始めた。暫くして、キュルケが立ち
上がる。いつもは情熱が有り余っている彼女が、珍しく真っ青な顔をし
ていた。

「あの、ミセス・シュヴルーズ」
「何です、ミス・ツェルプストー」
「ルイズにやらせるのは、危険です。やめて下さい」
「危険?」

 怪訝な顔をするシュヴルーズだが、取り消すつもりはなさそうである。
これではだめだと、キュルケは説得の相手をルイズに変えた。

「お願い、ルイズ! やめて!」

 ややあって、ルイズが呟く。

「……やります」

 途端にざわめきが大きくなった。大慌てで机の下に潜り込む者、始祖
ブリミルに祈りを捧げる者、何とかルイズを引き止めようと試みる者、
様々である。
 そんな彼ら彼女らに構わず、ルイズはつかつかと教卓に近寄った。

「心に錬金したい金属を、強く思い浮かべるのですよ」

 シュヴルーズのアドバイスにこくりと頷いたルイズは、おもむろに杖
を振り上げる。
 それまで頭を出していた生徒達が、揃って机の下に避難した。立って
いるのは呪文を唱えているルイズと、隣のシュヴルーズ、入り口の扉に
寄りかかって様子を眺めているクロコダイルの三人。そして後方に群れ
ている使い魔達。
 その中で、クロコダイルはどうも嫌な予感がした。直前までの説得の
様子は鬼気迫るものだ。そして、詠唱を始めると全ての生徒が身を潜め、
顔を出そうとしない。

(こいつは、何かあるな……)

 値踏みするような視線の先で、詠唱を終えたルイズが石ころをめがけ、
さっと杖を振り下ろす。
 するとどうだろう、石ころが目も眩むばかりの光を放ち——。

「っ、【砂嵐(サーブルス)】!!」

 クロコダイルは咄嗟に右腕を突き出した。放たれた砂嵐がルイズの前、
教卓の上を薙ぎ、光る小石を巻き上げる。暴風にのった小石は、開いた
窓から飛び出した。


 僅かに遅れて、閃光、爆音、振動。


「うわっ!」
「きゃあ!」

 口々に悲鳴が上がる中、パニックを起こした使い魔達が暴れ出した。
サラマンダーが火を噴き、マンティコアが窓を割り、巨大な蛇がカラス
を飲み込む。阿鼻叫喚の地獄絵図であった。
 さて、事の元凶、ルイズの反応だが。

「もう、砂が口に入ったじゃない!」

 卒倒しそうなシュヴルーズも生徒からの苦情もほったらかしにして、
クロコダイルへの文句を優先していた。額に浮かんだ冷や汗を見るに、
嫌な現実から目を背けるための口実のようだ。

「何やってんだ、ゼロのルイズ!」
「だからやめろって言ったのに!」
「いつだって成功確率ゼロじゃないか!」

 我慢の限界に達した生徒達は、クロコダイルへの恐怖もそっちのけで
口々にルイズを罵倒する。事ここに至って、クロコダイルはようやく主
が『ゼロ』の二つ名で呼ばれる理由を知った。

(ゼロってのはそういう意味か……まぁ、おれには関係ねェな)

 知っただけで、何か特別な考えを持ったわけではないのだが。


 幸い爆発自体は教室の外で起きたので、けが人が出るほどの惨事には
至らなかった。ただし、爆発のショックで暴走した使い魔が一部の机を
焼いたり窓ガラスを割ったりした為に、授業の継続は不可能となってし
まったのだ。
 何とか気を持ち直したシュヴルーズは授業を中断する旨を告げると、
少しふらつきながら医務室へと向かった。去り際に、主犯たるルイズが
後始末をする事、その際絶対に魔法を使わない事を言い渡して。


 ルイズは朝食抜きの上に重労働を課せられ、疲労困憊であった。最初
はガラスの破片や粉砕・炭化した机の処理。次に毛や鱗や何かの粘液で
汚れた室内の拭き掃除。仕上げに倉庫から新たな机を運び終えた時には、
既に昼休みが始まっていた。

「それもこれも、あいつが手伝わなかったせいよ……」

 空腹で倒れそうになる体を壁で支えながら、ルイズは憤った。授業が
中断されると、クロコダイルは興味が失せたとばかりにどこかへ行って
しまったのだ。男手があれば掃除は半分以下の時間で終わっただろうに。
そもそも使い魔が主人を放り出すなんて言語道断だ。

「クロコダイル……罰としてお昼抜きだわ」

 拳を握り決意を固めたルイズは、とぼとぼと歩き出した。


 ルイズが片付けを終える少し前。
 クロコダイルは中庭を歩いていた。当分の間はこの学院が生活の拠点
となるのだから、最低でも建物周辺の地理状況、内部の構造を把握して
おかねば話にならない。
 授業で使った塔を見終わって次に向かう途中、クロコダイルは見物で
気づいた事を整理していた。

(規模の割に、狭いな)

 塔の外から見た大きさと中の広さが一致しないのだ。どんな建物でも、
全体を支えるのに必要な柱の数、壁の厚みというものがある。建築には
それらの数量に応じて材料、時間、手間がかかるから、普通は必要以上
を作るという事はしない。従って、外見と用途がわかれば、それらに適
した構造を思い浮かべておおよその広さや部屋数を予想できる。
 しかしこの学院の場合、壁がかなり分厚く作られていた。百人以上が
余裕で入る大きな教室と合わせて、部屋の総数を圧迫する原因になって
いる。寮の部屋も個人で使うには随分広かった。それらもやはり分厚い
壁で仕切られており、全体で見るとどうにもバランスが悪い印象を受け
るのだ。
 なぜもっと壁を薄く、部屋を多く作り、学生を集める事をしないのか。
個室の大きさは貴族だから配慮していると考えても、校舎全てを頑丈な、
砲弾すら弾きそうな構造にする必要はない。これではまるで——。

「砦か、要塞か」

 ぽつりと呟いた自分の言葉で、クロコダイルはピンと来た。この学院
の建造目的が学業の為ではなく、何かを守る拠点として、だとすれば。
 魔法の教育を名目にしておけば、各地のメイジを教師として集める事
ができる。生徒は貴族、つまりメイジの家系なのだから、彼らも貴重な
予備戦力だ。あくまで予備であるから、余分に抱え込まずともよい。広
い個室も、有事の際に派遣される正規軍の宿舎とする為なら納得がいく。
今の人数の倍くらいまでなら生活スペースに困る事はない。
 また、平素からこれだけの数のメイジが常駐するのだから、そうそう
手出しする者もいないだろう。事前に内部の見取り図でもあれば別だが、
ない場合は偵察すら一苦労だ。都市に比べて人の出入りの監視が簡単な
ために、発見されずに侵入・脱出するのは難しいのである。

(そうだとすると、何かしらの“お宝”があるかもしれんな)

 かつての世界で培った経験が、クロコダイルに半ば確信に近い推測を
させていた。こういう強固な構造の拠点は、その高いコストから防衛の
要所や重要物の保管場所に限定して構築されるのが常だ。
 このトリステイン魔法学院のすぐ近くには、この国の王都が存在する。
守るべきものが王都であるのは明白だが、おそらくそれだけではない。
もう一つの、貴重品の保管庫としての機能も持たされている筈。

「あそこか」

 獲物を求めてギラつく瞳が、一際大きな本塔に向いた。学院の配置で、
あの塔が最も外から遠い位置にある。距離の差はそのまま攻撃精度の差
と考えても相違ない。同じ技量で遠近二カ所の対象を狙う場合、遠い方
への命中率が下がるのは当然である。つまり、最も攻撃を受けにくい。
 他の塔と見比べても、中央の一本はより堅牢に作られているようだ。
時に例外はあるが、財宝などを保管する場合、多くの人間は一番安全だ
と思える場所を選ぶ。

「ちょうどいい。食事の後で見物させてもらおう」

 小声で呟くと、クロコダイルは本塔を目指した。同時に、今後もこの
学院を有効利用し続ける事を考えながら。


   ...TO BE CONTINUED

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