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第2話 『ぼくは使い魔』



ミュズが目覚めると、そこは見た事の無い建物の薄暗く照明を落とした部屋だった。
「ふあ…。ここは…?」
フカフカとした床の上に横になってフカフカとした布が掛けられていたミュズは上体を起こし、くしくしと目を擦りながら呟く。
「お目覚めですか?ミュズ…さん?」
横から声がするので、ミュズはそちらを向くとそこには、黒い服の上から白い前掛けをした黒髪の女の子が椅子に座っている。
ミュズは見知らぬ女の子に名を呼ばれて、不思議そうな顔して小首を傾げる。
「こんばんは、私はシエスタっていいます。私はあなたと同じ平民で、貴族の方々をお世話するために、ここでご奉仕させていただいているんです。」
シエスタは丁寧に自己紹介をする。
「ぼくはミュズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールのものです。シエスタはヒトだから…、あなたとは違います」
ミュズの返事に戸惑ったが、矢継ぎ早にシエスタは用件を言う。
「あなたの御主人様、ミス・ヴァリエールに言われて、あなたが起きるのを待っていたの。『起きたら、私の部屋に連れて来るように』って」
シエスタは足元から取り出したサンダルを、手際良く馴れた手つきでミュズに履かせる。
そのサンダルは、足の甲と踵を太い紐で固定して、足首のところで結ぶ、しっかりとした履き心地のある物であった。
ミュズは今まで寝ていた台の上から降りる。
「あの。シエスタ、ぼくの服は?」
今になってミュズは自分の着ている服が変わっている事に気が付く。
ベージュの飾っ気の無いワンピースで、ミュズにはサイズが大きく袖や首回りなどがタボダボと開いている。
「始め、ミス・ヴァリエールにあなたの着替えと着ていた赤い布を普段着に仕立てる様に申し付けられました。眠っている間に着替えを済ませたのですが、夕食後に再度、ミス・ヴァリエールから依頼されたのですよ」
シエスタは経緯を説明する。
既に陽が落ちて、赤と青の双月がトリステインを照らす時刻となっていた。
シエスタは部屋にある唯一の灯を持つと、ミュズの手を引いき、その部屋を出た。
つかつかと歩くシエスタと、その後ろをてとてとと歩くミュズが薄暗い夜の廊下を進む。
手を引かれていたミュズは、窓から明るい二つの月を見た。
「ここは地球?」
「チキュウ?いいえ、トリステインですよ」
シエスタは『地球』と言う聞いた事がある単語に頭を傾げながら、ミュズの質問に返答する。
「あの時、テレポートされたから…、データで知っているのと…違う。ここはトリステインと言う惑星(ほし)なんだ」
ミュズは声には出さずに呟いた。



その頃、ルイズは寮塔の自分の部屋で考えていた。
もとい召喚してから、授業の時も夕食の時もお風呂の時も、ずっと悩み続けていた。
あんな小さな少女が召喚されてすぐに演技や嘘で、あんな事を言えるだろうか?
張りぼてのドラゴンがあんなに息苦しそうに動き、あんなドロドロに溶けてしまうだろうか?
少女とドラゴンの言葉は眉唾ものであったが、一人と一頭が存在していたのは紛れもない事実である。
あの時、咄嗟に水をあげてしまったのは、その一人と一頭を見ていて、貴族の責務(ノブレス・オブリージュ)として父母に教えられた助けを求める平民に対する、または親愛なるちい姉さまが言っていた弱っている動物に対する行動であった。
ルイズは延々と悩んで結局、あの溶けてしまったドラゴンが張りぼてで無いと結論を出し、ミュズと言う少女はその虚言癖のある韻竜に育てられた娘と言う事にした。
ルイズの考えが纏まる時、頃合い良くノックする音が聞こえた。
「夜分、失礼します。ミュズさんをお連れていたしました」
その声を聞いたルイズはミュズを招き入れ、シエスタを下がらせる。
ルイズはミュズを見ると、逡巡の後に溜息をついてしまった。
目の前の少女には悪いが、せめて鷲とか梟とかの様なカッコいい生き物がよかったと、ルイズは思ってしまう。
ルイズはぶっきらぼうにドカッと机の横にある椅子に腰掛け、机の上に頬杖をついた。
「あんたは何なのよ。なんで、召喚してあなたが来ちゃったのかしら?」
ルイズは悲しげな顔でミュズに問い質す。
「ぼくのお父さんは――科学者で、悪いヒトでした。悪い…仲間に誘われて、悪い目的のために大層な時間をかけて、ぼくを作りました。」
ミュズは部屋の隅に立ったまま、自身の生い立ちを話し始める。
「”宇宙最高の秘宝”を手に入れるための道具として…。でも、父の仲間の狙いは、ぼくの中の”二枚目の地図(ネクストシート)”だった。」
訳の分からぬ単語が頻出するミュズの突拍子も無い話しに、ルイズは話半分に相槌を打っていた。
「きっと始めから裏切られていた。合流地点だった”地球”で待ち伏せされて…、父はまだ眠っていたぼくを誕生させて、脱出したんです。そこにテレポートのゲートが現れて…着陸するとあの場所に居ました」
「そのげーと?が召喚の門かしら。召喚の魔法、つまり『サモン・サーヴァント』は、ハルケギニアの生き物を呼び出すのよ。」
ルイズは疑わしげなミュズの話しを聞いた所で、召喚についての説明をする。
「普通は動物や幻獣なんだけどね。人間が召喚されるなんて初めて見たわ。しかもチキュウなんて所、聞いたことがない」
「そうなんですか」(近隣のハルケギニア星から生き物を、愛玩や使役目的でテレポートするのかな?それで現れた生き物を使い魔って呼んでいる?)
そんな事を考えながら、ミュズは興味深げに頷いていた。



「ところで、使い魔が何をするか知ってる?」
ルイズの質問にミュズは、首を横に振って答える。
「まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ」
「どういうことですか?」
「使い魔が見たものは、主人も見ることができるのよ。でも、あんたじゃ無理みたいね。わたし、何にも見えないもん!」
「ちょっと待ってください」
ミュズは落胆するルイズの話しを切って、部屋の窓から身を乗り出し、遠くの方を眺めた。
その後、おもむろにミュズはルイズに近付き、頭を掴んで額同士をくっつける。
ルイズの目の前に、夜空に煌めく見覚えのある白い尖塔が浮かぶ。
「きゃああ!な、なに?トリスタニアの宮殿がみえた?今のは?」
ルイズは、がばりとミュズの手から外れ、驚きの余りに悲鳴を上げて混乱する。
「ぼくの目に見えるものです」
「確かに、ここからトリスタニアを遮りそうな山なんかはないけど、すごいわね?」
「もっと遠くまで見ることも出来ますよ」
「色々と変わってるけど、なかなか使えそうな能力じゃない」
ルイズは、頭をくっつけないと効果のない変な感覚共有と考えつつ、落胆していた使い魔に頷きながら感心する。
「それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば秘薬とかね」
「秘薬ってなんですか?」
「特定の魔法を使うときに使用する触媒よ。硫黄とか、コケとか……。あなたに見つけてこれないでしょう」
「薬品の原料ですか?実物を見せて頂ければ、サーチして用意出来ます」
「ああ、はいはい」
簡単そうにミュズが返答をするので、そこら辺に生えてる雑草と勘違いしているじゃないかとルイズは思いつつ、あきれ気味にあしらう。
「そして、これが一番なんだけど……。使い魔は、主人を守る存在であるのよ。その能力で、主人を敵から守るのが一番の役目!あなたじゃ無理ね……」
ルイズは自分より小さく細いミュズを見て、諦めた様に言う。
「ぼく単体でも、十分に戦えます!」
「そうなの…?でもね。あんたみたいな小っちゃい娘を盾にするなんて、貴族の名折れよ!」
ファイティングポーズをとって自信満々といった様子のミュズに、ルイズは貴族としての心構えから啖呵を切る。
「だから、あなたに出来そうなことをやらせるわ。洗濯、掃除、その他雑用」
「はい、分かりました。マスター」
ルイズはビシッとミュズを指差して高らに宣言し、ミュズは従順に頭を垂れた。



言いたい事を言い終わったルイズに、恐縮しつつミュズは尋ねる。
「あのー、これなんですけど…」
ミュズは左手の甲を見せる。
そこには蛇がのたくった様な紋様、ある種の文字が躍っていた。
「ああ、それね。わたしの使い魔ですっていう、印みたいなものよ」
「この印が刻まれた事で、それまでに無かった能力が付加されたみたいです」
「使い魔として契約したときに、特殊能力を得ることがあるって聞いたことがあるけど、みたいってどう言うこと?」
「能力を発動させる条件が分からなくって、能力が使えないんです」
「それじゃ、意味ないじゃない!」
ルイズは素早く鋭いツッコミをミュズに入れる。
ミュズは恥ずかしそうに顔を赤らめ、しょんぼりと肩を落とす。
「さてと、色々と喋ってたら、眠くなっちゃったわ」
ルイズは、くあと欠伸をする。
椅子から立ち上がり、ブラウスのボタンに手をかけて、一個づつボタンを外していく。
ミュズは奇妙に見えるルイズの動きに疑問を投げ掛ける。
「なにをしているんですか?」
きょとんとした声で、ルイズが言った。
「寝るから、着替えるのよ」
この娘は今まで着の身着のままで生活していたのだろうと、ルイズは考えながら、いそいそと着替えを続ける。
「じゃあ、これ、明日になったら洗濯しといて」
ルイズは脱ぎ終わったキャミソールとパンティをミュズに渡し、大きめのネグリジェをかぶる。
ミュズは渡された物を物珍しそうに見ている。
ルイズはベッドに座ると、毛布を一枚投げてよこした。
「ベッドは一つしかないんだからしかたないけど、ここで寝てくれる」
ルイズは床を指差す。
ミュズは嫌な顔をせずに洗濯物を足元に置き、横になって毛布に包まった。
ルイズが、ぱちんと指を弾くと、ランプの灯りが消え、部屋に真っ暗な夜の帳が下りる。
ミュズが驚いて興味津々と言った様子で騒ぐので、ルイズは早く寝なさいと怒鳴りつける。
怒鳴られて静かになったミュズは寝る気配を見せる事が無く、窓の外の双月を眺めていた。
しかし、ルイズは昼間から夕方過ぎまでミュズが眠り続けていたのを知っているので咎める事はしなかった。
「おやすみなさい」ルイズは眠たげな声でミュズに呟く。
そして、ミュズの使い魔としての生活が始まった。


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