あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

谷まゼロ-02


ルイズは、谷を呼びたしたことに心底がっかりしていた。
呼び出した使い魔が、幻獣や動物であれば、主人の身を守ったり、
秘薬などの素材を主人のために見つけてきたりすることが出来、ルイズを大いに満足させたであろう。
しかし、自分が呼び出したのは人間で、魔法が使えないただの平民。
使い魔にとって一番重要である『主人の身を守る』ということすら出来ないように見えた。
加えて、『コントラクト・サーヴァント』が出来ていないとなれば、落胆もひとしおである。

そして今、『主人を身を守る』ことが使命であるはずの使い魔は、
その主人に対し、拳を振り上げていた。

「え?」

間の抜けた声を上げたルイズ。
しかし、この状況が理解できないほど頭が回らなかったわけではなかった。
目の前の使い魔は自分を殴り飛ばそうとしているのだった。

ルイズは慌てて頭を下げた。その僅か上を谷が振りぬいた拳が通り抜ける。
標的に当たらなかった拳は、窓ガラスを盛大な音をたてながら叩き割った。
ルイズが信じられないものを目の当たりにしたかのように、驚きの声を上げた。

「ちょっと何よ!?貴族に!使い魔が主人に!手を上げるなんて信じらんない!
 どうなるかわかってんの!?なんとか言いなさいよ!」

だが、その言葉が無意味であることにルイズは気がついた。
谷の耳には何も届いていない。今もルイズを殴り飛ばすことだけに意識を集中させている。
異様なまでの殺気を発しながら。

ルイズは喉をならして唾を飲み込んだ。
自分の主人に手をあげる使い魔なんてルイズは聞いたことがない。
取りみだしながらも、ルイズは谷から逃れるためにベッドどから降りた。
谷がおもむろに歩いてそれを追う。
壁を背にしたルイズは逃げ場を失っていた。その時杖をもっていなかったし、抵抗する術は持ち合わせていなかった。
ルイズは竦み上がりそうになりがらも、心を奮い立たせ、谷に言った。

「わたしが何をしたっていうのよ!?」

ルイズが何をしたか。そして、なぜ谷は怒っているのか。
それらの答えはすべて、ルイズが『島さん』をバカにしたことに帰結する。

谷にとって『島さん』はかけがえのない存在である。

谷は幼い頃より自分の意思で仮面をつけていた。谷が居た世界でも、日常生活で仮面をつけるということは、異端であった。
だから、彼は周りの人間からは奇異の目で見られ、変人扱いされてきた。
本人はそのことに関して毛ほども気にはしていなかったが、そんな状態でまともな人間関係など築けるはずはなかった。
だが、それはある意味本人が望んだことであるようであった。谷は望んで他人との間に壁を作っているのだった。

人は、誰しもが人に恋い焦がれる時がある。
ある者は、幼稚園の保母さんが初恋の相手かもしれない。
ある者は、近所の幼馴染が相手かもしれない。

だが、谷は『島さん』と出会うまで、他人に恋をするどころか、信じられる人すらいなかった。

そんな谷が初めて他人である『島さん』を好きになったのだ。
広い世界で『唯一』好きな、大好きなヒト。それが谷にとっての『島さん』であった。

その『島さん』をルイズにバカにされたのだ。
谷には許すことができなかった。

谷は、自分の怒りを買うものに対して、容赦という言葉を持たない。
年端もいかない子供に対しても、大人げない態度で虐げることができるし、
大勢の不良であろうと、短刀を持ったヤクザであろうと、たとえ女であろうと、
その拳をもってして殴り飛ばすことになんの迷いもない。

ルイズもまた、谷が容赦すべき相手と認識するわけがなかった。
谷は再び拳に力を込めた。

「てめェ!よくも島さんを!!ゆるさん!」
「シマ、シ、シ、シマサン!?」

再びルイズに対して拳が振るわれた。
その動作自体は比較的遅く、ルイズでも間一髪避けることができた。
だが、ルイズは避けたあとに起きた出来事に驚愕した。

谷が放った拳は空を切り、そして壁にぶち当たった。

普通なら、石造りで出来た壁なんかを素手で思いっきり殴ろうものなら拳のほうが壊れてしまう。
しかし、谷は違った。

ルイズの耳に轟音が響いた。

恐る恐る谷がいる方を見てみると、衝撃の光景が目の前に展開されていた。
谷が素手のパンチで壁をぶち破ったのだ。
谷の、馬鹿が二回付いても足りないぐらいの馬鹿力が可能にさせる破壊力であった。
壁は破片となり粉々に砕かれ、人一人が余裕で通れるほどの巨大な穴が出来ていた。

「ちょ、ちょっとなんなの!?戦争でも始まったの!?」

そう叫んだのは、先ほどまで就寝中であった、ルイズの隣の部屋の女性であった。
名をキュルケ。ルイズのヴァリエール家と宿命関係にあるツェルプスト―家の者である。
ルイズとは同じ学年の生徒ではあるが、家同士の因縁があるためか、いつもいがみ合っている関係である。

しかし、今のルイズは混乱していた。
誰でもいいから、助けが欲しかった。なぜなら自分の使い魔が間違いなく自分に敵意を向けているのだから。
そして、ルイズ自身には、この状況をどうにかする術がなかった。

ルイズは、谷が作った壁の大穴から、キュルケの部屋に飛び込んだ。
そして、キュルケが寝転がっているベッドに飛び乗った。

「ちょ、ちょっと何をやってるのよあなた!ここが誰の部屋かわかって?ルイズ。
 っていうか、なんで人の部屋の壁を壊してるのよ!」

「わたしの部屋の壁でもあるわよ!!ちょ、ちょっと助けなさいよ」

「助けるってあたしが?ヴァリエール家のあなたを、このツェルプストー家のあたしが?冗談言わないで」
「この状況で冗談なんて言えるわけないでしょ!!?あの壁見たでしょ!?」
「あの壁がどうしたのよ?どうせあなたが魔法を失敗してぶち壊したんでしょ!?」

ルイズは歯ぎしりをし、じれったそうに叫んだ。

「っ違うわよ!!そんなことできるわけないじゃない!わたしの使い魔が素手でぶち破ったのよっ!!」

信じらんない、あり得る筈がない、といった風に目を見開き驚きを隠せないキュルケが言った。

「あの平民の使い魔が!?それこそ冗談でしょ!?
 素手で学院の壁が壊せるわけないでしょう!?っていうかアレ……」

キュルケが、そしてルイズが息をのんだ。
そこには壁の穴を通り抜け、ルイズたちに視線を向けている不気味な白い仮面の男がいた。
心情を表わす顔を隠し、余計に恐怖をかきたてるのに一役買っている仮面が目に付いた。
それを見ると、先ほどの谷とルイズのやり取りを知らないキュルケも理解できた。
その目の前に立つ男が、明らかにルイズに敵意を抱いていることを、そして自分も巻き込まれていることを。

「ふ、フレイム!!!」

キュルケは思わず自分の使い魔の名を呼んだ。
部屋の隅の闇からのっそりと、虎ほどの大きさの真っ赤なトカゲが現れた。
尻尾が、燃え盛る炎でできていた。チロチロと口から火がほとばしっている。

このフレイムという使い魔は、谷と同様、使い魔召喚の儀式で呼ばれた生物であった。
サラマンダーのフレイムは主人であるキュルケの身の危険を察知した。
そして、その原因であると思われる谷の前にその大きな体を盾にし立ちはだかった。
フレイムの口にから、熱気が溢れ出す。
炎を吐いて谷を追い払うつもりであった。
だが、それは成功しなかった。

「邪魔だ、このトカゲめ!!!」

「きゅおっ!!?」

谷は、片手でフレイムの頭を鷲掴みにし、そのまま上に蹴り飛ばした。
天井にフレイムが激突し、部屋が僅かに揺れる。
パラパラと天井の破片が落ちてくるが、肝心のフレイム自身が落ちてこない。
フレイムは完全に天井に埋まってしまい落ちてこないのだった。
普通の人間ならば、フレイムを持ち上げることすら出来ないであろう。
谷がしたことは、まさに異常であった。

「う、嘘でしょ。あたしの自慢の使い魔が……」

頭の中が絶望に溺れたキュルケも、ルイズの使い魔の異常性に気がついた。
そして何でこんな理不尽なことに巻き込まれているのかと、憤りを感じていた。
キュルケは、ルイズの服をとっ掴んで問い詰めた。

「なんなのよこれ!?あんなのに殴られでもしたら、頭にコブどころじゃ済まないわよ!
 あなた自分の使い魔に何をしたの!?何をどうしたらあんなに怒らせられるのよ!?」

「そんなのわたしだって知らないわよっ!……あっ、もしかしてシマサンっていう女をわたしが悪く言ったから?」
「誰よ!?そのシマサンっていうの!?」
「タニが好きな女の名前よ!」
「なに?好きな女をバカにされたから怒ってるの!?……それなら」

キュルケとルイズは顔を見合わせた。
そして、無言で二人は一つの答えに縋りついた。谷に聞こえないように、こそこそと話した

「なら、今度は褒めるのよ!褒めて褒めまくって褒めちぎるのよそのシマサンっていう人を!
 そのシマサンっていうのはどんな人物なの!?」

「な、名前しか知らないわよ!」
「ちょっと何よそれ!あの男殴ろうと拳を振り上げてるわよ!あたし死にたくないわ!
 なんでもいいから褒めるのよ!!!」

「そんな!どうやって言えばいいのよ!わからないわ!!」

キュルケはチッと舌打ちをした。
そして、拳を振り上げている谷に向って愛想のよい笑顔で言った。

「あ、あなたタニっていうのかしら?ルイズと違って、あたしはそのシマサンを素敵な女性だと思ってるわよ?」

知りもしない女性を褒めることは滑稽としか言いようがなかった。
ルイズはこんなことで谷が止まるはずがないと、どこか確信めいたものを抱いていた。
だが、物事は二人の予想を反した。
谷の振り上げた拳が、ピタリとその動きを止めたのだ。

しめた!

キュルケは赤く燃えるような髪をかきあげながら、一気に責め立てるように言った。

「もうシマサンったら、このあたしでさえ、一目置いちゃうほどの美人じゃない?
 そんなシマサンが想い人なんて、もうタニったら隅に置けないわね。ねえルイズ?」

突然話を振られて、慌てふためきながらもルイズは相槌を打った。

「え!?……え?……え、ええ!そうねっ!わたしもシマサンは素晴らしいと思うわ!!」

ルイズもキュルケも必死であった。

「そうよ、あの艶やかに煌めく長くて綺麗な髪なんて最高よねっ!ね、ルイズ?」

髪がショートだったらどうするのよキュルケ!とルイズは心の中で責めた。

「そ、そうね!それに、スタイルも出るところは出て引っ込むところは引っ込んでて抜群よねっ!ね、キュルケ?」

何よ、もしもあなたみたいに貧相な体つきだったらどうするのよルイズ!とキュルケは心の中で責めた。

っていうか、またあたしに振るんじゃないわよルイズ!!

まるで、導火線に火がついた爆弾の押し付け合いをしているような有様であった。
完全に想像による島さんを称賛する言葉。
そんなもので谷が、どうにかなるかどうかは二人はわからなかった。
生きた心地がしない二人は谷の反応を待った。
谷はしばらく無言で固まっていたが、ふと呟いた。

「それは嘘だろ」

やっぱりダメだった!

やはり、こんな嘘が通じる筈がなかったのだと二人は後悔した。
そしてキュルケが悪あがきをする様に、取り繕った。

「ルイズが言ってたのよ!タニがシマサンことを語っているの聞いてると、
 シマサンがどんな女性か容易に想像できるって!それはタニの想いの強さがそうさせるんじゃない?
 そんなに想われてるなんてシマサンが羨ましいわ!凄いわシマサン!ねえルイズ!?」

「え!?……え、ええ!!」

完全に詭弁であった。
タニのこともシマサンのことも全く知らない。その上での発言であるから出鱈目もいいところである。
しかし、思いもよらぬことが起きた。

谷が頭をかいて、まるで照れているかのような素振りをして言ったのだ。

「そっ、そうか!?そうだろ!?しっ、島さんは、凄いイイんだ!運動神経もいいんだぜ!」

まるで自分の父親はパイロットなんだと自慢する子供のようだった。
仮面で表情はまったくわからないが、今さっきまでの怒りようはどこにやらといった感じで、
本当にうれしそうに喋っていた。

心の底から『シマサン』という人間が好きなのだと、ルイズとキュルケは理解できた。
危険から逃れられたのがわかったせいか、つい興味本位でキュルケは谷に聞いてしまった。

「……そのシマサンってタニの恋人なの?」
「こいびっ……!」

恋人という単語を聞くと、物凄い勢いで後ずさり、
壁の方が壊れるのではないかと思ってしまうほど、
谷は、背中から壁に激突した。壁にはヒビが入っていた。
そして、部屋の中央に戻ってきた谷が慌てふためいた様子で言った。

「いっいや、違うんだけどさ。へへっ。それに、ま、まだ告白もしてないんだよ」

谷は委縮しきっていた。
そんな姿を口をポカンとさせ見ていたルイズは、谷のポケットから一枚の紙がヒラリと落ちたのに気づいた。
ルイズは、そのことに気が付いていない谷に先んじて、その紙を拾い上げた。
それは島さんが写っている写真であった。ハルケギニアには写真は存在しない、
だからルイズにはそれが、精巧な絵に見えた。

「なによ、この絵。いや、これ絵なの?まるで鏡に映った像みたいに鮮明……。
 っていうか、この絵の女の人がもしかしてシマサンってっていうヒト?」

キュルケはルイズが手に持っている写真を横から覗き込んで言った。

「あら、確かに美人ではあるわね、こうなんか抱擁力がある優しさと、リンとして引かない強い部分をもってそうな……」

なに適当なことを言ってるのか、とルイズは心の中でキュルケを責めた。
せっかく谷の怒りがおさまったのに、下手に何か言って逆戻りになったらどうするのかと。

突然キュルケに向ってビシリと指をさして、谷は力強く叫んだ。

「そう!そのとおりだ!!」

キュルケの適当な言葉に谷は同意した。

「ど、同意するわけ……?」

思わずズッコケそうになるほど、ルイズは呆れてしまった。

「……」
「……」

「写真返せ」

谷は、乱暴にルイズの手から写真をひったくった。
そして、大切なものなのか、折り目が付かないように細心の注意を払いながらポケットの中に写真をしまった。

谷は頭をガリガリと掻いた。
今度は、ルイズに対してではなく、現状について苛立ちを感じていた。
天井に向って谷は叫んだ。

「夢にしちゃ長すぎるぞ!しかも面白くねェ!オレだって暇じゃねェんだぞ!……島さんにも会えねェし。
 ……っさっさと夢から醒めろオレ!……っこうなったら逆に夢の中で寝てやるからな!」

谷は寝ている間に、夢から醒め現実に戻るんじゃないかと考えた。
ズカズカと足音をたてながら、自分が開けた穴からルイズの部屋に戻っていった。

「……夢ってなによ?ルイズ」

当然の疑問であった。ルイズはキュルケの疑問に答えた。

「タニはここを自分の夢の世界だと思ってるのよ。でも、ここが現実だったら別の世界だとか言ってたから、
 ハルケギニアのことなんて知らないとこから来たっぽいことはなんとなくわかるんだけど……」

キュルケは、谷の心情が少し読めた。読めたからこそ嫌な予感がしていた。

「それって不味いんじゃないかしら」
「は?どこらへんが?」

「……多分、タニは薄々っていうかほとんど気づいてるけど認めたくないのよ。
 ここが現実だとしたら、シマサンに二度と会えないかもしれないんだからねえ」

ルイズはハッとした。その通りかもしれないとも思った。
そしてルイズにも何が問題かわかった。
使い魔は呼び出す魔法はあっても、送り返す魔法なんてものは存在しない。
何故なら呼び出された使い魔は、その生涯をその主人と共にすることが大前提だからである。

そして谷も、どうにかできるならば、ルイズがとうに送り返すか何かしているはずということも、
ルイズの態度から薄々読み取っているのかも知れなかった。
だから、谷にとってここは夢の世界でなければならないのだった。

もし、その谷がここを現実としっかり認識して、愛しの『シマサン』と会えないとわかったならば……。

ルイズとキュルケはゾッとした。

キュルケは片手を上げて、にこやかに言った。

「じゃ、あたしは寝るから。もうあたしを巻き込んじゃダメよ?」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!わたしどうすればいいのよ!?」

キュルケはタヌキ寝入りを決め込んでいた。
ルイズは頭を抱えて、ブルブルと震えていた。

「……っ!ど、どどどど、どうしよう。なんなのよあの使い魔っ!」

ルイズは得体のしれない仮面をつけた使い魔に振り回されっぱなしであった。
明日以降のことを考えると不安を感じずにはいられないルイズであった。


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