あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

デモゼロ-01


 ゼロ、という二つ名をつけられた貴族の少女がいた
 この世界では、貴族は誰でも魔法が使える
 魔法が使えて当たり前
 なのに、彼女は魔法が使えない
 どんなに魔法を使おうとしても、ただ、無意味に爆発が起こるだけ
 だから、彼女は『ゼロ』のルイズ
 使える魔法がゼロのルイズ

 そう言われて、彼女は馬鹿にされてきた
 彼女は、耐えて、耐えて、耐え続けて
 他の貴族の何倍、何十倍、何百倍と努力を続けた

 春の、使い魔召喚の儀式
 彼女は、今度こそ、今度こそ、と何度も何度も杖を振り

 結局、何も召喚できなかった
 代わりに、己の失敗魔法で起こした爆発で大怪我を負ってしまい、医務室に運ばれていった

 普通ならば、ここでおしまい
 魔法が使えないゼロのルイズ、ここでもはやメイジとしての道を断たれ、実家に帰って政略結婚、めでたしめでたし

 しかし、そうはならないのがこの物語
 確かに、彼女が召喚の魔法を使っても、何かが現れたようには見えなかった

 見えなかった、けれど

 誰に言い切ることができる?
 本当に、何も呼べなかったのだ、と



 召喚の儀式から数日が経った
 あの時、大怪我を負って意識不明の状態が続いていたルイズが目を覚ましたと聞いて、彼女の宿命のライバルたる『微熱』のキュルケは、医務室に向かっていた
 …最早、彼女はこの学院に残る事はできないだろう
 そうなったら、たとえ領土が隣同士と言っても、顔を合わせる機会も減ってしまうことだろう
 だから、せめて、その前に、何か言葉をかけてやりたかった
 日頃、からかって遊んではいたものの、キュルケは他の同級生たちと違い、ルイズを侮辱した事はない
 ルイズが努力している事を理解し、いつか、その努力が身を結んでくれるであろうと、そう考えていた
 …それが、こんな結果になってしまって
 どう、声をかけたらいいのだろう
 どんな言葉をかけたら、少しでも、彼女の心を癒してやれるだろう
 明確な答えが見つからないまま、医務室の前にたどり着く
 自分は、ルイズと顔をあわせて、大丈夫だろうか
 少し悩みつつも、最終的には
(まぁ、なんとかなるでしょ)
 と、少々お気楽に結論を出して、扉を軽くノックして、医務室に入る
「ルイ……」
 …ベッドの上にいるであろう、ルイズに声をかけようとして
 キュルケは、思わず思考をフリーズさせた

 ぱくぱくぱくぱくもぐもぐもぐもぐ
 むしゃむしゃはむはむはむはむはむぐむぐぐん

 キュルケの視界に、入り込んできたのは
 一心不乱に食事にいそしむ、ルイズの姿だったのだ



 もぐもぐもぐもぐ
 食べる、食べる、とにかく食べる
 ルイズの周囲には、どんどん、空の食器の山が出来上がっていた
 唖然として立ち止まってしまっているキュルケの背後に、ふっ、と気配が生まれる
 振り返ると、その小さな体一杯に料理を抱えたメイドが、困った表情で、キュルケを見つめてきていて
 自分が通行の邪魔になってしまっている事に気づき、慌てて道を明ける
 珍しい黒髪をしたメイドはぺこり、キュルケにお辞儀をすると、急いでルイズの元へと料理を運んでいった
 ルイズは、早速その料理も受け取って、ぱくぱくと食べ始める
 …これは、まだまだ、追加が必要そうである
 そう判断したのだろう、ルイズの傍らについていたコルベールが、メイドにもう少し料理を追加で持ってくるよう頼み、メイドは慌てて、医務室から走り出ていく
(…どう言う事?)
 ルイズが目を覚ました、そう聞いて、自分は彼女を慰めにきた…つもり、だった
 だったの、だが
 この現状、どう、解釈すればいいのだろうか
 いまだ、思考がうまく働いてくれない
 ただ、唖然と、ルイズを見つめる事しか、キュルケはできないでいた

 …そうしていると
「むぐ?」
 ぱ、と
 顔をあげたルイズと、思い切り、目があって
 ぴたり
 ルイズの、食事をしていた手が、口が、止まった
 時が止まってしまったかのような、錯覚
 コルベールも、キュルケが来た事にようやく気づき、どこか途惑っているような表情を浮かべていた
 …数秒間、時が止まった、直後
 どっかん!!と
 そんな音が聞こえるような錯覚を感じる程に、一瞬で、ルイズは耳まで真っ赤に紅潮させていったのだった



 何が起こったのか
 正直、ルイズにもよくわからない
 ただ、召喚の儀式に失敗し、大怪我を負って…自分は、数日間も、意識が戻らなかったらしい
 その間、妙な夢を見ていたような気がするのだが、よく覚えていない
 覚えているのは、夢の中で、自分は桃色の毛並みをした狼のような獣人を召喚していて
 その獣人に、使い魔にする為の契約の口付けをした、という事だけ

 気がついたら、自分は医務室のベッドの上で
 その時点で、ようやく、自分は己の魔法の失敗による爆発で、大怪我を負ってしまったのだという事を自覚した
 大事な儀式で失敗してしまった、その事実が悲しくて、悲しくて、絶望的で
 …医務室にいた水のメイジが、声をかけてきたのにも、気づかず、目の端から涙が零れ落ちそうになった時…

 ぐきゅるるるるるるるるるるるるる

 悲しみも、何もかも
 全てをぶち壊しの音が、医務室に響き渡り
 その瞬間、自分が酷く、空腹である事に、ルイズは気づいた

 それからずっと、食べ続けていた
 ひたすら、ひたすら食べ続けていた
 わからないけれど、妙におなかがすいていたのだ
 自分が、ここまでたくさんの食べ物をおなかに納められるとは、ルイズは全く知らなかった
「数日の間、ずっと意識がありませんでしたからね。体が、その間の食事を求めているのかもしれません」
 コルベール先生はそう言ってくれたけれど、花の乙女が…それも、ルイズのような小柄な少女が、一気にこれだけの量の料理を食べていくのは異常である
 どう考えても、こんな小さな体に収まりきらない
 しかし、ただ、ひたすら、食べたかった
 …その、結果が
 ベッドの両脇に、山のように詰まれた空の食器の山である



「…落ち着きましたか?」
「は、はい」
 しゅん、としながら、ルイズはコルベールに頷いた
 …恥ずかしい
 食べている間は自覚していなかったけれど、食べ終わってからこの空の食器を見ていると、いかに自分が大量の料理を食べたのかがわかって
 ひたすら、恥ずかしさがこみ上げてくる
 …しかも
 しかも、それを宿敵たるキュルケに見られてしまっていたなんて
 あまりの恥ずかしさに、死んでしまいそう
「…えぇ、と」
 そのキュルケは、ルイズに何か、声をかけようとして
 しかし、どう言葉をかけたらいいものか、少し、悩んでいるようで…
 …ようやく、口が開き、出てきた言葉は
「…大食い大会、優勝間違いなしね」
「………」
 爆発で吹き飛ばしたろか、このアマ
 貴族にあるまじき思考が口を出かけたが、ここはぐっと抑えるルイズ
 落ち着け、落ち着け自分、これ以上貴族として失態を晒してはいけない

 …これから、自分には、様々な問題が降りかかってくるのは、確実だ
 召喚の儀式は、成功したのか失敗したのか、わからない
 コルベールも、判断に酷く悩んでいるようだった

 本来ならば、あの儀式で何も呼び出せなかったように見えたルイズは、使い魔召喚の儀式に失敗したとの事で、この魔法学院を退学する事態になっている事だろう
 …しかし
 その判断が正しい物かどうか、コルベールは悩んでいた
 学院長たるオスマンの判断を仰がねばならない、そう考えていた

 何も呼び出せなかったはずのルイズ
 魔法成功率ゼロと呼ばれたルイズ

 キュルケは、まだ気づいていなかったけれど

 …ルイズの、左手の甲には
 誰も見た事のないような、ルーンが
 本来ならば、使い魔に刻まれるはずのルーンが、くっきりと浮かび上がっていたのだった


続く


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